陽炎型駆逐艦で一応の完成を見た日本海軍の艦隊型駆逐艦でしたが、仮想敵国として日に日に戦力を充実させて来る米国に対し、いずれは戦力不足となるであろうことが予想されました。
特にアメリカが建造しようとしている新型戦艦の速度が、約28ノットに達するという情報があり(のちのサウスダコタ級)、35ノットがでる陽炎型といえども速度面での優越さはそれほど発揮できなくなることが懸念されました。
そこで駆逐艦の更なる速度向上を目指すべく、昭和14年(1939年)の計画で建造されたのが、高速駆逐艦「島風」でした。
52000馬力の陽炎型に対し、島風はなんと75000馬力に達する機関を搭載。
高温高圧のボイラーでタービンを回し、最高速力は39ノットを計画します。
太平洋戦争が始まり、じょじょに戦局が苦しくなってきた昭和18年(1943年)5月10日、島風は竣工します。
すでに前年ミッドウェーで機動部隊を失い、2月にはガダルカナルでの激戦が日本の負けに終わり、4月には山本五十六連合艦隊司令が戦死しておりました。
そんな中で、島風は期待の最新鋭艦として完成したのです。
島風は高速と同時に重武装の駆逐艦として建造されました。
基準排水量2560トンの船体は、全長約130メートル、水線幅11.2メートルの大きさでした。
この船体に島風は、12.7センチ連装砲塔三基は陽炎型と同じですが、魚雷発射管は61センチ5連装発射管をなんと三基も搭載したのです。
つまり一隻の駆逐艦が魚雷15本をいっせいに発射できるのです。
これは世界駆逐艦史上でも最高の発射門数でした。
島風はこの重武装の船体を持ちながら、39ノットの高速を発揮させるつもりでした。
そして島風は試験において、軽荷状態だったとはいえ、見事に40.9ノットという高速を発揮します。
これは日本駆逐艦史上最高速でした。
高速性と重武装を両立させた島風は、太平洋戦争前の昭和14年の計画時において望んだ最高の駆逐艦の姿でした。
しかし、太平洋戦争三年目の昭和18年において、島風はもはや海軍の望む駆逐艦ではありませんでした。
高速を発揮する75000馬力の機関は製造が難しく量産ができるものではありません。
また、いかに高速で重武装であろうとも、戦いの主役は航空機に移っており、水上魚雷戦自体が起こりにくくなっていたのです。
海軍が望む駆逐艦は、量産ができ防空能力を持つ対空護衛艦へと変わっていたのです。
16隻の量産が予定されていた島風型駆逐艦は、結局島風一隻が作られたのみでした。
以後の駆逐艦は量産に適した「松」型と、防空力の高い「秋月」型へと移っていったのです。
島風はキスカ島撤退作戦、マリアナ沖海戦、レイテ沖海戦などに参加。
しかし、その雷撃力や高速を発揮するような場面にはめぐり合えませんでした。
そして昭和19年(1944年)11月11日、オルモック湾で米軍機の空襲により沈没。
いかに高速といえども、水上艦艇では航空機の攻撃には対抗し得ないことを身を持って証明し沈んだのです。
優秀といわれる日本の駆逐艦でしたが、その優秀性を発揮できる戦場ではなかったんですよね。
時代の移り変わりとはいえ、無念だったのではないでしょうか。
それではまた。
- 2009/01/27(火) 20:47:14|
- 趣味
-
| トラックバック:0
-
| コメント:5
先の戦局がどうなるか、考えないで作ってしまう辺りが実に、旧日本軍的な発想で素敵ですね。
- 2009/01/27(火) 23:45:51 |
- URL |
- 神代☆焔 #-
- [ 編集]
お久しぶりです~
真珠湾以来の空母部隊の運用で
水上艦に対する航空機の優位を証明してみせた日本軍なのに
自分たちの革新性を自身で理解してなかったってことなのかな……
ちなみに島風を沈めた空襲って空母から発進?
それとも近場の飛行場からでしょうか?
とはいえ戦術レベルでどう足掻こうと
アメリカの圧倒的物量の前に
戦略的にはジリ貧になっていかざるを得なかったのだろう……ってのは
現代人の後知恵でしかないのですが(汗
- 2009/01/28(水) 01:34:05 |
- URL |
- 芹沢軍鶏 #JalddpaA
- [ 編集]
あ、よく考えたら建造計画は開戦2年前に立ててたのか
となると、いまだ水上艦同士の殴り合い=艦隊決戦思想に縛られていたとしても
仕方のないところ……
開戦以降に実際の戦果を見て
いくらでも計画変更できたであろうアメリカ様の
「月刊空母(毎月進水♪)」な工業力と一緒にしてはいけませんな(汗
- 2009/01/28(水) 01:42:18 |
- URL |
- 芹沢軍鶏 #JalddpaA
- [ 編集]
航空戦力が無かった時代でもないでしょ。
何れは、空中戦主体の戦闘になると読んだ人は居なかったんでしょうか?
この頃の軍部って、今の政治家に似てるなと思いませんか?
見えている未来を見てない辺りが特に(;^_^A
- 2009/01/28(水) 18:43:15 |
- URL |
- 神代☆焔 #-
- [ 編集]
>>神代☆焔様
当時は航空戦力で海面を自由に動ける艦艇を撃沈できると断言できる人は日本に限らずいなかったのです。
実際「マレー沖海戦」で戦艦が航空機に撃沈されたとき、全世界は世の中がひっくり返るほどの衝撃を受けたといいます。
軍事に限らず、将来の洞察というのは難しいものですよね。
>>芹沢軍鶏様
お久しぶりです。
お元気そうで何よりです。
日本が航空機で艦艇を撃沈できることを知らしめてしまったことで、アメリカの航空機と空母の増産に拍車をかけてしまったという人もいますよね。
どちらにしても生産力の差が大きすぎます。
だからと言ってただ屈するというわけにも行かなかったんでしょうけどね。
- 2009/01/28(水) 20:08:36 |
- URL |
- 舞方雅人 #-
- [ 編集]