「七日目」の六回目です。
三日目を全部載せますのでちょっと長いです。
それではどうぞ。
6、
三日目。
さて、そろそろ彼女たちにも自発的行動を取ってもらわなくてはならないな。
だが、そう簡単に彼女たちが自発的行動を取るとも思えない。
そこで俺はあることに思い至る。
達成感だ。
これはおそらく高度な精神活動を行う者だけが持ちうるものだ。
低級機械は命令を実行しそれが終了したとしても達成感などは感じない。
当然のことだ。
メカデクーたちが任務を遂行し終わったとしてそこに満足感や達成感があろうはずはない。
だが、俺たちは違う。
機械将アルマーにしてもメレールにしても皇帝陛下のために何かを行い、それを成し遂げたときには達成感を感じるもの。
それによって新たな命令に従おうとする気持ちもわいてくる。
俺はメカレディたちに単に褒美としての快楽だけではなく、この達成感を感じさせてやることにした。
「「ギーッ!」」
いつものように俺の前に直立不動で立ち、胸の前で右腕を水平にするメカレディたち。
どうやらこれに対してはそれほど嫌悪感は抱かなくなってきたかな。
「今日で三日目だ。俺は正直にお前たちに謝らなくてはならない」
俺の言葉に一瞬戸惑いの表情を見せるメカレディたち。
それはそうだろう。
まさか俺が謝るなどとは思っていないだろうしな。
「俺は正直言ってお前たちが簡単に服従すると思っていた。だがお前たちはいまだに人間でいたいと思い俺に服従しようとはしない。これほどお前たちが抵抗するとは思いもしなかった。このままではお前たちを解放しなくてはならないのかもしれないな」
メカレディたちの表情が緩む。
やはりなんだかんだ言っても解放されたいのだ。
まあ、そうはさせないがな。
「だが、まだ今日を入れて五日間ある。その間は俺に従ってもらうぞ。いいな」
「「ギーッ!」」
解放されるかもしれないという思いが多少は励みになっているのか、服従音声も心なし元気そうだ。
「さて、今日はパズルを解いてもらおう」
俺は一枚の見取り図を取り出した。
「なに、ちょっとした王を追い詰める知的ゲームだ。これはある総合病院の見取り図だ。ここの八階にはVIPルームがあってな。現在そこにある人物が入院している」
俺はテーブルの上に見取り図を広げる。
大都中央病院の見取り図だ。
現在ここの八階にはあの杜畔耕造(もりぐろ こうぞう)代議士が入院している。
常に財界との癒着を噂され、あまつさえ暴力団ともつながりがあると雑誌にすっぱ抜かれたことでマスコミの矢面に立たされそうになったのだが、体調不良を理由に緊急入院し、その後なぜか雑誌社のほうから記事はフリーライターの捏造であり迷惑をかけたと謝罪がなされる始末。
まあ、何が行われたかは容易に想像がつくことだ。
「これは・・・大都中央病院だわ」
俺はA3が小さくつぶやくのを聞く。
「ほう、知っているのか」
俺はA3に視線を向けた。
「・・・はい」
A3が小さくうなずく。
「私の友人が入院してまして・・・何度かお見舞いに行きました」
「そうか。まあそれなら話は早い。その通り、ここは大都中央病院だ。お前たちにはこれから作戦行動時間三時間以内に八階のVIPルームに陣取る王を除去する作戦を立ててもらう。時間は今から二時間やろう」
「二時間で作戦を私たちが立てろと?」
A4が驚いた顔で俺のほうを見る。
無理もない。
作戦などと言う言葉すら無縁に生きてきた主婦だ。
立てられるはずが無いのだ。
それはA2A3と手同じだろう。
だが、A1は違う。
コマンダーピンクとして活動してきた彼女ならば、このぐらいの作戦を立てることはできるはず。
そうでなくては意味が無い。
「そのとおりだ。お前たちが作戦を立てるんだ」
「む、無理よ」
「無理です、そんなこと」
A2とA3が顔を見合わせる中、一人A1だけが見取り図に見入っている。
ふふふ・・・いいことだ。
「言っておくが病院ごと爆破するとかのような作戦はだめだぞ。あくまで隠密裏が前提だ。排除するのは王とその護衛ぐらいまでにしろ」
「一つ聞かせて」
「なんだ?」
俺は顔を上げたA1に眼をやった。
「ここにいるのは誰? それにこの作戦は実際に行われるの?」
ほう、やはり気になるか。
「ここに入院しているのは杜畔代議士だ。スキャンダルのほとぼりを冷ましているのさ。当然病気じゃないから女性看護師相手に好き勝手なことでもしているだろうよ」
「あの腹黒が?」
「杜畔代議士ってあの暴力団ともつながりがあるって言う・・・」
A3もA4もその名にいい顔はしない。
税金を流用して遊興費に当てているという噂まである男だ。
腹黒代議士などといわれるのも無理はない。
「作戦が実行されるかどうかはお前たちの立てる作戦次第だな。いい作戦なら採用させてもらおう」
「そんなのごめんこうむるわ。作戦など立てるはず無いじゃない」
「どうしてだ」
俺はこちらをにらみつけるA1にそう訊いた。
