FC2ブログ

舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

ふたりはイヴィルシスターズ (2)

ふたりはイヴィルシスターズの二回目です。
ふたりがもがくありさまを楽しんでいただければと思います。

それではどうぞ。


「うああー! 遅刻するー!」
バタバタと教室に駆け込んでくる茉莉。
昨日絵美に待っているなどと言ったくせに、その本人が学校に来ていないのでは待っているも何もあったものではない。
これというのも、昨晩は妙に目がさえて明け方近くまで眠ることができなかったからである。
そして目が覚めた時にはとっくに起きていなくてはならない時間だったのだ。

「ふう・・・セーフ」
なんとかギリギリ始業前に駆け込むことができて、思わず安堵する茉莉。
見ると、いつもの席に絵美が座っている。
「よかった・・・黒坂さん、来てくれた」
自分の席に着き、後ろの方の絵美に向かって小さく手を振る。
すると、それに気が付いた絵美も笑顔で小さく手を振り返してくれた。
それだけでもう茉莉は嬉しかった。

「黒坂さん、親には言ってみたの?」
授業が終わった後の休み時間を待ちかね、茉莉はすぐに絵美のところへ行く。
「うん・・・」
絵美の表情が曇るのを見て、茉莉はすぐに昨日の警官と同じ反応だったのだろうと察した。
実際茉莉自身、昨晩兄に冗談めいて話してみたものの、バカにされるだけで終わったのだ。
なので、茉莉は両親には昨日のことは話していない。
おそらく信じてもらえないだろうから。

「ママには笑い飛ばされただけだった。パパは真面目に話を聞いてくれたんだけど・・・」
「うん」
「人間は災害の力には勝てない。だから、昔から人間は災害があると誰かが何か悪いことをしたからじゃないかと思った。いわゆる天罰というやつだな。その誰かを自分に置き換えてしまう人もいるんだ。自分が何か悪いことをしたから天罰が起こった。あまりの衝撃に絵美はそう思い込んでしまったんだろう。絵美は優しいし、何せあの教会はこの街では有名だったからね・・・だって・・・」
「ああ・・・なるほど」
茉莉はうなずきつつも、絵美が苦い表情をしていることに気が付いた。
「私・・・ちっとも優しくなんかないのに・・・」
絵美が吐き捨てるように言う。
親の見る自分と自分自身との差があるのだろう。
茉莉にもそれはよくわかる。

「紅倉さんは?」
「あー、私はお兄ちゃんにちょこっと話したけど、バカにされて終わった。だからお父さんにもお母さんにも話してない」
「そう・・・」
ふうとため息をつく絵美。
自分の家族は無理だったものの、茉莉の家族は茉莉の話を信じてくれたのではという淡い期待もあったのだ。
「ねえ、由華先生に相談してみようか」
「鷹紀先生に?」
茉莉の提案に驚いたように顔を上げる絵美。
「うん。ほかの大人はダメだったけど、由華先生なら・・・由華先生なら相談に乗ってくれないかな」
確かに鷹紀由華はまだ若いこともあり、お姉さん感覚で生徒たちに慕われているというのはある。
彼女であれば生徒の相談にも親身になって聞いてくれるかもしれない。
それに・・・
「そういえば・・・確か・・・先生が私たちにあの倉庫の片付けを指示してからあの事があったのよね。先生は何か知っているかも」
「うん。私もそう考えていた」
絵美の言葉に茉莉も大きくうなずいた。

「茉莉ー」
「昨日はごめーん。でもさぁ、あのあと大変だったんだよぉ」
棚本希美と与瀬場唯が茉莉を呼ぶ。
どうやら昨日の話を茉莉に聞かせたいようだ。
「あ、それじゃ黒坂さん、放課後先生に相談してみるってことで」
「ええ」
笑顔で応じる絵美。
その笑顔に茉莉はうなずき、二人の友人のところへ向かうのだった。

