五十万ヒット記念作品は「ホーリードール」をお送りいたします。
皆様本当にありがとうございました。
これからも「舞方雅人の趣味の世界」をよろしくお願いいたします。
19、
カバンを手に帰り道を歩く紗希と明日美。
いつもならこの道は、心はずむ楽しい足取りで歩いている道だ。
でも紗希の足取りは重かった。
うつむき加減で歩く紗希のことが気になる明日美も、やはり心ははずまない。
自然と口数は少なくなり、とぼとぼといった感じの足取りになる。
明日美の家に向かっているというよりは、何かテストの点数が悪くて補習のために休みの日に学校へ行くかのようだった。
「紗希ちゃん・・・」
明日美が声をかける。
さっきから紗希は何も言わない。
「紗希ちゃん」
もう一度明日美は紗希の名を呼んだ。
「えっ? あ、えっ? 呼んだ?」
紗希が顔を上げる。
紗希はずっとあの雪菜の表情を考えていたのだ。
あんな雪菜ちゃんは見たこと無かった。
ぞっとするような笑みを浮かべた雪菜。
あの顔が忘れられない。
それでずっとそのことを考えていたのだった。
「紗希ちゃん、どうしたのですか? 何かあったのですか?」
「えっ? あ、なんでもないよ。なんでもない」
明日美の顔が曇る。
「紗希ちゃんはうそつきですわ」
「ええっ?」
「紗希ちゃんがうつむいている時に、何も無いはずがありませんですわ」
明日美はキッパリとそう言った。
「あ・・・ご、ごめんね」
紗希は明日美が心配してくれていたことに気がついた。
自分が雪菜のことを気にしたように、明日美も彼女のことを気にしてくれたのだ。
「実は・・・」
「雪菜ちゃんのことですか?」
紗希の言葉に明日美が続ける。
紗希は無言でうなずいた。
「帰りの時のことですか? 確かにちょっといつもの雪菜ちゃんらしくは無かったですけど・・・」
「うん・・・算数の時間の雪菜ちゃんの表情が・・・すごく気になって・・・」
「表情ですか?」
明日美はその雪菜の表情は知らない。
紗希をそれほど悩ませるものだったのだろうか。
「うん・・・すごくいやな感じの笑い方だったんだ・・・それがずっと気になって・・・」
「いやな感じの笑い・・・」
紗希の言葉に明日美も不安を顔に浮かべる。
「紗希ちゃん・・・」
「えっ?」
紗希は息を飲んだ。
明日美がこれほど不安げにしているのを紗希は今まで見たことが無かったのだ。
「紗希ちゃん・・・何か・・・何かが起こっているのではないでしょうか?」
「何かが?」
「ええ。昨日あたりから変な感じがしませんか? 何か恐ろしいことがおきているのではないでしょうか」
「明日美ちゃん・・・」
紗希はしっかりと明日美の手を握った。
しゃらん・・・
ペンダントの鎖が軽く音を立てる。
「えっ?」
紗希は自分の首から下がっているペンダントに目を落とす。
青く輝くペンダント。
その輝きが心なしか増している。
「あ・・・」
しゃらん・・・
明日美のペンダントも同じように輝いている。
「あ・・・」
一瞬にして二人の目から意思の光が失われる。
『ふふふ・・・さあ、返事をなさい。可愛いドールたち』
二人の頭の中に声が響く。
「「はい、ゼーラ様・・・」」
二人はまったく同じように返事をする。
『いい子ね。さあ、目覚めなさい。闇が広がっているわ。あなたたちの使命を果たしなさい』
「「はい、ゼーラ様・・・」」
二人の言葉と同時にペンダントが青と赤の光を発し、二人の姿を包み込む。
光はそのまま宙に浮かび、虚空のかなたへと消え去った。
「うふふ・・・気持ちよかったわぁ・・・あん・・・愛液が垂れてきちゃう」
アイシャドウを入れ、黒い口紅を塗った一人のOLがブティックを出てくる。
奇妙なことにその入り口にはcloseの札が下がっているというのにだ。
彼女は淫らな欲望に満ちた目をし、淫蕩な笑みを浮かべて街に消えて行く。
その後ろ姿を見送った店員は、薄笑いを浮かべると、closeの札をopenの側に裏返した。
「あれぇ? 変なの・・・」
セーラー服姿の女子高生が、首をかしげる。
店に客がいる時にcloseで、客が帰ったらopenにするなんて普通じゃない。
どういうことなのかな?