「バカにしないで。いくら相手が悪徳代議士でも殺すことなんてできるはずが無いわ。そんな作戦を私たちがはいそうですかと立てるとでも思うの?」
こぶしを握り締めて今にも殴りかかってきそうな勢いだ。
当たり前の話だな。
「そうか・・・それでは仕方が無い。お前たちに病院で暴れまわってもらうことにしよう」
「な? そんな」
「どうも俺には才能が無いらしくてな。代議士だけを排除する作戦が思い浮かばなかった。だからやむを得ん。少々リスクは高いがお前たちに病院ごと破壊してもらおう」
「そんなことできるわけが・・・」
「いやぁっ! そんなことしたくない!」
「いやです! やりたくありません!」
口々に叫ぶメカレディたち。
思ったとおりの反応に俺は思わず笑みが浮かぶ。
昨日の殺戮を思い出したのだろう。
「まあ、二時間後にまた来るよ。そのとき作戦ができてなかったり、くだらない作戦ならお前たちに暴れてもらうことにする」
俺はそう言って部屋を出た。
『どうするの? 私たちはいったいどうしたらいいの?』
部屋を出た俺はまっすぐにモニタールームに行ってメカレディたちの行動をモニターする。
思ったとおり葛藤しながら議論をしているようだ。
モニターには苦悩の表情を浮かべるメカレディたちの姿が映し出されていた。
『このままじゃ私たちはまた躰を操られて病院を破壊しちゃうわ。私たちならそれは簡単なことだもの』
『でもそんなのはいや! いやよぉ!』
両手で自分の躰を抱きしめるA4と頭を抱え込むA3。
いずれもが絶望感を感じている様子が伝わってくる。
『排除・・・しようよ・・・』
ポツリとつぶやくA2。
やはり一番最初に折れるのはこの娘か?
『A2、あなたなんてことを? 人を殺して平気なの?』
A1がA2をにらみつける。
コマンダーピンクとしては許されざる行為だろうからな。
『平気じゃないけど・・・平気じゃないけど、仕方ないじゃない! 私だっていやよ! でも、でも排除しなかったら私たちは病院にいる人たち全部を殺しちゃうんだよ! そんなの・・・そんなの耐えられないよ・・・』
A2がうなだれる。
うんうん、可愛い奴だ。
『排除しましょう、A1』
『A4、あなたまでなんてことを・・・』
『お願いA1、あの男を排除する作戦を作って。そうじゃないと私・・・入院している友人を殺しちゃうかもしれない・・・』
『A3・・・』
『A1、お願い。あなたなら作れるでしょ? コマンダーピンクだったあなたなら。それにあんな男は死んでも誰も文句は言わないわ。むしろ喜ばれるぐらいよ』
何かを決意したかのようにA4がA1を見据えている。
『死ぬのは少ないほうがいいわ。A1、あなたは私たちに大量殺戮をしろと言うの?』
『A4・・・みんな・・・』
A2もA3もA1を見つめている。
ふふふふ・・・
さてどうするかな、A1よ?
一度目を閉じるA1。
やがてゆっくりと目を開け、はっきりとうなずいた。
『わかったわ。やりましょう』
『ああ・・・』
『A1・・・』
『ありがとうA1。感謝します』
三人がホッとしたような表情を浮かべる。
『仕方ないわ。死ぬのは少ないほうがいい。それに警察も手を出せないあの男を排除するのは正しい行為だとも思うわ』
『その通りよA1』
『やりましょう』
口々に男を排除することを自らが認めていく。
ふふふふ・・・
大量殺人をしない代わりに、お前たちは自ら人間を殺すことを選んだのだぞ。
二時間後。
俺の前には彼女たちが練り上げた作戦案が提出された。
人の出入りの少ない夜間を作戦行動の時間とし、メカレディの能力を使ってエレベーターシャフトや排気ダクトを使用して八階に潜入。
護衛を排除して王を確保すると言うものだ。
俺の考えとほぼ一致した上に、予想以上にできがよく、俺は満足だった。
そして・・・
勝手な行動をできないようにした上で実際にメカレディたちに作戦を行わせた結果、彼女たちは見事なまでに作戦を遂行し、杜畔代議士の暗殺に成功したのだ。
そのほかの人間には指一本触れずにだ。
もっとも殺人を犯すことにはやはり抵抗を感じるらしく、杜畔代議士を前に動きの止まってしまったメカレディたちの躰を操作して死に至らしめてやったのだがな。
無論罪悪感を一人に背負わせないためにも、メカレディの全員が杜畔に一撃を食らわせるというやり方をとってやった。
杜畔代議士の死を人間どもが知ったのは翌朝のことだった。
「ご苦労だった。よくやったぞ」
任務を終えて引き上げてきたメカレディたちを、俺はいつものように出迎える。
「作戦は成功だ。杜畔代議士は死に、お前たちは任務を達成した。見事だった」
俺はことさらに強調して褒めてやる。
もちろん多少快楽を与えてやることも忘れない。
「ギーッ! お褒めの言葉、ありがとうございます・・・」
フェイスカバーをはずしたA1がメンバーを代表して礼を言う。
だが、その表情は苦悩に満ちていた。
ふふふ・・・
やはり人間を殺すのは耐えられないか?