                   ******

放課後。
二人は休み時間に話していた通り、担任の鷹紀由華のところへと向かう。
職員室にいる先生を見つけた二人は、すぐに彼女に声をかけた。
「あら、どうしたの、二人して。何か用?」
いつものように笑顔で二人を迎えてくれる先生。
「はい。実は先生に昨日のことで相談があって・・・」
「昨日のこと? ああ、倉庫の片付けのこと? あの事ならもういいのよ。しなくてもいいことになったから」
茉莉が昨日のことと言ったことから、由華は倉庫の片付けのことだろうと見当をつけたらしい。
「違うんです。倉庫のことじゃなくて・・・その・・・」
「あの・・・できれば他の先生方のいないところでお話はできませんか?」
茉莉が言いよどむと同時に絵美が場所の変更を申し出る。
茉莉にしてもこの職員室の中で昨日の話をするのは気が引けたので、絵美の申し出はありがたかった。
「そう・・・何かの悩み事なのね? いいわ。場所を変えましょう」
そう言って由華は鍵のケースのところへ行き、進路相談室の鍵を取る。
「進路相談室に行きましょう。あそこなら静かだわ」
「はい」
由華の後について二人は職員室を出て、進路相談室へと向かった。

三人だけの静かな進路相談室。
外からはグラウンドの運動部の部活の声が聞こえてくる。
「それで・・・その毛むくじゃらのワルピーとかいう魔物が、あなたたちを操ってあのようなことを起こさせた・・・というのね?」
二人の話を聞いた由華が腕組みをしながら確認をするように話の内容を繰り返す。
「はい、そうなんです」
「信じられないと思いますけど、本当のことなんです」
信じてほしいとばかりに由華の目をまっすぐに見つめてくる二人。
「あの教会が崩れたのは、竜巻のような突風と落雷によるものだと報道されているわ。でも、そうではないというのね?」
「はい。あれは・・・私たちがやってしまったことなんです」
「黒坂さんと私が、そのワルピーとかいうやつにイヴィルシスターズとかいうものにされて、思いっきり暴れてしまったんです。本当なんです!」
ぐっとこぶしを握り締める茉莉。
夢だったと思いたいことだったが、あの感触は今でも思い出せるのだ。

「そう・・・そうだったの・・・」
由華の言葉にちょっと驚く二人。
今まで警官にも両親にも兄にも信じられないとしか言われなかったのだ。
そうだったのと肯定してもらえたことが一瞬信じられなかったのだ。
「あれはあなたたちが・・・ねえ・・・」
「そうなんです。だから・・・その・・・どうやって償ったらいいのかと」
「警察に言っても信じてもらえなくて。先生に相談したら何かいい考えをもらえるかなと」
例えば由華と一緒に警察に行ってみるというのはどうだろう。
担任教師と一緒なら、警察も話を聞いてくれるかもしれないと茉莉は思う。

「ねえ・・・二人とも」
由華の口がニタリと笑みを浮かべる。
「はい」
「はい?」
「どうだった?」
「はいぃ?」
「えっ? どうだったとは?」
予想外の質問に戸惑う二人。
どうだったとはいったい?
「気分よ。あの教会を破壊した時、どんな気持ちだったの? 興奮した?」
由華は笑顔を見せているはずなのに、それがどことなく冷たさを感じさせる。
「えっ?」
「こ、興奮したって・・・」
茉莉も絵美もドキリとする。
それは二人ともお互いに言わないで来たことだったのだ。
気持ちよかった・・・
茉莉も絵美もそう思う。
あの教会を破壊していた時、確かに二人は気持ちよさと興奮とを感じていたのだ。
力を思うままに振るう気持ちよさ。
目の前のものが崩れていく興奮。
デモンオー様の目障りなものを排除できた喜び。
そういったすべてのことが、まざまざと思い浮かんでくる。
だが、それは感じてはいけないことのはずなのに・・・

