今日は4月1日、エイプリルフールですねー。
というわけで、わがブログにもあのお方が四年連続で登場です。
それではお楽しみくださいませー。
「だまされた・・・」
心の底からそう思う。
お母さんも塾の講師も学校の先生も、みんなみんな嘘つきだ。
みんなして私をだまし続けたんだ。
志望校合格疑いなしですって?
絶対合格間違いなしですって?
100パーセント合格するよですって?
嘘・・・
みんな嘘。
落ちたじゃない!
試験に合格しなかったじゃない!!
私はだまされた。
みんなで私をだましてきたんだ。
赦せない。
絶対に絶対に赦さない!
「彩華(あやか)、こんな時間にどこへ行くの?」
「・・・」
私は無言で家を出る。
あんな家になど居たくもない。
お母さんだって、今まで私をだましてきたことを知られたからおどおどしているんだ。
今までは私がだまされているのを見て笑っていたに違いない。
みんなみんな大っ嫌い。
もう夜か・・・
三月も今日で終わり。
明日からは四月。
本当なら憧れの高校の入学式を指折り数えて待っているはずだったのに・・・
悔しい・・・
悔しい・・・
試験なんて無ければいい。
それ以上に、無責任に合格間違いなしなんて嘘をついてきた連中が赦せない。
そんなこと言われなければ、もっとしっかりがんばったかもしれないのに・・・
わかってる・・・
自分が一番悪いのなんてわかってる・・・
でも・・・
でも・・・
悔しいよぉ・・・
******
「あれ?」
あてども無くふらふらと歩いていた私。
気が付くとあたりはもう人通りも途絶えている。
時計を見るともう深夜。
日付も変わって4月1日になってしまっている。
いつの間にこんなに時間が経ってしまったんだろう・・・
あたりをぶらついて、ファストフードショップで食事して・・・
もやもやしながらうろついていたんだっけ・・・
ここは?
どこだろう・・・
広い公園。
うちの近くにこんな公園あったっけ?
それとも予想以上に私がふらふらと歩き回っていたということなのかな?
街灯が照らし出す人気(ひとけ)の無い公園。
木々の陰が真っ暗で不気味この上ない。
一陣の風に私は思わず身震いする。
春とはいえ、まだ夜は寒い。
帰りたくは無いけど、そろそろ家に帰らなきゃ・・・
「ん?」
なんだろう・・・
話し声が聞こえる。
それもなんだか女性の声のような・・・
なんだろう・・・
なんだか気になって、私はその声のほうに近づいた。
「本当なんですよね? あの言葉に嘘はないんですよね?」
街灯に照らされたベンチのあたりに二人の人影が見える。
一人はスプリングコートを羽織った中年の女性。
どこかで見たことがあるような気が・・・
もう一人は黒いコートにつば広の帽子を目深にすっぽりかぶっている人。
おそらくは男性。
もしかしてなにか揉め事かな?
聞いちゃいけないかな?
