今日は土曜日なので、暑いですけどやっぱりウォーゲームがやりたいなぁと。
何もしないでぐたっとしているのも癪ですもんね。

ということで、今日もわりと軽めの作戦級ゲームをと、SPI/HJの「Basic3」から「スエズを渡れ」を選択。
これもコンパクトでルール的にはそれほど重くない好ゲーム。
最近「Squad Leader」やってないね。(笑)

さっそく両軍をセットアップ。
このゲームも初期配置位置が決まっているので、セットアップが楽でいいですね。
(*´ω`)
第四次中東戦争という、日本ではあんまり知名度の高くない戦争がベースとなっておりますこのゲーム。
登場する軍もイスラエル軍(黄灰色)と、エジプト軍(茶色)というなじみの薄い国同士。
イスラエル軍は、盤の東側(写真下側)から西にあるスエズ運河の渡河点まで道路を確保し、さらにユニットを六個運河ボックスに送り込む(運河渡河)ことで勝利します。
一方エジプト軍はそれを阻止すれば勝利。
当時のイスラエル軍は主に米英の兵器を使っており、一方のエジプト軍などのアラブ軍はソ連製の兵器を主に使ってました。
いわば冷戦最中の代理戦争的側面もあったんですよねー。
このゲームルールはそれほど多くなく、イスラエル軍が移動戦闘の後でエジプト軍が移動戦闘し、これを繰り返すといオーソドックスなもの。
とはいえ、エポックの「ドイツ戦車軍団」の「エルアラメイン」や「ダンケルク」などに比べると、ややプラスアルファがある感じ。

第一ターンでイスラエル軍はエジプト軍を攻撃するも、早くもEe(相互損害:お互いほぼ同じ戦力のユニットを除去する)を出してしまって3ユニットも失います。
このゲーム、道路の確保や運河の渡河などにユニットが必要なため、イスラエル軍は極力ユニットを失うのは避けなくてはなりません。
逆にエジプト軍はイスラエル軍を除去していけばいいのですが、相互霜害ですとエジプト軍ユニットも除去されてしまうため、これがのちのち響くことに。

第二ターン終了時。
今回はダイス目で相互損害をやたら多く出してしまい、すでにイスラエルは危険水域ともいうべき七ユニットも失ってます。
救いはエジプト軍も同数失っており、エジプト軍にとっても痛しかゆし。

第三ターン終了時。
イスラエル軍はなんとか援軍を駆使して戦線を張り、道路を開通させることに成功します。
とはいえ、運河ボックスに六個ものユニットを送るのは難しそう。

第四ターン終了時。
イスラエル軍は道路を確保するにはエジプト軍を消し去ってしまえばいいということで、とにかくエジプト軍を包囲殲滅していきます。
そのため、エジプト軍は次々とユニットを失っていくことに。

第五ターン終了時。
盤の南側(写真左側)からエジプト軍の増援が入ってきます。
本当ならここで盤北部(写真右側)にいるエジプト軍ユニットとともにイスラエル軍を挟撃する形で圧迫するのですが……
ご覧の通り今回は北部のエジプト軍がほぼ壊滅してしまい、イスラエル軍は大きくユニットの自由を確保できました。

第六ターン終了時。
ここにおいてやっとエジプト軍の砲撃がさく裂し、北部のエジプト軍に対峙していたイスラエル軍の一個ユニットが消し飛びますが、イスラエル軍はなんとか道路を確保しつつ、運河に三ユニットを渡河させます。

最終ターン終了時。
あと一ターンあればエジプト軍は道路の遮断に成功していたと思われますが、イスラエル軍はぎりぎりで道路の確保に成功。
運河の渡河にも何とか六ユニットを送り込み、かろうじてイスラエル軍の勝利となりました。
うおおー! ヽ(´▽`)ノ スゲー

こちらは両軍の失われたユニットたち。
このゲームももう何度もソロプレイしておりますが、こんなにユニットが両軍で消え去ったプレイは初めてかも。
なんにせよ相互損害の結果が多かった。
(>o<")
プレイ中のツイートはこちらにまとめましたので、よろしければご覧ください。
「
21年7月31日の暑いさなかに砂漠地帯の戦いである「スエズを渡れ」をソロプレイしたツイートまとめ」
このゲームは「Basic3」の中でもプレイしやすくまた楽しいゲームだと思います。
もし機会がありましたらプレイしてみてください。
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2021/07/31(土) 17:38:43|
- ウォーゲーム
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先日注文した柚子桃先生・司馬漬け先生のマンガ「めしに導かれしエルフ」が到着しましたので、拝読しましたー。
ヾ(゚ー゚*)ノ゙

こちらが表紙。
もうね、カツ丼の表現が半端ないですわぁ。
( ˘ω˘) ウマソ
Twitterで見かけました時からずっと追いかけていたマンガなのですが、今回単行本化されたとのことで早速購入。
PC画面で見るのと紙の誌面で見るのとではまた味わいが違いますねぇ。
異世界のエルフであるコロエ(表紙の女性)が、日本の食文化を「調査研究するという名目」でいろいろと食べるマンガなのですが、とにかく柚子桃先生の描かれますお料理が美味しそうで素晴らしいのです。

こちらは一話に登場します「おでん」なのですけど、もうホントに「おでん」らしさが素晴らしい。
見ているだけで「おでん食べたい」って思ってしまいます。
(^q^)
他にも「トンカツ」、「カレー」、「ピザ」などいろいろと登場し、コロエさんがそういった料理を食べていくという。
コロエさんがまた美味しそうに食べるんですわ。
(*´ω`)
とても楽しいマンガですのでお勧めです。
楽しませていただきました。
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2021/07/30(金) 19:10:26|
- 本&マンガなど
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台風8号から変化した温帯低気圧などの影響で、今日の札幌は30.2度と昨日に比べたら5度も低い最高気温ではあったんですけど、湿度が高いせいか蒸し暑くてしんどいですねぇ。
_(:3 」∠)_
これで雨でもザーッと降って湿度が下がればすっきりするのかもしれませんが、数日はこの蒸し暑さが続くようで、なんともしんどい限り。
夜寝てても寝苦しい感じで、昼間眠くて大変です。(笑)
なんと言いますか、これがうわさに聞く本州方面の暑さなのかなーという感じですね。
常に蒸し風呂状態という。
たまらんですわぁ。
(>o<")
来月の中旬ぐらいまでは続きそうですなー。
早く涼しくなって欲しいところですけど、涼しくなったら一気に寒くなるのが北海道なので、痛しかゆしという感じ。
22、23度くらいで収まっててくれませんかねー。
やれやれです。
今日はネタも無いのでこんなところで。
それではまた。
- 2021/07/29(木) 18:31:25|
- 日常
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安彦良和先生のマンガ、「乾と巽-ザバイカル戦記-」の五巻を読みましたー。

一巻からずっと追いかけているマンガなのですけど、五巻が出ていたのに気づかないでいたんですよねー。
そうしましたら、あっという間に紙の本が手に入りづらくなってしまいまして、電子版は手に入るものの紙タイプは探せども見つからない状況に。
結局かろうじて在庫あった書店に取り置き依頼して何とか手に入れることができましたのですが、それがもう今月の頭のこと。(笑)
手に入ってホッとしてしまったのと、ほかに読むものとかがあったのであとまわしになってしまい、今日やっと読み終えました。
今号では装甲列車との砲撃戦があるなど、なかなかに派手な展開。
また、主人公の一人である乾くんは北海道の開拓村出身という設定なので、道東の遠軽などが出てきたりするのも道民としては見ていて面白いですね。
まだまだ話は続きそうですけど、どんな展開となるのか楽しみです。
六巻はいつ出るのか気にしておかなくては。
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2021/07/28(水) 18:14:08|
- 本&マンガなど
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今後どうなるかはなんとも言えませんけど、現時点では来月9日から夏の甲子園大会が始まります。
それに向けて地方大会が各地で行われているわけですが、北海道でも25日に北北海道大会が、今日南北海道大会の決勝戦が行われまして、それぞれ代表校が決定です。
北北海道代表に決まったのは帯広農業高校。
39年ぶり2回目の夏の甲子園です。
昨年は春の選抜大会に21世紀枠で選出されたものの中止。
夏に選抜出場校による交流戦で甲子園に行きましたが、今年は地方大会を勝ち上がっての甲子園ですね。
決勝戦で打ちまくった打線の威力を発揮してほしいものです。
一方南北海道代表は北海高校。
こちらは4年ぶり39回目の出場で、これは全国最多を更新です。
北海も4年ぶりですかー。
南北海道では常連と言っていい学校ですけど、地方大会を勝ち抜くのもなかなか大変なんですよね。
今年はプロ野球ドラフト候補と言われる木村投手を擁し、創部120周年ということでこちらも甲子園で勝ち上がっていってほしいですね。
このまま何とか無事に甲子園大会が開催されることを祈りたいです。
両チームとも頑張れー。
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2021/07/27(火) 18:55:38|
- スポーツ
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連日オリンピックでは熱戦が続いておりますけど、明日から明後日にかけてどうやら台風8号が影響してきそうということです。
今のところ北海道に影響があるかどうかはわかりませんが、関東東北方面には影響してきそうな予報円ですね。
一部ではすでに競技の日程を変更したり、公共交通機関でも運休が予定されるなど対応が始まっているようですが、何事もなく通り過ぎてほしいところですね。
影響がありそうな地域の皆様は、充分ご注意くださいませ。
逆に北海道としては、少し雨が欲しいところですよねー。
ほんとにこのままでは秋の収穫にも影響が出るのではないかという気がします。
今年は記録的な暑さと雨の少なさですからねー。
農作物が問題なければいいのですが……
不作になるとまた野菜だのが高くなってしまいますね。
困ったものです。
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2021/07/26(月) 18:21:51|
- ニュース
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いやぁ、ホント暑いですね。
札幌は今日も最高気温が32.5度と真夏日です。
こんなに暑さが続くのは観測史上初めてっぽいですよね。
死ぬる…… 0(:3 )~('、3)_ヽ)_
そんな中、オリンピックが始まり、日本選手の悲喜こもごもが入ってきてます。
やっぱり五輪というのは特殊なんでしょうね。
国際大会上位常連の方でも、五輪ではなかなか勝てないみたいな方もいるみたいですしね。
そして、やっぱり私はちょろい人間ですので、日本選手のメダル獲得にはうれしくなるわけです。
早くもこの時点(25日18時半)で金メダルが3個に銀メダルが1個です。
他にもメダルを確定させた競技もあり、あとはその色だけみたいなものもいくつか。
やっぱりいいなぁって思いますよねー。
ただ、ホントにこの暑さが選手の皆さんにも影響を及ぼしているようで、体調を崩されてしまわれる方もいらっしゃるみたいです。
やっぱり酷暑がきついですよね。
まあ、暑いだろうなぁとは最初から予想されてましたけど、今年は特にきついかもしれませんね。
少しでもやわらいでほしいところなんですけどねー。
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2021/07/25(日) 18:42:18|
- スポーツ
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ブログ16周年の記念SS制作に注力しておりましたので、ここ二週間ほど土曜日のウォゲムソロプレイから離れていた感じです。
なので、今日は久しぶりにウォゲムのソロプレイを楽しみました。
とは言いますものの、ホントは昨日も連休ということでソロプレイしようかなと「ビルマ電撃戦」のユニットを並べはしたのですよ。
しかーし!
あまりの暑さにプレイを断念。
1ターン程動かしただけでダウンしてしまいました。

ということで、今日は午前中のまだ気温が上がる前に終われそうなゲームをやろうということで、「ドイツ戦車軍団」の「ダンケルク」をプレイすることに。

ユニットのスタックも無く初期配置も決まっているので、展開がほぼ固定されるきらいはあるのでしょうが、「作戦級」があまり得意でない私にとってはありがたいゲームです。
国際通信社から出ている再販版も欲しいところなんですけどねー。

独軍はもちろん連合軍を包囲するように盤南端に近いところを突進。
サイの目も良く連合軍ユニットを景気良く除去していきますが、調子に乗って前進した装甲師団を連合軍の増援部隊が1:1攻撃。
一ユニットが除去されることに。

最終ターン終了時、独軍は包囲と除去で39点を獲得しますが、5点を取り逃がしてしまった上に除去された装甲一ユニットで8点が差し引かれ31点どまり。
連合軍の勝利となってしまいました。
_(:3 」∠)_ Oh
ということで、あっさり午前中で終わったので、午後はどうしようかなーと思っていたんですが、やはり思ったとおり気温が上がって室温も32度。
0(:3 )~('、3)_ヽ)_ 死ぬ。
が、しかし、暑い中でプレイする「エルアラメイン」も一興よとばかりに、並べてしまいましたよ、「エルアラメイン」

まさに灼熱の北アフリカ戦線。(笑)
並べてしまったらやらねばということで、汗がユニットやマップに滴らないように注意しながらソロプレイ。

ドイツアフリカ軍団の装甲部隊が突進し、英軍の盤外突破を食い止めながらアラム・ハルファ陣地を攻撃です。

第三ターン終了時点で独軍ユニットがアラム・ハルファ陣地のうちの一ヶ所を占領したので、枢軸軍の勝利となりました。
暑いーー!
こちらも一時間ほどで終了。
いやぁ、ホントたまにやるにはいいゲームですわぁ。
作戦級好きじゃなかった当時、これを買っておいたことは自分を褒めてあげたいです。(笑)
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2021/07/24(土) 17:59:43|
- ウォーゲーム
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すでにサッカーやソフトボールなど一部の競技は開始されておりますけど、いよいよ今日「東京オリンピック2020」が1年遅れで開幕です。
開幕直前ですらごたごたと問題が起き、賛否も両論というか否定する意見の方が多いのではという中での開幕とはなりますが、ともあれ開幕にこぎつけたという感じでしょうか。
前回の1964年の東京オリンピックの年に生まれた身としては、ある意味感慨深いものではありますけど、どうせなら2024年が良かったなーという気持ちは最初からありましたので、57年ぶりという中途半端な数字にはやや苦笑。
(*´ω`)
それでも、やる以上は何事もなく終わってほしいものですので、大きな事件や事故が起こらないことを祈りたいです。
今回はホント無事に済んでほしいです。
オリンピックとパラリンピック終了までの一ヶ月ちょっとでしょうか。
何とか乗り切っていきましょう。
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2021/07/23(金) 18:01:10|
- スポーツ
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いやぁ、ホント暑さが続く札幌です。
こんなに30度を超える日が続くのも観測史上珍しいとか。
道内のどこかしらで猛暑日を観測していたりするみたいですしねぇ。
あづいー _(:3 」∠)_
オフィスや商業施設のような場所は、まだエアコンが装備されていることが多いのですけど、住宅のエアコン装備率は道内は低いんですよねー。
うちももちろんそんなものはありません。(笑)
なんとか扇風機でしのぐ感じです。
もっとも、これまでは日中はオフィスにいればよかったですし、家に帰ってくる頃にはまあある程度は気温も下がっておりましたし、なによりこんなに暑さが続くということも多くはないわけで、エアコンを装備しようということにもならなかったんでしょうねぇ。
冬の暖房を装備していませんなんて言う住宅は道内には無いのですけども。(笑)
とにかく早いところ暑さがやわらいでほしいですわぁ。
来月の中旬までの辛抱ですかねー。
8月の下旬になれば、もうスタッドレスタイヤのCMが流れ始める北海道ですからねー。
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2021/07/22(木) 17:38:39|
- 日常
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ブログ16周年記念SS第三弾を投下しますー。
フッフッフ……まだ弾があったのだよ。
と言いましても、先日Twitterで話していたネタを基にチャチャッと書き上げたものですので短いです。
あららっという間に読めてしまうと思います。
タイトルは「私はヒトツメドール」です。
女の子に助けを求められたヒロインは……
今回Twitterのフォロワー様でありますHowling様より、Twitterの会話を基にしたイラストをいただきましたので、挿絵として使わせていただきました。
Howling様、ありがとうございました。
それではどうぞ。
私はヒトツメドール
「メメーッ!」
奇妙な青い全身タイツ姿の少女が右手を上げる。
頭のてっぺんからブーツ状に変化した足のつま先まで全身を鮮やかな青の全身タイツにすっぽりと包み、まだほんのちょっぴり幼さの残る女性のボディラインを惜しげもなくさらしている。
その足元にはカバンが落ちており、脱ぎ捨てられた高校の女子制服が、彼女が何者であったかを示している。
不思議なことに、全身タイツのマスクに包まれた顔には目鼻口どころか凹凸すらまったく無く、まるで青いゆで卵のようにつるんとしていた。
そして二つの丸い胸の谷間のちょっと上には、白目部分が黄色く瞳が赤い目玉模様が描かれており、青一色の躰にアクセントを与えている。
腰には銀色の同じ目玉模様の付いたベルトが締められており、まるで特撮番組に登場する“戦闘員”のようだった。
「クヒヒヒ……吾輩(わがはい)のかわいいヒトツメドールよ。お前は吾輩の手足となって働く人形となったのだ。よいな?」
胸に目玉模様を付けた青い全身タイツ姿の少女の前には、こちらも奇妙な格好をした男が立っている。
白い全身タイツをまとい、凹凸の無いつるんとのっぺりとした顔には、少女と同じく黄色に赤い瞳の目玉模様が一つ描かれているだけで鼻も口も無い。
腰にはこちらは少女とは違う悪魔の顔を模した模様のバックル付きのベルトが締められ、両手と両足には黒いブーツと手袋をはめ、頭には黒のシルクハットを乗せ、肩からは黒いマントを羽織っていた。
「メメーッ! 私はドールン様にお仕えするヒトツメドール。何なりとご命令を。メメーッ!」
男に対し、青い全身タイツ姿の少女は先ほどと全く同じ姿勢で右手を上げたままそう答える。
その答えに満足したドールンと呼ばれた男は、マントを広げて少女を誘う。
少女はフラフラと男の元へ行くと、男はその躰をマントで包み込む。
すると周囲には黒い闇が現れて二人を飲み込み、やがて二人の姿とともに消え去った。
******
「うーん……いい天気。そろそろ洗濯物も乾いたかしら」
ガラス戸を開けて庭に出る一人の主婦。
名前は優美(ゆみ)といい、まだ三十代と若く、さわやかな笑顔はかわいらしさを残している。
小学校に行っている娘が一人いるものの、とてもそうは見えないというところだ。
彼女は両手をうんと伸ばして背伸びをすると、サンダルをつっかけて物干し竿のところへ行き、干してあった洗濯物を取り込み始める。
その様子をドールンが屋根の上から見下ろしていた。
「クヒヒヒ……次はあの女あたりが良さそうですね。さぞかしドールスーツが似合う人形になるでしょう。クヒヒヒヒ……」
スッと手を持ち上げて手のひらを上に向けるドールン。
彼の手の上に闇が現れ、それが形を持っていく。
やがて彼の手には目玉模様の付いた青い全身タイツが折りたたまれた状態でできあがる。
「クヒヒ……」
青い全身タイツは彼の手を離れると、そのまますうっと女性が取り込んでいる洗濯物の中に紛れ込む。
「クヒヒヒ……お前も吾輩のかわいい人形になるのですよ。クヒヒヒヒ……」
口がないにもかかわらず、ドールンは笑い声を発していた。
「そろそろ麻梨(まり)が帰ってくる頃ね……おやつは冷蔵庫にプリンがあるからそれを出して……夕飯はひき肉を買ってあるから……」
洗濯物をたたみながら今後の段取りを考える。
主婦は段取りが大切なのだ。
特に子供が帰ってくると、いろいろと段取り外のことも起こるため、臨機応変が欠かせない。
「あら?」
洗濯物の中に鮮やかな青色のものが入っている。
青は自分も夫も好きな色ではあるが、こんな鮮やかな青い衣装はあっただろうか?
彼女はその青い衣装を取り出してみる。
「えっ?」
驚くほど手触りが良い。
まるで吸い込まれそうな感じがする。
手で触っただけでもう惹きこまれてしまいそうだ。
「何これ?」
広げてみたそれは、まったく予想もしていなかったものだった。
両手両足に頭まである人型をした衣装。
テレビなどで時々見かける全身タイツというものだろうか?
青一色で作られており、胸のところには白目部分が黄色で瞳が赤い丸になっている目玉模様が付いている。
見たこともないものだが、いったいなぜこれが洗濯物の中に紛れていたのだろう?
両肩の部分をもって持ち上げてみる。
全身タイツを実際に目にするのは初めてだ。
どうしてこんなものが……
「あっ……」
全身タイツの目玉模様と目が合ってしまう。
その途端、彼女はとてもこの全身タイツが着てみたくなってしまう。
この手触りの良さを全身で感じてみたくなったのだ。
「あ……あああ……」
着たい……
着てみたい……
この全身タイツを着てみたい……
欲望が止まらなくなっていく。
自分のものではないとわかっているのに、どうにも着てみたくてたまらないのだ。
ちょっとだけ……
そう、ほんのちょっとだけ……
一回着たらそれでいいから……
ちゃんと洗濯して返すから……
ちょっとだけ……
一回だけ……
「ただいまぁ」
玄関でそう言いながら靴を脱ぐ麻梨。
背中には大きなランドセルが背負われている。
今日も一日楽しかった学校が終わり、家へと帰ってきたところだ。
今日のおやつはなんだろうな……
「ただいまお母さん。えっ?」
ランドセルを置き、手洗いとうがいをしようとした麻梨は驚きの声を上げる。
部屋で母親が裸になって、青いタイツのようなものを腰まで上げているところだったのだ。
顔もいつも優しい笑顔を見せる母親の顔ではなく、どこか焦点の合わない目を着ようとしているものに向け、狂気じみた薄笑いを浮かべている。
「お母さん! お母さん!」
何か異質なものを感じた麻梨は、母親のもとに駆け寄っていく。
「うるさいわね! 邪魔しないで!」
「きゃあっ!」
母親に弾き飛ばされてしまう麻梨。
「お母さん! お母さん!」
「ああ……なんて気持ちいいの……最高だわ……最高よ……」
麻梨の声が届かないかのように、全身タイツを着こんでいく母。
両手を袖に通し、肩まで引き上げていく。
背中の切れ込みがすうっと消え、首から下が全身タイツに覆われる。
「ああ……あああ……気持ちいい……気持ちいいですぅ……」
うっとりと両手で胸の目玉模様を撫でる母。
「誰か……誰か助けてぇ! お母さんが! お母さんが!」
自分では手に負えないと考えた麻梨は、助けを求めて部屋を出た。
******
「誰かぁ! 助けてぇ!」
一人の女の子がそう言いながら家から飛び出してくる。
たまたま通りかかった若い女性が一人、その様子にただならぬものを感じて立ち止まる。
「お嬢ちゃん、こっちよ」
彼女は女の子に手を振って見せ、自分も女の子の方へと駆け寄っていく。
「いったい何があったの?」
女の子の目線に合わせるようにしゃがみ込む。
彼女の前にやってくる女の子。
その顔は青ざめている。
きっと何か恐ろしいことがあったに違いない。
「大丈夫。お姉ちゃんは正義の味方よ。ジャハラインって知ってる?」
彼女がそう言うと、女の子の顔がぱあっと明るくなる。
魔人軍団と戦うジャハラインが正義の戦士たちであるということは、女の子も知っていたのだ。
「お姉ちゃん、ジャハラインなの?」
「そうよぉ。私の名は青間凛香(あおま りんか)。ジャハラインのブルーハラインよ。お嬢ちゃんのお名前は?」
力強くうなずき、女の子に名前をたずねる凛香。
「麻梨……凛香お姉ちゃん、お願い。お母さんを助けて!」
「麻梨ちゃんね? ええ、もちろん。いったい何があったのか話してみて」
凛香は麻梨に話を聞く。
なんでも麻梨が家に帰ると、母親が奇妙な衣装を着ようとしていたらしい。
普段とは全然違う表情をしており、麻梨がやめてと言っても聞いてくれなかったという。
それどころか突き飛ばされたとも話していて、何かあったのは間違いないようだ。
「わかったわ麻梨ちゃん。凛香お姉ちゃんが確かめてあげる。あの家ね?」
凛香が一軒の家を指さすと、麻梨がコクンとうなずく。
とにかく何があったのか確かめなくては。
もしかしたら魔人軍団がまた何かを始めたのかもしれない。
玄関を開け、そっと中へと入っていく凛香。
特に怪しい物音などはしない。
「お邪魔します」
凛香は靴を脱ぎ、家の中へと上がらせてもらう。
ゆっくりと部屋の中を覗き込む凛香。
そこには、鮮やかな青い全身タイツを着た、明らかに女性とわかるボディラインをした人影が立っていた。
「誰? そこで何をしているの?」
凛香が声をかけると、全身タイツ姿の女が振り向く。

