今年最後の更新は、ガンダムSSです。
洗脳も改造も悪堕ちもありませんが、ちょっと異色のガンダムSSを楽しんでいただければと思います。
それではどうぞ。
「ソドン325号」
「ミノフスキー粒子の濃度、えらく高いです。こりゃ奴ら来てますね」
ナビゲーター席のウォルフマン軍曹が目の前の計器から顔を上げる。
ふう・・・
私は心の中でため息をつく。
どこで間違ってしまったのだろう・・・
どうして私はこんなところにいるのだろう・・・
外は絶対零度の冷たい宇宙空間。
そして右手に広がる巨大な天体、月。
私はどうしてこんなところにいるのだろう・・・
「コーゼル艇長、速度を落としてください。もし奴らがこのあたりにばら撒いていたとしたら危険です」
私はウォルフマン軍曹にうなずいた。
物思いにふけっている暇はない。
今は戦争中なのだ。
今はコロニーの建設よりも、破壊が優先なのだ。
私はスロットルを絞り、このソドン325号を減速させた。
ソドン325号は外洋タグボートともいうべき巡航艇だ。
強力なエンジンと推進剤タンクを後部に持ち、その前部にコクピットがついているといった感じの代物で、ミノフスキー粒子下での運用が前提のために視界はとてもよく作られている。
エンジン推力も高く、MS-06Cを二機曳航してもまったく問題がないほどだ。
この巡航艇をベースに、軍用のさまざまなセンサーを載せたり機雷敷設装置を搭載したりしたのがこのソドン325号であり、いわゆる特設敷設艇と呼ばれるものである。
通常は敷設艇と呼ばれることからもわかるとおり、敵軍の航路に進出して機雷をばら撒くのが任務であるが、時には逆の任務、掃海を命じられる場合もあり、ソドン325号は月とサイド3間の航路掃海の任務についていた。
もっとも、ルナ2近辺の制宙権しか持たない連邦軍が機雷戦を行いにやってくることなどめったになく、今のところは掃海と言うよりも哨戒と言ったほうがいいのではあるが。
『こちらサールトン。減速したようですが、何かあったんすか?』
ソドン325号から後部に伸びるワイヤーにしがみつく形のMS-06Fから通信が入ってくる。
この06Fも通常のザクではなく、後部バックパックに機雷敷設設備を持つマインレイヤー型と呼ばれるタイプだった。
「艇長のコーゼルよ。この周囲はミノフスキー粒子の濃度が極端に濃くなっているわ。連邦軍が仕掛けて行った可能性があるのよ」
私は周囲に目を凝らしながら艇を進める。
ムサイ級の軽巡でさえ、対艦機雷に触れたら大破はまぬがれない。
こんなちっぽけな特設敷設艇など木っ端微塵に吹き飛んでしまうのだ。
『了解。急激な機動を考慮し、いったん離脱します』
「そうしてちょうだい。機雷原を見つけたら掃海作業に入るわ」
『了解です』
06Fが手を離したおかげで、ちょっとだけ艇の重さが軽くなった感じがする。
ワイヤーで曳航する場合、こちらの機動に合わせて06F側でもバーニアを吹かしたりしなくてはならない。
そうじゃないと慣性の法則でお互いに振り回される羽目になってしまうのだ。
06Fなどのモビルスーツは推進剤の余裕は小さい。
自力で戦場や現場へ向かったりすれば、いざその場に着いたときには推進剤切れなんてことにもなりかねないのだ。
だからこうして推進剤に余力のある艦艇によって現場に運んでもらう。
できれば母艦設備のある軽巡や戦艦によって運ぶのがベストだが、こういった小型艇に曳航されるのも悪くない。
私の乗るソドン325号の真上に占位するMS-06Fマインレイヤー。
機雷原捜索中の私たちをカバーしてくれるのだ。
おかげでこちらは敵影におびえることなく捜索ができる。
こんな公国の近くまで来て機雷敷設をしていったのだとすれば、おそらく強襲機雷敷設艦。
サラミス級あたりの巡洋艦を改装して作ったやつに違いない。
だとしたら砲撃力だってそれなりに持っている。
ふう・・・
どっちにしてもこんな小艇じゃ木っ端微塵ね。
「艇長、あれを」
ウォルフマン軍曹が窓外の一点を指差す。
「えっ?」
思わず私も指差す方向に目を凝らす。
どこ?
