fc2ブログ

舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

ゴキブリの棲む家 (木曜 前半)

ブログ丸15年更新達成記念SS、「ゴキブリの棲む家」も、今回で四回目。

奥様見まして?
なんと「木曜 前半」ですってよ?

木曜分が結構長くなってしまったので、今回はその前半部分となります。
これでやっと半分を超える感じです。
かつての「ホワイトリリィ」や「七日目」なんかとは比べるべくもないですが、結構長くなりましたね。

はたして茅場一家はどうなるのか?
楽しんでいただければと思います。

ご注意:今作品は「ゴキブリ」が大いに絡む作品となります。
苦手な方は充分にご注意していただければと思います。


                   木曜日

「ん・・・」
目を開ける良樹。
あれ?
もう朝?
机の上に置いてある時計の表示が目に入る。
えっ?
嘘でしょ?
もうこんな時間?
どうして?
慌てて飛び起きる良樹。
いつもなら10分前に起きている時間だ。
どうしてママは起こしてくれなかったのだろう?

バタバタと階下に降りてくる良樹。
「おはよう、パパ、ママ」
リビングに入ると、いつものように食卓に付いている父がいる。
おそらく母はキッチンだろう。
「おはよう、ママ」
キッチンの入り口から挨拶する良樹。
「ダメ! 来ないで!」
「えっ?」
いきなり母が強い口調で睨みつけてくる。
困惑する良樹。
別に中に入ろうと思っていたわけではないのだ。
ただ、母に挨拶したかっただけなのに。
「あっちへ行って!」
まるで邪魔者を見るかのような母の目。
「ど、どうして?」
「いいから!」
「う、うん・・・」
仕方なくキッチンを離れてリビングに戻る。
いったい何がどうなっているのかわからない。

「パパ・・・」
母が何か怒っているような理由を知っているかもしれないと、良樹は父を見る。
だが、父は無言で新聞を読みながら朝食を食べていて、良樹の方を見ようともしない。
「パパ?」
どうしたのだろう?
なんだか二人とも今日はいつもと様子が違う。
不安に思う良樹。
そもそもいつもなら起こしてくれるはずの母が、今日は起こしてくれなかった・・・
いったいどうしてしまったのだろう?
なんだか怖いよ・・・

危なかった・・・
意識から抜け落ちていた。
あの子がいたんだったわ。
みんなが足音に気付いてすぐに隠れてくれたからよかったけど・・・
あの子に見られていたら、また殺虫剤だなんだと言い出したかもしれない。
それに・・・
ここは私とみんなの場所。
ヒトになど、入って欲しくはないわ・・・
さっさと学校にでも行かせてしまわないと・・・

「ほら、早く顔を洗ってご飯食べなさい。学校に遅れるわよ」
キッチンから母の声がする。
あ、いけない。
顔を洗ってしまわないと。
良樹は急いで洗面所に行って顔を洗う。
いつもならその間に朝食が用意され、戻ってきたときには食べられるようになっているのだ。
えっ?
戻ってきてテーブルに着いた良樹は驚いた。
母の用意してくれた朝食が予想とは全く違ったものだったのだ。
焼かれていない生の食パンと牛乳、それに皿に割られた生タマゴ。
これはいったい?

「ママ」
キッチンに戻ろうとしていた母を良樹は呼び止める。
「何? さっさと食べて学校へ行きなさい」
キッと睨むように振り返る母に良樹は驚く。
「う、うん・・・でも、目玉焼きになってない・・・」
「えっ?」
皿に盛られた生タマゴに目をやる母。
「ああ・・・そうだったわね。忘れていたわ」
何かハッとしたような顔をしている。
「忘れて?」
タマゴを焼くのを忘れるなんてことがあるだろうか。
「変だよママ。今朝はボクのことも起こしてくれなかったし・・・」
「うるさいわね。忘れたって言っているでしょ。いやなら食べなくてもいいわ。みんなにあげるから」
「えっ? みんなって?」
「いちいちうるさい子ね。なんだっていいでしょ! みんなはみんなよ。ヒトには関係ないわ」
言い捨てるようにしてキッチンに行ってしまう母。
ええ?
今日のママは変だよ・・・
いったいどうしてしまったのだろう・・・