「えっ?」
凛香は驚いた。
女には全く顔が無かったのだ。
本来顔のある位置には凹凸すらなく、まるで青いゆで卵のよう。
そして胸のところには赤い丸い瞳をした目玉模様が付いている。
いったい何者なの?
凛香が困惑する。
魔人軍団のアクマー兵に似ていると言えば似ているが、あっちは男の姿だし色も黒なのだ。
「メメーッ!」
突如奇声を発して襲い掛かってくる全身タイツの女。
「クッ!」
凛香は最初の一撃をかわし、手刀を叩きこむ。
「メメーッ!」
一瞬よろめいたものの、すぐに態勢を立て直してかかってくる女。
「やあっ!」
凛香は素早く蹴りを入れて相手を床に叩きのめすと、とどめとばかりに拳を振り上げる。
「やめてぇ! お母さんなの!」
「えっ?」
当たる寸前で拳を止める凛香。
見ると外にいたはずの麻梨が、部屋の入り口からこっちを覗いていたのだ。
「お母さん?」
凛香は驚く。
この倒れているのは魔人軍団の一員ではなかったのか?
この全身タイツを着た女性が麻梨ちゃんのお母さんだというの?
「お母さん! お母さん!」
「ダメ! 来ちゃダメ!」
駆け寄ろうとした麻梨を止める凛香。
とりあえず気を失わせることはできたようだが、何をするかわからないのだ。
「り、凛香お姉ちゃん、お母さんは?」
「大丈夫。気を失っただけよ。本当にこの人がお母さんなの?」
麻梨と倒れている女を見比べる凛香。
「うん。胸にその目玉があったの……」
麻梨の指さす先には、形良い胸の双丘の上の目玉模様がある。
すると、この子の母親がこの妙な全身タイツを着たことでおかしくなってしまったのだろうか……
だとすれば、脱がせればなんとかなるかもしれない……
凛香は気を失った女の躰をうつぶせにし、背中にファスナーか何かがないかを探してみる。
だが、全身タイツはまるで最初から彼女の皮膚であったかのように張り付いており、とても脱がせられるような感じはない。
手や足も一見ブーツや手袋をはめたように見えるのだが、どうやらこれも一体化して脱がすことは難しそうだ。
いったいどうしたら……
「クヒヒヒヒ……無駄無駄。もはやそのドールスーツはそのヒトツメドールの皮となっておるのだ。脱がすことなどできん」
「きゃあっ! 放してぇ!」
入口の方から二つの声がする。
「えっ?」
見ると、小脇に麻梨を抱えた白い全身タイツの男が立っていた。
その顔の部分には倒した女と同じく白目部分が黄色で赤く丸い瞳がある目玉模様が描かれており、頭には黒のシルクハットをかぶって背中には黒いマントを羽織っている。
両手と両足には黒いブーツと手袋がはめられ、腰には魔人軍団のシンボルである悪魔の顔を模した模様の付いたベルトが締められていた。
「魔人軍団……」
「いかにも。吾輩は魔人軍団の人形つかいドールン。そこの女は吾輩のドールスーツを身に着け、吾輩のかわいいヒトツメドールに生まれ変わったのだ。クヒヒヒヒ……」
凛香のにらみつけてくる視線を正面から受け止めているドールン。
「なんてことを……今すぐ彼女を元に戻しなさい!」
「クヒヒヒヒ……そんなことを吾輩がすると思うのかね?」
「ならば腕ずくでも!」
凛香はブルーハラインに変身するべく、ブレスレットをかざそうとする。
「おっとそこまでだ。この子がどうなってもいいのかな? クヒヒヒヒ……」
「きゃあっ!」
ドールンの右手が麻梨の首にかかる。
「クッ……・卑怯者め……」
凛香の動きが止まり、ブレスレットをはめた右手を下ろしていく。
今の状況で変身するのは麻梨が危険すぎる。
なんとかドールンとか言うやつのスキを突いて、あの子を助けなくては……
「クヒヒヒヒ……それでいいのだ。では、お前にも吾輩の作ったヒトツメドール用のドールスーツを差し上げよう。きっとお似合いですぞ。クヒヒヒ……」
今にも麻梨の首を絞めようとした右手が離れ、その手の上に折りたたまれた青い布が現れる。
「ほら、受け取るがいい」
「えっ?」
放り投げられてバサッと広がる鮮やかな青い布を、凛香は空中で受け止める。
「これは?」
凛香が受け取ったそれは、まさに先ほど倒した女性が身に着けていた青い全身タイツだった。
頭まですっぽりと覆うタイプで、両手両足の先まで包み込むようになっている。
胸の部分にはドールンという魔人の顔に描かれているものと同じ、白目の部分が黄色で瞳が丸い赤で描かれた目玉模様が付いていた。
「凛香お姉ちゃん、ダメ!」
ドールンに抱えられながらも麻梨が叫ぶ。
「えっ?」
麻梨の声に顔をあげようとする凛香。
だが、なぜか凛香は手にした全身タイツの目玉模様から目をそらすことができない。
それどころか、目玉模様がまるで自分を吸い込むような感じがしてしまう。
はあ……ん……
なんていい手触りなのだろう……
つるつるすべすべでとっても気持ちがいい……
それに、この目玉模様がすごく素敵……
胸のところにこの目玉模様があるのがすごくいいわ……
ああん……着てみたい……
「クヒヒヒ……さあ、着るがいい」
「凛香お姉ちゃんダメ! 着ちゃダメ! お母さんみたいになっちゃう!」
凛香の耳に二人の声が聞こえる。
ええ……そうよ……わかっているわ……
これを着ちゃダメ……これを着たら、あの子のお母さんのように、この魔人の言いなりになってしまう……
でも……
でも……
ちょっとぐらいなら大丈夫かも……
一度だけなら……
「お姉ちゃん! 凛香お姉ちゃん!」
「大丈夫……大丈夫だから……」
全身タイツの目玉模様を見つめたまま凛香は答える。
そう……大丈夫……私は大丈夫……
ちょっとだけだから……
一回着たらすぐに脱ぐから……
それにほら……一度着れば、脱ぎ方もわかるかもしれないわ……
一回だけ……一回だけだから……
「クヒヒヒ……」
「凛香お姉ちゃん!」
ドールンと麻梨の前で凛香は全身タイツを床に捨てる。
「凛香お姉ちゃん……」
麻梨の顔が明るくなる。
だが、次の瞬間麻梨は絶望を感じてしまう。
凛香が着ているものを次々と脱ぎ始めたのだ。
「凛香お姉ちゃん!」
「大丈夫……大丈夫よ。私はブルーハライン……魔人なんかには負けないから……ちょっとだけ……ちょっとだけ着てみるの……一回だけよ……」
凛香は着ているものを下着まですべて脱いでいく。
その顔には歪んだ笑みが浮かび、ドールンのことも麻梨のこともどうでもよくなっていた。
ただ、この青い全身タイツが着たくてたまらなかったのだ。
はあん……ひゃぁぁぁん……
背中に開いた開口部から足を差し入れ、つま先にまで通していく。
それだけでもうゾクゾクするほどの気持ちよさが凛香を襲う。
吸い付くような感触が足を包み込み、まるでさわさわとマッサージをされてるような気持ちよさだ。
はあん……はああん……
両足を通して腰までたくし上げていく。
膝から太ももと覆われていくだけで、何か自分の足ではなくなっていくような感じ。
とても気持ちよくてたまらない。
「凛香お姉ちゃん!」
麻梨の目の前で青い全身タイツを着こんでいく凛香。
先ほど母親が見せていたのと同じ恍惚とした表情を浮かべている。
麻梨の目から涙がこぼれた。
袖に手を通し、手袋部分に指をはめていく。
手を握ったり開いたりしてなじませていき、肩まで袖を引き上げる。
首から下はすべて青く覆われ、両胸のやや上に目玉模様が輝いている。
マスク部分を前からかぶり、後頭部まですっぽりと覆っていく。
全身が包み込まれると同時に、背中の開口部が閉じられ、何もなかったかのように消えて行った。
頭が包まれたことで、凛香は何も見えなくなってしまったことに気付く。
普通の全身タイツであれば、布を通してうっすらと見えそうなものなのだが、まったく何も見えないのだ。
それどころか音も聞こえなくなり、何かをしゃべることもできない。
においも全く感じない。
まるで頭部にあるすべての機能が失われてしまったかのよう。
だが、凛香に恐怖はない。
それよりも、全身を包まれた気持ちよさがたまらない。
両手で躰を撫でまわしていくが、そのすべてが気持ちいい。
むしろ、顔を撫でたときに眼窩のくぼみや鼻のでっぱりが気になるくらいだ。
どうしてこんな凹凸があるのだろう……
(クヒヒヒ……吾輩の作ったドールスーツの着心地はどうかな?)
頭の中に声が聞こえてくる。
それはなんとも力強く素敵な声。
もっともっと聞いていたくなる声だ。
はい……とても気持ちがいいです……こんな素晴らしいスーツだったなんて……
凛香は声を出さずに返事をする。
(クヒヒヒ……ちょっとだけのつもりだったのだろう? 脱いでもいいのだぞ)
とんでもありません!
このスーツを脱ぐなんてありえません!
凛香は首を振る。
こんな気持ちいいスーツを脱ぐなんてありえないわ……
(クヒヒヒヒ……ならば吾輩に従え。吾輩のものとなるのだ)
響いてくる素敵な声。
それは支配者の声であり、彼女の守護者の声でもあった。
はい……私はドールン様のものになります。
凛香はためらいもせずにそう答える。
彼女の支配者はドールン様であり、すべてはドールン様に捧げなくてはならない。
(クヒヒヒ……では感じるがいい。お前の新たな一つ目を)
すうっと視界が開けてくる。
闇が晴れ、室内の様子が見えてくる。
今まで見ていた二つの目の視界ではない。
胸に付いている一つ目の目玉模様による視界だと凛香は理解する。
なんて素敵なのだろう……
一つ目のおかげで彼女は物が見えるのだ。
いや、それどころか、一つ目のおかげで音も聞こえるし、しゃべることだってできるのだ。
すべては一つ目のおかげ。
この目が彼女の新たな目なのだ。
全身タイツのマスクに覆われた凛香の顔に変化が現れる。
顔の凹凸がすうっと消え、つるんとしたタマゴのような頭部に変化したのだ。
凛香は手で顔を撫でさすり、凹凸が消えたことがわかるとうれしくなる。
不快だった凹凸が無くなったのだ。
なんて気持ちがいいのだろう。
(クヒヒヒ……これでお前は吾輩のかわいい人形。ヒトツメドールとなったのだ)
凛香はスッと右手を上げる。
「メメーッ! はい、私はヒトツメドール。ドールン様にお仕えする人形です。メメーッ!」
彼女の中から青間凛香という名が消える。
腰に一つ目模様のバックルの付いたベルトが作られ、両手は手袋、両足はハイヒールのブーツのように変化する。
私はヒトツメドール。
ドールン様に作られた人形の一体。
ああ……幸せだわ……とても幸せ……

