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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

冬戦争(5)

カレリア地峡部での攻撃も、中央部での攻撃も頓挫したソ連軍は色を失いました。
スターリンは、なぜわが軍は負けているのかと将軍たちを怒鳴りまくり、粛清によって優秀な指揮官を殺してしまったことをあらためて思い知りました。
そこでスターリンは、いったん攻撃の手を緩め、再攻勢に向けて戦力の立て直しを図ります。
総司令官にはティモシェンコ将軍を任命し、今までの総司令官メレツコフをはじめ何人もの将官が降格されたり解任されました。
ティモシェンコはスターリンの命に従い、フィンランド軍を撃破するために兵力の増強を開始します。
また装備も見直され、訓練も行なうことで歩兵と戦車の共同攻撃を可能にしたり、マンネルハイムライン突破用に完成したばかりのKV-Ⅱ型重戦車の投入も決定されました。

こうして約一ヶ月かけてティモシェンコはマンネルハイムライン突破のための準備を整えます。
スターリンにとって、じりじりと待ち焦がれるような一ヶ月でした。

ポーランドと同様にあっという間に決着がつくと思われていたフィンランドとソ連の戦争は、開始からほぼ二月が経過しようとしておりました。
ポーランドの救援に失敗した英仏は、フィンランドに対しても同情は寄せましたが、救援には消極的でした。
救援しようにも、そのころには終わっていると思われていたのです。
ところがフィンランドは粘っておりました。
このことで英国の態度がにわかに変わってきたのです。

英国はフィンランド救援の名目で北欧に兵力を派遣し、スウェーデンの鉄鉱石など北欧の資源地帯の確保をもくろみ始めました。
そうなるとドイツも黙ってはおりません。
北欧で新たな戦端が開かれる可能性が出てきたのです。
そうなると大国間の全面戦争になることが確実であり、そのことを危惧したスターリンは、一刻も早くこの戦争を終わらせなくてはなりませんでした。
スターリンは一日も早いマンネルハイムラインへの攻撃を切望していたのです。

1940年2月1日の空爆から始まったソ連軍のマンネルハイムラインへの攻撃は、その後の五日間にもわたる攻勢準備砲撃と威力偵察でフィンランド軍の防御体制を確認し、2月11日に本格的な攻撃が始まりました。
カレリア地峡部に集結したソ連軍は約60万。
大砲は約4000門。
戦闘用装甲車両は約2000両という膨大な兵力で、しかもティモシェンコは消耗をいといませんでした。
ソ連軍の兵力が尽きる前に、フィンランド軍のほうがずっと早く兵力が尽きるであろうことを見越しての消耗戦の選択だったのです。

ソ連軍が消耗戦に出てきたことで、フィンランド軍は苦境に陥りました。
予備兵力のほとんどないフィンランド軍は、失った兵力を補充することができないのです。
一方ソ連軍は、損害を受けた師団を後退させ、常に無傷の師団を投入し続けることで、兵力の優位さを発揮することができました。
また戦車と歩兵も共同し、フィンランド軍に付け入る隙を与えません。
マンネルハイムラインが突破されるのは時間の問題となりました。

ことここにいたり、フィンランド軍司令官マンネルハイムはついにマンネルハイムラインの放棄を決断します。
マンネルハイムラインで戦っているフィンランド軍は、すでに兵力が半分から三分の一にまで減っていました。
高校生が銃を取り、コックも事務員も戦いました。
しかし、兵力はもはや尽きていたのです。

フィンランド軍はついにマンネルハイムラインを放棄、2月27日にはヴィープリ市前面の最終防衛戦まで後退を余儀なくされてしまいます。
政府はマンネルハイムに状況を確認し意見を求めました。
マンネルハイムはまだ戦えるうちに和平を結ぶべきだと言ったといいます。

3月8日、フィンランドとソ連の間で停戦交渉が始まりました。
ソ連側の出した条件は、戦前よりもさらに厳しいものでしたが、フィンランドという国自体がなくなるものではなく、フィンランドとしては受け入れるしかありませんでした。

1940年3月13日午前11時。
停戦が成立し、すべての戦闘が停止しました。
「冬戦争」は終わったのです。

「冬戦争」によって、フィンランドは国土の約一割近くがソ連に奪われる形になりました。
第二の都市であったヴィープリもソ連領となり、ヴィープリは今でもヴィボルグとしてロシア領となっています。
約42万人が住みなれた土地を追われ、フィンランドの別の土地へ移ることになりました。
約2万5千人もが戦死したこの戦争で、戦争をするよりも失った国土が大きかったことにフィンランド人は衝撃を受けました。
フィンランド人は領土回復の機会を狙って、以後ナチスドイツと接近することになります。
そして1941年6月の、ドイツのソ連侵攻に歩調を合わせ、フィンランドとソ連は再び戦争状態に入ることになりました。
いわゆる「継続戦争」の始まりでした。

一方、戦争目的を達成したソ連ではありましたが、損害は大きなものでした。
この「冬戦争」での死者数に関しては、ソ連崩壊後に明らかになったそうで、それによると約8万5千人が戦死または戦病死したというものでした。
また負傷者にいたっては約25万人といわれ、小国相手の戦争としては未曾有の大損害を出したといっていいでしょう。