「それじゃ行ってくる」
父が席を立ちあがる。
そして無言で玄関へと向かう。
「パパ」
何か言ってほしい良樹。
何でもいい。
この朝の変な雰囲気を元通りにしてほしい。
だが、父は無言でカバンを持つと出かけていった。
「パパ! パパ!」
良樹が何度呼び掛けても、返事をしてくれはしなかった。
「パパ・・・」

「行って・・・きます・・・」
玄関から消え入りそうな声がする。
どうやらあの子も学校へ行ったらしい。
半分泣いているような感じだったが、そんなことはもう結花にはどうでもよかった。
大事なのはここからヒトがいなくなったこと。
ここにはもう私たちしかいない。
夕方まではくつろげる時間になるだろう。
うふふ・・・
結花の口元に笑みがこぼれる。

すぐにキッチンのあちこちから黒い扁平な虫たちが現れる。
皆、ヒトがいなくなるのを待っていたのだ。
ヒトのうちの大きな方は、すでに支配下にできた。
もうあのヒトはここから出かけてカネというものを稼ぐだけしか考えないだろう。
カネというものがあればこの場所を維持できる。
それがヒトの生み出したシステムだからだ。
だからカネを稼ぐヒトは必要だ。
ならば、そのことだけを考えるようにしてやればいい。

小さなヒトをどうするかは仲間内でも悩みどころだった。
追い出すのは簡単だが、追い出すことでこのメスに影響が出る可能性もある。
このメスにはまだあの小さなヒトへの思いが残っているかもしれない。
この数日でだいぶ我々のメスとしての意識へと変化させてきたし、昨晩はその肉体にも我々を受け入れさせたが、まだ油断はできない。
ふとしたことで、まだヒトのメスとしての意識が出てくるかもしれないのだ。
もっともっと変えなくてはならない。
このメスの身も心も我らのものへと変えるのだ。
完全なる我々のメスに。

「全然食べなかったのね・・・」
夫と息子が出かけた後の食器を片付けようとして、リビングにやってきた結花がそうつぶやく。
夫の方は特に何も文句も言わずに食べていたようだったが、息子の方はタマゴが生だと文句を言っていた。
確かに皿には火を通していない生タマゴが割られただけの状態で載っており、目玉焼きにはなっていない。
どうやら加熱することを失念していたらしい。
ヒトは過熱したものを食べる。
そんなことも今朝は意識から消えていたのだ。
火で加熱して食べる・・・
小さく震える結花。
火を通すなんて・・・

食器を持ってキッチンに戻った結花は、そのまま良樹の食べかけのパンを床に落とし、その上からさらに残された生タマゴをぶちまける。
そして食器をシンクに放り込むと、足でタマゴとパンを踏みにじる。
ぐちゅぐちゅにつぶした後で、みんなと一緒に食べるのだ。
うふふふ・・・
今朝もみんなと一緒の食事。
みんなと一緒に食べましょう。

そうだ。
昨日あの男が買ってきたケーキがあるんだったわ。
それもみんなでいただきましょう。
結花は足跡で床が汚れるのも構わずに、冷蔵庫に入れておいたケーキを取りに行く。
どうせみんなと一緒に食べるのだ。
少しぐらい床に食べ物が広がったってかまわない。
それに、床があんまりきれいなのも落ち着かなく感じるのだ。

