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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

再掲載でお茶濁し

以前BeeF様の「蜂女の館」に掲載させていただいた「母娘改造」の再掲載です。
個人的に気に入っている話で、いずれ続きを書こうかなと思っているので再び載せました。
新作でなくてすみません。m(__)m

「母娘改造」
「あーあ、やんなっちゃうなぁ。明日友達と約束があったのに・・・」
国道をはずれて田舎道を走る車の後部座席でセーラー服に身を包んだ女の子が口を尖らせた。
「仕方が無いでしょ、志穂。おばあちゃんが亡くなったのだから」
車の助手席では黒い喪服姿の母親が娘をたしなめた。
「それにしても驚いたな、一郎兄貴からの便りでは元気だって言っていたからな」
車のハンドルを握っているのは女の子の父親だ。
家族三人は田舎の祖父と祖母の家に行くところなのだった。ただし、ありがたくない理由で。
「本当ね、突然ですものね」
「ああ、前から胸は気にしていたんだが、心臓発作とはな」
前席でのやり取りをぼんやりと聞きながら、志穂は窓の外に目をやっていた。

彼女の名前は島岡 志穂(しまおか しほ)。
県立の高校に通う女子高生である。
茶色のショートヘアが良く似合っている。
車を運転しているのが父親の島岡 三郎(しまおか さぶろう)。
四十歳で県内の大手工場に勤務している言ってみればしがないサラリーマンだ。
助手席に座っているのは母親の島岡 喜美枝(しまおか きみえ)。
若くして結婚し志穂を生んだため、まだ三十八歳の若さである。
長い黒髪の美しい女性だ。

車はやがて山道に差し掛かる。
このあたりは地形的に似たような感じのところが多く、地元民でも道を間違えることがある。
一本、道を間違えると全然別の場所へ行ってしまうので注意が必要だった。
うっそうと木が茂った山道は昼なお暗く、薄気味が悪かった。
十五分も走った頃、父親の三郎は車を止めた。
「ありゃあ・・・道を間違えたみたいだな」
「え~? ちょっと、信じらんない! しっかりしてよお父さん」
窓外の変わらない景色にいい加減うんざりしていた志穂が思わず文句を言う。
「すまんすまん。すぐに戻るよ」
三郎は車を転回させるべくスペースを探したが、あいにくの山道は細くなかなか難しそうだった。
「これはUターンできるところまで行くしかないんじゃない?」
「そうだな」
三郎が妻の言うとおり先へ進もうと思った時に背後からエンジン音が迫りクラクションを鳴らされた。
「なんだ?」
バックミラーを見ると一台の黒塗りのトラックが背後から迫っていた。
トラックは舗装のされていない砂利道を見る見る近付いてくるものの、スピードを緩める気配はない。
「な、なんだよ、行けってか?」
三郎はやむを得ず車を発進させる。
トラックに追突されそうになりながらも車は先に立って走り始めた。
「何なの? ずいぶん乱暴じゃない?」
「お父さん、トラックの運転している人変な格好しているよ」
志穂の言葉に三郎はバックミラーを覗き込む。
すると、志穂の言うとおりトラックの運転席には顔に赤と緑のペイントをした女性がハンドルを握っている。
「なんだありゃ」
「そうなの? 私からは見えないわ」
後ろを振り返る喜美枝だが、あいにく助手席からは見づらくてよくわからない。
「どちらにしても後ろから追ってこられたらたまらないな」
細い山道を三郎は車を走らせる。
やがて木々の切れ間に閉鎖された鉱山の跡のようなものが見えてきた。
「後ろのトラックはあそこへ行く気か?」
鉱山の入り口らしきところは大きな鉄の扉がはめ込まれていて、その前が少し広い空き地になっている。
「あそこならUターンできるわね」
「全く、こんなところで時間を食ってしまったな」
三郎はそう言って空き地に車を進ませる。
すると後ろのトラックは空き地への入り口で停止し、道路とのつながりを断ち切ってしまった。
Uターンをしてまた道に戻ろうとした三郎は面食らう。
「なんだ? 出さないつもりか? この野郎」
三郎は車を止めてトラックをにらみつける。
「お父さん、後ろ!」
「何!」
志穂の声に三郎が振り向いた時には、鉱山の大型扉に付けられた小さな扉から人影が出てくるところだった。
その人影はみんな女性だった。しかも若い女性らしい。
異様だったのはそのいずれもが顔に赤と緑のペイントをして黒いレオタードと網タイツを身に付け、それに黒いブーツを履き、腰に赤いサッシュを巻いていることだった。
「何だこいつら? いかれた宗教か?」
「あなた、前にも」
喜美枝が指差す先にはトラックの幌を跳ね上げて飛び降りてくる異装の女たち、後ろから来るのと同じ黒いレオタード姿の女たちがいた。
女たちはたちまちのうちに車を取り囲んでしまい、彼らに対して身構える。
「イーッ、降りろ! 降りないと車を破壊する」
妙な奇声を発し、彼女たちはペイントされた顔で島岡一家をにらみつけた。
「あなた・・・」
「お父さん・・・」
不安そうな表情を浮かべる喜美枝と志穂。
三郎は意を決して黒レオタードの妙な連中と話をするべく車のドアを開けた。
「何だ君たちは? 俺たちは道を間違えただけだ。通してくれ。グホッ・・・」
車から降り立ちそう言った三郎は、次の瞬間腹部に鋭い痛みを覚えてうずくまった。
「キャー!」
「あ、あなたっ!」
目の前で夫が、父親が腹部を殴られるのを目の当たりにした二人は思わず悲鳴を上げてしまう。
黒いレオタードの女の一人が三郎を引き起こし、振り向かせて首を押さえ車のボンネットに押し付けた。
「イーッ、お前たちも降りるのだ。降りなければこいつの首をへし折る」
「や、やめて! お、降ります。降りますから」
助手席のドアを開けて喜美枝が降り、続いて志穂も車から降りる。
すぐに黒レオタードの女たちが彼女たちの両腕を捕らえ、二人はがっちりと捕まってしまった。
「は、離して。わ、私たちをどうするつもり?」
「や、やめろ! 妻と娘は離してくれ」
後ろ手に押さえつけられた三郎がもがくが、女の力は異常なほど強かった。
「黙れ! ここは我々栄光ある暗黒結社デライトの秘密アジトだ。立ち入った者を帰すわけにはいかない」
「そんな、そんなの知るわけないじゃん! 離してよ!」
志穂は何とか振りほどこうとするが、全く無駄だった。
「ここには迷い込んだだけだ。ここのことは誰にも言わないから離してくれ」
「黙りなさい! これよりお前たちをアジトへ連行する。連れて行け!」
「イーッ、了解です。F6号」
三郎の請願もむなしく島岡一家は黒レオタードの女たちに引きづられるように鉱山の入り口を通っていった。