「クヒヒヒ……それでいい。ヒトツメドールよ。そこに倒れているもう一体のヒトツメドールを起こすのだ」
「メメーッ! かしこまりました、ドールン様」
新たなヒトツメドールが、倒れているもう一体のヒトツメドールをブーツ状に変化した足で小突く。
ドールン様の前だというのに意識を失うなんてだらしない人形だわ。
さあ、早く起きなさい!
やがてもう一体のヒトツメドールが起き上がり、ドールンに対して右手を上げる。
「メメーッ! 申し訳ありませんドールン様。私はヒトツメドール。ドールン様にお仕えする人形です」
「クヒヒヒ……それでいい。かわいい人形が二体も。しかも一つは予想外の女を人形にできたわい。クヒヒヒヒ」
満足そうにうなずくドールン。
「クヒヒ……ほら、お前にはもう用はない。どこへでも行くがいい」
抱えていた麻梨を放り出すドールン。
「きゃっ!」
床に落とされた麻梨が悲鳴を上げるが、二体のヒトツメドールは全く反応しない。
「クヒヒヒ……さあ、来るのだ」
マントを広げてヒトツメドールたちを呼ぶドールン。
「お母さん! 凛香お姉ちゃん!」
床に倒れたまま麻梨は叫ぶ。
だが二体のヒトツメドールは見向きもしない。
もはや二体にとって麻梨は無意味な存在なのだ。
「お母さん! 凛香お姉ちゃん!」
麻梨の目の前で二体のヒトツメドールはドールンのマントに包まれる。
「クヒヒヒ……さあ、次の人形を作りに行くとするか。お前たちも手伝うのだ」
「かしこまりました。メメーッ!」
「ドールン様の仰せのままに。メメーッ!」
自らが作り出した闇の中へと消えていくドールン。
あとには麻梨だけが残された……
END
いかがでしたでしょうか?
よろしければ感想コメントなどいただけますと励みになりますです。
これで16周年記念SS祭りは終了となります。
またしてもストックを全部使いきってしまいました。(^_^;)ゞ
次のイベントに向かってまた書き溜めないとなりませんねー。
今日はこんなところで。
それではまた次作をお楽しみに。
- 2021/07/21(水) 20:00:00|
- 女幹部・戦闘員化系SS
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今日はブログ16周年記念SSの第二弾を投下します。
やっぱり周年記念ですと二本ぐらいは投下したいですからねー。
ということで、タイトルは「彼女に性癖刷り込み隊」です。(笑)
もうタイトル通りのシチュのみ短編です。
気楽にお楽しみいただければと思います。
それではどうぞ。
彼女に性癖刷り込み隊
「ふわぁぁぁぁ」
眠ぅ……
夕べもストーリーモード進めるのに夜中までやってたからなぁ……
昼飯食ったらそりゃ眠さ爆発だよなぁ……
午後の授業サボって寝ていてぇよぉ……
「ずいぶん眠そうだな、辰実(たつみ)」
机に突っ伏してあくびをしていた俺に、昌和が声をかけてくる。
フルネームは沖山昌和(おきやま まさかず)と言って、高校に入ってからの友人だけど、一年の時から同じクラスだ。
「見りゃわかるだろぉ」
俺はぐでぇっとしたままで答える。
「ははは……あれやってたんか?」
「そうだよ。ストーリーモード、第三章まで進めたぞ」
おかげで寝るのが3時近かったがな……
「おっ、てことはアヤメちゃんといいところまで行ったか?」
「行かねぇよ。課金してないから好感度上げアイテムもパッとしたのがないしな。一応イベントはこなしているから、そこそこ上がっているとは思うけど」
「まあ、そうだよな。課金しないと、あの子はなかなか落ちんよな」
「まあなぁ……」
アヤメちゃんはかわいいから、できれば落としたいところではあるんだけど、課金してまでとなると……って気もするしなぁ。
「ところで辰実、これ……知ってるか?」
昌和がスマホの画面を見せてくる。
「はあ? なんだそりゃ?」
見ると、実写の巨乳女優さんがオッパイさらしてキスをせがむように口をとがらせているような画面だ。
それにかぶさるようにして、“彼女に性癖刷り込み隊”って書いてある。
実写ベースのアダルトゲームっぽいけど……なんだこれ?
「そっか、じゃあまだ誰からも招待はされてないというわけか」
昌和が何となくホッとしたような顔をする。
「これな……俺も先輩に招待してもらったんだけど、実は招待メンバーしか使えないアプリらしい。今なら一人招待可能らしいから、辰実がよかったら招待するぞ」
こいつはまた、どうやってこういうものを見つけてくるんだか……
先輩からって言ってるから、どうせそっちのつながりなんだろうけどさ……
あー……でもどうしようかなぁ……
実写系のエロゲってあんまり好きじゃないし……
でも、招待されないと使えないってのは気になるよな。
あとになって招待されておけばってのも癪だから、招待だけ受けて、ちょっとだけやってダメなら放置でいいか……
「あー、じゃ、招待頼むわ」
「オケ」
昌和がサササッとスマホを操作すると、俺のスマホにメールが着信し、そのメールに記載されたURLを開くとアプリがインストールできるようになっている。
俺は一瞬ためらったものの、まあいいかとインストールを行ない、アプリを起動してみる。
するとさっき見た巨乳お姉さんが出てきて、“彼女に性癖刷り込み隊”というタイトルが表示された。
「起動できたみたいだぞ」
「ああ、じゃあ招待が上手く行ったんだと思う。これな……やってみたらわかると思うんだが……すごいぞ」
ちょっと周囲を見て声を潜める昌和。
「あ、ああ……」
なんだ?
いや、まあ、学校で堂々とエロゲの話をするわけにもいかんけど。
「それと、影響が大きいから、あんまり“オープン”にはしない方がいいぞ。あと、ターゲットは選べ。増やすことはできるが金がかかる」
課金要素アリか……
まあ、無料でどこまで楽しめるかだなぁ……
「いいか、このことは絶対にナイショにしろ。俺もお前だから招待したんだ。いいな」
「わかったよ」
たかがエロゲで大げさな……
「ただ、絶対楽しめる。それは保証するよ。ふひひひ……」
妙な笑いを残して去っていく昌和。
なんだあいつ?
まあ……エロゲだろうから、それなりに楽しめるとは思うけどさ……
******
なんとか午後の授業を乗り切った俺は、もう少し先ほどのアプリについて詳しい話でも聞こうかと昌和を探す。
とは言うものの、どこかへ行ってしまったようで教室にはいない。
どこへ行ったものやら……
まあ、教室にいても掃除の邪魔になるだけだし、カバンはあるから戻ってくるだろうし、俺もちょっと移動するか……
掃除が終わったころを見計らって、俺は教室に戻ってみる。
あれ?
誰もいないや。
カバンはいくつか残っているので、部活や委員会に行っている連中のものだろう。
昌和のカバンも残ってはいるんだが……
戻ってきてないか。
まあ、いいや……そのうち戻ってくるだろう。
ということで、俺は先ほどのアプリを開いてみる。
学校でエロゲというのも、なんだかドキドキするな。
音声は出ないようにしておかなきゃ……
“彼女に性癖刷り込み隊”
画面にはでかでかとそう表示され、さっきとは別のお姉さんがウィンクしている。
何種類かあるのだろう。
俺はスタートボタンをタッチして、開始画面を開く。
すぐに、ゲームの案内のようなものが始まり、俺はそれを読んでいく。
なになに?
“彼女に性癖刷り込み隊”にようこそ。このアプリは、好みの女性にあなたの好きな性癖を刷り込みできるアプリです。だって?
彼女にフェラをしてもらいたい。彼女とアナルセックスをしたい。などなど、あなたにはいろいろな願望があることでしょう。
ですが、彼女がそれを好むとは限りません。
フェラチオなんていや。お尻の穴でセックスなんて信じられない。そう思う女性も多いはず。
あなたはがっかりしてしまいますよね?
でも大丈夫。
このアプリを使えば、彼女にそういった性癖を刷り込むことができるのです。
フェラチオなんていやと言っていた女性があら不思議、フェラチオ大好きに早変わり。
お尻でのセックスなんてと言っていた女性も、あなたのイチモツをお尻に入れてほしくてたまりません。
すべてこのアプリを使えば可能です。
刷り込みできる性癖は複数の系統に分かれ、様々な種類の性癖を選ぶことが可能。
いくつもの性癖を混合して刷り込むことで、あなたのこだわりの欲望を満たすこともできます。
さあ、あなたも好きな彼女にあなた好みの性癖を刷り込んじゃいましょう……か。
一種の調教ゲームみたいなものなのかな?
まあ、とりあえずやってみようか。
けっこうおもしろそうだしね。
清楚系キャラをエロエロにしちゃうようなのは好きだし。
まずは登録か。
俺は自分の名前や住所、年齢等を打ち込んでいく。
登録が完了しましたと表示され、画面が進む。
性癖を刷り込みたい女性を登録してください?
ああ、これあれか?
リアルっぽくするために彼女を登録したりできるやつか。
まあ、実際付き合っている彼女を調教……なんて、ゲームの中じゃなきゃできないもんな。
さて、どうしたものか。
俺に彼女なんていないし……
待てよ、一応デフォルトキャラもいるのか。
ちょっとそっちも見てみるか。
俺が画面を切り替えると、女性の顔写真がいくつか表示される。
うわぁ……これってまさか全部実在の女性?
AVの女優さんとかかなぁ?
でも、なんかおばさんとか子供もいるんですけど。
うーん……まあ、そういうの好きな人もいるだろうけどさ。
住所も表示されているけど、わりとうちの近所が多くね?
どうしようかなぁ……なんか好みのタイプはいないし……クラスの三崎(みさき)さんにでもしようかな。
三崎さんとはうちのクラスでもトップクラスのかわいい子で、今のところはフリーという噂だが。
えーと……、あ、これ登録の時に写真がいるの?
もしかして画面合成してキャラの顔を本人にしてくれるとか?
すごいな。
写真は正面からでなくてもOKです?
盗撮風の写真でも大丈夫って……盗撮でもOKって言っているようなものじゃん。
どうしようかな……
あ、チャンス!
ちょうど三崎さんが戻ってきた。
委員会が終わったのかな?
とはいえ、どうしよう……
写真撮らせてっていうのも、なんか変に思われそうだし……
なんて思っていると、三崎さんは俺のことなどまったく目に入っていないような感じで、カバンの中から何か袋を取り出している。
何となく顔が赤いような気がするけど……
どうしたものか……
俺がどうしようか迷っているうちに、三崎さんはいそいそと袋を持ってまた出て行ってしまう。
ヤベ……
廊下に出ていく彼女を、俺は急いで写真に撮る。
うわぁ、まさに盗撮だぜ。
でも、どうやら横顔を収めることはできたようだ。
あとはこれを登録……
あれ?
俺が登録ボタンを押すと、画面にこんな文面が。
申し訳ありません。その人物は既に登録されておりますだって?
えっ?
どういうこと?
登録できない?
誰かが登録しちゃうと、もう登録できないってことなのか?
それにしてもどうやって彼女のことが?
その時、廊下を歩く一人の姿に俺は気付く。
あ、千村(ちむら)先生がいた。
数学の先生だけど、けっこう美人で何より胸が大きい。
「おっと、写真写真」
俺は通り過ぎていくギリギリのところで、なんとか千村先生の横顔を撮ることに成功する。
うーん……盗撮だねぇ。
それにしても横から見るとホント胸が大きい。
スーツがはちきれそうだよね。
それでいて全体的にはいい感じにバランスが取れているんだからすごい。
黒板に板書するときに胸が揺れたりするんで、みんなそれを楽しみにしているんだよねぇ。
俺は千村先生の写真を読み込ませて登録する。
すると、横顔の写真だったものが正面からの顔に変換され、千村先生の名前や住所に身長体重、はてはスリーサイズまで表示された。
嘘だろ……
どこからこんなデータ持ってきたんだよ……
それにしても胸でけぇ……
千村秋穂(あきほ)の登録完了。崎向(さきむかい)辰実とリンク完了。性癖刷り込み可能状態に移行。
画面に文字が次々と表示され、次の画面へと変化する。
なになに……千村秋穂への性癖刷り込みの準備が完了しました。刷り込みたい性癖をお選びください……か……
画面にはいくつかの選択肢が表示される。
えーと……無様系?
ほかにも献身系、痴女系、被虐・嗜虐系とかあるのか……
で、さらにそこから分かれるっぽいな。
無様系だと犬か豚の鳴きマネやエロ蹲踞?
献身系だとご主人様呼びとか土下座挨拶?
痴女系がスカート持ち上げ見せに谷間見せ?
被虐・嗜虐系が罵倒かなじられ、つばの飲ませか飲み込み?
とりあえずこれらの性癖は無料で選べて簡単に刷り込めると。
で、これ以降だと課金が必要になるのか。
課金は一つの性癖につき5000円?
けっこう高いなぁ。
どれか一つの系統にこだわることなく、例えばエロ蹲踞しながら言葉では罵倒してくるなんてこともできるっぽい。
うーん……
まあ、現実には絶対やらないようなことをしてもらった方が面白いよな、こういうものは。
千村先生がスカートを持ち上げて中身を見せてくれるってのもいいけど、オッパイ揺らしながらエロ蹲踞してブヒブヒ言うのなんて最高じゃない?
しかもさっきの写真が加工されてキャラの顔として表示されるんでしょ?
うっひー!
たまんなさそう!
俺は早速、無様系のエロ蹲踞と豚の鳴きマネを選択して決定する。
ほかにも無料のはあるけど、まずはこの二つで様子見だ。
さーて……どんな感じになりますのん?
ん?
警告?
性癖の刷り込みに関しては初期段階ではクローズになっております、オープンを選択することも可能ですが、社会的影響が大きいことが予想されますので、オープンの選択には充分ご注意ください?
どういうこと?
まあ、とりあえずクローズでいいか。
俺がOKを押すと、刷り込みの準備が完了しました、刷り込みを開始しますかと出たので、また俺は決定ボタンを押す。
すると、刷り込みが開始されましたと表示が出て、だんだんとパーセンテージが上がっていく。
エロ蹲踞が100パーセント、豚の鳴きマネも100パーセントとバーが上がっていき、刷り込みが完了しましたと表示が出る。
……あれ?
終わり?
画面が再びトップ画面に戻ってしまった。
どういうこと?
操作を間違ったかな?
俺はもう一度選択画面を開いて、刷り込みを行なおうとした。
しかし、次回の刷り込みには24時間が必要ですと出て刷り込み画面に進めない。
なんだこりゃ?
バグ?
千村先生のエロ蹲踞はお預け?
あーあ……
俺はがっかりしてスマホを机に放りだした。
ガラッと教室の扉が開き、昌和が入ってくる。
ちょうどよかった。
待ってたかいがあったというもの。
「おーい、まさか……」
ずと続けようとしたその時、昌和の背後から三崎さんが彼に付き従うようにして入ってくる。
えっ?
なんで二人が?
「お、どうした辰実。まだ残っていたのか?」
「えっ? 崎向くん? えっ?」
昌和のあとから入ってきた三崎さんが、俺の顔を見てびっくりした顔をする。
そして急に真っ赤になったかと思うと、机から自分のカバンをひったくるようにして手にすると、走るようにして出て行ってしまう。
「あ、えっ?」
俺は唖然とする。
俺、なんかしましたっけ?
「あー、お前がいて恥ずかしくなったんじゃないかな。まだ刷り込んだ性癖になじんでないみたいだし」
「は?」
刷り込んだ性癖?
どういうこと?
「で、こんな時間まで残っていたのは、なんかあったのか?」
「えっ? あ、うん」
俺はスマホを取り、ゲーム画面に進めないということを話す。
「あー、ごめん。ちゃんと説明しきれてなかったか」
頭をかく昌和。
「これ、ゲームじゃないんだわ。リアル。リアルなの」
「は? へ? リアルって?」
「いや、そのものずばりで、好きな女の子にいろいろな性癖を実際に刷り込んでいくアプリなのよ」
「えっ? 実際に?」
実際にだって?
「そう。ほら、さっきの麗華もコスプレって性癖を刷り込んだらさ、バニーガールのコスを持ってきておねだりしてくるんだぜ。たまんねぇよ」
「んあ?」
にへらっと笑っている昌和に対し、俺はあんぐりと口を開ける。
三崎さんがバニーガールコスで?
コスプレっていう性癖を刷り込んだ?
あのアプリで?
あっ……
俺はハッとした。
そうか……それで俺が三崎さんを登録しようとしたときに、既に登録されているって出たのか……
くそー、昌和のやつ……
「で、お前は誰にしたんだ? 教えろよ」
にやにやと笑っている昌和。
ちくしょう……三崎さんを持っていきやがって……
「千村先生だよ」
「千村先生? あー、くっそぉ、やられたぁ!」
「へ?」
「俺も千村先生狙ってたんだよなぁ。麗華が終わったら千村先生もやろうと思っていたのに……」
悔しそうにしている昌和。
こいつはー。
千村先生まで狙ってやがったのかよ。
「あー、残念だなぁ。もう少し小遣いが残っていたらなぁ。千村先生登録して課金したんだけどなぁ」
「小遣いって、お前三崎さんに課金……したのか?」
「もちろん。無料のと合わせて7個くらい刷り込んだから、3万くらいかかったんじゃないか」
「3万?」
俺は驚いた。
「ああ、でもその価値は充分にあるぞ。麗華なんかもう俺と二人きりになったら刷り込んだ性癖でぐちょぐちょだぜ。フェラはするわアナルは舐めるわおしっこするところ見せてくれるわで」
「お前、そんな性癖を!」
こいつとんでもねぇ……
待てよ……
ということは……
千村先生が俺の前でブヒブヒ言いながらエロ蹲踞してくれるというわけ?
えっ?
実際に?
マジで?
「おんやぁ? 辰実君赤くなってますよ。その様子では千村先生に相当エロい性癖を刷り込みましたかね?」
「う、うるさい!」
俺は思わず言い返してしまう。
「ははは……まあ、千村先生ならエロい性癖の刷り込み甲斐がありそうだもんな。ああ、でも気をつけろよ。ちゃんとクローズのままにしておいただろうな? オープンにするとやばいぞ」
「ヤバい?」
「ああ、クローズだと基本は刷り込んだ側と刷り込まれた側の二人きりのような状態でないと性癖は出てこないけど、オープンにしちゃうと誰が周りにいようが構わずに性癖を出しちゃうんだ。それこそ、教室でお前の顔を見た途端に先生が、みんなの前でエロいことし始めちゃうなんてことになりかねないからな」
「うわ……」
よかったー。
オープンにしないでよかったー。
俺は胸をなでおろした。
「ま、刷り込みの結果は明日には出てくると思うから、明日を楽しみにしているといいと思うぞ」
そういってカバンを取る昌和。
そういうことかよ……
じゃあ、明日になれば千村先生がどうなったかわかるのかな?
俺もとりあえず帰ろうとカバンを手にする。
「あっ」
教室の入り口で声がする。
見ると、千村先生がうちのクラスに来ていたのだ。
「先生……」
「あ……の、残ってたんだ……あ……その……その……ちょっと……手伝ってほしいことがあるから……一人……来てほしいんだけど」
先生の耳が真っ赤になっている。
目も泳いで不審この上ない。
「おっと、さっそく効果が出たみたいですよ辰実君」
「そ、そうなのか?」
ほ、本当かよ?
千村先生が?
「先生、こいつが手伝いますって。じゃあ、俺は帰るから。そんじゃなー」
俺を押し付けるようにしてさっさと教室を出て行ってしまう昌和。
「お、おい!」
俺が呼んでも、手を振り返すだけだ。
「ご、ごめんなさい。一緒に帰るところだった?」
「あ、いえ、いいんですけど」
赤くなってモジモジとしながら目をそらしている千村先生。
なんというか、いつもの先生とは大違いだ。
本当にあの性癖が刷り込まれたというのだろうか……
まあ、そうじゃなきゃ担任でもない俺のクラスに来るはずもないか……
「それで、何を手伝うんですか?」
「そ、そのね……その……その……き、来てもらっても……いい?」
「ああ、はい」
俺はそう答えて先生の後についていく。
先生はなんというか、フラフラという感じで廊下を歩き、数学準備室へと入っていく。
「は、入って……」
「あ、はい」
数学準備室には誰もいない。
富田先生は職員室なのだろう。
「そ、そこに座って」
「はい」
なんだかドキドキする。
千村先生……本当にあの性癖を刷り込まれちゃったんだろうか?
実はそれは違ってて、本当に先生は俺に頼みごとをしたいだけかもしれない。
カチャリと音がして、先生が準備室の鍵をかける。
「先生?」
「そ、その……その……ね」
ドアに背中を押し付けるようにして立っている千村先生。
その顔が本当に真っ赤で恥ずかしそうだ。
「こ、こんなことは……絶対に……絶対におかしいし……わ、私も……その……自分で……変だとは思っているんだけど……ど、どうしても……そ、その……崎向君に……み、見てほしくて……」
「見てほしい?」
「そ、そうなの……おかしいことを言ってるのは……自分でもわかってるし……な、何しようとしているのか……じ、自分でも変なんだけど……さ、さっきからもう……自分でも・・・どうしようも無くて……」
がくがくと震えている先生。
こんなところに誰か来たら大変だ……
「見て……もらうだけ……見てもらう……だけだから……そこに……いるだけで……いいから」
「は、はい」
なんだかこっちまで緊張する。
俺は椅子に座りながら、手を握り締めていた。
「み、見て……せ、先生……変だけど……変だけど……見てほしいの……見てほしいのぉ」
千村先生はそう言うと、両手を頭の後ろに組んで、足をそろえたまま膝を開いて腰を下ろす。
「ブ……ブヒィィィィ……ブヒッブヒィィィ……ブヒブヒィィィ」
先生は本当に恥ずかしそうにしながら、ブヒブヒと豚の鳴きマネをして腰を上下させていく。
すげぇ……
本当に刷り込んだ通りのエロ蹲踞と豚の鳴きマネだ……
あの……あのアプリは本物なんだ……
「ブヒッ……ブヒィィィ」
だんだんと先生の顔がとろんとしてくる。
なんだか気持ちよさそうな表情だ。
「先生?」
「ブ、ブヒィィィ……は、はい」
「も、もしかして……俺に見られて気持ちいい?」
「はいぃぃ……気持ちいいです……し、信じられないぃ……気持ちいい……気持ちいいですぅ……ブヒィィィ」
恍惚とした顔で腰を上下していく先生。
オッパイがブルンブルンと揺れている。
すごい……
「せ、先生。もしかして、それ……先生の性癖?」
「ブヒィィィ……わ、わかんにゃい……でも……でも気持ちいい……もっとぉ……もっと私の恥ずかしい姿見てぇ……ブヒブヒィィィ……あひぃぃぃ」
うっとりとしながらブヒブヒ言っている先生。
すごい……すごいよ、これは……
最高だ……
俺は股間がギンギンに硬くなるのを感じていた。
カタンと机の上で何かが音を立てる。
俺の手が机に当たってしまったのだ。
目が一瞬机に向き、何かを倒したとかではなさそうなのを確かめると、俺はまた先生の方に目を向ける。
「先生?」
「あ……あああ……」
真っ青になって震えている千村先生。
いきなり両手で自分の身体を抱くようにしてうずくまってしまう。
「先生?」
「ああああああああああ……ごごごごごごごごめんなさい」
「えっ?」
なんだ?
どうしたんだ?
「先生?」
俺は椅子から立ち上がって先生のところに近寄る。
「ごごごごごごめんなさい……変なことしてごめんなさい……変なものを見せてしまってごめんなさい……あああああああ」
うつむいて顔を全く上げようとしない先生。
もしかして、急に自分が何やっているか気付いて恥ずかしくなった……とか?
「先生?」
「ごごごごめんなさいごめんなさい……おかしいの……私おかしくなっちゃったの……仕事してたら急になぜか崎向君のことが頭に浮かんできて、崎向君の前であんなはしたないようなマネをしたくてしたくてたまらなくなっちゃって……」
アプリのせいだ……
あのアプリが千村先生に影響したんだ……
「それで……それでどうしようもなくなって、崎向君がまだいるかなと思って教室に見に行って……そしたら崎向君がまだいて……そしたら……そしたらもうドキドキしてどうしようもなくなって……ごめんなさいごめんなさい……」
「先生……」
「先生、別に謝らなくていいよ。俺、別に変なことだなんて思わなかったし」
「えっ?」
顔を上げてくれる千村先生。
まだ青い顔をして半べそをかいている。
「むしろ……むしろ俺、うれしかったよ」
「うれしかった?」
「うん。だって、俺だけにあんな恥ずかしい格好してくれたんでしょ? 俺だけにしたくなったんでしょ? だからうれしいよ」
「そ、そうなの?」
とりあえず先生にはアプリで刷り込みがされたとは、思わせない方がいいだろうな……
「だから全然問題ないですよ。むしろもっとしてもらってもいいぐらい」
「ええ? でもあんな変なことしているの見せられるのなんてイヤだったんじゃ?」
「全然全然! むしろ先生があんなポーズしてくれてすっごくエロかった。おかげで俺、前かがみになっちゃったよ」
俺は股間を抑えてみせる。
「ええ? ふっ……やだぁ」
千村先生も笑いだす。
「だから、もっともっと俺だけに先生のエロい姿見せてくださいよ。誰にも言いませんから」
「本当に? 本当に言わない?」
「もちろん。俺と先生だけの秘密です。だから……また見せてくれますよね?」
しばらく俺の顔を見ていた先生は、やがて小さくコクンとうなずいた。
やったぜ……
誰もいなくなった夕方の廊下を歩く俺。
すごいすごいすごい……
あのアプリはマジですごい。
あの千村先生が俺の前でブヒブヒ言いながらエロ蹲踞ポーズを取ってくれるなんて……
それなんてエロゲってやつですよ、まったく……
俺はポケットからスマホを取り出す。
うひひひ……
このアプリがあれば、千村先生をもっともっとエロくしてやることができるんだ。
俺の前で俺だけにその本当の姿を見せるエロエロな千村先生。
たまんねぇ……
******
家に帰った俺は、夕食もそこそこに部屋に籠もると、先生にどんな性癖を刷り込もうかと考える。
どんなのがいいかなぁ……
やっぱりエロエロなのがいいよな……
となると、無様系か痴女系かなぁ……
SMの趣味はあんまりないから、被虐・嗜虐系はちょっとパスかなぁ……
ご主人様って呼ばれたい気はするから、献身系も行っておくかなぁ……
たまんないなぁ……
俺は貯金通帳を取り出して、残額を確認する。
うーん……
昌和は3万つぎ込んだって言ってたなぁ……
わかるなぁ……
たくさん性癖刷り込みたくなるもんなぁ……
どうしようかなぁ……
とりあえず俺は刷り込みたい性癖を紙に書き出してみる。
無様系からはメスブタ化と鼻フック&ブタミミ、それに犬おしっこ……
献身系からは無料のご主人様呼びと土下座挨拶は確定で、あとはフェラ好きと浴室奉仕かなぁ、あっ、パイずりも入れなきゃ……
痴女系からはこれも無料のスカート持ち上げ見せと谷間見せは入れて、それと下着露出に視姦趣味……あとはチンポ中毒(単)と……
被虐・嗜虐系は無料のも入れなくていいか……
うわ、全部でいくらだ?
9個?
4万5千円?
いや、それはちょっと無理。
えええ……で、でもなぁ……
うーん……迷うなぁ……
散々迷った挙句、俺は犬おしっこと浴室奉仕を外して7個にする。
それでも3万5千かぁ……
あと1個削らないとダメだぁ。
フェラにするかパイずりにするか……
フェラにするかパイずりにするか……
ううう……もうちょっと貯金しておくんだった……
宝くじでも当たらないかなぁ……
はあ……
支払ってしまった……
うう……
結局パイずりは来月の小遣い待ちということにして、今回はフェラにしたけど……
3万は大きい……
でも……
でも、千村先生を好きにできるとなれば……
うん……元は取れる!
コンビニで貯金を下ろし即その場で支払いを済ませた俺は、さっそくアプリで選択した性癖をチェックして決定ボタンを押す。
特に制限はかからなかったようだけど、いきなり10個もの性癖を刷り込んでしまっても大丈夫なんだろうか……
あれ?
ちょっと心配になってしまったぞ。
合計12個もの性癖だ……
千村先生……壊れたりしないよね?
うう……
二回に分けたほうが良かったか?
俺の心配をよそにそれぞれの性癖のバーが次々と100パーセントに達していく。
刷り込み完了の文字が表示され、トップ画面へと戻る。
ふう……
やってしまった……
もう後戻りはできないんだろうなぁ……
******
「おはよう」
にやにやといやらしい笑いを浮かべた昌和が早々にやってくる。
「おはよう」
「どうだったどうだった? 千村先生に性癖見せてもらったか?」
「ああ……まあ、うん」
俺は何となく気恥ずかしくなる。
見せてくれたのは千村先生だけど、刷り込んだのは俺なんだから、あれって……俺の性癖かもしれないよなぁ……
「うひひひ……何させたんだ? 何させたんだぁ? 言ってみろよほら」
「うるさいなぁ。別に俺が何をさせたかなんていいだろ。それなりにエロいことだよ」
うん……まあ……エロいこと……だよな、エロ蹲踞って……
「ちぇっ、まあ、言いたくないってのはわかる。俺も麗華にどこまでさせているのか言うのは恥ずかしいしな」
この野郎。
わかっているなら言わせるなよ。
「で、課金はしたのか?」
「……した」
「うんうん、しちゃうよなぁ。わかるわかる。で、いくら?」
「3万」
「さんまんーーーー?」
「バカ! 声が大きい!」
周りの連中がこっち見るだろうが!
「わりぃわりぃ。それにしても3万かぁ。ずいぶんと思い切ったな」
「貯金が無くなった……」
「だろうなぁ。まあ、俺も人のことは言えんが……」
そういえば、こいつも3万つぎ込んでいるんだったな……
「それにしても一気に6個か。すごいな。俺は1個ずつ追加していく感じだったが」
「無料のも入れると10個なんだが……まずかったかな?」
そっか……やっぱりいっぺんに入れたのはまずかったかなぁ……
「さあ……ま、そのうちわかるんでね? 一時間目数学だし。千村先生ものすっごいエロくなって現れたりして」
「う……」
俺はドキッとした。
まさか……クラスの連中の前で昨日みたいなことやったり……しないよな……
俺の不安は幸い的中しなかった。
その代わり、新たな不安が襲ってきた。
一時間目に千村先生は来なかったんだ。
なんでも具合が悪いとかでお休みをもらったらしい。
嘘だろ……
もしかして……俺のせいか?
「やっぱりやりすぎたのかなぁ……」
放課後、帰り支度をしながら俺は昌和にそう言ってみる。
「さあなぁ。俺は麗華でそんなことになったことないからよくわからん」
そうだよなぁ……
ちなみに三崎さんは、教室の出口でこちらをちらちらと見ている。
昌和のことが気になっているみたいだ。
ああ……彼女はいったいどんな性癖を刷り込まれたんだろう……
フェラをさせたりアナルを舐めさせたりしてるとは言っていたみたいだけど……
あのかわいい口で昌和のお尻を舐めたりしているのか……
「まあ、様子見するしかないんじゃないの? 明日んなったらケロッとして学校来るかもしれないんだし。それこそ素っ裸で来たりしてな」
あはははと笑う昌和。
「お前なぁ!」
さすがにそんな刷り込みはしてないぞ!
「まあまあ、じゃ、俺行くわ。麗華が待っているみたいだし。うひひひ」
いやらしい笑いを浮かべて昌和は去っていく。
彼の後を追うように三崎さんもついていった。
あいつめ……これから彼女とやるつもりか?
「はあ……」
とぼとぼと帰り道を歩きながら、俺は千村先生のことを考える。
本当に大丈夫だろうか……
やっぱり10個いきなりはパンクしたのかなぁ……
明日、なんともなく学校に来てくれればいいけど……
状況を確認しようにも、先生のLINEも電話番号も知らないし……
プップッと背後からクラクションが鳴らされる。
おっと、ぼんやりして路側帯からはみ出したか?
すぐに道の端に寄ったつもりだったが、白い軽自動車が俺の隣に来て止まる。
うわ、文句言われるかな?
「さ、さ、さ、崎向君」
助手席側の窓が開いて、中から俺の名前を呼んでくる。
「はい?」
俺が車内を覗き込むと、運転席にサングラスをかけたオッパイの大きな女性が……
「ち、千村先生?」
「の、乗って。お願いだから、乗って」
「あ、は、は、はい」
俺は言われるままに助手席に乗り込んでシートベルトを着ける。
「…………」
それを見て無言で車を走りださせる千村先生。
な、なんだ?
なんで先生がこんなところに?
「先生?」
「ああ……あああああああ……あああああああ」
「先生?」
「あああああ……やってしまった……どうしよう……どうしたらいいの?」
なんだか少し震えてるんですけど。
大丈夫ですか?
「先生?」
「あああああ……さ、崎向君、お、お願いだから黙って乗ってて……」
「あ、は、はい……」
俺はそういうしかない。
「ああああ足元ににに、まままマスクとさささサングラスがあるから、つつつつ着けてください」
見ると俺のシートの足元に紙袋があって、中から風邪を引いた時に着けるようなマスクとサングラスが出てきた。
仕方がないので俺はマスクを着けてサングラスをかける。
「あああああありがと……ほほほほ本当なら、せせせ先生とせ生徒がここここんなことしちゃいいいいけないのかもしれないんだけど……」
「先生落ち着いて。落ち着いてください。俺は大丈夫ですから」
「あ、あ、ありがと……わ、私……たぶん、たぶん狂っちゃったんだと思う……」
「は?」
狂った?
どういうこと?
しばらく走ると、車はマンションの駐車場に着く。
「ふう……あ、あの……つ、付いてきて」
「あ、はい……」
俺は車を降りて、千村先生の後に着いてマンションに入る。
そのままエレベータで4階に上がり、一つの部屋に着く。
「千村?」
表札にはそう記されている。
「もしかして先生の?」
無言でうなずく先生。
鍵を開けてドアを開ける。
入れということらしい。
俺はなんだかドキドキしながら部屋に入った。
「そ、そこに座って」
リビングにはテーブルとテレビとソファがある。
キッチンと一つになっていて、冷蔵庫なんかも置いてある。
奥は多分寝室になっているんだと思うけど、今はドアが閉じられていた。
「あ、はい」
俺はとりあえず言われたとおりにソファに座る。
すると、先生は前にあったテーブルをずらし、ソファの前を広くした。
「さ、さ……崎向君……も、もうサングラスとマスクは取っていいわ……」
その広くなったスペースにやってきて、俺の前に立つ千村先生。
先生はもうすでにサングラスはかけていない。
俺もマスクとサングラスを外して脇に置く。
とりあえず先生は元気そうだけど……
よかった……のかな?
「ご、ごめんなさい!」
いきなりガバッと土下座をする先生。
「えっ?」
「い、いきなりこんなところに連れてきてごめんなさい」
「あ、ああ、そのこと……」
「ごめんなさい。本当にごめんなさい。私ホントにどうかしているんです。きっと私は狂っちゃったんだわ。夕べから本当にもうどうしようもなくて……」
床に頭をこすりつけるようにして土下座をする先生。
「先生……」
「い、今も……今もそうなの……私……私、こうして崎向君に頭を下げて……すごく気持ちいいの……」
「へ?」
思わず変な声が出てしまう。
「ああ……気持ちいいの……崎向君に土下座するって……気持ちいいの……私もうおかしくなっちゃったの」
あ……そうか……
刷り込んだ性癖の中に土下座挨拶ってあったっけ……
「せ、先生」
「あ、あの……お願いがあるんだけど……」
先生が顔を上げる。
「お願い? 何?」
「さ、崎向君のこと……ご、ご主人様と呼んでもいいですか?」
「あ……」
ご主人様呼びも入れてたな……
「う、うん……いいけど」
「本当ですか? ありがとうございます。今日からは崎向君は私のご主人様です」
ぱあっと嬉しそうな顔をして再び頭を下げる先生。
「先生? もしかして……やっぱり、気持ちいい?」
「はい! さっきからずっと……車に乗せたときからご主人様って呼びたくてうずうずしてました。すごく気持ちいいです、ご主人様」
顔を上げてうっとりとした表情をする千村先生。
うわぁ……
これはすごいや……
「で、でも先生……今日は具合悪いから学校休むって……大丈夫なの?」
「はい。その……昨晩からずっと……ご主人様のことが脳裏から離れなくて……あれもしたい、これもしなくちゃって、もうそれしか思い浮かばないんです。だから、きっと私はもう狂っちゃったんです。今だってこうしてご主人様を誘拐のようにしてここへ連れてきちゃいましたし……」
「ああ、まあ、それはいいんだけど……」
「今朝ももう、あれを用意しなきゃ、これも準備しなきゃって思うと、学校になんて行っていられなくて……休んじゃいました」
うわぁ……
ごめん先生。
それ、みんな俺が悪い。
俺はなんだか冷や汗が出てきた。
「ご主人様、ちょっと待っててもらえますか?」
「あ、うん……」
先生は俺に頭を下げると、立ち上がって奥の部屋へと入っていく。
ふう……
こうなるのかぁ……
10個もいきなり刷り込んだからなぁ。
頭の中がもうその性癖のことしか考えられなくなったんだろうなぁ……
でも……
先生に土下座され、ご主人様って呼ばれるのは……悪くないなぁ……
うひひひひ……
「お……お待たせしました……ご、ご主人様……」
俺は息を飲んでしまう。
うわぁ……
せ、先生……
なんて恰好を……
戻ってきた先生は、抜けるような白い肌にレースで縁取りされた黒いブラジャーとパンティを身に着け、手には二の腕までの長さの黒い手袋を、脚には太ももまでの黒いストッキングを穿いていた。
それだけならまだしも、先生は鼻には首輪から頭の後ろを通してつながった鼻フックを引っかけており、頭にはブタミミの付いたカチューシャを着けていたのだ。
「は……恥ずかしいです……ブヒィ」
耳まで真っ赤になりながらも、手を後ろで組んで立っている先生。
なんていうかたまらなくエロいんですけど。
「先生……」
「ど、どうですか? わたし……メスブタに見えますか? ブヒブヒィ」
「う、うん……すごくいいよ……」
なんていうか、もうエロゲに出てくるメスブタ女性そのものじゃん。
最高です!
「は、恥ずかしい……」
そう言いながらも両手を頭の後ろで組み、昨日と同じようにエロ蹲踞してくれる先生。
「ブヒィブヒィ……ああ……恥ずかしい……でも……でも気持ちいいです……ブヒィ」
なんともうっとりとした顔をする先生。
うわぁ、たまんねぇ……
俺は思わず股間が痛いほど勃ってしまっていることに気付く。
「先生……すごいよ……最高だよ」
「ああ……うれしいです。私も……私もご主人様に見てもらえて気持ちいいです。もっと……もっと見てください。ブヒブヒィィィ」
蹲踞姿勢のまま腰を前後に振る先生。
「先生……俺、俺もうダメだよ。我慢できないよ。俺のチンポしゃぶってもらってもいい?」
「ああ……はい、もちろんですぅ。朝からずっとご主人様のおチンポ欲しかったの。ご主人様を校門でずっと待ち伏せしていた時も、ご主人様のおチンポはどんなだろう……ご主人様にハメハメしてもらったらどんなだろうってずっと考えてました。ああん……ご主人様のおチンポぉ、ブヒブヒィ!」
俺がズボンを下ろすと、まるで餌をもらえるかのように先生が飛びついてくる。
そうだよ……先生にはチンポ中毒も刷り込んだんだった。
今の先生はもう俺のチンポなしではいられないだ。
はは……ははははは……
俺はチンポにむしゃぶりつく先生を見下ろし、その口内に思いっきり出す。
口の中で俺の精液を味わっていく先生。
たまらねぇ……
なんてエロい表情なんだ……
俺はその後もアプリで刷り込んだ性癖を、時間の許す限り全部先生にさせるのだった。
******
******
昼休み。
俺はスマホを取り出して、“彼女に性癖刷り込み隊”のアプリを開く。
ご利用ありがとうございました。当サービスは〇月X日をもって終了させていただきました。ご愛顧を賜り、本当にありがとうございましたの文字。
ふう……
やっぱり変わらないか。
まあ、サービス再開なんてありえんよな……
あの日から数日後の突然のサービス終了。
なんでもど派手に、性癖刷り込みをオープンモードでやってしまう者が何人も出たらしい。
おかげであちこちで痴女が出現することになり、サービス終了の憂き目にあったんだとか。
いやいや、そうなるでしょ、当然。
クローズでやったって俺を無理やり拉致してしまうようなものなんだもの。
俺は思わず苦笑してしまう。
「残念だよなぁ」
「ん? サービス終了がか?」
俺のスマホ画面を覗き込んだ昌和に俺は尋ねる。
「ああ……もう一人くらい性癖刷り込んで楽しみたかったんだけどなぁ」
心底残念そうにうなだれている昌和。
おいおい、三崎さんだけじゃ足りないのかよ。
それに……
「金が続かねぇだろうがよ」
「そこはそれ、ほら麗華に稼がせて……」
「お前鬼畜だな!」
「わははは、冗談だよ」
まったく、冗談に聞こえんぞ。
「ほらほら、いつまでしゃべっているの? 五時間目始めるわよ」
教室に千村先生が入ってくる。
そういえばもう予鈴が鳴っていたんだったか。
昌和は急いで席に戻っていき、俺はスマホを片付ける。
先生は俺の方をちらっと見ると、もうそれだけで感じてしまうのか、必死に平静を保とうとするのが見え見えだ。
バレたらどうするんだっての……
******
「ブヒブヒィ! ご主人様、ご主人様ぁ」
嬉しそうに俺のチンポに頬擦りする先生。
まったく……
放課後の学校でこんなことやってるのがバレたら大変だぞ……
せめて夜まで待てなかったのかよ……
待てなかったんだろうなぁ……
「んん……んちゅ……ご主人様のおチンポぉ……美味しいれすぅ……」
べろべろと俺のチンポをしゃぶってくる先生。
ご丁寧に鼻フックやブタミミカチューシャまで学校に持ってきているのだ。
「先生……数学準備室でこんなことやってたら……」
「いいれす……」
「へ?」
「見つかってもいい……学校なんかもうどうでもいいですぅ……ご主人様さえいればそれでいいの。ブヒブヒィ」
おいおい……
俺の方がヤバいだろうが……
サービス終了でもしかしたら元に戻るのかもと思っていたけど、先生も三崎さんも刷り込まれた性癖はそのままだった。
おかげで俺はこうしてチンポ中毒になったメスブタを一匹手元に残すことになったわけだが、ある意味ギリギリだったんだなぁ。
もう一週間もあとだったらサービス終了してたんだもんなぁ。
運が良かったんだろうなぁ。
「うっ」
先生のフェラに俺はあっさりと射精してしまう。
「ああん……美味しいです、ご主人様ぁ」
俺の精液を味わって飲む先生。
「ブヒブヒ……今度はメスブタのお尻にもくださいませぇ」
下着姿でお尻を俺に向けてくる。
アナル好きは入れなかったはずなんだけど、チンポ中毒の副作用みたいなもので、すべての穴に入れてほしくなってしまったらしい。
「夜まで待て! 服を着ろ!」
俺は先生のお尻をぺチンと叩く。
「ブヒィ……そんなぁ……」
「夜になったら先生の部屋でちゃんとやるから」
「はぁい、ご主人様ぁ」
しぶしぶブタミミカチューシャを外す先生。
はあ……
ちょっと性癖を刷り込みすぎたかなぁ……
やれやれ、これじゃ躰が持たないよ……
そんなことを考えながらも、俺はこのかわいいメスブタに満足しているのだった。
END
いかがでしたでしょうか?
よろしければ感想コメントなどいただけますと嬉しいです。
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2021/07/20(火) 20:00:00|
- 催眠・洗脳系
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ブログ16周年記念SS、「闇に咲く美しき毒花」も今日が三回目。
最終回となります。
闇の毒花ビアンドラゴラとなってしまった梓紗。
彼女の次の行動は?
お楽しみいただければ幸いです。
******
「結局何も手掛かりはつかめずか……」
夜が明け、ギラットレンジャーの五人は本部に戻ってくる。
「ああ……あのあとは何も起きなかったようだしな」
仁の言葉に道太がうなずく。
一晩中警戒を続けたものの、街は静かなままだったのだ。
「今回の敵は何を考えているのかしら……」
「人を襲って白骨化するなんて、恐ろしいやつには違いないんですが、どうも目的が読めませんね」
涼美も晃も首をかしげる。
今までのただ暴れる魔獣とは全く違うようなのだ。
いったい何が目的なのか……
ふふふ……
思わず笑いがこみあげてくる梓紗。
この連中は目の前にヤミンゲルの魔獣人がいるというのに、全く気が付いていないのだ。
擬態に簡単に騙されてくれている。
これなら一人ずつおびき出して襲えば、案外簡単に始末できるかもしれない。
でもそれではつまらない。
ただこいつらを始末するだけでは飽き足らない。
こいつらには絶望を味わわせたいのだ。
皇帝陛下の邪魔をする愚か者たち。
一緒の空気を吸うことすら忌々しく感じてしまう。
「梓紗? どうかした?」
「えっ?」
涼美に声をかけられ驚く梓紗。
「な、何か?」
「ううん、何も言わずに私たちを見ているようだったから」
「あ、いえ、別に……みんなと同じく、今度の敵のことを」
首を振ってごまかす梓紗。
いけないいけない。
今はまだ疑念を持たれるのは得策ではないだろう。
できれば……もう一輪咲かせたい……
「みんなご苦労だった。残念ながらいまだ敵の正体はよくわからん。だが、今晩にもまた動きがあるかもしれん。昼間の警戒は警察などに頼むとして、諸君は夜に備えて休息を取ってくれたまえ」
みんなを前にして虹倉司令が指示を下す。
「「「了解」」」
五人は一斉に敬礼し、本部を後にした。
「梓紗はどうするの?」
「えっ?」
詰所に戻った梓紗に涼美が声をかけてくる。
「このあと夜までどうする? 仮眠室で仮眠?」
「ううん、ちょっと行きたいところがあるから外出するわ。夜には戻ってくる」
首を振る梓紗。
「そっか、ところで……香水、変えた?」
「えっ?」
「いつもとは違う香りがするのよね。なんていうか甘いいい香り。もしよかったら、使っている香水を教えてくれないかなと」
ウインクをしながら小声でそっと言う涼美。
梓紗は思わず苦笑してしまう。
「ごめん。いただきものだからちょっとよくわからないのよ。そんなにいい香り?」
「うん。甘くて惹かれる感じの香りね」
「そう……」
いけない……
私の花の香りが擬態しても漏れているんだわ……
注意しないと気付かれてしまうかも……
「じゃあ、気を付けてね」
「うん、行ってくるね」
梓紗は涼美に手を振って足早に詰所を出る。
まさか香りの違いに気付かれるなんてね……
彼女はどうしようかしら……
どうするにせよ、早めに手を打った方が良さそうね……
うふふふふ……
******
「お待たせー。遅くなってごめんね」
ドアを開けて助手席に乗り込んでくる髪の長い女性。
梓紗の先輩である羽賀谷早奈恵だ。
今日はゆったりとしたワンピースに身を包んでいる。
「いえいえ、私の方こそ突然呼びだしたりしてすみません、早奈恵先輩」
運転席から挨拶をする梓紗。
先ほど連絡をして、早奈恵をこのコンビニの駐車場まで呼びだしたのだ。
「ううん、いいのいいの。梓紗から話があるって言われたら、来ないわけにはいかないでしょ。今日は土曜日で休みだったし」
にこやかに答えて早奈恵はシートベルトを締める。
「ええ……早奈恵先輩にちょっとお願いがあって……ふふ……」
梓紗の口が妖しい笑みで歪み、ぺろりと舌なめずりをする。
「お願いー? なーんかヤバいお願いとかじゃないでしょうねー? アハハッ」
早奈恵は全く気が付いていない。
「それじゃちょっとドライブに付き合ってくださいね」
梓紗は車のエンジンをかけ、コンビニの駐車場から走り去った。
「あ……あぐ……あ……」
躰を硬直させている早奈恵。
いったい何が起こったのかよくわからない。
甘い香りと黄色いガスのようなものが車内に広がったかと思うと、まったく躰がいうことを聞かなくなってしまったのだ。
「んふふ……ねえ、早奈恵先輩……私の香りはいかがですか? 涼美さんは甘くて惹かれる香りだって言ってくれたんですよ。うふふふ……」
「あ……あず……さ……」
いつもと様子の違う梓紗に早奈恵は恐怖を感じる。
「ふふ……怖がらなくていいですよ早奈恵先輩。早奈恵先輩を食べるつもりはありませんから」
梓紗の唇をぺろりと舌が舐める。
「あな……た……」
躰がまったく動かない早奈恵。
かろうじて声を出せるだけ。
助けを呼ぶこともできないのだ。
「ねえ、早奈恵先輩。早奈恵先輩は暗黒帝国ヤミンゲルってご存じですか?」
くすくすと小さく笑いながら梓紗は車を走らせる。
どうやら郊外の人気のない山の方へと向かっているようだ。
「や……み……?」
「暗黒帝国ヤミンゲルです。強大なお力を持つ皇帝陛下が治めていらっしゃる素晴らしい国で……私ったら、愚かにもその偉大なる帝国と戦っていたんですよ。バカみたいだと思いません?」
梓紗の目は皇帝への崇拝に満ちている。
「ど……どう……」
「どうしてバカみたいだと……ですか? だって……この世界は闇こそが支配するべき世界だと思いません? 偉大なる暗黒帝国の皇帝陛下こそがこの世界を支配するんです。そして世界は闇に覆われる。そうしたら……私はとても美しく咲くことができるんですよ。闇の毒花、ビアンドラゴラとして」
「ビア……ド……」
けらけらと笑っている梓紗を見て、早奈恵の目が驚愕に見開かれる。
いったい梓紗はどうしてしまったというのだろう?
なにがあったというのだろう?
「うふふ……早奈恵先輩、知ってました? 先輩は選ばれていたんですよ。ビアンドラゴラにふさわしい……闇に咲く毒花にふさわしい女として選ばれていたんです」
「わた……し……が?」
「ええ……でも、たまたまそばにいた私が、早奈恵先輩が受け取るはずだった種をもらっちゃったんです。ごめんなさい。でも……」
ハンドルを握る梓紗の服の袖が変化し、シュルシュルと紫色の葉の付いた蔓が伸びてくる。
「ひっ!」
「そのおかげで私は咲くことができました。闇に咲く毒花ビアンドラゴラとして。うふふふふ……」
「ひっ! ひあっ!」
蔓は早奈恵のワンピースのスカートの下に向かって伸びていき、そこからスカートの内側へと入り込む。
「うふふふ……早奈恵先輩。せっかく“挿し木”をするのにふさわしい場所があるのに、布切れで隠しておくなんてダメですよ」
山道に入ったところで車を止める梓紗。
ここならば邪魔は入らないだろう。
「ねえ、早奈恵先輩。ビアンドラゴラは種で増えるばかりじゃなく、“挿し木”でも増えることができるって知ってました?」
梓紗の蔓が早奈恵のショーツを引き下ろす。
「いや……やめて……いや……」
早奈恵の目の前で、梓紗の姿が変わっていく。
頭部には赤と黄色の毒々しい花が咲き、躰は黒い胴体に紫色の葉が付いた蔓が巻き付いていた。
「うふふ……早奈恵先輩も、私と一緒に咲きましょうね」
花托に付いた真っ赤な唇が笑みを浮かべ、腕から延びた蔓が早奈恵の秘所に潜り込んでいく。
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
早奈恵は麻痺した躰で必死に悲鳴を上げた。
茜色に染まる夕暮れの住宅街。
早奈恵の家の前にピンクの車が一台止まる。
カチャリと助手席のドアが開き、ゆったりとしたワンピースを身に着けた髪の長い女性が車を降りる。
「ふふ……それじゃ早奈恵先輩。たっぷりと養分を摂ってくださいね」
梓紗が運転席から声をかける。
先ほど自らの蔓の一部を差し込み、彼女に“挿し木”してやったのだ。
「ええ……そうするわ……」
うつろな表情でそう答える早奈恵。
「ふふ……」
ややフラフラとした足取りで家の中へと消えていく早奈恵を見送ると、梓紗は車を本部へと向けるのだった。
「ふーむ……面白いこととはこういうことだったのか……」
闇虫から送られてくる映像を見て感心するキーラーガ。
ギラットレンジャーを葬るには少し時間を下さいと言っていたが……
梓紗がビアンドラゴラとなった今、偵察用の闇虫は常に彼女のそばにいても何の問題もない。
むしろ梓紗自身も積極的に闇虫を受け入れており、バッグの中に闇虫を忍ばせて、ギラットレンジャーの本部に忍び込ませる手伝いをしているくらいだ。
もはや彼女は完全にヤミンゲルの手先となったと言っていいだろう。
そして、ヤミンゲルのためにさらなる仲間まで増やしてくれようというのだろうか?
“挿し木”で増えることができるということだが……もしそうなら、なんとも頼もしいではないか。
「ただいま戻りました」
何食わぬ顔で本部に戻ってくる梓紗。
「お帰り」
「お帰りなさい」
詰所にいたほかのメンバーたちが出迎える。
外に出ていたのは梓紗だけのようで、他のメンバーはずっと詰所で待機していたようだ。
まあ、夜に備えて仮眠を取ったりしなくてはならないし、外に出て何かするという気にもならなかったのだろう。
梓紗が外で何をしてきたかなど気にもしていないに違いない。
「梓紗、今からだともう仮眠をとる暇はなさそうだけど、どうする?」
道太が心配そうに言ってくる。
暗に少し仮眠を取ってからでもいいぞと言ってくれているのだ。
「別にいいわ。今の私は夜の方が調子いいくらいよ」
ふふっと笑う梓紗。
魔獣人となった今、一日二日睡眠をとらないくらいどうということもない。
「そうか、それならいいんだが……」
「無理しないでいいのよ」
「大丈夫。街の巡回でしょ? 行きましょう」
道太と涼美に笑顔を見せる梓紗。
「よし、それじゃ行くか」
「今日こそ敵の正体を暴いてやりませんとね」
「ああ、これ以上好き勝手させるわけにはいかないからな」
仁はバイクのヘルメットを、道太や晃はエンジンキーを手に詰所を出る。
「私たちも行こうか。何とか手掛かりを見つけましょ」
「ええ……そうね……ふふ……」
涼美と連れ立って梓紗も出る。
その口元には冷たい笑みが浮かんでいた。
******
深夜、一軒の家の前にピンク色の軽自動車が止まる。
閑静な住宅街の中の一軒。
そこは夕方に梓紗が早奈恵を送り届けた家だ。
今は家の中は真っ暗で、明かりは点いていない。