見えないわ・・・
あ・・・
あれか?
ある・・・
あるわ・・・
機雷の群れだわ・・・
それは太陽光の反射を極力抑えた黒い塗装の邪悪な球体の群れだった。
あちこちからとげを突き出した球体は、直径が二メートルほどもある代物。
一撃で船を大破させるその球体が、ざっと見ただけでも二百から三百ほどは浮かんでいる。
気がつかなければまともに突っ込み、大爆発を起こしてしまうだろう。
一刻も早く掃海してしまわなくてはならない。
こんな航路近くじゃいつ船が通るかわからないわ。
「ゆっくりとやっているような数じゃないわね。オリーヌ、すぐにレーザー通信で本部に打電して。本格的な掃海艦をよこしてくれって頼むのよ」
「了解です、艇長」
私の背後の席に座る茶色の髪のそばかす少女、オリーヌ・ジュオー上等兵がすぐに通信パネルに通信文を打ち込んで行く。
おそらく数時間もすれば掃海艦が来るだろう。
でも、それまで放っておくわけにも行かないわ。
「破片爆雷は何個ある?」
「五つです。とても足りませんね」
ウォルフマン軍曹が肩をすくめる。
足りるはずがないわね。
これほどまでにばら撒かれているとは思わなかったもの。
先ほどまではおそらく貨物船に化けた敷設艦が二・三十個仕掛けて行くのがせいぜいだと思ってた。
そのぐらいなら破片爆雷五個もあればどうにか処理できるのだ。
「いいわ、できるだけのことはやりましょう。破片爆雷でできるだけ破壊し、あとはマインレイヤーのザクマシンガンとこの艇の機銃で一個ずつ破壊するしかないわ」
「やれやれ、それしかないですね」
ウォルフマン軍曹も苦笑する。
まあ、やらないよりはマシってことね。
「サールトン曹長、聞こえる?」
『こちらサールトン。聞こえます、准尉殿』
「今から機雷原を処理にかかるわ。破片爆雷を打ち出すから気をつけてね。それが終わったら残った機雷を片っ端からマシンガンで狙撃して」
我ながら情けない命令だと思う。
浮いている機雷を一つずつつぶすだなんて・・・
でも、機雷処理はこれが一番確実な手段。
流れた機雷で民間船が沈んだりしたら目も当てられないわ。
『了解です。やれやれですね』
「まったくだわ。いつも連邦にやってやっているお返しをされたわね」
私は苦笑した。
『コーゼル准尉殿! 何か来ます!』
いきなりマインレイヤーのサールトン曹長が大声を上げる。
「何?」
私は窓外に目を凝らした。
「後ろです! 後ろから!」
ウォルフマン軍曹が叫んだので、私はとっさに艇を反転させ、接近する物体に正対させた。
「赤外線パターン照合・・・民間船です。航宙輸送公社の貨物船C型です。本国に向かっているんだ」
「オリーヌ! すぐに進路を変更するように伝えて! このままじゃ機雷原に突っ込んじゃう!」
「了解です。接近中の貨物船へ、こちらは特設敷設艦ソドン325号。直ちに進路を変更せよ! 繰り返す、直ちに進路を変更せよ!」
通信機に向かってオリーヌが必死に訴える。
お願い、間に合って・・・
「ミノフスキー粒子のせいで発見が遅れた。速度が速い。間に合えばいいが・・・」
「こちらも進路をずらします。破片爆雷の投射は中止。貨物船が通り過ぎるのを待つわ」
私はソドン325号を貨物船のコースからはずし、様子を見る。
『こちら貨物船C-28。どういうことですか? いったい何が?』
「機雷原に向かっています。いいから早く進路を変えて!!」
のんきに返信してきた貨物船に、オリーヌが思わず怒鳴りつける。
無理もない。
あと五秒もすれば回避不能になってしまうのだ。
とにかく早く進路を変更してもらわねば。
窓外に見える貨物船は、ようやく船体各所のバーニアノズルを点火する。
コンテナを大量に積み込んだ大きな船体が、ゆっくりとその進路を変え始める。
お願い・・・間に合って・・・
