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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

双闇の邂逅(2)

昨日に引き続き、闇月様のSS「双闇の邂逅」の後編をお送りいたします。

それではどうぞ。


「響子様、只今戻りました」

アジトに戻ってきたコックローチレディの顔色は優れなかった。
初めての任務失敗が相当ショックだったようだ。

「ご苦労様、コックローチレディ」
部下の失敗を気にすることなく、響子は笑顔を見せた。

「響子様、申し訳ありません」
「気にすることはないわ。あとはマンティスウーマンがうまくやってくれるでしょうから。それにしても…」

響子は少し困ったような表情で言葉を続ける。

「…私の作った装置で破れないセキュリティがあるなんて驚きだわ。装置に改良を加えないといけないわね」

響子の言葉をコックローチレディはその場から動くことなく黙って聞いている。

「コックローチレディ、下がっていいわよ」
響子がコックローチレディに声をかける。
しかし、彼女はその場から動こうとしない。

「コックローチレディ、聞こえなかったの? 下がっていいって言ってるのよ!」

若干苛立ちのこもった響子の声に、コックローチレディがくすくす笑い始めた。

「コックローチレディ、何がおかしいの?」
「くすくす…響子様、お気づきになられないんですか?」

コックローチレディの言葉に、違和感を感じ始める響子。

「…あなた、コックローチレディじゃないわね。何者なの?」
「あら、さすが犯罪教授様。勘は鋭いみたいですね…」

そう言ったコックローチレディの姿がぼやけ、姿形が変化していく。
現れたのは襟元からつま先まで黄色のレオタードに覆われ、首に黒いスカーフを巻き、虹色のアイマスクをつけた女性だった。

「あたしは『ポワゾン・レディース』のカメレオン・レディ…最近話題の犯罪教授様にお会いできて光栄ですわ」
「『ポワゾン・レディース』…名前は聞いたことがあるわ。私たちと同じく、社会の裏で暗躍する者たちね」

「犯罪教授に私たちのことが知られてるなんて、嬉しい限りですわ」
“カメレオン・レディ”と名乗ったアイマスクの女性はにっこり微笑んだ。

「見事な変装…いえ、“変身”と言ったほうが正しいかしらね、カメレオン・レディさん」
いつもの冷静さを取り戻した響子がカメレオン・レディと対峙する。

「あたしは一度見た相手なら誰にだって“変身”できるの。汗とか唾液といったものを得れば遺伝子単位まで全て同じになれるのよ。すごいでしょ?」
上機嫌で自分の持つ能力を説明するカメレオン・レディ。

「それは素晴らしい能力ね。ぜひとも私の手駒に加えたいわ」
「せっかくのお申し出ですけど、お断りよ。あたしが従う相手はあたしが決めるから」
響子の申し出を即行で断るカメレオン・レディ。

「あなたの意思なんて関係ないの。どうせ私の手で変えられるんだから」

響子の言葉に危機感を感じたカメレオン・レディは、カメレオンのごとく姿を消して逃げようとした。
そんなカメレオンレディの身体に後方からワイヤー巻きつき、彼女の動きを封じた。

「ありがとう、ミス・スパイダー。いつもながら素晴らしいワイヤー捌きね」
「ありがとうございます響子様」

カメレオン・レディに絡みついたワイヤーの先を持っていたのは、胸のところに蜘蛛のマークが白く入った黒のレオタードに、顔には蜘蛛の模様をあしらったマスクをつけ、口元だけを覗かせた女性。
ミス・スパイダーと呼ばれる犯罪教授の部下だった。

「そのまま彼女を抑えていなさい。すぐに終わらせるから」
そう言ってカメレオン・レディに近づく響子。

「な、何をするつもりなの?」
カメレオン・レディは恐怖からか、身体を小刻みに震わせている。

「あなたの思考をちょっといじらせてもらうわ。あなたの場合忠誠の対象をちょっと変えるだけだから簡単に済むわ」
響子の言葉に、カメレオン・レディはギョッとした表情を浮かべ、ミス・スパイダーの拘束から必死に逃れようとする。

響子の手が自分の額にかざされたのを最後に、カメレオン・レディの意識は一旦途切れた。


「あなたはここに何をしに来たの、カメレオン・レディ?」
「これを渡すように頼まれてきたんです、響子様」

カメレオン・レディはそう言って一通の手紙を響子に差し出した。

(あら、どうやらターゲット直々の招待状みたいね。面白そうだわ…)
手紙の内容をさっと読んだ響子はにっこり微笑んだ。

「あの…響子様、あたしはどうすればいいでしょうか? ご命令を」
「そうね…あなたの古巣に戻っていいわよ。『ポワゾン・レディース』にあなたの変貌ぶりをみせつけてらっしゃい」
「はいっ! ありがとうございます、響子様」

