今日は本の紹介を一つ。
タイトルは「陸海軍戦史に見る 負ける組織と日本人」 藤井非三四著 集英社新書

この本は、組織というものの弊害を、戦前の日本陸海軍の実例にあてはめ、その原因は何であったのか、また日本人としての資質がどう絡んでいるのかということにスポットを当てたものとなっております。
結構なるほどと思わせられる部分が多く、読んでいて楽しくすらすらと読めました。
特になるほどーと思ったのは、軍隊の軍事行動と季節感、特に農業との関連においてのものでした。
軍事行動と季節が密接な関係を持つことは、古今東西の戦史を見れば明らかであり、戦闘に都合がよい昼間の時間が長い夏至の日近辺に大作戦が行われるのはほとんど当たり前になっておりますし、作戦期間が長引くことで冬を迎えてしまうと身動きが取れなくなり、また損耗も激しくなるためなるべく冬を迎える前に戦闘を終わらせようとするものです。
そればかりではなく、さらに一歩踏み込む必要をこの本では説いておりました。
戦闘及び占領地域の農業カレンダーを念頭において戦わなくてはならないということなのです。
一例としてあげられていたのが九月に始まった満州事変でした。
この満州事変を九月に行なったことが、のちのち大きく日本軍に圧しかかったというのです。
九月は農村の収穫期です。
日本軍に追われた張学良軍の兵士たちは、農村に逃げ込めばかくまってもらえました。
収穫された食料があるので、かくまっても食べていけるからです。
これが春先に行なわれるとどうでしょう?
農村は次の収穫まで余裕がなく、張学良軍の兵士が逃げ込んできてもかくまう余裕がなかっただろうと思われるのです。
そうなると逃げる場所は都市内になるため、摘発もしやすく逆に治安維持部隊の兵として吸収もできたはずだと言うのです。
ほかにもいくつかの事例が出ておりましたが、これにはなるほどと思わされました。
作戦を行なうにあたっては、農業との絡みも充分に考えなくてはならないんですね。
ところが日本軍は平時の予算年度に縛られ、農業に関係なく四月から物事を考えることが多いのだそうです。
目からうろこな思いでした。
ほかにも軍事と経済の関連や、情報のこと、特に情報は日本は情報戦に負けたという一般概念に待ったをかけ、情報の取得そのものに関してはかなり優秀だったこと、特に中国やソ連に対しての情報収集能力は長けていたということが記されておりました。
なんと驚いたことに、中国国内の地図製作の一部を日本は中国政府や一部軍閥などから依頼され作成していたのだそうです。
地図を作るということは国の内情を裸にするのと同じことですので、日本軍は中国に関してはかなりの情報を持っていたということなんですね。
問題はその取得した情報の取捨選択や利用、防諜に関しての力がなかったことが悪かったとしています。
全体的に面白い本でした。
個人的におやと思う部分がなきにしもではありましたが、それはほんのちょっとでしたし、なるほどと納得できることが多かったです。
それではまた。
- 2008/12/09(火) 20:32:29|
- 本&マンガなど
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やはりぃ、舞方様の戦記物が見たいですぅ──まだ残ってます(笑)
- 2008/12/09(火) 22:53:09 |
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- 神代☆焔 #-
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>>神代☆焔様
どっちかというとファンタジックな戦記モノは書いてみたいですね。
独軍の婦人通信補助員として戦場に来ていた少女が、ソ連軍の反撃で味方と離れ離れになり一人さまよっているところを、これも迷子になった三号戦車に拾われる。
戦死で手が足りなくなっていた三号戦車は、少女に無理やり砲手をやってもらい窮地を脱出。
以後黒の戦車兵の服に身を包んで、その三号クルーの一員に・・・
なんてのもいいかもしれないですね。(笑)
- 2008/12/10(水) 19:40:00 |
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- 舞方雅人 #-
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