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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

ママと遊ぼう (1)

今日から三日間で、当ブログの5000日達成記念SSを一本投下いたしたいと思います。

タイトルは「ママと遊ぼう」です。
まあ、タイトル通りのSSです。(笑)

どうかお楽しみいただければと思います。
それではどうぞ。


ママと遊ぼう

『現れたなギャラワルー!』
『むぅ! 不思議戦隊の連中、どうしてここがわかったのだ?』
『あなたたちのやることなどお見通しよ!』
『俺たち不思議戦隊がいる限り!』
『お前たちの好きにはさせない!』
テレビから流れてくる勇ましい声。
若くてかっこいい役者さんたちがポーズを決めて見得を切る。
確かに見ているだけでワクワクするのは間違いないわね。

「頑張れ・・・レッド・・・負けるな・・・ブルー・・・」
テレビの前でこぶしを握り締めている我が息子。
思わず声も漏れてしまっている。
もう小学生も二年目だというのにまだまだ子供ねぇ。
まあ、最近の特撮物は大人の鑑賞にも耐えられるとは言うし、確かに見ていると面白いのも確かなんだけどね。

『グギャァァァァ!』
お約束通りの展開に断末魔の悲鳴と大爆発。
毎回毎回よくもまあ飽きもせずに同じパターンとは思うけど、それを毎週楽しみにしている息子を見ていると、ある種の安心感のようなものがあるのだろうとも思う。
言ってしまえば時代劇や刑事ドラマと同じようなものなのだろう。
黄金の王道パターンというものなのだ。

「わぁ、来週はゴールドが出るんだ。正体は誰なのかなぁ? やっぱり食堂のおじさんかな」
あらら、新キャラ登場かしら?
またかっこいい武器とか出てきておもちゃを欲しがってくるかもしれないわね。
私はちょっと苦笑する。
うちはそんなに裕福な方じゃないんだから、何でもかんでも買ってあげるというわけにはいかないんだからね。
そこはちゃんと理解してよね、龍介(りゅうすけ)。

さて、テレビも終わったようですし、掃除機をかけても大丈夫かな?
さすがに見ている最中に掃除機をかけるのは悪いものね。
掃除機をかけたらいろいろと買い出しにもいかなくちゃ。
やれやれだわぁ。

「付いてくるのはいいけど、何も買わないわよ」
私は前もって釘を刺す。
暇だったからなのか、一人になるのがいやだったからなのか、私が買い物に出かけると言うと、龍介も一緒に付いてくると言い出したのだ。
まあ、一人で留守番させるのもなんだから一緒に連れてきたけれど、龍介と一緒だといつもお菓子だのなんだのって買い物が増えるのよね。
「うん。わかっているよママ」
大きくうなずく龍介だけど、果たしてどこまで本気やら。
だいたい美味しそうなお菓子を見つけては買ってってねだってくるんだから。
困ったものだわ。

「ねえ、ママ、あれ見て」
「えっ?」
つないでいた手を引っ張られ、私は思わず足を止める。
何事かと思って龍介を見ると、その目がキラキラと輝いていた。
私はその視線の先を追って、龍介が足を止めた理由を知る。
そこには戦隊ヒーローたちと思われるカラフルなバトルスーツを着た男女が描かれた大きな看板があり、ヒーロー戦隊体験型アトラクション“戦隊ヒーローになろう”オープンと書かれていた。
ここって確か前は大型パチンコ店だったと思ったけど、まさかこんな施設になっていたなんて・・・

「ねえ、ママ、ちょっと寄ってもいい?」
案の定龍介は目を輝かせて入りたいと訴えてくる。
はあ・・・
これはもう一度は入らないと、毎日のようにせがまれることになりそうね。
やれやれだわ。
私は肩をすくめると、ほんのちょっとだけよと言って、その施設に入ってみた。

「わあ」
私は思わず声を出してしまっていた。
一階は広いゲームコーナーになっているようで、格闘ゲームやレースゲームといったテレビゲームばかりでなく、写真を撮ってシールにするやつやカプセルのガチャガチャなど幅広い遊具が並んでいる。
でも、肝心の体験型アトラクションってどれ?
そう思った私の疑問はすぐに解消される。
正面にでかでかと外に掲げられていた看板と同じようなパネルが店内にも掲げられており、二階が受付と書かれている。
「ママ、早く」
その看板を目ざとく見つけた龍介が私の腕を引っ張ってくる。
「もう・・・待って、龍くん」
私は龍介に引っ張られるようにして二階へと向かう。
もう・・・しょうがないんだからぁ・・・