車を降りた梓紗は周囲を一瞥すると、その家に歩み寄る。
ドアノブを回すと簡単にドアが開く。
鍵はかかっていない。
理由は簡単だ。
中に入った者がドアの鍵をかける前にこうなったからだろう……
梓紗の足元に死体が転がっている。
頭をぐちゃぐちゃに潰され、玄関中に血肉が飛び散っている。
おそらく中に入ってドアを閉めたところで一撃を受けたのだ。
梓紗がドアを開けたことで、玄関の外にも血が流れだしたかもしれないが、気にすることはないだろう。
気付く者などそうはいない。
ぐちゃぐちゃになった男の死体を越えて奥に進む。
甘い香りがとても濃い。
きっときれいに咲いたのだ。
二輪目の美しい闇の毒花が。
リビングにその花は咲いていた。
プロポーションの良い真っ黒な女の躰をした茎。
全身にはトゲと紫色の大きな葉が広がった蔓が絡みつき、首から上の花托には真っ赤で毒々しい唇が笑みを浮かべている。
さらにその上には見事に開いた花が咲いており、内側が黄色、外側が赤の花弁が広がっていた。
まさに女と毒花が融合した美しい姿。
ビアンドラゴラの花が咲いていたのだ。
「ふふ……素敵。とてもきれい。もう養分も吸ったのね」
見るとビアンドラゴラの足元には白骨が二人分転がっている。
「早奈美ちゃんも食べちゃったんだ。ちょっともったいなかったかな。彼女もいい花を咲かせそうだったのに……」
「あの子がいけないの……」
ビアンドラゴラがぽつりとつぶやく。
「お母さんだけでやめようとしたのに……悲鳴を上げて逃げようとして……それがとってもおいしそうで……あの子がいけないのよ」
くすくすと笑うビアンドラゴラ。
「毒花粉で麻痺させて……蔓でからめとって引き寄せて……トゲの毒で殺してあげたわ……とってもおいしかった」
紫色の舌がぺろりと唇を舐める。
「うふふ……もうすっかり身も心も花が広がったのね。やっぱり“挿し木”だと種からよりも早いみたい」
梓紗の姿が変化し、毒々しい闇の花が花開く。
二輪の闇の花はゆっくりと近づくと、お互いに抱き合って蔓を絡め合い、唇を重ねていく。
「ぷあ……ああ……素敵……美しいわ、ビアンドラゴラ」
「ああん……あなたのおかげよぉ……あなたのおかげで私もこうして美しく咲くことができたわぁ」
「これからは一緒に闇の世界で咲き誇りましょうね……」
「ええ、もちろんよぉ……私たちはビアンドラゴラ。闇の中で咲く毒花」
愛しそうに舌を絡め合う二輪の毒花。
闇に咲く美しい毒花たちだ。
「ふふ……これからは私はヴィアと名乗るわ。ビアンドラゴラ・ヴィアよ」
元は梓紗だったビアンドラゴラが、もう一輪に新たな名を告げる。
「あん……すると私はデューよね? ビアンドラゴラ・デュー」
早奈恵が咲いたビアンドラゴラもそれに応える。
「ええ、そうよ。デュー」
「うれしいわ、ヴィア。二人でもっともっと養分を摂りましょう。それに狩りも。さっき何も知らずに入ってきたお父さんを狩ったわ。すごく楽しかった……」
「ううふ……それはよかったわ。でも、その前にやることがあるの……」
唇をさらに重ねようとしたデューをそっと押しとどめるヴィア。
「手伝ってくれるわね?」
「ええ、もちろんよ、ヴィア」
二輪の闇の花はお互いにうなずき合った。
「えっ? 怪しい影?」
涼美はすぐに車を止める。
彼女の車は黄色のスポーツタイプ。
行動派の彼女はこの車がお気に入りで、プライベートでも時々乗り回すことがあった。
「本当なの?」
『はい。黒い影が住宅の一軒に忍び込むのを見たんです』
ブレスレットから梓紗の声が聞こえてくる。
ギラットレンジャーのブレスレットは通信機にもなっているのだ。
「わかったわ。すぐに行く。場所はどこ?」
『K-4ブロックです』
「了解。ここからなら10分もかからないわね。他のメンバーにも……」
『それはまだ待ってください』
「えっ?」
梓紗の意外な返事に涼美は驚く。
『まだヤミンゲルと決まったわけじゃありません。もしかしたらその家の住人が帰宅しただけかもしれないし、ヤミンゲルだとしても私たちが動いているのを知っての陽動の可能性もあります』
「あっ……」
確かに梓紗の言うとおりだ。
怪しい影というだけならば、ヤミンゲルの戦闘員ヤミゾーがこちらの注意を引き付けるために動いているという可能性は捨てきれない。
もしメンバーが全員一か所に集まった隙に別のところで活動されては……
「わかったわ。とにかくすぐにそっちに行く。一人では危険だから待ってて! 二人で影の正体を確認し、その上で魔獣とかだったら他のみんなを呼べばいいわ」
『ええ、私もそう思っていました。涼美さん、早く来てください!』
「了解!」
涼美はアクセルを吹かして車をUターンさせる。
黄色のスポーツカーは、K-4ブロックに向けて、夜の闇を疾走した。
ヘッドライトに照らされるピンクのかわいらしい車。
そのそばには梓紗が待っている。
涼美はすぐに車を止めて外に出た。
「お待たせ。怪しい奴はどこに?」
「あの家です」
梓紗が指さす先には一軒の二階建ての分譲住宅がある。
窓からは明かりは見えず、真っ暗だ。
「中に入っていったの?」
「ええ……」
梓紗がうなずく。
「どれくらい経った?」
「連絡するちょっと前でしたから、10分ちょっと……」
「そう……中の人が心配ね」
「ええ……でも物音や悲鳴のようなものは何も」
首を振る梓紗。
「とにかく行ってみましょう」
「ええ」
涼美が小型ライトを取り出して先に立ち、梓紗がそのあとに続く。
その梓紗の口元には笑みが浮かんでいる。
「うっ……」
ドアを開けた涼美は思わず顔を背ける。
ライトに照らされた玄関先には、ぐちゃぐちゃになった男性の死体。
スーツ姿のところを見ると、帰宅して玄関に入ったところをやられたのかもしれない。
おそらく手口から言ってこれまでと同じやつだ……
「梓紗、気を付けて……奴だわ」
「……ええ……」
梓紗の声を背後に聞き、涼美は死体を避けるようにして奥へ進む。
とにかく正体を確かめなくては……
いつでもスーツをまとえるように、ブレスレットを準備しておく。
奴はまだこの家の中にいる?
慎重に足を進めて、リビングの入り口から中を覗く涼美。
甘い香りがムワッと立ち込めている。
これは?
梓紗の付けている香水と同じ香り?
涼美がそのことに気付いた時、ライトに照らされた先に白いものが転がっていた。
白骨?
ライトに照らされたのは人間の頭蓋骨。
しかも二つも転がっている。
涼美は息を飲み、入り口の脇にある明かりのスイッチをオンにする。
リビングに明かりが点き、室内が明るくなったことで、涼美はそこに普通の家ではありえないようなものがあることに気が付いた。
花?
そこには大きな赤と黄色の花が咲いていたのだ。
しかもその茎というか躰は、色は漆黒ではあるものの人間の女性のような躰をしており、紫色の葉を広げた蔓が巻き付いているのだ。
花の下には薄笑いを浮かべた女の唇があり、足元には先ほどライトに照らし出された白骨が散らばっていた。
「魔獣ね!」
涼美はすぐにギラットイエローに変身するべく、ブレスレットを操作しようと右手を振り上げる。
だが、そのブレスレットをはめた右手が、背後からガシッと掴まれてしまう。
「えっ?」
思わず背後を振り返る涼美。
そこには彼女の腕をがっちりと掴んだ梓紗の微笑んだ顔があった。
「あず……」
涼美が梓紗の名を呼ぼうとした瞬間、梓紗の口から黄色いガスのようなものが吹きかけられる。
「あ……う……」
まったく予期せぬことで、涼美はなすすべもなくそのガスを吸ってしまう。
すぐに涼美の躰はしびれ、その場に崩れ落ちるように倒れ込んだ。
「んふふ……ダメですよ、涼美さん。気を付けてって言っていながら。背後にいるのが味方とは限らないんですよ」
倒れた涼美を冷たい笑みを浮かべて見下ろす梓紗。
「あ……ず……さ……」
「やめてくれません? その名前で呼ぶの。その名前は私が人間だった時の名前。今の私は闇の花ビアンドラゴラなんですよ」
「ビ……ア……?」
「ビアンドラゴラ。ふふっ……今見せてあげますね、私が美しく咲いた姿を」
梓紗はそう言うと、髪の毛が巻き付くようにしてつぼみを作り、ゆっくりとその花を咲かせていく。
躰も漆黒に染まり、紫色の葉の付いた蔓が躰に巻き付いていく。
足はブーツを履いたような形となり、花の下には赤い唇がニタッと笑っていた。
「そ……んな……まじゅう……」
涼美はしびれる躰を必死に動かそうとするが、ピクリとも動けない。
かろうじて言葉を途切れ途切れに話すだけである。
「うふふ……ただの魔獣ではないんですよ。私たちは魔獣人なんです。偉大なる皇帝陛下が生み出された人の知能を持つ魔獣なんですよ」
鮮やかに咲き誇る闇の毒花。
もう一輪も涼美を囲むように近寄ってくる。
ともにその口には笑みを浮かべ、涼美を見下ろしていた。
「うふふふ……うまくいったわね、ヴィア」
「ええ、涼美さんも他のメンバーも私がビアンドラゴラとして咲いたなんてちっとも想像もしていないんですもの。簡単だったわ」
二輪の花たちがくすくすと笑う。
「クッ……」
右手を必死に持ち上げようとする涼美。
せめてブレスレットで他のメンバーにこのことを伝えなくてはならない。
「ダメですよ、涼美さん。こんなものは外しましょうね」
梓紗が変化したビアンドラゴラが涼美のブレスレットを外していく。
「私の毒花粉をまともに吸ったから動けないとは思うけど、念のためにね」
外したブレスレットを離れたテーブルの上に置く。
「あ……ず……さ……」
涼美は外されたブレスレットを取り戻そうとするが、腕がまったく動かない。
「ねえ、涼美さん。私たちきれいに咲いたと思いません? 私、本当に偶然だったんですけど、皇帝陛下の作られたビアンドラゴラの種を埋め込まれたんですよ。おかげでこんな美しい花を咲かせることができたんです。うふふ……」
「そ……んな……」
「だから私、この素晴らしさを彼女にも教えてあげたんです。わかります? 彼女、私の先輩だった早奈恵さんだったんですよ」
「えっ?」
梓紗だけではなく、もう一体の魔獣人も人間だったというの?
愕然とする涼美。
「あん、ヴィアったら、それだって私が人間だった時の名前よ。今の私の名前はビアンドラゴラ・デューだわ」
「そうだったわね。ねえ、デュー。ビアンドラゴラとして花を咲かせた気分はどう?」
「もう、最高に決まってるわ。こんな素敵な花を咲かせることができてとっても幸せ。養分を摂るのも人間を殺すのも最高。うふふふ……」
「うふふふ……」
二輪の花が笑い合うのを見て絶望に打ちひしがれる涼美。
もう二人は完全に心まで魔獣人になってしまっている……
「ねえ、涼美さん? 涼美さんも私たちと一緒に咲きましょうよ。私、涼美さんにも“挿し木”をしてあげますね」
「あん、それはいい考えだわヴィア。“挿し木”をしてあげれば、彼女も私たちと一緒に闇の世界で美しく咲けるわね」
「ひっ!」
涼美の顔が青ざめる。
冗談じゃない。
化け物花にされるのなんて考えたくもない。
なんとか逃げ出さなくては……
涼美はそう思うものの、躰は全く動かない。
這いずることすらできないのだ。
涼美の目の前でビアンドラゴラの躰からトゲの付いた蔓が伸びてくる。
蔓は倒れている涼美のズボンを引き裂くと、ショーツをゆっくりと引き下ろしていく。
「ひ……いや……やめ……」
なんとか逃れようと必死で身を動かそうとする涼美。
だが、無防備の股間がさらされ、蔓の先端が入り込んでくる。
「い……いやぁぁ……」
涼美の口から小さな悲鳴が漏れた。
******
「おはよう。ふわぁぁぁぁ……眠い」
大きなあくびをしている仁。
梓紗はそれを見て思わず笑う。
朝になり、ギラットレンジャーのメンバーたちが本部に戻ってきたのだ。
それぞれが虹倉司令に報告し、この詰所にやってくる。
みんな眠そうなのは変わらない。
「結局昨夜は動きなしか……」
「我々の警戒を見て動くのをやめたのかもしれませんね」
コーヒーを飲んでいる道太と晃。
とりあえず被害が無かったことにホッとしているらしい。
「まあ、それならそれでもいいさ。被害がないというのは結構なことだ」
仁も自分のカップにコーヒーを注ぐ。
「ところで、涼美はどうした? まだ戻ってないのか?」
カップに口をつけ、この場にいない涼美のことをたずねる仁。
「さあ……」
道太と晃も顔を見合わせ、その視線が梓紗に向く。
「あ、ごめん。司令には伝えていたんだけど、巡回中に具合が悪くなったっていう連絡が来て……ちょうど私の先輩の家が近かったものだから、事情を言って彼女の家で休ませてもらっているの」
そう……
今頃彼女はデューの家で花を咲かせようとしているころだろう……
あとで美味しい養分を持って行ってやらないとね。
うふふ……咲くのが楽しみだわぁ。
梓紗はにやりと笑う。
「そうか。それならいいんだが、美彩先生に診てもらわなくても大丈夫か?」
「それは大丈夫。ちょっと疲れがたまったんだと思う。これから私も先輩の家に行って涼美さんの様子を見てくるけど、たぶん今晩のパトロールには参加できると思うわ」
心配する仁に梓紗は答える。
「そうか。じゃあ、みんなも仮眠するなりして休養を取ってくれ。昨日は被害が無かったようだが、ヤミンゲルの動きがはっきりするまでは、今晩も街の巡回を行うぞ」
「了解」
「OK」
「了解です」
仁の言葉に三人はうなずく。
被害が無かった……ねぇ……
そう思っているのはあなたたちだけだというのに……
梓紗はそう思い、詰所を後にした。
「あら、お帰りなさいヴィア。その娘は?」
玄関先で出迎えてくる羽賀谷早奈恵。
「ただいまデュー。ちょうど一人で歩いているところを見つけたので、毒花粉で麻痺させてやったの。彼女の養分にちょうどいいと思わない?」
ぐったりとした制服姿の女子高生を抱きかかえている梓紗。
その娘の目は恐怖に見開かれ、何か言いたそうに口をかすかに動かしている。
「まあ、美味しそうなかわいい娘。やっぱり養分にするなら女の子がいいわ。きっと彼女も喜ぶわね。ふふふ……」
その様子を見てぺろりと舌なめずりをする早奈恵。
梓紗は同意するように笑みを見せると、少女をそのまま家へと連れ込んだ。
リビングには裸の女性が一人寝かされている。
その胸にはすでに黒い葉脈のようなものが広がっていた。
梓紗はその様子を確認すると、少女を床に転がす。
もうじき日が暮れる。
闇が周囲を覆っていく。
そうなれば……
うふふふふ……
梓紗と早奈恵の顔に笑みが浮かぶ。
ハイヒールのブーツ状に変化した足。
その足元に白骨が転がっている。
血肉をすべて吸い尽くされた女子高生だ。
彼女を吸い尽くした巨大な花が、暗い室内に咲いていた。
「うふふ……おめでとう。花を咲かせた気分はどう?」
腕組みをしたビアンドラゴラが、新たに咲いた花に声をかける。
「はあ……ん……素晴らしいわぁ……なんて素敵なの? 養分を吸って花を咲かせることがこんなに素晴らしいことだったなんて……」
自らの躰をかき抱くように蔓を巻き付かせる新たなビアンドラゴラ。
もちろんそれは涼美が咲いた姿に他ならない。
「ふふふ……これであなたも私たちと同じビアンドラゴラね」
もう一輪の赤と黄色の花が近寄る。
いずれもほぼ同じ姿をした闇の花だ。
「ええ……私はビアンドラゴラ。闇に咲く毒花ビアンドラゴラなんだわ」
「それでいいわ。あなたはティレにしましょう。ビアンドラゴラ・ティレよ」
ビアンドラゴラ・ヴィアが蔓を伸ばして、ティレと名付けた新たな花を引き寄せる。
「これからは、ともに闇の中で咲きましょうね、ティレ」
「ええ……ヴィア」
二輪の花が唇を交わす。
「まあ、二人ともずるいわ……私にも蜜をちょうだい」
デューは唇をへの字に曲げた。
******
「もう大丈夫なのか涼美?」
「ええ、もうすっかり。ふふ……」
本部に戻ってくる梓紗と涼美。
他のメンバーはすでにそろっている。
「よし、ご苦労だが今晩も巡回だ。夜の任務は大変だろうが、敵の動きを封じ込めるという意味もある。怪しい動きがないか、しっかり見回ってもらいたい!」
「了解!」
「了解です!」
司令室で虹倉司令の指示を受け、五人はそれぞれ夜の街へと出動した。
「うふふ……ほんとバカみたい。探している敵とやらが目の前にいるのに気づかないんですもの」
ビルの屋上から街の夜景を見下ろす涼美。
昨日までは彼女にとってそこは守るべき人々のいる場所だった。
でも今は、美しく咲くための養分と狩りの獲物がいる場所にすぎない。
そしてその場所を守ろうとしている連中は、誰がそこを荒らそうとしているのかに気付かない愚か者たちなのだ。
「ふふふ……闇は私たちの世界。闇の中でこそ私たちは咲き誇れる。闇こそが私たちの居場所ね」
「今夜はどうするのヴィア? そろそろ私も養分が欲しいわ」
涼美と同じように街を見下ろす梓紗と早奈恵。
いずれもが擬態を解き、人間たちを襲いたくてうずうずしている。
「クックック……まさかビアンドラゴラが三つも咲くとはな……」
三人の女たちの背後に現れる甲冑姿の偉丈夫。
暗黒帝国ヤミンゲルの魔将軍キーラーガだ。
その存在に気付いた女たちは、すぐに彼の前にひざまずく。
「ふふふ……ギラットイエローとギラットピンクがそろって俺にひざまずくとはいい気分だ。もう一人も併せて、まさに闇の美しき花たちと言ったところか」
キーラーガは満足そうに三人を眺めやる。
「キーラーガ様、私はもうギラットレンジャーなどではありません」
顔を上げ、冷たく微笑む梓紗。
「私たちは闇の毒花、魔獣人ビアンドラゴラですわ」
誇らしげにそう口にする早奈恵。
「私たちをこのような美しい花として咲かせてくださいましたヤミンゲルには、感謝の言葉もございません」
崇拝の目で心からの礼を言う涼美。
三人はそれぞれが擬態を解いて花へと変わり始めていく。
すぐに周囲にはムワッとする甘い香りが広がり、赤と黄色の毒花たちが咲いていく。
「私はビアンドラゴラ・ヴィア」
「私はビアンドラゴラ・デュー」
「私はビアンドラゴラ・ティレ」
「「「どうぞ、私たちに何なりとご命令を」」」
三輪の鮮やかな毒花がキーラーガの前で咲きそろう。
まさに望みえる最高の結果ではないか。
おそらく、最初の予定通りに早奈恵に種を植えこんでいたならば、ここまでの結果にはならなかっただろう。
そう思えば、あれは何と幸運なことだったのか……
「うむ。ならばお前たちに命令する。これよりギラットレンジャーを壊滅させ、この世界を暗黒帝国ヤミンゲルのものとするのだ!」
「「「ハッ! 私たちにお任せを!」」」
右手をかざすようにして力強く命じるキーラーガに、花たちは一斉に頭を下げて応諾する。
その口元にはこれからの殺戮を思うのか、一様に冷たい笑みが浮かんでいた。
END
いかがでしたでしょうか?
よろしければコメントなどをいただけますと、とても励みになりますです。
これでSS第一弾は終了です。
明日はまた一本短編SSを投下する予定ですので、お楽しみに。
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2021/07/19(月) 20:00:00|
- 闇に咲く美しき毒花
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ブログ16周年記念SS、「闇に咲く美しき毒花」の今日は二回目です。
偶然が作用してビアンドラゴラという闇の食肉花の種を植え付けられてしまったギラットピンクの桃川梓紗。
一体どうなってしまうのか?
お楽しみいただけますと幸いです。
******
「はーあ……」
自宅の玄関を入り、盛大にため息をつく梓紗。
結局今日は一日中本部の休憩室でゴロゴロしていただけだった。
まあ、確かに朝の時点では本調子ではなかったし、いい休息になったと思えないこともない。
とはいえ、なんだか自分が一日役に立てなかったということで、罪悪感めいたものもある。
はあ……
とりあえず美彩先生からはちょっとした疲れだろうということで風邪ではなさそうだし、夕食も本部で済ませてきたので、今日はさっさと眠るとしよう。
美味しいもの食べてゆっくり寝なさいと美彩先生も言ってたしね。
梓紗はそう思い、シャワーを浴びてとっとと布団に入る。
やがてすぐに規則正しい寝息が聞こえてくるのだった。
「かくして女は眠りに就く。夜になっても変化なしか……」
キーラーガがふうとため息をつく。
飛ばしておいた闇虫の監視のリレーはうまくいった。
あの拠点を出た時点で新たな闇虫が梓紗の監視を交代し、この家まで付いてきて潜り込んだのだ。
この闇虫はここに潜り込ませておけば、梓紗というこの女の様子は手に取るようにわかるだろう。
できればほかのメンバーにも張り付かせたかったが、晃とかいう若い男に気付かれそうになったため、張り付けるのを断念した。
下手に気を引いては、拠点に入り込んだ闇虫にも気付かれるかもしれないし、この梓紗の家に入り込んだものまで怪しまれてしまうかもしれない。
ここはこの梓紗という女だけの監視でとどめておく方が無難だろう。
なぁに……奴らの正体はほぼ判明した。
容姿さえわかれば、闇頭脳が調べ出してくれる。
すでにメンバーのうちのもう一人の女性が黄野原涼美という名前であり、K・H・I、黄野原重工株式会社会長黄野原重蔵(きのはら しげぞう)の孫娘で年齢24歳ということも判明したのだ。
残りの連中の正体もすぐにわかるだろう。
そうなればたとえ今回の計画が不首尾で終わったとしても、次は各メンバーを個別に襲撃できるのだし、重要拠点も一ヶ所把握している。
ビアンドラゴラの種がどうなろうとも、ギラットレンジャーの始末はどうにでもなるに違いない。
それにしてもつまらん。
丸一日ただこの女の行動を見ていただけ。
ビアンドラゴラの種は本当に発芽するのだろうな?
まさか発芽しませんでしたでは済まんぞ。
いったいいつになったら発芽するのだ?
まったく……
『う……ううう……ああ……あああああ……』
「む?」
キーラーガが顔を上げる。
映像の中から苦しそうな声が聞こえてきたのだ。
どうやらベッドで寝ていた梓紗が苦しんでいるらしい。
「どうしたのだ?」
キーラーガが闇に浮かんだ闇虫からの映像をよく見ると、寝ている梓紗が身をよじって苦しんでいる様子が映し出されている。
布団を足で蹴り飛ばし、パジャマの前を引きちぎるようにして胸をはだけ出しているのだ。
明かりを消しているために室内は暗いが、闇虫からの映像には、そんなものは問題ない。
闇の中で、梓紗の白い肌がむき出しになっているのがよく見える。
「むう?」
その梓紗の白い肌が、じわじわと黒く染まっていく。
「これは……」
どうやら始まったらしいな……
キーラーガはそう思う。
この女は、ようやくビアンドラゴラと融合し始めたのだ。
苦しそうにベッドの上で身をよじる梓紗。
その手が黒く染まっていき、爪も鋭くとがっていく。
パジャマの袖口の隙間から、シュルシュルと黒い蔓も伸び始める。
「ああ・・・あああ・・・」
鋭い爪が、着ているパジャマをビリビリと引き裂いていく。
ズボンも、トゲの付いた蔓が内側から引きちぎる。
ぼろきれのようにちぎれたパジャマの下からは、黒く染まった梓紗の躰が現れる。
それはまるで漆黒の全身タイツを着たような躰。
その躰には同じく漆黒の蔓が巻き付いていた。
足の指は一つに融合していき、かかとはハイヒールのようにとがっていく。
蔓からは紫色の葉が次々と広がっていき、梓紗の躰を覆っていく。
やがて梓紗の躰は、闇の植物と人間の融合したような姿へと変わっていった。
変化はそれだけにはとどまらない。
梓紗の髪の毛がふわっと広がり、やがて紫色へと変わっていく。
細い毛がいくつも絡まり合っていき、それはまるでつぼみのように梓紗の頭部を覆っていく。
それまで苦しそうにベッドの上でもがいていた梓紗の動きが止まり、静かになる。
やがて、つぼみのように覆われた頭部がゆっくりと開き、巨大な赤と黄色の花が咲いていく。
梓紗の頭を覆い尽くす、肉厚の花弁が幾重にも重なる赤と黄色の花。
内側は鮮やかな黄色が映え、外側には毒々しいまでの赤が広がっているのだ。
その美しくも不気味な花の下には、赤く毒々しい色に染まった梓紗の唇があった。
ゆっくりとベッドから起き上がる闇の花を咲かせた黒い女。
目も鼻も耳も消え去り、その頭の上半分に大きな花が咲いているのだ。
それはまさにあのビアンドラゴラの花だ。
梓紗はビアンドラゴラの花を咲かせたのだった。
ゆっくりと歩き出す梓紗。
ハイヒールのブーツ状に変化した足がカツコツと床を鳴らす。
目がないにもかかわらず、梓紗には周囲が良く“見え”ていた。
むしろ、この夜の闇の中では、以前よりもよく“見え”るくらいだ。
「私……いったい……」
梓紗は不思議に思う。
どうしてこんな夜中に目が覚めたのだろう……
梓紗は外へ出たかった。
なぜそう思うのかはわからない。
ただ、外に出て、もっと夜の闇に浸りたかった。
暗い室内も悪くはないけど、外の闇をもっと浴びたいと思ったのだ。
「あ……」
部屋に置かれた姿見に、その姿が映し出される。
「これは?」
そこには赤と黄色の花を咲かせた黒い躰をした女のような姿が映っていた。
その躰に巻き付く黒い蔓にはトゲがあり、紫色の葉が何枚も広がっている。
その葉にやや隠れるようにはなっているものの、黒い茎には丸い二つの乳房があり、くびれた腰からお尻の丸みへと続くラインは、まさに女性そのものだ。
「は・・・な?」
毒々しい赤と黄色の花。
「きれい……」
梓紗はその花に触ってみようと手を伸ばし、それが鏡に映った自分の姿であることに気付く。
「私? この花は……私? 私は……花?」
だが、そのことがなんだかすんなりと受け入れられる。
「私は……花。私は花なんだわ……」
そう……
梓紗は花だった。
それもとびきりに美しい花なのだ。
闇に咲き誇る闇の花。
それが今の梓紗だった。
「養分……」
梓紗は理解する。
花である自分には養分が必要なのだ。
闇の中でもっと咲き誇るためには養分が必要なのだ。
養分を得なければ……
美味しい養分を……
窓を開けて外に出る梓紗。
外は夜のくせに意外なほど明るく、むしろ部屋の中の方が暗いぐらい。
闇の中で咲きたい梓紗には忌々しいことだったが、養分を取らねばならない。
彼女は窓枠に蔓を絡みつかせ、それを伸ばしてするすると降りていく。
外には養分がいっぱい歩き回っているのが気配でわかる。
ここでは養分には困らなさそう……
夜の道を歩いていく。
ハイヒール状に変化した足が、コツコツと音を立てるのが心地よい。
花を咲かせたことで、躰は養分を求めている。
早く養分を取りたい……
梓紗は香りを振り撒いていく。
誘引作用のある甘い香りだ。
うまくいけばこの香りに獲物が寄ってくる。
ふふふ……
いい匂いでしょ……
「ん? なんの匂いだ?」
「んん? 花か何かの匂いかな?」
匂いを嗅いだパトロール中の警官が二人、顔を見合わせながら梓紗の方へと近づいてくる。
美味しそう・・・
養分はいくらあってもいい。
梓紗は建物の陰に身を入れる。
漆黒の躰は闇に溶け込むにはちょうどいいというのが、なぜか梓紗にはわかっていたのだ。
ふふ……
「どこからするのかな?」
「いい匂いだなぁ」
そう言いながら歩く二人の警官の前に、巨大な赤と黄色の花が現れる。
その花は女のような躰つきをした黒い茎から咲いており、女のような真っ赤な唇も花の下部には付いている。
躰にはトゲの付いた蔓が絡まるように巻き付いており、紫色の葉が何枚も広がっていた。
「うわぁっ!」
「ば、化け物花だっ!」
驚く警官たちに、花はその中心部から、黄色のガスのようなものを吹きかける。
「ぐっ! げほっ!」
「がはっ!」
ガスを浴びた二人は、その場にもんどりうって倒れ込む。
このガスは毒を持つ花粉であり、吹きかければ、全身が麻痺して最悪の場合は死に至ることを梓紗はわかっていた。
倒れ込んだ警官の一人に梓紗は自らの蔓を伸ばして巻き付ける。
彼女の蔓にはトゲがあり、一度巻き付いたものはこの毒のトゲに刺されて死んでしまうのだ。
「う……うぐっ……」
躰が麻痺した警官に抵抗のすべはない。
トゲに刺されてあっという間に絶命してしまう。
やがて、蔓は死んだ警官の躰をじょじょに溶かしはじめ、その溶けた溶液を蔓が吸い取っていく。
吸い取った溶液は蔓を通って梓紗の躰に流れ込み、梓紗は養分を味わっていく。
ああ……
美味しい……美味しいわ……
やがて、すべての血肉を溶かされて吸い取られた警官の白骨死体が転がされる。
「う……ううう……」
同僚の悲惨な姿を見せられたもう一人の警官は、必死に助けを呼ぼうとするが、麻痺した躰では声も出せない。
梓紗はカツコツと足音を鳴らしながらその警官に近づいていく。
「ふふ……」
真っ赤な唇に笑みが浮かび、冷たい笑い声が漏れてくる。
やがて……白骨となった警官の死体が、梓紗の足元に一つ増えた。
「うーむ……素晴らしい……」
闇虫に急いで後を追わせ、変化した梓紗の様子を映像として映し出させていたキーラーガが、思わず感嘆の声を上げる。
まさかこれほどとは思わなかったのだ。
あの女は完全にビアンドラゴラと融合したばかりか、早くも人間を食ったのだ。
それも二人も。
あの女が本当にギラットピンクだとすれば、ヤミンゲルにとっては脅威が一つ減り、使える手駒が一つ増えたことになる。
まさに皇帝陛下の作戦は素晴らしい。
キーラーガは感服するしかなかった。
******
ピピピ、ピピピ、と電子音が鳴っている。
目覚ましの音ではない。
呼び出しコールだ。
ハッとして起きる梓紗。
その途端、あることに気付いてしまう。
「え? えええええ?」
布団を跳ね除けたその下は、なんと裸だったのだ!
「え、ええ? ど、どうして?」
パジャマはおろか、下着すら穿いていないではないか。
な、なんで?
疑問には思うものの、今はそんなことに気を向けている時ではない。
梓紗はギラットレンジャーのブレスレットを手に取り、スイッチをオンにする。
「は、はい、桃川です」
『おはよう桃川君。朝早くからすまないが、大至急本部に集合してくれないか?』
ブレスレットから男性の声が流れてくる。
ギラットレンジャーのトップである虹倉(にじくら)司令の声だ。
沈着冷静で有能な指揮官として、梓紗も信頼を置いている。
「は、はい。すぐに!」
別に映像が映し出されているわけではないのだが、ついいつもの調子で敬礼してしまう梓紗。
次の瞬間、胸をさらけ出したままであったことに気付いて苦笑してしまう。
梓紗は通信を切ると、ブレスレットを手首に嵌め、急いで支度を始める。
とにかく急いで本部に向かわねば。
おそらくヤミンゲルに何か動きがあったのだろう……
それにしても……
夕べの私はいったい何をしたのだろうかと梓紗は思う。
ベッドの周囲には、引きちぎられたようにズタズタになったパジャマやショーツの切れ端が落ちているのだ。
おそらく自分でやったこととは思うのだが、まったく記憶がない。
私はいったい何を……
自分で何をしたのかわからないなんて……
ともあれ、今は急がねば。
梓紗はズタズタになった布切れをひとまとめにしてゴミ箱に捨て、顔を洗うなど身支度を整える。
きっかり30分後には、梓紗は車に乗って本部に向かって走り出していた。
梓紗は車を急がせつつも、昨日とは別ルートで本部に入る。
当然ゲートも違うゲートとなり、昨日のAゲートではなくCゲートだ。
万が一どれかのゲートを発見されたとしても、そのゲートを放棄することで、本部内部を守るのである。
とはいえ、Cゲートはロッカー室や詰所など、主に使う施設とは一番離れているゲートなので、やや不便さを感じるのも確かだった。
「おはようございます」
「おはよう、梓紗」
先に着替えていた涼美に挨拶をし、いつものようにロッカー室で制服に着替える梓紗。
ギラットピンクである彼女はピンクを基調としたジャケットとミニスカート。
ギラットイエローの涼美は、同じデザインではあるが黄色を基調としたジャケットとミニスカートだ。
着替え終わった二人はすぐに司令室へと向かう。
そこにはすでに仁、道太、晃の三人が来ていた。
「遅いぞ、二人とも」
「まあまあ、女性はいろいろと身支度に時間がかかるものですよ」
入ってくるなり注意をしてくる仁と、それをなだめる晃。
この二人はいつもこんな感じ。
これでも、なんだかんだとチームワークは悪くないのだ。
「ごめんごめん。これでも急いできたのよ」
涼美が軽く謝りながら席に着く。
ギラットレンジャー五人が一堂に席に着ける丸テーブルだ。
もちろん梓紗も自分の席に着く。
「司令、全員揃いました」
道太がデスクで目を閉じていた司令の虹倉にそう告げる。
「うむ。朝早くから集まってもらってすまなかった。ヤミンゲル絡みであろう事件が報告されてきたのだ」
司令官としての制服に身を包んだ虹倉司令が口を開く。
一見さえない風体の中年男性に見えなくもないが、その実は有能な指揮官であり、これまでもヤミンゲルとの戦いにギラットレンジャーが勝利を重ねてきたのも、彼の指揮が大きいところである。
「事件ですか?」
「うむ。今朝早く、巡回に行ったまま戻ってこない同僚を探しに行った警察官が、D-3地区で白骨化した二人の死体を発見した」
仁の質問に答えるように事件の概要を説明する虹倉司令。
「白骨化?」
「ええ?」
思わず五人の顔に驚愕が浮かぶ。
「いくら何でも一晩で白骨化するなんて」
「確かに……ヤミンゲルの仕業の可能性は大だな」
涼美の言葉に道太もうなずく。
「うむ。そこで君たちにも現場を確認してもらい、状況を把握してもらいたい。すぐに行ってくれ」
「「「了解!」」」
五人は立ち上がって敬礼すると、司令室を後に急いでその現場へと向かった。
「どういうことなのだ? いったい……」
闇に浮かぶ映像に向かってそうつぶやくキーラーガ。
映像には黄色いテープを張られた規制線の中で、警官たちから状況を聞いている五人の男女が映し出されている。
梓紗のあとを追わせていた闇虫からの映像であり、この五人はギラットレンジャーどもだ。
闇頭脳によってその特定に成功したのは、大きな成果と言っていいだろう。
しかし、昨晩ビアンドラゴラと化したはずのあの女が、今朝は人間の姿に戻っているではないか。
これはどうしたことなのだ……
「うーむ……まさか失敗だったのでは……」
『キーラーガよ、案ずるな』
「うおっ」
闇の中から響いてくる皇帝陛下の声に、キーラーガはまたしても思わず声が出てしまう。
相変わらず驚かされる陛下だ。
「陛下……と言いますと?」
『ビアンドラゴラは闇に咲く花。太陽が出たことで花を閉じたのだ』
「花を閉じた? すると……夜になればまた咲くというわけですか?」
『そうだ。そして咲くごとに花と女の融合の度合いは深まり、いずれは完全に一つとなる。そうなれば昼間でも自由に咲くことができるようになるだろう』
「なんと! 昼間でも!」
なるほど、人間と融合することであの闇の花が昼夜問わず活動できるようになるというわけか……
それは素晴らしい。
『あの女はやがては身も心も闇の花と化し、ビアンドラゴラの魔獣人となるのだ。我が暗黒帝国ヤミンゲルの忠実な魔獣人にな。キーラーガよ……いずれあの女を使い、ギラットレンジャーを倒すのだ』
「ハハッ、かしこまりました」
キーラーガは一礼する。
ふうむ……
となれば、今晩あたりあの女に接触してみるのもいいかもしれん……
「ふう……」
思わずため息をつく梓紗。
テーブルには野菜ジュースのカップがあるだけで、他のメンバーたちのように昼食が置いてあるわけではない。
「食べないのか、梓紗?」
その様子に気が付いた道太が声をかける。
青いギラットレンジャーの制服をスマートに着こなしている好青年だ。
だが、意外と食べ物には目が無く、わりと大食漢でもある。
今も彼の前にはサンドイッチとパスタの皿が並んでいた。
「うん……なんだか食欲が……」
梓紗は野菜ジュースを一口飲むが、それもなんだかのどを通りづらい。
それにお腹もそう減っている気がしないのだ。
「どうした? やはりまだ調子が良くないのか?」
サンドイッチを頬張っている仁。
「もしかして……さっきのあれ?」
涼美はナポリタンだ。
「うーん……確かにショッキングではありましたけど、ああまできれいに白骨化している死体なら、グロテスクって感じはしませんでしたけどねぇ」
晃はカレーを食べている。
梓紗以外は特に食欲が落ちているというわけではなさそうだ。
「まあな、瓦礫に潰されてぐちゃぐちゃになった死体とかだって見ているから、あれで食欲がない……わけじゃないよな?」
そういいながらも一応梓紗の様子をうかがう仁。
「やめてよ、思い出しちゃうじゃない。梓紗と私は女の子で繊細なんですからね」
「は? 女の子? 繊細? 誰がだよ!」
涼美の言葉に仁は思わず聞き返す。
戦いになればメンバーすら引き気味になるほど激しい戦いをする涼美が、どこが繊細なんですかねというわけだ。
「はあ? 仁! 聞き捨てならないわよ!」
「まあまあ、涼美さんも仁さんも」
「まあ、繊細はともかく女の子って年じゃ……」
「道太ぁ!」
「ふふっ、うふふふ……」
梓紗は思わず笑いだす。
いつものこととはいえ、こうしてメンバーなりに気にかけてくれているのだろう。
まあ、食欲が無いのは事実だが、別にあの死体がどうということではない。
確かに本部に戻ってくる前に見た光景はちょっと衝撃的なものだった。
梓紗たちギラットレンジャーが現場に駆けつけたときにはすでに遺体は収容されていたが、検死に運び込まれた遺体を見せてもらったのだ。
それはもう見事にきれいな白骨と言っていいもので、数時間前まで生きていた人間だったとはとても思えなかった。
毛髪が一部こびりついていた以外は血も肉も残ってないのだ。
おそらく溶かされたのではないかという話だったが、どうやって人間を骨までに溶かしたのか想像もつかない。
おそらくそんなことができるのは、ヤミンゲルの魔獣しかいないだろうと梓紗も思う。
でも、一体どんな相手なのだろうか?
手ごわい相手かもしれない……
「まあ、たぶんこのあとはここで待機か、街の巡回になるだろうから、腹がすいたら適当に食えばいいさ」
「うんうん。別にお昼だからって無理に食べなくたっていいし」
結局仁も涼美も梓紗が気になったのだ。
「まあ、調子悪いなら無理はするな。どうせ戦いになったら無理しなきゃならん」
サンドイッチをぱくつきながら道太も言う。
「ええ、たぶん昨日のがまだ残っているだけだと思う。美彩先生はちょっとした疲れがたまったんだろうってことだったし、ちょっと今はお腹が減ってないだけだから」
梓紗が笑顔を見せる。
結局梓紗は野菜ジュースだけでお昼を済ませ、その後は何か手掛かりはないかと、五人それぞれで街を巡回したものの、めぼしい結果は得られなかった。
そのため、今後に備えて一度休息を取った方がいいだろうという虹倉司令の判断で、夜は帰宅するように命じられたのだった。
******
「ふう……」
ため息をつき、自室に戻った梓紗はゴロンとベッドに横になる。
今夜は場合によっては夜中の出動もあるかもしれない。
いや、むしろそっちの可能性は高いだろう。
なにせ相手は暗黒帝国なのだ。
今まで日中に現れていたことの方がおかしいのかもしれない。
と、すれば、休める時に躰を休めておいた方がいいのだ。
夕食も本部で済ませているし、あとは寝るだけ……ではあるのだが……
まだ21時過ぎたばかりで、寝られるわけないわよねぇ。
それに……
今朝のことも気になってしまう。
昨晩の私はいったい何をしたのだろう?
どうしてパジャマがあんなにズタズタになっていたのだろう?
まったく記憶が無いのだ。
そりゃ、寝ている間にしたことなのだから、記憶が無いのは当然かもしれないが、それにしてもパジャマをあんなにズタズタにしてしまうなんて、どう考えてもおかしい。
とはいえ、考えていても仕方がない。
続くようなら、何が起こったのか調べなければならないかもしれないけど……
今晩のところはどうしようもないのだ。
梓紗はそう思い、新しいパジャマを用意する。
そして、寝る前に汗を流そうと、シャワーを浴びに浴室へ向かった。
「さてと……」
脱衣所で着ているものを脱いでいく梓紗。
その手がハタと止まる。
「えっ? 何これ?」
上着を脱いだ梓紗の躰は、胸のあたりが黒く染まっていたのだ。
慌ててブラジャーを外す梓紗。
両胸の乳房の内側あたりから腹部にかけて、まるで黒いゴムともナイロンともつかないような感触の肌が広がっている。
「な、なんなの……これ?」
梓紗は青ざめる。
自分の躰に何が起こっているのだろうか?
いったい……
梓紗は急いで本部に通信を入れようとブレスレットを取りに行く。
本部のメディカルセンターで診てもらうのだ。
もしこれが何かの病気だったりしたら……
「うっ!」
ブレスレットに手を伸ばそうとしたその時、梓紗の頭に激痛が走る。
「あ……う……あああ……」
あまりの痛みに、梓紗は頭を抱えてうずくまってしまう。
「な……に……これ……」
必死にブレスレットに手を伸ばそうとする梓紗。
その手がみるみるうちに黒く染まっていく。
「う……そ……」
指先の爪も黒くとがり、躰に蔓が巻き付いてくる。
「あ……い……いや……」
頭の痛みが引き始めると同時に、何かもやがかかったように、考えることができなくなっていく。
「ど……う……し……」
全身が黒く染まっていき、絡まった蔓からは紫色の葉が広がっていく。
「あ……あああ……あああああ……」
意識が遠くなっていき、梓紗の髪の毛が紫色に染まっていく。
髪は梓紗の顔を包むように巻き付き始め、やがて花のつぼみに変化する。
そして肉厚の花弁となって外側へと開いていくのだ。
「…………」
梓紗の顔からは目も鼻も耳も消え、巨大な赤と黄色の花が花開く。
その花を支える花托には、梓紗の真っ赤な唇がそのまま残され、冷たい笑みを浮かべていた。
「ハア……ハア……ふふ……」
花開いた梓紗はゆっくりと立ち上がる。
そのハイヒールのような足がカツンと床を鳴らす。
その姿はまさに花。
黒い女性の形をした茎ともいうべき躰には、紫色の大きな葉の付いた黒い蔓が幾重にも絡みつき、首から上は頭の下半分に真っ赤な唇がある大きな赤と黄色の花が咲いているのだ。
「ふふ……」
梓紗はゆっくりと脱衣所を出ると、自室の姿見にその姿を映す。
「ふふふ……きれい……私は花……これが私の姿。私は闇の花。ふふふふ……」
自らの姿に満足する梓紗。
今の彼女に取り、美しく咲いたこの姿こそが自分の姿なのだ。
カツコツとヒールの音を立て、梓紗は窓に向かう。
「ふふ……お腹が空いたわ。養分が欲しい。私を咲きほこらせる養分が……ふふふ……」
口元に笑みを浮かべ、梓紗は窓から身を躍らせる。
そして素早く蔓を伸ばし、隣のビルに巻き付けると、落下速度を落として静かに地面に降り立つ。
そこは夜の街。
表通りに行けば、まだ多くの人間たちがいるだろう。
だが、表通りは明るい。
咲くのは闇の中の方がいい。
闇の中でこそ私は美しく咲ける。
梓紗はそう思い、暗い裏通りへと向かって行った。
楽しそうな話声がする。
人間の男女が歩いてくるのだ。
若い男女。
養分にはちょうどいいかもしれない。
ヒュッと風を切る小さな音が鳴る。
梓紗の蔓が鞭のように空を切ったのだ。
ビシッと言う音がして、男の頭が砕け散り、血しぶきと肉片が飛び散っていく。
ハア……ン……
なんて気持ちがいいのだろう……
養分は昨日のことを考えれば、今は一人分で充分。
なら、美しい女の方を食べたいもの。
男はいらない。
だから殺す。
でも……
人間を殺すのがこんなに気持ちがいいとは思わなかった……
「ひぃっ!」
突然隣を一緒に歩いていた男の頭が砕け散ったことで、女は小さく悲鳴を上げて腰を抜かしてしまう。
飛び散った血や肉片が、彼女の躰にも降り注ぎ、真っ赤に染め上げている。
悲鳴を上げて逃げ出そうにも、立ち上がるどころか躰ががくがくと震えて動けない。
「だ……だ……誰か……」
必死に助けを呼ぶ彼女のもとに、闇の中から人影が現れる。
いや、それは確かに人のような姿をしていたが、頭には大きな赤と黄色の花を咲かせ、花托の部分には赤い唇が笑みを浮かべており、黒い全身タイツをまとったような躰には、大きな葉が何枚も広がった蔓が全身に絡みついていた。
「バ……ケ……」
言葉がうまく出てこない。
彼女の口はただパクパクと開閉されるのみ。
呼吸すら難しいぐらいだった。
「ふふふ……」
梓紗は蔓を伸ばす。
躰に巻き付いている蔓は、彼女の思うとおりに動かせる。
この蔓を獲物に巻き付け、引き寄せるのだ。
そして身動きできなくなった獲物を溶かして養分にする。
あの女は美味しそう……
「い、いやっ!」
女性の足に蔓が絡みつく。
「ひっ!」
その蔓が強い力で彼女を引きずり始めたのだ。
「い、いや、むぐっ!」
今度こそ大きな悲鳴をあげようとした彼女だったが、蔓は足だけではなく躰にまで巻き付いてきて、その紫色の大きな葉が彼女の口をふさいでしまう。
ぎりぎりと蔓が躰を締め付け、彼女を梓紗の方へと引き寄せる。
梓紗自身も獲物を迎えるかのように彼女に近づくと、蔓で躰を起こすように持ち上げて彼女を立たせ、両手でゆっくりと抱きかかえる。
「むぐぅ……むぐぅ……」
「ふふふ……怖がることはないわ。あなたは養分になるの。私の養分にね」
真っ赤な唇がニタッと笑う。
「んんんん……」
女性を両手で抱きしめ、蔓に生えている毒のトゲを突き立てる梓紗。
「ひぐっ」
毒のトゲが女性を一瞬で絶命させ、やがてその躰はどろどろに溶かされて梓紗の中へと吸収されていく。
わずか数分で、女性の躰はきれいな白骨となり、梓紗の足元に転がっていた。
「んふふ……美味しい」
真っ赤な唇を紫色の舌でぺろりと舐める梓紗。
足元の白骨化した死体を見るとぞくぞくする。
これが自分のやったことだと思うと、胸が高鳴るのだ。
楽しい……
もっともっと狩りをしたい。
養分としてだけではなく、狩りとしても楽しみたい。
彼女はそう思う。
「ふっふっふ……見事なものだ」
闇の中から重く響く声がする。
「誰?」
気配を感じて振り返る梓紗。
やがて闇の中から全身を黒い金属鎧で包んだがっしりとした体格の男が現れる。
精悍な顔つきに鋭い目をしたその男は、口元に薄く笑みを浮かべていた。
「キーラーガ……将軍……」
梓紗はすぐに彼が何者かを理解する。
暗黒帝国ヤミンゲルの魔将軍キーラーガそのものに間違いない。
ギラットピンクとしての梓紗は、戦いの最中にその姿を何度か目にしていたのだ。
そのキーラーガ将軍がどうして……
だが、梓紗はスッと片ひざを折ってひざまずく。
自分の中の何かが抵抗するが、それ以上に彼こそが自分を支配するものと理解したのだ。
梓紗に埋め込まれたビアンドラゴラの種は、ヤミンゲルの皇帝の手で闇の力が加えられ強化されていると同時に、魔獣人となったのちは皇帝に服従するように刷り込みがされている。
そのため、今の梓紗は自分は皇帝陛下に服従する忠実なしもべであるという意識に支配され、皇帝陛下にその身すべてを捧げるのが当然と考えるようになっているのだ。
その皇帝陛下が指揮を任せる魔将軍キーラーガ。
梓紗は自然とひざまずいていた。
「ほう……俺を知っているようだな。やはりお前がギラットピンクだからか?」
いきなり彼女がひざまずいてきたことに、やや戸惑いを感じるキーラーガ。
「暗黒帝国ヤミンゲルの魔将軍キーラーガ……“私”の記憶にはそう刻まれております」
下を向いたまま顔を上げることもせずに答える梓紗。
赤と黄色の毒々しい大輪の闇の花がキーラーガの前で咲いている。
「それがわかっていながら、俺にひざまずくのだな?」
「私の中の“私”はやや抵抗を感じている様子。ですが、私は暗黒帝国ヤミンゲルの偉大なる皇帝陛下によって生み出された身。皇帝陛下とヤミンゲルの魔将軍であられるキーラーガ様にひざまずくのは当然のこと」
彼女は心からそう思う。
なぜ自分の中の“私”が抵抗するのかわからない。
「ほう……ならば話が早い。俺は皇帝陛下よりお前の指揮を任されておる。俺に従うのだ、ビアンドラゴラよ」
ひざまずいて頭を下げている彼女を好ましく思うキーラーガ。
なるほど、この女なら有能な部下になるに違いない。
「かしこまりました、キーラーガ様……ビアンドラゴラ?」
キーラーガが自分をそう呼んだことに、思わず顔を上げる梓紗。
今まで自分が何者なのか、彼女の中ではっきりしていなかった。
梓紗という名前は“私”のものであり、私は梓紗ではないという意識が存在したのだ。
それがビアンドラゴラと呼びかけられたことで、彼女の中で自分が何者であるかがすうっと浸み込んでいく。
「そうだ。お前は闇に咲く美しき毒花ビアンドラゴラ。暗黒帝国ヤミンゲルの魔獣人ビアンドラゴラだ」
「私は……私は闇に咲く毒花ビアンドラゴラ……はい、キーラーガ様。私は魔獣人ビアンドラゴラ」
梓紗の中で意識が組み替えられていく。
今の彼女はもう桃川梓紗などという人間ではない。
闇の毒花の魔獣人ビアンドラゴラなのだ。
「ビアンドラゴラよ。これからは俺に従い、ヤミンゲルのために働くがいい」
「はい、キーラーガ様。このビアンドラゴラ、喜んで暗黒帝国ヤミンゲルと皇帝陛下のために尽くします。ふふふふふ……」
まるで自分の居場所を見つけたかのように喜ばしい気分になるビアンドラゴラ。
その赤い唇に笑みが浮かぶ。
美しい悪魔の花が完全に花開いた瞬間だった。
******
「ん……」
ゆっくりと意識が戻ってくる。
もう朝……だわ……
ベッドの中で目を開ける梓紗。
どうやらいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
昨晩の記憶がなんだかはっきりしない気がするが、それは“私”にはどうでもいいことだと何かがささやいてくる。
「うーん……と」
両手を伸ばして思い切り伸びをし、ごそごそとベッドから抜け出す梓紗。
布団から出ると、自分がなにも着ていないことに気付き、タンスから下着を取り出して身に着けていく。
ふと、自分の胸から腹部にかけて黒いナイロンのように変化した肌が広がっているのを目にするが、それも“私”が気にすることではないらしい。
梓紗はいつものように身支度を整え、いつものように家を出て本部へ向かう。
なんだか今日は気分がいい。
躰の調子もいいようで、力がみなぎっている。
夕べしっかり眠ったからかもしれない。
太陽の光がまぶしいが、日陰に居ればどうってことはない。
ただ、太陽の光はちょっと苦手に感じた。
「お、来たか。これでそろったな。おはよう、諸君。早速だが、昨晩また白骨死体が見つかった」
梓紗がいつものように着替えて司令室に行くと、既にほかのメンバーは集まっており、司令の虹倉が声をかける。
「えっ?」
「またですか?」
仁も道太も表情が引き締まる。
「うむ。しかも、今度はそばに惨殺死体もあったそうだ。どうも人間業とは思えないらしい」
「惨殺死体? うっ!」
テーブルに回ってきた現場写真に、思わず声を詰まらせる道太。
まるで人間の頭でスイカ割りをしたように砕かれている。
「ひどい……」
涼美も梓紗も言葉を失う。
「おそらくヤミンゲルの仕業に違いない。各自、一層の警戒をお願いしたい」
「了解です。しかし、奴らはこっちのいない隙を狙っているのか?」
仁がぐっとこぶしを握る。
連日警戒はしているのだが、ヤミンゲルの動きはなかなかつかめないのだ。
「どうですかね? もしかしたらたまたまかもしれません。むしろ今後は夜に巡回の重点を置くべきでは?」
晃の提案に虹倉司令もうなずく。
「確かに二件とも発生は夜間だ。巡回を夜間重点に切り替えるほうがいいかもしれん」
「わかりました。それではそのように」
リーダーであるギラットレッドの仁が立ち上がる。
他のメンバーも彼に続いて、司令室を後にした。
「とりあえず今日から街の巡回は夜間中心で行う。昼間は本部で待機して、それぞれ仮眠をとるようにしてくれ」
「了解」
「OK」
仁の指示に他の四人がうなずく。
「まあ、とはいってもさっき起きて本部に来たばかりだからな。寝るってわけにもいくまい。とにかく詰所で楽にしてていいよ。仮眠したくなったら仮眠室を使ってな」
「そうだな。まあ、そういうことで」
道太が腕を組んで仁にうなずいている。
リーダーの脇を固める冷静な相棒という感じで、仁と道太はいいコンビでもあるのだ。
「とりあえず相手の正体を探らなければなりませんね。これまでヤミンゲルはたいてい事件の現場に行けば魔獣やヤミゾーといった連中が暴れてましたから、今回のように姿を見せないというのは今までにないことです」
晃がタブレットで情報を収集する。
もちろん本部では専門チームがヤミンゲルの情報収集に余念がないのだが、こういった一般のネット情報も意外とバカにならないのだ。
実際SNS等でも、白骨死体の話は広まっており、いろいろと憶測が飛び交っている。
「確かに今回は今までとは違うわね」
「新しい魔獣なんでしょうか?」
涼美も梓紗も今までのヤミンゲルの活動との違いにやや戸惑いを隠せない。
「それはなんとも言えんが、とにかくこれ以上犠牲者を出さないようにしないとな」
仁の言葉に皆はうなずくのだった。
結局昼間は特に何もなく、夕方から仮眠をとった梓紗は気持ちよく寝ていたところを起こされ、夜間の巡回に出発する。
「いいか、何かあったらまずみんなに連絡するんだ。決して一人で対処しようとするな。必ず二人以上になるのを待て。とにかくまずは相手の正体を確認するのが先だ」
出掛けに仁が言っていたことが脳裏に浮かぶ。
確かにまず相手を確認しなくてはならない。
おそらくヤミンゲルの新しい魔獣だろうとは思うが、相手がわからなければ対処のしようもないのだ。
「ふわぁぁぁぁ」
とは言うものの、寝ていたところを起こされてしまった梓紗はまだ眠気が抜け切っていない。
なのでついつい大きなあくびが出てしまう。
それこそ道太や涼美が一緒にいたら、たるんでいるぞとか言われかねないところだが、幸い今は一人きり。
ギラットレンジャーのメンバーはそれぞればらばらに散らばり、広範囲をカバーしようという作戦なのだ。
