皆様あらためまして150万ヒットありがとうございます。
いつも訪問していただきましてうれしい限りです。
そこで皆様に感謝の気持ちを込めまして、今日明日で150万ヒット記念SSを一本投下させていただきます。
タイトルは「スコーピオンガール」
あの「犯罪教授シリーズ」の一作となります。
いつもそれほど長い作品ではないのですが、今回はつらつらと書いていたらちょっと長めになってしまいました。
そこで、今日明日と分割で投下させていただきます。
楽しんでいただければ幸いです。
それではどうぞ。
「スコーピオンガール」
1、
「智鶴(ちづる)、早くしないと遅刻するわよ!」
「はーい」
私はお母さんにそう返事すると、今まで見ていた新聞を折りたたみ、トーストをコーヒーで流し込む。
手がかり・・・なしか・・・
私はいつものように多少の落胆を感じてしまう。
『銀行の顧客データ大量流出』
『背後に犯罪教授が介在か?』
『またしてもコックローチレディ? 証拠残さぬ手口に警察お手上げ』
新聞にはまた発生した犯罪教授がらみと思われる事件の記事が載っている。
くっ・・・
私は唇を噛み締める。
どうして・・・
どうして犯罪教授なんて奴がいるのだろう・・・
こんなのがいなければ・・・
こんなのに関わりさえしなければ・・・
お姉ちゃん・・・
どこに行ってしまったの?
「智鶴? 遅れるわよ」
私は少しぼうっとしていたらしい。
お母さんが台所から顔を出す。
「あ、うん、今行く」
私はサラダのミニトマトを口に放り込むと、すぐにカバンを取りに行く。
鏡で身だしなみを確認し、お弁当をカバンに入れて玄関へ向かう。
「気をつけてね」
「はーい。行ってきます」
背後のお母さんの声に返事して、私は靴を履くと外へ出た。
バスに揺られて学校へ向かう。
いつものように参考書を開くけど、頭にちっとも入らない。
こんなことじゃいけないとは思うけど・・・
どうしてもお姉ちゃんのことが気にかかる。
それに志岐野さんもいなくなってしまった・・・
二人とも行方不明。
手がかりは何もない・・・
ただ一つ言えることは、お姉ちゃんはあの犯罪教授を捜査していたということ。
それはお姉ちゃんの同僚の人が教えてくれた。
お姉ちゃんは犯罪教授の何かを掴んだらしい。
そしてお姉ちゃんは姿を消した・・・
お姉ちゃんのお友達だった志岐野さんも姿を消した・・・
二人はどうしてしまったのだろう・・・
二人の失踪が無関係とは思えない。
きっとお姉ちゃんと志岐野さんの失踪は絡んでいる。
それも、おそらく犯罪教授に絡んでいる・・・
犯罪教授・・・
いったい何者なのだろう・・・
ふう・・・
私はあきらめて参考書を閉じる。
どうせもう少しで学校だわ。
学校に着いたらまた読めばいい。
私はそう思って、参考書をカバンに入れた。
ふとカバンから顔を上げる。
ぎっしりと立ち尽くすセーラー服の群れ。
始点に近い場所から乗る私は、いつもだいたい席に座ることができる。
この路線は朝は私たちの学校の生徒が多い。
だからバスの中はほとんどセーラー服ばかり。
そんな中、私はつり革につかまり立っている一人の女子生徒がなんとなく気になった。
綺麗な栗色の髪。
肩口までのショートだけど、つやつやしてる。
目はくりくりしてなんていうか可愛い感じ。
全体的に大人の女性と幼い少女が一体化したようなアンバランスさを感じるけど、私たちの年頃ならそれは当たり前かもしれない。
でも、私が気になったのは、そんなアンバランスさではなかった。
口元に浮かぶ笑み。
それがとても妖艶で、かつぞっとするほどの冷たさを持っていたからだった。
あの笑みは何なんだろう?