「いらっしゃいませ。“戦隊ヒーローになろう”へようこそ」
エスカレーターを上がったすぐのところに受付カウンターがあり、女性が二人にこやかに受付をしている・・・んだけど、白を基調にした軍服っぽいデザインの衣装を着ているのに私は驚いた。
カウンターの隣にはゲートがあり、そこから先は受付をしないと入れないようになっているらしい。
受付カウンターの反対側にはロビーが設えてあり、大きなソファやテーブル、自動販売機が置かれて休憩できるようになっているみたい。
今日は日曜日だが、まだオープンしたてということもあるのか、今のところはお客も少ないようでそこには誰もいない。
またロビーの壁面には大きなモニターがいくつも設置され、どうやら中で今行われているプレイの光景かデモムービーが流されているようだ。
そこでは市街地や建物の中などがCGと思われる画像で表示され、そこに現れる怪人や悪の組織の手下たちを倒していくというゲームみたいね。
うん・・・
こりゃあ龍介にはたまらないところだわぁ・・・

「ママ、早く早く」
私は龍介に引っ張られるようにカウンターへと向かう。
「はいはい。えーと、初めてなんですけど」
二人いる受付の女性の片方にとりあえず話しかける私。
「いらっしゃいませ。当施設は特撮番組等で見られますいわゆる戦隊もののキャラクターに実際に扮していただき、ヴァーチャルリアリティ空間の中で悪の組織と戦っていただく体験型アトラクションとなっております」
「はあ・・・」
要はなりきりのごっこ遊びの高等なものということかしら?
「衣装はこちらで用意しているものを着用していただきますが、安全性などには充分配慮したものとなっております。また、ヘルメットにはバーチャルリアリティシステムを内蔵したゴーグルが組み込まれており、ヘッドフォンからの音声と合わせて、臨場感のある仮想現実を味わっていただくことが可能となっております」
もう一人の受付の女性が見本となる衣装を持ってきてくれる。
赤い正義の戦隊のヒーローのコスチューム。
こりゃあ結構本格的だわ。
こんなの見たら龍介が着たがらないわけが・・・
ちらっと横目で龍介を見ると、やはりわくわくしたような表情でその衣装を見つめている。
あーあ・・・これはもうどうしようもないわねぇ。

「どうする、龍くん。やる?」
答えなど聞くまでもないのだけど、一応私は聞いてみる。
「やる!」
だよねぇ。
「えーと、おいくらなんですか?」
「はい。正規料金ですと一時間千円となっておりますところですが、オープン価格といたしまして今月いっぱいは一時間三百円でのプレイ料金となっております」
正規料金は一時間千円!
結構高いのね・・・
確かにこれだけの設備や衣装を用意してということだから高くなるのは仕方ないのだろうけど・・・
これは龍介には今月で飽きてくれることを祈るしかないわね。
「それじゃ一時間で」
「かしこまりました。それではこちらにプレイされますお方のお名前をご記入いただけますでしょうか?」
私は差し出された用紙に宮間(みやま)龍介と書き込んでいく。
「ありがとうございます。それでは龍介隊員、バトルスーツの装着システムにご案内いたします」
受付の女性が用紙の名前を見て龍介に声をかけ敬礼する。
あ、なるほどね。
どうやら戦隊チームのオペレーターという設定みたいね。
だから軍服みたいな衣装だったんだ。

胸を張って女性の後についていく龍介。
そりゃあ龍介隊員なんて呼ばれたら、胸も張りたくなるよね。
その間に私は渡されたパンフレットを見ながらロビーで待つ。
この施設の概要とかが記されていて、バーチャルだのスーツに仕込まれた装置だの空間を構成するだの書かれているけど、何がなんやらちんぷんかんぷんだわ・・・
まあ、龍介のような特撮戦隊もの好きな子供向けに戦隊ヒーローになり切って遊べる施設ってことよね?
でも、一時間千円は高いわぁ・・・

