FC2ブログ

舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

ハンターマリカ(1)

お待たせいたしました。
二日遅れとなりましたが、1500日間連続更新達成記念SS「ハンターマリカ」を今日と明日の二日間で投下させていただきます。

短めの作品ですが、楽しんでいただければうれしいです。
それではどうぞ。


1、
「おのれ小娘がぁっ!」
乱杭歯をむき出しにし、醜い老婆のような顔でにらみつけてくる女。
私は十字の形をした二本の短剣をかざし、その女に近づいた。
「ここは・・・ここは私があのお方よりいただいた土地。何をどうしようと私の勝手よ!」
「それはお前たち吸血鬼の考え。人間には人間の考えがあるし、お前たちに好き勝手される覚えもない」
神聖なる武器の輝きは目の前の化け物を多少はひるませる。
だが、それだけではだめ。
こいつらは完全に消去してしまわねば犠牲者が増えるだけ。
私は両手の短剣をスッと引いた。

「お黙りぃっ!」
両手の鋭い爪をかざしてかかってくる吸血鬼。
もはや彼らのモットーとするエレガントさなどかけらもない。
ただの追い詰められた生きる屍。
神に見捨てられた存在。
私はただそれを抹消してやるだけ。
短剣を引いたのが誘いだとなぜわからないの?

私は両手を一閃する。
神に祝福された聖なる短剣は、狙い過たずに吸血鬼の胸を突き、首を刎ねた。
ずしっと思い手ごたえがあり、ゴトッという音が響く。
私の足元には信じられないという表情を浮かべた哀れな首が転がった。

「聖なる炎よ、穢れた魂を清め神の御許に届けたまえ・・・」
私は十字を切って祈りを捧げる。
青白い炎が上がり、ようやく死ねた屍に永遠のやすらぎを与えていった。

                      ******

「終わりました。これでしばらくはこのあたりは安心でしょう」
村に戻った私を村人たちが出迎える。
みな一様に安堵の表情を浮かべていた。
「ありがとうございますシスターマリカ。これで村は救われました」
村長が頭を下げる。
だが、一人だけ表情が優れない少女がいた。
「村長、あの娘は?」
私はふと気になった。
もしかしたら・・・いいえ、たぶんそうだと思うから・・・

「ん? ああ、あの娘はサラといいまして、母親をあの悪魔に連れ去られましてな・・・」
やはりそうか・・・
浮かない顔をするのも無理は無いわ。
でも、私にはどうすることもできない。
ただ、もう戻ってこないことを告げてあげるだけ。

「サラ・・・」
私は少女のところへ行く。
少女は悲しげな目をして私を見上げてきた。
おそらく私も父をこういう目で見上げていたのだろう。
「シスターマリカ・・・ママは、ママは帰ってこないの?」
「サラ・・・あなたのママは神に召されたの。今はきっと神の御許で安らかな時を過ごしているわ。サラとは会えなくなっちゃったけど、ママはいつでもサラのことを見守っているわ」
残酷なようだが私は真実を告げてやる。
下手な希望を持たせると、子供はその希望にすがって過ちを犯してしまうかもしれない。
それよりはきちんと向き合わせて、その上でケアをしてあげるほうがいい。
「ママ・・・えぐっ、えぐっ・・・ママーーー!」
みるみる涙が浮かび、泣き崩れてしまうサラ。
ごめんなさい。
私は心の中で少女に謝る。
ごめんなさい。
あなたのママを救うことはできなかった。
私が乗り込んだとき、すでに彼女は吸血鬼と化していた。
もはや消滅させて魂を救うしか道はなかったの。
ごめんなさい。
私は泣きじゃくるサラを村人にゆだね、宿屋に向かうしかなかった。