取り出したケーキを先ほどのぐちゃぐちゃにしたパンとタマゴの上に落とし、崩れたところを再び足で踏みにじる。
ひんやりとしたクリームのぬめぬめ感が気持ちいい。
両足でたっぷりとぐちゃぐちゃにした後で、結花は床に腹這いになり、ぐちゃぐちゃになった食べ物を食べ始める。
すぐにゴキブリたちもやってきて、結花の周りで食べ始め、一部は結花の足へと群がっていく。
足をゴキブリたちに舐められながら食べる食事は最高に美味しい。
結花はみんなと同じように自分でも床を舐めるようにして食べていく。
まるで自分もゴキブリになったかのようだ。
このみんなと一緒になったような感じがなんとも言えずたまらない。
うふふ・・・
美味しい・・・
結花は床がきれいになるまで、ゴキブリたちと一緒に舐め尽くすのだった。

                   ******

みんなとの楽しい食事を終え、結花は汚れた衣服を洗濯機に放り込んで洗濯をする。
今はまだヒトのメスとしての活動もしなくてはならないらしい。
みんなの仲間として迎え入れられるには、まだもう少しかかる。
早くみんなと仲間になりたい。
いつしか結花はそんなことを考えるようになっていた。
なぜそんなことを思うのかわからない。
ただ、みんなと同じゴキブリになりたい。
ゴキブリのメスになりたいという思いが募る。
ゴキブリのメスとしてみんなと一緒に暮らすのだ。
ゴキブリのメスになって・・・
そうなればこんな明るい昼間から動き回る必要もなくなるかもしれない。

洗面所の鏡に映る自分の姿。
服を脱いで下着だけになったので、自分のヒトとしての躰がよくわかる。
彼らとは似ても似つかないヒトの躰。
それが結花にはとても悲しい。
ゴキブリに・・・ゴキブリになりたい・・・
彼らと同じゴキブリのメスに・・・
ゴキブリのメスになりたい・・・

玄関の呼び鈴がなる。
「はーい」
結花はそのまま玄関に行く。
おそらく品物が届いたのだ。
注文しておいたものが。
結花の心が弾む。
待ってたわ。

「はい、どちら様?」
『宅配便です』
ドアの向こうでそう声がする。
「はーい」
ドアを開ける結花。
一瞬宅配業者の男性が驚いたような顔をする。
ああ・・・
忘れていたわ・・・
下着姿のままだったわね。
でもそんなことはどうでもいい。
こんな躰、見たければいくらでも見せてやる。
ヒトの躰などどうでもいいわ・・・

「ありがとうございました」
一礼して引き上げていく宅配業者。
結花は荷物を家の中に入れると、玄関の鍵をかける。
これであとは誰が来ても居留守でいい。

受け取った段ボールをいそいそとリビングに運び込む結花。
そして箱を開け、中身を取り出していく。
それは彼女が昨日注文したもの。
急がせたとはいえ、翌日配達とは有り難い。

取り出したものは焦げ茶色のレオタードとタイツと手袋。
それに黒い厚めのビニールのレジャーシート。
それと頭にかぶる黒いスイミングキャップとスイミング用のゴーグル。
一通りそろっているのを確認すると、結花はこれからの工作に必要なものを用意する。
ハサミにノリにひもに黒の布テープ。
これらを使って工作をするのだ。

一通り用意が終わったあたりで洗濯も終わる。
すぐさま工作に入ろうと思っていたところだったが、洗濯物を干さなくてはならない。
結花はやむを得ず一枚上に羽織って洗濯物を取り出し、ベランダの物干しに干していく。
そういえば、洗濯のほかに掃除もしなくてはいけないような気もするが、どうにもやる気にならない。
多少の汚れが何だというのだろうか・・・
むしろ少々汚れていた方がみんなも居心地がいいのではないだろうか。
それよりも早く工作にとりかかりたかった。

洗濯物を干し終えた結花はリビングへと戻って工作を開始する。
まずビニールのレジャーシートをひもを挟むようにして二つ折りにし、楕円が重なるような感じに切り取っていく。
次にスイミングキャップには二本の細い針金を黒い布テープで張り付ける。
たったこれだけのことだが、結花には楽しい作業だ。
これができ上がれば・・・
うふふふふ・・・