そんなことを考えて立ち去ろうとした私は、その女性のことをふと思い出す。
あ・・・
小学校のとき担任だった矢坂(やさか)先生だ。
いい先生ではあったけど、ちょっとヒステリックなところがあって私は苦手だったっけ・・・
お元気そうで何よりってことなのかしらね。
私は矢坂先生に間違いないか確かめようと、物陰から再度その女の人の様子を伺った。
「俺の言葉を信じたんだろ? 信じたからこそこんなところまでのこのこ付いてきたんだろう?」
「そ、それはそうですけど・・・」
うつむいている矢坂先生。
あの横顔は間違いないと思う。
「ひ・・・ひ・・・ひひゃははははは・・・バーーーカ! どこの世界にお前のような女を抱いて出世させてやるような偉いさんがいるんだよ!」
黒コートの男が突然笑い出す。
「な? 嘘だったんですか?」
驚いたように目を見開いている矢坂先生。
「嘘に決まっているじゃないか! あんな酒の席で教頭になりたい教頭になりたいって言ってるからからかったのさ」
「ひどい! 私はもうずっと教頭になりたいのになれなくて・・・だから・・・だからあなたの言葉を信じたのに!」
大声で相手を怒鳴りつける矢坂先生。
あー・・・
矢坂先生は出世思考だったもんね。
昔から校長になって自分の考える教育をしたいって言ってたもんね。
「ひーっひっひ・・・そうさ、お前は信じてしまったのさ、俺の言葉をな。四月一日だというのにな」
「し、四月一日? そんな・・・ふざけないで! バカにして、訴えてやる!」
ヒステリックに叫んでいる矢坂先生。
あれさえなければ見た目結構美人なのにな。
私はなんとなくおかしくなる。
必死に教頭になりたがった矢坂先生が、見事にあの男の人にだまされたということらしい。
それがなんだか滑稽に見えたのだ。
「ひーっひっひ・・・バーカ! もう遅いんだよ」
「もう遅い? どういうこ・・・うっ」
「えっ?」
私は驚いた。
突然矢坂先生が躰を硬直させたのだ。
そして、頭から角のようなものがにょきにょきと生えてきたのだ。
「えっ? な、何? 何なの?」
矢坂先生が戸惑っている。
でも、その間にも矢坂先生はだんだん変なものに変わっていく。
着ているものが裂け、顔が細長く伸びて馬のようになっていく。
手も指がなくなってひづめのような形になる。
肌にも茶色の毛が生えてくる。
いったい・・・いったい何なの?
先生に何が起こったの?
「ああ・・・ああ・・・私が・・・私は・・・」
「クックック・・・お前は馬鹿(うましか)になるのさ。人間どもをだまして喜ぶ妖怪馬鹿。俺様のしもべになるんだ」
黒コートの男がそういって帽子を取る。
そこには大きな鹿の角を生やした馬の顔があった。
そしてその帽子を取った手も先が馬のひづめのようになっていたのだ。
そんな・・・
化け物だったなんて・・・
「あは・・・あははは・・・」
なぜか矢坂先生が笑い始める。
その姿はもう以前の矢坂先生の姿とは大違い。
黒コートの化け物と同じような鹿の角を生やした馬面に、ひづめの生えた手足をして、茶色の毛に覆われた躰になってしまったのだ。
「すごい・・・気持ちいい・・・なんて素敵なのかしら・・・あはははは」
化け物になってしまった矢坂先生がくるくると回っている。
なんだかすごくうれしそうだわ。
「クックック・・・どうだ、妖怪馬鹿に生まれ変わった気分は?」
「はい、最高ですわぁ。私はもう人間なんかじゃありません。四月馬鹿様にお仕えする馬鹿のメスですわ。どうぞ何なりとご命令を」
とてもうれしそうに黒コートの化け物にひざまずく矢坂先生。
ううん・・・
矢坂先生はもう黒コートの化け物と同じ化け物になってしまったんだ。
確か妖怪馬鹿って言ってたっけ・・・
「クックック・・・それでいい。お前は妖怪馬鹿。人間どもをだまして社会を混乱させてやるのだ」
「はい、もちろんですわ。愚かな人間たちをたっぷりとだましてやりますわ。おほほほほ」
化け物になってしまった矢坂先生はそういって高笑いをすると、いそいそと楽しそうにどこかへ行ってしまう。
私はただあっけにとられてその後姿を見送った。
******
「ケッケッケ・・・あのメスはなかなか活躍してくれそうだ。さて、次のバカを探しにいくか・・・」
「待って!」
立ち去ろうとした黒コートの化け物を私は思わず呼び止める。
そして、その行動自体を私自身が驚いた。
なぜ?
どうして?
どうして私は呼び止めたの?
