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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

しずく(5)

2500日記念SS「しずく」も今日で五回目。
折り返し点をすぎました。

それではどうぞ。




ふと遠くで何かが光る。
突然宇宙服のヘッドセットがさまざまな会話で騒然となる。
空気が極微量しかないこの星では音は聞こえない。
当然会話は宇宙服の通信機を介することになるのだが、そこに大勢の怒声が飛び交い始めたのだ。
「な、なんだ?」
俺は突然のことに思わずそう口にする。
エイリア女史も戸惑っているようだ。

すると、見慣れた青白い光が近づいてくるのが目に入る。
あれは宇宙船を推進するスラスター駆動の発光だ。
標準星間前期レベルのテクノロジーで製造が可能になる宇宙船の推進機関で、以前も述べたように帝国内の宇宙船は大半がこのスラスター駆動で通常空間を航行している。
そのため機動ドライブと呼べば普通はこのスラスター駆動のことを指し示すのだ。
スラスター駆動はスラストプレートと呼ばれるものを作動させて宇宙空間を進む機能のため、ロケットのような噴射炎を出すことはない。
推進剤も必要ないのだ。
その代わり作動しているときには青白く発光するので、宇宙船が推進していることがわかるようになっている。
今近づいてくるのはこのスラスター駆動の発光だった。

近づいてくる箱型の宇宙船。
先端に二つの船首部分を持つこの船は、帝国内では一般的に見られる小型の自由貿易船と呼ばれるものの一種で、ジャンプ2の能力を持つ外航自由貿易船と呼ばれる奴だ。
多くの自由貿易船がジャンプ1しかできないのに比べ、ジャンプ2ができるので寄港先の選択肢を多くできる反面、その分だけ燃料を余計に搭載する必要があるので船荷の搭載量が少なくなってしまうという弱点もある。
帝国内で一般的とは言ったが、もちろんこのリーヴァーズ・ディープ宙域の帝国外の星系でもよく見られる宇宙船だ。

その外航自由貿易船が俺たちの真上を通過する。
そして船体右舷にある砲塔からビームレーザーが放たれ、宇宙港の管制塔を直撃した。
「な、なんだと!!」
俺はまたしても思わず声を上げてしまう。
ヘッドセットからは悲鳴が上がり、続いて雑音がひどくなる。
管制塔を中継していた通信が途絶えたのだ。
外航自由貿易船はそのまま上昇していくが、いったい何があったというのか?
宇宙船が宇宙港の管制塔を攻撃するなど普通ではない。

宇宙港の職員たちが右往左往する中、一台のバギーがやってくる。
もしかしたら宇宙港の職員かもしれない。
危険だから上空に上がれということかもしれない。

バギーには宇宙服を着た二人が乗っており、俺たちのすぐそばに停車する。
そしてその二人が降りてきたとき、俺は背中につめたいものを感じた。
そのうちの一人が拳銃を俺たちに向けてきたからだ。
見たところ火薬式のオートピストル。
低レベルの技術で作れるもので、帝国陸軍の兵士が持つようなプラズマガンやフュージョンガン、磁気ライフルのような高テクノロジーの洗練された武器ではないが、殺傷力は必要充分なものを持っているし、何より低レベルの技術で作れるから大半の星系で本体や弾を手に入れることができるため、今でも一般的に使われている武器だ。

『あ、あなたたちはいったい・・・』
『おとなしくしなさい。パイロットはどっち』
エイリア女子の声に続いてヘッドセットから声が流れてくる。
女の声だ。
拳銃を向けてきたのは女だったのだ。

「俺だ」
俺はそう言った。
パイロットの事を聞いてきたということは、こいつらはおそらく船を乗っ取りたいのだろう。
そんなことをさせるもんかとは思うが、拳銃を向けられている状況ではどうしようもない。
せめてエイリア女史は引き離しておこうと思ったのだ。