「ねえ、どうだった? 気持ちよかったでしょ?」
「そんなこと・・・ない・・・」
絵美が絞り出すような小さな声で返事をする。
「えっ?」
茉莉は思わず絵美の方を見る。
「気持ちよくなんかありません!」
「黒坂さん」
突然大きな声できっぱりと否定する絵美に驚く茉莉。
絵美はわかっていた。
自分がとても気持ちよかったことを。
だが、それを認めてしまっては自分が邪悪と闇に染まってしまったことになってしまう。
だから否定するしかない。
「そうでしょ? 紅倉さんだって気持ちよくなんかなかったでしょ? お願い! そうだって言って!」
すがるような眼で茉莉を見つめる絵美。
それを見て茉莉はうなずく。
「ええ。気持ちよくなんてなかったです。絶対に気持ちいいはずがない!」
茉莉も力強くそう言い切るのを見て、絵美の顔に笑顔が浮かぶ。
そうだよ。
あんなことが気持ちいいはずなんてないんだ。

「あら残念。きっと二人とも気持ちよかったんじゃないかと思ったんだけど・・・でもよかったじゃない。デモンオー様の目障りなものを排除できたんだもの」
椅子を少しずらし、タイトスカートからすらっと伸びたストッキングに包まれた脚を組んで邪悪な笑みを浮かべる由華。
「えっ?」
「先生、今なんて?」
二人はワルピーのことは口にしたが、デモンオーのことは言ってなかったはずなのに。
「うふふふ・・・あなたたちはデモンオー様のお役に立てたのよ。喜びなさい」
「そんな・・・」
「先生? いったい?」
「あなたたちはもう“正しい心と力を持つ者”じゃなくなったの。二人は邪悪と闇の王であるデモンオー様のしもべとして選ばれたのよ。光栄に思いなさい」
「先生! 何を言ってるんですか!」
茉莉が机をバンと両手でたたくようにして立ち上がる。
今日の先生はいつもの由華先生じゃない!

「ケケケケ・・・その女はもうわれの忠実なしもべだピー。われの力で心を邪悪と闇に染めてやったんだピー」
聞き覚えのあるやや甲高い声が進路指導室に響く。
茉莉も絵美も聞きたくない声だ。
「その声は!」
「ワルピー!」
二人が声の出所を探すと、由華の肩のあたりに小さな黒い球体が現れ、その中から黒い毛むくじゃらの小悪魔が現れた。
その小悪魔を肩に乗せ、愛しむように手をのせる由華。
その表情はうっとりとしているようだ。
「先生! そいつが! そいつがさっき言ったワルピーです!」
「先生! 早くその悪魔から離れて!」
ワルピーの姿を見て、思わず絵美も椅子から立ち上がる。
「ええ、知っているわ。だって・・・私はもう身も心もワルピー様にささげたしもべなんですもの」
肩にちょこんと乗るワルピーをなでながら、由華は冷たい笑みを浮かべる。
「ケケケケ・・・いい娘だピー。お前をわれのしもべにして正解だったピー」
「ああ・・・ありがとうございます。ワルピー様」
ワルピーの言葉にうれしそうな由華。
もはや完全にワルピーに支配されてしまったのだ。

「そ・・・そんな・・・」
「先生が? 由華先生が心を邪悪と闇に染められちゃったなんて・・・」
愕然とする二人。
明るく優しく生徒たち思いだった女性教師はもういなくなってしまったというのか?
「ちょうどよかったピー。またデモンオー様の目障りになりそうなものを見つけたピー。お前たち、排除してくるんだピー」
ニタッと赤い口に笑みを浮かべ、矢じり型の先端をした尻尾に二本の黒い鍵を巻き付けて取り出すワルピー。
「い、いやっ! もうイヴィルシスターズになるのはいやぁっ!」
自分の躰をかき抱くようにして抱きしめ首を振る絵美。
「そんなことさせない!」
ガタッと椅子をはねのけ、ワルピーに飛び掛かっていく茉莉。
「うるさいピー! お前たちが完全なイヴィルシスターズになるまで、何度でも繰り返すんだピー!」
飛び掛かってきた茉莉の手をさっとかわし、またしても宙に浮いて二人を見下ろしてくるワルピー。
「卑怯者! 降りてこい!」
「お願い! やめてぇ!」
叫んでいる二人を無視してワルピーは黒い鍵をかざす。
「イヴィルキーよ、二人の心を邪悪と闇に染めるんだピー!」
再び二本の黒い鍵からそれぞれ一筋の黒い闇が伸び、二人の胸に黒い鍵穴を作り出す。
「いやぁぁぁぁっ!」
「やめろぉぉぉぉ!」
二人が必死で拒絶しようとしても、躰がまるで金縛りにでもあったように動かない。
そしてその鍵穴に、黒い鍵がすうっとはまり込んでいく。
「オープンロックだピー!」
ワルピーの声に呼応して黒い鍵が回転してカチッと音がし、二人の胸に丸い黒い穴が開く。
「ダークネスインだピー!」
「きゃぁぁぁぁぁ!」
「うあぁぁぁぁぁ!」
轟音が響いて二人の足元から闇が湧き起こり二人の胸の穴に吸い込まれていく。
そして入りきらない闇が二人の躰を包み込み、黒い球体を形作っていく。
やがて二人の躰は闇の中に見えなくなり・・・
赤と黒の衣装に身を包んだ少女たちが闇の中から現れた。

