今日は4月1日です。
今年も4月1日がやってまいりました。
4月1日と言えばそう、エイプリルフールの日です。
となれば・・・
はい、今年も我がブログにあの方がやってまいりました。
はたして今年はどういうお話になったのか?
よろしければご覧ください。
それではどうぞ。
四月馬鹿とカメラウーマン
「三人目・・・四人目・・・五人目・・・すごい・・・どんどん来るわ」
私はカメラを持つ手にじっとりと汗をかくのを感じてくる。
私と一緒にあちこちで真実を撮ってきた自慢の一眼レフだ。
言ってみれば私の相棒である。
その相棒を手にしながら、私はゴクリと唾を飲んだ。
そろそろ人通りも少なくなってくる表通り。
連中が集まってきた公園にはもう他に人影はない。
まだまだ肌寒さを感じる夜遅く。
まもなく日付が変わる時刻。
そんな時間に公園に集まってくる連中。
ほとんどが二十代か三十代あたりの女性だが、中には男性もいれば少女のような子供もいる。
えっ、嘘?
女性警察官もいるの?
しかも制服姿じゃない。
彼女もそうだというの?
連中はみんな一様に笑みを浮かべ、日付が変わるのを待っている。
そう・・・
今日は三月の三十一日。
もう少しで日付が変わり、四月一日になる。
エイプリルフールだ。
この街にはある都市伝説がある。
この日、街には妖怪が放たれる。
四月馬鹿という妖怪だ。
馬のような姿とも鹿のような顔とも言われ、馬か鹿かわからず混乱してしまう人間をだまして同種の妖怪にしてしまうという。
その同種にされてしまった人々があんなにいるというの?
普段は何食わぬ顔で人間のふりをして過ごしているとでもいうの?
なんという・・・
私は時計を見る。
あとちょっとで0時。
日付が変わる。
草むらに潜んで張っていた甲斐があるというもの。
さぁ、姿を現しなさい、四月馬鹿。
私は連中に向けてカメラを構え、ファインダーをのぞき込んだ。
やがて連中が輪を作るように並び始める。
制服姿の女性警察官。
ビジネススーツ姿のOLらしき女性。
一家と思われるサラリーマンと主婦と娘。
学校の制服姿の女子高生もいる。
これがみんな四月馬鹿なのだろうか・・・
自分で探り始めたネタだけど、本当にそんなものがいるというのか?
でも・・・
そうじゃなければこの連中はいったい・・・
0時だ。
日付が変わると同時にいっせいにひざまずく連中。
そしてその輪の中心に黒いコートを着て幅広のつばの付いた帽子をかぶった人影が現れる。
えっ?
いつの間に?
どう見ても忽然と姿を現したとしか思えない。
まさか・・・
あれが四月馬鹿?
「「「偉大なる我らが主、四月馬鹿様。今年も四月一日が始まりました」」」
「「「どうかこのしもべたちに、偉大なる主様のご尊顔をお見せくださいませ」」」
輪になってひざまずいた連中が、中央の人影に向かって声を合わせている。
間違いないわ。
あいつこそが四月馬鹿。
その姿、今こそこのカメラで!
私は全身を緊張に震わせながらも、しっかりとカメラを向けていた。
「ククク・・・彩華(あやか)よ、こんなところに呼び出して何事かと思ったが、しもべたちを集めたのか」
「はい、四月馬鹿様。この街の我ら馬鹿の勢力をご覧になっていただきたく思いまして」
コート姿の人影の正面にいる制服姿の女子高生が立ち上がる。
あの娘がリーダーなの?
「なるほど。こうしてみると結構増えたものじゃないか。俺様が自らしもべにしたもの、お前たちがそれれぞれ増やしたものたちか。ククク・・・」
「はい。今では総勢三十名を下りません。そして今年も・・・うふふふ・・・」
「ふむ・・・ククク・・・お前たち、本性を現すがいい」
「「「はい、四月馬鹿様!」」」
嬉しそうな声を上げ、いっせいに立ち上がる連中。
その姿が見る間に人間とはかけ離れたものになっていく。
嘘でしょ・・・
私の目の前で次々と人ならざる者に変化していく男女。
その顔は伸びて馬のような顔となり、巨大な鹿の角のようなものが生えていく。
全身を茶色の毛が覆い、お尻からは尻尾も生えていく。
両手は先がひづめのように変化していき、足もひづめへと変化する。
面白いことに手のひづめは馬のもので、足のひづめは鹿のもの。
まさしく馬と鹿が合わさっているのだ。
これが・・・
これが妖怪馬鹿・・・
夢中でシャッターを切る私。
さっきまで人間の姿をしていた連中が一人残らず馬鹿になってしまった。
なんてこと。
これはスクープだわ!