『そう、あなたがパイロットなのね。姉さん、早く乗って』
『リヴァーナ、危険すぎるわ。やめましょう』
『やるしかないのよ! 早く乗って!』
二人の会話が聞こえてくる。
なるほど、この二人は姉妹なのか。
俺に拳銃を向けているのが妹というわけだ。
姉のほうはあまり乗り気ではないようだが、それでもステップを上って「ガムボール」の中へと入っていった。

『あなたはいいわ、向こうへ行って』
拳銃を持った女がエイリア女史に命令する。
『ふ、船荷を降ろさせて』
『そんな暇はないわ! あっちへ行きなさい』
『し、しずくが・・・』
拳銃を向けられてしぶしぶと後ずさるエイリア女史。
いまなんと言った?
“しずく”だと?
あの薬が「ガムボール」に積まれているというのか?

『あなたは早く乗りなさい』
女が拳銃を突きつけてくる。
宇宙服のバイザー越しに鋭い視線が俺に向けられているのを感じる。
「わかった」
やむをえないか・・・
俺は「ガムボール」から伸びているステップを上り、アイリスバルブを開けて中に入る。
すぐさま俺に拳銃を向けていた女性も中に入ってきた。
なるほど、アイリスバルブを閉められては困るというわけか。
俺は思わず苦笑する。
『何がおかしいの! 早くハッチを閉めなさい』
いらだったような女の声。
俺は外側のアイリスバルブを閉め、エアスプレーで宇宙服の殺菌をして空気を満たす。
そして宇宙服のバイザーを開けて、空気があることを示してやった。

「もう銃は必要ないだろう。下ろしてくれ」
『だめよ。早くコクピットに行って。すぐにこの星を離れなさい』
女はよほど警戒しているのか、宇宙服のバイザーを開けようとはしない。
催眠ガスでも使われることを恐れているのか。
俺は無用に刺激するのは避け、そのままコクピットへと向かう。

上にあるアイリスバルブを開けたところにもう一人の女性がいた。
宇宙船のエアロックの構造はどれも同じものばかりだから、自分で開けて入ったのだろう。
こっちのほうは宇宙服のバイザーを開けていた。
その顔を見て俺は思わず息を呑む。
なんて美人なんだ。
流れるようなつややかな金髪が輝き、抜けるような白い肌に青い瞳がとてもよく似合っている。
小ぶりな唇はピンク色でみずみずしく、頤はとても魅力的なカーブを描いていた。

『姉さん、すぐにバイザーを閉めて! ガスを使われたりしたら・・・』
宇宙服の外部スピーカーからくぐもった声がする。
その声に驚いたようにすぐにバイザーを閉める姉。
残念。
もう少しその顔を眺めていたかった。

『何をしているの! 早くコクピットに行って!』
後ろから拳銃で小突かれる。
細いシャフト内に三人もいるのだから動きづらいことこの上ない。
俺は黙ってラダーを上り、四層目にある居住区画に入り込む。
すぐに拳銃を持った妹が俺の後に続き、俺が何か不審な行動をしないかどうか目を光らせている。
そして最後に姉の方がおずおずと入ってきて、背後のアイリスバルブを閉じた。

俺は下手な動きをしないようにしながら、居住区画を抜けてコクピットに入り込む。
ここでも妹の方が拳銃を突きつけながらすぐに入ってきて、コクピットに通じるアイリスバルブを閉じられてしまわないように用心する。
この女、結構こういう場面に慣れているのか?

『早く発進させて! 急いで!』
「目的地は?」
『後で言うわ。出しなさい』
どうやらかなり精神的に圧迫されているのは間違いない。
下手な動きで撃たれても困る。
俺はすぐさま「ガムボール」の発進準備を行った。

窓外の宇宙港の様子はまだ混乱しているようだった。
だが、俺たちが「ガムボール」に乗り込んだあと、エイリア女史が急いで通報したのだろう、こちらに何台かのバギーが向かってくるのが見える。
そのうちの一台はこちらに大型の銃器を向けており、ほかの一台には大砲らしきものも付いている。
実力で発進を阻止するつもりか?
もしかしたら俺ごと「ガムボール」を破壊してしまうつもりかもしれない。
俺は急いで「ガムボール」を離床させた。