「ん? ああ、さっきからのぞいていた小娘か。どうせ誰かに俺様のことを言ったところで信じてもらえないだろうからと放置しておいたんだが、なにか用か?」
ぎろりと私をにらみつけてくる黒コートの化け物。
「あなた・・・何者なの? 先生を・・・あの女の人をどうしちゃったの?」
私も負けずににらみ返しながらそうたずねる。
そんなことを聞きたいんじゃない気もするけど・・・
「先生? あの女は知り合いか? クックック・・・あの女はな、俺様の言葉をまともに信じた愚か者さ。だから、俺様の魔力で妖怪馬鹿にしてやったのさ。この俺様のしもべにな」
「妖怪馬鹿?」
「そうだ。俺たちの姿を見た人間どもは、勝手に俺たちのことを馬なのか鹿なのかと区別しようとして混乱し、簡単にだまされてしまうのさ。まさに人間をバカにしてやるわけだ。クックック・・・」
馬がいななくような奇妙な笑い声を上げる黒コートの化け物。
いや、妖怪馬鹿だったっけ。
その姿がなんとなく面白い。
ああ・・・そうか・・・
私が彼を呼び止めたのは、そのまま消え去って欲しくなかったからだ・・・
親にも先生にも塾の講師にもだまされてきた私。
だから・・・
だから今度は私がだましてやりたい。
そのために・・・
「だったら・・・」
「あん?」
「だったら私も・・・私も馬鹿にしてください」
私は勇気を出してお願いする。
「何? 馬鹿になりたいだぁ?」
目を丸くして驚いている馬鹿。
「はい。私は今まで散々だまされてきました。だから今度は私が人々をだましたい。だまされる人たちを見てあざ笑ってやりたい!」
「お前・・・自分で何を言っているのかわかっているのか?」
「たぶん・・・」
私はこくんとうなずく。
矢坂先生を馬鹿にしたのなら、私も馬鹿にできるはず。
「馬鹿になってしまったら、もう人間には戻れないんだぞ。一生俺様のしもべとして仕えることになるんだぞ」
「はい。覚悟してます。馬鹿の王よ」
私は多少芝居がかったしぐさでスッとひざまずく。
これからは彼に従うのだ。
彼を馬鹿の王として崇めるのだ。
「クハッ、こいつは面白い。長年生きてきたが、自ら馬鹿になりたいなんて言ってきたやつは初めてだ。うひゃはははは・・・」
大声で笑い始める馬鹿の王。
「えっ? えっ?」
腹を抱えて笑われていることに私は戸惑う。
そんなに笑わなくても・・・
「ひぃーっひっひっひ・・・いいだろう。お前を馬鹿にしてやるよ」
「本当ですか?」
「ああ、本当だ」
「ありがとうございます」
うれしくなって私は思わず頭を下げる。
馬鹿の王様、ありがとうございます。
「それじゃいくぞ。深呼吸して馬鹿になりたいと念じるんだ」
「はい」
私は言われたとおりに深呼吸をして、馬鹿になりたいと心の中で念じる。
馬鹿になりたい・・・馬鹿になりたい・・・馬鹿になりたい・・・
「あ・・・れ?」
私・・・変わったのかな?
でも服もそのままだし、手も指先がひづめに変わった様子もないし・・・
全然変わった気がしないよ・・・
「うひっ・・・うひひひ・・・ひーっひっひっひっひ・・・」
またしてもけたたましく笑い始める馬鹿の王。
「ど、どういうこと? 馬鹿になってないんですけど・・・」
「ひーっひっひっひっひ・・・バーーーカ! 馬鹿になれるわけなんかないだろ」
意地悪そうに歯をむき出して笑っている。
「そ、そんな・・・嘘、嘘でしょ?」
「ひーっひっひっひ・・・ああ、嘘だよ。お前はだまされたのさ。この四月馬鹿様にな。ひーっひっひっひ」
「だまされた? 私、まただまされたの?」
私は呆然としてしまう。
まただまされたというの?
「ひーっひっひっひ・・・誰がお前のような小娘の願いなんか聞いてやるかっての。お前なんか俺様のしもべになれるわけが無いだろ。ひーっひっひっひ・・・ひ?」
私を見て笑っていた馬鹿の王の笑いが止まる。
「えっ?」
私は驚いた。
私の両手がみるみると茶色の毛が生えて馬のひづめのように変わってきたのだ。
これって?