もちろん誰かから連絡があればすぐに駆け付け、みんなで対処するというのは変わらない。
だが、静かな夜の住宅街で車を走らせていると、事件など起こりそうにない雰囲気で、ついついあくびも出てしまうのだ。
ふう……
なんだか今日はやけに眠く感じる。
いつもなら寝ている時間になったからだろうか……
それでいて、夜遅くなるにつれて、躰の方はなんだか力がみなぎってくるような感じもする。
そう……
何かが湧き上がってくるような……
「はっ」
見ると、人気のない道を一人の女性が歩いている。
タイトスカートのスーツ姿であるところを見ると、OLさんが遅くまで残業をしてようやく家路についているところなのかもしれない。
周囲にほかに人影はないにしろ、もう日付も変わろうとしているこんな時間に一人で夜道を歩かせておくのは危険だろう。
それこそ昨晩同様の事件に巻き込まれないとも限らないのだ。
彼女を安全なところまで送ってあげないと……
ドクン……
彼女を……
ドクン……
安全な……
ドクン……ドクン……
彼女を……
ドクン……ドクン……ドクン……
養分に……
急速に頭がぼうっとしてくる梓紗。
あれ?
私……
あ……れ……
急いで車を脇に寄せて止め、エンジンを切る。
このまま運転するのは危険だ。
いったい……何が……?
わ……た……し……
考えがまとまらなくなっていく。
ハンドルにもたれかかるように躰を預け、目を閉じる梓紗。
ハア……ハア……ハア……
息が荒くなり、ジャケットの前を開け、そのままジャケットを脱いでいく。
それどころか、下に着ていたブラウスも脱ぎ、ブラジャーだけの姿になる。
わたしは……なにを……?
そのままスカートのホックも外し、狭い車内で無理やり脱ぎ捨てる。
なに……わたし……なにやって……?
自分の躰がまるで自分のものじゃないようだ。
何かが彼女の躰を使っているとでもいうような感じが梓紗を襲う。
いけない……みんなに……
そう思うものの、梓紗の手は嵌めていたブレスレットも外してしまう。
わたし……わ……た……し……
下着だけの姿になった梓紗の躰。
その躰が黒く染まっていく。
紫色の葉とトゲの付いた蔓がシュルシュルと巻き付いて彼女の躰を覆っていく。
足からはブーツが脱げ、そのまま変化してハイヒール状になっていく。
髪の毛がシュルシュルと伸びて頭に巻き付いていき、巨大なつぼみを作り上げる。
やがてそのつぼみは花開き、内側が黄、外側が赤の巨大な毒々しい花を形作る。
梓紗の頭の下半分は黒い花托となり、唇だけが妖しく赤く笑みを浮かべていた。
「ふふ……」
ドアを開けて車の外に出るビアンドラゴラの魔獣人。
蔓のトゲでズタズタになってしまった下着の切れ端を放り捨てる。
「ふふ……さあ獲物を狩りに行きましょ。“私”はしばらく寝ているといいわ。大丈夫。そろそろ“私”も私になる……」
車のドアを閉め、ゆっくりと歩き出すビアンドラゴラの魔獣人。
すでに獲物は遠ざかっていたが、後を追うのは造作もない。
蔓を伸ばし、電柱や街路樹に引っ掛けては躰を移動させていく。
人間の歩行速度などたかが知れているのだ。
あっという間に彼女は獲物に追いついていた。
「ふふ……見つけた」
帰り道を進む女性の前に突然現れる鮮やかな毒花。
それはまさに頭の部分に毒々しい赤と黄色の花を咲かせた女性の姿。
「ひっ! ば、化け物!」
見たこともない巨大花に思わず声を上げてしまう。
「化け物だなんてひどいわ。こんなに美しい花なのに。そう思わない?」
「い、いやっ……こ、来ないで……」
ゆっくりと近づくその姿に、女性は思わず後ずさる。
大声を上げたいのに、恐怖で声を上げることもできない。
「うっ……げほっ」
女性の周囲に黄色いガスのようなものが沸き起こる。
ビアンドラゴラの花から毒花粉が撒き散らされたのだ。
花粉はたちまち女性の躰を麻痺させ、彼女はその場に倒れ込んでしまう。
もはや意識はあっても躰を動かすどころか、声すら出せなくなったのだ。
「ふふ……あなたは選ばれたのよ。私の養分として。ああ……なんて美味しそうなのかしら……」
花の下にある濡れたような赤い唇を、紫色の舌がぺろりと舐める。
「んふふ……あとはあなたの番。さあ、そろそろ起きなさい、“私”」
ビアンドラゴラがそうつぶやくのを、女性はただ恐怖とともに見上げるしかなかった。
「う……あ、えっ? こ、ここは?」
梓紗が気が付くと、そこはいつの間にか深夜の人気のない通りだった。
地面にはさっき見かけた女性が倒れている。
「あっ、大丈夫ですか?」
梓紗が思わず手を伸ばすと、その手が真っ黒で紫色の葉の付いた蔓が巻き付いていることに気付く。
「えっ?」
慌てて全身を見下ろすと、そこにはまるで黒い全身タイツを着たような感じでボディラインがあらわになっている躰と、その躰にも腕と同じように紫色の葉の付いた蔓が巻き付いているのがわかる。
「こ、これは? “私”の躰はいったい?」
(何を言っているの? これこそが私の本当の姿でしょ?)
「えっ?」
梓紗の頭の中でもう一つの声が聞こえてくる。
それは聞いててとても心が落ち着くような声で、安心感がある声だ。
「“私”の本当の姿?」
(そう……これが私の、そして“私”の本当の姿)
「“私”の本当の姿……」
(そう……あなたは私。“私”は私。私たちは二つで一つになるの。ほら、彼女はとても美味しそうでしょ?)
梓紗はコクンとうなずく。
声の言うとおりだ。
目の前で地面に横たわる彼女はとても美味しそう。
養分として吸収したくなる。
(もうやり方はわかるでしょ? さあ、蔓を伸ばして……)
梓紗は言われたままに右手から蔓を伸ばしていく。
シュルシュルとまるで指を動かすごとくに蔓が思い通りに伸びていく。
(そう……あなたは私。“私”は私。毒のトゲが獲物を殺すわ。さあ……)
「毒のトゲが……獲物を殺す……」
ドキドキする。
獲物に蔓が巻き付いていくのだ。
すでに獲物は毒花粉で麻痺している。
あとはトゲを刺すだけ。
とても簡単でぞくぞくする気持ちよさ。
ああ……なんて楽しい……
梓紗は獲物に蔓を巻き付けてトゲを刺す。
毒が注入され、獲物が死ぬのがわかる。
簡単なこと。
あとは溶かして養分として吸い尽くす。
梓紗の口元に笑みが浮かぶ。
さあ、いただきましょう。
足元に転がる白骨。
肉も血もすべてが梓紗の中に吸収された。
なんて気持ちいいのだろう。
これが養分を摂るということ。
これが人間を食べるということ。
なんて素敵なんだろう。
夜の闇に咲き、その香りに引き寄せられてきた人間を食べる。
それこそが“私”の喜び。
ううん・・・
“私”は私。
私は闇に咲く花、魔獣人ビアンドラゴラなんだわ。
梓紗の思考がビアンドラゴラと一つになる。
もはや梓紗はビアンドラゴラ。
闇に咲く毒花なのだ。
「ふふふ……」
ビアンドラゴラが花を閉じる。
閉じた花はじょじょに変化して梓紗の顔へと変わっていく。
紫色の葉の付いた蔓が巻き付く黒い躰も、だんだんと梓紗の躰へと変化する。
先ほどのような裸ではない。
着ていたピンクのジャケットなどの服も形作られるのだ。
数分でビアンドラゴラは本部を出たときの梓紗の姿へと変わっていた。
「ふふ……この姿も悪くないわ。“私”の姿なんだし……」
くすっと梓紗が笑う。
どうして今まで人間などというくだらない存在だったのだろう……
私は花なのに……
それも闇でこそ咲き誇る闇の毒花。
人間など養分にすぎないではないか。
「ひっ!」
小さな悲鳴が聞こえる。
見ると、中年のサラリーマンが腰を抜かしてへたり込んでいた。
どうやら彼も帰路がたまたまこの道だったらしい。
梓紗の足元に転がる白骨を見て、驚いてしまったのだろう。
「あ、あんた……」
恐怖の目で梓紗を見上げながら、警察を呼ぶつもりなのかスマホを取り出そうとしている。
「ひぐっ!」
梓紗の右手から蔓が伸び、男の頭を貫き刺す。
「ふふっ」
養分は先ほど摂ったばかり。
こんな男など食べる気にもならない。
やっぱり食べるのなら女がいい。
でも、こうして殺すのは楽しい。
もっともっと殺したい。
「うふふ……」
梓紗は血に濡れた蔓を引き戻すと、右手を人間に擬態させ、その場を後にした。
車に戻った梓紗は、しばらく夜のドライブを楽しんでいく。
夜は気持ちがいい。
昼間に活動するなんてどうかしている。
夜の闇こそ私にはふさわしい。
表通りはこの時間でも人が多い。
その気になればいつでも養分を得ることは可能なのだ。
「うふふ……」
梓紗は楽しくなる。
こんなに獲物がいるなんて、なんてこの世界は素敵なのだろう。
『桃川! 桃川! 聞こえるか? 応答どうぞ』
嵌め直したブレスレットから虹倉司令の声が流れてくる。
「はい、こちら桃川」
運転をしたまま、無表情で答える梓紗。
『虹倉だ。今どのあたりだ?』
「O地区とN地区の境目というところです」
道路わきに車を止める梓紗。
気分良くドライブをしていたというのに、一体なんだというのだろう。
『O地区にいたんだな? O-13ブロックで何か見なかったか?』
O-13ブロック……
先ほどまで梓紗がいたところだ。
「何も見てませんが」
『そうか……O-13ブロックで惨殺死体と白骨が見つかったんだ。至急戻ってくれ。今全員そちらに向かうよう指示を出した』
「わかりました」
車を発進させて交差点を曲がる梓紗。
どうやら先ほどの死体が見つかったらしい。
うふふ……
あの女は美味しかったわ……
梓紗が車を引き返させた時には、すでに現場には規制線が張られており、何台もの警察車両が赤色回転灯を光らせていた。
梓紗は車に脱ぎ捨ててあった“本物のジャケット”から身分証を取り出し、何食わぬ顔で規制線を通り抜ける。
白骨と男の死体はすでに運び出されていたようで何もなかったが、地面にはまだ生々しい血の跡があり、そこで何があったかを物語っていた。
「おう、来たか」
現場には道太と晃がすでに来ており、仁と涼美ももうすぐ来るとのこと。
梓紗は“三番目”に現場に到着したことになるらしい。
「また?」
「ああ……昨日と同じように白骨が一つと殺された男性が一人だ」
道太が苦虫を噛み潰したような顔でそう答える。
巡回を強化したばかりだというのに、この始末なのだ。
「梓紗さんはこの付近を通ったんですよね? 何か気が付いたことはありませんでしたか?」
「いいえ、何も……」
無表情で晃に首を振る梓紗。
「梓紗が通った後ってことか……」
「そういうことになりますね……」
晃と道太が顔を見合わせる。
その場で暴れまくる魔獣であれば、五人が集結して対処することは充分に可能なのだが、こうして神出鬼没に動き回られるのでは、いかにも五人では手が足りない。
「遅くなった」
仁と涼美も駆けつける。
来る途中に周囲を警戒してみたらしいが、やはり何もつかめなかったという。
それを聞いて、なんだか梓紗はおかしかった。
目の前に私がいるというのに、この連中は全く気が付いていないんだわ。
うふふふ……バカみたい。
こんな連中の仲間だったなんて……
「とにかく手分けして痕跡を探ろう。このままだとまた犠牲者が出てしまう。みんなも疲れていると思うが頼むぞ」
「ああ」
「ええ」
仁の言葉にみんながうなずく。
五人はあらためて敵の痕跡を探るべく散っていく。
一人を除いて……
深夜の人気のない公園にやってくる梓紗。
そこに人影が一つ現れる。
「こんなところで暇つぶしかな?」
街灯に照らし出される黒い鎧。
その鋭い目が梓紗を見る。
「キーラーガ様!」
梓紗はすぐに片膝をついてひざまずく。
つい昨日まで敵だと思っていた意識はどこにもない。
それどころか、敬愛する魔将軍とさえ思うのだ。
「ククク……その姿でひざまずかれるというのは悪くないな」
キーラーガの口元に笑みが浮かぶ。
敵であるギラットピンクがひざまずいているのだから無理もない。
「これまでの数々の御無礼、どうかお許し下さいませ」
私はどうしてこれまでこのお方を敵だなどと思っていたのだろう……
暗黒帝国ヤミンゲルこそ、世界を支配するのにふさわしい組織。
その幹部たる魔将軍キーラーガ様に私はなんということを……
「ククク……どうやらほぼ意識が一つになったようだな、ビアンドラゴラよ」
梓紗はハッとする。
そうだわ……
私はビアンドラゴラ。
この方の前で擬態している必要などないというのに……
シュルシュルと梓紗の髪が頭部を包み込んでつぼみになる。
そして巨大な毒々しい花が咲き、梓紗の姿がビアンドラゴラへと変化する。
「うむ、いい香りだ。美しいぞ、闇の花ビアンドラゴラよ」
「ありがとうございますキーラーガ様。ご覧の通り私は“私”と一つになることができました。もはや“私”も桃川梓紗などという人間の女ではなく、魔獣人ビアンドラゴラですわ」
ビアンドラゴラが唇をぺろりと舐める。
もう私と“私”の意識差に迷うこともないだろう。
事実、先ほどギラットレンジャーのメンバーと会った時にも、“私”の中にあったのは彼らへの嫌悪感のようなものであり、仲間意識は消え去っていたからだ。
「ビアンドラゴラよ。どうやらお前の擬態能力はかなり優れたもののようだ。その力でギラットレンジャーを殲滅するがいい」
「ハハッ、キーラーガ様の仰せのままに」
頭をより深く下げるビアンドラゴラ。
ふと彼女の中である考えが浮かぶ。
「キーラーガ様、私……面白いことを思いつきましたわ。うふふふふ……」
ビアンドラゴラは顔を上げ、楽しそうに口元に笑みを浮かべていた。
(続く)
- 2021/07/18(日) 20:00:00|
- 闇に咲く美しき毒花
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今日から三日間で当ブログ「舞方雅人の趣味の世界」の16周年記念SSを投下させていただきます。
タイトルは「闇に咲く美しき毒花」です。
戦隊ヒロイン異形化悪堕ちものとなります。
お楽しみいただけましたら幸いです。
それではどうぞ。
闇に咲く美しき毒花
『ギラットフラーーッシュ!』
掛け声とともに、五人のそれぞれから赤、青、黄、ピンク、緑の光が飛び出し、それが交わりあって目もくらむようなまぶしい光へと変化する。
その光は一直線に先ほどまで暴れていたイノシシ型の魔獣へと向かい、その躰を包み込む。
『グギャァァァァァ!』
断末魔の悲鳴を上げ、粉々に砕け散る魔獣。
光が消え去った後には魔獣のかけらが散らばるのみであり、それもやがては塵のように崩れ去り、風に吹き飛ばされて消えて行った。
映し出された映像が消え、静寂に包まれた闇が戻る。
わなわなと肩を震わせ、ぐっとこぶしを握り締める一人の偉丈夫。
全身を黒い金属鎧で覆い、頭には角の付いたヘルメットをかぶっている。
青い皮膚でできた精悍な顔つきは屈辱に歪み、ぎりぎりと音が聞こえそうなほどに歯が噛みしめられていた。
またしても……
またしても送り込んだ魔獣が敗れ去ったのだ。
これで何体目になるというのか。
光り輝く地上を闇の世界にするためには、一体あと何体の魔獣が必要だというのか。
それもこれもあの……
「おのれ、ギラットレンジャーめ……」
映像の消え去った闇に向かってつぶやく。
赤、青、黄、ピンク、緑の五色のバトルスーツに身を包んだ地上人たち。
奴らさえいなければ、とっくの昔にこの世界の地上は闇に染まっていただろう。
皇帝陛下の治める闇の世界がまた一つ増えるはずだったのだ。
だが……
その目的は、今もまだ達成できてはいない。
万策尽きたわけではない……
次こそは奴らを葬り去ってみせる。
そうは思うものの、具体的な策は決まっていない。
今回の魔獣デルベロンは、最強ともいえる狂暴な魔獣だったのだ。
そのデルベロンでさえ敵わなかったとなると……
うーむ……
『キーラーガよ』
闇の中から声が響き、男の背中がビクッとなる。
今は一番聞きたくない声。
皇帝陛下の声なのだ。
『キーラーガよ』
「ハ、ハハッ」
すぐにひざまずく金属鎧の男。
魔将軍キーラーガとは彼のことなのだ。
『キーラーガよ……またしてもギラットレンジャーにしてやられたようだな』
「ハ……も、申し訳ございません」
どのような言い訳も意味がないであろう。
暗黒帝国の皇帝は、すべてを見通しているはずなのだ。
おとなしく平伏するしかない。
『キーラーガよ。次の作戦はどうなっておる?』
闇の中から声だけが聞こえてくる。
いや、闇こそが暗黒帝国の皇帝そのものなのかもしれない。
「そ、それは……まだ……」
キーラーガの額に汗が浮かぶ。
次の作戦など、今だ何も決まってはいないのだ。
どうしたものか……
闇の中にぼうっと何かの姿が浮かび上がる。
花だ。
黒く太い茎に、内側が黄色く外側が赤い花びらでできた毒々しい花が載っている。
茎には紫色をした葉の付いた蔓が何本も絡みついており、茎にも蔓にもトゲが付いていた。
『キーラーガよ。この花を知っておるか?』
「ハ、ハッ、ビアンドラゴラ……ではございませんでしょうか?」
キーラーガが見覚えのあった花の名を答える。
『そうだ。闇の毒花、ビアンドラゴラだ。これがどのような花かも、知っておるな?』
「ハハッ、もちろんでございます」
キーラーガの脳裏にその花の特徴が浮かぶ。
ビアンドラゴラ……それは闇に咲く毒花。
光ではなく闇の世界で育ち、赤と黄色の毒々しい花を咲かせ、その甘い香りによって獲物を引き寄せる。
引き寄せた獲物は毒花粉によって麻痺状態にされた上、茎か、もしくは紫色の葉を持つ蔓にある毒のトゲに刺されて殺され、花の近くに横たわる。
横たわった獲物は蔓に巻き付かれ、その血肉を溶かされて吸収されてしまうのだ。
まさに闇の毒花という名にふさわしい食肉花である。
『キーラーガよ。次の作戦にはこのビアンドラゴラを使うがいい』
むう……
キーラーガの顔に不満が浮かぶ。
「お言葉ですが皇帝陛下、すでに一度ビアンドラゴラを魔獣へと変貌させることは試してございます。ですがその結果はどうにも芳しいものではなく……」
魔獣化して動けるようにしたにもかかわらず動こうともせず、ただ近くに来た獲物に蔓を巻き付けて殺すだけでは意味がない。
やはり元が毒花とは言え植物では魔獣には不適当なのだ。
『愚か者!』
「むおっ、ハ、ハハッ」
突然の叱責に驚き、言葉を失うキーラーガ。
その足元に、アーモンドのような形をした種が現れる。
『ビアンドラゴラはただの植物。魔獣にしたところで結果が良くないのは当たり前ではないか』
「ハ、ハハッ。おっしゃる通りです」
キーラーガはただ頭を下げるばかり。
『地上の人間を使うのだ。その種は我が魔力を込めたビアンドラゴラの種。その種を人間に植え付ければ、種は人間の体内で発芽し、やがてその者をビアンドラゴラの魔獣人へと変えるであろう』
「人間にですと?」
思わずキーラーガは顔を上げる。
魔獣の素体に人間を使うなどとは考えもしなかった。
地上の人間は邪魔なだけの存在であり、ある程度間引いて支配するべきものという考えしか彼にはなかったのだ。
『そうだ。ビアンドラゴラに知性を与え、魔獣として活用できるようにするのだ』
「なるほど。さすがは皇帝陛下。このキーラーガ、つくづく感服仕りました」
『よい。すぐに行動を開始せよ』
「ハハッ!」
キーラーガは一礼し、ビアンドラゴラの種を手に取る。
なるほど、確かに地上の人間どもにも我らと同様の高い知性がある。
その知性を我らの魔獣として生かすというわけか……
面白い……
さて……
どんな人間にこの種を植え付けようか……
******
「あら、来てくれたの? 忙しいのに悪いわね。今日はお休みなの?」
落ち着いた清楚な雰囲気の髪の長い女性が、会場に駆け込んできたタイトスカート姿の若い女性に声をかける。
「いえ、外回りの途中なんですけど、ちょっと抜け出してきちゃいました」
えへっとばつが悪そうに小さく笑って見せる、栗色のショートヘアの若い女性。
何かで鍛えているのか引き締まった躰はスタイルも良く、タイトスカートが良く似合っている。
輝く目にも意志の強さが見て取れた。
「あらあら、大丈夫なの?」
困ったもんだというように、髪の長い女性の方もくすっと笑みを浮かべる。
「はい。時間的余裕はあるし、早奈美(さなみ)ちゃんの試合を見たらすぐ戻りますから。早奈美ちゃん、もう出ちゃいました?」
「ううん、まだよ。もうそろそろのはず。早奈美も梓紗(あずさ)が応援に来てくれたと知れば、きっと力が湧くと思うわ」
「だといいんですけど……早奈恵(さなえ)先輩はともかく、私の場合は厄介なOGが来たとでも思っているかもしれませんよ」
梓紗と呼ばれた女性がそう返すと、二人は互いの顔を見合わせ、笑いながら客席の方へと向かっていく。
競技場の方では、色とりどりのレオタードやユニタードを身にまとった若い女性たちが競技の準備に余念がない。
今日は全国体操競技選手権の本大会なのだ。
全国からやってきた選りすぐりの選手たちが腕を競う。
その中でも、梓紗の応援する早奈美はトップクラスの選手であり、メダル候補なのだった。
「がんばってー、早奈美ちゃーん!」
競技場の端にいた早奈美を目ざとく見つけ、大声で応援する梓紗。
早奈美は梓紗自身の学校の後輩でもあり、敬愛する早奈恵先輩の妹でもある。
梓紗自身も、五年ほど前はこうしてこの競技場で体操の演技を行ったものなのだ。
今でこそギラットレンジャーの一人、ギラットピンクとして活動しているが、それももとはと言えば、この体操競技で培われた身体能力の高さゆえでもある。
もっとも、彼女がギラットピンクであることは、早奈美にも早奈恵先輩にも言っていない秘密なのだが……
「ふむ……この女か……」
映像に映し出される髪の長い女性に目を向けるキーラーガ。
羽賀谷早奈恵(はがや さなえ)、奴らの年齢で24歳。
元体操競技の全国トップレベルの競技者であり、知性も高い。
ビアンドラゴラの種を植え付けるのにふさわしい人間というわけだ。
暗黒帝国ヤミンゲルの誇る生体脳コンピュータである闇頭脳が選び出したのである。
間違いは無かろう。
すでにビアンドラゴラの種は現場に運ばれている。
あとは種を植え付けるのみ。
ビアンドラゴラの種を植え付けられればこの女は、やがてビアンドラゴラの魔獣人となるのだ。
クックック……
キーラーガの顔に笑みが浮かぶ。
一匹の黒い虫が飛んでいる。
その脚にはアーモンドのようなビアンドラゴラの種が抱え込まれている。
この種を早奈恵の躰に接触させれば、あとは種が勝手に体内に潜り込んでいくのだ。
ビアンドラゴラは獲物の中に種を埋め込み発芽させる植物。
そのため、獲物が離れた場所に行けるように、獲物を生かしたまま種が潜り込むのだ。
種を植えこまれた獲物は、気が付かないままに遠くへと行き、そこでビアンドラゴラが芽吹いてその地に根付くことになる。
獲物の躰は最初の養分となるのだ。
その性質を皇帝陛下は利用されているのだろう。
競技場では早奈美の演技が始まる。
客席で応援する早奈恵と梓紗。
その早奈恵の頭上に、黒い虫が近寄っていく。
「いいぞ……そのまま行け」
映像に映し出される光景に、キーラーガは思わず声を出す。
「あっ!」
「キャッ!」
梓紗と早奈恵が声を上げる。
応援に夢中になってしまい、梓紗が手にしていたペットボトルが早奈恵の振り上げた手で弾かれてしまったのだ。
幸いふたをしていたので、中身がこぼれるようなことはなかったが、ペットボトルが梓紗の手を離れたことに驚いた早奈恵は思わず躰をのけぞらせ、梓紗も飛んでしまったペットボトルを取ろうとして手を伸ばしたため、梓紗を上にして二人が重なるような格好になってしまう。
「痛っ」
何かが首筋にあたったようなちょっとした痛み。
梓紗は思わずそう口にしてしまう。
残念ながら早奈恵の上にかぶさるようにして手を伸ばしたにもかかわらず、ペットボトルは三つほど離れた席の足元に落ちてしまう。
「あー、すみません」
梓紗は痛みを感じた首筋に手を当て、ペットボトルを拾いに行く。
幸い誰にも当たりはしなかったものの、迷惑をかけてしまったことで周囲の客に頭を下げ、そそくさと梓紗はペットボトルを拾って戻ってくる。
「ご、ごめんね梓紗」
戻ってきた梓紗に手を合わせて謝る早奈恵。
「いえいえ、こちらこそ先輩に手が当たっちゃって」
梓紗も席に座り直して頭を下げる。
「大丈夫? 痛くなかった?」
「あー、なんか首に当たったような気がしたんですけど、大丈夫そうです」
梓紗が首筋を触った手を確かめる。
別に血が付いているわけでもないし、そもそも痛み自体も今はもう無い。
きっと何かが当たったんだろう。
梓紗はそう思う。
それは偶然のタイミングだった。
ビアンドラゴラの種を持った黒い虫は、予定通りの位置に問題なく達していた。
そして、今まさに種を早奈恵の頭の上に落とそうとしたとき、早奈恵の手が梓紗のペットボトルを弾き飛ばし、早奈恵は身をよじってのけぞり、早奈恵の位置にペットボトルを取ろうと手を伸ばした梓紗の首筋がやってきたのだ。
黒い虫が離したビアンドラゴラの種は、重力に引かれて落ちていく。
怪しまれないように黒い虫はそのままその場を離れ、あとはビアンドラゴラの種が早奈恵の頭に当たれば、種はそのまま早奈恵の躰に潜り込んでいったはずなのだ。
だが、そこには早奈恵ではなく梓紗がいた。
ビアンドラゴラの種は梓紗の首筋に当たり、そのまま潜り込んでしまう。
一瞬わずかな痛みを感じたものの、ビアンドラゴラの種が出す物質が、その痛みも傷も消してしまう。
ビアンドラゴラが種を獲物の躰に潜り込ませるために獲得した能力なのだ。
獲物はほとんど気にしないまま、ビアンドラゴラの種を体内に持ったまま移動していく。
そしてそこで芽吹くのだ。
梓紗の躰にも、今ビアンドラゴラの種が潜り込んだのだった。
「ならいいけど……」
ちょっと心配そうな早奈恵の顔。
「ちょっと何かに当たったんだと思います。痛みももうないし。いけない! すっかり早奈美ちゃんの演技を見るの忘れてました! ああ……終わっちゃったぁ……」
競技場の方ではすでに早奈美が演技を終えてしまっている。
手を振って引き上げていく早奈美の後ろ姿に、二人は残念そうに顔を見合わせた。
「な、なんだ、あの女は! いきなり邪魔をしおって!」
ぎりぎりとこぶしを握り締めるキーラーガ。
あと少しというところで、突然あの女が訳の分からん行動をとり、ターゲットである羽賀谷早奈恵に種を植え付けることができなかったのだ。
それどころか、ビアンドラゴラの種はあの女の方に取り付いてしまったらしい。
なんという失態!
せっかく皇帝陛下にご用意いただいた種を、ターゲットではなくどこの馬の骨とも知れぬ女に使ってしまいましたなどと、口が裂けても言えるはずがないではないか!
ええい!
忌々しい!
そもそもあの女は何者だ?
ターゲットの羽賀谷早奈恵とは親しいようであったが……
「闇頭脳よ!」
キーラーガが生体脳コンピュータともいうべき闇頭脳を呼び出す。
「あのビアンドラゴラの種がとり憑いた女のことを、大至急調査せよ!」
ターゲットほどの素体としての能力は無いにしても、それなりの能力のある女であれば、まだ救いはあるかもしれん……
キーラーガとしては、それを望むしかなかった。
******
「お帰り。早かったな」
一通りの巡回を終えて本部に戻り、報告を済ませて休憩室にやってきた梓紗に、ソファに寝そべってマンガを読んでいた赤根田仁(あかねた ひとし)が顔を上げて声をかけてくる。
「ただいま。そう? いつも通りだと思うけど」
梓紗はそう答えると、コーヒーを注ぎにサーバーへと向かう。
見ると、ほかのメンバーもすでに戻ってきており、なんだかみんな梓紗を注目しているようだ。
「な、何? なんかあった?」
梓紗が不思議に思っていると、テーブルについていたギラットレンジャーのもう一人の女性である黄野原涼美(きのはら すずみ)が声をかけてくる。
「みんな気になっているのよ。羽賀谷さん、どうだったの? 優勝した?」
「へ?」
思わず口にしたコーヒーを吹き出しそうになる梓紗。
巡回中に抜け出して、後輩の競技を見に行っていたことがバレているのだ。
「知、知って?」
「みんな知っているわよ。かわいい後輩の出る大会だったんでしょ? 応援してきたんじゃないの?」
「ま、まあ……」
思わず赤面してしまう梓紗。
まさかみんなにバレているとは思わなかった。
バレていないとばかり思っていたのに……
「それでどうだったの? 実力は高いんでしょ? 優勝した?」
黄野原涼美は24歳と梓紗より1歳年上。
先ほどまで一緒だった先輩の早奈恵とは同い年であり、そのせいか、梓紗にとっては早奈恵同様にお姉さん的なイメージを持っている。
ギラットイエローとしても頼りになるチームメイトだし、ギラットピンクの梓紗とも仲はいい。
一見その名の通り涼やかな知的美人的ではあるものの、甘いものやかわいいものには目がない部分もある女性だ。
「いや、それが……巡回中だからと思って、早奈美ちゃんの出番をちょっとだけ見て、すぐに会場を出ちゃったものですから……結果までは……」
「ええー?」
梓紗の答えに涼美だけじゃなく、ほかのみんなも声を上げる。
「はははっ、梓紗らしいや。抜け出しているという後ろめたさで、落ち着いて見ていられなかったんだろ」
ギラットブルーの青海丘道太(おうみおか みちた)が笑う。
いかにもさわやかな感じの好青年だが、正義の思いは仁にも負けない熱いものを持っている男だ。
まさに彼の言う通りなので、梓紗は何も言えない。
こんなことなら、もっとじっくりと見てくればよかったと思う。
「まあまあ、それだけ梓紗さんが悪いことができない人だってことですよ。それに……ほら、どうやら優勝したみたいですよ、その人」
タブレットにネットニュースを表示して見せてくれる、ギラットグリーンの緑飛晃(りょくひ あきら)。
ギラットレンジャーの中では一番若い20歳の若者だ。
実力は充分にあるのだが、その若さと顔がやや童顔なせいで、少し子ども扱い的なことをされることもある。
「というわけで、みんなもう知っていることだし、ちゃんとカバーもするから、これからは一言言ってから行くようにな、梓紗」
仁がそう言ってウィンクしてくる。
引き締まった躰に強い心を持っている彼こそ、ギラットレンジャーのリーダー、ギラットレッドだ。
「もう……みんなわかっていたんなら言ってよー! こっちはバレないようにっていろいろと考えていたんだからぁ」
梓紗は苦笑してしまう。
このギラットピンク桃川梓紗(ももかわ あずさ)を含めた五人が、暗黒帝国ヤミンゲルから地上を守る戦士たちギラットレンジャーなのだった。
******
「なんだと?」
キーラーガが思わず声を上げてしまう。
「それは本当か?」
『ピピピ……繰り返します。当該の人間の名称は桃川梓紗。年齢23歳。女性。表向きはノリハラエンタープライズ所属の会社員となっておりますが、ダミー会社である確率が87%。また、その背格好、声の特徴などから、この女性がギラットピンクである可能性が、92%』
モニターに映し出された闇頭脳のはじき出したデータを、驚愕の目で眺めるキーラーガ。
あの女がギラットピンクの可能性が92%もあるだと?
すると……
あの種が取り付いたことで、ギラットピンクがビアンドラゴラの魔獣人になるかもしれないということなのか?
なんと……
それはまた面白いではないか……
クックック……
では、しばし様子見と行こう……
あの素体を使ったよりも強力な魔獣人ができるかもしれん……
そうなれば……クックック……
キーラーガの口元に笑みが浮かぶ。
一通りの任務を終え、梓紗はマンションの自分の部屋へと戻ってくる。
ここはセキュリティも完備した、都内の高級マンション。
表向きは外資系企業の一般OLで通している梓紗は、ここから会社に通っているという設定なのだ。
もちろん何かあった時にはすぐに本部と連絡が取れるようにはなっているし、このマンション自体やその周辺にも、それとなく彼女を警備する人員が配置されているはずである。
もっとも、何かあった時に一番頼りになるのは、バトルスーツを身に着けてギラットピンクへと変身した彼女自身であるのだろうが……
「ふう……」
なんだか今日は疲れた。
まさかみんなが知っていたとは……
そうと知っていれば、こそこそと巡回を抜け出して見に行ったりなんてしなくてもよかったのに……
梓紗は苦笑してしまう。
できるだけみんなに気を使わせないようにと思っていたことが、かえってみんなに気を使わせてしまっていたのかもしれない。
それにしても……
涼美さんぐらいは知ってるよって教えてくれたってよかったのに……
なんだろう……
なんとなく躰が重く感じる……
風邪でもひいたかな……
シャワーを浴びた後だからなのか、なんだか躰が火照るようだ。
熱は無さそうだけど……
今晩は早く寝たほうがいいかもしれない……
パジャマに着替え、目覚ましをセットして布団に潜り込む梓紗。
明日もまた緊張の一日だろう。
早めに寝て体調を整えるのもギラットレンジャーの大事な任務。
暗黒帝国ヤミンゲルを打ち払うその日まで頑張らなきゃ。
おやすみなさい。
ほどなく梓紗は寝息をたてはじめる。
天井でその様子を見下ろしている黒い虫。
この虫がその目で見たものは、映像となってキーラーガの見ているモニターに映し出されるのだ。
暗黒帝国ヤミンゲルの放つ偵察用の闇虫である。
普通の虫ならば入り込めないような場所でも、この闇虫なら入り込んでしまう。
梓紗のことを調べたキーラーガが、その様子を探らせるためにここに送り込んだのだった。
「ふうむ……今のところは変わった様子はないか……」
ベッドで寝息を立てている梓紗の姿が、モニターに映し出されている。
皇帝陛下にいただいたビアンドラゴラの種は、確かにこの女に潜り込んだはず。
で、あれば、何か変化があってもよさそうなものだが……
キーラーガが考えるように顎に手を当てる。
待てよ……
確かビアンドラゴラの種は、その花の甘い香りで引き寄せ、毒花粉を吸わせて麻痺状態にさせた獲物に植え付けるもの。
本来餌として麻痺させたり殺したりした獲物は、そのまま蔓によって巻き付かれ、溶解液で溶かされてしまう。
そしてビアンドラゴラは、その溶けた溶液を養分として吸収するのだ。
だが、種を植え付けた獲物に関しては、一度麻痺から回復させ、何事もなかったかのようにその場を去らせるのだ。
種はその獲物の中で発芽し、体内に根を張り巡らせていく。
やがて根が広がり、獲物の躰が耐えきれなくなると、そこで獲物は死んでしまう。
その死んだ獲物の躰を養分にして、ビアンドラゴラは成長し、花を咲かせるのだ。
だとすれば、今頃この女の中でも根が張り広げられているのかもしれん。
「しかし……もしそうだとすれば、ただこの女が死んだ後に大きなビアンドラゴラの花が咲くだけではないのか?」
『そうではない、キーラーガよ』
「うおっ、へ、陛下!」
突然闇の中から、自分のつぶやきに返事が返ってきたことに驚くキーラーガ。
聞き耳を立てているなど、皇帝陛下もお人が悪い。
「も、申し訳ありません。陛下より賜りましたあの種、闇頭脳によってあの種を植え付けるにふさわしい人間を選び出したのではありますが……その……手違いにより……」
植え付ける相手をミスしてしまったことを、キーラーガは慌てて報告する。
『よい。わかっておる。むしろこれは願ってもないこと。それに言ったであろう、キーラーガよ。我が魔力を込めしあの種は、ただ根を張り巡らせた躰を養分にするのではなく、その躰ごと一つの花となるのだ』
「一つの花?」
闇の中から聞こえてくる皇帝の言葉にキーラーガが問いかける。
『そうだ。人間の躰を取り込み、新たなビアンドラゴラとして成長し花を咲かせる。言わばビアンドラゴラと人間の融合体となるのだ』
「融合体ですと?」
確かに魔獣人となるようなことはおっしゃってはおられたが……
『そうだ。それこそが、人間のように自由に動ける肉体と知性を持つ、新たなビアンドラゴラとなるのだ』
「するとあの女は……」
『うむ、面白いことになりそうだ……』
闇の中から含み笑いが響いてくる。
「なるほど……」
再びモニターに目をやるキーラーガ。
そこには、ベッドで眠る梓紗の姿が映し出されていた。
ハア……ハア……ハア……
躰が熱い……
なんだかのどが渇く……
苦しい……
ハア……ハア……ハア……
熱い……
躰が……
躰が……
苦しそうに寝返りを打つ梓紗。
髪に隠れているその首筋には、黒い網目のような模様ができていた。
******
目覚まし時計の電子音が鳴る。
「ううーん……」
手を伸ばしてスイッチを押し、電子音を止める梓紗。
布団から上半身を起こし、両手を肩のあたりまで持ち上げ、うんと伸びをする。
ハア……
もう朝なの?
全く眠った気がしない。
躰が重く感じる。
疲れが取れていないのだろうか……
なんだか自分の躰がうまく動かないような気がする……
それに頭もなんだかすっきりしないわ……
「えいっ」
梓紗はベッドから無理やり起き出すと、パジャマを脱ぎ、寝汗を流すためにシャワーを浴びる。
「熱っ!」
お湯に手をかざして思わず引っ込める梓紗。
いつもの設定温度のはずなのに、とても熱い。
まるで熱湯のよう。
「湯沸かしの故障かしら?」
梓紗はお湯を止め、水で手を冷やす。
冷たい水が気持ちいい。
この温度なら、このまま水を浴びたほうがいいかもしれない。
梓紗はそのまま冷水を躰に浴びる。
冷たくて気持ちがいい。
なんだか全身で水を吸収しているかのよう。
そのまま水を口の中にも流し込み、のどの渇きもついでに癒す。
美味しい……
水は美味しいわ。
シャワーを終え、タオルで躰を拭きながら部屋に戻る。
朝食を取ろうと考えるものの、どうにも頭がぼうっとして考えがよくまとまらない。
それに食欲もあんまりわいてこない。
「いいか……」
どうせ今日も街の巡回がメインだろうし、お腹が空けば途中で何か買って食べればいい。
とりあえず、本部に行かなきゃ……
梓紗はそう思い、身支度を整えていく。
いつものように化粧を施し、服を着替えて家を出る。
「あっ!」
外に出たとたん思わずよろめいてしまう梓紗。
あまりのまぶしさにめまいのようなものを感じたのだ。
「えっ? いったい?」
近くの壁にもたれかかり、少しの間目を閉じて黙って立つ。
すると、じょじょにめまいのようなものは去り、梓紗はゆっくりと目を開ける。
かなりまぶしいものの、先ほどよりはだいぶマシのようだ。
室内から急に外に出たので、まぶしく感じたのかもしれない。
「ふう……やっぱり風邪か何かかなぁ……」
今朝から躰はだるいし、頭もぼうっとする。
食欲もないし、風邪をひいてしまったのかもしれない。
「うーん、とりあえず本部に行ってメディカルチェックを受けるのがいいかも……」
ギラットレンジャーの本部にはもちろん最高級の医療スタッフもそろっているのだ。
チェックを受け、風邪薬でももらった方がいいのかもしれない。
少し落ち着いたところで、駐車場に向かう梓紗。
止めてあるピンク色の軽自動車に乗り込むと、エンジンをかける。
ふう……
どうやら収まったようだ。
さて、行きますか。
軽快に走り出すピンクの軽自動車。
市販車に似せてはあるものの、もちろんこれはギラットピンクの専用車でもあり、防弾装甲に覆われた高性能カーである。
様々な電子機器も積まれ、主に偵察や捜索に使われるのだ。
いつどんな時に戦闘になるかわからないギラットレンジャーであるから、梓紗はこの専用車を普段でも使っているのだった。
「おはようございます」
何の変哲もないオフィスビルの地下駐車場。
ビル入り口警備の警備員がにこやかに挨拶してくる。
「おはようございます。お疲れ様です」
いつものように毎回違うルートを通って本部にやってきた梓紗。
場合によっては大きく遠回りをすることもある。
もちろんあとをつけられていないかのチェックも忘れない。
警備員二人の監視の下、梓紗はIDカードと指紋及び網膜のチェック、さらには暗証番号の入力を行う。
このすべてが問題ないと証明されることで、初めて入り口が開けられるのだ。
その間には持ち物のチェックも行われる。
ヤミンゲルの連中がどういう手段で来るかわからないのである。
できる限りのセキュリティを行うのは必要だろう。
「OKです。どうぞ」
「ありがとうございます」
顔見知りの警備員に笑顔で礼を言い、入り口を通る梓紗。
ここから先はギラットレンジャーの本部区画であり、ごく限られた人間しか入れない。
梓紗は爆発物探知機を兼ねた廊下を歩いてロッカールームに行き、そこでレンジャーチームの制服に着替えて司令室に向かう。
まずは司令に顔を見せなくては。
梓紗がロッカールームを後にしようとしたその時、、梓紗のロッカーの扉の隙間から、一匹の黒い虫が這いだしてくる。
昨晩梓紗の様子を事細かに伝えていた闇虫だ。
朝、梓紗が起きる前に彼女のハンドバッグに潜り込んでいたのである。
隙間に潜り込んで持ち物チェックからも逃れた闇虫は、かさかさと壁を這い上り、ドアの隙間から廊下に出る。
そして天井に張り付いて、廊下を歩いていく梓紗の姿を追うのだった。
「うーむ……ここがギラットレンジャーの本部というわけか……いや、待て、まだそう決めつけるのは早計だ」
闇の中に映し出される闇虫からの映像を見ながら、その人間そっくりでありながらも青い肌をした甲冑の男、キーラーガが顎に手を当てる。
「だが、重要な施設であることは間違いあるまい。ククク……闇虫をあの女のバッグに忍び込ませたのは正解だったようだ」
今までうかがい知ることのできなかったギラットレンジャーの施設。
その内部に潜り込めたというのは僥倖だろう。
と、なれば、この闇虫は大事に使わねばなるまい。
おそらく二匹目を持ち込むことはそう簡単ではないだろうからな。
なるべく物陰に潜ませ、人目に付かないようにする必要があるだろう。
「むっ?」
廊下を歩いていた梓紗が、頑丈そうなドアに相対している。
首から下げたカードをドアの脇の機械に通し、何やら覗き込んで文字盤のキーを打ち込んでいく。
「何をやっているのだ? うおっ?」
梓紗が一連の動作を追えると、頑丈そうな扉が横にスライドして開いていく。
その開いたドアから梓紗は中へと入っていった。
「むう……」
なるほど、あれはドアを開けるための動作だったらしい。
つまりそれだけ厳重に管理されている区画ということになるのだろう。
だとすれば、今むやみに闇虫を入り込ませるのは得策ではないかもしれない。
機会はまだある。
キーラーガは瞬時にそう判断し、梓紗の姿がドアの向こうに消えていくのを見送った。
「よう、おはよう」
「おはよう、梓紗」
「あ、おはようございます」
司令への挨拶を済ませた梓紗が、司令室からいつものメンバー詰所にやってくると、先に来ていた仁と涼美がいて、お互いに挨拶を交わし合う。
ギラットレンジャーの詰所は一種の休憩室のようになっていて、メンバーが自由にくつろげる空間になっているのだ。
「梓紗、昨日の大会の記事が出ているぞ」
仁が、テーブルにスポーツ新聞を広げる。
「優勝した子の写真も載っているわ」
「えっ? 見せて」
梓紗はすぐにテーブルに行って記事を見る。
そこには、レオタード姿で演技をしている羽賀谷早奈美の写真が比較的大きく掲載されており、優勝したことが書かれていた。
「うーん……やっぱり体操選手ってきれいよね」
「そうだなぁ」
仁がうんうんと涼美の言葉にうなずいている。
「美味しそう……」
「えっ?」
「えっ?」
思わぬ言葉に顔を上げる仁と涼美。
「えっ? えっ?」
梓紗も自分が何を言ったのかに気付いて驚く。
い、今のはいったい?
私は何を?
それは一瞬で消えたものの、確かに今梓紗は早奈美のことを美味しそうと思ったのだ。
いったい私は?
何を思ったの?
「梓紗?」
「美味しそう?」
仁と涼美が梓紗を見つめる。
「あ、あはは……なんだか今朝は起きたときから頭がなんだかぼうっとしちゃってて……朝を抜いたからお腹が空いたのかな?」
思わずごまかし笑いをする梓紗。
「ええ? 大丈夫? ダメよ、無理なダイエットは」
涼美が軽くたしなめるように言う。
よくあるのだ。
朝食を抜くことでダイエットを考える。
だが、それは躰には負担にしかならない。
「ああ、俺たちはいつも体調は万全に整えておかなくちゃならないからな」
仁もやんわりと朝食抜きをたしなめる。
彼から見れば、ギラットレンジャーの訓練で鍛えられた梓紗の肉体は引き締まっており、太っているには程遠いのだが、女心とはそういうものなのだろう。
「え、ええ……でも、なんだか今朝は食欲が無くて……もしかしたら風邪を引いたかも」
表情を曇らせる梓紗。
確かに今朝はあんまり体調がすぐれなかった。
「無理はするなよ。なんだったら今日は本部で休んでいてもいいぞ」
どうせ街を巡回すると言っても、そうそう都合よくヤミンゲルの動きを察知できるわけもない。
むしろ臨戦態勢で外にいるということが重要なのであり、ヤミンゲルの連中が現れた場合にいつでもその場に急行できることの方を重視している行動だ。
ヤミンゲルの出現はほぼ本部の方でその動きを察知し、彼らはその指示に従って現場に急行する。
なので、巡回という名目で気晴らしの外出をしていると言ってもいいぐらいだろう。
一人ぐらい詰所で休んでいたところで大きな問題はない。
だから、昨日の梓紗の行動も厳密にいえば巡回途中のサボりということになるかもしれないが、目くじらを立てるようなことではないのだ。
「ええ。でも大丈夫だと思う。だいぶ良くなったみたいだし、ひどくなりそうならメディカルルームで薬もらってくるわ」
梓紗が笑顔を見せる。
実際、今はそれほど体調が悪いわけではなくなっていた。
たぶん何とかなるだろう。
その様子を天井から見下ろしている黒い虫。
その目と耳が、今までうかがい知ることのできなかったギラットレンジャーの詰所内部をうかがっていることは、どうやら気付かれていないようだ。
あのあと、ほどなくして再び出てきた梓紗を天井から尾行し、この詰所に入り込んだのだ。
ここは先ほどの厳重な扉とは違い、誰もがある程度は自由に出入りできるらしい。
なので、キーラーガも思い切って闇虫を忍び込ませたのだが、どうやら正解だったようだ。
「うーむ……やはりここはギラットレンジャーの重要施設、それも奴らの拠点と言ってもよさそうだ。あの桃川梓紗とやらもギラットピンクであることに間違いはあるまい。するとここにいる連中が……」
闇の中に映し出される闇虫からの映像に、キーラーガは腕組みをする。
ちょうどほかの二人、道太と晃もやってきて、詰所に五人がそろったところだ。
「ギラットレンジャーの五人ということか……」
キーラーガは闇頭脳に映像内の人物の特定を急がせる。
これで奴らを個別に襲撃することも可能になるだろう。
予想外の収穫と言わねばなるまい。
「む、出かけるようだな」
全員がそろったことで、奴らはどこかへ行くらしい。
街の巡回ということだが、ここに常時いるわけではないということだろうか?
なるほど、奴らは常に街中をうろつき、我らヤミンゲルの出現を待ち伏せていたというわけだ。
道理で現れるのも早かったわけだ。
『いいからおとなしくしてろって』
『でも……』
『体調はしっかり整える。ギラットレンジャーの基本だぞ。メディカルチェックしておけ』
『むう……了解です……』
「うん?」
映像の中では何やら言い争いをしているようだ。
どうやら五人のうち、あの梓紗という女だけが残され、四人だけで出て行ってしまったらしい。
どういうことだ?
まさか、種を植え付けたのが気付かれたのか?
メディカルチェックをしろと言われたようだが……
うーむ……
キーラーガはとりあえず新たに数匹の闇虫を放ってみる。
この一匹のほかにも、うまくいけばもう一匹ぐらいは忍び込ませたいものだし、出かけて行ったギラットレンジャーの各メンバーにも可能ならば張り付かせたい。
まあ、少なくとも、この梓紗という女の監視のためにも、家にもう一匹置いておく必要があるだろう。
「で、ここへ来たってわけね?」
白衣と眼鏡が良く似合う、ふわっとしたショートヘアの女性がふふっと笑う。
ギラットレンジャー本部でメディカルチーフを勤めている医師の早間美彩(はやま みさ)である。
メンバーの健康管理に重要な役目を果たす彼女だが、まだ30代の若さであり、梓紗や涼美にとってもちょっと年の離れた姉のような存在である。
いまだ独身ということもあり、男性職員からの人気も高いらしい。
「今はほぼなんともなくなったんですけど、朝はなんだかめまいみたいなものを感じたり、躰がだるい感じでしたから、赤根田さんがチェックを受けてこいって……」
まあ、ちょっと風邪気味なのかもしれないけど、今はもうなんともないのに残れと言われたことで、梓紗は少し不満げに口をとがらせる。
「まあ、それは正しいわね。ギラットレンジャーはいかなる時でも全力を発揮できるようにしてなくちゃならないんだから」
眼鏡の奥の目を細め、美彩が微笑む。
この笑みを見たいがために仮病を使う者もいるとまで言われる笑みだ。
「それはそうなんですけど……」
「とりあえず熱は無さそうね。口開けて」
額に測定器を当てて体温を測り、口の中を確認する美彩。
「のどもなんともないわね。じゃ、服をめくって」
言われたとおりにする梓紗に、聴診器を当てて心音を聞いていく。
「うん。まあ、疲れが出たのかもね。このところヤミンゲルの攻撃も激しいし……」
「そうなのかな……」
「とりあえずぐっすり寝て、美味しいもの食べて栄養を取りなさい。なんだったら栄養剤でも出す?」
カルテに所見を記入する美彩。
「あ、いえ、そこまでは。ありがとうございました」
ともあれ、特になんともなさそうということで梓紗もホッとする。
梓紗は美彩に礼を言うと、メディカルルームを後にした。
ひとまず結果を司令に報告し、行動の指示を仰いだ梓紗だったが、そういうことなら今日は待機していろということで、詰所での待機任務となってしまう。
本を読んだりネットサーフィンをして時間をつぶす梓紗だったが、正直待機任務はつまらなく、いっそのことヤミンゲルの襲撃がないかななどと考えてしまうほど。
結局梓紗の一日はこうして終わった。
「ふーむ……ただ一日拠点で過ごしただけか……」
つまらん……
梓紗同様にキーラーガもそう思う。
あの女がいつビアンドラゴラとして発芽するのかとわくわくしていたが、結局何も起こらなかったではないか。
発芽には時間がかかるものなのか?
どうもこういうのは性に合わん。
ただ黙って見ているなど……
いっそのこと拠点が判明した今、あそこを襲撃するのもいいのでは?
…………
いや、待て……
あの種は皇帝陛下がご用意されたもの。
下手な動きをしてお怒りを買ってはたまらない。
ここは……やはりもう少し何らかの結果が出るのを待つしかあるまい。
キーラーガはそう考え、自分で自分を納得させる。
やれやれ……
いつまで待たされるものか……
(続く)
- 2021/07/17(土) 20:00:00|
- 闇に咲く美しき毒花
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今日で当ブログ「舞方雅人の趣味の世界」は、記事の初投稿から丸16年が経ちました。2005年の7月16日に記事の初投稿を行ないましたこのブログも、今日でなんと丸16年が過ぎました。
Σ( ºΔº )マジデスカ?
ついに16歳です。
私のブログ開始の年に生まれた子は、もう高校生ですよ。
いやぁ、すごいですねぇ。
私が歳を食うわけだ。(笑)
これもみな本当に当ブログを訪れてくださいます読者の皆様がいらっしゃったからこそ。
本当にありがとうございます。
感謝感謝です。
毎年のことではありますが、また一年続けられてよかったです。
今後もできる限りは続けたいものだと思います。
どうか今後とも応援をよろしくお願いいたします。
ということで、明日は記念SSを投下いたします。
お楽しみいただければ嬉しいです。
今日はこんなところで。
17年目に入りました当ブログ、「舞方雅人の趣味の世界」をこれからもよろしくお願いいたします。
- 2021/07/16(金) 17:36:00|
- 記念日
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昨日でプロ野球はオールスター戦前の前半戦が終了。
オリンピック休みを挟み、後半は8月13日から再開です。
昨日の前半最後の試合、阪神はDeNAに3-4と惜しくも敗戦。
これで3連戦は1勝2敗と負け越し。
貯金をまた一つ減らしてしまうことに。
その結果、前半戦は84試合を消化して、48勝33敗3引き分けと15の貯金で首位で終了。
かろうじて首位キープで終えることができました。
やれやれですね。
後半再開までは一ヶ月ほどありますので、疲労の回復と戦力の再編をしてほしいですね。
先発投手の安定感が無くなってきていますし、中継ぎ陣も再編が必要かと。
後半再開とともにまたダッシュをしてほしいところです。
一方昨日の試合はオリックスに対して6-2の勝利で締めくくった日本ハムですが、こちらは81試合を消化して30勝42敗9引き分け。
12の負け越しで最下位ターンです。
それでも結構持ち直してきたんじゃないですかねー。
首位とは10ゲーム差ですか。
まあ厳しいのは間違いないですが、もっと負け越しているのではないかと思ってました。
こちらも再開までに戦力の立て直しを図ってほしいですね。
トレードとかはやらないんですかねー。
後半戦とともに来季への布石も必要でしょうし。
ともあれ、しばらくお休みです。
エキシビジョン戦が何試合かあるそうですが、後半戦の再開が楽しみですね。
がんばれ両チーム。
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2021/07/15(木) 18:56:20|
- スポーツ
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今月のタミヤニュース627号が届きましたー。

