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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

七日目(2)

「七日目」の二回目です。
それではどうぞ。


2、
「いいな、メレール。あくまで確保が目的だ。調子に乗って暴れて殺しまくるんじゃないぞ」
俺はスクリーンを前にしてヘッドセットのマイクに言う。
『むーっ! わかっているって言ってるでしょ。それほどあたしが信用できないの?』
ああ、そうだ。
お前は人間の血を見るのが大好きだからな。
プログラムがそうさせているのだろうが、指揮官としては少々心もとないのも事実。
もっとも、殺戮しまくるメレールの姿は美しいのだがな。
「信用しているさ。美しき女猫メレール」
『ふふん・・・元が人間にしちゃ、わかっているじゃない』
可愛い奴だ。
「あと30秒でそこを通る。頼んだぞ」
『任せなさい』
俺はメレールの自信に満ちた声に満足し、スクリーンに注目する。
そこには乗客を乗せたバスが映し出されている。
平日の午後遅く。
学校帰りの学生やショッピングの行き帰りの人々、そして何より、休日を楽しむピースコマンダーの一人コマンダーピンクの桃野弘美(ももの ひろみ)が乗っている。
彼女こそ今回のターゲット。
ここ数日に渡って情報収集してきたかいがあるというもの。

「今だ!」
俺の命令にメレールの手が振り下ろされる。
メカデクーの一体がバスの車輪を銃撃する。
タイヤを射抜かれ急激に車体を振る路線バス。
運転手は必死にハンドルを握り、急ブレーキをかけて車体を何とか制御しようとする。
だが、歩道に乗り上げ電柱に衝突したところでバスは停止した。
「行け!」
『わかってるってば』
メレールのいちいちうるさいと言わんばかりのすねたような返事。
やれやれ・・・後は任せるしかないな。
メレールとメカデクーたちが一斉に止まったバスに走り寄る。
割れた窓ガラスから催眠ガス弾を投げ込み、車内の乗客の動きを封じるのだ。
桃野弘美がコマンダーピンクに変身するかもしれないが、そのときは乗客を人質に取ればいい。
五人がそろったピースコマンダーは無敵の力を発揮するが、一人ならばその力は極端に低下する。
五人そろったところをまとめて・・・などと考えるアルマーにはわからないのだろうな。
『ゲホッ、ゴホッ、くっ、機械帝国の連中ね』
口元を押さえながらバスから出てくる桃野弘美。
ピンク色のジャケットがよく似合っている。
『うふふふ・・・コマンダーピンク、一緒に来てもらうよ』
堂々と正面に立ちはだかるメレール。
茶色の毛皮がふかふかと気持ちよさそうだ。
・・・・・・
・・・・・・
何を考えているんだ、俺は?

『ゲホッ、メレール! あんたの仕業ね!』
ファイティングポーズをとろうとするものの、弘美の足元はおぼつかない。
どうやらガスの効き目が出ているようだ。
これならばさほど苦労することもあるまい。
『うふふふ・・・さっさとおネンネしちゃえ!』
跳びかかるメレール。
コマンダーピンクに変身することもできずに弘美は追い詰められていく。
二撃三撃とメレールの鉤爪を受け、ついに弘美は地面に倒れ付した。

