「七日目」の七回目です。
今回は四日目前編です。
それではどうぞ。
7、
四日目。
そろそろメカレディたちに居場所を与えてやる必要があるだろう。
どこでもないこの機械帝国こそが自分たちの居場所であるという感覚をだ。
そのためには少々リスクの高い作戦も必要か・・・
もう見慣れた光景になりつつある整列して敬礼するメカレディたち。
俺はいつもと同じように彼女たちの前に出る。
「今日で四日目だ。まだまだお前たちは人間の世界に戻りたいようだな。お前たちがこれほどまでに人間であることに執着するとは思いもしなかったぞ。このままでは俺の負けになるかも知れんな」
表情を変えずに立ち尽くすメカレディたちだが、俺の言葉に一瞬ほころんだような表情を見せる。
人間世界に戻れるという希望がまだ根強いことを俺は感じ取った。
「さて、今日も任務に励んでもらおう。なに、今日の任務は昨日のような殺人ではない。安心していいぞ」
俺の言葉にさらに表情が緩むメカレディたち。
機械帝国の幹部の言うことを素直に信じているという事実をわかっているのだろうか。
「今日の任務もA1、お前が指揮を取れ」
「ギーッ!」
躊躇無く服従の音声を発するA1。
いいぞ、だいぶ素直になったじゃないか。
「任務は簡単だ。都内のどこでもかまわんから幼稚園を襲撃しろ。幼稚園バスでもかまわんぞ。むしろそちらのほうが定番かな」
「幼稚園を?」
互いに顔を見合わせるメカレディたち。
俺の意図がはかりかねるようだ。
「心配するな。さっきも行ったとおり今回は殺人は行なわない。むしろその逆だ」
「逆?」
不思議そうな顔をするA1。
「そうだ。お前たちは幼稚園を襲撃し、そこの園児を適当にさらうのだ。そして都内を適当につれまわせ」
「さらってつれまわす? 意味がわからないわ。目的は何なんですか?」
おいおい、敵に作戦の意図を確認するつもりか?
俺は思わず笑みが浮かぶ。
無意識的に俺の意図に沿った作戦行動をしようとしているのに気がついていないのだ。
「意図は宣伝だ。ここだけの話だがこれまでアルマーらが行った作戦が失敗の連続だったため、機械帝国恐れるに足らずと言う認識が人間どもの間に広がっている。特にピースコマンダーたちの行動によってこちらの作戦が何度と無く阻まれたことで、ピースコマンダーたちへの人間どもの信頼は最高レベルにまで上がっているといっていい」
俺の言葉にうつむくA1。
その様子を他のメカレディがチラッと目を向ける。
「そこであらためてわれわれ機械帝国の恐ろしさを人間どもに焼き付けてやるのだ。われわれはいつでも無防備な子供をさらうことができるのだぞと知らしめ、その上で警察や防衛隊ひいてはピースコマンダー連中をも翻弄して奴らの無力を見せ付ける。これほどの宣伝がほかにあるかな?」
「意図はわかったわ。本当に子供たちをさらって連れ歩くだけでいいのね?」
俺はA1にうなずいてやる。
「ただし、俺が命じるまでは絶対に子供を解放してはならん。それまではどんな妨害も実力で排除しろ」
「実力で?」
「そうだ。もしその妨害によって子供たちに何らかのダメージが出たとしてもそれは問題にするな。妨害をする奴らの責任であって妨害さえなければ起こりえないことだからだ」
「それは子供が死んでも・・・と言うことですか?」
A4が心配そうに尋ねてくる。
自らに子供はいなくても、彼女は子供が好きなのだろう。
こんなことが無ければ夫の子供を生みたかったに違いあるまい。
もっとも、そんな思いはいずれ消え去ると思うがな。
「そういうことだ。それがいやなら妨害をさせるな。相手を圧倒してお前たちの力を示せ。妨害が無意味であることを思い知らせるんだ」
「ギーッ、わかりました」
A4はうなずいた。
「それと最初に言っておく。今回はお前たちが自分で行動しろ。こちらからの躰の支配は一切行なわない」
「えっ?」
一様に驚いた表情を浮かべるメカレディたち。
「驚くことはあるまい。その躰にももう慣れただろう。遠隔操作より自分で自由に動かしたほうが子供たちに対する危険も少ないと思わないか?」
「それはそうだけど・・・いいの? 私たちは地底城を出た瞬間に脱走するかもしれないわよ」
俺はA1に笑みを浮かべて見せる。
「ふふふ・・・そのときはお前たちの躰を再び支配下に置き、壊れるまで暴れまわらせるさ。少なくとも大勢の人間が死ぬことになるだろう」
「そんな・・・」
「脱走はしません。しませんからそんなことはやめて」
「私もしない」
「私もしません」
口々に脱走しないことを約束するメカレディたち。
ふふふふふ・・・
これでいい。
「では始めろ。行け!」
「「ギーッ!」」
メカレディたちはいっせいに跳び出していった。
彼女たちが出て行ったあとで、俺は小型のスパイメカを発進させる。
カメラとマイクを積んだだけの小型メカだが、敵の動向を探ったりするにはちょうどいい。
トンボ型やアゲハチョウ型など大型昆虫に偽装してあるので、そうそう見破られもしないのだ。
さて、メカレディたちはうまくやっているかな?