暗い通路をしばらく歩かされた島岡一家は、やがて薄暗いホールに通された。
ホールの奥には人が一人立っており、その頭上には壁に髑髏のレリーフが掛けられている。
冷たい感じのするホールに一家は不気味さを感じていた。
「ククク・・・我々デライトのアジトにようこそ」
立っていたのは男だった。
すらりとした長身の男で、これまた妙なことに赤と緑の取り合わせたピエロのような格好をしている。
顔にも白いメークをして、鼻の頭や目元などに赤いポイントが入っていた。
「私は暗黒結社デライトの極東担当をしておりますチャン・ザ・マジシャンと申す者。以後お見知りおきを。クククク・・・」
男はそう名乗り、手にしたステッキを振り回して少し甲高い声で耳障りな笑い声を出す。
「き、君たちが何者かは知らない。興味もない。俺たちはここへは道を間違えて迷い込んだだけなんだ。だから帰してくれ。ここのことを黙っていろと言うなら絶対にしゃべったりしない。約束する」
三郎は勇気を振り絞りそう言った。
だが、チャン・ザ・マジシャンは薄笑いを浮かべているだけだった。
「クククク・・・先ほどあなたたちが通ってきた通路はいろいろな仕掛けがしてありましてね。あなたたちの適性を調べさせていただきましたよ」
「適性?」
三郎はいぶかしんだ。何の適性だろう。
「そう。我々デライトのために働けるかどうかをね。すると驚くべき結果がでたのですよ」
大げさに驚いたような身振りをするチャン・ザ・マジシャン。
「そこのあなた」
チャン・ザ・マジシャンのステッキが黒レオタードの女に両脇を捕らえられている喜美枝に突き出される。
「クククク・・・あなたは実にすばらしい女性だ。我々デライトの改造戦士にふさわしい」
「か、かいぞうせんし?」
喜美枝には何のことかさっぱりわからない。
だが、それが自分にとって良くないことであることは想像がついた。
「喜美枝をどうするつもりだ。妻に手を出したら俺が許さんぞ」
三郎が何とかしようともがくが、やはり両側をがっちりと押さえつけられていてどうすることもできなかった。
「無駄ですよ。こいつらは我がデライトの忠実な女戦闘員です。あなたの力ごときでは敵いっこありません」
「くそ! 離せ、離しやがれ!」
懸命にもがく三郎。だが、黒レオタードの女戦闘員は平然としていた。
「クククク・・・あなたは自分でも気が付いていないでしょうが、実にすばらしい肉体を持っている。改造すれば立派な改造戦士として生まれ変われますよ」
つかつかと喜美枝に近付き、ステッキの先で喜美枝の顎を持ち上げるチャン・ザ・マジシャン。
「や、やめろぉ! 妻に手を出すなぁ!」
「い、いやです。改造なんていや!」
「お母さんに手を出さないで!」
それぞれの叫びがホールに響く。
「黙りなさい。あなたたちの意見を聞いてなどいません。そう、本人の意見すらね。クククク・・・」
不気味に笑うチャン・ザ・マジシャン。
「あなたに許されているのは我々デライトの改造戦士となることだけ。早速始めるとしましょう。おい!」
「イーッ! 直ちにセッティングを開始いたします。チャン・ザ・マジシャン様」
三人を押さえつけている以外の女戦闘員たちが手を上げて敬礼し、ホールを出て行く。
「さて、せっかくですからお二人にも見学をさせてあげましょう。見物ですよ、これは。クククク・・・」
ステッキを一振りすると島岡一家は再びホールから引きづられるように連れて行かれた。
あとには三人の叫びだけが残った。

先ほどのホールとは違う部屋。
中央には円形のテーブルのような台が設えられている。
その台の上には下着まで取り去られた喜美枝が寝かされていた。
衣服を脱がされると知った喜美枝は必死に抵抗したものの、チャン・ザ・マジシャンのステッキが一振りされると電撃を受けたように躰の自由が奪われてしまい、ついに喪服やストッキング、下着までも取り払われてしまったのだった。
手足はベルトで拘束され、身動きをすることもできない喜美枝は、胸や股間も隠すことができずにいた。
部屋の隅には両手を鎖で縛り付けられ、フックに吊り下げられた三郎と志穂がいた。
三郎も志穂も彼らの妻であり、母親である喜美枝のあられもない姿をどうしてやることもできなかった。
「くそっ! くそっ!」
三郎は必死に戒めを逃れようとしていたが、両手を拘束している鎖ははずれることは無かった。
「お願いです・・・許して下さい。私たちを家へ帰して・・・」
裸で両手両脚を拘束された喜美枝がすすり泣きながら訴える。
だが、彼女たちを拘束したあと、あの女戦闘員たちは出て行ってしまい、部屋には一家三人だけが残されていたのだった。
「お父さん・・・お母さんを助けて・・・」
「わかっている。あいつら、許さんぞ」
ジャラジャラという音が部屋に響く。
だが、三郎も志穂も自由になることができなかった。
やがて部屋の扉が開き、黒レオタードの女戦闘員たちを先頭に先ほどのピエロ姿のチャン・ザ・マジシャンともう一人、白衣の女性が入ってきた。
小柄でメガネをかけた三十代ぐらいの彼女は、その青い瞳と金髪からも外国人であることが伺えたが、やはり白衣の下から覗くすらりとした脚には網タイツとブーツを履いていた。
白衣の女性は円形の台のそばへ行くとそこに寝かされている喜美枝を冷ややかに見下ろした。
「この女が改造戦士の素体なの? なかなかいい素材のようね」
「クククク・・・実にその通りですよドクターリン。この女はかなりのポテンシャルを秘めています」
ドクターリンと呼ばれた白衣の女性のそばにいくチャン・ザ・マジシャン。
「あとはあなたの手で彼女を素敵な改造戦士に改造してあげてくださいな」
「ええ、任せてくださいな。とても素敵な戦士にしてあげますわ。うふふふふ・・・」
ドクターリンのメガネの奥の瞳が妖しく輝く。
「いやぁ! 改造なんていやぁ! いやよぅっ!」
「やめろぉ! 妻に、喜美枝に手を出すなぁ!グホッ・・・」
叫び声を上げた三郎の腹部に女戦闘員のこぶしが入る。
「が・・・がはっ」
「お、お父さん!」
となりに吊り下げられている志穂が父親を心配して声を上げた。
「黙りなさい! お前たちは黙ってあの女性が改造されるところを見ているのよ」
黒レオタードの女戦闘員が三郎の髪の毛を掴み、寝かされている喜美枝の方へ向ける。
「やめてっ! お母さんを改造しないでっ!」
「うるさいっ!」
「キャッ」
パシンと音がして志穂の頬が張り飛ばされる。
相当に手加減されているのだろうが、志穂の頬は赤くはれ上がった。
「志穂っ! 娘に手を出さないで!」
「やめろぉ! 妻にも娘にも手を出すなぁ!」
「黙りなさい!」
チャン・ザ・マジシャンの一言に部屋はシンとなる。
「ドクターリン。騒がしいようですからしばしお待ちを。おい!」
「イーッ! かしこまりました」
女戦闘員たちは三郎と志穂の口に猿轡を嵌めていく。
首を振って抵抗した二人だったが、すぐに猿轡をされてしゃべることができなくなってしまった。
「イーッ。終了しました」
「よし。ドクターリン。始めてください」
「ええ、了解ですチャン・ザ・マジシャン」
ドクターリンはそういうと蛍光ピンクに輝く液体を注射器に取り、嫌がる喜美枝の腕に注射する。
「これは細胞を遺伝子レベルから変化させていくの。あなたの躰は全く別物になっていくのよ」
薄笑いを浮かべるドクターリン。
志穂はその笑みが悪魔のように感じられた。
「次はこれ。これがなんだかわかるかしら?」
ガラス瓶の中に入った物体がごそごそと動いている。
「きゃあっ! く、蜘蛛」
喜美枝が悲鳴を上げて目をそらす。
ガラス瓶の中には黒と黄色の縞模様が毒々しい大きな蜘蛛がうごめいていたのだ。
彼女は生理的に蜘蛛が大嫌いだった。
「あらあら、嫌いなの? でもあなたはこれから蜘蛛になるのよ」
「ええっ? そんなのいやです! やめてぇ!」
「うふふふ・・・すぐに好きになるわ。心配要らないわよ」
ドクターリンはガラス瓶の中の蜘蛛に今度は蛍光グリーンの液体をかけてかき混ぜていく。
「ほうら、どろどろに溶けていくわ。そして蜘蛛の遺伝子がこの液体と混じっていく」
「むぐぅ・・・」
志穂は吐き気を覚えた。この女は気が狂っている。
やがてガラス瓶の中のグリーンの液体をドクターリンは機械の中に注入する。
そして機械から伸びるチューブを喜美枝の両腕に突き刺した。
「あなたの血液に蜘蛛の遺伝子が混じった液体を混入するの。液体はあなたの血とともにあなたの躰を巡って隅々まで到達するわ。そしてあなたの躰を基本から変えていくの」
「いやぁ・・・いやよぅ」
機械が音を発し始め、喜美枝の腕に刺さったチューブから赤い血が吸い取られていく。
やがてその血は機械に取り込まれ、別のチューブからどす黒くなって出てきて再び喜美枝のもう片方の腕に注入されていった。
「ああ、いやぁ・・・熱い・・・体が熱い」
「でもね、そのままでは時間が掛かるわ。そこで変化を促進するためのエネルギーを与えてやるの。そうすれば数時間であなたの躰は完全なる改造戦士の肉体に生まれ変わることになるのよ」
天井からドクターリンのスイッチによって手術用の無影灯のようなものが降りてくる。
そしてそれらはいっせいに点灯し、赤や黄色の光線を喜美枝の全身に浴びせ始めた。
「ああ・・・熱い・・・熱いよう」
喜美枝が躰の熱さにぼうっとなっていくのと同時に、彼女の躰には驚くべき変化が起き始めていた。
「むぐぐ・・・」
「もぐぅ・・・」
三郎も志穂もただうなり声を出すことしかできない。
その二人の目の前で喜美枝は徐々に蜘蛛の怪人に変化していっていたのだ。
若い時から変わっていない手入れの行き届いたすべすべの肌にはごわごわした硬い毛が生え始め、滑らかな両手両脚にも剛毛が生えてくる。
手足の毛は黄色と黒の色違いとなり、縞模様を形作っていく。
お母さん・・・
目の前で変化していく母親に志穂は顔をそむけるしかなかった。
ぐったりとした喜美枝はさらに変化を続け、両肩からは肉が盛り上がると先端が鋭くとがった爪を持つ蜘蛛の脚が生え始めた。
「むぐぅぅぅ・・・」
「みにゃぁー」
猿轡のせいで奇声にしか聞こえないが、三郎も志穂も悲鳴を上げていた。
妻が、母親が人外の怪物に変化していくのを正視できるはずがない。
喜美枝の両手は黒と黄色の縞模様に彩られ、指先には鋭い爪が伸びてくる。
両脚は指先が一つにまとまり、先がとがってかかとが伸びていき、まるでハイヒールを履いているような形に形成されていく。
形のいい太ももも、黄色と黒の縞模様に覆われていき、肌色の部分は全く姿を消してしまっていた。
胴体はやはり剛毛に覆われていき、黒一色に染め上げられていく。
いまだ形の崩れていない二つの胸の膨らみも黒い毛が覆いつくしていき、股間の性器も硬い毛がカバーしていく。
額には新たな目が形成され、口元には鋭い牙が現れる。
やがて喜美枝は完全な蜘蛛女へと変貌を遂げていった。
「うふふふ・・・あとはチャン・ザ・マジシャンの仕事ね」
ドクターリンは満足そうな笑みを浮かべていた。