動きを止めるメレール。
俺はホッとした。
もしかしたらこのままメレールは弘美を殺してしまうのではと思ったのだ。
『憎きコマンダーピンク! このまま殺しても飽き足りないけど、ゴラームがつれて来いって言うから生かして連れて行くわ。お前たち! 他は見繕ったの?』
『ギーッ!』
路線バスの車内から女子高生や若いOLと思われる女性などを連れ出すメカデクーたち。
上々だ。
「よくやったぞ、メレール。あとは桃野弘美を連れて地底城に戻るんだ」
俺はスクリーンに向かってそう言った。
だが、メレールは動かない。
尻尾がぴくぴくと小刻みに震えている。
ヤバい・・・
こいつはかなり機嫌が悪くなっている。
『つまらない・・・』
小さくつぶやくメレールの声。
『つまらない』
その声が少し大きくなる。
うわぁ・・・
暴れ足りないのか。
確かに弘美はコマンダーピンクになることもなく気を失ってしまったし、バスの乗客を傷つけることもできなかったのだ。
まさにお預けを食ったというところだろう。
『つまんないよゴラーム! つまんないつまんない!!』
ああ・・・やれやれ・・・
仕方ないな。
わがままお嬢様は世話が焼ける。
「わかったメレール。目的は達した。バスの残りの乗客やそこらで様子をうかがっている奴らを殺しまくって来い」
メレールの尻尾がぴんと立つ。
『いいの? 暴れてもいいの?』
「ああ。だが他のコマンダーどもが来る前に引き上げるんだぞ。いいな!」
『わかってるわ! やったー!』
嬉々として鉤爪を振るい始めるメレール。
俺はメカデクーたちにメレールのサポート要員以外は引き上げるよう指示を送る。
まあ、第一段階は成功だ。
残りの乗客ををぐちゃぐちゃにしてやれば、誰かが行方不明になったこともわかりづらいだろうしな。
スクリーンの向こうではメレールの楽しそうな笑い声と血しぶきが飛びかっていた。
やれやれ・・・
あの分では綺麗な毛並みが血まみれだな。

牢に入れられている女たち。
その数四人。
一人は女子高校生。
セーラー服を身にまとい、学校の帰りだったらしい。
一人はOL。
仕事で取引先に使いに行って帰る途中だったという。
一人は主婦。
結婚したばかりで新婚の旦那のために買い物を済ませて帰る途中だった。
そして一人はコマンダーピンク。
久しぶりの休日をウィンドショッピングで過ごした帰りだ。
おびえて牢の片隅で身を寄せ合っているほかの女たちとは違い、彼女だけはしっかりと俺をにらみつけてくる。
まさにメレールに勝るとも劣らない野獣のような目。
俺のカメラアイにもまったくひるまずに正面から見据えてくる。
「私たちをどうするつもりです! 答えなさいゴラーム!」
「威勢のいいことだ。だが準備が整うまでもう少し静かにしていろ」
俺は手にしたスタンロッドを突きつける。
まだこの女は野獣と同じ。
飼いならすには時間が必要だ。
それと手間もかけてやらねばな。

「ギーッ! ジュンビガトトノイマシタ」
メカデクーがやってきて、胸のところで手を水平にして敬礼する。
俺はうなずくと、桃野弘美をスタンロッドで指し示す。
「よし、まずはこの女からだ。機械化を始めろ」
「ギーッ!」
「き、機械化ってどういうこと? いったい何を考えているの?」
弘美の顔が青ざめる。
何、心配は要らない。
お前の躰を機械化するだけのことだ。
メカデクーたちが弘美を無理やり牢から連れ出すのを、俺は黙って眺めていた。

「いやぁっ! やめてぇっ! たすけてぇっ!」
機械化手術台に載せられる桃野弘美。
着ている物はすべて脱がされ、両手両脚を固定されて動けなくされている。
コマンダーピンクへの変身システムであるブレスレットは取り外され、ヘルブールに渡してある。
今頃は解析に勤しんでいることだろう。
「あの女をどうするつもりなのさ? ゴラーム」
すっかり満足したメレールが鉤爪を舐めながら俺の隣にやってくる。
シャワーを浴びてきたのか、綺麗に毛づくろいされた毛皮からはいい香りがする。
ここは制御室。
機械化手術台を見下ろす位置にある。
「簡単なことだ。俺同様機械化して、機械帝国の一員にする」
「え~っ? あの女を機械帝国に加えるって言うの? 面白くないよ、それ」
むっとしているメレール。
まあ当然か。
今までさんざん苦杯を飲まされてきたのだからな。
だが、これこそが俺の作戦なのだ。
身近な人間がいつの間にか機械化され機械帝国の一員となっている。
これは人間どもにとっては恐怖以外の何者でもあるまい。
人間同士の相互不信はやがて内部分裂を引き起こし・・・
われわれ機械帝国の支配がかなりたやすくなるはずなのだ。
「面白い面白くないではない。これこそが俺の作戦なんだ」
「ふうーん・・・でもちょっとでもおかしなことしたらすぐに殺すからね」
それはどっちのことだ?
機械化された弘美のことか?
それとも・・・俺か?
「まあ・・・ゴラームみたいに役に立つなら・・・仕方ないけどさ・・・」
なぜそこでゴニョゴニョと語尾が怪しくなる?
「キカイカジュンビカンリョウデス」
目の前のいくつものランプがグリーンに灯る。
俺はスイッチをオンにした。

