「七日目」の十四回目です。
これで最終回となります。
二週間という長い間一本の物語にお付き合いくださりありがとうございました。
それではどうぞ。
14、
「皇帝陛下、ご紹介いたします。我が機械帝国の新たなる戦士、メカレディA1、A2、A3、A4の四体にございます」
謁見の間にて俺は背後に従えた四体のメカレディを紹介する。
もちろん壇上の玉座には誰もいない。
だが、皇帝陛下は全てを見通しておられ、それはメカレディたちにもわかるだろう。
俺たちの両脇には機械将アルマー、機械博士ヘルブール、そして機械部隊長メレールが控えている。
アルマーは憎憎しげに、ヘルブールは無機質に、そしてメレールは笑みを浮かべながら俺に視線を向けていた。
『メカレディたちよ』
玉座より重々しい声が響く。
「「ギーッ!」」
俺に対するときとは違い、片ひざをついた状態で右手を胸のところで水平にするメカレディたち。
頭を垂れて皇帝陛下の威光にひれ伏している。
『予に忠誠を誓うがいい』
「「ギーッ! 私たちは機械帝国のメカレディ。皇帝陛下に永遠の忠誠を誓います」」
見事なハーモニーで答えるメカレディたち。
『うむ。これより機械参謀ゴラームに従い、地上を支配する人間どもを駆逐するのだ。よいな』
「「ギーッ! お任せくださいませ。地上に巣食う虫けらのごとき人間どもを駆逐し、皇帝陛下のご威光を知らしめてご覧に入れます」」
『ゴラームよ』
「ハハッ」
俺は皇帝陛下のお言葉に思わずかしこまる。
『メカレディたちを使った作戦、楽しみにしておるぞ。存分に手腕を発揮して見せよ』
「ハハッ」
そうだ。
これで終わりではない。
これからが俺の作戦のスタートなのだ。
地上の人間たちよ恐怖に打ち震えるがいい。
隣人があくる日には機械になっている恐ろしさをたっぷりと味あわせてやる。
『アルマー、ヘルブール、それにメレールよ』
「「ハハッ」」
皇帝陛下のお言葉に思わず頭を下げる三人。
『ゴラームに従いその作戦の手助けをせよ。ゴラームの命は予の命だと心得るがよい』
うわ・・・
俺は思わず振り向いてしまう。
「な、なんですと? この私にこんな出来損ないの指揮下に入れと言われますのか?」
愕然とした表情で顔を上げているアルマー。
無理もない。
さんざん俺のことを機械の出来損ないとバカにしていた奴だ。
今さら俺の指示に従うつもりもないだろう。
俺としてもアルマーに命令するなど願い下げなんだが・・・
『予の命ぞ、アルマー』
「聞けません! このような出来損ないの指揮下にされるなど機械将の名折れ。そのようなふざけた命など聞けるものか!」
すっくと立ち上がるアルマー。
こいつ、何をする気だ?
「機械帝国の指揮官はこの私だ! こんなでく人形などに頼らずとも地上は支配して見せるわ!」
腰につるされた剣が抜き放たれる。
しまった!
アルマーはメカレディたちを破壊する気か。
俺は歯噛みした。
間に合わない。
「A1! よけろ!」
俺はアルマーに跳びかかりながら叫んでいた。
ガシュッ!!
剣が振り下ろされ、赤いオイルが飛び散る。
俺がカバーに入る間もなくアルマーの剣がA1を襲ったのだ。
だが、飛び散ったのはA1の循環液ではなかった。
「メ、メレール!」
俺は目を疑った。
俺がアルマーに跳びかかるよりも前に、メレールがA1のカバーに入ってくれたのだ。
そしてアルマーの剣はそのメレールの肩口を切り裂いていたのだった。
「メレール様!」
「メレール様!」
A1もA4もただ声を上げるだけ。
上位機種であるアルマーには逆らえないのだ。
「くそっ、離せ出来損ないめ!」
俺はアルマーに二度目の斬撃を行なわせないように必死にしがみつく。
情けない話だ。
機械将であるアルマーは俺とは性能が違う。
だが、同格であることから、俺はアルマーに跳びかかることができたのだ。
絶対離してなるものか!