ソ連はこの戦争での自軍の問題点を洗い出し、教訓として改善に取り組みました。
そしてその結果、ソ連軍は大幅に戦闘力をアップすることになるのです。

のちにヒトラーは、この「冬戦争」でのソ連軍の弱体ぶりに目をつけて、ソ連侵攻を決断したといわれます。
ですが、そのときにはすでにソ連軍は「冬戦争」当時のソ連軍ではありませんでした。
そしてモスクワ前面において、今度はドイツ軍がソ連軍に翻弄されることになるのでした。

参考文献
「ポーランド電撃戦」(第二次大戦欧州戦史シリーズ1) 学研
「歴史群像2005年12月号」 学研

参考サイト
Wikipedia「冬戦争」

五回にわたりました冬戦争もこれで終了です。
SU-152の記事に絡んで書き始めましたが、北欧の小国対ユーラシアの大国が互角以上の勝負をしたというのはすごいですよね。

もともとロシアと仲がよくなかったフィンランドは、日露戦争の日本のがんばりにすごく感銘を受けたとかで、トーゴー(東郷)ビールなんてのもあったとか。
意外なつながりがあったんですよね。

それではまた。
  1. 2008/10/28(火) 20:33:38|
  2. 冬戦争
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:5
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コメント

連載企画お疲れ様でした。
いつもながら興味深く読ませていただきました。
そういや今でもフィンランドの人達にトーゴーは有名人らしいですね。
以前バラエティー番組でビールが紹介されてました、
遠い異国で時を越えて記憶される日本の一軍人の名前ってのもなんか不思議な感じですね。
日本で「清酒マンネルハイム」なんてのがあるようなもんでしょうか(笑)。
今回の冬戦争の記述を拝見して、
序盤のソ連の苦戦ー
「天の時地の利人の和を欠く驕軍は大勢なれど鳥合の衆、
そこにつけこんだフィンランド側の焦土戦術に機動力あるゲリラ戦を組み合わせた各個撃破戦術」
というまさに大軍が小勢に敗れさる(この場合はさりはしませんでしたが)典型的な例であると思いました。
歴史上に幾度かある大逆転劇の(要素を含んだ)典型的な例だと思いますし、
結局最後は国力•兵力•物量差を生かした消耗戦覚悟の大国の力の前に小国が敗れさるというのもこれまた歴史上の厳然たる事実
「戦いは数だよ兄貴!」(笑)
という部分であると思いました。

最後に、個人的にソ•フィン戦と言うと私はあのスターリンに
「チミ達は戦車の上にデパートでも作る気かね?」
と開発陣への嫌みを言わしめた(笑)、
KVー2の影で消えていった新型重戦車群(SMK某とかでしたっけ?)がすごい印象深いですね。
  1. 2008/10/28(火) 22:39:27 |
  2. URL |
  3. 空風鈴ハイパー #-
  4. [ 編集]

今回のお話は、戦いの引き際を見極めることも大事だと言うことでしょうか?
あのまま戦いを続けていたら、フィンランドと言う国は世界地図から消えていたのかも知れませんね。
  1. 2008/10/29(水) 01:19:34 |
  2. URL |
  3. 神代☆焔 #-
  4. [ 編集]

大変興味深く読ませていただきました。
何時も驚いてばかりです。
色々な事に造詣をお持ちで。
私が知らなすぎるという事もあるのでしょうが・・・
そういえば今年の日本シリーズは巨人と西武という事になりましたね。
やはりアドバンテージが大きかったという事になるのでしょうかね。WBC監督問題も一応の決着。優勝を願うのは性でしょうが、一戦一戦大事に闘って欲しいものです。
長くなりましたが今回はこれにて失礼致します。
  1. 2008/10/29(水) 07:45:07 |
  2. URL |
  3. 迦遊羅 #-
  4. [ 編集]

KV2キターーー!!(をひw
大戦モノの戦車では随一のおもしろスタイルで
私も好きなんですが
傾いたらターレット回らないとかw

フィンランドはやむにやまれぬ事情で
なし崩し的に枢軸国になって
あとが可哀想でしたよね
  1. 2008/10/29(水) 08:43:28 |
  2. URL |
  3. KEBO #-
  4. [ 編集]

>>空風鈴ハイパー様
まさにおっしゃる通りですね。
フィンランドとしては、諸外国がもう少し有効な働きかけをしてくれていれば何とかなったかもしれません。
しかし、国力差はいかんともしがたかったというところでしょうか。

「清酒マンネルハイム」でなぜか「エチオピア饅頭」を思い出してしまいました。(笑)
戦車のデパートに関してはまたいずれ。

>>神代☆焔様
戦いは終わらせるのが難しいですからね。
フィンランドとしても戦い続けて国がなくなるよりは・・・と、屈辱的和平を飲むしかなかったでしょう。
だったら最初から・・・とはいかないですしね。

>>迦遊羅様
いえいえ、好きなことだけですー。
これで音楽や芸能関係の話などされるとまったくついていけませんので。(笑)

日本シリーズは、ある意味きちんと優勝チーム同士になってよかったと思ってます。
CS反対派ですので、せめて優勝したチームが出やすいようにするのは大切だと思ってます。

>>KEBO様
KV-2の巨大な砲塔は異様ですよね。
152ミリ榴弾砲を載せるにしても、もう少し載せようがあったんじゃないでしょうかねぇ。
でも、あのスタイルと装甲の厚さで、妙にマニア受けする戦車だというのも事実かも。

フィンランドにとっては「冬戦争」で奪われた領土を取り返すんだっていう意識が強すぎたのかもしれませんね。
  1. 2008/10/29(水) 19:17:41 |
  2. URL |
  3. 舞方雅人 #-
  4. [ 編集]

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