そんな作業をしていた結花の周りには、常に数匹のゴキブリがうろつきまわり、隙あれば結花と戯れようと這い上がってくる。
そんなゴキブリたちを愛しく思いながら、結花は時々彼らを摘み上げてはそっとキスしたり、時には口の中に入れて舌の上で転がして味わったりする。
「ん・・・んふふ」
待っててね。
これが終わったら着替えてみんなのところに行くからね。

「できた」
結花はゴキブリたちをそっと引き離すと、椅子から立ち上がる。
そしていそいそと羽織っているものを脱ぎ捨てると、ショーツもブラも外して裸になる。
さよならするのだ。
このヒトの躰と。
そして見た目だけでも、少しでもみんなと一緒になるのだ。

結花は用意した濃い茶色のタイツを穿く。
脚が滑らかなナイロンに覆われ、茶色く染まっていく。
足の指もつま先の補強部に隠され、一つになってしまったかのように見える。
タイツを穿いたら次はレオタード。
これも同系の焦げ茶色のもの。
長袖で、ハイネックの首元まで覆うやつを選んだのだ。
背中のファスナーを下げ、足を通して腰まで引き上げていく。
それからゆっくりと袖を通し、首元まで引き上げてから背中のファスナーを閉じる。
余裕を見て少し大きめのサイズを買ったつもりだったが、どうやらちょうどよかったようだ。
ぴったりしているわりにきつくもない。

これで首から下は焦げ茶色に覆われる。
これだけでも、なんだかいつもの自分とは変わった感じがして気持ちがいい。
次はさっき作った楕円形に切ったレジャーシート。
これに挟み込んだひもを首元で締めて背中に垂らす。
ちょうどお尻のあたりまで隠れるようにしたかったのだが、どうやらうまくいったようだ。
ここまで終わったところで、結花は残りのスイミングキャップと手袋、それにスイミングゴーグルを手に確認のために二階の寝室に行く。
やはり姿見で見ないとわからないだろう。

姿見に映し出される自分の姿。
焦げ茶色に染まった女の躰。
それがくっきりと浮き出ている。
振り向けば、背中には楕円形に切った黒いレジャーシートがお尻のあたりまでを覆っている。
やや強引だが、ゴキブリの翅に見えないこともないだろう。
そう・・・
結花はゴキブリのコスプレをしようとしていたのだ。
ヒトである彼女の躰は好ましくない。
ならばせめてコスプレで、外見を少しでも彼らと同じにしたかったのだ。

頭にスイミングキャップをかぶる結花。
黒一色のゴム製のスイミングキャップは結花の頭をすっぽりと覆う。
額のあたりには黒の布テープで根元を貼られた二本の針金。
それが少し揺れて、予想通りに触角ぽく見える。
あとはスイミングゴーグル。
目はヒトとゴキブリとでは大きく違うものの一つだ。
この目はヒトの目。
こんな目はいや。
ゴキブリのような目が欲しい。
だからせめてゴーグルで隠してしまおう。
結花は針金の触角に触れないように気を付けてゴーグルを頭に通し、目に嵌める。
グレーのスモークが入っているものなので、やや外が暗く見えるが、おかげで彼女の目が外から見えることもない。
ゴーグルが彼女の目をギョロッとしたもののように見せ、無理すればゴキブリの複眼のように見えないこともなさそうだ。

最後に焦げ茶色の手袋をはめる結花。
これで顔以外に肌色の部分はなくなった。
結花は姿見で、あらためて自分の姿を確認する。
額から延びる針金の触角。
髪の毛のないのっぺりとした頭。
ギョロッとしたゴーグルの目。
首から下はレオタードとタイツで焦げ茶色に覆われ、背中には黒いレジャーシートの翅がお尻のあたりまでを覆っている。
本物のゴキブリには程遠いものの、ヒトの姿よりははるかにマシだ。
これで少しでも彼らに近づけたような気がして、結花はうれしかった。

