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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

しずく(6)

2500日記念SS「しずく」も六回目になります。

楽しんでいただけているのかはなはだ不安ではありますが、よろしければどうぞ。




「痛ててて・・・」
気が付くと俺は両手と両足を粘着テープのようなもので後ろで縛られ、「ガムボール」の船倉の片隅に転がされていた。
必要最低限の明かりしか点いていない船倉内なので薄暗い。
やれやれ・・・
宇宙服だけは脱がせてくれたらしいな。
インナースーツ姿なのでちょっと肌寒く感じる。
その場で殺されなかったのは良かったが、これではどうしようもないな。
せめて手足の拘束だけでも解かなくては。
そう思ってしばらくじたばたしていると、通路に通じているハッチが開く。
そこから通路の明かりが漏れて人影が入ってきたのに気がついた。

もしかして俺を殺しに来たのではないか?
そう思って俺は緊張に躰を固くする。
「だれだ?」
俺がそういうと、入ってきた人影もびくっとしたようだ。
「き、気がついていたんですね?」
そう声がして明かりが点けられる。
やってきた人影を見て俺は別の意味で驚いた。
てっきり妹のほうだと思ったのに、入ってきたのは姉のほうだったのだ。
しかも躰のラインにフィットした宇宙服のインナースーツ姿である。
俺はこんな状況にもかかわらず胸が高鳴ってしまった。

「妹が手荒なことをしてごめんなさい。痛みはありませんか」
俺のそばにやってくる姉。
持っていたものを手近なコンテナの上に置き、そのまましゃがみこんで俺の後頭部に手を当てる。
「痛たた」
「あ、ごめんなさい」
あわてて手を引っ込める。
「本当にごめんなさい。でも、あの星を出るにはこうするしかなかったんです。赦してください」
彼女がぺこりと頭を下げる。
どうにも俺は彼女を憎むことはできそうにないな。

「理由を聞かせてくれないか? あの星を脱出したかった理由を」
とりあえず彼女たちが何者で、どうして俺の船を乗っ取ったか知りたいところだ。
「はい・・・私がすべての原因なんです・・・」
「原因?」
「はい。私はプルガトリィの信仰心教育施設で信仰心教育を受けていたんですが、妹が言うには施設で行われているのは教育でもなんでもない、あそこはバホート神に盲従する人間を作り出すための洗脳施設だというのです」
「洗脳施設?」
俺はすぐにあの“しずく”のことが脳裏に浮かんだ。
確かにあれを使えば洗脳とも呼べるレベルで人間の思考を変化させることもできるだろう・・・

「ええ、私も以前はそう思っておりました。実は私は以前バホート神にささげられる処女として選ばれたことがあったんです」
「神に選ばれた処女?」
「そうです。バホート神に対して感謝をささげ、大地の恵みをお祈りするために神官の方々に処女をささげるのですが、私はどうしてもそれがいやだったので、何とか別の人に代わってもらいたいと思っておりました」
なるほど・・・
いい年をした男ども相手に処女をささげるのは願い下げというわけだ。
「でも、私の両親はこんな名誉なことを辞退するなんてけしからんといい、私を神殿に連れて行きました。妹も私を何とか助けようとしてくれたのですが、こともあろうに政府に反抗的なバホート神に対する信仰心を持たない人たちに助力を頼んでしまったみたいで・・・」
「ふむ・・・」
「妹たちは私を助けようと神殿に来てくれました。ですが、神殿警護隊の方々と戦いになってしまって・・・結局私は選ばれた処女としてはふさわしくないということになり、神にささげられることはなくなりましたが、信仰心が不足しているということで再教育を命じられ、このプルガトリィの施設に送られてきました」
「妹さんも一緒に?」
「いいえ、あの娘は最後まで私を助けようとしてくれたんですが、神殿警護隊の方々との戦いで怪我をしたらしく、助力を頼んだ方々が連れ帰ったそうです。それが今回、その方々と一緒にここまで私を助けに来てくれて・・・」
そこまで言って彼女はちょっと困ったような表情をした。
もしかして、彼女は助けられたことがうれしくないのだろうか・・・