「赤の邪悪! イヴィルマリィ!」
ぐっとこぶしを握り締めて力強いポーズをとる赤の少女。
「黒の邪悪! イヴィルエミィ!」
すっと右手を胸に当てて握る黒の少女。
それぞれがそれぞれの色のつややかなエナメルチックのボンデージタイプのレオタードに身を包み、二の腕までの長手袋と、太ももまでの長さのロングブーツを身に着けている。
目元には黒いアイシャドウが引かれ、唇には真っ赤な口紅が塗られているのは共通だ。
そしてイヴィルマリィの燃え立つような赤いショートヘアには黒いカチューシャが、イヴィルエミィの漆黒のロングヘアには赤いカチューシャがはめられていた。
「「ふたりはイヴィルシスターズ!」」
二人の声がハーモニーを奏でる。
「世界を邪悪と闇に染めるため!」
「デモンオー様の目障りなものは!」
「「私たちが排除します!」」
背中合わせに立ってお互いにファイティングポーズを決めるイヴィルマリィとイヴィルエミィ。
それはまさに邪悪と闇の魔女たちだ。

「ああ・・・またこの姿に・・・」
変身が終わったことで自我が戻ったイヴィルエミィが両手で顔を覆ってしまう。
「ああ・・・また・・・」
イヴィルマリィも悔しそうに唇をかみしめる。
もう二度とこんな姿にはなりたくなかった姿なのに、またしても変身させられてしまったのだ。
だが・・・
二人とも気が付いていた。
昨日に比べ、この姿に違和感を感じなくなっていたことも。
それどころか、どこかこの姿に誇らしさすら感じていたことを。

「ケケケケ・・・やはり素晴らしい姿だピー。まさに邪悪と闇の魔女にふさわしい姿だピー」
「そ、そうですか?」
ふさわしいと言われ、あらためて自分の格好を見直すイヴィルエミィ。
つややかなボンデージレオタードが確かに見栄えがしているといえばいえる。
「SMの女王様みたいだけど、確かにかっこいいといえばかっこいいかも・・・」
イヴィルマリィも、自分の格好がどこか誇らしい。
それに褒められてうれしくないわけはないのだ。
「うんうん。とてもよく似合っているピー」
「ええ、本当に素敵ですわ。デモンオー様のしもべにふさわしい姿よ、二人とも」
二人の姿を冷たい笑みを浮かべて見ている由華にそう言われ、ハッとする二人。
そうなのだ。
この姿はデモンオー様のしもべとしての姿。
そんなものになるつもりは二人にはない。