「ママー! 見てぇ!」
私がパンフレットから顔を上げると、ちょうど着替え終わった龍介が出てきたところだった。
わあ・・・
本当に結構本格的だわ。
頭をすっぽりと覆うフルフェイスのヘルメットに躰を包み込むスーツ。
手には手袋を嵌め、足にはブーツを履いている。
腰にはかっこいいベルトも付いていて、どこからどう見ても特撮の戦隊ヒーローだ。
色は青。
赤を選ぶかと思っていたけど、青を選んだのね。
龍介なりのこだわりがあるのかしら。

「すごくかっこいいわよ、龍くん」
「えへへ」
なんとなく照れ臭そうに頭を掻く龍介。
顔はヘルメットのバイザーで見えないけど、きっと少し赤くなっているでしょう。
「赤じゃなく青にしたんだ?」
「うん。赤と迷ったんだけど、落ち着いて敵と戦う方がかっこいいかなと思って。ドラゴンブルーっていうんだ」
なるほど、龍介だからドラゴンね。
「ドラゴンブルー、かっこいいじゃない」
「えへへへ」
やっぱり照れ臭そう。
「では、ドラゴンブルー。街で怪人が暴れまわっておりますので、すぐに出動願います」
先ほどの女性が再び敬礼で龍介に出撃を促してくる。
「了解!」
ドラゴンブルー龍介がすぐに敬礼をして彼女の後についていき、バトルフィールドと呼ばれるところに入っていく。
きっとこれから一時間は夢の世界で過ごすのだろう。
なんだかうらやましいわねぇ。

私はその間缶ジュースを飲みながらロビーで待ちぼうけ。
と、思っていたのだけど、どうやらモニターの一つが龍介のヘルメットにセットされているゴーグルの映像を流し始めたようで、思わずそれに見入ってしまう。
映像はかなりリアリティを感じるもので、最近の技術の凄さに驚かされる。
建物の陰にいた怪人や戦闘員たちを追い立て、広い場所で戦いを挑んでいるようだ。
パンフレットによれば難易度設定もできるようで、今回龍介が選んだ難易度がどのレベルなのかは知らないけど、怪人一体と戦闘員が数人いるみたい。
もちろんチームプレイもできるようなので、正義の戦隊ヒーローが増えれば、悪側もまた怪人や戦闘員が増えたりするのだろう。
はあ・・・
なんだかんだと龍介に付き合っているうちに、私にもそのぐらいのことがわかるようになってしまったわ。
私はそんなことを思いながらジュースを口に運ぶ。
それにしてもすごいわねぇ。
射撃で相手を倒すのは、まあわかるとしても、龍介が殴ったり蹴ったりする時はどうなっているのかしら?
やっぱりスーツにそういった感触が伝わるようになっているのかしらね。
そうじゃないと空気を殴ったり蹴ったりしているみたいなもんでしょうから。
モニターの中では龍介の目から見た映像が戦闘員や怪人と互角以上に戦っている。
迫力もすごい。
怪人の吹き付けてくる酸がかかりそうになった時には、ロビーにいた私も思わず躰を動かしてしまったぐらい。
こりゃあ龍介は楽しくて仕方がないだろうなー。
はあ・・・

とりあえず一時間目いっぱい遊んだ龍介は、しぶしぶといった感じで施設を後にし、私とともに買い物を終えて帰ってきた。
驚いたことにさっきまでの興奮の方が大きかったのか、今日はお菓子を買ってとねだってこなかったのだ。
たぶん、お菓子よりももっと大事なことをおねだりしたいからだろう。
もちろんそれはまたあそこに連れて行って欲しいというものに違いない。
やれやれだわ。

とはいえ、あの施設の威力は大したものというのは認めざるを得ないわね。
今日は家に帰ってきてからも、龍介はどこか心ここにあらずといった感じでヒーローになって怪人をどう倒したとか戦闘員とどう戦ったとか、酸をかけられたけどうまくかわしたとかそんなことをずっと喋りまくっている。
そのたびに私も、ああ、あのシーンねとか、あのシーンだわとかモニターに映し出されたシーンを思い出す。
もちろん龍介は自分の見ていた映像を私も見ていたとは知らないだろうから、微に入り細に穿って丁寧にああだったこうだったと話してくれるのだ。
なんだか私まで一緒になって戦っていたような気がするわ。