私は祈るような思いで貨物船の針路変更を見つめている。
手袋の中はもう汗でじっとり。
あの船には少なくとも十数人が乗り組み、満載された貨物は本国が待ち望んでいる大事な貨物なのだ。
機雷ごときで失うわけにはいかないのよ。
「貨物船、針路変更右三十度。どうやら回避間に合いますね」
ウォルフマン軍曹もホッとしたような表情を見せる。
私も大雑把な計算で貨物船が回避可能であることを確かめて、思わず表情を緩めるのだった。
いきなり窓外に光が走る。
貨物船の横腹から爆発が起きる。
「きゃあっ!」
「えっ? 何?」
オリーヌの悲鳴が上がり、私も思わず目を疑った。
光は続けざまに走り、そのたびごとに貨物船から炎が噴きあがる。
よたよたと回避行動を取っていた貨物船などひとたまりも無い。
「敵です! 畜生! 近くに潜んでいやがった!」
「対空警戒! サールトン曹長離れて! まとまっているとやられるわ! 敵は何なの?」
私はすぐに艇を起動させ、ランダム加速を開始する。
「ああ・・・貨物船が・・・」
オリーヌの悲しげな声とともに、ゆっくりと分解していく貨物船。
あれではもう助からない。
「作業用ポッドらしきもの二機。その背後にでかいのがいます!」
「でかいの?」
「おそらく母艦です。形状は連邦のコロンブス型に酷似」
私は手元のモニター画面に目を落とす。
そこには太陽光を受けてグレーに輝く大型船と、こちらに向かってきているであろう作業用ポッドが映し出されていた。
「連邦め・・・なんてものを」
私は思わず絶句する。
その作業用ポッドのてっぺんには、巨大な大砲が一門付いていたのだ。
一体何を考えているのか・・・
あんなものを作業用ポッドにつけたりしたら、まともな機動などできなくなるに違いない。
でも、貨物船を砲撃したのはこいつらに間違いない。
おとなしく機雷原に突っ込むことを期待していたのが、進路を変えそうになったので砲撃したということか・・・
許せない連中だわ。
「サールトン曹長! ザクマシンガンの準備は?」
『できてます。任せてください。あんなポッド一撃でひねり潰してやりますよ』
すでに戦闘態勢をとっているサールトン曹長の06Fマインレイヤー。
背中のバックパックのおかげで戦闘稼働時間は通常の06Fより短いものの、戦闘力そのものはそう変わるものではない。
「油断しないで。あんなものでも大砲の威力は大きいわ。当たったら命取りよ」
『わかってます。大丈夫ですって』
マインレイヤーが敵の作業用ポッドに向かっていく。
こちらも少しでも援護をするべく、私は艇の機関砲をそちらに向けた。
敵の作業用ポッドは砲身を振りたててマインレイヤーを迎え撃つ。
二対一ということで自分たちが有利と判断したのかもしれない。
でも、そんな作業用ポッドに大砲つけただけの代物でマインレイヤーに立ち向かう?
私は右舷機関砲の発射を命じた。
少しでも敵作業用ポッドの注意をそらし、マインレイヤーの援護をしてやるのだ。
ウォルフマン軍曹が機関砲を操作し、砲弾をばら撒いていく。
曳光弾が光の尾を引いて作業用ポッドに向かう。
もちろん直撃を期待したものではないが、当たってくれと念じてしまうのは仕方がない。
サールトン曹長のマインレイヤーもザクマシンガンを連射しながら突っ込んでいく。
あの作業用ポッドの大砲ならば、これだけの機動をしている物体には当たりづらいはず。
逆にザクマシンガンは接近したほうが命中させやすい。
案の定敵の作業用ポッドは慌てふためいて左右に散る。
連携も何もないあわてぶりだ。
二対一の数の優位よりも、機体性能が段違いだということに気が付いたのだろう。
今さら遅いけどね。
貨物船の仇は取らせてもらうわよ。
きらっと何かが光る。
敵の作業用ポッドがいたあたり。
一体何が?