「ケケケケ・・・さあ二人とも、デモンオー様の目障りなものを排除してくるんだピー!」
「それとこれとは話が別です!」
「そうだよ! この格好が気に入ったからって、私たちはデモンオー様に従う気なんてないんだからね!」
キッとワルピーをにらみつけるイヴィルマリィ。
「えっ? イヴィルマリィはこの衣装が気に入ったの?」
思わずイヴィルマリィを見るイヴィルエミィ。
「えっ? うん・・・まあ・・・かっこいいかなって。イヴィルエミィは?」
「うん・・・まあ、私も嫌いじゃないかも・・・」
漆黒のエナメルボンデージ姿を愛しむように胸に手を当てるイヴィルエミィ。
「でも、デモンオー様に従ったりはしません!」
「むぅ・・・まだ邪悪に染まり切っていないのかピー! ならば!」
ワルピーの目が輝く。
しかし、イヴィルエミィもイヴィルマリィも素早く目を閉じてワルピーのほうから顔をそらしてしまう。
「なっ、お前たちこっちを見るんだピー!」
「絶対見ません!」
「見るもんですか!」
固く目を閉じて首を振る二人。

「きゃあっ!」
その時由華の小さな悲鳴が響く。
「先生!」
「ワルピー! 由華先生に何を!」
担任の悲鳴に、思わずイヴィルマリィもイヴィルエミィも目を開けてしまう。
「あっ!」
「しまった!」
気が付いた時にはもう遅く、二人の目がワルピーの目をとらえてしまい、とろんとうつろになってしまう。
「ふう・・・うまくかかったピー。由華、よくやったピー」
「アン・・・ありがとうございます、ワルピー様」
お褒めの言葉をいただきうっとりとする由華。
「うふふふ・・・普段聞きなれた声が悲鳴を上げれば、誰でも何があったのかと気になってみてしまうものですわ」
由華の口元を冷酷な笑みがゆがめる。
「ケケケケ・・・すっかり心が邪悪に染まったようだなピー。教え子を罠にはめるのもためらわないとはピー」
すっと由華の肩に降りてくるワルピー。
「私はワルピー様の忠実なるしもべ。ワルピー様のためでしたら教え子をだますことなど造作もないことですわ」
目の前でうつろな目をして立ち尽くすイヴィルマリィとイヴィルエミィを見つめる由華の目には邪悪な輝きが光っていた。
「ケケケケ・・・いい娘だピー。あとでたっぷりとかわいがってやるピー」
ワルピーの矢じりのような先端をした尻尾がそっと由華の頬をなでる。
「ああ・・・ありがとうございます。ワルピー様ぁ」
思わず頬を染めてしまう由華。
「われは彼女たちを連れてデモンオー様の目障りなものを排除させるピー。二人がいなくなった後の学校のことはお前に任せるピー」
「はい、かしこまりました。ワルピー様」
由華がこくんとうなずくと、ワルピーは二人を連れ、自らが作り出した闇の球体の中へと消え去った。

街の中心部にある大きな音楽堂。
休日ともなれば、何らかのイベントやコンサートの類が開かれ、大勢の人間が利用する場所だ。
その音楽堂の上空に、黒い闇の球体が現れたことに、周囲の人々はざわめいていた。

「ふたりともあれを見るピー」
ワルピーの言葉に従いうつろな目で音楽堂を見るイヴィルシスターズの二人。
「あれは音楽とかいう音で人間どもに楽しさや喜びなどの感情を湧き起こさせるための施設だピー。そのようなものは邪悪と闇の世界には必要ないピー。デモンオー様の目障りなあの施設を排除してくるがいいピー」
「デモンオー様の目障りな施設・・・」
「私たちが排除・・・」
ワルピーの言葉に無表情にただ反応しているだけのように見える二人。
だが・・・
イヴィルマリィの舌がぺろりと唇を舐める。
その目が生気を取り戻していき、口元に邪悪な笑みが浮かんでいく。
「世界を邪悪と闇に染めるため・・・」
イヴィルマリィがそう口にすると、隣にいたイヴィルエミィの目にも生気が戻ってくる。
「デモンオー様の目障りなものは・・・」
イヴィルマリィに続いて言葉を紡いでいくイヴィルエミィ。
「「私たちが排除します!」」
そして二人は力強く声を合わせる。
「行こう、イヴィルエミィ! デモンオー様のために!」
「ええ、行きましょうイヴィルマリィ! デモンオー様のために!」
二人はガシッと手をつなぎ合うと、そのまま闇の球体を飛び出していく。
「ケケケケ・・・じょじょに心が邪悪な闇に染まってきたようだピー」
二人の後ろ姿を見送ったワルピーは、その様子に自らの思い描いた通りに事が進んでいることを感じていた。

