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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

マジョリコ(1)

本日から三日間で新作短編を一本投下します。
これまたちょっと変わったものに感じられるかもしれませんが、お楽しみいただければと思います。

それではどうぞ。


「マジョリコ」

1、
「ふう・・・ついに完成だ・・・」
白衣の男性が額の汗をぬぐう。
まだ四十代前半であろう。
メガネをかけた理知的な顔は、まだまだ若さを残している。
「あなた・・・これで人類は・・・」
ホッとしたような笑みを浮かべる白衣の女性。
こちらも四十歳になったばかりか。
美しい黒髪が映え成熟した女性の色気を漂わせている。
「ああ・・・あとは志願者を募れば・・・だが、いくら人類のためとはいえ・・・」
結果を出したにもかかわらず苦悩の表情を浮かべる男性。
その苦悩は奥深いものがあるようだ。
「あなた・・・」
「このシステムで人間を機械化する・・・そうすればあの悪魔どもにも負けない強い力を得ることができる。だが・・・それはもはや人間ではないかもしれないのだ・・・」
「あなた・・・」
そっと寄り添う白衣の女性。
長い黒髪がはらりと男の腕にかかる。
「ああ・・・全ては私の罪だ。あの悪魔を作ってしまったあの日からな・・・」
宙を見上げる白衣の男。
その目は遠いところを見つめていた。

                    ******

かつて、ロボット工学博士の志島弘文(しじま ひろふみ)は、数体の試作を経て新しいロボットの開発に成功した。
そのロボットは肉体労働用として作られ、たくましい人間に模したボディを与えられていた。
人間の形をして人間の動作のあらゆることをサポートできる、言わばアンドロイドとして作られたそのロボットは、試作ナンバーX-13と命名され、人類の労働の過酷な部分を補うことを目的としていたのだった。
危険な鉱山での作業や、トンネルなどの工事現場、場合によっては宇宙や深海での作業など、このX-13が活躍しそうな現場は多く、人々からも注目されたロボットだった。

だが、志島博士はX-13を精巧に作りすぎた。
自我を持ってしまったX-13は、人間のような脆弱な生物よりも自らを高等な存在と考え、ロボットが人間を支配することこそが人間を幸福に存続させるものだと結論付けたのだ。

X-13はひそかに活動し、研究所の設備を使って配下のロボットを増やしていった。
そしてある日、ついにX-13は人類を支配下に置くべく行動を開始したのだった。

人類はたちまちのうちに劣勢に追い込まれていった。
同じ人間を相手にするように作られていた兵器は、その多くが戦闘ロボット相手には無力だった。
また自動兵器は大半が操作不能に追い込まれ、その能力を失っていった。
超大国も先進国も、ロボットの攻撃により都市機能を喪失し、国家としての対応ができなくなっていった。
自動車工場や電子部品の工場は、占領されると同時に戦闘ロボットの生産工場へと早変わりし、瞬く間にロボットたちはその版図を広げていったのだった。

X-13は自らを皇帝と称し、そのナンバーからサー・ティーンと呼ばしめていた。
サー・ティーンはロボット帝国を建国し、占領地の人間は動物と同じように扱うようになっていた。
家畜小屋のようなところに押し込め、ただ無気力に日々を過ごさせて帝国に反抗する気力を奪い去るのだ。
捕らわれなかった人間たちは、何とか抵抗組織を編成し、レジスタンスとしてロボットの支配に立ち向かっていた。
だが、それもじょじょに力をなくしつつあるのが現状だった。

                      ******

「あなた・・・」
夫の苦悩を我が事のように受け止める妻の茉莉子(まりこ)。
彼女も夫の助手として、X-13の開発には携わっていたのだ。
「茉莉子、すまない。君にも苦しい思いをさせてしまった・・・」
そっと妻を抱きしめる志島博士。
メガネの奥の目には涙が浮かぶ。
「あなた・・・いいえ、あなたに比べればそんなこと・・・」
「私はもう一度汚名を甘んじて受けよう。だが、これでロボットから、あの悪魔どもから世界を取り戻すことができるはず。サイボーグ兵士がロボットを圧倒してくれるはずなのだ」
志島博士が開発したのは、戦闘用サイボーグの基本構造だった。
ロボットに対抗するために人間を機械化し、その力でロボットを打ち倒すのだ。
人類は再びロボットに対して優位を取り戻し、ロボットを押さえ込まなくてはならないのだ。

「志願者については、レジスタンスのリーダー風見君と協議することになっている。きっと正義感の強い若者が志願してくれるだろう」
「ええ、あなた。私もお手伝いいたしますわ」
夫を見上げて微笑む茉莉子。
二人は本当によいパートナーだった。

「そういえば奈津美(なつみ)はどうしたかな?」
志島博士が一人娘のことを聞く。
「今日は教会へ行ってますわ。奉仕活動と学習だとか。きっともうすぐ帰ってきますわ」
二人には奈津美という娘がいる。
普通なら高校生の年齢だ。
だが、現在はまともな学校など存在せず、わずかにレジスタンスの勢力範囲内で教会や寺社が教育機関の代行を行なっているようなありさまだった。
「そうか・・・あの娘が成人するまでには、この不毛な戦いにも決着をつけたいものだ」
「きっと大丈夫ですわ、あなた。あなたの開発したサイボーグシステムがきっと平和を取り戻してくれますわ」
「だといいが・・・いや、そうだな。そうに違いない」
志島博士はそう言って強くうなずいた。

