当ブログにもリンクしていただいておりますg-than様のブログ、「Kiss in the dark」は皆様ご存知だと思います。
g-thanさんは素晴らしいイラストやマンガ形式で素敵なストーリーを展開していらっしゃいますが、今回嬉しいことにイラストの一つにSSを書かせていただけることになりました。
「Kiss in the dark」の2005年8月6日をご覧下さい。
素敵なセミ女さんが作戦を展開しているイラストが掲載されています。
そのイラストに至るまでのSSを今回書かせていただく許可をもらうことができました。
いずれは「Kiss in the dark」の別館に掲載いただければと思いますが、とりあえずはこちらで掲載させていただきます。
ということで一回目です。
1、
「恵畑先生、これもお願いしますね」
職員室で仕事に取り組んでいる恵畑紀代美(えばた きよみ)の机の脇にファイルが数冊無造作に置かれる。
「えっ? でも・・・」
思わず顔を上げる紀代美。
教師というものはこれでなかなか忙しい。
担任を持っていない紀代美でも、やることは山のようにあるのだ。
その仕事もあと少しで終わる目処がついたというのに・・・
「ごめんね、この埋め合わせは今度するから。ちょっと用事があるのよ」
同僚の矢際真海(やぎわ まさみ)は悪びれた様子も無く、ウインクをしてみせる。
「いいでしょ? お願い」
「え、ええ・・・」
紀代美はうつむいてしまう。
真海はこの聖光女学院の教師たちの中ではある意味実力者だ。
彼女の機嫌を損ねると陰湿な嫌がらせを受けることになるのは、紀代美は身を持って体験していた。
この学院に勤めるようになって数ヶ月。
右も左もわからない紀代美はいろいろなことを同僚に教わろうとしたものの、真海の機嫌を損ねてしまったばかりに仕事を押し付けられたり、重要な連絡事項を伝えてもらえなかっらしたことがあるのだ。
もともと気の弱い紀代美は、おとなしく真海に従うしかないと感じ、できるだけ逆らわないようにしてきていた。
はあ・・・またかぁ・・・
心の中でため息をつく紀代美。
「アー、矢際先生もしかしてデートですか?」
「うふふ、まあね」
他の女性教師の冷やかしににこやかに答える真海。
デートかぁ・・・
紀代美はまだ特定の男性とお付き合いしたことは無い。
二十四にもなって晩熟だとは思うが、何となく男性を敬遠してきたのだ。
「矢際先生! お仕事は済んだんですか?」
「野戸先生? ええ、恵畑先生が手伝ってくださったものですから」
「またですか? 恵畑先生、あなたも人がよすぎますよ!」
野戸先生が真海をにらみつける。
この学院の女性教師の中でも、芯の強い曲がったことが嫌いな野戸理奈子(のと りなこ)は矢際真海の意に沿わない唯一の人物だった。
だが、彼女が真海に忠告することはかえって紀代美にはつらいことだった。
「あ、野戸先生、私は別に・・・」
嵐にならないように紀代美はすぐに取り繕う。
真海が機嫌を損ねれば、八つ当たり的に仕事量が増えるのだ。
とりあえず言われたとおりにしていれば真海の機嫌が悪くなることは無い。
「恵畑先生がそんなだから・・・」
理奈子は肩をすくめて仕事に戻る。
まるで奴隷のようだと思うが、肝心の紀代美自体が唯々諾々と従っているのでは仕方が無い。
学院の理事長にコネがあるからと言って、好き勝手に振舞うのはどうかしているし、それに流されている連中も連中だと理奈子は思う。
「ふう・・・終了っと」
ファイルを閉じる紀代美。
時計はもう21:30を指している。
「わあ、もうこんな時間だわ・・・」
すでに同僚の全ては帰ってしまって、校舎に残っているのは警備員ぐらい。
「早く帰らなきゃ・・・おなかも空いたし」
紀代美は鞄を取り出すと、肩に掛けて帰り支度を整える。
