今日の午後はいりやっく様とVASSALで「アステロイド」というゲームを行いました。

「アステロイド」は、かつてGDW社が出したシミュレーションゲームでして、狂った科学者が地球に落とそうとした小惑星を、その中に入り込んで電子頭脳を止め落下を防ごうとする12人のメンバーの活躍を表したゲームです。
今回はこのゲーム初体験のいりやっく様が探査隊側を、私が迎え撃つ電子頭脳側を担当しました。
いりやっく様の選んだメンバーは以下の12人。
指揮官のハンソン少佐、爆弾のエキスパートであるデモン、今回の小惑星落下を察知して電子頭脳制御を買って出たドラクロワ教授、その娘の美少女ニコル、透視能力を持つ超能力者ジョーンズ夫人、宇宙一ラッキーな男ラッキー、その弟で力自慢のマスル、コンピュータのエキスパートキルビー、射撃のうまいジョージ、重ライフルを持つガナー、パワードスーツを着たカーター、宇宙船の提供者であるがゆえに無理やり同行したカメラマンのスクープ。
彼ら12人は地球の運命をかけて落下軌道に入った小惑星へと侵入したのだった。

侵入は上階のマップ4からでした。
これは電子頭脳側である私から見た画面なのですべて表示されてますが、いりやっく様の画面では黄色いコマで赤い枠がついているものは「?」表示になっていて見えません。
どこに何があるかわからないまま手探りで進むしかないのです。
今回いりやっく様のラッキーは、幸運なことにラッキーポイントがこのゲーム中最大の35ポイントもあるというものでした。
しかし、いりやっく様ご自身は逆にあまり幸運には恵まれませんでした。
序盤早々に力自慢のマスルと爆破のプロデモンが汎用ロボットの射撃で死んでしまうという不運があり、また、ロボットの状態を確認するとほとんどが「敵対的」のチットを引いてしまったために戦いがやたら多くなってしまったのです。
強敵警備ロボットとも相討ちが多く、中盤ですでに頼りになるメンバーのほとんどを失ってしまいます。
それでも残った四人はかろうじて下階にある電子頭脳まで到達し、ラッキーが最後のラッキーポイントをつぎ込んでこれを停止させて自爆スイッチを入れることに成功します。

これで小惑星の地球への落下は防がれ、人類は大災害を免れることができました。
しかし、残された四人に小惑星から脱出する力は残っておりませんでした。
運の尽きたラッキーもジョーンズ夫人も残った警備ロボットに射殺され、ただ一人残されたニコルはロボットに捕らえられたまま小惑星もろとも爆発。
12人は誰一人もどっては来ませんでした。
今回は久しぶりだったこともあり、ルールの運用を間違っていた部分がありましたが、探索者側には結構厳しい結果になってしまいました。
ラッキーポイントも豊富だったのですが、その分消費も激しく、最後に尽きてしまいました。
メンバーが全滅という結果でしたが、それでもいりやっく様にはとても楽しんでいただくことができたようで、こちらとしてもうれしい限りです。
次回また機会があればやりましょうということでお開きとなりました。
いつやっても面白いゲームです。
機会がありましたら皆様もぜひ一度プレイしてみてくださいませ。
それではまた。
- 2011/07/31(日) 20:57:18|
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ここ数週間に渡って菊蔵様と対戦してまいりましたVSQLによりますSquad Leaderのシナリオ3対戦。
今日最終ターンまで終わりました。
結論から言いますと、双方損害ばかり多く決定的な勝利を得ることはできませんでした。
私は独軍担当でしたが、シナリオ1部分では負け、シナリオ2部分では勝ちとなり、総合的に引き分けという結果だったのです。

以前の記事にも書きましたが、これが両軍の初期配置。
青いコマが独軍で私が担当し、茶色のコマがソ連軍で菊蔵様が担当します。

前回終了時はこういう状況でした。
独軍は盤右側の大きな建物(トラクター工場)はどうにか確保したものの、盤左側ではF5の建物を失い、K4の建物も風前の灯でした。
独軍はできるだけトラクター工場を維持しつつ、盤の左側ではソ連軍を食い止めなくてはなりません。
そのため突撃砲を一両持っていき、F5の建物のソ連軍をこれ以上進めないようにらみを効かせるつもりでした。
また、工場の右上にいた突撃砲も中央に下げ、ソ連軍のT-34とにらみ合わせます。
これに対しソ連軍は、F5の建物から独軍の9-2指揮官のいるI7の建物に集中射撃を行い、1・2の目でこれを除去。
独軍が頼りにしていたI7の小隊が全滅してしまいます。
あとに残ったのは持ち主のいなくなった軽機関銃だけ。
さらにT-34の砲撃で105ミリ砲突撃砲も一両失い、別のT-34も10-2指揮官と628分隊とともに盤左下の突撃砲に肉薄してきます。

5ターン終了時
6ターン目、独軍はトラクター工場内の最後の838突撃工兵が爆薬を持ってT-34に肉薄。
そこに10-2指揮官も応援に駆けつけ、ソ連軍の防御射撃に耐え抜きます。
工場左上側にいた二両のT-34でしたが、一両をこの爆薬で、もう一両を10-2指揮官と838分隊が白兵戦でしとめるという大殊勲。
ソ連軍は一気に戦車戦力の半分を失いました。
また、先ほどのターンで位置を入れ替えた盤左下の突撃砲がT-34を撃破。
ソ連軍のT-34は残り一両にまで撃ち減らされました。
しかし、ソ連軍も負けてはいません。
無人になったI7の建物はこのターンに占拠され、K4の建物も白兵戦で占領されてしまいました。
さらには盤中央の突撃砲が最後のT-34に撃破され、盤左下の突撃砲も10-2指揮官と628分隊の突撃で撃破されてしまいます。
これで双方ともに車両は一両ずつとなってしまいました。
また、独軍の10-2指揮官と838突撃工兵も、ソ連軍の凶暴化した447分隊との白兵戦で相討ちとなり、独軍にとっては貴重な兵力がまたしても失われました。

6ターン終了時
最終ターン、独軍にはもはや盤左側の建物を奪い返す力はありません。
こうなるとトラクター工場を確保して引き分けを狙うしかありません。
そのためにはトラクター工場の近くにいるソ連軍兵力をできるだけ削ることが必要です。
独軍は最後に残った105ミリ砲搭載突撃砲に路上にいたソ連兵をオーバーランさせて混乱させ、工場からの射撃で兵力を削ります。
これはすでに兵力の減っていたソ連軍には大きな痛手だったでしょう。
ソ連軍は最後の突撃をトラクター工場に向けますが、その兵力は微々たる物で独軍の防御射撃の前に混乱してゲームエンド。
トラクター工場を取り返すことができませんでした。

ゲーム終了時
こうしてスターリングラードでの激闘は、双方痛み分けに終わりました。
ソ連軍は盤左側の建物群を奪ったものの、トラクター工場を失いました。
独軍はトラクター工場を奪ったものの、盤左側の建物群を失いました。
そして、両軍ともに莫大な兵力を失いました。
ゲーム終了時に健在だったのは、わずかに独軍5個分隊、ソ連軍11個分隊しかなかったのです。
(初期配置時点では独軍32個分隊、ソ連軍60個分隊)
今回も楽しい時間を過ごすことができました。
次回はシナリオ4を対戦する予定です。
いよいよスターリングラードの市街地を抜け、郊外の丘陵地帯での戦いです。
菊蔵様、次回もよろしくお願いいたします。
それではまた。
- 2011/07/30(土) 20:43:26|
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毎月購入している定期購読物の一つであります「世界の艦船」(海人社)の9月号を購入してきました。