そして私が何も言わなくても食べた後の食器を台所に運んでくれたり、明日の準備をすぐにしたり、夜も早々にベッドに入って寝てしまった。
いい子にしておねだりの成功確率を上げるつもりなのね、きっと。
努力は認めてあげるけど・・・
今月だけよ・・・

                   ******

ふう・・・
家計簿の遊興費の欄に書き込まれる数字を見て私はため息をついてしまう。
六百円。
三百円ではなく六百円。
そう・・・
ついに昨日は二時間もあそこにいてしまったのだ。
二時間も・・・

案の定、あの日から龍介はあそこに入り浸るようになってしまった。
最初は週に一回と約束したにもかかわらず、あの日の翌日にはもう二度目のプレイをやっていた。
学校から帰ると、私を言葉巧みに買い物へと連れ出し、まんまとあそこの前を通らせて目的を達してしまったのだ。
私も最初は一回三百円だし、まあ・・・などと甘い顔をしていたところはあるけど、その翌日も、その翌々日も龍介と私はあの“戦隊ヒーローになろう”というアトラクションに行っていたのだ。

どうして私も付き合っているのかというと、龍介だけで行かせるのが不安だったということもあるけれど、普段は聞き分けのいいはずの龍介がこれに関しては私が何度ダメと言ったところで聞き入れないし、また、なぜか私も龍介がモニターの中で戦隊ヒーローとして敵を倒すところを見たいという気になってしまって、行くならいっしょにと付いて行ってしまうのだ。

そう・・・
私自身があそこのロビーでモニターを眺めていると、どんどんあの世界に引き込まれていくような感覚になる。
ドラゴンブルー龍介の目で見た世界と、それを外部から俯瞰した映像が流され、今ドラゴンブルー龍介がどういう戦いをしているのかがわかるのだ。
それは見ているだけでワクワクするものであり、いつしか私もその場にいるような気になってくる。
それもドラゴンブルー龍介と一緒に戦っているのではなく、どちらかというと彼の敵側のイメージで見てしまうのだ。
そうすると、ドラゴンブルー龍介の戦いが隙だらけであることも見えてくる。
ほらほら、足元がお留守よとか、背中ががら空きよとか思わず言ってしまいたくなり、それがなんだかとても楽しいのだ。

だから昨日は龍介が一時間のプレイを終えた時、私はもっと見ていたくて、一時間延長してもいいわよなんて言ってしまったのよね。
はあ・・・
私としたことがどうかしているわ・・・
あんなものに夢中になっちゃうなんて・・・
でも・・・
見ていると本当に惹き込まれるのよねー。
悪の怪人や戦闘員ってなんか魅力を感じるわぁ。
最近のはデザインも素敵だしね。
中には女性型の怪人や戦闘員もいたりして、それがまた美しかったりするのよねー。
今度はどんな怪人が出てくるのかしらって思うと、また行きたくなってしまうけど、もういい加減に龍介も私も我慢しないと、出費がどんどんかさんじゃうわ。

決めた。
今日は絶対行かないわよ。
龍介がなんと言おうと絶対に行かないんだから。
幸い今晩のおかずは冷蔵庫の中にあるもので充分間に合うし、買い物に行く必要もないからね。
いい!
絶対に行かないんだからね!

「いらっしゃいませ。いつものコースでよろしいですか?」
「ええ、それで」
私はにこやかに笑顔を振りまく受付の女性にうなずく。
あれぇ・・・
おかしいなぁ・・・
今日はここへは来ないつもりだったはずなのに・・・
どうして来ちゃったのかしら・・・

「それじゃ龍介隊員。バトルスーツ装着システムにご案内します」
「お願いします」
もうすっかり顔なじみとなった受付嬢と敬礼のやり取りをする龍介。
「あ、ごめん、ちょっと待って」
ふと龍介が足を止める。
「えっ?」
どうしたのかしら。
いつもならウキウキですぐに装着システムという名の更衣室に行くんだけど・・・