こちらが表紙。
今号は上下とも第二次大戦時のドイツ空軍第3爆撃航空団のマークとのこと。
なんかかわいい感じですね。(*´ω`)
今号は「モデラーのための戦史」が連載360回目でついに終結。
足掛け30年にわたる長期連載だったそうで、おそらく前半には地上戦の記事もあったのかなーと思うのですが、私が読み始めたころには空戦記事がメインだったのでちょっと残念。
ともあれ、連載終結お疲れ様でした。
「第二次大戦イタリア軍装備解説」は、AS37/AS43偵察車の二回目。
イタリア軍の兵器の例に漏れず、AS43偵察車も20ミリ機関砲と密閉装甲を持つなかなかいい装甲偵察車だったようですが、配備が遅かったためにイタリア軍としては戦争に参加できず、独軍に鹵獲されて使用されてしまったみたいです。
巻中の情景写真は、米軍歩兵が重い荷物を背負って演習しているところをジープの上から上官が怒鳴っているという感じの情景。
今はもう3Dソフトを使って構図を決めてディオラマを作るんですねぇ。
時代の移り変わりですねぇ。
時代の移り変わりと言えば、次回で「人形改造コンテスト」も第50回になるんだとか。
ということで、今号では第1回から49回までの金賞作品を4ページにわたって紹介されており、まさに時代の流れが一目瞭然。
当時何が流行していたかなんてのもわかりますね。
新商品の紹介では1/35MMシリーズの「ドイツⅣ号戦車G型初期生産車」と、1/48傑作機シリーズの「マクダネル・ダグラスF-4BファントムⅡ」がそれぞれ紹介されてました。
Ⅳ号戦車は昔は「F2型」と呼ばれていたもので、いろいろと資料が出てきたことから「長砲身化されたものはG型」とわかったんですよね。
どちらもすごくかっこいい模型です。
ということで今号も面白かったです。
次号も楽しみですね。
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2021/07/14(水) 18:42:14|
- タミヤニュース
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先日は札幌の東区でクマが出現し、四人の人がケガをするという事件がありましたが、今月に入ってからも道南の福島町で畑仕事をしていた女性がクマに襲われて死亡したとみられる事件が起きました。
福島町の事件では女性はクマに食べられたらしいということで、遺体の損壊が非常に激しかったといい大変恐ろしいことだと思っておりましたが、昨日また道東の滝上町でクマに襲われたとみられる女性の遺体が見つかったとのこと。
こちらは食われてまではいなかったみたいですが、やはり頭部や背中に大きな傷があったとか。
うーん……クマの被害が相次ぎますねぇ。
先日のテレビでの報道ですと、90年代頃に比べてクマの数が倍増しているのだそう。
そのために人里に出てくるクマも現れてしまうみたいです。
人を襲ってしまったクマは、再び襲ってしまうらしいですから、やはり気になりますよねぇ。
札幌の東区の件もそうですが、最近は札幌市内や旭川市内など市街地でもクマが出てくるんですよね。
家庭菜園なんかが狙われたりするんだとか。
うーん、困ったものです。
クマの問題は一朝一夕にどうできるという話ではないんですけど、どうしたらいいのか悩みどころです。
どうしたらいいんでしょうねぇ。
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2021/07/13(火) 18:21:23|
- ニュース
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今日は定期通院二ヶ所が重なる病院のはしごの日でした。
_(:3 」∠)_ ヤレヤレ
内科の方では以前から気になっていたことを診てもらおうと思ってはいたんですが、先生の方からはもう少し様子見てみましょうとのこと。
たまーに感じるものではあるんですけど、繰り返し起きてきているので、ちょっと気にはなるんですよね。
次回の診療時までにどうなるかですかねー。
それにしても疲れました。
二ヶ所の病院の距離がバスに乗るには中途半端な距離で、歩くにはやや遠いというね。
結局歩いて行ったんですけど、汗だくになりました。
_(:3 」∠)_ ツカレター
ところで今日は、日本ハムファイターズの斎藤佑樹投手が、269日ぶりに二軍戦に登板したというニュースが。
おおー、ついに投げましたか。
今季は無理かなーと思っておりましたので、ちょっと驚きです。
最速132キロの直球ということですが、フォークも130キロほどとのことで、速度差がないだけに打ちづらかったのかもしれませんが、一イニングを無安打無失点で抑えたとのこと。
まあ、今回の投球だけでは何とも言えませんけど、後半戦には一軍に上がってきますかね。
なんだかんだ言って今でも「無双する斎藤佑樹投手」というのは見たいなぁと思っておりますので、頑張ってほしいところです。
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2021/07/12(月) 18:34:17|
- 日常
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今日は阪神-巨人戦はナイターなんですな。
終了まで待つというつもりもないので、今週は昨日までの状況を。
今週の阪神は昨日の時点で5試合を3勝2敗という結果。
今日たとえ負けたとしても、一応3勝3敗の五分ということに。
もちろん4勝2敗にしてほしいものですけどね。
とはいえ、昨日の伊藤投手はよくなかったですねぇ。
梶谷選手への死球は骨折ということになってしまったそうで、一ファンとしても申し訳ないという気持ちです。
状況的に内角の厳しいところを攻めようというところだったのだとは思いますが……
打線はヤクルトとの三戦は5点4点6点と取ってますし、まあまあ打てないというほどではなくなってきたかなという気がします。
大山選手、佐藤選手にもう少し当たりが出てくれるといいのですが……
今日は前半最後の巨人戦。
勝つか負けるかでは大きく違います。
なんとか勝って突き放したいところ。
がんばってほしいですね。
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2021/07/11(日) 17:43:41|
- スポーツ
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今日は土曜日でしたので、いつもならばウォーゲームのソロプレイをやる日ではあったのですが、今日は創作に集中ということでソロプレイはなし。
ちょっと締め切りが近いですから書くのも頑張らないとねー。
おかげでとりあえず一本はなんとかなりそうなので一安心。
あとは修整をかけるだけ。
やれやれです。
来週火曜水曜あたりで創作はなんとかしたいですね。
来週の土曜日はウォーゲームできるかなぁ……
やるとしたら何やりましょか。
今日はちょっとネタが無かったのでこんなところで。
それではまた。
- 2021/07/10(土) 18:46:51|
- 日常
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今週前半のヤクルト三連戦を、かろうじて2勝1敗で切り抜けた阪神。
今日からは甲子園で巨人との三連戦です。
昨日の時点でゲーム差は2.5。
三連戦の結果次第では入れ替わることになりますので、なんとか勝ち越してほしいところです。
今日の先発は阪神が秋山投手、巨人が戸郷投手とのことですが、さてどうなりますか。
まずは先制点を取ることが重要でしょうね。
そして、やっぱり期待するのは佐藤選手のホームラン。
最近ちょっとお疲れのようですが、何とか頑張ってほしいですね。
佐藤選手にホームランが出れば、みんなの士気も高まるでしょうし。
放り込んでほしいものです。
ドキドキの三連戦。
どんな結果に終わるのか……
楽しみですね。
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2021/07/09(金) 18:13:51|
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いやぁ、春はたくさん見ましたわぁ。
「Vivy」「転スラ日記」「スライム倒して300年」「マーズレッド」「86(エイティシックス)」「戦闘員派遣します」「スーパーカブ」「シャドーハウス」「すばらしきこのせかい」
毎日どれかこれか見ていた感じですねー。
どれも面白い作品でした。
配信で見た作品については録画ができなかったのがちょっと残念。
「スーパーカブ」なんかは録画しておきたかったなぁ。
そして7月に入り夏アニメが開始です。
これまでと継続してみているものに「不滅のあなたへ」「エデンズゼロ」「トロピカル~ジュ!プリキュア」「名探偵コナン」「サザエさん」がありますけど、そこに加えて「ピーチボーイリバーサイド」は配信視聴始めましたし、「現実主義勇者の王国再建記」は地上波でやってくれるようなので見てみようかなと。
「転スラ」も二期後半が始まりましたし、春に比べると大幅に少ないですけど、現在のところはこれぐらいですかねー。
一つ二つは増えるかも。
まあ、なんだかんだ言ってアニメは見ちゃいますなー。
また楽しませていただきましょうねー。
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2021/07/08(木) 17:38:45|
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今日、西武ライオンズの松坂大輔投手が今季で引退するという発表がありました。
西武に移籍後は再度一軍のマウンドに立つということはかなわないことになりました。
松坂投手引退ですか。
世代と呼ばれた旗頭でしたので、一つの時代が幕を引かれたという感じでしょうか。
正直私は松坂投手はあんまり印象ないんですよね。
なにせ日本での所属球団が西武、ソフトバンク、中日という球団なので、阪神及びハムファンの私にとっては倒すべき相手でしかなくて。
(^_^;)
とはいえ、すごい投手だったとは思いますし、知名度は大きかったですよね。
それこそ「松坂世代」とも言われたくらいですし。
引退した阪神の藤川球児投手もその世代だったんですよね。
メジャーから戻ってきてからは、とにかくケガで登板できない状況が続いたという印象が強いです。
今回の引退も指の感覚が失われてしまったとのこと。
大変苦悩されたのではないでしょうか。
ともあれ長い間お疲れ様でした。
ゆっくりお休みください。
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2021/07/07(水) 17:41:37|
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昨日の新型コロナに対するワクチン接種から一日が経ちました。
昨晩は腕を動かすと鈍い痛みを感じるなぁってくらいにまではなりましたが、それ以上のことにはならず、今の時間ではもう触ったら多少の痛みを感じるなぁっていう程度にまで戻りました。
ほぼ何事もなく済んだと言っていいのではないでしょうか。
次回は8月の頭になりますけど、一回目より二回目の方が副反応が出やすいとも聞きますので、ちょっと気にはなりますね。
(*´ω`)
さて、我が応援します阪神は、今日からオールスター前の試練の九連戦がスタートです。
相手は三位のヤクルト、二位の巨人、そして五位とは言いながらも前回三連敗しましたDeNAです。
まさに正念場の九連戦という感じでして、この九試合を何勝何敗で終えるかが、今後にも大きく影響しそうな気配です。
私個人としては最悪でも5勝4敗。
しかも巨人との直接対決は2勝1敗で切り抜けてほしいと願うばかりなのですが、はたしてどうなりますか?
まずは今日からのヤクルト三連戦ですねー。
正直チーム状況は確かによくはないのですけど、それでも大きな連敗をしたというわけではないですので、やはり巨人とヤクルトが調子がいいということなんでしょうね。
何とかここで返り討ちにしてほしいところです。
がんばれ阪神タイガース。
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2021/07/06(火) 18:24:54|
- スポーツ
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今日は十何年ぶりかで地下鉄の「新さっぽろ駅」まで行ってきました。
札幌市の新型コロナワクチンの集団接種会場のうち、私が予約を取りましたのが新さっぽろの会場だったので。
私の住む北区からですと、かなーーーり遠いんですよねー。
行くだけで一時間近くかかっちゃうという。
_(:3 」∠)_ トオイ
今回私は「基礎疾患持ち」ということで、他の一般の64歳以下の方よりは早く接種させていただけることになり、ありがたい限りです。
多分かかった場合には私は重症化しやすいと思いますので、ワクチン接種で重症化を防いで少しでも負担をかけないようにできればと思います。