                       ******

「お母さん!」
「優子(ゆうこ)! 優子ぉ!!」
漆黒のマントを翻した初老の白人紳士。
シルバーグレーの髪がきらきらと輝き、青いはずの瞳が赤く輝いている。
真っ青で血の気の無い顔は理知的に整い、歪んだ笑みが口元に浮かんでいた。
「ああ・・・いや・・・いやぁ・・・」
三人で外出し、楽しいときを過ごしてきた母は、父と私に対して精いっぱいのおしゃれをしていたが、皮肉にもそのおしゃれは私たちに向けられたものではなくなってしまう。
恐怖に恐れおののきながらも、男の目に捕らえられてしまった母は、ゆっくりと男の元に歩み寄った。
必死に抵抗するものの、躰が言うことを聞かないのだろう。
母は首を振って嫌がりながらも、男に近づくのをやめることはできなかった。

私も父も母の異常さと男の異質さを感じていたものの、どうしても躰が動かなかった。
できるのはただ声を出すことだけ。
私はお母さんという呼称を、父は母の名をそれぞれ呼び続けたが、母の歩みを止めることはできなかった。

「クククク・・・東洋のこんなところでこれほどの女に出会うとはな。私は運がいい」
男がマントを広げて母を招き入れる。
「ああ・・・いやぁ・・・やめて・・・」
か細い声で拒否の言葉を言う母。
でも、男は母を抱き寄せた。

「くそぉっ! 何で躰が動かないんだ!! 優子を放せぇっ!!」
「お母さん! お母さん!!」
私は動かない躰を必死に動かそうとする。
でも、最初に赤い目を見てしまってから、躰がまったく動かない。
どうして・・・
どうして私はあの時公園を通って行こうなんて言ったのか・・・

「ああ・・・」
母の首筋にキスをする男。
「いやぁっ!」
「優子っ!!」
私も父も目をそらしたい瞬間だった。

「ああ・・・あああ・・・」
何の抵抗もできずにキスを受けてしまった母。
キス?
あれはキスなの?

「クククク・・・やはり美味い血を持っている。久しぶりの上物だ」
上物?
上物って何?
私の母をそんな品物みたいに言わないで!!

母の首筋につけられた二つの傷。
赤い血がふた筋流れ出す。
男はそこに舌を這わせ、母の血を舐め取った。
「ククク・・・ではもう少し」
再度母の首筋に顔をうずめる男。
母の顔が苦痛に歪んだ。

嘘・・・
嘘よ・・・
見たくない・・・
こんなのって見たくない!

母が・・・
あの母が・・・
父や私といつも仲良くして優しかったあの母が・・・
男のキスを喜んでいる・・・
うっとりと顔を蕩けさせ、背後から抱きかかえている男によりかかっていっている・・・
「ああ・・・はぁん・・・」
口からは切なそうな吐息が洩れ、まるで男と恋人同士のよう・・・

「お母さん!」
「優子ぉっ!!」
私と父はひたすらに母を呼ぶ。
それしかできることがない。
この状況から目をそむけることもできないのだ。

「クククク・・・どうだ? 夫と子供に見られながら血を吸われるのは。最高の気分だろう?」
にやっと笑いながら私たちを男は見た。
「ああ・・・はい・・・最高です・・・」
うっとりと甘えるような母の声。
こんな声を聞いたことは無い。
私は言葉が出なかった。

「クククク・・・もっと吸ってほしいか、女よ?」
「ああ・・・はい・・・もっと・・・もっと吸ってください」
男に懇願する母。
もうやめて!
そんなお母さんを私たちに見せないで!
私は目を閉じて耳をふさぎたかった。
でも、それは叶わなかったのだ。

「では我が元へ来るか? 夫も子も捨てて」
「はい。行きます。夫も子供も要りません。あなただけに尽くします」
私たちに背を向けて男に抱きつく母。
勝ち誇ったような男の顔を見た瞬間、私はベッドで飛び起きた。