三郎も志穂もがっくりとうなだれたまま、鎖に繋がれて吊り下げられていた。
あれから何時間経ったのだろう。
チャン・ザ・マジシャンという奇妙なピエロもドクターリンと呼ばれた白衣の外国女性もすでに部屋にはいなかった。
二人の目の前には円形の台の上に横たわる蜘蛛と女性が一体化したような怪物となってしまった喜美枝がいるだけだった。
猿轡を嵌められているせいもあって、二人は無言で打ちひしがれたようにフックから鎖によってぶら下がっていた。
しばらくして再び扉が開き、三人の黒レオタードの女戦闘員と赤と緑のピエロの衣装のチャン・ザ・マジシャンが入ってきた。
「そろそろ目覚める頃合いですね。どうです? 素敵な姿だと思いませんか? あなたの奥さんは」
「ふざけるな! 喜美枝を元に戻せ!」
女戦闘員によって猿轡をはずされた三郎はすぐさまチャン・ザ・マジシャンに食って掛かる。
「そうよ! お母さんを元に戻して!」
同じく猿轡をはずされた志穂もチャン・ザ・マジシャンをにらみつける。
「おやおや。あなたたちにはこの美しい姿がわからないのですか?」
「美しいだなんて・・・化け物じゃない!」
志穂がそう言ったとき、台の上で喜美枝が身じろぎした。
すでに手足の拘束は解かれていた喜美枝は、ぼんやりと目を開けると複数の映像が目に入ってくることに気が付いた。
え?・・・何これ?
喜美枝は驚いたが、やがて映像は一つとなり、今までよりも数倍立体感がつかめることに気が付いた。
そして、天井には見たこともない蜘蛛のような姿をした女がいることにも気が付いた。
「ひあっ!」
思わず口元に手を当てて叫びを押しとどめる。
そして、それは蜘蛛女も同様のしぐさをすることに気が付いた。
え?・・・そんな・・・まさか・・・
喜美枝はゆっくりと右手を胸のところへ下ろしてみる。
すると天井の蜘蛛女は同じように左手を下げていた。
あれは・・・鏡?
つややかな表面を持つそれが台の上にいる自分を映し出していることに気が付くのにさほど時間はかからなかった。
あれは・・・私?
あの姿が・・・私?
いや・・・
そんなのはいや・・・
「いやぁっ!」
喜美枝は叫んで上半身をガバッと起こす。
目の前に現れた両手と下半身は鏡に映っていたのがまぎれもない自分であることを理解させるのに充分だった。
「いやぁっ! いやよぅっ! こんなのはいやぁっ!」
鋭い爪と硬い毛で覆われた両手で顔を覆い、首を振る喜美枝。
こんなのは悪夢であり、早く目覚めたかった。
「いやあ・・・いやよぉ・・・助けて・・・シュシューッ」
喜美枝の口からシュシューッといううなり声が上がる。
「喜美枝!」
「お母さん!」
二つの声が部屋に響く。
それは一番聞きたい声であり、同時に一番聞きたくない声でもあった。
「シュシューッ。あなた・・・志穂・・・」
蜘蛛女と化した喜美枝の目にはこのうす暗がりなど問題ではない。
部屋の隅に捕らわれている二人の姿が喜美枝にははっきりと見ることができた。
「喜美枝」
「お母さん」
心配そうに喜美枝を見つめる二人。
だが喜美枝にとってそれは残酷な一瞬だった。
「い、いやあっ! み、見ないで! 見ないでぇ!」
躰をかき抱くように両手で自分の躰を抱きしめる喜美枝。肩から生えた二本の蜘蛛の脚も彼女の躰にかぶさってくる。
「喜美枝・・・」
「お母さん・・・」
「シュシューッ・・・お願い、見ないで。私を見ないで・・・」
台の上で丸くうずくまり、喜美枝は首を振る。シュシューッといううなり声も意思に反してしゃべろうとするたびに口にしてしまうのだった。
三郎も志穂もその姿に声を掛けることができなかった。
「クククク・・・恥ずかしがることはありませんよ。とても素敵な姿じゃないですか。あなたは我々デライトの改造戦士蜘蛛女なんですから」
「シュシューッ。いや、そんなのはいや・・・戻して・・・戻してよ。元の姿に戻して!」
キッとチャン・ザ・マジシャンをにらみつける喜美枝。すさまじい殺気すら漂う。
「そうだ! 妻を元に戻せ!」
「お母さんを元に戻して!」
ジャラジャラと鎖が鳴る。
「黙れ!」
すぐに女戦闘員が三郎と志穂の首筋に短剣を突きつけて動きを封じた。
「グッ、くそっ!」
「お母さん!」
「シュシューッ。志穂! あなた! やめて! 夫と娘には手を出さないでぇ」
喜美枝が叫ぶ。
「ええ、構いませんよ。私が必要なのはあなたです。あなたさえ我がデライトのために働いてくれれば男と娘の命は助けましょう」
「えっ?」
思わずチャン・ザ・マジシャンの顔を見上げる喜美枝。
「喜美枝。だまされるな。元に戻してもらうんだ!」
首筋の短剣をものともせずに三郎が叫ぶ。
「元に戻れるとなど思っているのですか? あなたの躰は芸術品なのですよ」
ああ・・・
おそらくそれは本当だろう。
こんな躰になってしまった以上、元に戻るなんてできないに違いない。
あなた・・・志穂・・・
喜美枝は決断した。
「シュシューッ。わかりました・・・私はここに残ります。ですから二人は・・・」
「喜美枝・・・」
「お母さん・・・」
三郎も志穂も言葉をなくす。
「結構。ではこれを付けなさい」
そう言ってチャン・ザ・マジシャンは皮でできた首輪を差し出す。
「首輪?」
「そうです。それは我々暗黒結社デライトの一員であることの証。あなたの決意が本当なら嵌めることができるでしょう?」
ニヤリと笑うチャン・ザ・マジシャン。
「シュシューッ。わ、わかりました」
喜美枝は首輪を受け取ると止め具をはずして首に巻き、再び止め具を嵌める。
瞬間ぞくぞくっとしたものが喜美枝の背筋を走り抜け、喜美枝は快感を感じた。
え? 何これ?
なんだかとても気持ちがいい。
喜美枝は何か解放されたような気分を味わっていた。
「クククク・・・さて約束は守りましょう。そいつらを捕虜収容房へ連れて行け!」
「イーッ! かしこまりました」
女戦闘員がフックにかかった鎖をはずし始める。
「うそつき! 解放するって言ったじゃない!」
鎖をはずされながら志穂はチャン・ザ・マジシャンを怒鳴りつけた。
「はて? 私は命は助けると言いましたが、解放するとは一言も」
ニヤニヤ笑うチャン・ザ・マジシャン。
志穂はその悪魔のような男に唾を吐きかけた。
残念ながら届きはしなかったが、チャン・ザ・マジシャンはあからさまに嫌悪の表情を浮かべる。
「絶対・・・絶対あんたを赦さないから!」
女戦闘員に後ろ手に縛り上げられ、部屋から連れ出される志穂。
続いて三郎も部屋から連れ出されていった。
「クククク・・・可愛いですねぇ志穂ちゃんは」
そう言ってチャン・ザ・マジシャンはぼうっとしている喜美枝の顎をつかんで持ち上げた。
「クククク・・・その首輪は特殊でしてね。脳波に影響を与えるパルスを出し続けるのですよ。そう、そのパルスを浴びているうちにあなたは我々デライトの邪悪な心に変わっていくのです。クククク・・・」
不気味な笑いは部屋中に響いていった。

