19世紀末、ドイツのモーゼル社のボルトアクションライフルの優秀性に目を付けたイタリア陸軍は、銃の機関部をモーゼル社のライフルのコピーにしたマンリヘル・カルカノライフルを作りました。
このライフルはM1891ライフルと呼ばれ、口径6.5ミリと小さく、全長は1285ミリ、重量3.8キロのライフルでした。
このM1891ライフルは、第一次世界大戦でのイタリア軍の主力小銃として使われ、大量に生産されたのですが、あまりにも大量に作られたため、第二次世界大戦にいたっても、多くのM1891ライフルが倉庫に眠っているありさまでした。
ところが、第一次世界大戦で6.5ミリの口径では威力不足が指摘され、1930年代に入ってアビシニアでの戦いなどで再度威力不足が指摘されると、イタリア陸軍も重い腰を上げざるを得なくなりました。
そこで6.5ミリ弾の薬莢の先に7.35ミリの弾頭を付けるという変な弾薬を作って対処することになり、M1891ライフルの銃身を7.35ミリ用に合わせ、それと同時に長さを若干短くして使いやすくしたM1938ライフルを作ります。
6.5ミリ弾を撃ち出す火薬の量で7.35ミリ弾を撃つのだから、当然弾頭はまっすぐ飛ばなくなりすぐに落ちてしまうことになりますが、これも弾頭部分に軽いアルミニウムを一部使用することで、6.5ミリ弾頭と同じ重さにすることで無理やり解決します。
M1938ライフルは全長が1020ミリとなり、重量も3.4キロと軽くなった上、7.35ミリ弾を撃ち出せるというライフルになったわけですが、イタリアの工業力の力のなさか、旧式のM1891ライフルとの更新はなかなか進みませんでした。
1939年9月、ドイツがポーランドに侵攻して第二次世界大戦が始まります。
当時のイタリアは軍備的にはとても戦争などできる状態ではありませんでしたが、1940年にオランダやベルギー、ノルウェーなどがドイツに征服され、フランス戦が始まると、指導者だったムッソリーニは勝ち馬に乗るべくフランスに宣戦を布告します。
こうしてなし崩し的に戦争に突入したイタリア軍でしたが、そうなると使用するライフルが問題でした。
新型のM1938ライフルで統一したいところなのですが、とても数が足りません。
弾薬も変な弾薬なので製造が追いつきませんし、倉庫にはM1891ライフル用の6.5ミリ弾がいっぱい眠っておりました。
そこでイタリア陸軍は決断します。
6.5ミリに戻しちゃえ!
なんとM1891ライフルだけじゃなく、M1938ライフルまでも7.35ミリ型の生産を打ち切り6.5ミリ弾用にしちゃったのです。
銃身を6.5ミリ用に変更したM1938ライフルは重量が少し重くなって3.45キロになりましたが、今度はこの変更が大変でした。
すでに作られた7.35ミリ型のM1938ライフルを全部6.5ミリ型にする力もイタリアにはなく、結局前線では6.5ミリと7.35ミリの両方が使われることになり、M1891及びM1938の6.5ミリ型用の6.5ミリ弾と、M1938の7.35ミリ型用の7.35ミリ弾の二種類の弾を供給するはめになったのです。
補給の面では悪夢だったことでしょう。
1943年、イタリアは連合国に降伏しました。
そこでイタリアに駐留していたドイツ軍がイタリアを制圧し、イタリア軍の武装解除を行ないます。
そのとき確保した武器はドイツ軍がありがたく使わせてもらうことになるのですが、M1891もM1938もまとまった数がドイツ軍の手に落ちました。
そこでドイツ軍としては自軍で使用する上で6.5ミリ弾だの7.35ミリ弾だの紛らわしいことを避けるために、ドイツ軍の7.92ミリ弾を使えるようにしようと考えます。
そうすれば、ドイツ軍のライフルを使おうが、確保したイタリア軍のライフルを使おうが、弾薬供給の面では7.92ミリ弾だけですむからです。
ところが、M1891もM1938も銃身を変えて7.92ミリ弾を使えるようにしてみたところ、銃本体の強度不足から暴発の恐れがあるということで、結局このアイディアは使えませんでした。
ドイツ軍もあきらめてそのまま使うしかなかったようです。
あまりいいライフルとの評価を受けなかったM1938ですが、戦後ある事件に関与したことで脚光を浴びました。
1963年11月に発生したアメリカ大統領ジョン・F・ケネディ暗殺事件です。
この事件でケネディ大統領を暗殺した犯人といわれるリー・ハーヴェイ・オズワルドが使用したとされるのが、このM1938ライフルでした。
もちろんこの事件は謎が多く、M1938ライフルが大統領を本当に撃ったのかどうかは定かではありませんが、最初から最後まで異色の経歴を持つ銃だったのではないでしょうか。
それではまた。
- 2009/10/09(金) 21:36:09|
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性能よりも慣れを犯人は選択したように感じます。
とことん使い込まれた銃の方が、命中精度の高い新型よりも信頼できたと思いますから。
- 2009/10/09(金) 23:45:46 |
- URL |
- 神代☆焔 #-
- [ 編集]
>>神代☆焔様
オズワルドはこの銃を使い慣れていたんでしょうかねぇ?
この事件は謎が多すぎますよねー。
- 2009/10/10(土) 21:11:44 |
- URL |
- 舞方雅人 #-
- [ 編集]
猟をする時、弾の大きさを用途によって変えてますが、それが戦争となると、話が変わるのでしょうね!
弾薬の種類が多いと、補給に困ったり、故障などで代用が利かなくなってしまい、結局物資不足に・・・
日本軍もこれで苦労したそうです。
また、昔は、弾の大きさが大きかったのですが、最近は小型化してきています。
最近では、7.62mmから5.56mmへ・・・
昔は、敵を撃ち殺すのが目的だったのが、最近は殺さない為に弾を小さくしたそうです。
逆に、海外の警察等は、口径の大きい物を使うみたいです。
後、なかなか、言い出すことが出来なくなってしまっていたのですが、リンクしてもよろしいでしょうか?
- 2009/10/11(日) 00:10:37 |
- URL |
- たか(t) #R63KSl6.
- [ 編集]
>>たか(t)様
狩猟と戦闘が違うという実例のようなものですね。
おっしゃるとおり最近は軽量小口径弾を使うことがおおくなってますが、12.7ミリクラスの狙撃銃もおおく使われているらしいです。
やはり反撃能力を完全に奪ってしまわないとならないというところがあるんでしょうね。
リンクにつきましては大歓迎です。
明日にでもこちらからもリンクさせていただきますね。
ありがとうございます。
- 2009/10/11(日) 19:55:53 |
- URL |
- 舞方雅人 #-
- [ 編集]