25日間連続200万ヒット記念SS「ホワイトリリィ」
今日は8回目です。
ようやく3分の1になりました。
まだまだ続きますが、応援よろしくお願いいたします。
それではどうぞ。
8、
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蜘蛛女の提言により、百合香の脳波に合わせて調節した感情コントロールパルスを発信するようになって数日。
効果は劇的に現れていた。
最初の三日間は百合香の脳波に合わせていなかったために、せいぜいが百合香の緊張感をやわらげるだけだった。
しかし、百合香の脳波を調べ、それに合わせてパルスを発信するようにした結果、百合香は俺に対してもう身構えることもなくなり、以前のように振舞い始めたのだ。
にこやかな笑顔で俺を出迎えてくれるし、俺と一緒のテーブルで夕食も取ってくれる。
ほとんど以前と変わらなくなってきたのだ。
俺はクーライの活動をほとんど停滞させた。
そうすれば百合香は専業主婦としてほぼ一日を家で過ごすことになる。
発信パルスを充分に浴びることができるのだ。
無論、この間にも優秀な人材の調査は怠らない。
クーライの改造人間に相応しい女性を探し出し、新たな戦力に加えるのだ。
俺はできるだけ目立たぬように活動するよう蜘蛛女にいい含めた。
そして、百合香の俺に対する警戒心が薄らいだと判断した俺は、次の段階へ進むことにした。
いよいよ百合香の思考をゆがめるのだ。
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日曜日。
今日は俺も了史も家にいる。
いつもの週末ならばクーライの首領として破壊活動を命じていただろう。
何しろクーライは土日の活動が多いと有名なぐらいだからな。
だが、今は活動を抑えている。
人間に変身したりすることのできないクーライの改造人間たちは、街へ繰り出して羽目をはずすというわけには行かない。
その代わり、俺はできるだけ余暇を楽しめるようにアジトの一部をレクリェーションルームに当てている。
その他にも趣味の物は自由に取り寄せさせていた。
今はインターネットという便利なものがある。
通信販売で大抵の物は取り寄せられるのだ。
専用の受け取り場所を用意しておけば問題は無い。
蜘蛛女は俺と同じく読書好きで、特に歴史系に強い。
もともとが女刑事だったとは思えないところだ。
いつも通信販売で歴史系の本をどっさりと買い込んでいる。
俺も時たま押し付けられるのだが、歴史は嫌いではないのでありがたい。
サソリ女はカラオケが大好き。
いつも女戦闘員や他の女怪人たちと歌っている。
おそらく今日もアジトのカラオケルームを使っているだろう。
ホタル女はマンガを描くのがうまい。
女戦闘員たちを使って同人誌まで作っているのだ。
百合モノを描いていますというから、何かと思ったのだが、どうも女性同士の恋愛モノらしい。
女怪人たちには結構好評ということだった。
いや、そんなことはどうでもいい。
のんびりとした日曜の午後。
俺はリビングで俺自身の趣味でもある読書を楽しんでいた。
無論、パルスは発信されている。
百合香がどのような反応を示すか・・・
それが楽しみだ。
了史は二階の自室でゲームをやっている。
いい歳をして・・・とも言いたくなるが、最近のゲームは大人がターゲットになっていると言ってもいい。
少子化が進んでいる日本では、ゲームといえども大人もターゲットにしないとならないのだろう。
それに、ゲームで育った世代が了史のように社会人になっている。
それも大きな理由の一つに違いない。
「百合香さん、すまないがコーヒーをもらえるかな?」
せっかく二人でリビングにいるのだ。
百合香にコーヒーを淹れてもらうのも悪くない。
「はい、お義父様」
楽しんでいたクロスワードパズルをテーブルに置き、いやな顔一つせずに立ち上がる百合香。
クロスワードパズルは彼女の趣味の一つ。