こちらが表紙。
今月号の特集は「中国の海洋力」ということで、最近増強著しい中国海軍の特集となっております。
巻頭カラーページからしてもう中国艦艇のカラー写真から始まっており、その艦艇たちも一昔前の第二次大戦型艦艇とはまったく違う近代的艦艇が主力となっていることをうかがわせます。
ステルス性を意識したと思われる上部構造物形状の「江凱Ⅱ」型フリゲイトや、「旅洋Ⅰ」型ミサイル駆逐艦。
さらには中国版イージス艦といわれる「旅洋Ⅱ」型ミサイル駆逐艦など、アメリカや欧州海軍の艦艇と比べても遜色を感じません。
(外見的にはです)
ロシアの中古空母を改修した空母「施琅」も着々と完成が近づいており、原子力ミサイル潜水艦や原子力攻撃潜水艦、通常動力潜水艦も多数新型が就役し始めている様子。
今月号ではそれら中国海軍の主な艦艇を艦艇事典的に網羅しており、フリゲイト以上の艦艇は級ごとに艦形図付きで掲載されていて、貴重な資料となってくれます。
記事ではまさに中国の海洋力の特集の名の通り、海軍力だけではなく海上警察力や商船隊の活動、海洋開発にいたるまでの中国の海とのかかわりが書かれており、これまた興味ある読み物となっております。
中国関係以外の記事では、今回の「東日本大震災」における自衛隊の活動を総括しての問題点が記事になっており、先日のブログでも書きましたが自衛隊の海上輸送能力の低さが非常に問題であるとされておりました。
これは有事の場合の離島防御に大きな影響があるため、早急なる改善が望まれるとのことでした。
いつも楽しませていただいております「世界の艦船」誌ですが、今回の中国海軍の記事を見て、あらためてその情報力のすごさを感じました。
推定の部分も多いのでしょうが、中国海軍の各艦艇のデータをこれだけ集めるのは大変だったのではないでしょうか。
今日はこれぐらいで。
それではまた。
- 2011/07/29(金) 21:25:55|
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「日本沈没」や「復活の日」などのSF小説を執筆なされ、日本SF界に多大なる影響を与えました作家小松左京先生が26日にお亡くなりになられました。
80歳とのことでした。
私は大学時代に友人と一緒にSF関係の同好会に属しておりました。
そのためSF系の小説はよく読んでいたのですが、主に海外作品の訳されたものを読むことが多く、国内SF作家様の作品を読むことはほとんどありませんでした。
(同好会で課題図書となったときに読むぐらい)
なので小松先生の「日本沈没」も「復活の日」も小説として読んだことはなく、いずれも映画化された作品を拝見したぐらいで、あとは短編をいくつか読んだぐらいでしょうか。
ですが、「日本沈没」は当時のベストセラーとなりましたし、お恥ずかしい話ながら「仮面ライダー」の本郷猛役の藤岡弘氏(現藤岡弘、氏)がメインキャストの一人として出ているというので気になった映画でしたので、劇場に足を運んだ記憶があります。
当時日本が沈没するかもしれないと思わせてくれたあの映画はすごいインパクトがありました。
すごく不謹慎で被災された方々には申し訳ないのですが、今回の「東日本大震災」による津波映像は、あの映画を思い起こさせるものがありました。
逆に言えばそれだけ目の前で起こっていることがとても現実とは思えませんでした。
日本SF界の重鎮であられました小松先生。
あらためましてご冥福をお祈りいたします。
- 2011/07/28(木) 21:11:50|
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3月11日の「東日本大震災」から約4ヵ月半。
昨日7月26日をもって、被災地となった東北地方の岩手県から、災害派遣で派遣されていた自衛隊部隊が撤収となりました。
また、8月1日までには宮城県からも撤収されるということで、二つの県から派遣されていた自衛隊が撤収することになります。
長い間本当にありがとうございました。
まだまだ被災地は再建途上でしょうが、これで一つの区切りがついたということなのでしょう。
今回の自衛隊の災害対策活動には本当に多くの方々が助けられたと思います。
生活支援から瓦礫の撤去、行方不明者や遺体の捜索、はては任務想定外の福島第一原発への対応等々。
本当に頭が下がります。
ありがとうございました。
震災後のいろいろなアンケート等でも、今回の震災に対する自衛隊の行動に対する評価は非常に高いものがあるそうです。
一部アンケートでは評価するという声が95%にも上っているとか。
一方で政府の行動には評価するという声が非常に低いのも確か。
今回のことで自衛隊の装備体系も見直されることでしょう。
無人偵察機等の導入も検討されているとか。
また輸送船舶の一時不足をきたしたことで、民間輸送部門との連携も強化する必要があるといいます。
福島第一原発の問題等今後もまだまだ自衛隊の力に依頼することは多いと思います。
日本を守る自衛隊。
本当にありがとうございます。
それではまた。
- 2011/07/27(水) 21:13:11|
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第二次世界大戦前、次期航空機用エンジンとしてのジェットエンジンの開発はソビエト連邦でも行われておりました。
しかし、1939年に第二次世界大戦が始まってしまうと、新技術であるジェットエンジンの開発は後回しにされてしまい、ソ連ではジェット機の開発が止まってしまいます。
終戦が近い1944年になると、ようやくソ連でもジェットエンジンの開発が再開されますが、程なくドイツとの戦争は終結し、ドイツの技術を手に入れることができるようになってしまいました。
すでにドイツではメッサーシュミットMe262やハインケルHe162のようなジェット機を実用化しており、ドイツの技術が手に入る以上、自前でジェットエンジンを作る必要はなくなったことから、ソ連は自国製のジェットエンジンではなくドイツベースのジェットエンジンでジェット戦闘機を作ることに決定します。
このドイツ製BMW003ジェットエンジンを国産化したРД-20(RD-20)エンジンを用いて作られたソ連戦闘機がミコヤン・グレビッチ設計局のMig-9です。
BMW003(RD-20)は直径の細い小型ジェットエンジンでしたが、残念なことに推力が低く、Mig-9はエンジンを双発として推力の低さを補うことにしました。
Mig-9では胴体部分にこのエンジン二基を並べて置き、機首の先端の空気取り入れ口を中央で分ける形で二つのエンジンに空気を供給する形状を取りました。
そのため、外見からは双発とは思えないような機体形状となりました。
主翼はまだ後退翼の概念を取り入れるまでには至らず、大戦中のレシプロ(プロペラ)戦闘機のような直線翼でした。
主翼の付け根の辺りにジェット噴射口があり、そこから後部胴体が伸びて尾翼につながります。
見ようによってはレシプロ戦闘機のエンジンをジェットにして、後部に無理やり噴射口を開けたと言えないことも無いでしょうか。

