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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

遠吠え (前)

今日明日で10年更新達成記念&400万ヒット記念SS第一弾ということで、短編オリジナルSSを一本投下します。

タイトルは「遠吠え」

悪堕ちという面ではちょっと物足りないかもしれませんがお楽しみいただければと思います。
あと寝取られ注意です。

それではどうぞ。


遠吠え

「あなた・・・」
妻のサリーナが青ざめた顔をして俺を呼ぶ。
店の表に止まったピックアップトラックに、俺はなぜ妻が青い顔をしているのかがすぐにわかった。
俺は妻に店の奥に行っているように言う。
妻が店の奥に入るのとほぼ同時に、ピックアップトラックから降りてきた男が店の入り口を開けて入ってきた。

「いらっしゃい」
俺は努めてにこやかに出迎える。
一応客は客だ。
うちのような小さな雑貨屋では、来てくれる客は大事にするしかない。
もっとも、こいつ一人来なくなってもかまわないと言えばかまわないんだが・・・

男はカウンターに俺しかいないのを見て舌打ちをする。
そして店の奥の部屋に通じるドアを忌々しげに見つめていた。
がっしりした体格の男で、いかにも農場での力仕事をやっているという感じの男だ。
穿き古されたジーンズと色あせたシャツがその肉体を覆っている。

「今日は何をお求めで?」
「ん・・・ああ・・・」
俺には興味がないように一瞥をくれてくるだけ。
残念だったな。
あいにくお前の目的のモノは先ほど店の奥に仕舞ったばかりだ。
お前が帰るまで再び出すつもりはないよ。

男は少しの間何かを探すふりをして店の中をうろつき、妻が出てくるのを待っている。
だが、表に新たな車が止まった音が聞こえ、それが保安官事務所のパトロールカーだとわかると、棚から適当に二つ三つ商品を持って来た。
「1ドル45セントになります」
「・・・・・・」
男は無言で金を置く。
それと同時に、店に制服姿の保安官補が入ってきた。
少し恰幅のよい赤ら顔に広いつばが全周に広がったキャンペーンハットを被っている。
「よぉ!」
「いらっしゃい、ディブ」
にこやかに俺に手を上げてくる保安官補に、俺も思わず笑顔になる。
それと入れ替わるように、男は俺が紙袋に入れた商品をひったくるようにして受け取り、さっさとドアを開けて店の外へと出て行った。
ふう・・・やれやれだ。
ディブが来てくれて助かったよ。

「助かったよ、ディブ」
「ん? なんかあったのか?」
お目当ての商品を物色しながら俺のほうを向きもしないが、ディブはちゃんと俺の言葉を聞いている。
彼はこのあたりの郡保安官事務所の保安官補であり、この村の担当だ。
いつもお昼ごろにはうちに来て、妻の手作りのドーナツを買っていってくれるのだ。
「いや、さっきの客なんだがね」
「ああ、あんまり見かけん顔だな」
「二ヶ月ほど前に村外れの農場に越してきた連中の一人らしいんだが・・・」
「ああ、あそこの。それで奴がどうかしたのか?」
商品を棚から手に取り、抱えるようにして振り向くディブ。
おいおい、お菓子ばかりじゃないか?
「実は、うちの妻に色目を使うんで困っているんだ。いやらしそうな目つきで見つめてくるらしくて、妻が怖がってしまって・・・」
まるで舌なめずりでもするような表情で見てくるらしい。
俺が仕入れなどで外出していると、いつ襲われるかと恐怖さえ感じると言うのだ。
それでここ数日は妻には奴が来たときには店に出ないようにさせているんだが・・・
「なんだって? 奥さんにか? そいつはけしからんな」
ディブの表情が険しくなる。
「ああ・・・」
「よしわかった。今度巡回に行ったときに俺がそれとなく言っておいてやろう。ところで」
ディブの目がカウンターに釘付けになっている。
「俺が楽しみにしていたドーナツが無いのも、奴のせいなのか?」
「ああ、こりゃすまない。おーい、サリーナ。ディブにドーナツを」
俺は店の奥に声をかける。
今日は午前中に客が多かったせいで、ドーナツは予定の数が出てしまったんだ。
もちろんディブの分はちゃんと妻が取っておいてあるはずだが。