それを中断されるのは決していい気分じゃあるまい。
本当にいい女だ。
俺はキッチンへ向かう百合香の素敵な丸いお尻を眺める。
ふふ・・・
と、これはさすがに不躾か・・・
これでも俺はクーライの首領。
無作法は慎むとしようか。
ま、そうは言っても世間の親父どもはこんなものかもしれないがな。
俺はそんなことを考えて苦笑した。
「はい、どうぞ」
百合香がにこやかにコーヒーを持ってくる。
見ると、コーヒーの載ったトレイとは別に、果物かごも添えてあるようだ。
「コーヒーだけではちょっと寂しくありませんかお義父様」
そう言って百合香がテーブルに置いた果物かごにはバナナやネーブルなどが載っていた。
「ああ、ありがとう。ん? バナナか?」
俺はコーヒーを受け取ると、バナナに目を止める。
「昨日見かけたものですから。お義父様もおあがりになりませんか?」
そう言って百合香がバナナを房から一本もぎ取って差し出してくる。
「そうだな。いただくよ」
俺の若い頃はバナナは結構なご馳走だったなぁ・・・
遠足のおやつ代にはバナナが含まれるかどうかが学校で話題になったっけ・・・
俺は百合香の差し出したバナナを受け取って口に運ぶ。
ふっ・・・バナナか・・・
今、百合香にはパルスが照射されている。
それは百合香が俺を求めるようになるように多少催淫効果をもたらすように調整したものだ。
だが・・・
だからと言ってバナナというのはベタすぎるし、何よりそこまでの効果はまだあるまい。
ん?
俺はふと気が付いた。
百合香がバナナをじっと見ているのだ。
まさか・・・
パルスの効果がもう出始めたのか?
百合香は心なしか潤んだような瞳でバナナを見つめている。
なんというエロチックな表情だろう。
俺はたぎるものを感じずにはいられない。
時が止まったかのような一瞬。
俺は無言で百合香を見つめている。
息さえすることを躊躇うような張り詰めた瞬間。
「!」
時が流れ始める。
百合香は一瞬今の自分に驚いたようにしていたが、おもむろにバナナを剥いて食べ始めた。
それを見て、俺はそっと目をそらし、コーヒーを口にした。
どうやら百合香に多少の淫欲を植え付ける作戦はうまく行き始めたらしい。
無論、あくまでちょっとしたものであり、淫らな欲望に取り憑かれた百合香が、見境無く男を求めるようなものではない。
先ほどのバナナのときと同じように、日常のちょっとしたことに淫らなものを考えたりするようになるだけだ。
だが、そのちょっとしたことが百合香の心にのちのち影響を与えて行く。
そうなれば・・・
百合香はやがて俺を受け入れるようになり、俺は百合香の身も心も手に入れることができるはずだ。
その上で俺の導きにより、美しい百合香が淫欲の虜になるのであれば、それはさぞかし見物だろう。
もっとも、そのためには更なる仕掛けを施さなくてはならないがな。
俺はコーヒーを飲みながら、笑みを浮かべていた。
夜、自室へ引き上げた俺は今日もアジトへ下りていく。
夕食が終われば、それぞれが自由に過ごすのが我が家のいつもの日常だ。
二世帯住宅とまでは行かないものの、自室に入ってしまえば滅多なことでは了史も百合香も呼びには来ない。
それに俺の部屋はタバコくさいから近寄りたがらないと言ってもいい。
とはいえ、いつどのようなことがあるかわからないから、自室からアジトに下りるのは必要な時に限ると決めていた。
そのはずなのにな・・・
「お帰りなさいませ、ドスグラー様」
地下のアジトでは夜勤の女戦闘員たちと、当直のコオロギ女が出迎えてくれる。
蜘蛛女は自室で休息を取っているのだろう。
「ご苦労」
俺はうやうやしくかしこまっているコオロギ女と女戦闘員たちにうなずくと、任務に戻らせる。
表立った活動は控えさせているとはいえ、彼女たちは暇では無い。
企業のコンピュータにハッキングしたり、警察や自衛隊の情報などを探ったりなどと、やることは結構ある。
まあ、直接行動が主たる任務の女怪人たちは多少は暇だろうがな。