Mig-9は最高速度が910キロにも達し、航空機としては悪くない機体でした。
ソ連空軍もすぐさま制式採用し、Mig-9は実戦配備されることとなりました。
しかし、Mig-9は残念ながら使えない戦闘機でした。
航空機としては欠点らしい欠点もなく問題はありませんでしたが、問題は武装でした。
Mig-9は破壊力の高い37ミリ砲を一門と23ミリ機関砲二門を武装として搭載いたしましたが、23ミリ機関砲を胴体下部に取り付けたのはよかったものの、37ミリ砲をどこに搭載するか悩んだ挙句に、空気取り入れ口の中央にある仕切り版に装備してしまったのです。
これは残念ながら最悪の結果を生んでしまい、Mig-9は射撃を行うと37ミリ砲の発射時の発射ガスが空気取り入れ口から取り込まれてジェットエンジンに悪影響を及ぼしてしまうのです。
最悪の場合はジェットエンジンが止まってしまい、機体が墜落する羽目に陥ってしまうため、Mig-9はせっかくの武装を使うことができないという戦闘機としては致命的な欠陥を持つことになってしまいました。
Mig-9はその後武装の位置を変更したMig-9Mも作られましたが、すぐに後継ジェット戦闘機のMig-15が実用化されたために生産機数は少数で終わりました。
一部のMig-9は「朝鮮戦争」でも使用されたといいますが、活躍したという記録は残っておりません。
戦闘機としては欠陥機となってしまったMig-9でしたが、その後のミコヤン・グレビッチ設計局デザインの戦闘機が冷戦中のソ連軍戦闘機の主力となっていたことを考えますと、その基礎となったことは間違いないでしょう。
武装配置さえ適切だったなら、いい戦闘機といわれた機体だったかもしれませんね。
それではまた。
- 2011/07/26(火) 21:17:46|
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今年のプロ野球のオールスターゲームも昨日で終了。
今年は3試合でしたが、1戦目がセ・リーグ、2戦目と3戦目がパ・リーグとパの2勝1敗でしたね。
北海道日本ハム勢としては、初戦の武田勝投手が8失点と打ち込まれたほかはみな順当に活躍してくれました。
ただ、先発投手ファン投票1位のダルビッシュ投手が3戦目の2番手というのはちょっと残念だったでしょうか。
中田翔選手も3戦目でようやく初ヒットを打ちましたし、稲葉選手は3戦通して大活躍。
斎藤佑樹投手も2戦連続無失点と日本ハム勢はすごかったですね。
一方阪神勢はマートン選手が3戦連続出場の上3戦連続安打と好打者振りを発揮してくれましたし、藤川球児投手は1戦目の抑えとして9回をぴしゃりと締めてくれました。
榎田投手も阪神新人では44年ぶりに2戦連投とがんばってくれました。
両チームとも後半戦が楽しみです。
それと、今年もまた夏の全国高校野球選手権大会のシーズンがやってきました。
各地で地方大会が行われておりますが、早めに決勝を迎える北海道は昨日で南北北海道代表の二校が決まりました。
北北海道代表は帯広地区にある「白樺学園高等学校」
5年ぶり2度目の出場です。
南北海道代表は札幌の「北海高等学校」
こちらは3年ぶり35度目という常連校。
出場回数だけなら全国トップじゃなかったでしょうか。
個人的には札幌地区から代表校が決まってくれたのがうれしいですね。
このところ札幌地区からは甲子園に行けてなかったので。
両校とも優勝目指してがんばってほしいものです。
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2011/07/25(月) 21:24:24|
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当ブログもリンクさせていただいております素敵な悪堕ちブログ「
アクノス研究所」様の管理人でいらっしゃいますアクノス所長様が、またまたまた先日投下いたしましたSS「クリムゾン」の挿絵を「3Dカスタム少女」で作ってくださいました。(ブログ名クリックで所長様のブログに飛べます)
もうとっても素敵な作品でして、私はそのすばらしさに声もでないほどだったのですが、このたび所長様より公開のご許可をいただきましたので、ここに皆様にご公開いたしたいと思います。
挿絵的なイラストですので、本来であれば全文を再掲してその間に挟み込めばいいのですが、なにぶん一回の文量としては多過ぎますため、その場面の文章を抜き出す形での掲載となりますことをご了承くださいませ。
所長様、本当にありがとうございました。
それでは所長様の素敵な作品をご覧下さい。
201X年、日本は恐るべき危機を迎えていた。
「暗黒帝国ナイローン」と名乗る軍団が、突如侵略を始めたのだ。
どこからともなく現れる異形の軍団。
それはまるで人間がナイロンのベージュ色の全身タイツを身に着けたような、スベスベした体表を持つ目も鼻も耳も口も無い姿の連中だった。
しかも、そのベージュの全身タイツの連中はいずれもがスタイルのいい女性形をしており、男性形と思われるのはわずかに彼女らの指揮を取る「コマンダーパープル」と呼ばれる紫色の全身タイツに黒いマントを羽織った男と、「ナイロン獣」と呼ばれる動物の模様の付いたカラフルな全身タイツを着た者の一部だけだった。

「お疲れ様でした」
「お疲れ様でした、司令」
夜も更けてきたあたり、カラオケ店の入り口から数人の女性たちが姿を見せる。
いずれも紺のスーツ姿で、仕事帰りのOLたちが数曲歌って楽しんでいたように見えるに違いない。
だが、そのうちの一人の口にした言葉に、声をかけられた女性の表情が引き締まる。

「あ、紅澤・・・さんもこっちなんですか?」
先を歩いていたオペレーターの一人神原倫子(かんばら みちこ)が振り返る。
司令部に配属されて間もない若い女性でくりくりした瞳がかわいらしいが、能力は折り紙付きでその甘い声とも相まってANファイターたちからの人気は高い。

「クククク・・・たまたま一緒に捕獲してしまったが、お前はいい素体になりそうだからな。さあ、二人とも来てもらおう」
コマンダーパープルがあごでベージュの女たちに指示を出す。
すぐにベージュの女たちが二人に駆け寄り、その腕を両側から拘束する。
「いやっ、いやぁぁぁ!!」
倫子の叫び声が響き必死に逃れようとするが、つかまれた腕はまったく振り解けない。
夕子も無駄だとわかっているので抵抗こそしないものの、その目は射るようにコマンダーパープルをにらみつけていた。

「う・・・こ、ここは・・・」
冷んやりした空気が肌を撫でるのを感じて目を覚ます夕子。
周囲は相変わらずの闇。
なので周りのことはよくわからない。
「ん・・・」
躰を動かそうとして、夕子は自分が両腕を支えられて立たされていることに気が付いた。
しかも下着すら着けていない裸である。
「えっ? いやっ! 離して!」
羞恥から夕子は両手で胸と股間を隠そうとした。
だが、彼女の左右にはベージュの全身タイツを着た女性たちがいて、夕子の腕をがっちりとつかんでいる。
夕子は必死に腕を振り解こうとしたが、とても彼女の力では振りほどくことができなかった。

「な・・・」
夕子が驚いたことに、コマンダーパープルの手が伸びてきて彼女のあごをつかみあげる。
「思ったとおり美しい女だ。人間にしておくのはもったいない」

「いやぁっ! やめてぇっ! いやぁっ」
狂ったように泣き喚く倫子。
だが、コマンダーパープルのせいで躰はまったく動かない。
もがくことさえできないのだ。
そんな倫子にベージュの女たちが群がり、彼女にベージュの全身タイツを着せていく。
「いやぁっ! 私何にもしてないのにぃ! いやぁっ!」
動けない倫子は、まるで着せ替え人形が衣装を着せられるかのように全身タイツを着せられていく。
両足から腰、そして両腕を通され、頭からはすっぽりとマスク部分が覆いかぶさる。
そして背中の開いた部分が閉じられると、倫子の躰はすっぽりとベージュ色の全身タイツに包まれる。
それを夕子はただ黙って見ているしかなかった。

「ああ・・・いや・・・脱がして・・・脱がしてぇ・・・」
全身タイツを着せられた倫子からベージュの女たちが離れていく。
その場に放り出された倫子は、必死になって着せられた全身タイツを脱ごうと躰のあちこちをまさぐるが、どうにも脱ぐことができないらしい。