「ククク・・・これは結構壮観じゃないか」
「はい、ここにいる者はすべて馬鹿。みんな四月馬鹿様の忠実なるしもべです。どうか私たちにも四月馬鹿様のお姿を・・・」
先ほどまで女子高生の姿だった馬鹿がコートの人影にすり寄っていく。
声からしてあのコートの人物は男だと思うけど、なにせ暗い上に帽子で顔が見えないわ。
でも、あれこそが四月馬鹿。
絶対にカメラに捉えてみせる。
「ククク・・・いいだろう」
中央の男が帽子を取る。
ええ?
どうやって帽子の下に隠れていたのというような巨大な鹿の角。
歯をむき出したような馬の顔。
どうやって持っているかわからないひづめにつかまれた帽子。
まさに周囲にいる連中とそっくりな顔が帽子の下から出てきたのだ。
私は何枚かシャッターを切ると、気付かれないように身を潜め、急いでその場を立ち去る。
速足で公園を抜け、表通りに駆け込むようにしてたどり着く。
背後から誰かが追ってくるような気配はない。
どうやら無事に気付かれずに済んだようだ。
ふう・・・
私はとりあえず近くの深夜営業しているファミレスに行く。
そこで軽く食事を注文し、水を飲んで一息つく。
やったわ・・・
あの四月馬鹿を写真に収めたわ。
私はデジカメの中身を確認する。
うんうん。
ちゃんとしっかり調整してあっただけに、あの暗さの中ストロボ無しでもしっかり写っているわ。
やったー!
「もしもし? 簔口(みのぐち)だけど夜分遅くにすみません、編集長に伝言をお願い・・・あ、編集長? こんな時間にまだいらっしゃったんですか? ええ、やったわ。やりましたわ。しっかり噂の都市伝説をカメラに収めましたよ。ええ・・・え、すぐに? 記事差し替える? ホントですか?」
私は懇意にしている週刊誌の編集長に電話する。
意外とこういうオカルトめいた話は、週刊誌の読者は喜ぶものだ。
だからこそ写真も買ってもらえるというもの。
ましてやまさに旬の話題ですものね。
私は編集長に居場所を伝え、食事をしながら到着を待つ。
スクープを収めた後の食事は美味しい。
「やぁ、待たせてすまんすまん」
太って頭がややはげかかった編集長がやってくる。
「いえ、こちらこそご足労いただいて・・・本来ならこちらから出向くのが筋でしたのに。それにしてもこんな時間まで大変ですね」
時間はもう1時に近い。
「なに、編集部なんてこんなものさ。どこもブラックだよ。で、噂の馬鹿には遭えたのか?」
汗を拭きながら席に着く編集長。
「はい。こちらを」
編集長が店員を呼んで注文を済ませたところで、私はデジカメのデータを見せる。
「これは・・・ずいぶん鮮明じゃないか・・・うーむ・・・うーむ・・・」
編集長がデジカメの写真に見入っている。
何せ都市伝説と言われた四月馬鹿ですものね。
夢中になるのも当然だわ。
「いやぁ、これは素晴らしいよ。想像以上だ。まさかこんなに鮮明な画像とはねぇ」
編集長がにんまりと笑みを浮かべている。
きっとこれなら記事差し替えでも充分と思っているのかも。
そりゃぁ、こっちも多少は危険な目を覚悟していたんですから、お金になってくれないと困るけど。
「ほら、よくあるじゃないか。正体不明のものを撮影したという写真。でも、大半はその撮影した写真も正体不明みたいなものばかりでさ」
確かに。
雪男なんだか登山者なんだかはっきりしないような写真とかあるものね。
「いやぁ、でもこれは違う。これなら充分に読者を惹き付けられるよ。むろんうちの社から賞金も出るに違いない。いや、うちだけじゃなく全世界の出版社から引き合いが来るに違いないよ」
そ、そこまで?