響子の前に跪くカメレオン・レディに、響子は笑顔でそう命じる。
響子の命令に嬉々とした表情を見せ、カメレオン・レディは部屋を出て行った。


こうして、『ポワゾン・レディース』のアジトに戻ったカメレオン・レディだったが、リーダーであるサイキック・レディの能力によってあっさり思考を戻されてしまった。
そして、サイキック・レディともう一人の仲間であるメディスン・レディにこっぴどく叱られたのは言うまでもない。



「こんな素敵なお嬢さんをお待たせするとは…申し訳ありません」

右隣から聞こえた声に、少女―案西響子は回想をやめ、再び眼を開ける。

響子の横に座っていたのは、『ノワール・コーポレション』社長、黒田 圭(くろだ けい)。
彼女は黒田に呼ばれ、『ノワール』にやって来たのだった。

「“私の部下”が“あなたの部下”にお世話になったようね」
響子はそう言って、グラスに残っていた『クライム・プロフェッサー』を飲み干す。

「“私の手駒”も貴女方にお世話になったようで…そのカクテル、気に入っていただけましたか?」
「えぇ、とても素敵なカクテルでしたわ…味もネーミングも」
響子の答えを聞いた黒田がにこやかに微笑む。

「今回、私達は依頼を果たせなかった。こんなことは初めてだわ。完全な敗北ね」
「いえ、それは違いますよ。しいて言えば、引き分けといったところでしょう」
黒田の言葉に、響子は驚きの表情を浮かべる。

「『ノワール・コーポレーション』が『ポワゾン・レディース』とつながっていることを知られてしまった。『ノワール・コーポレーション』が普通の企業ではないということに気づかれては困るのです…『ノワール・コーポレーション』という“隠れ蓑”を使っている我々には。だから“引き分け”なんですよ」

話を続ける黒田の表情は真剣だった。
嘘を言っているとは思えない、と響子は思った。

「あなたは…何者なの?」

響子は震えた声で黒田に問う。
黒田は響子の眼を見つめ、にっこり笑って答えた。

「貴女のような素敵なお嬢さんをお待たせしたお詫びに教えましょう。私の“もう一つの顔”はキング・ノワール。『ノワール・キングダム』の王です」
「『ノワール・キングダム』ですって?」
「我々は『ノワール・コーポレーション』の陰で、密かに世界を闇に染めようと画策している。犯罪教授、貴女と貴女の部下は特殊な能力や人並み外れた身体能力をお持ちかもしれないが、我々と『ポワゾン・レディース』は“ヒトならざる者”と言ったほうが正しいかもしれないね」

『ノワール・キングダム』、“ヒトならざる者”。
信じられない言葉の連続に、響子は黒田の話をただ聞いていることしかできなかった。
気がつくと、身体がかすかに震えている。
黒田から感じられる“恐怖の闇”に彼女の脳が危険信号を発しているからだった。

「大丈夫。我々はこれ以上貴女方には何もしない。今後、貴女方が我々に何もしなければ、ね…」

黒田は震える響子の両肩にそっと手を置き、響子の耳元でそう囁くと、漆黒の瞳で響子をじっと見つめる。

(なんて、きれいな瞳なんだろう…まるで、漆黒の闇のよう)
響子の中で“恐怖の闇”が“憧憬の闇”へと変化していく。
黒田の漆黒の瞳に吸い込まれそうになり、響子は黒田に肩をつかまれて立っているのがやっとの状態になっていた。

「…今回、君達に依頼してきた者がどこの誰か、教えてくれないかい?」
黒田は響子に優しい声で問う。

(…悪いけど、あなたの思い通りにはいかないわよ)
響子は声に抗い、唇をかみしめる。

黒田は更に2回、同じ問いを繰り返したが、響子に答える意思が全くないことを悟ると、残念そうな表情を浮かべた。

「私の“闇”に屈しないとは…君のような女性は初めてだよ」
「私を誰だと思っているの? 『犯罪教授』を甘く見ないで」

呼吸が荒く、今にも倒れそうな響子だったが、彼女の発する言葉には強い意志がこもっていた。

「君の“闇”は脅威だね…今後、我々と君達が二度と関わりあいにならないことを祈っているよ」
黒田のその言葉を最後に、響子は意識を失い、その場に崩れ落ちた。


気がつくと、響子は見覚えのある公園のベンチに座っていた。
『ノワール』の場所も、自分がどうやってここまで来たのかも思い出せなかった。

『ノワール』での出来事は夢だったのだろうか?
でも、口の中に残る自分の“もう一つの顔”と同じ名前のカクテルの味と、両肩に残る黒田の手の感触が、夢ではないと響子に教えてくれた。