ゴキブリの姿になった結花は階下へと降りていく。
この姿をみんなにも見てもらいたい。
うふふ・・・
みんな驚いてくれるかしら。
我らのメスが来たって喜んでくれるかしら。
喜んでくれたらいいな・・・

結花はさっそく洗面所に行く。
昨晩はここでみんなと楽しく交わったのだ。
思い出すだけでもジュンとあそこが濡れてしまいそうになる。
脳裏に浮かぶ彼らの感触。
ああ・・・
私はみんなのメスなんだわ。
ゴキブリのメスなんだわ。

洗面所にはすでに多くのゴキブリたちが蠢いていた。
ヒトが出かけてしまえば、ここは彼らの家なのだ。
本来夜行性の彼らだったが、洗面所には窓があるわけでもなく昼間でも暗いため、彼らにとっては活動しやすい。
それにここは適度の湿り気もあるので、居心地がいいのだ。
その中にいつものと違う格好の結花が入ってきたことで、彼らがざわつく。
皆いっせいに動きを止め、触角を揺らして結花の方を見つめてくる。
彼らの視線が集中したことに結花は一瞬戸惑ったが、そのまま彼らの前でくるりと一回転して、その姿をみせる。
「お騒がせしてすみませーん。メスゴキブリの結花でーす。よろしくー。なんちゃって」
おどけたようにペロッと舌を出す結花。
それを見て、またゴキブリたちがざわめいていく。
だが、それは先ほどのような戸惑いではなく、むしろ新たなメスを歓迎するかのようなざわめきに感じられ、それが結花にはうれしかった。

「いかがですか、この格好? 少しでも皆さんと同じになりたくてこんな格好してきちゃいました」
結花は床に正座をすると、三つ指をついて頭を下げる。
「新参者ですが、どうかメスゴキブリの結花をよろしくお願いいたします」
その言葉に弾かれたかのようにゴキブリたちがわっと結花の躰に群がってくる。
「キャッ、あん・・・」
思わず艶めいた声が出る。
足から腕からとにかく床に触れているところすべてから、結花の躰に這い上がってくるのだ。
それはみんなが彼女を受け入れてくれたことの証に思え、結花はうれしかった。

やがて数匹が結花の首元まで登ってくる。
そして触角を揺らしながら、キチキチとかすかな音を立ててくる。
えっ?
よく似合っている?
そう言ってくれたの?
よくわからない。
どうしてそう思ったのか。
だが、ゴキブリたちの立てる音が、結花には言葉のように聞こえてきたのだ。
彼らの言葉を感じ取れる。
それはなんてすばらしいことだろう。

(試してみよ)
彼らがそういう。
「試す? 何をですか?」
(我らの言葉を試してみよ、我らのメスよ)
「皆様の言葉を?」
(そうだ)
彼らの言葉をしゃべる?
私にできるのだろうか・・・
でも、試してみろと言われたのだし、試してみなくては・・・

「キ・・・キチュ・・・チチチチ・・・キチチ・・・」
結花は舌を動かし歯をこすり合わせて音を出してみる。
わた・・・しは・・・メスゴ・・・キブリの・・・ユカ・・・です・・・
必死に歯と舌で音を出していく結花。
本当にこれで通じるのだろうか?
キチキチ・・・キチキチチ・・・
ゴキブリたちの声が聞こえてくる。
(そうだ)
(それでいい)
(お前はメスゴキブリのユカ)
(我らのメスだ)
はっきりと感じる。
彼らはそう言ってくれているのだ。
はい・・・私は・・・メスゴキブリのユカです・・・
「キチチ・・・キチチチキチ・・・キチキチ・・・」
結花はそう返事をする。
そうよ。
私はメスゴキブリのユカ。
みんなのメスですわ。