「あの娘は変わってしまいました。やさしい娘だったのに・・・銃を使って人を傷つけるなんて・・・」
「あんたを助けるためだったんだろう・・・」
「それは・・・ありがたく思います。でも、バホート神に対する信仰心をかけらも持たないような人たちと行動し、神殿にも政府にも反抗するなんて間違ってます」
「だが、あんただって処女をささげるよなことはしたくなかったんじゃ?」
「あの時はそう思いました。でも、教育施設でみんなと一緒に規則正しい暮らしをして神のお言葉を教えていただいていたら、私が間違っていたと思うようになってきたんです。バホート神に処女をささげるのはとっても名誉なことだったのに・・・」
俺は確信した。
彼女にはあの“しずく”が使われたんだ。
だから考えが変わったんだろう。
「一つ聞きたいんだが」
「なんでしょう?」
彼女が顔を上げる。
まるで吸い込まれるかのような綺麗な瞳だ。
「プルガトリィの教育施設ではこう何か病気の予防注射のようなものは受けなかったか?」
「・・・・・・いいえ、受けませんでした」
しばし考えてから彼女は答える。
注射ではないのか?
もしかすると食事か何かに混ぜての経口摂取かも・・・
確かに俺みたいに原液をそのまま注射するのは問題があるか・・・

「あ、ごめんなさい、話ばかりして。お腹すいていませんか?」
彼女がコンテナに置いたトレイを取り上げる。
「本当はあの娘に拘束を解いてはだめって言われているんだけど・・・」
そういって彼女は俺にそばにトレイを置き、俺の両手の粘着テープをはがしてくれた。
「ありがとう。俺はミシェル・ダルドー。帝国の人間だ。君の名前は?」
「私は・・・」
彼女が一瞬言いよどむ。
極力俺と話したりしないように妹に言われたのかもしれない。
「私はヴラニカ・リリフォスといいます」
意を決したかのように名乗る彼女。
おそらく偽名なんかではないだろう。
「よろしく、リリフォスさん」
「ヴラニカで結構ですわ」
俺がそういうと、彼女はにこっと微笑んだ。

そのあと俺は彼女の持って来てくれた食事を食べ、少し話した。
彼女の妹はリヴァーナという名前らしい。
今はこの船のコンピュータで操船方法のマニュアルを読んでいるという。
操船方法をマスターすればあの男はもう要らないと言っているらしいというのが気がかりだが、そう簡単に宇宙船の操船がマスターできるとも思えない。
だが、少なくとも妹のほうは俺を始末しようとしているのは確かだろう。
何とかしないと殺されてしまうかもしれない・・・

と、そこまで考えて俺は手にしたサンドイッチを見つめた。
一瞬怪訝そうな顔をしたヴラニカが、やがて笑みを浮かべる。
「大丈夫ですよ。毒なんて入ってません」
「あ・・・いや・・・」
そんなことを考えたのではないのだが、彼女に見つめられて気恥ずかしくなる。
それに、俺もそうだが彼女も宇宙服のインナースーツ姿なので、自然と躰のラインが現れ、目のやり場に困ってしまうのだ。
「あの娘には私からも言って聞かせます。これ以上人に迷惑をかけるわけには行きません。私たちは別の星系に着いたらそこで降りますから」
「ああ・・・うん」
俺はそういったが、はたして妹の方が素直に俺を解放するだろうかと思う。
むしろ二人のことを知るものとして始末しようとするんじゃないのか?
そう考えてもおかしくないだろう。
彼女にとっては俺は信用できない人間のはずだからな。
やはり何とかしてこの船のコントロールを取り戻さなくては・・・

食事を終えたあと、申し訳なさそうに再度俺の手を拘束しようとしたヴラニカに、俺は必死で懇願する。
ここで両手を拘束されるとこの船のコントロールを取り戻すことが難しくなる。
だから、なんとしても拘束だけは避けたかったのだ。
俺は、ヴラニカに生理的欲求のことや体力消耗のことなどを訴え、船倉と通路をつなぐハッチに鍵をかけていいから、拘束だけはやめてほしいとお願いした。
ヴラニカはしばし考え込んだあとで、わかりました、妹にはナイショにしておきますからといい、拘束することはやめてくれた。
そして緊急用の携帯トイレを俺の部屋から持ってきてもらうと、ハッチに鍵をかけて出て行った。