父と娘は別々の独房とも言うべき部屋に入れられる。
扉のある面は鉄格子となっており、親子は向かい合わせの位置になっていた。
「くそっ、出せっ! ここから出してくれぇ!」
「お母さん! お母さん!」
二人の叫び声だけが廊下に響く。
しばらく叫んだものの、相手の反応が無いことに落胆した志穂は膝を抱えてうずくまった。
「お母さん・・・」
志穂の目から涙がこぼれる。
普段はやれ勉強しろとか手伝いをしろとかうるさく感じていたが、やはり母親のことは大好きだったのだ。
その母親が人ではないものになってしまう。
そんなことは信じられはしなかった。
「くそっ・・・あいつら何者なんだ? 喜美枝をあんな姿にしてしまうなんて・・・」
向かいの独房でも力を失ったように三郎がへたり込む。
「とにかく、ここを出て警察に連絡しなければ・・・そうすれば喜美枝も助かるに違いない」
「でも、どうやって出るの? お父さん」
志穂が顔を上げる。
「うーん、そこが問題だな。何かいい手は無いか・・・」
三郎は首をかしげた。一所懸命に知恵を搾り出すのだ。
「お父さん・・・」
志穂は何かに祈らずにはいられなかった・・・

「イーッ! こちらの部屋をお使い下さい。蜘蛛女様」
喜美枝は黒レオタードの女、確か女戦闘員という存在だ、に部屋に案内された。
こじんまりとした部屋だったが、きちんと手入れされているし調度品もそろっていた。
「何かご不満がございましたら申し述べてくださいませ。私は女戦闘員F62号。蜘蛛女様の身の回りのお世話をさせていただきます」
赤と緑のペイントをした顔だが、若く可愛らしい娘だ。喜美枝も思わず微笑んだ。
「シュシューッ。ありがとう。何かあったらお願いします」
喜美枝はもうしゃべるたびにシュシューッといううなり声を上げてしまうことを気にするのをやめた。
気にしても止めることはできないし、うなることでしゃべりづらくなることも無いのだ。
むしろ気にしているとかえってしゃべりづらかった。
「イーッ! それでは失礼いたします。ごゆっくりおくつろぎ下さい」
F62号は右手を上げて敬礼し部屋を出て行く。後には蜘蛛女となった喜美枝だけが残された。
喜美枝はハイヒール状になった素足でかつかつと床を踏みしめソファのところへ行き座り込む。
はあ・・・どうしてこんなことになってしまったの?
喜美枝は変化してしまった自分の両手を見つめる。
それは毛に覆われて黒と黄色の縞模様が浮かび上がりとても美しく感じた。
うふふ・・・綺麗・・・素敵・・・
鋭くとがって獲物を引き裂くことのできる指先の爪。
少々のことでは傷付かない強靭な筋肉。
股間の性器のあるあたりには小さな突起ができていて、手でいじると粘つく液体が分泌される。
それは空気に触れると強靭な細い糸となり、彼女の両手で自在に操ることができた。
糸を手繰り壁やテーブルに投げつけてやると、粘つく液体が糸を張り付かせ絡まってしまう。
それはとても楽しく、彼女はしばらく糸を張ったりはずしたりして楽しんだ。
ふと見ると、部屋には鏡台が置いてあり、カバーがかけられている。
彼女は器用に糸を使ってカバーを取り去ると、立ち上がって鏡の前に立つ。
そこには胴体を黒い毛で覆われ、すらりとした両手両脚それと両肩から生えている蜘蛛脚には黒と黄色の縞模様がある一人の女性が映し出されていた。
これが私・・・
彼女はその姿をじっと見下ろす。
これが・・・私・・・
まるで蜘蛛・・・
私は・・・蜘蛛・・・
私は蜘蛛女・・・
彼女は微笑みを浮かべると満足そうにソファへ戻っていった。

             ******

あれから何日たったのだろうか?
一週間ぐらいだろうと思うけど良くわからない。
わかっているのは脱走しようとしたことはことごとく失敗に終わったということだった。
食事を運んできた時に鍵を奪おうとしても・・・
腹痛を装い気を惹こうとしても・・・
シャワーを浴びさせてもらうために独房を出たときも・・・
女戦闘員たちは見事なまでに志穂を扱い、決して隙を見せることは無かった。
向かいの独房にいる父親もすっかり疲れ果て、脱走する気力も失ってしまったかのようだ。
それよりも志穂は母親のことが気になっていた。
ここの奴ら、特にあのピエロと金髪女によって怪物にさせられてしまった母親は、時間がたてばたつほど元に戻すことができなくなるのじゃないだろうか。
志穂はそのことが心配だったのだ。

