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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

こんなはずじゃ・・・(2)

昨日の続きです。
それではどうぞ。


「・・・・・・」
私は閉口した。
戦車ってこんなに乗り心地の悪いものなの?
エンジン音はうるさいし、がたがたと常に振動しているし・・・
お尻が痛くなっちゃうよ。
それにさっきから頭は前後左右に振られっぱなし。
ヘルメットが重たいから首が安定しないってのもあるかもしれないけど、このヘルメットがなかったらどうなっていたことか。
がつんがつんと頭をぶつけっぱなしだったのだ。

それでも30分も乗っていると、ようやく躰も慣れてくる。
振動にあわせて躰を揺らすことで、頭をぶつけることも少なくなってきた。
「ふふっ、慣れてきたようじゃん」
ハッチから身を乗り出して外ばかり見ていると思っていたのに、ミューラー少尉はいつの間にか私のことを気にかけていてくれたらしい。
「は、はい、おかげさまで」
私はなんだか気恥ずかしくなってしまう。
それにしても大声を出さないと聞こえないんだなぁ。
戦車兵って見た目ほど楽じゃないのね。

「ハンス、止めろ!」
ミューラー少尉の声に急停止する私たちの戦車。
「きゃあっ!」
思わず私は前につんのめる。
「騒ぐな。静かに」
「な、何が?」
私もすぐに異常を感じ取った。
車内が緊張している。
いったい何があったの?
外見えないからわかんないよ。

「まずいな。イワンの偵察隊だ。T-34が二両もいやがる」
「十字路に陣取ってますね。迂回しますか?」
T-34?
二両?
それって敵がいるってこと?
私は思わずハッチを開けて外を見ようとした。
「動くなバカ!」
頭の上から文句言われた。
だって、外見えないから・・・
どうなっているのか気になったのよ。

ポサッとひざの上に何か置かれる。
ヘッドフォン?
「それを耳に当てて」
通信手席のヨハンさんが耳に当てるような仕草をする。
私はよくわからなかったけど、とりあえずヘッドフォンを耳につけた。
「これはマイクだから喉に当てて」
もう一つ差し出されたのは喉当て型のマイク。
なるほど。
車内で通話するときはこういうものを使うわけか。

「迂回しようにも周囲は林だ。こいつが走れる地形じゃない」
「じゃ、どうします?」
「突破するしかないか・・・」
ミューラー少尉の苦悩する声が伝わってくる。
突破って・・・どうするのかしら・・・

「ヘレーナ」
「は、はい?」
いきなり名前を呼ばれた私はびっくりした。
突然で、しかもファーストネームなんだもん。
「すまん。これからヘレーナで呼ばせてもらう。そこののぞき窓からのぞいてみろ。見えるか?」
「は、はい」
のぞき窓?
これかしら・・・
私は目の前にあるレンズのようなものに目を当てる。
うわ・・・
外が見えるわ。
なんだ。
それならさっきもこれを覗けばよかったんだ。

「見えます」
意外と明るい感じ。
月が出ているせいかな・・・
道路の先になんか小山が二つ。
左側に棒が出てる。
何かしらね、あれ。

「よし、見えるんだな?」
「はい、見えます」
私はうなずいた。
「ようし。行くぞ」
するっと言う感じでミューラー少尉が中に滑り込んでくる。
そして先ほどまでの場所からずれ、私の反対側に身をおいた。
「いいか、ヘレーナ。よく聞くんだ」
「はい」
なんだろう。
暗いからよくわからないけど、ミューラー少尉はすごく真剣そう。
「そこに縦になっているハンドルがあるだろう?」
「えっ?」
私は一瞬面食らった。
でも、すぐに彼が言っているのが私の前にあるハンドルのことだと気が付いた。
私の前にはハンドルが二つある。
一つは縦型。
もう一つは床に水平っぽく横型についているのだ。
「それは俯仰角だ。砲身を上下にする」
「砲身を上下・・・」
「もう一つの横型のハンドルは左右だ。砲塔を左右に回す」
「砲塔を左右・・・」
「足元を見ろ」
「暗いですよぉ」
「足元に二つのペダルがある。砲塔の回転装置だ。右を踏めば急速回転、左を踏めばゆっくり回転する」
私はつま先で足元を探る。
確かにペダルが二つある。
「右を踏めば急速・・・左を踏めばゆっくり」
「そうだ。そして椅子の下にレバーがある」
「はい」
私はレバーの位置を確かめた。
「左右の切り替えレバーだ。手前に引くと右旋回。後ろに倒すと左旋回」
「手前、右旋回・・・後ろ、左旋回・・・」
「最後。縦型の俯仰角ハンドルの奥にボタンがある」
私は同じくボタンを確認する。
「はい、あります」
「発射ボタンだ。俺が撃てといったらそれを押せ」
「撃てといったら押す・・・ええっ?」
私は思わず大声を出してしまった。
じょ、冗談でしょ?