ということで問診を受けてワクチン接種。
皮下脂肪が厚いせいなのか、注射してくださった方が腕が良かったのか、けっこう痛いような話は聞いておりましたが、私の場合は実にスムーズで痛みをほとんど感じなくて、え? 打ちました? って尋ねたくなるほどに何も感じなかったです。
びっくり。
接種後は15分ほど経過観察をして、何事も無かったので会場を後に。
現地着から約一時間程度で全部終了でした。
今の時間になりますと、腕の注射した周辺が触れば鈍い痛みを感じるなぁってところでしょうか。
明日あたりどうなっているかですかねー。
ということで、一回目の接種を無事に終えることができました。
ありがとうございました。
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2021/07/05(月) 21:28:24|
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今日の阪神は好機でことごとく打てずに広島に3-4で負け。
安打数は11と広島を上回っても、あれだけチャンスをつぶしていたら勝てませんわ。
無死満塁で4番5番6番で点が入らんとかつらいところですなぁ。
これで今週の6戦は2勝3敗1引き分け。
一つの負け越しですので、言うほど悪いわけではないんですけど、どうも巨人とヤクルトが迫っているだけに負けの印象が大きくなってしまいますねぇ。
火曜日からはいよいよそのヤクルト、巨人との6連戦。
正念場ですね。
ここで何とか踏みとどまってほしいものですが、どうなりますか……
頼みますよぉーーー! ( ˘ω˘)人
がんばれタイガース。
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2021/07/04(日) 17:31:55|
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今日は午前中はちょっと創作に時間を使ったので、午後からウォゲムを遊ぶことに。
じゃあ、午後からのひと時で何をやろうかなと考えまして、結局選んだのは「Squad Leader」という。(^_^;)