ああ・・・でもうれしい。
あの厳しい編集長がここまで今回褒めてくれるなんて。
この写真がきっかけで私自身の名が売れれば・・・
ああ・・・カメラマンとして有名になれたら・・・
いけない・・・
舞い上がりすぎだわ。
少し落ち着かなくちゃね。
「お姉さん、お水のお替りください」
私は店員さんを呼んで水のお替りをもらい、一口飲んで心を落ち着ける。
うふふふ・・・
それでも自然に笑みがこぼれちゃうわぁ。
編集長いくらの値を付けてくれるかしら・・・
「それにしてもよく撮れている。俺様をずいぶんと素敵に撮ってくれているじゃないか。クククク・・・」
えっ?
私は水を飲むのをやめて編集長のほうを見る。
えっ?
向かいの席にはさっきまで編集長が座っていたはずなのに・・・
いつの間にか黒いコートを着て幅の広いつばの付いた帽子をかぶった・・・
ま・・・まさか・・・
「四月・・・馬鹿・・・」
私の手からコップが落ちる。
カターンと硬質な音を立ててコップがテーブルに転がり、中の水がテーブルを濡らしていく。
「お客様、大丈夫ですか?」
店員さんが慌てて私に声をかけてきたので、私は大丈夫ですと言おうとそちらを向く。
「ひっ!」
そこにはこの店の制服であるフリフリのドレスを着た馬の顔をして鹿の角を頭に生やした異形のものが立っていた。
「あ・・・あああ・・・」
「うふふふ・・・いけませんわ、お客様。気を付けていただきませんと。テーブルが濡れてしまいました」
「そ、そんな・・・いつから?」
「お客様が私たちの集まりを見に来ていた時からですわ。うふふふふ・・・」
「ああ・・・そんな・・・」
ばれていた・・・
ばれていたんだ・・・
最初から・・・
なんてこと・・・
「それでどうだった?」
「えっ?」
「その写真が金になることを信じただろ? もしかしたら著名になれるかもとも」
「あ・・・」
信じた・・・
私はすっかり信じてしまった。
四月馬鹿を編集長だと思い込み、その言葉に有頂天になり・・・
この写真が金になることも、もしかしたら有名になれるかもとも・・・
私はすっかり騙されてしまったんだ・・・
「うふふふ・・・馬鹿の世界にようこそ。歓迎するわ、新入りさん」
店員姿の馬鹿の言葉をきっかけに、私の躰が変わっていく・・・
指先が馬のひづめのように変化する。
肌も茶色の毛が覆っていく。
鼻づらも伸び、頭には角の生える心地よい重さを感じていく。
あは・・・
あはははは・・・
なんだかとっても気持ちがいい・・・
馬鹿になるってこんなに気持ちがよかったんだ・・・
どうしてもっと早く知らなかったのか・・・
偉大なる四月馬鹿様のしもべになる喜びを、どうしてもっと早く・・・
「クククク・・・今年最初のしもべの完成だ」
「はい、四月馬鹿様。私は四月馬鹿様の忠実なるしもべですわ」
私は席を立つと、脇にひざまずいて主様に頭を下げる。
「それにしても写真とはな。いい写真だったぞ」
「ありがとうございます。うふふふ・・・」
私はデジカメを手に取ると、四月馬鹿様の写真を消去する。
主様のお姿を写真などに残すわけにはいかないわ。
「いいのか?」
「はい。四月馬鹿様のお姿を写真に残すなどできませんわ。それに・・・うふふふふ」
どうしてかわからないけど、私のひづめの手でもこうしてカメラを持つことができる。
これからもこのカメラは私の相棒。
二人でともに・・・
「先ほどまでの私は写真とは真実を写すものと思ってました。でも違います。写真こそ、愚かな人間をだますのに最良のもの。人間はたやすく写真に写ったものを信じます。それはもうたやすく・・・うふふふ・・・」
そう・・・これからの私は写真を使って人間をだますの。
私の写真で多くの人間をだましてやるわ。
ああ・・・なんて楽しそうなのかしら・・・楽しみだわぁ。
私は舌なめずりをしながらカメラを構える。
まずはアイドルのスキャンダル写真でもでっち上げようかしら。
「ククク・・・四月一日は始まったばかりだ。たっぷり楽しんでくるがいい」
「「はい、四月馬鹿様」」
私は店員に化けていたもう一人の馬鹿とともに四月馬鹿様に一礼する。
さあ、お楽しみはこれからね・・・
うふふふふ・・・
END
- 2018/04/01(日) 21:00:00|
- 四月馬鹿
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