立ち上がった倫子は、今まで彼女を押さえていたベージュの女たちと一緒にコマンダーパープルのところにやってくる。
そして全員がいっせいに右手をスッと上げ、ナイローンの敬礼をした。

「脱げない・・・脱げないわぁ・・・」
必死になってどこかから脱ぐことができないかと躰中を探って行く夕子。
しかし、その指先はなめらかなナイロンのすべすべした表面を撫でるだけだ。
それどころか、その彼女の指先の動きが全身に伝わってだんだん気持ちよくなってくるのだ。
そ、そんな・・・どうして・・・
夕子自身そのことに驚いたが、脱ごうとして全身をまさぐればまさぐるほど、心地よさを感じるようになってくる。

「AN・・・」
橙実がオレンジと続けようとしたそのとき手刀が振り下ろされ、彼女の右手首に衝撃が走る。
「あうっ!」
ブレスレットが破壊され、思わず手首を押さえてしゃがみこんでしまう橙実。

「うふふふふ・・・」
しゃがみこんだ橙実の脇から笑い声がする。
「だ、誰?」
「うふふふふ・・・だめよ橙実。変身なんかさせないわ」
振り返った橙実の前に立っていたのは、暗い赤の全身タイツに身を包んだスタイルのいい女性だった。
つるんとしたタマゴのような頭部に適度の大きさの形よい胸、引き締まった腰と流れるようなラインでつながった長い脚。
まさに女性の目から見ても美しいスタイルだ。

全身を自らの手で撫で回しているオレンジ色の全身タイツの女。
スベスベのナイローンスキンが全身を覆い、その感触を指先で味わっているのだ。
頭部にはもはや鼻や眼窩の凹凸はなく、タマゴのようにつるんとして何の表情も浮かんではいない。
だが、彼女が気持ちよさを味わっていることは間違いないだろう。
「うふふふふ・・・ナイローンスキンに全身を覆われた気分はどうかしら、沓木橙実さん? いえ、いまはナイローンのオレンジだったわねぇ。うふふふふ・・・」
うっとりと全身を撫で回しているオレンジ色の女に近づく暗赤色の女。
「ああ・・・はい、クリムゾン様。最高の気分です。なんて素敵なの・・・私はもう人間なんかじゃないわ。ナイローンのオレンジですぅ」
甘い声で返事をするオレンジ。
あのあと橙実は躰の動きを封じられ、無理やりナイローンスキンを着せられて身も心もナイローンの女へと変化させられてしまったのだ。

いかがでしたか?
もうすばらしくてため息が出るほどですよね。
アクノス所長様の技術の高さが伺えます。
夕子さんも倫子さんも橙実さんもすごく素敵でかっこいいですよね。
あらためまして本当にありがとうございました。
こうして自分の作品に挿絵をいただけるというのは本当に幸せです。
私も挿絵にいただくにふさわしい作品をこれからもがんばって書いていきたいと思います。
がんばります。
それではまた。
- 2011/07/24(日) 21:08:45|
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今日はプロ野球のオールスターゲームがデーゲームとは知らずに、午後から通信対戦を行っておりました。
いや、たぶん知ってても通信対戦やったとは思いますが。(笑)
対戦しましたのは菊蔵様とのVSQLによりますSquad Leader。
シナリオ3の続きです。
今回はソ連軍の3ターン目からスタートでした。

これは対戦前の両軍の初期配置。
薄い青がドイツ軍で、茶色がソ連軍です。
私が独軍を担当し、菊蔵様がソ連軍を担当しました。
このシナリオは、スターリングラードでの市街戦で、シナリオ1とシナリオ2を合わせたものとなっています。
勝利条件はシナリオ1とシナリオ2の勝利条件それぞれを満たさなくてはなりません。
独軍は盤の左側ではできるだけ自軍のいる建物を保持しつつ、右側の大きな建物(トラクター工場)を占領する必要があるのです。

前回までに2ターンほど行っており、今日はソ連軍の3ターン目から。(独軍先攻)
独軍は煙幕を張って工場に接近したものの、工場内のソ連軍に射撃を受け大きな損害を出しておりましたが、一方のソ連軍も盤左側でなかなか独軍の建物に攻め込めない状況でした。
ソ連軍は親衛赤軍分隊(628)の火力と、支援にやってきたT-34四輌によって独軍を圧迫します。
その攻撃に独軍はついにF6の建物を奪われてしまいました。
さらにソ連軍はJ5の建物にも圧力をかけてきますが、ここは独軍が粘りを見せ、何とかかろうじて保持します。
またL7で混乱している分隊も回復し、この建物でも何とか食い止めることができそうです。
しかし、盤右側のトラクター工場では、ソ連軍9-2指揮官と重機関銃を持った3個分隊ががんばっており、接近した独軍分隊を次々と血祭りに上げて行きます。
独軍の頼りになる10-3指揮官も838突撃工兵分隊もその射撃の前に除去されていきました。
ですが、決死の覚悟で突入した10-2指揮官と突撃工兵が敵をひきつける間に、別方向から接近した突撃工兵がソ連軍に爆薬を設置。
爆薬の爆発はたいしたことはなかったものの、そのまま突撃して白兵戦に持ち込み、何とソ連軍を除去。
自らも返り討ちに遭いましたが、これで工場内は一気に独軍有利となり、独軍が制圧することに。

両軍の4ターン目が終了したところで今日は時間切れ。
双方かなりの損害を出しており、このあともどちらが有利とは言いづらいところですが、ソ連軍がやや有利といったところでしょうか。
独軍は支援に投入された三号突撃砲がどこまで活躍できるかにかかっているかもしれません。
残りは3ターン。
続きはまた今度ということで今日はお開き。
菊蔵様、対戦ありがとうございました。
それではまた。
- 2011/07/23(土) 21:21:45|
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今日はプロ野球の話題。
今日からプロ野球はオールスターゲームの開幕です。
一戦目はナゴヤドームでセ・リーグのホームゲーム扱い。
序盤はセ・リーグが打たれ、日本ハム勢の糸井選手のタイムリーや稲葉選手のホームランで3-0とパ・リーグがリード。
しかし、マウンド上が寺原投手から日本ハムの武田勝投手に変わるとセ・リーグの打力が爆発しちゃいました。
特に5回の裏はスムーズにワンアウトを取ったものの、その後中日荒木選手のツーラン、ヤクルト畠山選手のスリーラン、ヤクルトバレンティン選手のツーラン、巨人長野選手のソロホームランと何と一挙に4本ものホームランで8失点。
その前の回と合わせて一人の投手が9失点は、これはオールスターゲームでの新記録なんだとか。
結局この点数が大きくものを言って4-9でセ・リーグが勝利となりました。
パ・リーグは9点取られましたが、すべて武田勝投手の失点ということで、このことがシーズンにあとを引かないといいなとは思います。
日本ハムでは他に斎藤投手が1回と2/3を投げて無失点で切り抜けましたが、中田翔選手は残念ながらノーヒットに終わってしまいました。
阪神では榎田投手が稲葉選手にホームランを打たれて1回1失点でしたが、マートン選手が4打数1安打、藤川球児投手が1回無失点とまずまずの結果でした。
明日はQVCマリンスタジアムで第二戦目です。
明日は中田選手にがんばってほしいです。
それではまた。
- 2011/07/22(金) 21:37:07|
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1994年発売ですので、もう20年近く前の発行になりますが、当時の第二期(だったかな?)TRPGブームの末期にホビージャパン社から発売されたのが「RPG福袋’94」です。