「いいな、ヘレーナ。今からお前は砲手だ。しっかりやれ」
「無、無、無、無理です! できません!」
「黙れ! やるんだ! 死にたいのか?」
「そ、そんなぁ・・・」
ミューラー少尉の迫力に、私は何も言えなくなる。
どうしよう・・・

「ハンス、エンジン音を絞ってぎりぎりまで近づけろ。奴らが横向けているうちに撃破する」
「了解」
再びゴロゴロと履帯の音が響き、私たちの戦車は前進する。
「照準器を覗いてろ」
「は、はい」
私はしがみつくようにして右目を照準器に当て続ける。
さっきまで二つの小山のようなものだった影が、どんどんどんどん近づいてくる。
あ、あれが戦車だったんだわ。
よく考えればそんなことはすぐにわかりそうなものだったのに、私はちっとも気が付いてなかったんだわ。
突然ゴトンという音が響く。
何がなんだかわからない。
いったい今のは何?
「徹甲弾装填完了。いいか、撃てといったらボタンを押すんだぞ」
「はい!」
私はあわてて発射ボタンを押していた。

突然車内に轟音が響く。
「きゃあー!」
私は思わず悲鳴を上げた。
「バカ! まだ早い!」
轟音とヘッドフォンからのミューラー少尉の声が錯綜し、耳が痛くなる。
大砲が発射されたんだと気が付いたのはその後のこと。
しかも、まだミューラー少尉は撃てと命じたわけじゃなかった。
撃てといったら押すんだと言われただけ。
でも私は思わずボタンを押してしまったのだ。
「ご、ごめんなさい」
「ちぃっ! イワンに気付かれた!」
ガコンという音とともに砲弾の殻が排出される。
ミューラー少尉はそこから砲身の中を覗きこんだ。
「外れた。畜生! 奴らこっちに来る」
「うあぁ・・・ごめんなさい」
「黙ってろ。舌噛むぞ! ハンス、構わんから突っ込め!」
「り、了解」
「この距離なら当てた者勝ちだ! ヘレーナ、横型のハンドルを4回左に回せ!」
砲身を覗きながらミューラー少尉が怒鳴る。
えっ?
もしかして砲身を覗いて照準してる?
「急げ!」
「は、はい」
私は急いで手前のハンドルを右に四回回していく。
「よし、そのまま来いよ! 照準器覗いてろ! もし敵戦車が見えなくなったら教えるんだ」
「は、はい」
再び照準器を覗く私。
敵戦車の姿がどんどん近づいてくる。
うわぁ・・・

ゴトンと言う音がして、ミューラー少尉が砲弾を装填する。
「まだ見えるか?」
「見えてます」
「ようし、撃て!」
今度こそ。
私は発射ボタンを押す。
「きゃー!」
またしても轟音が車内に響き、私は悲鳴を上げていた。
「きゃあきゃあ喚くな!」
「は、はい」
私はグッと歯を食いしばる。
「やりましたよ、少尉! 一台撃破。動きが止まりました」
「もう一発撃ちこんでやる。撃てっ」
ミューラー少尉が装填し、私が発射ボタンを押す。
三度目の轟音には、もう悲鳴を上げなくてもすんだ。

「ふう・・・逃げてくれたか・・・よかった」
車長席に戻り、ハッチから身を乗り出して周囲を確認するミューラー少尉。
「少尉、狙撃兵に気をつけてください」
「わかってる」
ヨハンさんの言葉に私はハッとした。
そうか・・・
身を乗り出すということは危険と隣りあわせなんだ。
「T-34一台炎上。一台逃走。助かったな・・・」
よかった・・・
私もホッとした。
「ヘレーナ。よくやったぞ。すまなかったな」
ハッチを閉めて車長席に戻るミューラー少尉。
「あ、いえ。こちらこそ」
私はなんだかもう何もいえなかった。