だが慣れてもらわねば困る。
まどろっこしいやり方だが、自意識を持った機械人間となってもらわねばな。
「嘆くことはない。お前たちはたった一人を殺しただけだ。それも人間のくずをだ。違うか?」
俺はA1の肩に手を置く。
そして快楽のパルスを多少強めてやった。
「あ・・・」
顔を上げるA1。
「任務達成は気持ちいいだろう? それもお前たち自信が立てた作戦で、しかも死んだのはくずが一人だけ。最高じゃないか?」
「そ、それは・・・そうですけど・・・」
戸惑いの表情が浮かぶA1。
ふふふ・・・
任務の達成感が湧いてきたようだな。
「お前はよくやった。見事に任務を達成した。そうだろうみんな?」
俺はA1を抱きかかえるようにして振り向かせ、他のメカレディたちと向かい合わせる。
「はい。A1のおかげで私は入院している友人を殺さなくてすみました」
「A1の作戦はすばらしかったわ。私たちはターゲットを排除するだけで事足りたんですもの」
「A1のおかげだよね。ありがとうA1」
口々にA1に礼を言うメカレディたち。
おそらく大量殺戮をしなくてすんだ安堵感があるのだろう。
病院を丸ごと殺しまくるなど人間にとってはぞっとしないだろうからな。
「ありがとうみんな・・・そう言ってもらえると、少しは気が楽になるわ」
なんとなくうれしそうなA1。
誰だって褒められるのはいい気分なものだ。
俺によって快楽を与えられているため、普通以上にうれしい気持ちが強いだろう。
「気にすることはないわA1。仕方なかったのよ。私たちは命令に従ったまで」
「そうだよ。命令でくずを排除しただけ。そういうことだよね」
「そう。私たちのせいじゃないわ。A1、あなたも気にする必要ないのよ」
違うな。
気にしたくないのは自分たちなのだ。
人間を殺してしまった罪悪感から逃れたいのだ。
それでいい。
命令で殺せるようになればいいのだ。
「ありがとう。確かに今回は仕方なかったんだと思う。そうだよね」
A1の言葉に他のメカレディたちがうなずく。
心なしかA1の表情も明るくなったようだ。
いい顔をしている。
「これで邪魔者は消え去った。あのような男は我が機械帝国にとっても邪魔なだけ。それをお前たちは見事に排除した。よくやった。今日はゆっくり休むがいい」
「「ギーッ! ありがとうございます」」
声をそろえて敬礼するメカレディたち。
俺は彼女たちを残し、部屋をあとにした。
「来てたのか」
リラックスルームにやってきた俺の目に、ソファーに寝そべっている美しい機械の雌豹が映る。
「むーっ! 来てたのかとはご挨拶ね。せっかく顔を見に来てあげたのにー」
一瞬にして彼女の表情が険しくなる。
やれやれ・・・
今日もまたオイルジュースは飲めないのか?
俺は置きなおされたジュースの保管庫から一本取り出すと、メレールにもいるかと身振りで訊いてみる。
だが彼女は首を振った。
「いらないのか。それにしてもお前も暇なのか? アルマー将軍は謹慎中だがやることとか無いのか? 俺の顔なんか見に来たってつまらないだろうに・・・」
俺はオイルジュースのキャップを開けて口にする。
だが、次の瞬間、俺のジュースはまたしても半分になっていた。
「むーっ! なによなによ! 暇なんかじゃないわよ! それをあたしがわざわざこうやってあんたの顔を見に来ているってのに、暇なのかですってーっ! ぶっ殺ーーす!」
ジュースに濡れた鉤爪がきらりと光り、メレールの怒りの篭った目が俺を見据えている。
何でだ?
俺が何か悪いこと言ったか?
「ま、待て待てって。だから何で俺の顔なんか見に来るんだよ。俺はメカレディを仕上げるのに忙しいんだし、お前だって忙しいなら来なくてもいいよ。俺の顔なんか見たってつまらないだろ? こうやってすぐに怒るし・・・」
ダンと俺の脇にあったジュースの保管庫が鉤爪で串刺しになる。
ぼたぼたとジュースが流れて床を汚していく。
「何よーー! あたしが来ちゃだめなわけ? つまらない顔ってつまらないけどつまらなくないよ! 見に来ちゃだめなのかーー!!」
何なんだー?
「別にだめとは言ってないだろ。見に来たかったら勝手にしろよ。こんな顔でよければ見せてやるよ」
パアッと顔が明るくなるメレール。
何だぁ?
「見に来ていいの? やったぁ」
いきなり俺に抱きつくようにほお擦りしてくるメレール。
「おいおい、何なんだよいったい」
「知らないよぉ。知らないけどなんかうれしいんだもん。いいじゃん」
「いや・・・まあ、いいけど・・・わっ」
俺はまるで押し倒されるかのように、ジュースに濡れた床にメレールと倒れこんだ。
やれやれだ・・・
- 2008/12/20(土) 20:44:32|
- 七日目
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