当時はまだRPGはTRPGが主で、コンシューマRPGが従のような位置関係だったので、TRPGではなくRPGという表記になっていたんですね。
この「RPG福袋’94」、前年に発売されました「RPG福袋’93」の第二弾なわけですが、福袋の名の通り、複数の(軽めの)RPGシステムの詰め合わせというものでした。
で、この「RPG福袋’94」の中に、「バトルエンジェルRPG」というシステムが載っておりまして、この「バトルエンジェルRPG」というのが表題のようにシステム中に「悪堕ち」が取り入れられていたのです。
この「バトルエンジェルRPG」、どういうものかといいますと、当時大いに話題になりました「美少女戦士セーラームーン」をベースに変身美少女モノをロールプレイしようというRPGでして、プレイヤーはバトルエンジェルというヒロインたちになるわけです。
バトルエンジェルたちは、普段は普通の女性たち(幼女からキャリアウーマンまでプレイ可能)ですが、いったん(ゲームマスターの操る)悪の軍団に遭遇すると、掛け声とともに変身し「バトルエンジェル」となるわけです。
バトルエンジェルたちはそれぞれが魅力的かつ魅惑的なさまざまな衣装を身に着けるわけですが、この衣装がこの「バトルエンジェルRPG」のキモでして、衣装によってさまざまな能力が与えられるわけです。
各バトルエンジェルには基本の能力値はありますが、そこに衣装の能力が加わっていくわけで、たとえば「セーラー服」ですとチャーム+1となり、「チャイナ服」ですとチャーム+1・女王様+1、「レオタード」ですと敏捷+1・チャーム+2、「ボンデージ」ですとパワー+3・女王様+3・ダークサイド+2といったように能力値を上下させるのです。
チャームというのはこの「バトルエンジェルRPG」では重要でして、このチャームが高ければ高いほど攻撃を受けづらくなります。
つまり可愛いので攻撃できないよーってわけですね。(笑)
また、女王様値は相手にダメージを与えたのち、相手がまだ生きている場合にこの数値のチェックに成功すると、相手がバトルエンジェルを女王様と認め足元にひざまずいてしまいます。(笑)
そしてダークサイドというのがまさに悪堕ちに関連しておりまして、「ボンデージ」や「ハイヒール」、「網タイツ」などはバトルエンジェルに力を与える反面ダークサイド値も上げてしまいます。
そして戦闘中に敵のダークサイドに引き込むような攻撃を受けてしまうと、このチェックで失敗するとダークサイドに堕ちてしまい、悪の女戦士になってしまうのです。
そうなった場合は仲間にリフレッシュをしてもらわなくてはなりません。
実際プレイの最中にダークサイドに堕ちるキャラがいたかどうかはわかりません。
私もさすがにこのシステムはプレイしませんでした。
野郎どもが複数集まってわいわいとヒロインをプレイするというのはさすがにすさまじいものがあると思うので。(笑)
でも、このシステムを生かしてなんかSSを書いてみたいなーって思うことはありますね。
悪堕ちをシステム上で規定しているのは私の持っているTRPGシステムでは珍しいかな。
ああ、でもファンタジー等で吸血鬼に噛まれて吸血鬼化というのも悪堕ちと言えないこともないですか。
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2011/07/21(木) 21:30:17|
- TRPG系
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日曜日の夜、Goma様と恒例のVASLによるASL-SK対戦を行いました。
シナリオは先日対戦しましたS44「ACROSS THE BORDER」の入れ替え戦です。
町を守るポーランド軍をGoma様が、攻撃側のスロバキア軍を私が担当しました。
シナリオの勝利条件はスロバキア軍が6点を取ることです。
M7、M5、K6の建物を支配するごとに各2点。
四輌ある装甲車がP3かP6の道路から盤外へ離脱するごとに1点ずつ。
全部で10点分ありますので、スロバキア軍はそれを組み合わせて6点取ればいいわけです。

こちらが両軍の初期配置。
スロバキア軍(濃い緑)は盤外から侵入します。
ポーランド軍(薄い緑)は、まだ三個分隊と指揮官二人が隠されていて、どこにいるのかわかりません。

第一ターンが終わったところ。
まだ双方とも損害は受けてません。
スロバキア軍の第二ターンの増援が盤外に並びます。

第二ターンが終わったところ。
そろそろポーランド軍の隠れていた部隊が姿を現してきました。
しかし、指揮官と機関銃や対戦車ライフルを持った分隊が出てきてません。

スロバキア軍の装甲車は、OAvz30と言ってトラックに装甲版を張ったような装甲車です。
ASLのゲームシステム上では装甲値は0とほとんど装甲は無いに等しい薄いものですが、それでも普通の分隊の射撃では破壊できません。
(ちなみに有名なティーガーⅠの正面装甲値は11ですし、ケーニッヒティーガーにいたっては26もあります)
ポーランド軍でこの装甲車を破壊できる可能性があるのはわずかに一挺ずつしかない機関銃と対戦車ライフルのみ。
あとは歩兵が肉弾突撃して手榴弾を投げ込むぐらいしかありません。
装甲が0でも装甲が無いのとは大違いなのです。

ところがその装甲車の一輌が、ポーランド軍の機関銃の射撃で破壊されます。
また、接近するスロバキア軍歩兵もポーランド軍の射撃で射すくめられ、なかなか前進できませんでした。
しかし、こちらの装甲車の射撃がポーランド軍の機関銃を持った分隊を混乱させ、さらに白兵戦でもう一個の分隊を駆逐してK6の建物から追い出します。
ポーランド軍は機関銃を捨てて逃走し、K6の建物はスロバキア軍の手に落ちました。

