いよいよあと数日で140万ヒットに到達しそうです。
今年中の到達はほぼ間違いなさそう。
それで前祝いというわけでもないのですが、先日の神代☆焔様の戦史ネタSSが見たいというコメント(12月9日記事のコメント欄)に対して、私が返したレスのネタで一本書いちゃいました。
それを今日明日の二日間で投下しようと思います。
まずお断りしておきますが、これはあくまでもファンタジーです。
こんなことあるわけないと思われるかもしれませんが、そのとおりです。
実際にはあるわけありません。
ですので、ファンタジーとしてお読みいただければと思います。
それではどうぞ。
「ハア・・・ハア・・・ハア・・・」
息が切れる。
足がもつれる。
も、もうだめ・・・
もう走れない・・・
でも・・・
でも・・・
死にたくないよぅ・・・
「ハア・・・ハア・・・」
私は一本の樹にもたれかかる。
もうだめ・・・
もう走れない・・・
思わずへたり込んでしまう私。
よく見ると足はもうぼろぼろ。
靴は泥だらけだしストッキングも穴が開いている。
服だってあちこちに破れたところがある。
最悪だわ・・・
そう思ってから私は首を振った。
違う・・・
最悪なんかじゃない。
最悪だったのは捕まった人たち。
ソ連軍に捕まったら生きてはいられない。
陵辱されて殺されるだけ。
わかっていた。
わかっていたはずなのに・・・
そんなことが起こるなんて考えもしなかったんだわ。
“ドイツ処女団”の団員だった私は、志願して空軍婦人通信補助員としてこのソ連の大地にやってきた。
私たち選ばれたドイツ国民は、偉大なる総統閣下の指導の下、生存圏を東方に伸ばして帝国千年の礎を作るんだって聞かされてこんなところまでやってきたのだ。
でも・・・
こんなところに本当に帝国の未来があるというの?
ここにあるのは血なまぐさい生と死だけ。
わかっていたはずなのに・・・
わかってなかったんだわ。
とにかくこうしてはいられない。
ソ連軍の大規模な反撃で前線は崩壊。
私たち空軍補助部隊のいる後方だったはずの場所もソ連軍が襲ってきた。
みんなと一緒に逃げ出した私だったけど、いつしか散り散りになってしまい、今ではこんな森の中に私一人。
とにかく味方のいるところに行かないと。
ソ連軍に見つかったら殺されちゃう。
私は疲労と恐怖で震える足を何とか奮い立たせ、味方の姿を求めて歩き出す。
もうすぐ日が暮れる。
夜の森は恐ろしい。
幸い、あと少しでこの森は切れるはず。
森を抜ければ味方の姿も見えるかも。
とにかく西へ向かって歩かなきゃ・・・
「ハア・・・ハア・・・」
ようやく森の切れ目が見えてきたわ。
道路に出れば味方の車両に出会えるかも。
私はそう思いながら足を速めた。
すでに悲鳴を上げている足を引きずるようにして、私は森を抜け出した。
「止まれ! 何者だ?」
森を抜け出したところで私はいきなり脇のほうから声をかけられた。
一瞬ビクッと身をすくめたが、相手の言葉がドイツ語だったことにホッとする。
「う、撃たないで! 私はドイツ人です」
言ってから私は後悔した。
もしかしたら、ソ連兵がドイツ語で話しかけたかもしれないのだ。
私は背筋に冷たいものが走るのを感じながら、両手を挙げて振り向いた。
振り向いた私の目に入ったのは、灰色に塗られた四角い戦車だった。
長い砲身がまるでにらみつけるように伸びており、車体には機関銃が付いている。
そしてその脇にいたのは黒い服を着た戦車兵。
拳銃を持って私に向けている。
私はそのことが気にはなったものの、急速に力が抜けていくのを感じていた。
味方だわ。
味方の戦車だわ。
助かった。
「ド、ドイツ人? 君のような女の子がどうして?」
黒服の戦車兵が驚きの表情を浮かべながらも拳銃をしまう。
どうやら信じてくれたらしい。
「わ、私は空軍補助部隊のヘレーナ・ゲルトマイヤーといいます。ソ連軍の攻撃で仲間とばらばらになってしまって・・・手を下ろしてもいいですか?」
私は彼に自己紹介する。
私のことを女の子だなんて言ってたけど、彼だって充分に若い。
せいぜい24、5歳ってところだわ。
制帽からはみ出た茶色の髪が結構素敵。
「あ、ああ、いいよ。俺はディーター・ミューラー。第三装甲師団の先遣隊としてこの近くまで来たんだが、待ち伏せにあってしまってな・・・」
思わず目を伏せるミューラーさん。
きっと彼もソ連軍につらい目に遭わされたんだわ。
「う・・・うあぁ・・・」
「おい、カール! しっかりしろ! カール!」
突然戦車の脇のほうで声がする。
気が付かなかったけど、そちらには横たわった人とかがんだ人がいたのだ。
「おい、カール! すぐに野戦病院へ連れて行ってやる。死ぬな!」
ミューラーさんもすぐにそっちへ駆け出して行く。
私も思わず駆け寄った。
「ひっ!」
私は息を飲んだ。
地面に横たわった人は右腕をもぎ取られていたのだ。
血の気のない青白い顔をして苦悶の表情を浮かべている。
「カール! カール!」
「だめです少尉・・・死にました・・・」
脇で片ひざをついていた人が首を振る。
見ると彼自身も片腕を怪我している。
私は思わず目をそむけてしまった。
「くそっ! イワンめ!」
ミューラーさんが地面を蹴る。
部下が亡くなったことが悔しいのだろう。
ソ連軍は悪魔だ。
奴らは人間じゃない。
「対戦車銃にやられたんだ。無線手のエリッヒも・・・」
二人も?
