「七日目」の十二回目です。
六日目後編となります。
それではどうぞ。
それにしても寒いなぁ・・・
12、
「それで、コンピュータを破壊し、脱出したというわけだな?」
戻ってきたメカレディたちが俺の前に整列している。
フェイスカバーをはずして直立不動の姿勢をとる彼女たちの表情には、一様に満足そうな表情が浮かんでいた。
任務を果たしたという達成感があるのだろう。
「はい。データはいずれも確認されたものばかりで不必要なものでしたが、そのままにしておくのも我が帝国の益にならないと判断し破壊しました。無断の行動でしたがいけませんでしたでしょうか?」
そうは言うものの、A1はいけなかったとは思っていないはず。
無論、俺もとがめるつもりはまったくない。
それよりもこいつらの意識が変わってきたことがうれしいのだ。
「いや、いけないことなど何もない。よくやったぞ。ご苦労だった」
「あ・・・」
俺の言葉にうれしそうに笑顔を見せるメカレディたち。
任務を果たし褒められたことがうれしいのだろう。
俺はご褒美の意味もかねて少しだけ快楽を送り込んでやる。
もうこのリモコンも使わなくてもよさそうだな・・・
メカレディたちを解散させた俺は、いつものようにリラックスルームに足を運ぶ。
鼻歌を歌いながらオイルジュースを手にソファーに座る。
いつになく気分がいい。
メカレディたちもほぼ手中に入った。
明日いっぱいあればもう完全だろう。
これでいよいよ俺の作戦を実行に移すことができるな。
まずはコマンダーイエローあたりか・・・
「ご機嫌そうだね、ゴラーム」
おっと、来たな・・・
そろそろ現れるころだと思ったぞ。
オイルジュースに口をつけたからな。
今日もまた残りは飲めないのか?
「ああ、気分いいぞ、メレール」
俺は座るのかと思ってメレールのためにソファーの端による。
「何かあったの? 楽しそうじゃん」
メレールも尻尾をふるふると振りながら俺の隣に腰掛ける。
やれやれ、なんだかこいつも機嫌よさそうだ。
「ああ、A1がようやくメカレディとしての自覚がでてきたようでな。明日いっぱいもあれば完全なメカレディに変貌してくれそうなんだ」
「A1って、コマンダーピンクだった奴だよね」
メレールが俺の横顔を見つめている。
こいつって・・・ホント可愛いよな。
俺は横目で見ながらそう思った。
「ああ、そうだ。A1以外はほぼもう問題ない。そのA1もじょじょに身も心もメカレディになってきつつあるんだ。どうやらうまく行きそうだよ」
「ふーん・・・ねぇ、ゴラーム」
「ん?」
俺はオイルジュースを口に含む。
「A1たちって可愛い? それって人間が言う好きっていうこと?」
「ああ、可愛いし好きだぞ。なんたって・・・」
俺の忠実なしもべたちだからなという言葉は続けられなかった。
シュッという風を切る音とともに、俺の持っていたオイルジュースのボトルは真っ二つになったのだ。
「うそつきーっ!」
へ?
嘘?
何がだ?
だが、メレールはすばやく立ち上がり、鉤爪を構えてフーッとうなっている。
そして怒りに燃えた目で俺をにらんでいるのだ。
「ま、待て待て、何が嘘なんだ?」
俺は切り裂かれたボトルを捨て、両手を前に出してカバーする。
いつもながら冗談じゃない。
こいつの鉤爪は俺の装甲ボディすら簡単に貫くんだぞ。
「うそつきーっ!! むーっ! なによなによ! あたしのこと可愛いって言ったじゃない! 親愛の情だからってキス攻撃したじゃない! それなのにA1がいいのかー? メカレディのほうが可愛いのかー? むーっ! ぶっ殺ーーす!!」
なんなんだー?
違うだろ。
そうじゃないだろ。
「ま、待て待て・・・」
俺は跳びかかってきたメレールから間一髪で跳び退る。
レクレーションルームからは、すぐにメカデクーたちの姿が消えていく。
いや、おまえたちは正しい。
俺だって、こんな猛獣と一緒にいるのは・・・
ザシュッという音とともに切り裂かれるソファー。
「むーっ! 何でこんなに悔しいのよー! コマンダー連中から逃げるのだってこんなに悔しくなかったぞー! ゴラーム! あたしは何でこんなに悔しいのよー!」
鉤爪を振り回しながらもなぜか悲しげなメレール。
なんなんだ?