最終ターン。
スロバキア軍はM5の建物からもポーランド軍を追い出し、これで4点を確保。
ポーランド軍は対戦車ライフルを持った指揮官が混乱してしまい、装甲車に対する手立てがなくなりました。
そのため盤下側の二輌の装甲車がそのまま盤外へ脱出して2点を加え合計6点をスロバキア軍が手にして勝利となりました。
途中まではポーランド軍に苦戦してましたが、装甲車の射撃で低い目がでたのが転回点でした。
ポーランド軍は兵力が少ないため、いったん崩れると建て直しが難しいのです。
今回もスロバキア軍に押し切られてしまいました。
このシナリオの対戦成績は1勝1敗ですが、シナリオ的にはスロバキア軍の2勝となりましたので、ポーランド軍には厳しいシナリオかもしれません。
これでGoma様との対戦成績は29勝34敗。
負け越しがまだ5個も。
次もがんばらねば。
Goma様、次回もよろしくお願いいたします。
それではまた。
- 2011/07/20(水) 21:21:21|
- ウォーゲーム
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6周年記念SS「クリムゾン」も今日が最終回です。
楽しんでいただけますと幸いです。
それではどうぞ。
3、
「クククク・・・これでいい」
夕子に向けてかざしていた手を下ろすコマンダーパープル。
「ああ・・・いやっ! いやぁっ! 脱がせて! 脱がせてぇ!」
とたんに躰の自由が戻り、夕子はすぐさま着せられた全身タイツを脱ごうとする。
だが、躰に吸い付くように密着した全身タイツは、指でつまむことすらできない。
「無駄だ。そのナイローンスキンはもはやお前の皮膚となったのだ。脱ぐことなどできん。それに・・・すぐに脱ごうとも思わなくなる」
「いやぁ! そんなのいやよぉ!」
必死に躰をよじって何とか全身タイツを脱ごうとする夕子。
だが、全身に密着して脱ぐことができない。
閉じられた背中にはファスナーのようなものもなく、そこが開いていたことすらわからない。
自分の皮膚を脱ごうとして切れ目を探そうとしても無駄なように、夕子が着せられた全身タイツはもう夕子の皮膚そのものになりつつあるのだった。
「脱げない・・・脱げないわぁ・・・」
必死になってどこかから脱ぐことができないかと躰中を探って行く夕子。
しかし、その指先はなめらかなナイロンのすべすべした表面を撫でるだけだ。
それどころか、その彼女の指先の動きが全身に伝わってだんだん気持ちよくなってくるのだ。
そ、そんな・・・どうして・・・
夕子自身そのことに驚いたが、脱ごうとして全身をまさぐればまさぐるほど、心地よさを感じるようになってくる。
「ああ・・・だめ・・・だめなのに・・・」
最初は着せられた全身タイツを脱ごうとして躰をまさぐっていた夕子だったが、じょじょにその感覚を楽しむようになっていく。
「ああ・・・あああ・・・」
だめ・・・この感覚に捕らわれてはだめ・・・
頭では必死になってそう思うものの、指先は全身を愛撫するのをやめられない。
すべすべしたナイロンの気持ちよさが全身に広がって、なんともいえない快感を感じさせるのだ。
「ああ・・・ああ・・・」
いつしか夕子は全身タイツを脱ごうとすることをやめ、ただただ全身を自分で愛撫するようになっていた。
「あ・・・」
床にぺたんと尻を付き全身をまさぐる夕子に対し、コマンダーパープルが近づいてそのあごを持ち上げる。
夕子の頭部はすでにすっぽりとナイローンスキンに覆われているものの、その表面にはまだ鼻の出っ張りや目の眼窩の部分のくぼみなどが凹凸を作り、なんとなく人間の顔らしさをとどめていたが、コマンダーパープルはその顔を自分に向けさせた。
「ククククク・・・どうだ? 気持ちいいだろう?」
「そ・・・そんなこと・・・無い・・・」
力なく首を振る夕子。
暗い赤のナイローンスキンに包まれた姿が美しい。
「いまお前の躰はナイローンスキンによって作り変えられているのだ。すぐにお前の身も心もナイローンの一員へと変化するだろう」
コマンダーパープルの手があごから離れ、その頬を優しく撫でる。
「ひゃぁん・・・そんなの・・・いやぁ・・・」
口ではそういうものの、夕子はコマンダーパープルの愛撫をとても気持ちよく感じていた。
そして自分の手も自分の躰をまさぐるのをやめることができなかった。
「クククク・・・そうだ。それでいい。その快感を味わえばいいのだ。お前はもう人間ではない。ナイローンの女クリムゾンとなるのだ。さあ、『私はクリムゾン』と言ってみろ」
自ら全身を愛撫している夕子の耳元でささやくコマンダーパープル。
その手は夕子の頬を撫でている。
「ああ・・・違う・・・私は・・・私は・・・」
必死に自我を保とうとする夕子。
だが、その声はか細くなっていた。
「『私はクリムゾン』だ」
自らしゃがみこんで夕子の耳元でささやくコマンダーパープル。
その言葉がまるで砂地に水が染み込むように夕子の脳裏に染み込んでいく。
「わ・・・私は・・・私は・・・クリムゾン・・・」
夕子がか細い声でそう答えたとたん、夕子の中から“紅澤夕子”という自我が急速に薄れ、新たに“クリムゾン”としての自我が上書きされていく。
「ああ・・・そうよ・・・私はクリムゾン・・・私はクリムゾン・・・」
そう言いながら全身を愛撫し続ける夕子。
人間だった過去は忌まわしく思い出したくも無い記憶へと書き換えられ、ナイローンの一員となったことを喜ばしく誇りに思うようになっていく。
ナイローンこそがすべてであり、それ以外のものは意味を持たなくなっていく。
眼窩のくぼみや鼻の部分の出っ張りなど凹凸のあった頭部も、スーッと凹凸が消えて完全なつるんとしたタマゴ形になっていく。
それと同時に全身のナイローンスキンが周囲の情報を伝え始めるのが感覚として捉えられる。
目で見たり耳で聞いたり鼻で嗅いだりすることなく、全身のナイローンスキンで感じることができるのだ。
一つの感覚器官で一種類ずつの情報を得ていたとは何と下等生物だったのだろう。
目があるから目が見えなくなったり、耳があるから耳が聞こえなくなったりするのだ。
ナイローンのようにすべての情報を全身で捉えることができれば、見えなくなったり聞こえなくなったりすることなどありえないというのに。
夕子はそのことがうれしかった。
下等な人間などではなくなった喜び。
偉大なるナイローンの一員となったことの喜び。
もはや夕子は紅澤夕子などではなく、ナイローンの女クリムゾンへと生まれ変わったのだ。
「ああ・・・うれしい・・・なんてすばらしいのかしら」
喜びを表現するかのように立ち上がって両手を広げくるくると回ってみせるクリムゾン。
暗い赤のナイローンスキンに覆われた躰は、きゅっと引き締まっててとても美しい。
「私はクリムゾン。もう私は下等な人間なんかじゃないわ。私はナイローンのクリムゾンよ」
あらためて全身のナイローンスキンを撫で回し、その感触を味わっていく。
指先の一つ一つの動きがナイローンスキンから伝わってきてとても気持ちがいい。
どうしてあんな下等な人間なんかでいることができたのだろう。
もっと早くナイローンに生まれ変わりたかったわ。
クリムゾンは心からそう思った。
「ククククク・・・そうだ。それでいい。お前はナイローンのクリムゾンだ」
うれしそうなクリムゾンを見つめていたコマンダーパープルが、立ち上がってクリムゾンを抱き寄せる。
「ああ・・・はい・・・私はクリムゾンです。ナイローンに忠誠を誓うクリムゾンです。コマンダーパープル様」
うっとりと抱き寄せられるクリムゾン。
彼女にとってコマンダーパープルはもはや嫌悪すべき存在ではなく、敬愛するナイローンの司令官だった。
「ククククク・・・そうだ。お前はクリムゾン。これからは俺の女となるがいい。ずっと可愛がってやろう」
「ああ・・・うれしいです。ありがとうございます、コマンダーパープル様」