結花の躰を這い回るゴキブリたち。
その動きが結花に快感を与えてくる。
結花は昨夜と同じように床にあおむけに寝そべると、彼らを受け入れようとする。
「キチ・・・キチチチ・・・キチキチチ」
どうぞ・・・メスゴキブリのユカの躰を・・・味わってください・・・
少しづつ彼らの言葉がなじんでくる。
言いたいことが言えるようになってくる。
ヒトの言葉などいらない。
彼らの言葉があればいい。

結花の中に潜り込もうとするゴキブリたち。
最初はタイツを食い破られるのではないかと思ったが、どうやらそこは配慮してもらえるらしい。
あるものは袖から、あるものは首元から、またあるものはレオタードとタイツの境目から器用に中へと潜り込んでいく。
そしてその足のとげで適度に結花の肌を刺激し、下腹部の方へと這っていくのだ。
昨夜と同じように結花に快楽を与え、そしてザーメンをたっぷりと注いでくれるのだろう。
結花はそれがたまらなくうれしい。
「キチチチチ・・・キチキチ・・・キチキキキ」
どうか私の中にたっぷり出してくださいね。
私、皆さんの卵をたくさん産みますから。
「キチチチチ・・・」
結花の口から洩れる笑みも、彼らと同じになっている。

キチキチキチ・・・キチチ・・・
「えっ?」
それは無理?
結花は思わず快楽に閉じていた目を開ける。
「キチチ・・・キチ・・・」
どういうことですか、とたずねる結花。
キチチキチ・・・キチキチ・・・
数匹のゴキブリが耳元で答える。
(ダメなのだ)
ダメ?
何がダメなのですか?
結花は自分でも気付かないうちに、普通に彼らと会話をしている。
ヒトならぬ言葉が結花とゴキブリたちとの間で交わされているのだ。

(今はっきりした)
はっきりした?
(そうだ・・・今のままではお前には我々の卵は産めない)
えっ? 産めない?
結花は驚いた。
皆さんの卵が産めないというの?
そんな・・・
キチキチキチ・・・
(今のままでは無理だ・・・お前に卵を孕むことはできない)
孕むことはできない・・・
そのことが、ずしんと衝撃が圧し掛かってきたように結花は感じた。

キチチチ・・・キチチ・・・
(その恰好は我々を模したものか?)
はい・・・少しでも皆様と同じになりたくて・・・メスゴキブリになりたくて・・・
(よく似合っている・・・確かに我々ぽい)
ありがとうございます・・・
(だが、それではダメだ・・・お前はまだヒトだ)
・・・・・・はい・・・
聞きたくない言葉。
お前はまだヒト。
いやだ・・・
ヒトなんていや・・・
いやよ・・・

キチキチ・・・キキキチチ・・・
(嘆くことはない)
えっ?
(これから我々がさらにお前を変えていく)
変える?
(そうだ・・・お前はだいぶ我らに近づいた・・・これからもっと躰も心も我々が変える・・・お前は完全なるメスゴキブリになるのだ)
本当ですか?
(本当だ・・・これからお前の躰の中に入り込み、そこでお前を変えていく)
ああ・・・ありがとうございます・・・うれしいです・・・
結花の目から涙があふれる。
うれしい・・・
私は変われる・・・
私はメスゴキブリになれる・・・
メスゴキブリになれるんだわ・・・

ゴキブリたちが器用にタイツの下へと潜り込んでいく。
レオタードの下で蠢いていたゴキブリたちも、いっせいにタイツの下へと入っていく。
そして結花の秘部にたどり着くと、そこから中へと入っていく。
「あ・・・ん・・・」
気持ちいい・・・
ゴキブリたちが与えてくれる快楽。
それはヒトでは味わえないものだ。
あの男のものとでは比べ物にならない。