「ねえ、君もやる? どうせならチームを組まない?」
見ると、ちょうどエスカレーターを上がってきた少年と母親がいる。
龍介はその子に声をかけたのだ。
へえ、珍しいわね。
いつもはあんまり自分から声をかけたりしないのに。

「えっ? いいの?」
「うん。いつも一人だから戦隊ぽく感じなかったんだ。一緒にやろうよ」
「うん。ありがとう」
龍介に声をかけられた子も目を輝かせている。
もしかしたら彼も一人で遊んでいたのかな?
そういえば結構子供が飛びつきそうなのに、あんまりプレイしている子を見ないわよね。
いつも龍介一人だったし・・・

「それじゃボクは先に着替えているから」
「うん。ボクもすぐに行くよ。ママ、早く受付して」
更衣室に入っていく龍介を見送りながら、彼も早くプレイしたくて仕方がないみたいだ。
あの子は龍介と同じぐらいかしらね?
ママの方も私と同じくらい?
きっと彼女もあの子にせがまれたんでしょうね。
そう思うとなんだか親しみを感じるかも。

「それでは耕太(こうた)隊員、バトルスーツ装着システムにご案内します」
「お願いします」
龍介と同じように敬礼して更衣室に向かう少年。
どうやら耕太君っていうみたいね。
私はとりあえずロビーのソファのところで、とりあえず挨拶しておこうと母親を待つ。
「初めまして。宮間と申します」
「あ、は、はい。あ、と、鳥飼(とりかい)です。初めまして」
一瞬なぜ私に挨拶されるのかわからないといった感じだったものの、すぐに私が声をかけてきた子の母親だと気が付いたのか、ぺこりと頭を下げてくる。
なんだか少しおっとりしたような感じの人で、清楚というよりもかわいいと言った方がしっくりくる人だ。
「あー、驚かせてしまいましたか。そちらのお子さんに声をかけたのはうちの息子でしたので」
「あ、いえいえ、ありがとうございます。うちの子も喜んでます」
「そちらも南小ですか?」
私は龍介が通っている小学校かどうか尋ねてみる。
「あ、うちは泉小なんです」
残念。
泉小は南小とは隣合わせになるけど、一緒ではなかったか。

「ドラゴンブルー、見参!」
装着システムから着替え終わった龍介が出てくる。
もうすっかり見慣れたドラゴンブルーの格好だ。
うんうん。
かっこいいよ、龍介。
「バードレッド、見参!」
私が龍介のドラゴンブルー姿を見ていたら、その隣に鮮やかな赤いスーツを着た戦隊ヒーローが現れる。
どうやらこれが耕太君の変身した姿のようだ。
大まかには龍介の青いスーツと同系のようだけど、細かいところに若干の差異があるのかな?
赤と青が並んだ姿は、小さいながらにまさに特撮番組の戦隊ヒーローだわ。
「バードレッドかー。ボクはドラゴンブルー。よろしく」
「こちらこそよろしく」
二人は握手して、そのままそろってバトルフィールドに入っていく。
さあ、いよいよバトル開始ね。

いくつもあるモニターのうちの三面に二人の映像が流れだす。
そのうち二つはドラゴンブルーとバードレッドそれぞれから見える映像。
もう一つはその二人の姿を外側から映したものだ。
もちろん二人の姿はフィールド画面と合成されているから、室内で戦っているとは思えない迫力ある映像になっている。

「うちの子はこうして誰かと一緒にプレイするというのが初めてなので、もしかしたらそちらにご迷惑をかけちゃうかも」
モニターを見ていると、隣からそう声をかけられる。
見ると彼女も私と同じようにモニターに夢中になっている。
ふふっ・・・
私もあんなふうに真剣に見ていたのかしら・・・
「うちの子も初めてですからお互い様でしょう。それに見た感じけっこういい協力プレイをしているようですよ」
私は缶のオレンジジュースを一口飲んでまたモニターに目を向ける。
彼女からの返事があったのかどうかは覚えてない。
私の目はもうモニターに釘付けだったのだ。
ああ・・・
なんて素敵なの・・・

気が付くと二時間はあっという間に過ぎていた。
私も鳥飼さんもモニターに釘付けで、口を付けた缶ジュースが二時間後にも飲み終わっていなかったぐらい。
ドラゴンブルー龍介もバードレッド耕太君も充分遊んだようで、にこにこと満足げだ。
それに今回は初めての協力プレイだったので、時間が経つのがずいぶん短く感じたみたい。
見ている私もあっという間の二時間だったわ。