クリムゾンはコマンダーパープルのたくましい胸に頭を寄せる。
ナイローンの司令官の女になれるなんて何と光栄なことだろう。
「私は・・・クリムゾンはコマンダーパープル様の女ですわ。これからはコマンダーパープル様とナイローンのために身も心もささげます。ナイローン!」
誇らしげに宣言するクリムゾン。
「ククククク・・・それでいい。可愛いぞ、クリムゾン」
「コマンダーパープル様・・・」
コマンダーパープルに力強く抱きしめられていることが、クリムゾンにはとてもうれしかった。
******
「まさかそんな・・・どうしてここが?」
突然周囲に現れたナイローンの女戦闘員ベージュたちに身構える、ANオレンジこと沓木橙実(くつき とうみ)。
まだ20歳という若さでANファイターの女性戦士として幾度もナイローンと戦ってきた彼女だが、まさに不意打ちとも言うべき自宅付近での襲撃にその表情は固い。
それもそのはず、橙実がANファイターであることは重要機密事項であり、彼女の両親ですら知らない事実なのだ。
本部のごく少数の人間が知るだけの事項であり、ANオレンジに本部の指示を伝えるオペレーターたちでさえ、彼女が誰でどこに住んでいるかなど知りえない。
唯一の懸念はこのことを知っている立場にある紅澤司令がここ数日行方不明になっているということだが、紅澤司令に関する情報も当然機密になっている以上、ナイローンに狙われたということは考えづらい。
おそらく何らかの事件に巻き込まれた可能性はあるものの、それがナイローンによる可能性は低いと考えられていたし、それに紅澤司令が万一ナイローンの手に落ちたとしても、そう簡単に機密情報を漏らすとは思えない。
とにかく紅澤司令の行方を捜すことが最重要ということで、ANファイターにも最優先で紅澤司令の行方を捜すように指示が下っており、橙実も深夜となったこの時間まで捜索活動に就いていたのだった。
「ククククク・・・まさかこのような一般住宅地にANオレンジが住んでいたとはな」
ベージュたちの背後から姿を現す紫色の全身タイツと黒いマントを身にまとった偉丈夫。
「コマンダーパープル!」
橙実は驚いた。
ナイロン獣ではなくナイローンの司令官自らが姿を現すとは・・・
「クッ!」
ベージュたちとコマンダーパープルに正対するように身構え、右手首のブレスレットに声をかけようとする橙実。
このブレスレットは通信機であると同時に、彼女の位置を本部に伝え、本部からANスーツを電送するためのターミナルとなっている。
そのため、このブレスレットに声をかけるだけで、橙実はANファイターへと変身できるのだ。
「AN・・・」
橙実がオレンジと続けようとしたそのとき手刀が振り下ろされ、彼女の右手首に衝撃が走る。
「あうっ!」
ブレスレットが破壊され、思わず手首を押さえてしゃがみこんでしまう橙実。
「うふふふふ・・・」
しゃがみこんだ橙実の脇から笑い声がする。
「だ、誰?」
「うふふふふ・・・だめよ橙実。変身なんかさせないわ」
振り返った橙実の前に立っていたのは、暗い赤の全身タイツに身を包んだスタイルのいい女性だった。
つるんとしたタマゴのような頭部に適度の大きさの形よい胸、引き締まった腰と流れるようなラインでつながった長い脚。
まさに女性の目から見ても美しいスタイルだ。
「あ、あなたは?」
「うふふふふ・・・私はナイローンのクリムゾン。お前たちにとっては敵というところかしら」
目も鼻も耳も口も無い頭部なのに、その視線は橙実をじっと見下ろしているように感じる。
「クリムゾン・・・」
新たな敵の出現に橙実は衝撃を受ける。
その様子からおそらく目の前のナイローンの女は、ベージュなんかとは比べ物にならない力を持っているだろう。
一対一ではANファイターといえども苦戦するに違いない。
「ククククク・・・よくやったぞクリムゾン。そのブレスレットを壊してしまえば、ANファイターなど恐れるに足りんいうことだな」
「はい、コマンダーパープル様。ANファイターはANスーツあってこそのあのパワー。ANスーツがなければただの下等な虫けらに過ぎませんわ。うふふふふ」
冷たく笑うクリムゾン。
「ど、どうしてそれを・・・」
「ククククク・・・どうしてそれを我らが知っているのか、か? 簡単なことだ。お前たちの司令官紅澤夕子が教えてくれたのだ」
「そんなバカな・・・紅澤司令がそう簡単に・・・」
ショックを受けている橙実にコマンダーパープルがゆっくりと近づいていく。
「ククククク・・・そうだったな、夕子よ。お前が俺に教えてくれたんだったな」
コマンダーパープルがクリムゾンの肩をそっと抱く。
「あん・・・コマンダーパープル様、私をそんな名で呼ぶのはおやめくださいませ。私はナイローンのクリムゾンです。紅澤夕子などという名は私が下等な人間だったときの名。そのような名は思い出したくもありませんわ」
愛しい人に擦り寄る恋人のようにクリムゾンがコマンダーパープルに身を寄せる。
「そんな・・・この女が紅澤司令だというの?」
「ククククク・・・そういうことだ。もっともいまはもうナイローンのクリムゾンとして俺の可愛い女といったところだがな」
愕然とした橙実に見せ付けるようにクリムゾンを抱き寄せるコマンダーパープル。
「ああん・・・はい、私はコマンダーパープル様の女ですわぁ」
うっとりとクリムゾンはコマンダーパープルに抱きついている。
「そんな・・・どうやって・・・」
「うふふふふ・・・それはすぐにあなたにもわかるわ。あなたにもナイローンスキンを着せてあげる。私たちの可愛いペットにしてあげるわ。うふふふふ・・・」
「この女を連れて行け」
「「ナイローン!!」」
コマンダーパープルの命に周囲に控えていたベージュたちがいっせいに橙実を押さえつける。
「いやっ! 離して! いやぁっ!」
ベージュたちに無理やり引き立てられる橙実。
「うふふふふ・・・心配しなくてもすぐにあなたもナイローンのすばらしさがわかるようになるわ。あなたにはオレンジ色のナイローンスキンを用意してあげるわね」
「いやぁっ! そんなのいやぁっ!」
必死に逃げようともがく橙実。
だが、彼女もろともすべてを闇が飲み込んでいき、それが晴れたあとには誰も残ってはいなかった。
******
全身を自らの手で撫で回しているオレンジ色の全身タイツの女。
スベスベのナイローンスキンが全身を覆い、その感触を指先で味わっているのだ。
頭部にはもはや鼻や眼窩の凹凸はなく、タマゴのようにつるんとして何の表情も浮かんではいない。
だが、彼女が気持ちよさを味わっていることは間違いないだろう。
「うふふふふ・・・ナイローンスキンに全身を覆われた気分はどうかしら、沓木橙実さん? いえ、いまはナイローンのオレンジだったわねぇ。うふふふふ・・・」
うっとりと全身を撫で回しているオレンジ色の女に近づく暗赤色の女。
「ああ・・・はい、クリムゾン様。最高の気分です。なんて素敵なの・・・私はもう人間なんかじゃないわ。ナイローンのオレンジですぅ」
甘い声で返事をするオレンジ。
あのあと橙実は躰の動きを封じられ、無理やりナイローンスキンを着せられて身も心もナイローンの女へと変化させられてしまったのだ。
「うふふふ・・・本当かしら? あんなにナイローンスキンを身に着けるのを嫌がっていたくせに」
クリムゾンが笑いながら意地悪を言う。
さっきまで橙実は必死に抵抗していたのだ。
「ああ・・・クリムゾン様ぁ、意地悪を言わないで下さい。あの時は私はまだ人間という下等な存在だったため、ナイローンスキンのすばらしさを知らなかったんです。今の私はもう身も心もナイローンの女ですわ。ナイローンにすべてをささげます」
立ち上がって忠誠の証に右手を上げるオレンジ。
その手をそっと取って下げさせると、クリムゾンはオレンジを抱きしめる。
「うふふふ・・・それでいいのよ。可愛いわ、オレンジ。今日からあなたは私とコマンダーパープル様のペットになるの。いいわね」