上昇する「ガムボール」に向けて地上のバギーから銃砲撃が加えられる。
冗談じゃない!!
何で俺まで攻撃されなきゃならないんだ!
人質となった俺を救出しようという気は最初からないらしい。
これはどうあれこの星から逃げるしかなさそうだ。

幸い銃砲撃は深刻なダメージを「ガムボール」に与えることはなかった。
「ガムボール」は最大の1G加速で上昇し、20分ほどで軌道に達することができた。
問題はここからだ。
地上での騒ぎは当然軌道宇宙港にも届いているはず。
あの神殿警護隊の警備艇が逃走を阻止しに来るかもしれない。
そうなったとき、はたしてこの「ガムボール」で逃げ切れるのか?

一番いいのは俺の隣で拳銃を持っているこの女を叩きのめして縛り上げ、神殿警護隊に突き出すことだろう。
だが、この女はたぶん荒事には慣れている。
俺も偵察局で多少の訓練は受けているが、たぶんこの女にはかなわないだろう。
おそらく返り討ちにあって殺されるのがオチだ。
それに、神殿警護隊が素直に俺を助けてくれるとは限らない。
なんと言っても俺はこのピューリティ連合に迷い込んできたよそ者だ。
逃亡犯と一緒に始末してしまえって言うのはありえる話だ。
結局、俺は女の言うままに「ガムボール」でこの星を離れたほうがよさそうってことか。

「で、どこへ行くつもりだ。どこかへ行くなら、ジャンプ準備プログラムでジャンプの計算をしておかなくちゃならない」
『ピューリティ以外ならどこでもいいわ。飛べるだけ飛びなさい。燃料が満タンなのはわかっているわ』
なるほど、この船が燃料を入れるのを待っていたということなのか?
それにしてもいったいこいつらはなぜこんなことを・・・

このプルガトリィからだと、行ける星系は決まっている。
1パーセク内で隣接する星系は一つもなく、連続ジャンプで行くしかない2パーセク先の星系もピューリティ、ニンバス、モーガン、リンドノアーの四星系のみ。
ピューリティ連合近辺
そのうちピューリティは論外だし、リンドノアーは大国ソロマニ連合の所属星系だ。
ソロマニ連合と帝国は表向きは平穏だが、かつては大きな戦争をやらかしている敵国であり、現在も帝国にとっての仮想敵国の一つである。
できれば行きたくないところだな。

と、なれば残る選択肢は二つしかない。
ニンバスかモーガンだ。
帝国への航路を考えると、ニンバスへ向かうのが一番であり、そこから2パーセク先のバクールには帝国の偵察局の支局もある。
そこで保護してもらうという手もあるのだが・・・

“ただし、帝国からは離れる方向へ行け”
俺の脳裏に突き刺さっているドッジの言葉。
帝国に戻りたいという思いとは裏腹に、このドッジの言葉が俺を苛んでくるのだ。
それに、ニンバスは宇宙港設備がEタイプしかない。
この「ガムボール」では寄港できないのだ。
俺はまるでそのことが自分を納得させる事実であるかのように、ニンバスへ向かうという選択を放棄する。
「ガムボール」の行き先はモーガンへと決まった。

来るなよ・・・来るなよ・・・まだ来るなよ・・・
じりじりと焦燥感に駆られながら、俺はひたすら「ガムボール」をジャンプ可能域まで走らせる。
ジャンプドライブは重力源のそばではうまく働かない。
なので、惑星などから少なくともその星の百倍直径分の距離を離れなくてはならないのだ。
このプルガトリィの場合、百倍直径分離れるには約四時間かかる。
その四時間の間、追っ手に追いつかれてはならないのだ。

いまのところ警備艇が追ってくる気配はない。
おそらく宇宙港を攻撃して飛び去ったあの外航自由貿易船を追っていったのだろう。
このプルガトリィに何隻の警備艇が配備されているのかはわからないが、こっちをすぐに追ってこられる警備艇がなかったのかもしれない。
だが、いずれは無断発進したこの「ガムボール」を追ってくることは充分に考えられる。
何とかジャンプに入ってしまえば問題ないが、それまでに追いつかれたりしたら厄介だ。
頼むからジャンプに入るまで追いついてこないでくれ。