私・・・馬鹿に変わってきている?
「バ、バカな! 俺様はこいつを馬鹿にするつもりなどないぞ! なのになぜお前は馬鹿に変わっていくんだ?」
馬鹿の王の驚きをよそに、私の躰はどんどん馬鹿に変わっていく。
服がぼろぼろと崩れ、肌には短い茶色の毛が生えてきて、鼻面が伸びて馬のような顔になっていく。
頭の両脇からは鹿のような大きな角が生え、足にもひづめが生えてくる。
こっちは先が二つに割れた鹿のひづめだ。
まさに私の躰は馬と鹿の融合した馬鹿になっていくのだ。
「し、しまったぁ・・・俺様は・・・俺様はなんてことをしてしまったんだ・・・俺様はこいつに馬鹿にしてやるという嘘をついた。それを信じたこいつは俺にだまされた。俺にだまされたことでこいつは馬鹿になってしまうのだ」
両手のひづめで頭を抱えている四月馬鹿様。
そうか・・・そういうことだったのね。
私がだまされたことで、私は馬鹿に変わるんだわ。
なんてうれしいのかしら。
最高の気分だわ。
「こいつが馬鹿になる・・・すると俺様はどうなる? 俺様は本当のことを言ってしまったことになる。嘘で人間をだまし馬鹿にしていく俺が本当のことを言ってしまったことになる・・・」
「四月馬鹿様。ありがとうございます。おかげで私は馬鹿のメスになることができました」
私は生まれ変わった自分の姿に満足し、思わずくるくると回ってしまう。
なんだかとっても気持ちがいいわぁ。
「うああ・・・やめろ、やめろぉ」
あれ?
どうしたのだろう?
四月馬鹿様が愕然としている。
生まれ変わった私を見て震えている?
「俺様としたことが・・・俺様としたことがぁ・・・本当のことを・・・本当のことを言ってしまった。俺様の存在意義が・・・存在理由がぁ・・・うああ・・・」
「四月馬鹿様?」
私の目の前で姿が消えていく四月馬鹿様。
「消える・・・俺様が消える・・・俺様が嘘じゃないことを言ってしまったからだ・・・うああ・・・」
「四月馬鹿様!」
頭を抱えながら姿が薄れていく四月馬鹿様。
そんな・・・
せっかく馬鹿のメスに生まれ変わってお仕えするつもりだったのに・・・
「うああ・・・」
「四月馬鹿さまぁ!」
私の叫びもむなしく四月馬鹿様は消えてしまう。
あとには何も残ってはいなかった・・・
******
「ねえ、あなた。彼女が本当に風邪で寝ているだなんて思っているの?」
帽子をかぶってコートを着た私の突然の言葉にぎょっとする男性。
「はぁ? そ、そりゃそうに決まっているだろ」
「うふふふ・・・本当かしら? 今頃は別の男を部屋に引き込んでいると思うわよ。嘘だと思うなら見に行ってきたら」
「えっ? そ、そんな・・・」
私の言葉に男はいそいそと彼女の家へと向かっていく。
あはははは・・・
バーカ!
こんな他愛もない嘘にだまされちゃって。
彼女の家に行ったらだまされたことに気が付くでしょうね。
それにしても人間なんてもろいもの。
ほんのちょっとしたことで疑心暗鬼を生じちゃう。
なんて楽しいのかしら。
人間をだますのは最高。
馬鹿に生まれ変わって本当に良かったわぁ。
これも四月馬鹿様のおかげね。
私は来年の四月一日にまた四月馬鹿様が復活されることを夢見て、人間どもをたっぷりとだましまくろうと心に決めたのだった。
END
- 2013/04/01(月) 21:00:00|
- 四月馬鹿
-
| トラックバック:0
-
| コメント:6