「ア・・・アルマー・・・皇帝陛下の命令に逆らうつもり?」
肩を抑えながら立ち上がるメレール。
ちくしょう!
茶色い毛皮が赤く染まっているじゃないか。
すぐに修理しないと・・・
「黙れ! ゴラームのような出来損ないに・・・」
こいつめ、まだ俺が人間だったことをそのように・・・
俺は機械帝国の機械参謀だぞ!
『愚か者め』
皇帝陛下の重々しい声が響く。
その言葉にビクッとなり動きが止まるアルマー。
皇帝陛下の恐れ多さは俺自身も動きが止まるぐらいだ。
もうアルマーが剣を振るうことなどできないだろう。
『機械将アルマーよ。無様だぞ。もうよい。ご苦労であった』
「こ、皇帝陛下。そ、それは?」
アルマーがふらふらと玉座に向かう。
俺はただなすすべもなく手を離して見送るだけ。
『機械将の任を解く。スクラップとなるがよい』
「バ、バカなー!」
アルマーが叫ぶと同時に躰の各所から火花が飛び散る。
そして轟音とともにアルマーの躰ははじけ跳んだ。
俺はただ唖然としてその光景を見ているだけだった。
あの尊大で何者も恐れないと豪語したアルマーが・・・
俺はあらためて皇帝陛下の恐ろしさを感じるとともに、その偉大さにひざをついて敬意を表した。
『メレールよ』
「は、はい、皇帝陛下」
メレールもすぐにひざをつき頭を下げる。
肩からはまだ循環液が流れ落ち、回路を遮断したのか右腕は垂れ下がったままだ。
『そなたを後任の機械将に任ずる。すぐに修理を受け、任務に就任せよ。よいな』
「は、はい。ありがたき幸せ」
「めれーるヨ、シュウリスルカラコチラヘコイ」
ヘルブールが立ち上がる。
「う、うん、頼むよ」
二人が謁見の間を出て行くのを俺はホッとした気持ちで見送った。
リラックスルームのソファーに座っているメレール。
右肩はもう修理を終えたらしい。
俺は保管庫からオイルジュースを取り出すと、メレールに向かって放り投げる。
「あ、ありがと」
修理された右腕がなんでもないことを見せるように、メレールは右手でボトルを受け取った。
俺はもう一本オイルジュースを取り出すと、メレールの隣に腰を下ろす。
キャップをひねって一口飲むと、心が落ち着いていくのがわかった。
「もう大丈夫なのか?」
「うん。もう大丈夫。ヘルブールがちゃんと直してくれたから」
にこっと微笑むメレール。
いかんなぁ。
この微笑みは魅力的過ぎる。
「そうか・・・」
俺はもう一口オイルジュースを流し込む。
「心配した?」
「当たり前だ。アルマーの剣の前に飛び出すなんてどうかしている。肩だけですんだからいいようなものの・・・一つ間違えば修理不能なことになっていたかもしれないんだぞ!」
それは本当のこと。
アルマーの斬撃は並みじゃない。
コマンダースーツだって一撃で切り裂くのだ。
「うん、それはわかってる。あたしだってあんなことするなんて考えなかった。でもね・・・」
「でも?」
「A1が斬られるのいやだった。あのまま壊されたくないって思ったの。もしかして・・・これってゴラームの言っていた“好き”の一種なのかな?」
答えを求めるように俺を見つめるメレール。
「だったら・・・そうだったら、あたしもメカレディが好き。一番好きなのはゴラームだけど、メカレディも好きでいい」
なんだ・・・
メレールもメカレディを気に入ってくれたんじゃないか。
だからあんなことを・・・
ふふふふ・・・
俺は思わず笑みが浮かんだ。
シュッと空気が切り裂かれ、またしてもオイルジュースのボトルが切り裂かれる。
「うわっ?」
俺は思わず跳び退った。
「むーっ! あたしが真剣に話しているのに笑ったなー! 赦せーん! ぶっ殺ーーす!」
フーッと毛を逆立てているメレール。
その鉤爪が鈍く光る。
こいつはー。
ジュースぐらいちゃんと飲ませろよ。
俺は切り裂かれたボトルを握ったまま、メレールと対峙する。
やれやれ・・・
俺は苦笑した。
この時間がいつの間にか楽しくなっていることに気が付いたのだ。
確かに俺はアルマーの言うとおり、矛盾だらけの機械もどきだろう。