「それじゃまた明日ね」
「うん、また明日ー」
思わず私は苦笑する。
龍介はこちらの都合など考えずに、ちゃっかり耕太君と明日も会う約束をしてしまっている。
あーあ・・・
これは明日も二時間コースかしらね。
お金がかかるわぁ・・・
見ると耕太君のママも困ったものだと苦笑している。
でも、たぶん彼女も明日も来るんだろうな・・・

「ええ、そうなの。ほんと入りびたりなのよ。でもそのおかげでお手伝いとかよくしてくれるけどね」
私はスカイプを通じて夫と話をする。
二時間しっかり暴れた龍介は、今日も早々に布団に入ってしまった。
きっと今頃は夢の中でも暴れているに違いない。
『おいおい、あんまりゲームばかりさせるのはよくないんじゃないか? いつもは君の方がこう言ってたしなめるだろ』
夫は単身赴任で半年間の海外だ。
なので、こうして時々スカイプを使って話をするというわけ。
「わかっているわ。お金だってかかるし・・・でも、なんだか行ってしまうのよねー」
『なんだそりゃ。しっかりしてくれよ』
夫が笑う。
そりゃ私だって今日は絶対に行かないと思ったりするんだけど、龍介に行こうと誘われると、なんだか行きたくなっちゃうのよ。
なんでなのかしら・・・
『まあ、来月には一度戻れると思うよ。仕事も来月には一段落するから』
「うん。楽しみに待ってる。龍くんも楽しみにしていると思うよ」
『うん。俺も会うのが楽しみだ。それじゃ明日も早いからまたね』
「うん、またね」
私はそう言ってスカイプを切る。
本当は最後に愛してるなんて付けたいところなんだけど、なんとなく照れ臭くて言えない。
だから心の中で付け加える。
愛しているわよ、あなた・・・

                   ******

ふう・・・
やっぱり少し食費を削らないとだめかしらね・・・
私は昨日の出費を家計簿に書いていく。
遊興費の項目は昨日も六百円。
一昨日もその前も同じ。
もうあそこに二時間いるのが当たり前になっているわ。
ああ・・・
どうしたものか・・・

龍介は今日も朝から戦隊もののテレビを見ている。
毎週日曜日の楽しみなのだ。
今では自分も戦隊の一員だからなのか、より一層見るのに熱が入っている。
さっきから身じろぎもしないで画面に食いついているわ。
ふう・・・
あそこの料金、もう少し安くならないかしら・・・
百円とか・・・
これが正規料金になったらどうしよう・・・
貯金を崩すしかないかしら・・・
でも・・・
行かないなんて考えられないし・・・

「あー、面白かったー。来週も楽しみ」
テレビを見終わった龍介がうーんと背伸びをして躰をほぐしている。
私は家計簿を閉じて立ち上がると、龍介の所へ行く。
「龍くん、今日も行く?」
「いいの? 行く!」
いいに決まってるでしょ。
そりゃお財布的にはよくないけど・・・
龍介も楽しいし、何より私が行きたくて仕方がなくなっているのだ。
どうしちゃったんだろう・・・
でも、あそこのモニターを見ていると夢中になっちゃうのよね。
やめられないわぁ。

「いらっしゃいませ。“戦隊ヒーローになろう”にようこそ。いつもありがとうございます」
私も龍介もすっかり受付の女性たちに顔を覚えられてしまったわねぇ。
私はにこやかにいつものように受付を済ませる。
ロビーを見ると、今日はすでに耕太君ママの由紀奈(ゆきな)さんも来ていて、私に手を振ってくれた。
どうやら私たちが来るのを待っていてくれたらしい。
耕太君もすぐに龍介のそばに来て、一緒にバトルスーツ装着システムへと消えていく。
ほどなくしてスーツに着替えたドラゴンブルーとバードレッドはそれぞれ私たちに決めポーズをして見せると、そのままバトルフィールドへと入っていった。
うふふ・・・
今日も楽しませてもらうわね。