「いらっしゃい、ラウエルさん。はい、ドーナツ。揚げたてよ」
店の奥から妻が湯気の立つドーナツを持ってくる。
「いやぁ奥さん、ありがとう。この店のこいつを食べないと昼を食った気がしないんでね」
ディブがにこやかにドーナツの包みを受け取る。
俺は会計を済ませると、店から出て行くディブを見送った。
彼が今回のことを気にしてくれるのであれば、何とか問題は済みそうだ。
俺は妻にそのことを言って、安心するように言ってやった。

                   ******

ディブがあの男に何か言ってくれたおかげなのか、あれから男は店に姿を見せなくなった。
売り上げ的にはほんのほんのちょっとだけ落ちたが、もとより気にするほどのことではない。
むしろあの男が来なくなったことで、妻も気が楽になったらしく、にこやかに接客をしてくれている。
ディブは毎日のようにドーナツを買いに来てくれ、妻も作る張り合いがあるらしい。
ありがたいことである。

                   ******

ん?
何だ?
俺はふと夜中に目が覚めた。
何か、物音か気配のようなものを感じたのだ。
いったい・・・

「ゴフッ!」
ベッドから躰を起こしたところいきなり頭に衝撃を受ける。
「うっ、ううっ・・・」
必死に遠くなりそうな意識を引き戻し、何事が起きたのかを確認しようとする。
「あっ、いやっ! 何を! やめてっ!」
サリーナの声だ!
くそっ、何がどうなっている?
暗くてよくわからん・・・
俺は窓のカーテンを乱暴に開く。
月明かりが煌々と差し込んできて、室内が少し明るくなる。
「あっ、お、お前は!」
見ると、隣のベッドから妻を抱えあげた男が立っていた。
しばらく店に顔を見せなかったあの男だ。
「貴様! 妻に何をする!」
俺は男に怒鳴りつける。
くそっ、後頭部がずきずきして躰が思うように動かない。
男は妻の気を失わせたのか、ぐったりとした妻を抱きかかえながら、俺のほうを見て笑みを浮かべる。
「この女、気に入った。俺のものにする」
「なんだ・・・と」
何を言ってるんだ、こいつ!
「ふざけるな! 妻を置いて出て行け! さもないと・・・」
俺はベッド脇のチェストに目をやる。
あそこには拳銃があるのだ。
拳銃さえ取り出せれば・・・

「ふっ」
男は俺に一瞥をくれると、もはや眼中にないとでも言うのか、妻を抱えたまま後ろを向く。
そのままこの部屋を出ようというのだろう。
そうはさせるか!
俺はチェストに飛びつき、拳銃を取り出そうとした。
「うがっ!」
引き出しを開けようとしたその瞬間、俺は再び背中に強烈な痛みを受ける。
「な・・・」
床に崩れ落ち、急速に意識が遠くなる中で、俺は何が起こったのかを確認する。
「兄さん、こいつ殺さなくていいの?」
「かまわん。この女を奪い返しに来ることもあるまい。行くぞ、イザベラ」
「OK」
閉ざされていく視界の中で部屋を出て行く男女。
まさかもう一人いたとは・・・
まったく気がつかなかった・・・
サリーナ・・・
すぐ・・・助けに・・・行く・・・

                   ******

「う・・・」
頭がずきずきする。
起き上がるとふらふらする。
もう朝・・・いや、昼近いじゃないか。
なんてこった。
サリーナを・・・サリーナを助けに行かなきゃ・・・
俺はふらつく脚をなだめながら、店に出る。
ちきしょう!
サリーナに手を出したら撃ち殺してやる。
と、いかんいかん。
拳銃を忘れるところだった。
俺は部屋に戻ると、チェストから拳銃を取り出し、予備の弾もポケットに入れる。
六連発の回転弾倉式拳銃なので、予備の弾はそう使うことはないだろうが、用心に越したことはない。