だが、こうして純粋機械のメレールと戯れることに楽しさを感じる。
おそらくこれが俺の幸せなのだろうな。
ただ・・・オイルジュースはまともには飲めないらしい。
まったくもって、やれやれだ・・・
******
「はっ、こ、ここは?」
手術台の上に大の字で寝せられている黄田彩華(きだ あやか)。
いや、コマンダーイエローといったほうがいいだろう。
コマンダーブレスレットは取り外され、生まれたままの姿で何も身につけてはいない。
「目が覚めたようね、彩華」
「えっ? ひ、弘美先輩?」
彩華のそばに現れたのはメカレディA1。
かつてのコマンダーピンク桃野弘美だ。
ほかにもA2以下三体が笑みを浮かべて彩華を見下ろしている。
「うふふふ・・・それは私のかつての名前。今の私は機械帝国の忠実なしもべ。メカレディA1なの」
「メ、メカレディ? そ、そんな・・・メディカルチェックは・・・」
愕然としている彩華。
救出されコマンダーピンクに復帰したA1が、まさか機械帝国の一員だったとは思わなかったのだろう。
おろかなことだ。
「うふふふ・・・私は機械なのよ。機械に思いのままのデータを表示させるなど簡単なことだわ」
冷たい笑みを浮かべているA1。
無力化したコマンダーイエローの姿が楽しいのだろう。
「そ、そんな・・・弘美先輩が機械帝国の・・・」
「心配はいらないわ。すぐにあなたも機械であることを誇りに思うようになる。ゴラーム様はあなたもメカレディに加えることになさったの。光栄に思いなさい」
「そんな・・・そんなのいやぁっ! 機械になるなんていやよぉっ!」
手術台の上で必死にもがく彩華。
だが両手両脚を固定されている以上、逃れることなどできはしない。
「おとなしくなさい。あなたは幸運よ。ゴラーム様は私たちのデータから、より効率的に思考をメカレディ化することができるようになったの。二日もあればあなたはもう完璧なメカレディに生まれ変わることができるわ」
A1が彩華の頭を優しく撫でる。
そして控えていたメカデクーたちに彩華の機械化を命じた。
「ひいっ!」
すぐに手術台の周囲からアームがせり出し、彩華の躰を機械化していく。
俺はその様子を眺め、メカレディたちにうなずいてやった。
******
「ゴラーム様、連れてまいりました。さあメカレディA5(えーふぁいぶ)、ゴラーム様にご挨拶なさい」
「ギーッ! ゴラーム様、私はメカレディA5。かつては黄田彩華などという不完全な生き物でしたが、ゴラーム様のおかげで機械として生まれ変わることができました。どうぞ何なりとご命令くださいませ」
右手を胸のところに水平にして、服従の声を上げるメカレディA5。
黒いレオタード姿を誇らしげに晒している。
この二日間でコマンダーイエローは完全にメカレディへと変化した。
もはやこいつにとってはピースコマンダーは憎むべき敵である。
彼女の背後にはこの数日で機械化された女たちがほかにも五体立っていた。
いずれもが機械帝国に服従を誓い、機械となったことを喜んでいる。
「A5、おまえはA1とともにコマンダーベースへと戻り、怪しまれないように行動せよ。そして俺の命令があり次第コマンダーベースを破壊するのだ。いいな」
「「ギーッ!」」
A1とA5が敬礼する。
「ほかのものはメレールの指示に従え。メレール、うまくやれよ」
俺は機械将のマントを羽織ったメレールに目をやる。
マントを羽織ったメレールはいつになく美しい。
「むっ、あたしを信用しないのか? 言われなくたってちゃんとやって見せるわよ。メカレディたちと一緒にガーッと出てってババーンと暴れてドカーンと破壊してくるんだからね」
「だから、それじゃダメだと何度も言っているだろーが!」
「大丈夫だって。作戦指揮はあたしに任せなさいって」
胸を張るメレール。
やれやれ・・・
ま、やる気も充分なようだし、お手並み拝見といくとしようか。
俺はこれからメレールと一緒にこのメカレディたちを使い、地上に大混乱を起こしてやる。
待っているがいい人間ども。
END
いかがでしたでしょうか?