「食事よ」
黒レオタードの女が食事を持ってくる。
今日もまた差し入れられるのはプラスチックボトルに入った栄養食だ。
流動食のようなものでチュウチュウ吸い出して食べるのだが、味も素っ気も無く食事をしている気にはなれない代物だった。
「また、これ?」
志穂はうんざりしながら言ってみる。
言ったところで代えてもらえるはずは無いのだが、言わずにはいられなかったのだ。
「いやなら食べなくてもいいわ」
顔に赤と緑のペイントを施した女は無表情でそう言った。
「食べるわ・・・食べるわよ」
鉄格子の隙間に置かれたボトルを手を伸ばして受け取り、脇に置く。
「ねえ、お母さんに会わせて・・・」
「はあ?」
志穂の問い掛けに怪訝そうな顔をする女戦闘員。
「お願い。お母さんに会いたいの」
「お母さん? ・・・ああ、蜘蛛女様のことね?」
「くもおんな・・・さま?」
そうだ、確かお母さんは蜘蛛の怪物にされたんだ・・・
志穂は母親がそんな呼ばれ方をされたことに改めてショックを受けた。
「蜘蛛女様って・・・」
「あんたの母親は私たち暗黒結社デライトの蜘蛛女様になられたのよ」
「そんな・・・」
「だからお前のような小娘が偉大な蜘蛛女様に会うことなどできはしないわ」
冷たく見下すように言い放つ女戦闘員。
「そんな・・・会わせて! お母さんに会わせてよ!」
志穂は鉄格子の隙間から手を伸ばして訴えた。
「うるさい! 黙れ!」
「会わせて!」
「そうだ! 妻に会わせろ! 喜美枝に会わせてくれ!」
向かいの独房から三郎も声を上げる。
「黙れ! おとなしく食事をしろ!」
女戦闘員は困惑したようにそう言って廊下を去っていく。
「待って! 会わせて! お母さんに会わせてー!」
「喜美枝に、喜美枝に会わせてくれー!」
二人の叫びが廊下に響いた。

「くそぉ・・・出せぇ・・・出してくれよぅ」
女戦闘員が立ち去ったあとをがっくりとうなだれながら見送る三郎。
そこへこつこつという靴音が響いてくる。
「クククク・・・元気そうですね。皆さん」
現れたのはピエロの服装をしたあのチャン・ザ・マジシャンだった。
「何しに来た!」
「ここから出して!」
「おやおや。歓迎されていないようですね。せっかくいい話を持ってきたのに」
両手を広げて首を振るチャン・ザ・マジシャン。
「いい話だと?」
三郎は表情を変えた。
「ええ、いい話ですよ。先ほどの話ではあなた方は喜美枝さんに会いたいそうじゃないですか」
「会いたい。お母さんに会いたいよ」
「会わせてくれるのか? 喜美枝に」
二人の顔が明るくなる。
「はい。会わせてあげますよ。特別にね」
「ああ・・・」
「良かったね、お父さん」
「どうします? すぐに会いますか?」
冷たく微笑むチャン・ザ・マジシャン。
「ああ、会わせてくれ」
「すぐにでもお願いします」
理不尽に閉じ込められて懇願するしか無い状況に仕方なく二人はお願いする。
「いいでしょう。おい!」
チャン・ザ・マジシャンが指を鳴らすと廊下の奥から四人の女戦闘員が出てきて鍵を開ける。
「イーッ! 出るのよ」
女戦闘員たちは二人を両側から押さえつけて廊下へ連れ出すと、チャン・ザ・マジシャンを先頭にして廊下を歩き始めた。
「あ、あの・・・」
両腕を女戦闘員に捕まれながら志穂は思い切ってチャン・ザ・マジシャンに声をかけてみる。
「何です? お嬢さん」
「お母さんは・・・お母さんはどうしているのですか?」
「ああ・・・あなたのお母さんは実に優秀でしてね。すでに二人の邪魔者を抹殺してくれましたよ」
チャン・ザ・マジシャンはさらりと言ってのけた。
「ま、抹殺って・・・人を殺したんですか? お母さんが?」
「うそだ! 喜美枝が・・・喜美枝がそんなことを・・・」
志穂も三郎もショックは隠せない。化け物にされた上に人殺しまでさせられているとは・・・
「おやおや・・・では本人に聞いてみればよろしいでしょう」
その言葉に志穂の不安は募る。
もうすでにお母さんは以前のお母さんでは無いのではないだろうか・・・
そんな思いを他所に彼らは廊下を連れられていき、一つの扉の前に立つ。
チャン・ザ・マジシャンが扉をノックする。
「シュシューッ。誰なの?」
「私ですよ、蜘蛛女。入ってもいいですか?」
インターフォンから志穂にとって懐かしい声がした。
「まあ、チャン・ザ・マジシャン様ですね? どうぞお入りくださいませ」
志穂は驚いた。インターフォンの声はまるで家族を迎えるように温かく感じたのだ。この怪しげな男が尋ねているというのに。
「では失礼して」
チャン・ザ・マジシャンが扉の脇にあるパネルを操作すると、扉は音も無くスライドする。
志穂たちはチャン・ザ・マジシャンに続いて部屋の中に入っていった。