船倉に一人取り残された俺は、少し様子を伺いつつ静かにする。
もしかしたら妹の方が姉と入れ替わりに俺の様子を確かめに来るかもしれないからだ。
しばらくしてその様子がないことを確かめた後、俺は船倉内を何か使えそうなものはないかと調べ始める。
ここは船内に二階層あるうちの上段の船倉。
ピューリティから積んできたものの大半がここに置かれている。
一階層下の船倉には、可変増加タンクが半分ほど場所を占めているので、隙間のあるこっちに俺を押し込めたのだろう。
さて、武器になりそうなものは何かないのか・・・
せめてあの拳銃に対抗できるものが何かあればいいが・・・

「ふう・・・」
俺はため息を付く。
わかってはいたことだが、やはり武器になりそうなものは一つもない。
そりゃあ、投げつければそれなりのダメージを与えるだろうというものはいくつもあるが、相手を確実に倒せるようなものではないし、やはり拳銃を持つ相手に使うには不適当だ。
だいたいがピューリティから積んできた物は、どうやらその教育施設とやらで使われる日常品ばかりで、食料品や生活物資ばかりなのだ。
生活には困らないが、戦えるものではない。

「医薬品のトランクか・・・」
まだ開けていないトランク。
大きさは1トンほどだろうか。
さすがに通常のコンテナとは大きさが違う。
日常品のように大量に必要となるわけではないからな。

「睡眠薬でもあれば・・・」
俺はそう思い医薬品のコンテナを開ける。
以前は危険性を考えたが、日常品と一緒に危険物を運ぶ可能性は低いだろう。
また、危険物が入っているとしたら、コンテナを開けるだけで危険になるような積み方もしないだろう。
そこまで考えて俺はハッとした。
そういえば、エイリア女史は“しずく”が・・・と言っていたな。
もしかするとこの中には“しずく”が入っているのかもしれない。
もし、この中に“しずく”が入っているとしたら・・・

コンテナの中には幾種類かの薬剤が入っていた。
ほとんどは錠剤であり、一般的な総合感冒薬から胃腸薬、痛み止めなど帝国内でもよく見られるものばかりだ。
俺は偵察局にいたときに医療の資格も取っていたので、これらの薬がどんなものかは大体わかる。

ほかにはいくつかの機材と液状薬剤が少々。
機材は使い捨てのレーザーメスや無針注射器などの医療器具。
液状薬品もだいたいはどのようなものか見当の付くものばかりだが、一点だけよくわからないものがあった。

「イドロシス・・・」
それがその薬剤の名前だった。
注射でも経口摂取でも使用可能。
成分は人間の精神に影響を及ぼすとされるものがほとんど。
おそらく間違いないだろう。
これがドッジの言っていた“しずく”なのだ。

手が震えてくる。
いいのか?
これを使うということがどんなことかわかっているのか?
相手の精神をゆがめ、自分に都合のいい考えを植えつける。
そんなことをしてもいいのか?
どう考えても犯罪ではないのか?

俺はイドロシス剤をそっと戻す。
ほかの方法を考えよう。
こんな方法がいいわけがない。
何か別の方法があるはずだ。
それに、何も殺されると決まったわけじゃない。
どこかの星で降ろされるかもしれないじゃないか。
彼女たちだって人殺しはしたくないはずだ・・・

・・・・・・だが、本当にそうか?
あの妹はピューリティ連合政府に反抗してきたんだぞ。
おそらく何人かの人間を傷付けたりしているはずだ。
もしかしたら殺してさえいるかもしれない。
目的のためには手段を選ばない女だ。
現に今だってプルガトリィを脱出するために俺の船を奪い、俺を監禁しているじゃないか。
それに俺はバイザー越しとはいえ彼女の顔を見ている。
そんな人間を黙って無事に解放してくれるだろうか・・・

それに・・・
もし無事に俺が解放されたとしても、彼女たちとはもうそれっきり二度と会うことはないだろう。
そう思うと俺は胸がキューッと痛む。
ヴラニカ・・・
彼女と会えなくなってもいいのか?
わずか小一時間しゃべっただけなのに、俺はもう彼女のことが気になって仕方がなかった。
彼女ともっと話をしたい。
彼女と仲良くしたい。
彼女の笑顔をもっと見ていたい。
いや、彼女を手に入れたい。

俺が殺されても解放されても俺は彼女と会うことはできなくなる。
そして彼女は、別の星で誰か別の男と知り合い恋に落ち・・・

俺は首を振った。
そんなことは許されない。
彼女がほかの男のものになるなんて耐えられない。
それぐらいなら彼女を殺してしまったほうがいいぐらいだ・・・

俺は仕舞ったばかりのイドロシス剤、通称“しずく”を取り出した。
これがあれば・・・
これを使えば彼女の心を俺のものにすることができる。
これを使って彼女を俺のものにするんだ。
彼女は俺のものだ。