翌朝。
私たちは味方の前線にたどりついていた。
暖かいコーヒーを受け取り、みんなと一緒に飲むのはまた格別だった。
お母さん・・・
私生き残ったよ。
この灰色の四角い戦車のみんなと何とか生き残ったよ。
そう心の中で報告する。
これから反撃が始まるのだそう。
冬の間はソ連軍に痛い目に遭わされたけど、今度はこっちが痛い目を見せてやるって。
私はこれから空軍補助部隊を探して、元の部隊に戻ることになるんだろうけど、ミューラー少尉の第三装甲師団は第四十装甲軍団に編入され、第六軍に入るらしい。
何のことだかわからないけど、「青作戦」というのが始まって、ウクライナを目指すとのこと。
でも、彼らならきっとうまく生き延びてくれそうね。

「おーい、ヘレーナ」
ミューラー少尉の声だわ。
「はーい、なんですか?」
私はカップを置いて立ち上がる。
「これ。被服係に行ってもらってきた。一番小柄のもらってきたから合うと思う。戦車の中で着替えろよ」
手渡されたのは黒い布。
違う。
黒い戦車兵の服だわ。
「えっ? こ、これは?」
「員数合わせなら心配するな。それに、女だと言うことは内緒にしとけ」
ミューラー少尉がウインクする。
「えっ、ええっ?」
「正式に俺の戦車の砲手として登録しておいた。後は通信手待ちだが、これもおっつけ補充されるだろう」
「と、登録って? え、えええっ?」
私は開いた口がふさがらない。
「よろしく頼むぜ。幸運の女神様」
「よろしくな」
「よろしく。女神さん」
黒服を手に唖然としている私に対し、三人は次々とウインクをして去っていく。
「き、聞いてないわよ。ど、どうしよう・・・」
私はただただ立ち尽くすだけだった。

END


以上です。
戦闘シーンは難しいですね。
あっけなく終わらせてしまいすみません。

それと、三号戦車(F改修型)の砲塔操作方法については、いくつも資料を当たったのですがよくわからず、小林源文先生のマンガに出てきたティーガーⅠの砲塔操作方法を参考にさせていただきました。

それではまた。
  1. 2008/12/13(土) 20:16:13|
  2. ミリタリー系SS
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:4
<<忠臣蔵と火消し装束 | ホーム | こんなはずじゃ・・・>>

コメント

え?
あれ?
黒の騎士団は?

この女性も生き延びる内に、戦士になって行くんでしょうね。
  1. 2008/12/13(土) 21:09:16 |
  2. URL |
  3. 神代☆焔 #-
  4. [ 編集]

ハルマ隊

戦車のメカニズムがわかって面白かったです。
やっぱりミリオタはすごいです。
  1. 2008/12/13(土) 22:53:22 |
  2. URL |
  3. いじはち #x/qu6DV6
  4. [ 編集]

はじめまして

はじめまして
このブログはもう1年くらい前からお世話に
なってるんですけどコメントするのは初めてです
舞方さんの創作物はいつも素晴らしくて感動してます



半月もすればヘレーナは
「ふふ・・・人間を殺すのって気持ちいいわぁ・・・」
みたいな感じになるんですよね?w
  1. 2008/12/14(日) 13:27:30 |
  2. URL |
  3. グリコ #ARTLrXYY
  4. [ 編集]

>>神代☆焔様
黒の騎士団とは、もしかしてバウアー中尉率いる部隊のことですかー?
いずれ出会うこともあるかもしれませんですね。
ヘレーナの物語も続きを書いていきたいものです。

>>いじはち様
ありがとうございます。
ミリオタの力をお見せしますよー。(笑)

>>グリコ様
はじめまして。
コメントありがとうございます。
とてもうれしいです。
これからもよろしくお願いいたします。

>半月もすれば・・・
そう来ましたか~。
まさにヘレーナの悪堕ちですね。
思わず納得してしまいました。
  1. 2008/12/14(日) 20:47:04 |
  2. URL |
  3. 舞方雅人 #-
  4. [ 編集]

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Author:舞方雅人
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北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
どうぞ楽しんでいって下さいませ。

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