俺の願いもむなしく、発進して二時間ほどしたころ、「ガムボール」のセンサーが追いかけてくる一隻の小型艇の姿を捉えた。
おそらく神殿警護隊の警備艇に間違いあるまい。
その速度は優に2Gは出ている。
追いつかれるのも時間の問題だ。
武装といい速度といい「ガムボール」で歯が立つ相手じゃない。
相手は一隻とはいえ警備艇。
ましてこちらの武装はジャンク品と来ている。
これはもうどうしようもないじゃないか・・・

俺はふうとため息を付いてシートにもたれかかる。
「ゲームオーバーだな。追いかけっこは終わりだ」
『どうしてジャンプして逃げないの! 早くジャンプしなさい! 計算は終わっているんでしょ!』
「バカを言うな! まだ百倍直径分離れていないんだ! こんなところでジャンプしたらジャンプミスの可能性が高いんだぞ。下手したら宇宙船ごと爆発だ!」
『クッ・・・』
女が俺の言葉に黙ってしまう。
唇をかんでいるのがバイザー越しに見て取れる。
姉と同様にとても美人だ。
いったいこの姉妹はどうしてこんなことをしたんだろう。

「あの場から逃走したのは俺も同じだ。そのあたりはできるだけうまく証言するよ。おとなしく降参したほうがいい」
俺は一息ついてそういった。
この状況ではもう逃げられない
おとなしく降伏するしかないのだ。
いくらなんでも降伏した相手を裁判なしで殺したりはしないだろう。
だが、彼女は無言で首を振った。

「うおっ!」
俺は驚いた。
センサーがすぐ近くをエネルギー線が通過したことを示したのだ。
エネルギー線?
バカな!
おそらくレーザーだが、威嚇ならば可視光線化しているはず。
そうじゃなければ相手が撃たれていることに気が付かないかもしれないじゃないか。
そこまで考えて俺は愕然とした。
違う・・・
威嚇じゃないってことだ。
俺は「ガムボール」を緊急回避させる。
そのすぐ脇をまたしてもエネルギー線が通過する。
間違いない。
相手はこっちを攻撃している。

「くそっ!」
俺は通信機をオープンにした。
「攻撃をやめてくれ! 降伏する。もう逃走はしない。だから攻撃をやめてくれ」
『無駄よ』
隣から声がする。
『やつらは私たちもろともあなたも始末するつもりみたいね』
今度は俺が唇をかむ番だ。
やっぱり奴らその気なのか。
俺ごとこの揉め事をなくしてしまおうってことなのか?

どうする・・・
どうする・・・
いつまでも逃げ切れるものじゃない。
いつまでもかわしきれるものじゃない。
相手は軍用と言っていい武装艇だ。
こっちはしがない小型商船だ。
その差は歴然。
あと十分もすれば追いつかれる。
いや、その前にレーザーで破壊されてしまう可能性が大だ。
どうする・・・
一か八か・・・
それしかないのか・・・

俺はジャンプドライブを作動させた。

結論から言うと、ジャンプミスらしい兆候は発生しなかった。
異常振動もドライブ機器の大きな故障も起こらず、ジャンプした途端に「ガムボール」が爆発すると言うこともなかった。
どうやら低い確率ではあったものの、問題なくジャンプ空間に入れたらしい。
あとは一週間で無事に通常の宇宙空間に出ることさえできれば問題ない。

「ふう・・・」
俺はホッと一息つく。
手には汗がぐっしょりだ。
生きた心地がしなかったぜ。
『無事ジャンプに入ったみたいね・・・』
「とりあえずはな・・・」
俺がそういった途端、俺は首筋に衝撃を感じる。
俺は一言も発することなく意識を失った。

  1. 2012/05/25(金) 21:02:09|
  2. しずく
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Author:舞方雅人
(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
どうぞ楽しんでいって下さいませ。

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