二週間の間お付き合いくださり、改めましてお礼申し上げます。
ありがとうございました。
できましたら拍手や感想などをいただけましたらうれしいです。
よろしくお願いいたします。
- 2008/12/28(日) 20:44:47|
- 七日目
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| コメント:13
他の読者さんがたには申し訳ないことながら、舞方さんから、この原型を見せていただいたのが、実は、相当以前であったこと。
また、完成までに舞方さんが、文字通りの七転八倒の末完成されたことを知っているものですから
最終日に、余計な書き込みをさせていただくことにしました。本来なら、ぱっぱと書き上げてしまって、ここに掲載されても、もうそれだけで、コメントも、拍手も充分とられる内容だったことも追記させていただきますね?
それをさらに、ここまで練り上げられるのは本当にお疲れ様でした。
今年もあとわずか、これが最期のアップでないことは、日頃の舞方さんの活動のほどから充分想像できることですが、何より一年のお疲れ様と
そして
改めて、最初から読み返していらっしゃる熱心な読者さんが居られることにお祝いを申し上げます。
・・・ところでメレール可愛いよ、可愛いよメレール(w
- 2008/12/29(月) 00:05:12 |
- URL |
- あえて名乗らないヒト(w #XtDHfxHE
- [ 編集]
皆様コメントありがとうございました。
>>神代☆焔様
楽しんでいただけてよかったです。
数人平行しての思考変化。
なかなか大変でしたが、書いていて楽しかったです。
>>deadbeet様
二週間お付き合いくださりありがとうございました。
メレールは書いていても可愛かったです。
>>いじはち様
オイルジュースで酔うことはないとは思いますが・・・
酔って暴れるゴラームというのも面白かったかも知れないですね。
二つの変化は書き手としても予想外にいい味を出してくれたと思いました。
>>KANZUKAN様
最後までちゃんと飲ませてやりませんでした。(笑)
心理変化を楽しんでいただけたとのことで、うれしく思います。
>>metchy様
イエローとピンクはこれからメカレディとして暗躍してくれるでしょう。
「ぶっ殺ーーす」は確かに愛情表現なのかも。(笑)
>>あえて名乗らないヒト(w様
いろいろとご相談に乗っていただきありがとうございました。
完成にこぎつけることができたのも、ひとえにお力添えによるものです。
ありがとうございました。
>>闇月様
ある意味結末が定まっている中で、どうやったら面白く読んでいただけるかというのは難しいことですよね。
闇月様もいろいろとお悩みとは思いますが、好きなものを好きなように書くのがいいと思いますよ。
>>mas様
メレールが人気を得てくれて本当によかったです。
メレール可愛いですよねー。
>>拍手をくださりました皆様
本当にありがとうございました。
これからもまた楽しんでもらえるSSを書いていきたいと思いますので、応援よろしくお願いいたします。
- 2008/12/29(月) 20:07:30 |
- URL |
- 舞方雅人 #-
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