そこは薄暗い部屋だった。
赤や黒に彩られ、所々に蜘蛛の糸が張り巡らされている。
その部屋の中央のソファに両手を背もたれに広げ脚を組んだ姿の蜘蛛女が座っていた。
蜘蛛女はすぐに立ち上がるとヒールの音を響かせながらチャン・ザ・マジシャンの元へ行き、すっと膝をつく。
「シュシューッ。いらっしゃいませチャン・ザ・マジシャン様。このようなところへようこそ」
「クククク・・・お前に会いたいという者たちをつれてきたのですよ」
チャン・ザ・マジシャンは両手を広げて背後に控えている志穂たちを蜘蛛女の前に引き出させる。
「ご存知ですか? この者たちを」
「シュシューッ。まあ、島岡三郎と島岡志穂ですね? よく存じていますわ」
両腕を捕まえられている三郎と志穂に向かって蜘蛛女は立ち上がる。
「まだ生きていたとは・・・てっきり死んだものだと」
冷たい笑みが口元に浮かぶ。
「喜美枝」
「お母さん」
二人の口から言葉がほとばしる。
だがそれは冷笑にさえぎられた。
「シュシューッ。喜美枝? お母さん? 誰のことを言っているのかしら」
「俺だ、三郎だ。覚えていないのか?」
「お母さん。私よ。志穂よ」
捕まれている両手を振りほどきたいが、とてもできそうに無い。
「シュシューッ。覚えているわ。島岡三郎に島岡志穂。くだらない人間どもよ」
「く、くだらない? どういうことだ喜美枝!」
「お、お母さん?」
両手を組んで二人を見つめていた蜘蛛女はつかつかと三郎に歩み寄り手の甲で張り飛ばす。
「ハグッ」
「お黙り! 誰に向かって口を訊いていると思っているのお前たち! 私は栄光ある暗黒結社デライトの改造戦士蜘蛛女なのよ」
冷酷な目で三郎を見下ろす蜘蛛女。その目にはかつての優しさや慈愛といったものは微塵も感じられない。
「お母さん、やめて!」
「喜美枝! 思い出してくれ。以前の優しいお前だった頃を!ウグッ」
ハイヒール状のとがったかかとが三郎の腹部に食い込む。
「シュシューッ。いい加減におし! お前などに喜美枝などと呼ばれるのは我慢ならないわ。そんなほこりをかぶったような名前は私は捨てたの」
蜘蛛女は三郎の髪をつかんで顔を持ち上げる。
「これからは蜘蛛女様と呼びなさい。もっとも、返事をするとは限らないけどね。うふふふ」
「お母さん、やめて! お父さんを放して!」
志穂は信じられなかった。
あの優しい母親がこんな化け物になってしまったというのか。
「シュシューッ。私に命令する気かい? 小娘が」
ぐったりした三郎から手を離す蜘蛛女。
「お母さん・・・」
口元には牙が生え、額には新たな二つの眼が存在するが、志穂の方に振り返ったその顔は母親の顔だった。
「お黙り! いつまでもお母さん呼ばわりすると殺すよ!」
「お母さん・・・本当にお母さんは変わってしまったの? 人を殺すようになってしまったの?」
志穂の目から涙がこぼれる。
「違うよね? お母さんは人を殺したりしないよね?」
「シュシューッ。あなた馬鹿じゃないの?」
「えっ?」
冷たい笑みを浮かべる母親に志穂はぞっとする。
「私たち暗黒結社デライトの邪魔をしたり役に立たない人間は殺すに決まっているじゃない」
「そんな・・・本当に人殺しを?」
「当たり前よ。もう何人もくずどもを殺したわ。それが何?」
志穂は言葉が出なかった。
お母さんじゃない・・・
もうこの人はお母さんじゃないんだ・・・
デライトとかいうやつらに作り変えられてしまったんだ・・・
悔しい・・・
許せない・・・
「この悪魔! お母さんを返して!」
志穂は今までそばで黙ってやり取りを聞いていたチャン・ザ・マジシャンに食って掛かる。
「元に・・・お母さんを元に戻してよぅ・・・」
うなだれて泣きじゃくり始める志穂。
「クククク・・・元にかね? どうかな、蜘蛛女? 元に戻りたいかな?」
「シュシューッ。冗談じゃないですわ。こんなすばらしい躰にしていただいたというのに」
チャン・ザ・マジシャンの問い掛けに蜘蛛女は首を振る。
「だそうだよ。志穂ちゃん」
「うっうっ・・・」
涙が志穂の足元をぬらす。
「シュシューッ。鬱陶しい小娘だこと。チャン・ザ・マジシャン様。こいつらを生かしておくのですか?」
「おやおや、あなたが望んだのですよ。こいつらを殺さないでくれと」
チャン・ザ・マジシャンはニヤニヤと笑みを浮かべた。
「そう・・・でしたかしら・・・私ったら何を考えていたのかしら。よろしければ始末いたしましょうか?」
「クククク・・・よろしいのですか?」
「シュシューッ。構いませんわ。このようなくだらない連中は生かしておく価値などありませんもの」
手の甲を口元に当ててくすっと笑う蜘蛛女。
「そうですか。では男は好きにしなさい。志穂ちゃんには我がデライトの一員となってもらいましょう」
「えっ?」
うなだれていた志穂は顔を上げた。
「ど、どういうこと?」
「あなたには我がデライトの女戦闘員となってもらいましょう。おい! あれを用意しなさい」
「イーッ! かしこまりました」
チャン・ザ・マジシャンの命令に従い、女戦闘員の一人が片手を挙げて敬礼し部屋を出る。
「シュシューッ。よかったわね、島岡志穂。あなたも我々暗黒結社デライトの一員になれるのよ。光栄でしょう?」
「そ、そんなのはいやっ! いやよっ!」
首を振り身をよじって何とか抜け出そうとする志穂。
「やめろ・・・志穂には手を出すな・・・」
「シュシューッ。お前は黙っていなさい!」
振り向きざまに蜘蛛女は三郎に平手打ちを食らわせる。
両側を支えられているので倒れはしないが、三郎はがっくりとうなだれた。
「ふんっ! 下衆が」
「お父さん!」
ぐったりとなった三郎に志穂は必死で呼び掛けた。
「目障りだわ。連れてお行き!」
「イーッ! かしこまりました蜘蛛女様」
二人の女戦闘員はぐったりとした三郎を引きずるように部屋から連れ出していく。
「お父さん! お父さん! キャッ」
パシンと音がして志穂の頬が赤くなる。
「静かにしなさい」
蜘蛛女が志穂の頬を張ったのだ。
お母さん・・・
志穂は黙るしかなかった。
やがて先ほどの女戦闘員が手提げバッグを持って部屋に戻ってくる。
「イーッ! お待たせいたしました」
「クククク・・・では準備をしなさい」
「イーッ! かしこまりました」
バッグの中から出てきたのは一組の衣服だった。
彼女たち女戦闘員が着ているのと同じもの。
黒い首まであるレオタードと黒の網タイツ。それにひざ下までの黒いブーツと腰に巻く赤いサッシュ。さらに首に巻く赤いスカーフだった。
志穂は理解した。
こいつらはこれを着せるつもりなのだ。
「い、いやぁ! いやだぁ!」
志穂は何とか逃れようと必死になって身じろぎする。
「ふん!」
暴れる志穂を見たチャン・ザ・マジシャンはステッキを志穂に向けて気合を込めた。
ステッキの先からオーラのようなものがほとばしり、志穂は金縛りのように手足を動かせなくなってしまう。
「きゃあっ」
「クククク・・・だめですよ、志穂ちゃん。おとなしくしていなさい」
志穂の体は志穂自身が動かすことはできず、女戦闘員たちは動けなくなった志穂から衣服を剥ぎ取り始めた。
「きゃあっ! いやぁ! やめてぇ!」
ずっと着たきりだったセーラー服が脱がされていき、ソックスや下着も取り払われていく。
ああ・・・恥ずかしい・・・恥ずかしいよぅ。
志穂は羞恥に頬を真っ赤に染めながらも、どうすることもできなかった。
「シュシューッ。可愛いわね。この娘」
「クククク・・・まだまだと思ったが、すでに充分女としての色気を持っているようですね」
「やめてぇ・・・そんなこと言わないでぇ」
蜘蛛女とチャン・ザ・マジシャンの視線を感じながらも隠すことさえできはしない。
形のよい小振りの乳房も柔らかな叢に隠された性器も全てさらけ出されてしまっているのだ。
ああ・・・もういっそ死んでしまいたいよう・・・
次の瞬間志穂はつま先に布の感触を感じる。
えっ?
しゅるしゅるとそのままたくし上げられていくその感触は網タイツを穿かされているものだった。
ああ・・・いやだぁ・・・恥ずかしいよぅ。
腰を持ち上げられ、下着をつけることもなしに網タイツが志保の下半身を覆っていく。
網目からは隠しきれない叢が顔をのぞかせていた。
ああ・・・いやぁ・・・
両脇を背後から抱えられているので上半身は起きたような格好になっていて、志穂には自分の下半身がよく見える。
網タイツを穿いた自分の脚はいつもよりすらりとして見えた。
「次はレオタードよ」
女戦闘員が片足ずつ持ち上げ、レオタードに足を通していく。
するすると腰まで持ち上げると股間からレオタードに志穂の躰が納まっていく。
両手を袖に通して背中でファスナーを締めると志穂の体は黒に染め上げられていた。
ああ・・・恥ずかしい・・・レオタードって初めて着るけど、こんなに体の線が出ちゃうんだ・・・
日ごろから多少の運動で躰を引き締めてきただけあって、志穂の体のラインは美しかった。
次に女戦闘員は志穂の右足を持ち上げてブーツを履かせる。
サイズもぴったりのブーツは志穂のひざ下を覆いサイドのジッパーで留められる。
左足も同様にブーツを履かせられ、志穂の足は黒く彩られた。
「あとは仕上げね」
二人の女戦闘員に両脇から抱えられ立ち上がった志穂に、赤いサッシュと赤いスカーフがそれぞれ巻きつけられ、顔のペイント以外は新たな女戦闘員の誕生となった。
「シュシューッ。素敵よ」
「クククク・・・後は完成を待つばかりですね。連れて行きなさい」
「イーッ! かしこまりました」
チャン・ザ・マジシャンの命令に従い、女戦闘員は志穂を連れて再び独房へと向かう。