「あはははは・・・ええーーーい!」
イヴィルエミィは楽しかった。
力を思うままに振るうことが。
建物がどんどん崩れていくところが。
人々が瓦礫の下敷きになっていくことが。

「うりゃあああ! あっはははは・・・」
イヴィルマリィは気持ちよかった。
誰にも邪魔されないことが。
建物の崩れていく轟音が。
人々の上げる悲鳴を聞くことが。

「レッドウィップ!」
「ブラックウィップ!」
二人は嬉しかった。
デモンオー様の目障りなものが消えていくことが。
世界を邪悪と闇に包むことができることが。
お互いの息がぴったりと合っていることが。
とてもとても嬉しかったのだ。

やがて音楽堂は跡形もなく瓦礫と化す。
人々の悲鳴やうめき声が周囲に満ちる。
その様子を二人は笑みを浮かべながら見て、黒い闇の球体の中へと戻っていった。

                   ******

「ハッ」
教室の自分の席で目を覚ます絵美。
前のほうではやはり自分の席で茉莉が机に突っ伏している。
「あ・・・私・・・また」
言いようのない絶望感が押し寄せる。
またしてもイヴィルエミィとなって暴れてしまったのだ。
「・・・どうしたら・・・」
苦悩しつつも席を立って茉莉を起こしに行く。
「紅倉さん」
「ん・・・あ・・・」
ゆっくりと目を開ける茉莉。
その目が絵美をとらえると同時に、その表情が曇ってしまう。
「黒坂さん・・・私たちまた・・・」
「うん・・・やってしまったんだと思う・・・」
絵美はスマホを取り出してニュースサイトを確認する。
そこには速報で音楽堂の崩壊が取り上げられていた。
「これ・・・やっぱり・・・」
「うん・・・私たちね・・・」
がっくりと肩を落とす茉莉。
もうあんなことは二度とごめんだったはずなのに・・・

「どうする? 警察に行く?」
茉莉の言葉に絵美は首を振る。
「無駄でしょう。昨日と同じことになるだけだと思う・・・」
「そっか・・・そうだよね・・・」
茉莉もそのことは理解する。
どうせたわごとと切り捨てられるのが落ちなのだ。
「どうしたらいいんだろう・・・先生も・・・」
「うん・・・もう先生はワルピーに支配されちゃっているんだわ」
「それってヤバくない?」
「でも・・・でもどうしたらいいのか・・・」
絵美も茉莉もどうしたらいいのか全く分からないのだ。
大人は誰も助けになってくれないどころか、頼みの綱の先生までがあのワルピーのしもべになっちゃったのだ。

「何かできることはないのかな・・・」
「わからない・・・とにかく二人きりの時に先生に会ったりしない方がいいと思う。みんなのいるところでは、さすがにあのワルピーが出てくることはないんじゃないかしら」
確かに昨日も今日も二人だけの時にワルピーは現れた。
だとしたら、できるだけ他のクラスメイトたちと一緒にいるのがいいのかもしれない。
「それ以外今は思いつかないの。ごめんなさい」
「謝ることないよ。私なんか何も思いつかなくて・・・」
「ううん、そんなことない。紅倉さんがいてくれるだけでどんなに心強いか・・・」
「黒坂さん・・・」
「とにかくここにこうして二人きりでいたら、またワルピーに狙われてしまうかもしれないわ。早く学校を出ましょう」
「うん、そうだね」
二人はうなずき合い、とにかく学校を出ることにして教室を後にした。

                   ******

「ふう・・・」
なんだか寝付けない。
絵美はベッドの中で何度も寝返りを打つ。
帰り道では特に何もなかった。
家に帰ってきても、今日はなんだか両親と話をする気にもなれなかった。