「聖香(せいか)さん、こんにちは」
「こんにちは、由紀奈さん」
私は由紀奈さんに挨拶し、彼女の隣に腰を下ろす。
「はい、どうぞ」
「わ、ありがとう」
私は由紀奈さんが差し出してくれたオレンジジュースをありがたく受け取った。
ここ二三日でわたしは耕太君ママである由紀奈さんとすっかり意気投合するようになっていた。
なんだか優しくて癒し系の感じの彼女はかわいいのよねぇ。
「ふう・・・美味しい」
「よかった。いつもそれをお飲みでしたから」
にこやかにほほ笑む由紀奈さん。
私もつられて笑顔になる。
「でもおごってもらっちゃっていいの? お財布厳しくない?」
「ええ、豪華なランチをおごるというわけにはいきませんけど、ジュースぐらいなら」
そうよねー。
お互い毎日ここに来ているから、出費がかさむわよねー。
明日あたりまたお金をおろしてこなきゃ・・・
「あ、始まりますよ」
「うふふ・・・二人のお手並み拝見ね」
「ええ・・・ジャドーマにどこまで立ち向かえるかしら。ふふふふ・・・」
「うふふふふ・・・」
私たちはモニターに映る赤と青のヒーローたちに立ち向かう怪人や戦闘員たちの動きにいつしか見入っていた。

「はい、お疲れ様でした、龍介隊員、耕太隊員」
「「お疲れ様でした」」
二人そろってびしっと敬礼を決める龍介と耕太君。
えっ?
もう終わり?
もう二時間も経ってしまったの?
なんだか全然そんな気がしないわ。

「由紀奈さん。由紀奈さん」
私は隣でとっくにデモ画面に切り替わったモニターをまだを見つめている由紀奈さんに声をかける。
なんだかぼうっとして心ここにあらずという感じだわ。
まるで夢でも見ているような・・・
「あ・・・えっ?」
私が声をかけたことでハッとして私の方を見る由紀奈さん。
「もう終わりましたよ。耕太君が待ってますよ」
「あ・・・いけない、私ったら夢中になっちゃっててぼうっとしちゃって・・・」
その気持ちはわかるわぁ。
私もそんな感じだったもの。
なんだかモニターを見ていると頭がぼんやりして躰がふわふわしてくるような感じで。
とっても気持ちが良くて。
そして・・・
ジャドーマの紋章が頭に浮かんでくるのよね。
とても素敵なジャドーマの紋章が・・・

「ママー」
いけない。
龍介が呼んでいるわ。
精算をしなくちゃね。
私は財布を取り出して受付に行く。
「いつもご利用ありがとうございます。二時間のご利用で六百円になります」
にこやかな受付の女性が利用料を言ってくる。
私は財布から五百円玉と百円玉を取り出して、トレーに入れる。
ふう・・・
毎日六百円は結構するわよねぇ。
これが来月からは二千円になるわけ?
どうしましょう・・・

私と由紀奈さんはそれぞれ支払いを済ませ、受付を後にしようとする。
「あの、お客様」
「はい?」
「いつも当施設をご利用くださいまして、本当にありがとうございます。こうして毎日のように来ていただけますのは従業員といたしましてもうれしい限りです」
「うーん・・・なんだか足が向いちゃうのよねぇ。あの子よりも私の方がここへ来たくなってしまうというか・・・」
私は苦笑する。
毎日今日こそは行かないと思うのに、気が付くとここへ来ているという感じなのだ。
「私もです。なんだかどうしても来たくなっちゃって・・・」
隣で由紀奈さんも苦笑いをしている。
「それはきっとお二人に適性があるからですわ」
「適性?」
なんのことだろう?
私と由紀奈さんが顔を見合わせる。
「いえ、こちらのことでして。ですが、こう毎日のようにこちらへいらっしゃられますと、失礼ですが結構なご負担を感じていらっしゃるのではございませんでしょうか?」
「えっ? そ、それは・・・まあ・・・」
確かに毎日となるとやや負担に感じるのは事実だ。
我が家はそれほど裕福ではないのだから。
「う、うちもまあ・・・」
由紀奈さんも口ごもる。
たぶん彼女にとってもそうなのだろう。