独房へ戻ってきた志穂は向かいの独房に父親の姿が無いことに気が付いた。
「入りなさい」
まだ力が入らない志穂を放り出すように独房へ入れる女戦闘員。
「ま、待って。お父さんは・・・お父さんはどうしたの?」
床に転がりながらも志穂は父親が心配だった。
「お前の知る必要は無い。おとなしくしていろ!」
立ち去ろうとする女戦闘員たち。
「待って! お願い教えて、F53号」
志穂は自分が叫んだ言葉にショックを覚えた。
私・・・なぜ彼女がF53号だってわかったの?
「ふふふ・・・じきにそんなことは気にならなくなるわ。おとなしくしていることね」
女戦闘員F53号は冷たい笑みを残して去っていく。
あとには静寂だけが残った。

しばらくしてようやく躰の自由を取り戻した志穂は着せられたものを脱いでしまおうと首のスカーフに手を伸ばす。
こんな格好・・・早く脱がなきゃ・・・
だが志穂の手はスカーフに掛かったところで動きを止めてしまう。
脱いでどうするの?
脱いで裸になるの?
こんなに躰にフィットして着ているのが気持ちいいのに?
志穂の指がスカーフから離れる。
別に・・・構わないわよ・・・
知り合いに見られるわけじゃなし・・・
千夏ちゃんがいたらきっと冷やかされるだろうな・・・
『なあに、その格好』って・・・
いいじゃない・・・
その時は言ってやるのよ・・・
これは暗黒結社デライトの女戦闘員の制服なんだって・・・
着ていると気持ちがいいんだって言ってやるのよ・・・
そうよ・・・
この着心地を知ったら千夏ちゃんだって・・・
決めた。
しばらく着ていよう。
見られたって構わないわ。
むしろ見せつけてやるんだから。
志穂はそう思いベッドに腰掛けた。

「食事よ」
いつものようにボトルが置かれる。
「イーッ! ありがとう」
そう言ってから志穂は思わず口を押さえた。
何? 今のは?
私今なんて叫んだの?
確か彼女たちと同じようにイーッって・・・
「ふふふ・・・ゆっくり食べな」
ボトルを置いた女戦闘員はそう言って笑みを浮かべ立ち去っていく。
「あ、ありがと・・・」
志穂はおずおずとボトルを取り口へ運ぶ。
滋養のある液体がのどを通り志穂の体を力づける。
「おいしい・・・」
そう言って満足そうな笑みを浮かべた志保の顔にはうっすらと赤と緑の色が浮かんでいた。

独房に閉じ込められている状況は退屈だった。
少し体を動かさないとね。デブデブになったら動きが鈍るから。
志穂はそう思い床で体操をし始める。
驚いたことにすごく躰の動きがよく、また柔軟性も増したように感じる。
すごい・・・躰が軽いわ・・・思ったように動く。
柔軟体操から始めてパンチやキックの練習。体を動かしているといつ実戦に出てもいいような気がする。
命令さえあれば今すぐにでも戦いたい。
戦う?
誰と戦うの?
私は誰と戦うんだっけ?
逆らうものと・・・
私に・・・私たちに逆らう者とだ・・・
そうだわ・・・私たちに歯向かう者を叩き潰すのよ。
歯向かう者は容赦しないわ。
彼女はうなずくと再びパンチやキックの練習を始めた。

「調子はどう?」
「イーッ! 快調です。F28号」
彼女はそう言って片手を挙げる。
もうイーッという叫びに違和感を覚えることは無い。
むしろそう叫ぶことで自分の存在を誇示しているようで気持ちがいい。
「それはよかったわ。そろそろ完成ね」
優しそうな笑みがF28号に浮かぶ。
「完成? どういうことですか?」
「あなた、番号はわかる?」
番号?
私の番号?
私は・・・
私は・・・
そう・・・私はF91号・・・
私はF91号だわ・・・
「はい、私の番号はF91号です」
「それでいいわ。じゃ、名前は?」
えっ?
なまえ?
名前って?
私の名前?
何かあったような気が・・・
わからない・・・
名前なんて必要なの?
私はF91号・・・
これ以外に必要なの?
「わかりません・・・名前って必要なのですか?」
彼女は尋ねる。
「ううん、必要ないわ。あなたがそんなものにこだわっているかどうか聞いただけ」
「こだわっていません。名前なんて必要ありません」
「ふふ・・・上出来よF91号。もうしばらく我慢して。そのうちお呼びがあるでしょうから」
「イーッ! かしこまりましたF28号」
彼女は先輩に敬礼する。
F91号と名乗った彼女の顔にはくっきりと赤と緑のペイントが施されていた。

「F91号、出なさい」
「イーッ! 了解です、F53号」
待ちかねていた瞬間にF91号は勇んで立ち上がった。
鉄格子の扉をくぐると彼女の先輩が二人廊下に立っている。
F28号とF53号だ。
いずれも彼女の先輩として彼女の面倒を見てくれる頼もしい女戦闘員である。
彼女は自分の躰を見下ろして着ていることさえ感じなくなった黒いレオタードと網タイツの姿を確かめる。
準備は万端。
あとは栄光ある暗黒結社デライトの一員として恥じないようにするだけだった。
「いらっしゃい、F91号」
「イーッ! かしこまりました」
彼女は元気よく敬礼すると先輩たちに従って廊下を歩いていく。
ひんやりした廊下を歩くのは気持ちがいい。
ここは私たちの秘密アジト。
ここで組織のために働くことこそが私の使命。
F91号は誇らしげにそう思う。
やがて彼女たちは中央司令室に行き当たる。
ここには暗黒結社デライトの偉大なる極東司令官チャン・ザ・マジシャン様がおられるのだ。
F91号は少し緊張した。
「イーッ! 女戦闘員F28号、新たなる女戦闘員F91号を連れてまいりました」
F28号がそう言うと両開きの扉が重々しく開く。
「クククク・・・入りなさい」
偉大なるチャン・ザ・マジシャン様の声が響く。
「はい、失礼いたします。イーッ!」
「イーッ!」
三人の女戦闘員はそれぞれ敬礼して司令室に入る。
そこは広めのホールのようであり、奥の壁には栄光ある暗黒結社デライトのシンボルである髑髏のレリーフが飾られていた。
「クククク・・・新たな女戦闘員ですか。こちらへ来なさい」
レリーフの前の椅子に座っている赤と緑の服を着たピエロが彼女を差し招く。
彼こそが偉大なるチャン・ザ・マジシャン様だ。
「イーッ! 失礼します」
F91号は呼ばれるままにチャン・ザ・マジシャンのそばへ行き、すっとひざを折る。
「クククク・・・どうやら完成したようですね。自分が何者か言って見なさい」
「はい、私は栄光ある暗黒結社デライトの女戦闘員、F91号です。よろしくお願いいたします」
「クククク・・・おや? あなたは確か島岡志穂と名乗っていませんでしたかねぇ」
チャン・ザ・マジシャンは手にしたステッキでF91号の顎を持ち上げた。
赤と緑のペイントで彩られたその顔には困惑が浮かんでいる。
「チャン・ザ・マジシャン様。それはどういうことでしょうか? 私は島岡志穂などという者ではありません。女戦闘員F91号です」
まるで自分が違う存在であると言われたようでF91号は悲しかった。
島岡志穂なんて知らないし、私には関係が無い。
「おおっと、そうでしたね。どうやら間違えてしまったようですよ、この私が」
ステッキをはずし、肩をすくめるチャン・ザ・マジシャン。
その顔には邪悪な笑みがこぼれている。
「お前は女戦闘員F91号。間違いないですね?」
「はい、間違いありません。私は暗黒結社デライトの女戦闘員F91号です。」
力強くうなづく彼女。
「いいでしょう。ではわがデライトの首領様に忠誠を誓いなさい」
そう言ってチャン・ザ・マジシャンは壁のレリーフを指し示す。
「はい、私は栄光ある暗黒結社デライトの女戦闘員F91号。この身も心も首領様にお捧げいたします」
「クククク・・・結構ですよ。それではあなたは蜘蛛女の配下といたしましょう。F28号、後は任せますよ」
「イーッ! かしこまりましたチャン・ザ・マジシャン様。さあ、いらっしゃいF91号」
チャン・ザ・マジシャンの命令に従うF28号。
「はい。では失礼いたします。チャン・ザ・マジシャン様。イーッ!」
立ち上がり右手を上げて敬礼するF91号。そして振り返るとF28号に付き従った。
「クククク・・・洗脳強化服はいつもながらすばらしいですね」
去っていくF91号の後ろ姿を見つめつつチャン・ザ・マジシャンはそうつぶやいた。