                    ******

「はあ・・・はあ・・・夢・・・夢か・・・」
汗でぐっしょり濡れた下着。
ベッドのシーツもべちゃべちゃだわ。
またしてもこの悪夢。
いつまで経っても忘れることなどできはしない。
強烈に刻み込まれてしまった悪夢。
あの瞬間、私たち親子の楽しい時間は失われた。

母と男はいなくなっていた。
父は必死で母を捜したが、なんの手がかりも見つけられなかった。
父はやがてお酒に逃げ、抜け殻のようになって死んでいった。
私は父方の祖母に引き取られたが、やがてそこを抜け出して教会に加わった。
私たち家族の幸せを奪ったもの。
そいつらに復讐を果たしたかったのだ。

あれから十年。
私は教会で吸血鬼どもに対処する方法を教わり、教会のハンターとして生きている。
あのときの吸血鬼とはいまだめぐり合ってはいないが、この地方にそれらしい噂を聞いたので、もしかしたら会えるかもしれない。
そのときは・・・私は父母の仇を討ちたい。

とびらを叩くノックの音。
「シスターマリカ、起きていらっしゃいますか?」
とびらの向こうで声がする。
「ええ、起きてます。どうぞ」
私は起き上がると、汗に濡れたままの下着を不快に感じながら、上に毛布を羽織ってベッドに座る。
「すみません、失礼します」
とびらを開けて入ってきたのは村の青年の一人だった。
名前はすぐに思い出せない。
誰だったっけ・・・
「シスター、実はサラという女の子がいなくなってしまいまして・・・」
青年は、寝ていたところを起こしてしまったのが申し訳ないのか、それともサラがいなくなったこと自体が申し訳ないのかわからないような顔をしてそう言った。
「サラが?」
母親を奪われた女の子だ。
「祖母が眼を離した隙にいなくなったそうで・・・今村の男たちが探しているんですが、どうも・・・」
青年の歯切れが悪い。
つまり最悪の予想になっているということか・・・
私は無言で立ち上がると、毛布を捨てて汗をかいた下着を脱ぎ始めた。
「し、シスター?」
突然のことに目を白黒させる青年に、私は部屋を出るように言った。
要はサラがあの屋敷に向かったようだから連れ戻してほしいということなのだ。
呪われた屋敷に行くものなど村人の中には居はしない。
だが、行ってきてくれとも頼みづらいから歯切れが悪くなったのだ。
やれやれだわ。

私は尼僧服に着替えると、聖なる短剣をベルトに挟む。
いくつかの呪具と薬品をそろえ、尼僧服のポケットに押し込んだ。
そして神に祈りを捧げてから、宿の部屋をあとにした。

いきさつは思ったとおりだった。
サラは母親恋しさのあまりあの屋敷に向かってしまったのだ。
屋敷の主は浄化したから心配はないと思うけど、このあたりは野犬が出たりするらしい。
サラが野犬に襲われたりしていなければいいけど・・・

松明を手に道を急ぐ。
森の中は真っ暗で月の明かりも届かない。
ふくろうの声が不気味に響き、かすかに動物の気配が漂っていた。
「サラ、どこにいるの?」
私はあえて声を出す。
こうすれば不用意に動物と出会う危険性は低くなる。
向こうだってわざわざ人間と出会いたいとは思わないはずだ。

「サラー、返事をしてー」
私は呼びかけながら道を進む。
少女の足取りを考えると、もうそろそろ出会ってもいい頃のはず。
まさか道から外れて森の中には行かないと思うけど・・・

道の先に白いものがある。
いや、あれは白い服を着た少女。
サラが倒れているんだわ。
「サラ」
私は急いで駆け寄った。

「サラ、サラ、大丈夫? しっかりして」
私はしゃがみこんでサラを抱き起こす。
どうやら気を失っているだけみたい。
白い服にも破れたところや血の跡などはない。
歩いて疲れて気を失ったのかも。
でも、無事でよかった・・・
私はホッと安堵した。