キチキチキチチ・・・
(しばらくその中に巣を作らせてもらう)
ここに・・・ですか?
(そうだ・・・そこからお前の躰の中を変えていく)
ここから・・・
自分の下腹部に手をやる結花。
この中に今ゴキブリたちが入っている。
(お前の躰が完全にゴキブリになるには時間が必要だ)
はい・・・
(それに・・・それだけではまだダメだ)
えっ?
どういうことだろう・・・
(お前の躰に我々のザーメンを注ぎ込む器がいる)
器?
(そうだ・・・お前のサイズに合わせてザーメンを注ぎ込める器が必要なのだ)
それはどのような?
(いずれわかる・・・今は我々に身を委ね、我々の仲間になることのみを考えるのだ)
はい・・・私は皆様の仲間になります・・・
私をどうかメスゴキブリにしてください・・・
ああ・・・ん・・・
気持ち・・・いい・・・

「キチチチチ・・・」
笑みを浮かべながらお腹をさする結花。
なんだかじんわりと温かい。
きっと中ではみんなが一所懸命に彼女の躰をゴキブリにしようとしてくれているのだろう。
うれしい・・・
私はゴキブリになれる・・・
メスゴキブリになれるんだわ・・・
なんて幸せなのだろう・・・

結花の躰のあちこちを動き回るゴキブリたち。
中にはレオタードの中に潜り込むものもいて、レオタードの生地がゴキブリの形に浮き出たまま動き回っている。
彼らと一緒に過ごすことがこんなに幸せだなんて以前は考えもしなかった。
どうしてヒトといることが幸せだなどと思っていたのだろう。
それはきっと自分もヒトだったからなのだ。
でもそれももうすぐ変わる。
私は生まれ変わるんだわ。

長い触角を揺らし、結花の首筋にしがみつく一匹のゴキブリ。
この女はだいぶ我々のメスとなった。
以前の二人はうまくいかなかった。
ゴキブリになる前に壊れてしまった。
だからこの家から追い出すしかなかったのだ。
この女は違う。
この女にはまず心を我々に引き寄せることにした。
我々への親近感と好意を植え付け、ゴキブリと一つになることを望むようにさせた。
このまま続けていけば、いずれ完全なる我々のメスとなるだろう。
だが、焦ってはいけない。
そのことは昨晩の結果に表れている。
やはりヒトの躰のままで卵を孕ませることはできなかった。
我々とはサイズも違う。
この女に卵を孕ませるには、もっともっとこの女を完全なるゴキブリのメスにしなくてはならないようだ。
それにこのメスに精子を送り込む器も必要だ。
大きな方は完成されすぎていて難しいだろう。
だが、小さい方なら・・・
小さい方を器にしてこのメスと交尾を行わせ、我々の精子を送り込む。
そのための準備をしなくてはならない。
ゴキブリは触角を揺らめかせ、結花からそっと降りていった。

                   ******

「キチ・・・キチチッ」
床にぶちまけたビールを皆で舐め取っていく。
冷蔵庫から一本取り出して、まるごと床に撒いたのだ。
床に這いつくばってビールを舐めるのは楽しい。
グラスや缶のまま飲むよりも、床の味も混じってよほど美味しい気がする。
それにみんなも美味しそうに飲んでいるわ。
「キチチチチッ」
もうヒトだった時にどうやって笑っていたのか思い出せない。
ずっとこうやって笑っていたような気がする。
どうでもいいわ。
だって私はもうヒトじゃなくなるもの。
ああ・・・早く私の躰がみんなと同じになりますように・・・
「キチチチチッ・・・」

玄関の方でガチャガチャと音がする。
「ただいま」
子供の声がする。
いっせいに散らばって逃げ出していくゴキブリたち。
あの子が帰ってきたんだわ・・・
もうそんな時間だったの?
「ギチッ・・・ギチチチッ」
思わず歯がきしむような音を出してしまう。
せっかくみんなと酒盛りを楽しんでいたのに・・・
みんな去って行ってしまったじゃない・・・
あの子のせいで台無しだわ・・・
「ギチチチチチ」