普通浮かべるような笑みじゃない。
夕べ見たテレビを思い出し笑いしているような笑みでは決してない。
たとえるなら・・・
そう・・・
何か悪いことを思いついて・・・それがうまく行きそうだと確信したような笑み。
普通の人間は思いつかないようなことを思いついたような笑み。
そんな笑みを浮かべてるなんて・・・
私はその笑みを浮かべた女子生徒の横顔に見入っていた。
「!」
私がつい見入ってしまったことに気が付いたのか、突然彼女がこちらを見る。
私はびっくりして思わず目をそらしてしまった。
何をしているのか・・・
ぶしつけにじろじろ見ていたのはこちらなのに・・・
でも・・・
あの笑みは気になった・・・
「おはよ、智鶴」
人ごみを掻き分けてやってくる知世(ともよ)ちゃん。
そっか、彼女の乗るバス停まで来たんだ。
「おはよ」
私はちょっと手を上げて挨拶する。
「ぼうっとしてたけど、何かあった? やっぱりお姉さんのこと?」
私の脇に来て立つ知世ちゃん。
彼女は私の大事な友人。
もちろんお姉ちゃんがいなくなったことも知っている。
「ううん・・・ちょっとね。ねえ、あそこの入り口近くに立っている人知ってる?」
私は笑みが気になった彼女のことをそっと聞いてみる。
彼女ももうこっちを向いてはいない。
「ん? 彼女? うーん・・・確かD組で見たとは思うんだけど・・・名前までは」
「そっか・・・」
「何? 彼女がどうかした?」
なぜそんなことを聞くのかという顔をしている知世ちゃん。
そりゃそうよね。
「ううん、なんとなく誰なのかなーって思っただけ」
まさか笑みが気になったなんて言えないよね。
でも・・・
なんとなく気になるよ・・・
「ふう・・・いきなり小テストとはやってくれるじゃない」
午前中の最後である四時間目に数学があるというのもつらいけど、さらに小テストとは・・・
あ~、お腹空いたよぅ・・・
「智鶴ぅ、どうだったぁ?」
知世ちゃんがヘロヘローという感じでやってくる。
あまりいいできではなかったらしい。
「まあまあってところかしらね」
私はとりあえずはだいたいわかったって感じかな。
「うう・・・うらやましいにゃぁ。智鶴は医科大志望だから勉強できてうらやましいにゃぁ」
「そんなことないよ。私だって結構苦手な教科とかあるんだよ」
「うう・・・私は苦手ばかりだにゃ」
へなっとうなだれる知世ちゃん。
あまり・・・ではなく相当にできがよくなかったのね?
「どうしたら智鶴みたいに勉強ができるようになるかにゃぁ・・・やっぱり好きなものがあると違うかにゃぁ・・・」
「うーん・・・どうなのかなぁ」
苦笑するしかない私。
「智鶴は薬剤師目指しているんだっけ? いいにゃぁ目的がちゃんと決まってて・・・私なんか将来の夢は“お嫁さん”だからにゃぁ」
「そ、それだって立派な夢だよ。雅人君に美味しいもの食べさせてあげるんだってがんばっているじゃない」
「まーねー。料理“だけ”は何とかなるんだけどねー」
それでいいじゃないか。
お料理できるのはかなりポイント高いと思うよ。
「あ、そうだそうだ。こんな話をしに来たんじゃなかった。今朝の娘わかったよ」
「えっ?」
そういえば私自身はすっかり忘れていたのに・・・
「D組の案西さんだって。案西響子さん。さっきの休み時間にD組行って確認してきた」
「ええっ? わざわざ?」
「うにゃ? 数学の教科書を借りてきただけだよー。そのついで」
あ~、また教科書家に忘れてきたのね?
知世ちゃんらしい・・・
「なんかね、一人で孤独な少女らしいよ。さっき行ったときも一人で窓の外眺めてたわ」
「そうなんだ・・・」
友達・・・いないのかな?
なんだろう・・・
思い出したら、やっぱりなんだか気になるよ・・・
「う~・・・」
ゆらりという感じで背を向ける知世ちゃん。
「どこ行くの?」
「購買。飲み物買ってくる。智鶴も何かいる?」
「あ、それならウーロン茶お願い」
「りょーかーい」
ひらひらと手を振って了解の合図をする知世ちゃん。
廊下に出て行くその後姿を見送り、私はカバンからお弁当を取り出した。
あれ?
私・・・いつの間に?
昼休み、私は気が付くと校舎の中庭にいた。
確か、知世ちゃんと一緒にお弁当を食べて・・・
ふと廊下を見たとき、案西さんの姿を見かけたような気がして・・・
そして彼女が、なぜか私を見て笑みを浮かべたような気がして・・・
だめだ・・・
そこからよくわからない・・・
何で私はこんなところにいるのだろう・・・
あ・・・
校舎に入ろうとしている後姿。
肩口までの茶色がかった髪。
あれは案西さん?
あ・・・
思わず私は駆け出していた。
「待って! ちょっと待って!」
案西さんの足が止まる。
校舎の入り口で立ち止まり、私のほうに振り返る。
くりくりした目が不思議そうに私を見る。
「何か用ですか?」
「えっ? あっ・・・」
なんてこと・・・
私は何で声をかけたのだろう?
何か用があるわけじゃないのに・・・
「あ・・・その・・・」
言葉に詰まってしまう。
思ったより小柄な彼女は、私を見つめている。
あ・・・れ?
「クスッ・・・待ってなさい。あとで迎えを差し向けるわ。それまでおとなしく待ってなさい」
「えっ?」
今のは何?
待ってなさいって?