いったい何があったんだ?
「待て待て。おまえ何を言ってるんだ? 俺が可愛いとか好きだとか言ったのは・・・」
「うきゃー! 聞きたくない、聞きたくないよぉ・・・ゴラームがメカレディを好きだなんてやだぁ・・・やだよぉ・・・ゴラームぅ、ほかの機械を好きになっちゃやだよ・・・好きってなんだかよくわからないけど・・・」
鉤爪を振るのをやめ、ぺたんと床に座り込んでしまうメレール。
その悲しそうな目が俺を見つめてくる。
ふっ・・・
そういうことか・・・
こいつは“嫉妬”に駆られたんだ。
精巧な機械生命体であるメレールは、しっかり“嫉妬”の感情に苛まれたわけか・・・
俺は恐る恐るメレールのそばに行く。
そしてその細く華奢な躰を抱きしめた。
「メレール・・・」
こいつはこんなに華奢だったのか・・・
普段はあんなに暴れ者なのに・・・
可愛いやつめ・・・
俺はそっとメレールにキスをした。
「・・・・・・」
動きが止まるメレール。
「落ち着いたか?」
「う・・・うん・・・」
じっと俺を見つめる目。
カメラアイの焦点が俺の顔に合わされている。
「いいか、よく聞け。俺がメカレディのことを可愛いとか好きだとか言ったのは、俺が自分で作り出したモノだからだ。そいつらがじょじょに俺に懐いてきたとしたら、可愛いし好きにもなるだろう。違うか?」
「わかんない」
あ・・・
うーむ・・・
わからんかなぁ・・・
「たとえばだ。おまえだって自分の命令によく従うメカデクーがいたら、面倒見てやろうって気にならないか?」
「ならない。メカデクーは命令には従うもん」
あ・・・
うーむ・・・
「じゃ、じゃあ、たとえば犬とか猫をおまえが飼ったとしてだなぁ・・・」
「飼わないよ。もう、なによー! 好きだとか何とかわけわからないことばっかり言って! あたしをバカにしているのかー!」
メレールの目がギラッと光る。
いかん、こいつまたぶち切れる。
「違うってば! とにかく、俺が一番好きなのはおまえなの! メカレディたちとは違うんだよ!」
んあ?
俺は今何を言った?
見ろ。
メレールだって目を点に・・・
「ゴラーム・・・今言ったことホント? あたしが一番好きだって・・・それってメカレディたちよりあたしのほうが上だってことなんだよね?」
メレールが俺を見上げている。
「あ、ああ、そうだ。どうやらそうらしい。俺はおまえが一番好きならしい・・・」
くそっ、何で俺がこんなことを・・・
まいったなぁ・・・
「んふふふ・・・そうなんだー。ゴラームはあたしのことが好きなんだー。やったぁ!」
いきなり俺の首筋に抱きついてくるメレール。
「あたしも好き。好きってよくわからないけど、きっとこれが好きってことなんだと思う。だからあたしもゴラームが好き」
メレールの柔らかい唇が俺の口に押し付けられる。
「心臓ポンプがどきどきしてるよ。熱も発生しているよ。ほら、触ってみて」
唇を離すと俺の手を取り、ビキニアーマーの胸の上に当てようとする。
「ま、待て、待てって、それはやばい!」
くそー!
おまえ以上に俺の心臓ポンプがはじけそうだよ。
何でこんなことになったんだ?
やれやれ・・・
でもまあ・・・
これも悪くないか・・・
俺はメレールの胸に手を当てて、再び唇を重ねるのだった。
「それで? 夕べとは違う動きをしていると?」
メレールと別れた俺は、モニタールームに顔を出していた。
女性型メカデクーからメカレディたちがまたしても怪しげな動きをしているという報告が入ったのだ。
おそらく夕べのようにお楽しみかとも思ったのだが、どうも夕べの動きとは違うらしい。
結局俺自身で確かめるべく、こうしてモニタールームに足を運んだというわけだ。
「オオマカナコウドウハサクジツトドウヨウデスガ、イチブチガウウゴキガミラレマス」
女性型メカデクーがモニターを指し示す。
暗視に切り替えられたモニターには、昨日と同じようによりそうメカレディたちの姿が映っていた。
何だ、夕べと同じではないか。
ああ、そうか。
楽しみ方にもいろいろあるのだということをこのメカデクーたちには教えていなかったな。
「心配はいらん。楽しみ方にもいろいろ・・・」
俺は何てことないのを確かめて部屋に戻ろうとした。
待て・・・
あれはいったい?