桃野弘美の躰に麻酔が打ち込まれる。
一瞬にしてぐったりとなる弘美。
それを見計らったように次々とアームがせり出してくる。
レーザーメスが若い肉体を切り開き、ドリルが穴を開けて行く。
骨や内臓が取り出され、機械化臓器や強化骨格が入れられる。
眼球がカメラアイになり、鼻はガスセンサー、舌も味覚センサーに置き換わる。
機械化筋肉が埋め込まれ、制御装置が組み込まれる。
五時間ほどで桃野弘美の肉体は、完全に機械と置き換えられていた。

「終わったの?」
退屈になって制御室をあとにしていたメレールが戻ってきた。
俺は最終チェックを終えて出来上がりに満足していたところだった。
「ああ、終わった」
俺はつい人間だったときのくせで額の汗をぬぐってしまう。
おかしなものだ。
俺は汗などかかないし、機械の躰は完璧だというのに。
「あら? あれで機械になったの?」
制御室から手術台を見下ろしたメレールが首をかしげる。
おいおい・・・
お前だってカメラアイで見れば内部透視ぐらいできるだろう。
「ああ、脳以外は完全に機械に置き換わった。もはやあの女は機械帝国の一員、メカレディだ」
まったくまどろっこしいことをするものだ。
そっくりのロボットを作ったほうが簡単だろう。
だが、人間を機械化することに意味がある。
俺はそう思うのだ。
  1. 2008/12/16(火) 20:55:57|
  2. 七日目
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:4
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コメント

2日目にして一番弱い? ピンクが堕ちましたね。
ほかに捕まえてきた3人も同様に機械化して、残りのコマンダーたちを陥れていくのか。早くも続きが楽しみです。
  1. 2008/12/16(火) 21:06:29 |
  2. URL |
  3. metchy #zuCundjc
  4. [ 編集]

知り合いがそのまま違うものになるからこその恐怖と混乱が確かに存在するんですけど……一般的な発想の人々の中での、限定恐怖ですよね。

舞方様のファンが敵だったら……いけないいけない。阿呆な妄想が込み上がるトコでした(笑)
  1. 2008/12/16(火) 21:28:04 |
  2. URL |
  3. 神代☆焔 #-
  4. [ 編集]

いつも楽しく(?)拝見させて頂いてます
機械化して放流するのでしょうか?先が楽しみです

会話の内容にほのぼの感があるのって素敵ですね
メレールかわいいよメレール
  1. 2008/12/16(火) 23:14:54 |
  2. URL |
  3. 774 #3/VKSDZ2
  4. [ 編集]

>>metchy様
今回はコマンダーピンク以外はほとんど出てこないのです。
じっくりねっとりのストーリーとなっております。

>>神代☆焔様
ぐはぁっ!!
確かにおっしゃるとおりですね。
限定恐怖ではありますが、そこはいつ身近な人が・・・という疑心暗鬼に捕らわれるということで。

>>774様
コメントありがとうございます。
すごくうれしいです。
機械化即放流というわけには行かないのですよー。
そこをじっくり書いていっておりますです。

メレールを可愛いと思っていただけるとはうれしいですねぇ。
ありがとうございます。
  1. 2008/12/17(水) 19:37:45 |
  2. URL |
  3. 舞方雅人 #-
  4. [ 編集]

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(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
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