私が戸惑っていると、彼女はくるりと背を向けて校舎の中に入っていく。
あ・・・
私はなぜか立ち尽くしたまま、彼女の後姿を見送った。
あれはなんだったんだろう・・・
特に部活動をしているでもない私は、放課後知世ちゃんとウィンドショッピングを楽しんだあと、自宅に戻っていた。
夕食を食べて後片付けを手伝い、そのあと自室でくつろいでいると、お昼の案西さんの言葉が思い返される。
『あとで迎えを差し向けるわ』
あれはどういうことなのだろう・・・
言葉どおりだと、案西さんからの迎えが来るということだと思う。
でも、どうして?
私は案西さんとは今日会ったばかりと言っていい。
そりゃあ、学校内で何度かすれ違ったりはしているだろうけど、お互いに相手を認識していない以上そんなのは会ったうちには入らない。
お互いに?
もしかして、案西さんは私のことを知っていたのかしら・・・
でも、だとしても迎えにってのはどういうことなのだろう・・・
あれ?
ふと気が付くと家の中が静かになっている。
お父さんも帰ってきたはずなのに、リビングから声もテレビの音も聞こえない。
お風呂にでも入っているのかな?
でも、それにしては静か過ぎる気がするよ・・・
私は何かあったのかと思い立ち上がる。
ドアを開けたところで私は驚いた。
リビングの電気が消えている。
どういうこと?
まだ9時だよ。
寝るには早いよ。
それに・・・
何か変だよ・・・
私はなんだか薄気味悪くなって、そっとリビングを覗きにいく。
廊下を静かに歩き、リビングのドアの曇りガラスから中を覗いてみる。
う~・・・
やっぱり無理よね。
中が暗いし、曇りガラスじゃ見えるわけない。
仕方がないので、私はできるだけ音を立てないようにリビングのドアをそっと開けた。
中は暗い。
カーテンを閉めてあるので、外の光も入ってこない。
それでも闇に目が慣れてくると、うっすらと中の様子がわかってくる。
テレビの前のソファにぐったりともたれかかっている人影がある。
お父さんだわ。
それにお父さんの足元の床にはお母さんが倒れている。
「お父さん! お母さん!」
私はもうびっくりして、すぐにリビングに飛び込んだ。
「心配ないわ。眠っているだけよ」
突然部屋の脇から声がする。
「だ、誰?」
私は思わず声のする方に振り返る。
闇の中にスッと立っている人影。
裸の女の人?
そう思うほどにそのシルエットは柔らかいラインをそのまま見せていた。
違う・・・
裸なんかじゃない。
それどころかなんだか奇妙な格好をしている。
だ、誰なのいったい・・・
「こんばんは、伊家原(いけはら)智鶴さん」
人影が一歩前に出る。
カーテンの隙間から差し込む外の明かりが、その人影をうっすらと照らし出す。
「ひっ」
私は息を飲んだ。
そこにいたのは女の人だった。
ううん・・・女の人だと思う。
柔らかく美しいプロポーションをレオタードみたいな服で包み込み、すらっとした長い脚にはハイヒールのブーツを履いている。
土足で人の家に入り込んでいるんだけど、そんなことはどうでもいい。
そこまでの姿は確かに女の人だと思う。
でも、頭を覆うヘルメットのようなものからはふるふると震える触角のような二本の線が延び、背中には昆虫の翅のようなものが背負われている。
まるでなんだかゴキブリのような・・・
私はハッとした。
まさか・・・
「コックローチレディ?」
思わず私はそうつぶやいた。
「あら、私のことを知っているのね? なんだかうれしいわ」
口元に笑みを浮かべるコックローチレディ。
とても冷たい笑み。
私は思わずぞっとする。
「どうして家になんか・・・何しに来たの!」
「うふふ・・・あなたを迎えに来たのよ。犯罪教授様がお待ちかねよ」
犯罪教授が?
私を迎えに?
どういうこと?
迎えにって言えば案西さんのあの言葉・・・
まさか案西さんは犯罪教授とつながりがあるというの?
「さあ、おとなしく来なさい。会いたい人にも会わせてあげる」
えっ?
会いたい人?
それってまさか・・・
「行くわ」
私は覚悟を決める。
犯罪教授に会えば、お姉ちゃんの手がかりがつかめるかもしれない。
それに会いたい人とはお姉ちゃんのことかもしれない。
たぶんお姉ちゃんは犯罪教授に捕まっているんだ。
だったら、助けに行かなくちゃ。
私も捕まることになるのかもしれないけど、二人でだったら何とか脱出できるかもしれない。
だから・・・行かなくちゃ・・・
「ふふふ・・・いい娘ね。それじゃ行きましょ」
私は促されるままに家を出た。
- 2009/02/25(水) 21:13:32|
- 犯罪教授響子様
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