俺は作戦司令室に足を運んだ。
どうやらA1は都内の一軒の幼稚園をターゲットに選んだらしい。
幼稚園バスを襲撃してもらいたいものだったが、まあ仕方ないだろう。
いつものようにフェイスカバーをつけ、黒いレオタードに身を包んだ彼女たちはなかなか魅力的である。
俺はスパイメカを二機ほどそばに貼り付け、他のスパイメカは周囲の様子を探らせる。
A3が入り口を確保して、他の三人が幼稚園に侵入する。
たちまち悲鳴が湧き起こる園内。
もっとも、子供たちは何かのアトラクション的なイメージがあるのか、時々小さな笑いも聞こえる。
『静かにしなさい。私たちは機械帝国。おとなしくしていれば危害は加えないわ』
『黙って言う通りにしてよね』
『あなた方も死にたくは無いでしょ?』
園児たちを黙らせ、保母たちを一角に押し込めるA1たち。
その手際は打ち合わせていたのかなかなかいい。
『A3、玄関はもういいわ。こちらに来て』
『了解』
『いいわね。打ち合わせどおり子供を二人ずつ抱えて連れて行くわ』
A1の指示に他の二人がうなずいている。
ほう・・・車か何かに乗せて連れて行くかと思ったが。
『両手がふさがっていれば、警察もピースコマンダーたちも私たちが攻撃できないと思うに違いないわ。こちらからの攻撃が無ければ向こうからの攻撃もきっと無いはずよ』
なるほど一理ある。
だが、手がふさがっているからこそ一気に取り押さえようとしてくる可能性は捨て切れんぞ。
『あなたとあなた、いらっしゃい』
『私はこの娘とこの娘を連れて行くね』
『それじゃ私はこの娘かしら』
次々と園児たちを抱きかかえるA2たち。
『あなた方、その娘たちをいったいどうするつもり!』
青ざめた顔をしながらも、必死に子供たちを守ろうとする一人の保母。
『静かにしてなさい。おとなしくしていれば危害は加えないわ。ただ機械帝国の恐ろしさを知らしめるだけよ』
おいおいA1よ、いいセリフじゃないか。
『そうそう、あとでちゃんと返してあげるから。おとなしく待ってなさい』
A2が二人の幼女を抱え上げて行く。
すぐに残りの三人も園児たちを抱きかかえて幼稚園をあとにした。
サイレンが鳴り響く。
赤色回転灯が瞬いている。
都内各所は蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。
四体の機械帝国の女たちが幼稚園児を誘拐したというのだ。
騒ぎになるのも当然だろう。
四人は両手に子供たちを抱えて悠々と通りを歩いている。
俺の宣伝と言う名目を律儀に守っているのだ。
『私たちには手を出すな! 私たちは機械帝国の恐ろしさを知らしめたいだけだ。この子たちには危害は加えない。私たちには手を出すな!』
『お願いだから私たちに手を出さないで! この子たちはあとでちゃんと返します。だから私たちには手を出さないでください!』
A1とA4が必死に叫びながら通りを練り歩く。
A2とA3も油断無くあたりを見渡しながら歩いている。
おそらくこれでは警察は手が出せまい。
事実彼女たちの行進をパトカーが先導し、さらに後ろをたくさんの警察車両とマスコミの車両がついて歩いている始末だ。
報道各局のヘリコプターが空を埋め尽くし、テレビもラジオも臨時ニュースであふれかえっている。
さて、そろそろかな・・・
- 2008/12/21(日) 20:49:27|
- 七日目
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徐々にゴラームの思い通りになってきていますね。
強引に服従させるのではなく、少しずつ染めていく方が裏切る可能性がなさそうですから。
今回の任務の意味は気になります。いろいろ妄想しながら明日を楽しみにします。
- 2008/12/21(日) 21:31:50 |
- URL |
- metchy #zuCundjc
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『そろそろかな…』って何を企んでいるんですかゴラームさん!?
このままでは終わらない予感。
何らかのどんでん返しがあるような気がしてなりません。
- 2008/12/21(日) 21:36:28 |
- URL |
- 闇月 #04hOWrHY
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>>神代☆焔様
一人を突出させてもかえってよくないとの判断なんでしょうね。
私の考えではなくゴラームの考えですよー。(笑)
>>metchy様
思考を機械帝国寄りに変えてしまえば、人間であったことが逆にいやな過去になるのでしょうね。
彼女たちがどうなるのかお楽しみに。
>>闇月様
ゴラームはいろいろとたくらんでますよー。(笑)
どんでん返しは・・・どうだったでしょう?
>>mas様
ギクギクッ!
お楽しみに~。(笑)
- 2008/12/22(月) 20:32:54 |
- URL |
- 舞方雅人 #-
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