俺はカメラをズームにした。
『ひゃあぁぁぁ・・・な、何これぇ・・・』
『うふふふ・・・どう? すごいでしょ』
『う、うん・・・来る・・・全身に来るよぉ・・・』
躰を小刻みに震わせているA3。
その首筋には一本のケーブルがつながれている。
そしてそのケーブルは寄り添って寝ているA2へとつながっているのだ。
『うふふふ・・・こうしてパルスでA3を可愛がるなんて想像もしなかったなぁ。昨日とはまったく違うよね』
『う、うん、全然違うよぉ。こっちのほうがずっといいよぉ』
口を薄く開け、快楽に酔いしれているA3。
見ると、隣のベッドではA1がA4にケーブルをつないでいた。
『ああ・・・こ、怖いわ』
『心配しないで。ちょっとパルスのやり取りをするだけよ。すごく気持ちいいの。人間のときのセックスなんか比べ物にならないわ』
『ん・・・はぁっ? う、うそぉ・・・』
パルスが流れ込んできたのか、A4が躰を震わせる。
なるほど。
俺が快楽中枢を刺激する手段を自分たちでも見つけたということか。
やれやれ・・・
ますますリモコンは不必要になったということか。
まあ、それでも、パルスで快楽を得るなんてのは、機械の躰に順応したということだろう。
『あハァ・・・ん・・・いい・・・いいよぉ・・・』
『でしょ? A4も私にパルスを送ってみてよ。気持ちいいよぉ』
『こ、こう?』
『ひゃぁん! し、刺激が強すぎる! もっと弱めてぇ! イッ、イッちゃうぅぅぅぅ』
いきなりの最大級の快楽にあっという間に登りつめるA1。
『うひゃぁ・・・わ、私もぉ・・・』
『私もイくぅ・・・』
A4もA3も快楽に飲み込まれていく。
やれやれ・・・
ほどほどにしておけよ。
『はふう・・・すごいよぉ・・・気持ちいい・・・』
『本当ね。パルスが躰中を駆け巡って・・・もう最高の気分』
『機械の躰って最高だわぁ。あんな不完全な肉の塊でいたなんてバカみたい』
『A1の言う通りね。あんな血と肉の塊だったなんてぞっとするわ』
絶頂の余韻に浸りながら、メカレディたちは口々につぶやいている。
俺はその言葉にほくそ笑んでいた。
不測の事態に備えるという名目で、俺は結局メカレディたちのお楽しみが終わるまでモニタールームに待機していた。
もちろんモニター内で行なわれていることについては目を向けてはいたものの、さほど興味を引くものではない。
彼女たちが機械の躰であることを喜びと感じること。
生身の生命体だったものに機械化された躰による永遠の存在に近づける喜びを教えてやること。
皇帝陛下のお考えとは若干違うかもしれないが、これこそが俺の理想であり誇りでもある。
だからこそ人間を機械にするなどということを行なっているのだ。
さて、いよいよ明日で最後だな。
- 2008/12/26(金) 20:48:25|
- 七日目
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| コメント:6
>>metchy様
メレールは書いていても可愛くてたまりませんでした。(笑)
あと二日。
最後までお付き合いくださいませ。
>>神代☆焔様
悪堕ち好きとしては堕とした末に裏切られてはたまりませんので、裏切りはなしです。
神代☆焔様は結構そういうお話も好きなのかな?
>>いじはち様
一気にお読みくださるとはお疲れ様でした。
ゾクゾクするといっていただけるのは最高です。
ありがとうございます。
最後まで楽しみいただければ幸いです。
>>闇月様
メレール可愛いですよね。
私もゴラームがうらやましいです。(笑)
>>mas様
メカデクーも用途によって能力を変えてあったりするのでしょう。
オペレータータイプは認識能力が高いのかもしれませんね。
ブルーについては・・・
どうでしょうか。
- 2008/12/27(土) 19:11:36 |
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- 舞方雅人 #-
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