それじゃ・・・この戦車は?
「少尉、燃料補給終わりました。ありゃ? そちらの人は?」
戦車の後ろ側にいたのか、もう一人の戦車兵が顔を出す。
「ご苦労さん。この人はゲルトマイヤーさんだ。空軍の補助部隊の人で味方とはぐれちまったらしい。俺たちと同じさ」
えっ?
今なんと?
俺たちと同じ?
えっ?
彼らも迷子なの?
「そうでしたか。とにかくこれで燃料は満タンです。充分味方のところまで戻れますよ。まだ同じところにいてくれればですがね」
「そうだな。いったん戻って出直しだ。まだあちこちに味方が孤立しているはずだし、カールとエリッヒの仇も取ってやる」
ミューラー少尉がこぶしを握り締めている。
「カール・・・だめでしたか」
「ああ・・・こいつの装甲が弱すぎる。砲塔側面ハッチを狙われたらどうにもならん」
そうなの?
こんなにがっしりとした戦車なのに。
充分強そうなのに。
「なんせ旧式の三号F改修型ですからね」
「主砲も短砲身だからな。だが、新型のJ長砲身でもT-34には威力不足だ」
ミューラー少尉が首を振る。
T-34というのはソ連軍の戦車のことだろう。
あの斜めの装甲の戦車のことだろうか。
「そういえば紹介が遅れたな。こいつはハンス・ブレーマー伍長。操縦手だ」
「よろしく」
ハンスさんが頭を下げる。
ちょっと小柄でいろいろと器用そうな人だ。
「あっちがヨハン・エステンベック軍曹。装填手だ」
「よろしく。お嬢さん」
先ほどの右手を吊っている人が、右手を上げようとして苦笑した。
「はじめまして。ヘレーナ・ゲルトマイヤーです。よろしくお願いします」
私はあらためて三人に頭を下げた。
「とりあえずカールを埋葬したら飯にしよう。腹が減ってたら気分も滅入る」
そう言ってミューラー少尉はスコップを取り出す。
私も手伝おうとしたが道具がないと断られたので、仕方なく近くからいくつか花を摘んできた。
さすがにソ連でも五月になれば花もあちこち咲いている。
私は真新しい墓に花を供え、そっと彼らの冥福を祈った。
「どうします? 味方の前線まで10キロって所だと思いますが、夜のうちに動きますか?」
ハンスさんがミューラー少尉に話しかける横で、私はパンにかぶりついていた。
軍用パンにバター代わりの缶詰の肉を塗っただけの食事だけど、私にはすごく美味しく感じられた。
なんだかあらためて生きていることを感じさせてくれる。
すでに日はとっぷりと暮れ、周囲には漆黒の闇が広がっていた。
「そうだな。難しいところだがそのほうがよさそうだ。夜陰にまぎれて脱出しよう。もっとも、このあたりは敵味方の部隊が入り混じっているから、味方の対戦車砲にやられかねないが・・・」
「その可能性よりも、昼間動けば敵戦車に捕捉される可能性のほうが高そうですぜ」
ヨハンさんが不自由そうに左手でパンを食べている。
「ああ、そう思う。食事を終えたら出発しよう」
どうやら決まったらしい。
歩かなくてすむのは助かるわぁ。
「えっ? ここって大砲の真横なんですけど」
戦車の中に乗るように言われて私は驚いた。
さらにその席が大砲の真横なのだ。
「そうだよ。そこは砲手席だ。カールがいなくなったからそこに座っててくれ。ヨハンはその手じゃ無理だろうから通信手席に着け」
「了解」
ハンスさんが操縦手席に着き、その横にヨハンさんが座る。
「え、ええ?」
私は砲塔の中で大砲の真横に座り、大砲の真後ろにミューラー少尉が座るのだ。
「わ、私、外でもいいんですけど・・・」
戦車の中ってすごく狭い。
足のところやお腹の辺りにハンドルやらなんやらがいっぱいある。
「これをかぶってろ」
ミューラー少尉が差し出したのはヘルメット。
「頭ぶつけたら怪我するからな」
「は、はあ・・・ですから私外でも・・・」
「いいから座って、それをかぶってろ」
「は、はい」
私は何も言えずにヘルメットをかぶる。
うう・・・
重い。
これってこんなに重いの?
つらいよー。
- 2008/12/12(金) 20:38:51|
- ミリタリー系SS
-
| トラックバック:0
-
| コメント:3
そうでした(笑)
今でこそ合成樹脂ですが、当時のヘルメットは、所謂鉄カブトでしたね(笑)
僕の作成法は、キャラが動き出せば早いのですが、それまでは、練り込みの繰り返しですから、異様に遅くなります。
なんか、羨ましいですね。舞方様のキャラは、最初から動いているようですから。
- 2008/12/12(金) 20:54:20 |
- URL |
- 神代☆焔 #-
- [ 編集]
>>神代☆焔様
そうなんですよねー。
戦争後半には鉄材節約のために戦車兵へのヘルメットの支給は取りやめられちゃうんですよねー。
キャラに関してはそうでもないんですよ。
脳内で動いてくれるまでにはそこそこ時間かかります。
>>いじはち様
ミリタリーファンタジーっていい響きですね。
腕が伴っていないような気はしますが、いかがでしたでしょうか?
- 2008/12/13(土) 19:31:14 |
- URL |
- 舞方雅人 #-
- [ 編集]