「ふう・・・」
リビングに入ってきてカバンを下ろす良樹。
玄関には鍵がかかっていたので、ママは買い物にでも行っているのだろう。
今朝はなんだか様子がおかしかったような気がしたけど、きっと気のせいだったんだ。
ママはいつものママに決まっている。
良樹はそう思う。
うん、そうさ。
ママはいつものママに決まってる。

「ギチチチチッ! モウかえ・・・ってきた・・・の? ギチチッ!」
「わあっ!」
良樹は思わず大声をあげてしまう。
キッチンから茶色の宇宙人のようなのが現れたのだ。
グレーの楕円形の目をして、頭は全く髪の毛がなく、銀色の触角のようなものが生えている。
躰は焦げ茶色で、おっぱいがあって腰がくびれて女の人のような躰のラインだ。
背中の方にはなんか黒い翅のようなものがあるように見える。
い、いったいこれは?

「なアに? ヒメイなんか上げて・・・ギチチッ」
その声に聞き覚えがある良樹。
発音がややいつもとは違う感じだけど、母の声だ。
「えっ? えっ? ママ? ママなの?」
「ギチチッ・・・えっ? そウね・・・ママね・・・今はマだ・・・」
ニタッと笑う母。
びっくりしたぁ・・・
ママだったんだ・・・
それにしても、どうしたのだろう?
いつもと声が違う。
なんだか歯をこすり合わせるような声だ。
風邪でも引いたのだろうか?
いや、それよりもいったいどうしてそんな恰好をしているんだろう?
なんだか・・・躰の線が出過ぎてて、目のやり場に困ってしまう・・・

「マ、ママ・・・その恰好は?」
少し目をそらしながら問う良樹。
「えっ? あ・・・アア・・・そう言えバこの格好をしていたんダッタわ・・・キチチチ」
言われて、自分の躰を見下ろしている母。
よく見ると、頭には水泳用のゴムの帽子をかぶっているようで、髪の毛がその中に収められているようだ。
「何か・・・の仮装?」
「えっ? ソウね・・・仮装・・・そンなものよ」
仮装・・・なのか・・・
でもいったいなんで仮装なんて?
「何かのイベント?」
「ギチチッ! いちイチうるさいわネ! さっさと自分ノ部屋で宿題でもシタラどうなの? アタシがどんな格好をしようト勝手デショ!」
「マ、ママ・・・」
いきなり怒鳴りつけられて困惑する良樹。
やっぱり今日は、朝からいつものママとは違う。
どうしちゃったんだろう・・・
「ママ・・・」
「うるさいッテ言ってルでしょ! サッさトあっちへ行きなサい! ギチチチチッ!」
水泳のゴーグルをつけた目が良樹をにらみつけてくる。
良樹はカバンを持つとリビングを出て、急いで階段を駆け上がった。

(続く)
  1. 2020/07/20(月) 21:00:00|
  2. ゴキブリの棲む家
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2

カレンダー

06 | 2020/07 | 08
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -

時計

プロフィール

舞方雅人

Author:舞方雅人
(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
どうぞ楽しんでいって下さいませ。

ブログバナー


バナー画像です。 リンク用にご使用くださってもOKです。

カテゴリー

FC2カウンター

オンラインカウンター

現在の閲覧者数:

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

リンク

このブログをリンクに追加する

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

管理人にメールなどを送りたい方はこちらからどうぞ

ブログ内検索

RSSフィード

ランキング

ランキングです。 来たついでに押してみてくださいねー。

フリーエリア

SEO対策: SEO対策:洗脳 SEO対策:改造 SEO対策:歴史 SEO対策:軍事

フリーエリア