「やはりそうでしたか。お客様にご負担を強いてしまうというのは当施設としては本意ではありません。結局お客様の足が遠のいてしまうのでは本末転倒でございますし」
まあ、それはそうよね。
せっかく来てもらいたくてもお金がないから行けませんとなっては、こことしても困るわよね。
「そこで、もしよろしければなのですが、ご自宅でもお楽しみいただけますよう当施設のスーツレンタルをお試しになられましてはいかがでしょう? 今ならオープン記念でレンタル料は今月中は無料となりますが」
「スーツレンタル?」
「はい。ご自宅に龍介隊員や耕太隊員が着用なさってますあのバトルスーツをお持ち帰りいただき、当施設に来られなくてもあのスーツで遊んでいただけるシステムとなっております。これですとスーツのレンタル料のみでご利用いただけ、施設使用料はかかりません。レンタル料も今月中は無料です」
あのスーツを自宅で?
確かにスーツだけでも着たら遊びの雰囲気が格段に変わるとは思うけど・・・

「でも、ただスーツを着るだけになってしまうのでは?」
由紀奈さんの問いかけに私もうなずく。
ここで遊んでいるようなことが自宅でできるとは思えないし。
「それはご心配なく。やや画像構成が大雑把になってしまいますが、ヘルメットに装着されたゴーグルのVR機能が働き、室内の家具や物品をバトルフィールドと同じような障害物に見立てて表示してくれます。ですので、ここで遊ぶよりは精度は落ちますが、同じように遊んでいただくことは可能です」
へー。
最近のデジタル技術はすごいのねぇ。
家の中でも遊べるなら、その方がいいわよねぇ。

「ただ、一つだけお母様方のご協力が必要な部分がありまして・・・」
「協力?」
何を協力するというのだろう?
「スーツのVRゴーグルは周囲の家具や物品をバトルフィールドの障害物にすることは可能なのですが、動くもの、つまり敵役である怪人や戦闘員等を表示するには基準となる人が必要となりまして、その役をお母様方に行なっていただくこととなります」
「えええ?」
「わ、私たちがですか?」
「はい。こちらで用意いたします特殊スーツをお母様方にも着用していただきまして、戦隊スーツを着用したお子様の前に立っていただきますと、ヘルメットのVRゴーグルがスーツの信号を読み取ってお子様の目には敵の怪人や戦闘員に見えるというわけです」
そう言って受付の女性が黒く畳まれた布の塊を差し出してくる。
それは広げられると躰全体を包み込む全身タイツのような黒いスーツだった。
ほかに紋章の付いたバックル付きのベルトやブーツに手袋もある。
「これを着ろと?」
「はい。これはセンチューラのスーツでして、お母様にこれを着ていただきますことでお子様のスーツにはジャドーマの女戦闘員であるセンチューラが現れたように映ります。それでお子様とご一緒に遊んでいただくことができるわけです」
「はあ・・・」
ジャドーマとはこの“戦隊ヒーローになろう”に登場する悪の組織名であり、センチューラとは線虫をベースにしたジャドーマの戦闘員のことである。
男性型のセンチューと女性型のセンチューラがいて、私たちはそのセンチューラのスーツを着るということらしい。

「あ、あの・・・」
私はどうしたものかと戸惑ってしまう。
いくら何でもこんなものを着て子供と遊ぶなんてできるわけがない。
「どうか一度お試しくださいませ。もしどうしてもお気に召さないようでしたら、こちらに持ってきていただければOKですので」
そういって大きな手提げ付きの紙袋にドラゴンブルーのスーツとセンチューラのスーツを入れて渡されてしまう。
由紀奈さんの方もバードレッドとセンチューラのスーツを手渡され、困惑したような表情を浮かべていた。
「一度お試しくださいませ。きっとお気に召すと思いますので」
「はあ・・・」
押し切られるように二つの袋を押し付けられてしまう私と由紀奈さん。
まあ、無料ということだし、私はともかく龍介がドラゴンブルーのスーツは着たがるだろうから、持ち帰ることにしましょうか・・・
あとで返せばいいことだし・・・
私はそう思い、二つの袋を下げて受付を後にした。

続く

  1. 2019/03/25(月) 21:00:00|
  2. ママと遊ぼう
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(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
どうぞ楽しんでいって下さいませ。

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