私はハッとした。
罠だ。
あいつらは私たちと同じ機雷敷設屋だ。
ワイヤーの両端に機雷をつけた奴をマインレイヤーの進路上に置いておけば・・・
「サールトン曹長! 軌道を変えて!!」
私の声はほとんど悲鳴に近かった。
モビルスーツは運動性に優れた兵器だ。
その理由の一端はAMBACによる機体制御。
モビルスーツを人型たらしめている手足を使って姿勢制御を行なうのだ。
そのことが裏目に出た。
サールトン曹長の頭の中からは、所詮敵は作業用ポッドに大砲をつけただけという認識が抜けなかったのだろう。
怖いのは二機が連携して撃たれること。
だから私も機関砲でその連携を崩すべく射撃を命じたのだ。
サールトン曹長もそう思い、まずは二機をばらばらにするべくその中心に向かって突っ込んだ。
ところがそれは敵も予想していたことだった。
二機の作業用ポッドは慌てふためいたように見せかけ、左右に展開することでマインレイヤーを誘い込んだのだ。
マインレイヤーのとる手段としては、いったん二機が散開した中央部をすり抜けて、AMBACですばやく後ろを向き、逃げる二機のどちらかの背後から射撃をするというのが定石だろう。
その上で軌道変更してもう一機を屠ればいい。
このやり方で我が軍は今まで多数の連邦軍宇宙戦闘機を撃破してきたのだから。
今回もそうするのが当たり前だったのだ。
「いやぁっ!」
私の背後でオリーヌが悲鳴を上げる。
窓外で起こる爆発。
マインレイヤーが爆散したのだ。
「サールトン曹長・・・」
私は声を失った。
マインレイヤーは定石どおり敵作業用ポッド二機の間をすり抜けた。
そしてAMBACで姿勢制御するために手足を振る。
その位置にワイヤーが浮かべてあるとは気が付かなかったのだ。
いや、万一気が付いたとしても、すでに遅かったのだ。
ワイヤーを引っ掛けてしまえば、端に付けられた機雷が引き寄せられる。
軌道を変えようとしたところで絡み付いてくる。
そして機体にぶつかったところで爆発する。
AMBACはそれをほんの少しだけ早めたに過ぎないのだ。
ワイヤーの端に付けられた二個の機雷の爆発力に、マインレイヤーが耐えられるはずは無かった。
「コーゼル艇長、奴ら来ます」
私は一瞬呆けていたらしい。
ウォルフマン軍曹の声にハッとする。
窓外には勝ち誇ったような連邦の作業用ポッドがゆっくりと近づいてくるのが見える。
ブルーグレーの機体にガンメタルの大砲が輝いていた。
「こちらを無事に帰すつもりは無いってことね。当然でしょうけど」
「どうします? こちらには機関砲しか武装がありません」
もともとタグボートに毛が生えたような巡航艇。
武装などたかが知れている。
推進剤のおかげで最終速度(全ての推進剤の半分を延々と加速に使い、残り半分で減速して速度を0にする場合の瞬間最高速度のこと。数値上は光速を超えることもある)こそ速いものの、巡航加速は大きくない。
逃げ出しても敵の射程外に出るのは難しいだろう。
「それでもやるしかないわ」
私は操縦悍を握り締めた。
「艇長、連邦から通信です。“直ちに降伏せよ”」
オリーヌの沈んだ声が流れてくる。
降伏なんてできるものですか。
「オリーヌ、降伏は拒否するって言ってやんなさい!」
「えっ?」
オリーヌの驚いたであろう顔が目に浮かぶ。
たぶん返信するとは思ってなかったのだろう。
だが、すぐに彼女がコンソールを操作する音が聞こえてきた。
「ウォルフマン軍曹、破片爆雷用意」
「了解です。しかし破片爆雷じゃ・・・」
かわされるのは百も承知。
だが、少しでも隙ができれば儲けもの。
敵の冷静さを失わせてやる。
降伏勧告の拒否と同時に、破片爆雷を投下する。
機関砲も一連射して少しでも被害を与えるべく試みたが、やはり相手はかわしてきた。
だが、破片爆雷の爆散破片を食らえばただではすまないのはわかっている。
連邦の作業用ポッドはあわてて回避行動に移り、爆散球(爆発した破片が球状に広がる状態)から離れていった。
ブンという音を立てそうな勢いで、曳光弾が艇の脇をかすめていく。
こしゃくな小艇と思ったのだろう。
マインレイヤーを失った以上、降伏するのが当たり前だと思ったに違いない。
それが降伏を拒否したばかりか、逃げることなく向かってきたのだ。