(…『ポワゾン・レディース』に『ノワール・キングダム』か)
響子は心の中でそっと呟くと、かわいい部下達が待っているであろう“我が家”に向かったのだった。


数日後、響子は新聞で今回の件の依頼者の死を知らせる小さな記事を見つけた。

「…結局、消されたのね」

響子はそう呟いて新聞をたたむと、制服に着替え、家を出た。


END


いかがでしたでしょうか。
闇月様、楽しいSSを投稿していただきありがとうございました。
もうすぐサイトの閉鎖と言うことですが、ご事情もあってやむをえないこととはいえ寂しく感じます。
またいつでも当ブログに遊びに来てくださいませ。
投稿も大歓迎です。

それではまた。

(2009年5月11日、闇月様よりのご依頼にてEND部分差し替えさせていただきました)
  1. 2009/04/09(木) 21:26:49|
  2. 投稿作品
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:5
<<クリミア戦争(8) | ホーム | 双闇の邂逅(1)>>

コメント

お詫びと反省文

作者の闇月と申します。
舞方様、この度は作品を掲載していただきありがとうございました。

響子様ファンの皆様、申し訳ありません。
“我が子”かわいさにこんな結末になってしまいました。

悪堕ち好きの皆様、申し訳ありません。
悪堕ち要素ほぼゼロの作品になってしまいました。

自分のブログの更新を停止した後に書いた最後の作品です。
お眼汚し失礼しました。
  1. 2009/04/09(木) 23:28:26 |
  2. URL |
  3. 闇月 #04hOWrHY
  4. [ 編集]

いつもと違う闇月様の作風でした。
サイトと言う足枷が取れて、肩の力が抜けたような自由さが感じられました。
 
サイト閉鎖は、ファンに取っては残念なことですが、闇月様に取っては一皮剥けたような結果をもたらす出来事だったようですね。
おそらくは、これからも闇の力の追求は続けられることでしょうね。
 
舞方様としては、お返しを考えておられるとは思いますが、ファンの立場としては、これに機械帝国を絡めた悪の三つ巴の構図を読んでみたいと思ったりします。
  1. 2009/04/09(木) 23:41:35 |
  2. URL |
  3. 神代☆焔 #-
  4. [ 編集]

更新お疲れ様でした。

舞方様、並びに闇月様、楽しませていただきました!

毎回即効堕ちを見せてくれる響子様が
今回は珍しく終始押されていましたねぇ…。
『ノワール・キングダム』恐るべし・・・って所でしょうか。

>でも、きっと響子様はこれで
>済ませるつもりはないかもしれませんね。(笑)
これは続編フラグ?w
  1. 2009/04/09(木) 23:55:30 |
  2. URL |
  3. KANZUKAN #-
  4. [ 編集]

>>闇月様
確かにちょっと響子様側は残念でしたが、まあこう言う展開もありでしょう。
また次作をお待ちしておりますー。

>>神代☆焔様
残念かもしれませんがお返しは考えておりませんです。
ノワール・キングダム側を書くのがちょっとできそうにないので。
お許しくださいませー。

>>KANZUKAN様
響子様側は残念でしたね。
でも続編は考えておりませんですー。
  1. 2009/04/10(金) 20:25:49 |
  2. URL |
  3. 舞方雅人 #-
  4. [ 編集]

コメントありがとうございます

>神代☆焔様
いつもブログのほうにコメントありがとうございました。
「犯罪教授にノワール・コーポレーションが狙われたら…」というのを考えたらできてしまった作品でしたので、今までと作風が違ったのかもしれません。

>KANZUKAN様
はじめまして。
私も響子様のファンなのですが、書いていたら響子様がやられっぱなしになってました…(苦笑)

>舞方雅人様
続編は私自身でも難しいと思います。
ノワール・キングダムが複雑なので(苦笑)


今回の作品では、ノワール・キングダム側の詳細を文章量の都合で省略しましたので、『闇月の創作ノート』の「七つの大罪」&「ポワゾン・レディース」のカテゴリーをご一読ください。
設定資料・創作裏話も掲載してあります。
(注:閲覧可能は4月末まで)
  1. 2009/04/10(金) 22:04:01 |
  2. URL |
  3. 闇月 #04hOWrHY
  4. [ 編集]

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Author:舞方雅人
(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
どうぞ楽しんでいって下さいませ。

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