突然警報が鳴り響く。
赤色のランプがあちこちに灯り、あたりは騒音に包まれた。
「な? ま、まさか奴らが・・・」
青ざめる志島博士。
「あ、あなた・・・」
茉莉子も思わず夫の腕にすがりつく。
ここはロボットに抵抗するレジスタンスの拠点のひとつである。
だが、表向きは廃工場に見せかけてあり、ロボットたちの注意を引かないようにされていた。
人員も志島博士の研究のサポート要員と警備要員のみに限定し、出入りを少なくすることで存在を秘匿してきたのだ。
だが、それもどうやら昨日までのことだったのかもしれない。
おそらくこの場所がロボットに見つかったのだ。

「し、志島博士! お逃げください! ロボットの・・・ロボットどもの襲撃です・・・」
警備に当たっていた兵士の一人が駆け込んでくる。
「あなた・・・」
「くっ・・・こ、ここまで来て・・・」
歯噛みする志島博士。
「やむを得ない。茉莉子、データをディスクに移してくれ。データさえあればあとは・・・」
「はい、あなた」
すぐに茉莉子は今までのデータをディスクに移す。
コンパクトにまとめられていたため、作業自体はそれほど時間はかからない。
すぐに移し替えられたデータディスクを茉莉子は夫に手渡した。
「これでいい。このデータさえあれば・・・」
大事なデータを確保でき、ほんのちょっとだけ安堵する志島博士。
だが、外で起こっている銃撃戦や炸裂音がすぐ間近に迫っていることにも気がついていた。

「博士、早くこちらへ」
警備の兵士の一人が手招きする。
緊急事態に備えた裏口へと、博士を案内するつもりなのだ。
おそらく表口が突破されるのは時間の問題であろう。
少数の警備兵では、ロボット帝国の戦闘ロボットには歯が立たない。

「うむ、茉莉子、行こう」
「ええ」
顔を見合わせ、うなずきあう志島博士と茉莉子。
今はこそこそ逃げなくてはならないが、いずれロボットに一矢報いてやらねばならないのだ。
そのためにも生き抜かねばならない。
志島博士はポケットにデータディスクを入れ、茉莉子の手を引いて先導の兵士に従った。

いきなり肉のこげるようなにおいがした。
無言でくず折れる先導の兵士。
「ひっ」
茉莉子が小さく悲鳴を上げる。
通路の先からは、規則正しく重々しい足音が響いてきていた。
「しまった・・・こちらもすでに・・・」
志島博士は唇を噛み締めた。

「クハハハハ・・・久シブリダナ、志島博士」
薄暗い通路から姿を現す巨体の男。
いかめしい軍服まがいのものを着込み、軍帽をかぶってマントを翻している。
両目のカメラアイが鋭い光を輝かせ、じっと志島博士を見下ろしていた。

「X-13・・・」
小山のようにそびえる巨体のX-13を志島博士は見上げる。
そばにいた警備の兵士二人が対ロボット銃を構えるが、その躰を幾筋ものレーザーが貫きあっという間に絶命する。
他の兵士たちも銃を構える間もなくレーザーに射抜かれた。

「無駄ナコトダ。我ガロボット兵団ノ戦闘ロボットニカナウモノハイナイ」
ゆっくりと歩みを進めるX-13。
その脇にも背後にも何台もの戦闘ロボットが付き従っている。
ひょろっとしたやせた人間のような躰をしているが、黒光りする外部装甲に覆われ、頭部にはレーダースクリーンのような円形のモニターが単眼のように輝いていて、その上にヘルメットのようなカバーがかかっている。
両手にはものを挟むアームとレーザー発射口が備えられ、そのレーザー発射口が志島博士と茉莉子に向けられていた。

「くっ・・・X-13、妻には手を出すな」
志島博士は妻茉莉子をかばうように後ろにする。
「クククク・・・案ズルナ。茉莉子ハコレカラ余ガキチント可愛ガッテヤル」
にやりと不気味な笑いを浮かべるX-13。
ロボットには必要のない動作だが、人間を相手にするときには効果的な動作であることがわかっているのだ。
「な、なんだって?」
驚く志島博士。
X-13が狂っていることはわかっていたが、どこまで狂っているというのだ。
  1. 2009/05/28(木) 21:40:31|
  2. マジョリコ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:3
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コメント

自我をもったロボットの反乱ですか。これはまた面白そうですね。
ロボットが不気味に笑うなんて、想像もできませんよ。この博士の技術力はノーベル賞ものだなと。

  1. 2009/05/28(木) 22:06:45 |
  2. URL |
  3. metchy #zuCundjc
  4. [ 編集]

こっ、これは、キャシャーン!?
そんな感じの展開ですね。 
楽しみにしています。
  1. 2009/05/28(木) 22:24:11 |
  2. URL |
  3. 神代☆焔 #-
  4. [ 編集]

>>metchy様
そういう技術がある世界という前提ですから。(笑)
対人コミニュケーションからも、顔の表情は必要なんでしょう。

>>神代☆焔様
意識すればするほどキャシャーンに似てしまいました。
X-13のイメージはどっちかというと「ストリートファイター」のベガ様なんですけどね。(笑)
  1. 2009/05/29(金) 20:58:13 |
  2. URL |
  3. 舞方雅人 #-
  4. [ 編集]

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