もちろんニュースは音楽堂の崩壊事件で一色だった。
昨日の教会に続き、今日は音楽堂が崩壊したことで、気象庁は大気が極端に不安定になっており、竜巻や落雷がいつ起こるかわからないためにここ数日は注意が必要との警報を発表していた。
その警報が当たるか外れるかは、ひとえに二人の少女にかかっているのだったが。

パパもママもまた自分が昨日と同じことを言いだすのではないかと案じているような感じだった。
どこか気を使っているようなよそよそしさを感じていたのだ。
それが何だか絵美には非常にむしゃくしゃする。
だから、さっさと自分の部屋に戻ってきて一人で本を読んでいたのだが、今日に限っては内容が全く頭に入ってこず、本すらも彼女をいらだたせる役にしか立たなかった。
結局早めにベッドに入るぐらいしかできなかったのだった。

「ふう・・・ダメだわ」
目が冴えてしまっている。
しばらく眠れそうもない。
絵美はベッドから起きると、枕元に置いた眼鏡をかける。
カーテンを開けると月明かりが差し込んでくる。
「きれい・・・」
なんだかすごく夜がきれいだ。
ちょっとドキドキする。
どうせ寝られないのなら夜のお散歩でもしてみようかしら。
絵美はそう思うと、パジャマを脱いで普段着に着替えていく。
そしてそっと部屋を出ると、玄関まで足音を忍ばせて歩いていく。
どうやら両親は起きてこないようだ。
全く気付いていないのだろう。
いい気なものだわ・・・
なんだかムカついてくる。
私がどんなに苦しんでいるかも知らずに眠りこけているなんて・・・
ふふっ・・・
突然笑みがこぼれてくる。
あなたたちなんて・・・デモンオー様がこの世界を支配した暁には・・・
ふふふっ・・・
そこまで考えてハッとする絵美。
わ、私は今何を?
何を考えていたというの?
慌てて靴を履いて外に出る絵美。
なんだか今の自分を他人には知られてはいけないような・・・そんな気がしたのだ。

「はあ・・・」
外に出たことで少しは落ち着いてくる。
さっきの私は何を考えていたというのか・・・
もしかして・・・
もしかして私はもう心を邪悪と闇に染められてしまっているのだろうか・・・

だが、そんな不安も満天の星空が拭い去ってくれる。
「きれい・・・」
星空なんて眺めるのはいつ以来だろう?
太陽のない世界はこんなにも素敵だったなんて・・・
気持ちいい・・・
夜のひんやりした空気が頬をなでていく。
まるで闇がやさしく抱いてくれているみたいだ。
夜がこんなに気持ちよかったなんて知らなかった。

「うふふ・・・」
夜の道を歩き始める絵美。
なんだろう。
自分がこんなに夜が好きだなんて思いもしなかった。
星空を眺めながら裏通りの方へと入っていく。
そっちの方がより暗闇を感じられそうだ。
表通りはこんな夜中でも照明で明るすぎる。
少しでも暗い方がよかった。

闇に沈んだ小さな公園。
ぽつんと街灯が一つあるだけの誰もいない深夜の公園。
昼間はこんな公園でも子供たちが結構遊んでいるところだったが、今は誰もいない。
絵美は公園に入り、ブランコに腰を下ろす。
街灯の明かりから少し陰になるので、足元はだいぶ暗い。
それがなんだかとても心地よかった。

ザリッと誰かの足音が聞こえた。
「えっ?」
絵美が顔を上げると、そこにはこの二日間でとても見慣れた少女の顔があった。
「紅倉さん? どうして?」
「黒坂さんこそ、こんな時間にどうして?」
茉莉もまさか絵美がこんな時間にここにいるとは思わなかったのだろう。
とても驚いた表情をしている。
「私は・・・なんだか眠れなかったから。それに、なんだか夜が気持ちよくて、歩いているうちにここへ」
「あ、私も眠れなかったんだ。ここ、うちの近くなんだよ」
茉莉はそう言って絵美の隣のブランコに腰掛ける。