灯りを消して職員室を出る紀代美。
その姿をじっと見つめる存在が一つ。
天井に張り付いたハエがその大きな複眼を入り口に向けていた。
紀代美の姿が消え去ったあと、そのハエは驚いたことにモーターの音をかすかにさせて背中の翅をヘリコプターのローターのように回転させる。
やがてその奇妙なハエは換気口を使って外に出て行った。
「冴えない女性ですねぇ。いいように顎で使われちゃっているじゃないですか。ほんとに彼女を今回の作戦に使うつもりなんですか? エイミー様」
まだ少女と言ってもいいような童顔の女性が不思議そうに背後を振り返る。
青い髪を頭の後ろでお団子にまとめ、紫がかったコルセットは胸のところを強調するかのように黄色があしらわれ、申し訳程度の白のミニスカートとガーターストッキングをまとっている。
「ふふふ・・・彼女は心にどす黒い闇を抱えていることでしょうね。そういった人物こそが我がS・S・Bには相応しいのよ」
彼女の背後で冷たい笑みを浮かべている女性。
緑色の髪をポニーテールにし、ワインレッドのブラジャーとパンティ。
すらりとした脚には網タイツを穿き、黒革のグローブとロングブーツを身に着けている。
「そんなもんなんですか?」
今ひとつ納得が行かないような表情の小柄な女性。
だが、ワインレッドの女性はじろっとひとにらみをすると、こう言った。
「実行部隊に連絡。彼女を拉致しなさい!」
「は、はいっ!」
弾かれたように指示を伝えに通信機に向かう小柄な女性。
作戦は始まったのだ。
「はあ・・・」
何度目のため息だろう・・・
紀代美自身この状況を何とかしたかった。
だが、どうも真海に声をかけられると、ヘビににらまれた蛙のように反抗できなくなってしまう。
何度か学院を辞めようかと思ったこともあったが、生徒たちと接するのが大好きな彼女は学院を辞めることは出来なかった。
もうすぐ研修旅行。
クラスの副担任である彼女もその旅行に参加することになっている。
きっと楽しいことだろう。
出来ることなら生徒たちと語り合いたいもの。
紀代美はわくわくしながらその日を指折り数えていた。
夏も盛りに近くなったが、夜も10時近くなると人通りも少なくなる。
手近なコンビニに寄ってお弁当を買ってきた紀代美は家路を急いでいた。
「うう・・・栄養偏るなぁ。最近自分でご飯作っていないよぅ」
そうつぶやきながら歩いて行く紀代美。
その目前に人影が二つ現れる。
「えっ?」
思わず紀代美は目を見張った。
現れたのは女性だったが、そのいでたちがあまりにも異質だったのだ。
全身の肌が驚いたことに紫色。
腰回りを覆うオレンジ色のパレオ。
胸と手足は黒革のコルセットとブーツにグローブ。
およそリオのカーニバルでも注目を引くこと間違いないのだが、彼女たちはその姿を恥ずかしげもなく当然のように受け止めている。
「あ、あなた方は?」
「聖光女学院の恵畑紀代美ね?」
鋭い視線を向けてくる二人の異質な女性たち。
「そ、そうですけど・・・あなた方は一体?」
少しあとずさる紀代美。
本能が危険を知らせている。
振り向いて走り出すか、大声を上げるべきなのだろうが、二人の鋭い眼差しがそれを許さない。
「私たちはS・S・Bのプロフェッサー・エイミー様所属の女戦闘員。お前をエイミー様がお呼びなのよ。一緒に来てもらうわ」
二人は笑みを浮かべるとゆっくりと一歩一歩近づいてくる。
「い、いやぁっ!」
紀代美は悲鳴を上げたが、人間とは思えないほどの素早さで二人の女戦闘員は紀代美の口をふさいでしまう。
薬の臭いが紀代美の鼻腔に届いてきて、紀代美の意識は闇に飲み込まれてしまった・・・
- 2006/04/10(月) 22:27:45|
- セミ女
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