叩き潰してやると意気込んでいるのだろう。
二機の作業用ポッドは、ばらばらの軌道を取りながらも、こちらにその大砲を撃ってきたのだ。
私はランダム加速で艇の動きを幻惑させる。
加速と減速を繰り返し、相手の照準を狂わせるのだ。
その上で相手を引き寄せるべく逃げ回る。
どうかうまくいって・・・
オリーヌもウォルフマン軍曹も無言でそれぞれの仕事に打ち込んでいる。
時折私の命で機関砲を撃ち、破片爆雷を投射する。
連邦の作業用ポッドは最初は遠くから、やがて当たらないことに業を煮やしたのか、追いすがってきて射撃してくるようになった。
おそらく弾数が少ないのだろう。
かといってこちらを逃がす気にもなれないから、接近して一撃でしとめようという腹なのだ。
推進剤の量は少なくても、機動性ならこちらより上と思っているのだろう。
機動性とは加速力ではない。
ようは何回姿勢制御できるかなのだ。
推進剤の量が多ければ多いほど、加減速に使える量も多くなる。
それだけランダム加速もできるのだ。
今頃はちょこまかと逃げ回るこの艇に、熱くなっているに違いない。
食いついてくる二機の作業用ポッド。
背後を取られるぎりぎりの瞬間に軌道を変えてやる。
それだけで射線をかわし、相手に射撃の機会を与えない。
でも、さすがに何分間もその状態を維持できるものじゃない。
相手も無駄な射撃をしてこなくなっている。
あと少し・・・
このまま食いついてきて・・・
じりじりとした時間。
相手も相当に焦れているはず。
おそらく次の一撃ははずさないと決めている。
ほんの一瞬のチャンスがあれば、指はトリガーを押してしまうはず。
私はそのことにかけていた。
一瞬私は艇をふらつかせる。
ランダム加速に酔ったふりをしたのだ。
これだけ加減速を繰り返せば酔いが来ても不思議じゃないし、事実オリーヌはさっきから吐き気をもよおしている。
私もかなりきつかったが、何とか気力で持ちこたえていたのだ。
おそらくこれで敵の作業用ポッドも気付いたはず。
こちらのランダム加速が鈍ると考えてくれれば・・・
私は誘いをかける。
大きく艇をふらつかせ、その後しばらくは直進する。
これで次には撃ってくる。
私はそのときを待っていた。
再度艇をふらつかせた私は、艇を直進軌道に載せる。
1・・・チャンスという判断。
2・・・照準セット。
3・・・トリガーボタンを押す。
いまだ!!
私は大きく艇を軌道からはずす。
曳光弾が二発、艇の背後から左脇をかすめるように飛んでいく。
やった!
私は思わず叫んでいた。
軌道が交差するすれすれで、私たちの艇は相手の船体をかすめていく。
ブルーグレーの船体が大きく窓外に広がり、そして急速に脇に遠ざかる。
おそらく奴らに回避の余地はない。
今頃はきっと・・・
二発の砲弾は、艇をかすめて飛び去った。
そしてその行き先には、コロンブス型の補給艦があったのだ。
おそらく機雷敷設艦に改造され、武装作業用ポッド二機を搭載していた母艦だろう。
私は最後の瞬間に相手の射線がそいつと重なるようにしてやったのだ。
二発の砲弾がコロンブス型に突き刺さる。
そして、ぎりぎりで回避した私たちの艇とは違い、二機の作業用ポッドは回避する暇はなかった。
彼らに残された道は激突しかなかったのだ。
背後で爆発するコロンブス型と二機の作業用ポッド。
内蔵していた機雷が連鎖爆発しているのだろう。
いくつもの爆発が起き、周囲に破片を振りまいていく。
あれでは誰も助からない。
貨物船乗員に対する、せめてもの慰めになるだろうか・・・
******
数時間後、私たちは掃海艦と合流し、機雷の除去を行なった。
連邦の機雷敷設艦と二機の武装作業用ポッド、どうやら“ボール”という名前らしいものを撃破したことは、本部に報告されるらしい。
私はともかく、ウォルフマン軍曹とオリーヌには昇進という話ぐらい出てほしいものだわ・・・
私は・・・そうね・・・少し休暇が欲しいかな・・・
そんなことを考えながら、掃海艦に曳航される艇の中で、私は少し眠りに付くのだった。
- 2008/12/31(水) 19:32:52|
- ガンダムSS
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