何となく気になってしまう。
どうしよう・・・
覗いてみようか・・・
理由がわかるかもしれないし、openって書いてあるんだから入ってもいいんだよね。
いい服があるかもしれないし・・・
そんな考えで彼女はブティックに入ってみた。
「いらっしゃいませ」
先ほど見かけた店員が迎えてくれる。
やはり彼女も黒いアイシャドウと口紅をつけている。
店内は何となく薄暗く、ブティックという華やかさが感じられない。
なんだろう・・・変なお店。
女子高生は違和感を感じずにはいられない。
出よう・・・気味悪いや・・・
そう思って玄関へ向かおうとしたとき、彼女は肩を掴まれた。
えっ?
店員はかなり離れていたはず。
他に人はいなかったわ。
でも、この手は?
彼女はその手の持ち主を確認するべく振り返る。
「ゲゲ・・・ゲ・・・」
そこには突き出た目をギョロつかせ、長い舌をたらしたカメレオンの化け物が立っていた。
「ひっ!」
あまりのことに彼女は息を飲んだ。
カタン・・・
再び札がcloseに回される。
「いやぁっ!」
床に組みひしがれる女子高生。
カメレオンの化け物に肩を掴まれてからのことは全て悪夢としか思えない。
この世界にこんなことがあるはずが無いよぉ。
唾液をたらした舌がプリーツスカートをめくり上げる。
「ヒイッ!」
純白のショーツがあらわになる。
やだやだ・・・やだよぉ・・・
化け物になぶりものにされるなんていやだよぉ。
ずるり・・・
舌が器用にショーツを引き下げていく。
「やだー!」
絶望と恐怖が彼女の心を蝕んでいく。
もう、だめ・・・
彼女の目から涙がこぼれ落ちた。
爆音。
空気が爆ぜた。
飛び散る瓦礫。
欠片が降りかかる。
「グゲ・・・」
「な、何?」
カメレオンビーストも女子高生も突然の出来事に何が起こったのかわからない。
ブティックの壁が破壊され、青と赤の光が飛び込んできたのだった。
「あ・・・」
その光は収縮して青と赤の少女となる。
レイピアを持つ青の少女。
杖を持つ赤の少女。
ガラスのような目は意思というものを感じさせず、まるで鋭利な二振りの刃物のような少女たちだった。
- 2007/01/08(月) 21:56:23|
- ホーリードール
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お久しぶりです。迦遊羅です。
50万ヒット遅ればせながらおめでとうございます。
最近は毎日、オンラインゲームの後に覗きに来て楽しくSSを読ませていただいております。
今日のSSで気になった点が一つだけあったのでご報告までに。
女子高生で「算数」はないでしょうwww高校だと「数学」か、とwww
まぁ小さいツッコミを入れつつ、今日はこれにて失礼させていただきます。遠い空の下SSを楽しみにしている迦遊羅でした。
- 2007/01/09(火) 03:20:09 |
- URL |
- 迦遊羅 #-
- [ 編集]
50万ヒットおめでとうございます。
光側の二人も少しずつですが何かを感じ始めてきましたね。ただそれもゼーラに精神を支配されてしまってはどうしようもないかな・・・。
一方のカメレオンは着実に仲間?を増やしていってますけど、光の使徒と対峙した時に彼女たちをどのように扱うのか楽しみです。
次回は久しぶりに光と闇の激突が見られそうですね。期待しています。
- 2007/01/09(火) 13:10:52 |
- URL |
- metchy #-
- [ 編集]
>>迦遊羅様
いつも楽しんでいただいてありがとうございます。
作中の気になる部分をご指摘いただき、ありがとうございました。
これは誤解を与えるような書き方をしてしまった私のミスでしょう。
襲われているのは確かに女子高生なんですが、「算数」の会話をしていた紗希ちゃんと明日美ちゃんは小学校五年生なんです。
紛らわしくさせてしまい申し訳ありませんでした。
これからも気になったところはどんどんご指摘下さいませ。
ありがとうございました。
- 2007/01/09(火) 18:50:18 |
- URL |
- 舞方雅人 #-
- [ 編集]
>>metchy様
ドールになってしまうともう自我が失われちゃいますからねー。
次は光と闇の戦いになると思いますです。
- 2007/01/10(水) 01:10:39 |
- URL |
- 舞方雅人 #-
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