俺は家を出ると、車のエンジンをかける。
やつは確か郊外の農場だったな。
待ってろサリーナ。
俺は車に乗り込むとアクセルを踏む。
いつものように調子よく走り出す車。
20世紀の偉大な発明品だ。
馬なんかよりもはるかに早い。

農場に向かって車を走らせていると、向かい側から一台の車が土ぼこりを立てながら走ってくる。
ありがたい。
あれはディブのパトロールカーだ。
昼近くなったので、俺の店に来るつもりなんだ。

俺は窓から手と顔を出してディブの車を呼び止める。
ディブもすぐに気づいてくれたようで、車を止めてくれた。
「よう、オスカー。急いでいるようだがどこへ行くんだ」
「ディブ、いいところに来てくれた。大変なんだ。いっしょに来てくれ」
俺は窓から顔を出したディブに、いっしょに来てくれるように頼み込む。
妻を取り戻すのに、これ以上はない援軍だ。
あいつら、誘拐犯としてディブに突き出してやる。

「どうした? 何があったんだ?」
俺の切羽詰った表情に、ディブも気がついてくれたのか、彼の表情も真剣みを帯びる。
「あいつが、あいつが妻を連れ去ったんだ。妻があいつに連れて行かれた!」
「何? 奥さんがどうしたって?」
「農場のやつだ。あの男が昨晩俺の家に押し入って、妻を連れて行ったんだよ!」
「何だって? 本当か?」
保安官というものは何でも疑わないと気がすまないのか?
こんなときに嘘を言ってどうなるというんだ。
「嘘じゃない! 本当だ! 早くしないと妻が!」
「わかった。連れて行ったのは農場のやつで間違いないんだな?」
「間違いない。顔もしっかり見た。妹だかもいっしょにいた」
「よし、ついて来い」
ディブはパトロールカーをUターンさせると、そのまま俺の車の前を走って先導する。
ありがたい。
俺はすぐに車をディブのパトロールカーの後ろにつけて走らせた。

農場は寂れた感じで静かだった。
ディブと俺はパトロールカーと車を適当に止め、外に出る。
ディブはパトロールカーからライフルを取り出した。
俺も拳銃をズボンのベルトに刺し、ディブのあとについていく。
「まあ、まずは俺が話をして、奥さんがいるかどうか確かめる。君は落ち着いて何もするな。いいな」
ディブが俺にそういうのを、俺は素直にうなずく。
とにかく妻さえ無事なら、あとはディブに任せればいい。
誘拐だろうが住居侵入だろうが悪いようにはされないだろう。
ここのやつらも出て行くに違いない。

「エランドさん、トニー・エランドさん」
農場の一角にある住宅の入り口をたたくディブ。
「いないんですか? エランドさん」
何度かドアをノックするも返事がない。
ガレージには店に来るときに乗ってくるピックアップトラックがあるので、いるとは思うのだが・・・
「エランドさん! 保安官だ! 聞きたいことがあるんだ! いないのか?」
返答がないことにディブもだんだんといらだってきたようだ。
「くそっ」
そういってドアノブをまわすディブ。
「ん?」
すると、ドアは何の抵抗もなく開いた。
「開いている?」
思わずディブは俺のほうを向き、二人で顔を見合わせる。
「こうなったらとにかく入ってみよう。何かあったのかも知れん」
ディブはそういってドアをさらに開け、中に入る。
俺もそのあとに続き、家の中に入ることにした。

(続く)
  1. 2015/07/17(金) 21:22:38|
  2. 異形・魔物化系SS
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Author:舞方雅人
(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
どうぞ楽しんでいって下さいませ。

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