俺は無針注射器を取り出すと、“しずく”を注射器に流し込む。
一度自分に使われただけで、他人に対して使ったこともない薬を果たして適量に合わせることができるのか?
もうこれは勘でしかない。
あの時打たれた分量はたぶんこれぐらいだ。
俺が打たれたのは原液と言っていた。
だから、これを直接注射したはずだ。
もし・・・
もし失敗したら・・・
そのときはそのときだ。

俺は“しずく”を入れた注射器を隠し持ってそのときを待つ。
心臓がどきどきして破裂しそうだ。
思いとどまるなら今のうちだと言う気持ちと、これをやらなければきっと後悔するという思いが複雑に交錯する。
ああ・・・
神様・・・
どうかうまく行きますように・・・

どれくらい時間が経っただろうか・・・
通路につながるハッチが開いて人影が入ってくる。
俺はできるだけ気取られないように振舞おうとしたが、入ってきた人物を見て凍りついた。
「な、何で拘束が解かれているわけ?」
入ってきたのは妹のほうだったのだ。
確かリヴァーナという名前だったか。
「クッ」
俺はどうしたものかと一瞬躊躇する。
この躊躇が俺のチャンスを奪ってしまった。
「動かないで!」
持ってきたトレイを放り出し、すぐさま拳銃を俺に向けるリヴァーナ。
姉と同じくとても美しい顔立ちをしているが、その目は冷たく俺をにらみつけている。
俺はおとなしく両手を上げるしかなかった。

「グハッ」
腹部に強烈な蹴りを食らい思わず声が出てしまう。
拳銃を向けながら近づいてきた彼女に思い切り蹴られたのだ。
「油断も隙もないんだから! どうせ姉さんに甘い言葉をかけて拘束を解いてもらったんでしょ? 姉さんも甘いんだから」
床に転がった俺を再び蹴り飛ばしてくるリヴァーナ。
船倉の壁に叩きつけられ、俺はうずくまった。
「あんたなんかさっさと殺したいぐらいなのよ。とりあえず生かしているのは、姉さんが人殺しをしてほしくないって言うからなのと、何かあったときの人質として使えるからぐらいなの。わかっているの?」
リヴァーナは俺を踏みつけ、まるで汚いものでも見るかのような目で俺を見下ろしてくる。
「う・・・グ・・・」
蹴られた痛みで声がでない。
くそっ・・・
こいつはやはり俺を殺す気だ。
ちくしょう・・・

「私、男は大嫌いなのよね」
「ガファッ」
またしても蹴り飛ばされる。
「神官どもばかりじゃなく、革命派の連中も女と見れば欲望に股間のものをたぎらせて迫ってくるバカばかり。クラッテと一緒よ」
クラッテってのが何かは知らないが、きっとサルと同じだ的なことを言われているんだろう。
「バホート神にささげるだなんて言って姉さんを犯したいだけの連中。革命派だって姉さんを助けてやるからって私に迫ってきて・・・ムカつくったらありゃしない」
「グハッ」
何度目かの蹴りが入れられる。
くそっ・・・
このままじゃ本当に殺されかねない。

「男なんてみんなそう。欲望に目をぎらぎらさせてこっちがちょっと甘い顔をすれば付け上がって・・・」
「オウッ!」
立ち上がろうとしたところを蹴り飛ばされコンテナに叩きつけられる。
「あんただってそう。姉さんの顔を見たときのあんたの表情、姉さんをモノにしたいって顔をしてた。そうなんでしょ?」
「グッ・・・」
図星を突かれて言葉に詰まる。
確かに彼女をモノにしたいと思っているが、そこまで顔に出ていたのか・・・
「やっぱりね・・・姉さん美人だから無理ないけど・・・」
リヴァーナが再び俺に銃を向けてくる。
「いいわ。あんたはまだ殺さない。でもね、これを撃ち抜いてあげる」
俺はぎくりとした。
彼女の持つ拳銃の銃口は俺の股間を向いている。
彼女は俺の股間のモノを撃つつもりなのだ。

  1. 2012/05/26(土) 20:58:43|
  2. しずく
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Author:舞方雅人
(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
どうぞ楽しんでいって下さいませ。

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