いつか歩いたことがあるような気がする廊下をF91号は先輩に連れられていく。
「ふふふ・・・あなたは運がいいわよ、F91号」
「えっ? どういうことですか?」
F53号の言葉に彼女はそう尋ねる。
「蜘蛛女様は公平なお方なの。きちんと使命を果たせばきちんと評価してくださるわ」
「そうよ、毒蛾女様なんか最悪よ。いつもお気に入りだけをはべらせて気に入らない娘は作戦の捨て駒にしちゃうのよ」
「そりゃあ、私たちはいつでも暗黒結社デライトのために命など捨てるけど、捨て駒はいやよね」
F28号とF53号がにこやかに話す。
「そうなんですか? よかった」
少しホッとするF91号。彼女とて捨て駒はいやだ。
「さあ、ここよ」
改造戦士たちに当てられた一画にある一室。
そこが改造戦士たる蜘蛛女様の部屋なのだ。
「イーッ! 蜘蛛女様、入ってもよろしいですか?」
F28号が扉をノックし、声を掛ける。
「お入りなさい」
「イーッ! 失礼いたします」
聞き覚えがあるような優しい感じの声にF91号は少し戸惑う。
この声は・・・聞いたような気がするわ・・・
扉を開けるとそこは赤や黒で彩られた薄暗い部屋だった。
部屋の中央には椅子に腰掛けた蜘蛛女様と、その脇に控えているF62号の姿が目に入る。
「シュシューッ。何の用かしら?」
乗馬用のムチを手にして脚を組んで椅子に腰掛けている姿は改造戦士としての威厳に満ちている。
「イーッ! 新たに蜘蛛女様の配下に加わった新たな女戦闘員を連れてまいりました」
敬礼し膝をつく三人の女戦闘員たち。
「そう、そっちの娘がそうなのね?」
「はい、F91号でございます」
「そう。あら? ふーん。そうなの。そういうことなんだ」
蜘蛛女がうなずいているが、三人の女戦闘員は顔を見合わせる。
「いらっしゃい、F91号」
「イーッ! 失礼いたします」
立ち上がり蜘蛛女のそばへ行くF91号。
すぐさま再びひざを折って控える。
「し、志穂!」
突然声がしたことに彼女は驚いた。よく見ていなかったので気が付かなかったが、蜘蛛女様の座っているのは布を掛けられた四つん這いの男だったのだ。
「お黙り!」
ピシッと音がして蜘蛛女の手にしたムチが男の肌を叩く。
「誰が口を開いていいと言ったの? お前はただの椅子なのよ」
「ううう・・・」
彼女のことを志保と呼んだ男はやつれた顔をして彼女を見つめてきた。
何者だろう、この薄汚い男は・・・
蜘蛛女様の椅子になっているのだから黙っていればいいのに・・・
「シュシューッ。F91号。志穂という名前に心当たりは?」
「いえ、全くございません。何者なのですか、その志穂という者は? チャン・ザ・マジシャン様からも尋ねられましたが」
「し・・・志穂・・・」
彼女の答えになぜか男は涙を流す。
この男は少しおかしいのかもしれない。
「シュシューッ。そう、それならいいわ。この下衆がっ!」
すっと立ち上がると椅子となっている男のわき腹を思い切り蹴飛ばす蜘蛛女。
「ふぐぅっ」
「こいつも飽きてきたわね。連れて行きなさい」
「イーッ!かしこまりました」
F62号が男を引きずっていく。
「シュシューッ。あの男の始末はあとにしましょう。さあ、お前たち、支度をなさい」
「イーッ! かしこまりました、蜘蛛女様」
F28号とF53号が立ち上がり敬礼する。
「お前にも早速働いてもらうわよF91号。いいわね?」
「イーッ! 何なりとご命令くださいませ」
彼女は嬉しそうに敬礼した。早速組織のために働けるのだ。
「シュシューッ。いい娘ね。では行きましょうか。新たなる世界のために」
「はい、暗黒結社デライトのために」
F28号が驚いたことに、蜘蛛女はF91号の肩を抱いていた。
そして二人は新たな世界へ向かって部屋を出て行ったのだった。


漆黒の戦乙女 さんの投稿:
お、再掲載ですかw
確かこれみたような覚えがありますね
続きですかwそれは気になりますね、どう進むのか

それと個人的に、F91号っていうのを見るとガンダムが浮かんできてますw28号は鉄人を連想してしまいますが、これは狙ってやったものなのでしょうか?
10 月 8 日

沙弥香 さんの投稿:
再掲載できる作品があるなんてうらやましいですわ!
それだけ長いキャリアがおありだということですわね。
母娘改造は沙弥香も大好きなSSの一つでしたから
嬉しいです。欲を言えば、志穂ちゃんも戦闘員ではなく
怪人になって欲しかったのですが・・・。
あ、そういうのは沙弥香のSSでやればいいことですねww
しかし、こうやってまとまって掲載されると質・量ともに
すばらしいですね。沙弥香も見習わなければ。
10 月 9 日

姫宮 翼 さんの投稿:
あ、これ確か蜂女の館のSSでしたっけ?
続き考えたんですね~。
母親が蜘蛛女にされて、首輪で洗脳されるの結構良いと思いました。
なんて言うか装飾品などに特殊な装置があってそれで洗脳するのは結構好きです♪
後、確か前の作品では戦闘員の番号って複雑だったような気がします。
漆黒の戦乙女さんの言うとおりわたしもF91って聞いてガンダム思い出しちゃいました。
それでは、続きもゆっくりと執筆なさってください。
応援しています~。
10 月 9 日

舞方雅人 さんの投稿:
>漆黒の戦乙女様
F91およびF28については掲載当時にも友人からいわれたものですが、執筆時にはまったく意識していなくて、言われて初めて気が付いたものでした。

続きに関してはこのSSの直接の続きということではなく、秘密結社デライトの別ストーリーとなります。
細かい点も変わるかもしれませんのでご了承下さいませ。

>沙弥香様
>志保ちゃんも怪人に・・・
それもよかったですね。
親子の蜘蛛女なんていうのもモエモエです。
今後の参考にしますねー。

>姫宮 翼様
首輪を嵌められて徐々に意識が変わっていくところをもう少し書けばよかったです。
妄想ではいやいや要人暗殺に出向き、SPを生かして逃がそうとするのですが、SPの射撃を受けて徐々に人間が憎くなるシーンを考えていました。
10 月 9 日
  1. 2005/10/08(土) 22:25:11|
  2. デライトもの
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  4. | コメント:0
<<どちらを思い浮かべます? | ホーム | これを個人所有?>>

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北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
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