「えっ?」
抱きかかえられぐったりしていたサラがいきなり目を覚ます。
そして握っていた右手を開き、何かの粉を私に吹きかけた。
とっさのことに対処ができない。
「こ、これは・・・」
急速に広がってくる眠気と脱力感。
眠り薬の一種を嗅がされたのに違いない・・・

「うふふ・・・よくやったわ、サラ」
薄れていく意識の中で誰かの声が聞こえてくる。
「さあ、あなたは村へお帰りなさい。あと十年したら迎えてあげる」
スッと私の手を逃れ、パタパタと走り去っていく少女。
私はなすすべもなくその足音を聞くしかない。
あの時とおんなじだわ・・・
「うふふ・・・教会のハンターも催眠をかけられただけのただの少女には警戒が薄らいだようね。さあ、おとなしく眠るのよ」
私の意識は闇に飲まれた・・・
  1. 2009/08/26(水) 21:53:29|
  2. 異形・魔物化系SS
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:4
<<ハンターマリカ(2) | ホーム | 夏も終わりですねー>>

コメント

ちゃんとタイトルを見たはずなのに、途中までサラが主人公と勘違いをしてしまったorz

シスターの吸血鬼ハンターですか。悪魔祓いという点では間違いはないでしょうね。
シスターといえば、DQⅥのアンナをふと思い出しました。あのSSも良かったですから。

吸血鬼モノのSSはいろいろ妄想が書き立てられるので、明日の展開が楽しみです。
  1. 2009/08/26(水) 22:21:52 |
  2. URL |
  3. metchy #zuCundjc
  4. [ 編集]

>>metchy様
シスターでハンターというのもいいですよね。
サラはちょっと誤解を与えてしまいましたか。
シスターアンナのSSはいい評価をいただけてありがたいです。
あのようなSSを今後も書いていきたいですね。
  1. 2009/08/27(木) 21:09:27 |
  2. URL |
  3. 舞方雅人 #-
  4. [ 編集]

おくればせながら、1500日連続更新、おめでとうございます。
考えてみれば、私と同じくらいのころからお始めになっていたのですね。
でも・・・記事数はまだまだ負けません。(笑)

>父と私に対して精いっぱいのおしゃれをしていたが、
>皮肉にもそのおしゃれは私たちに向けられたものではなくなってしまう。
なぜかこのくだりが、頭から離れなくなってしまいました。^^;
十年たったら迎えてもらえるサラ。
やっぱり幸せなのでしょうね?
  1. 2009/08/28(金) 11:22:15 |
  2. URL |
  3. 柏木 #D3iKJCD6
  4. [ 編集]

>>柏木様
お久しぶりです。
柏木様のサイトも覗いてはいるのですが、コメントしてなくてすみません。
お祝いコメントありがとうございます。
記事数は圧倒的ですので勝負する気もないですよー。(笑)
サラは10年後が楽しみかもしれないですね。
  1. 2009/08/28(金) 21:17:23 |
  2. URL |
  3. 舞方雅人 #-
  4. [ 編集]

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://masatomaikata.blog55.fc2.com/tb.php/1677-74658a6f
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

カレンダー

11 | 2019/12 | 01
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -

AquariumClock 2

プロフィール

舞方雅人

Author:舞方雅人
(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
どうぞ楽しんでいって下さいませ。

ブログバナー


バナー画像です。 リンク用にご使用くださってもOKです。

カテゴリー

FC2カウンター

オンラインカウンター

現在の閲覧者数:

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

リンク

このブログをリンクに追加する

天気予報


-天気予報コム- -FC2-

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

管理人にメールなどを送りたい方はこちらからどうぞ

ブログ内検索

RSSフィード

ランキング

ランキングです。 来たついでに押してみてくださいねー。

フリーエリア

SEO対策: SEO対策:洗脳 SEO対策:改造 SEO対策:歴史 SEO対策:軍事

フリーエリア