「紅倉さんも眠れなかったの?」
「うん。なんだか目が冴えちゃってさ。はあ・・・気持ちいい・・・」
「えっ?」
「夜風が気持ちいいなぁって。夜こんなふうに出歩くことなんてなかったから、夜がこんなに気持ちいいなんて思わなかったわ」
少しずつブランコを揺らし始める茉莉。
それを見て、絵美も少しブランコを揺らす。
「私も。なんだかとっても気持ちいい」
「だね。ねえ、見て。星空がきれい」
「ほんと・・・きれい」
空には銀河が横たわって輝いていた。
「このまま朝なんて来なければいいのに・・・そうしたら学校に行かなくて済むでしょ?」
「うふふ・・・そうね」
「ああ、でもそうなると唯や希美と会えなくなっちゃうか・・・それはちょっと嫌かな」
ちょっと寂しそうな表情が浮かぶ茉莉。
確かに友人と会えなくなるのは寂しいかもと絵美も思う。
でも・・・
でも・・・
こうして隣に彼女がいてくれるなら・・・
紅倉さんと一緒なら・・・

「でも・・・黒坂さんがいてくれるならいいかな・・・」
「えっ?」
茉莉の言葉に驚く絵美。
「唯も希美も大事な友達だけど・・・なんだか黒坂さんとはとてもしっくりくる感じがするんだ。やっぱりイヴィルシスターズ同士のせいかな?」
視線は星空に向けたままの茉莉。
どことなく気恥しいのだろう。
でも、絵美は茉莉も同じ気持ちと知って嬉しかった。

「ねえ、紅倉さん」
「何?」
「今日のこと・・・ご両親には?」
「言ってない」
ふるふると首を振る茉莉。
「そう・・・」
「今日はなんだかお父さんともお母さんとも話したくなくてさ。だからさっさと部屋に引きこもりしちゃった」
「私も」
なんだか二人とも似たような状態なことに思わず笑みが浮かんでしまう。
「いい気なもんだよね。娘が教会や音楽堂を破壊しまくったっていうのにさ、のうのうと日常なんかしちゃってさ。デモンオー様がこの世界を支配したらあの人たちなんて・・・」
「えっ?」
「あっ、い、今のは忘れて。何でもない。何でもないから」
自分でも何を言ったのか気が付いて愕然とする茉莉。
なんてことを言ってしまったのか・・・

「でも・・・もうこのまま朝が来ないで、二人でここでずっとおしゃべりしていたいな・・・」
「そうね」
でもそうもいかないだろう。
明日も学校がある。

「黒坂さん」
「何?」
「今日は学校へ来てくれてありがと。もしかしたら来てくれないんじゃないかと思った」
朝、茉莉は本当にうれしかったのだ。
学校に絵美が来ていたことが。
「それを言うなら私こそ。紅倉さんが来てくれてよかった。ちょっと心配したんだから。あんまりにもギリギリに来るんだもん」
絵美にしても茉莉が教室に来た瞬間、とてもホッとしていたことを思い出す。
「明日も学校で会おうね」
「ええ。学校で」
それが別れの合図だった。
二人はブランコから立ち上がり、それぞれの家に向かう。
今からでも少しは寝ておかなくてはならないだろう。
でも、明日、時間的にはすでに今日だけど、学校に行けばまた会える。
そう思うだけで、二人はなんだか嬉しかった。

                   ******

  1. 2018/11/16(金) 21:00:00|
  2. ふたりはイヴィルシスターズ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:6

カレンダー

10 | 2018/11 | 12
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -

AquariumClock 2

プロフィール

舞方雅人

Author:舞方雅人
(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
どうぞ楽しんでいって下さいませ。

ブログバナー


バナー画像です。 リンク用にご使用くださってもOKです。

カテゴリー

FC2カウンター

オンラインカウンター

現在の閲覧者数:

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

リンク

このブログをリンクに追加する

天気予報


-天気予報コム- -FC2-

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

管理人にメールなどを送りたい方はこちらからどうぞ

ブログ内検索

RSSフィード

ランキング

ランキングです。 来たついでに押してみてくださいねー。

フリーエリア

SEO対策: SEO対策:洗脳 SEO対策:改造 SEO対策:歴史 SEO対策:軍事

フリーエリア