「コオロギ女よ」
「は、はいっ」
女戦闘員たちとなにやらモニターに向かっていたコオロギ女がすぐに返事をして俺のもとに跪く。
「お呼びでしょうか、ドスグラー様」
茶褐色の外骨格にその身を覆われたコオロギ女は大きな複眼で俺を見上げた。
全身を改造により強化されたこのコオロギ女は、ほんの数ヶ月前まではアイドル少女だった娘だ。
その失踪は世間を騒がせたものだが、一ヶ月もすればテレビも騒ぐのをやめてしまう。
勝手なものだ。
勝手にアイドルに祭り上げ、勝手に存在を無かったかのようにしてしまう。
マスコミというものの理不尽さを俺はあらためて思った。
「どうだ? ここの暮らしには慣れたか?」
俺の言葉に一瞬驚いたような表情をコオロギ女は浮かべた。
まさか首領自らが一人の怪人のことを気に掛けるなど思いもしなかったのだろう。
「あ、お気に掛けてくださってありがとうございますドスグラー様。はい、蜘蛛女様やサソリ女様のおかげでもうすっかり」
すごく嬉しそうにコオロギ女は口元に笑みを見せる。
可愛いものだ。
「そうか。今は活動を控えているが、その時が来たら暴れてもらわねばならんぞ」
「はい、お任せ下さいませドスグラー様。私の翅を擦り合わせる時の超音波は殺人音波にも破壊音波にもなります。クーライに歯向かう愚か者どもにたっぷりと私の歌を聞かせてやりますわ」
楽しそうに翅を震わせるコオロギ女に俺はうなずいた。
頼もしいものだ。
「うむ。期待しているぞ」
「はい! ドスグラー様」
「ところで蜘蛛女は寝ているのか?」
一礼するコオロギ女に、俺は重ねて問いかけた。
怪人とて休息は必要だ。
もっとも、人間とは違い、休息しているときでも感覚は研ぎ澄まされている。
何かあった時には一瞬で全力行動ができるのだ。
「おそらくはそうかと・・・すぐに起こしますが」
「いや、いい」
腰を浮かせかけたコオロギ女を俺は押しとどめる。
俺が聞きたいのは一つだけだ。
了史の方の脳波シグナルの分析が終わったのかどうか。
そのデータが発信機に生かされるのかどうか。
それだけなのだ。
「司令室に顔を出したら、俺に連絡をするように言うのだ。夜中だろうが朝だろうが構わん。いいな」
おれはそう言うとコオロギ女の頭を撫でてやる。
まだまだ少女と言っていいコオロギ女は可愛いものだ。
「はい、かしこまりましたドスグラー様」
目を輝かせるコオロギ女。
俺からの他愛も無い依頼だが、首領の直接命令を受けるのは始めてのことだ。
きっと喜びで胸が一杯なのだろう。
良くも悪くもそう感じるように洗脳してあるのだ。
それが嬉しくもあり、ちょっと悲しくもある。
立ち上がって司令室を後にする俺を、コオロギ女はずっと見送ってくれたのだった。
部屋に戻った俺は、すぐに蜘蛛女からの連絡をもらう。
コオロギ女め、蜘蛛女を叩き起こしたのではないだろうか。
困ったものだ。
俺への忠誠が一番である以上、他に対しての気配りなどおろそかになってしまう。
「ご苦労」
俺は多少すまなく思いながら携帯を耳に当てる。
『お呼びでございましょうか、ドスグラー様』
「うむ、了史の脳波シグナルの調査は済んでいるか?」
『はい。全て調査済みでございます。了史様の・・・』
「様などいらん!」
俺はつい言葉を荒くする。
あいつが俺の可愛い怪人たちに様付けで呼ばれるなど、腹立たしいにもほどがある。
『失礼いたしましたドスグラー様。洞上了史の脳波は分析を終え、すでにデータを発信機に転送し組み込みました。いつでもコントロール可能です』
「そうか。よくやったぞ」
俺はうなずいた。
『ありがとうございます、ドスグラー様』
「技術班の連中にもよくやったと伝えろ。ご苦労だった」
『ハッ』
蜘蛛女にそう言って俺は携帯を閉じる。
これで仕掛けも整った。
- 2010/02/27(土) 20:36:00|
- ホワイトリリィ
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