なんと言いますか、私にとりまして一番手軽にできるのってこれなんだなぁと。

ということでお手軽に「シナリオ1」を楽しむことに。
もう何回このシナリオは遊んだことやら。
(*´ω`)

初期配置はこんなもの。
まあだいたいこの初期配置になりますかねぇ。

第一ターン終了時。
なんと今回は最初のソ連軍の準備射撃がむちゃくちゃ効果でまくりで、独軍の前衛が早々に崩壊するという珍しい展開。
早くもF6の建物が占領されてしまってます。

そして独軍が反撃するとこのありさま。(笑)
開豁地(道路)を走る親衛赤軍分隊をうまいこと射撃で効果出したのに、士気チェックでピンゾロが出て狂暴化!
「ウラー!」

さらにもう一個狂暴化分隊が出て第二ターン終了。
独軍は守りの要の9-2指揮官スタックも混乱してしまうという。
\(^o^)/オワタ

第三ターン終了時。
独軍はほとんどの分隊を失ってしまい、ソ連軍に対して何もできない状態に。

最終の第五ターンを待たずに第四ターン終了時点で独軍に健在な分隊が無くなりゲームセット。
ここまで一方的になったのも珍しいかも。
初回のソ連軍の準備射撃がすべてでしたね。
独軍は立て直すことができませんでした。
狂暴化が二個分隊出ましたけど、それ以外ではそれなりにソ連軍も士気チェックにも失敗していたんですけどね。
射撃の回数が大幅に少なくされたのが痛かった。
ということで、あららっという間に終了でした。
2時間もかからなかったかも。
早い! (笑)
さて、次週は何をしましょうかねー。
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2021/07/03(土) 17:17:23|
- ウォーゲーム
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昨日はヤクルト相手にいやな負け方をした阪神でしたが、一夜明けて今日球団から中谷選手のソフトバンクへのトレードが発表となりました。
1対1の交換トレードで、相手は二保旭投手とのこと。
中継ぎ陣の再編など投手陣を強化したい阪神と、けが人などで野手を強化したいソフトバンクとの思惑が一致したとのことで、二保投手は二軍戦ではかなりいい成績を残しているみたいです。
シーズン中のトレードはあるかなとは思いましたが、阪神も動きましたかー。
中谷選手を出すとは思い切ったかなという感じですけど、それなりに良い投手を得るには出血も覚悟しなくてはなりませんからねぇ。
二保投手は中継ぎも先発もできる投手のようですので、今後どう使っていくのかわかりませんが、おそらくは中継ぎ陣の強化として使われることになるのだろうと思います。
両チームともに選手を求めてトレードするわけですから、両選手が新天地で活躍してくれるといいですね。
二保投手、よろしくお願いします。
今日から阪神は広島戦。
先発メンバーからは中野君、佐藤君、サンズ選手の名前が消えました。
いい休養だと思って疲労回復してください。
ロハス選手、山本選手、小野寺選手は頑張って。
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2021/07/02(金) 18:00:55|
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北海道でもじょじょに進んできました新型コロナウィルス「COVID19」のワクチン接種。
札幌でも64歳以下でも基礎疾患のある方に向けたワクチン接種の申し込みが始まり、接種券が配送開始となりました。
私も睡眠時無呼吸等の基礎疾患持ちなものですから、今回申し込みを行ったのですが、今日その接種券が到着です。
あとはこの券をもとに接種の申し込みとなるのですが、残念ながらいつもお世話になっているかかりつけ医ではもう予約ができないとのことで、集団接種会場での接種に切り替えて申し込み。
今月中の予約がもうほとんど埋まっているみたいですが、なんとか一回目の接種の予約をすることに成功しまして、ほっと一安心。
とりあえずワクチン接種できそうです。
あとは当日体調不良になったりして接種できないなんてことにならないようにしなくては。
全国的にワクチンが不足気味ということで、接種もなかなか順調ではないようですが、早く多くの方が摂取することでこの状況が改善されることを祈りたいですね。
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2021/07/01(木) 18:39:20|
- 日常
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