「はい、クリムゾン様。オレンジは喜んでクリムゾン様とコマンダーパープル様のペットになります。どうか可愛がってくださいませ」
クリムゾンに抱きしめられ喜びに打ち震えるオレンジ。
「もちろんよ。あなたは永遠に私たちの可愛いペット。私と一緒にコマンダーパープル様の下で人間どもを駆逐いたしましょう」
「はい、クリムゾン様。ナイローン!」
「ナイローン!」
二人の全身タイツの女たちが声をあげ、お互いの躰を撫で回す。
ナイローンの女たちは二人で抱き合い、自らを生まれ変わらせてくれたナイローンスキンの心地よさに時を忘れて酔いしれるのだった。
終わり
いかがでしたでしょうか?
今回は舞方の趣味がモロに出まくりだったかもしれませんね。(笑)
よろしければ拍手感想などいただけますとうれしいです。
それでは次回作でまたお会いいたしましょう。
ではまた。
- 2011/07/19(火) 21:15:04|
- クリムゾン
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| コメント:4
6周年記念SS「クリムゾン」の二回目です。
楽しんでいただけますとうれしいです。
それではどうぞ。
2、
「だが、お前のことを調べるうちに、俺は奇妙な感情を持つようになってしまった。お前が人間であることに困惑し、残念でならなくなってしまったのだ」
「残念?」
「そうだ。紅澤夕子よ、なぜお前ほどの能力を持った者が人間のような下等な存在でいるのだ? お前のような女はナイローンにこそふさわしいではないか」
「そんな・・・」
夕子は困惑する。
まさか敵であるコマンダーパープルから、自分の能力を認められるとは思わなかったのだ。
「いや、そしてそれ以上に俺はお前に魅力を感じていたのだ。その美しい姿。見事なプロポーション。ナイローンの女たちにもお前ほどのスタイルを持ったものはそうはいない」
「そ、それは・・・ありがとうというべきなのかしら・・・」
両腕を掴まれ、裸という屈辱的な状態に置かれながら、敵に褒めてもらうという奇妙な状況に夕子は戸惑っていた。
だが、褒めてもらって悪い気はしないのも事実だったのだ。
「紅澤夕子。お前の唯一の欠点はお前が人間であるということだ。目、鼻、耳、口などという器官を持ち、そのようなものに頼って外部情報を得なくてはならない下等な生物の人間であるということだけがお前の欠点なのだ」
「そんなことを言われても・・・」
思わず苦笑する夕子。
人間であることは彼女にはどうしようもないし、今まで人間であったことに疑問を感じたこともない。
「クククク・・・紅澤夕子よ、俺はいつしかお前を俺のそばに置きたくなっていた。俺のそばで俺に可愛がられ俺に尽くす女・・・そう、お前を俺の女にして俺のそばに置いておきたくなっていたのだ」
「ええっ?」
思わず声をあげてしまう夕子。
今までいろいろと褒め言葉を並べてきていたのは、自分の女にしようと考えていたからだというの?
「じょ、冗談じゃないわ。誰があなたの女になどなるものですか!」
身をよじって何とかベージュの女たちの手を振り解こうとする夕子。
だが、女たちにぎゅっと力を入れられてしまうと、やはり振りほどくことはできない。
「離して! 私は死んだってあなたの女になんかならないわ!」
もがきながらもキッと夕子はコマンダーパープルをにらみつける。
「だいたい私は人間よ! あなたたちのようなナイローンじゃないわ。下等な人間なんかを自分の女にしたりしたら気分が悪くなるんじゃないかしら」
夕子はあえて下等な人間と言ってみる。
敵の女として慰み者になるぐらいなら、死んだほうがマシなぐらいだ。
「ククククク・・・そうだな。確かに人間のお前を我が物にするつもりは無い」
「だったらさっさと殺したらどう?」
夕子は自分の思惑に相手が嵌まったと思い笑みを浮かべる。
これで敵の女になどならずにすむというものだ。
「ククククク・・・そう言うな。いいものを見せてやろう」
コマンダーパープルが指を鳴らす。
「いいもの?」
夕子の顔から笑みが消える。
いったい何を見せられるというのか?
夕子はこれから何が起こるかわからぬままコマンダーパープルを見上げていた。
『いやっ、はな・・・離して! いやぁっ!』
夕子の耳に聞きなれた声が聞こえてくる。
「えっ?」
ANファイターたちが絶賛する甘い声。
その声が悲鳴を上げているのだ。
「か、神原さん?」
思わず夕子も声をあげる。
すると暗闇の中に一糸まとわぬ姿の神原倫子が姿を現した。
「神原さん」
「あ・・・司令。助けて! 助けてください紅澤司令!」
必死に夕子に助けを求める倫子だが、その両腕はやはり夕子と同じくベージュの女どもに押さえられ身動きが取れないようになっていた。
「クッ・・・コマンダーパープル、彼女を放してあげて。私は・・・私はどうなってもいいわ。だから彼女を助けてあげて。彼女はただのオペレータよ。単なるオペレーター一人ぐらいどうってことないでしょ」
夕子も両腕をはずそうともがきながら、コマンダーパープルに訴える。
自分が狙われたことで巻き添えにしてしまったのだ。
何とか彼女を助けたかった。
「クククク・・・そうはいかん。そこでおとなしく見ているがいい」
コマンダーパープルが倫子に向かって手をかざすと、必死にもがいていた彼女の動きが止まってしまう。
「えっ? いやぁっ! 何で? 何で私がこんな目に遭うの? あなたたちの狙いは紅澤司令なんでしょ? だったら司令だけを狙えばいいじゃない! どうして私が司令のために巻き添えにならなきゃいけないのぉ!」
躰の動きを止められたことでパニックになったのだろう。
もう自分が何を言っているのかもわかっていないかもしれない。
だが、これが彼女の本音なのだろう。
もしかしたら彼女にとってはANT本部のオペレーターという仕事は、単に給料がよく見栄えがいいという程度の思いだったのかもしれない。
「神原さん・・・えっ? あれは?」
夕子は倫子の言葉に自分の無力感を感じながらも彼女を見つめていたが、倫子に別のベージュの女が近づいてきたことに気がついた。
そしてそのベージュの女がその手に同じベージュ色のものを持っていることにも気がついていた。
「コマンダーパープル! 彼女に何をするつもり? やめさせて!」
「おとなしく見ているのだ、夕子よ」
コマンダーパープルは夕子を一瞥し、そのまま倫子に手をかざし続ける。
おそらくこれで倫子の動きを封じているのだ。
「いや! いやぁっ! 何それぇ!」
倫子の前に立つベージュの女が手にしたベージュ色のものを広げる。
それは夕子や倫子の両腕を押さえているベージュの女たちが身に着けているベージュ色の全身タイツだった。
「ベージュの・・・全身タイツ?」
「クククク・・・そういうことだ。我らはナイローンスキンと呼んでいるがな」
夕子の疑問に笑いながら答えるコマンダーパープル。
「いやぁっ! やめてぇっ! いやぁっ」
狂ったように泣き喚く倫子。
だが、コマンダーパープルのせいで躰はまったく動かない。
もがくことさえできないのだ。
そんな倫子にベージュの女たちが群がり、彼女にベージュの全身タイツを着せていく。
「いやぁっ! 私何にもしてないのにぃ! いやぁっ!」
動けない倫子は、まるで着せ替え人形が衣装を着せられるかのように全身タイツを着せられていく。
両足から腰、そして両腕を通され、頭からはすっぽりとマスク部分が覆いかぶさる。
そして背中の開いた部分が閉じられると、倫子の躰はすっぽりとベージュ色の全身タイツに包まれる。
それを夕子はただ黙って見ているしかなかった。
「クククク・・・これでいい」
コマンダーパープルがかざしていた手を下に下げる。
すると倫子の躰が自由に動くようになったと見え、倫子は必死になってもがき始めた。
「ああ・・・いや・・・脱がして・・・脱がしてぇ・・・」
全身タイツを着せられた倫子からベージュの女たちが離れていく。
その場に放り出された倫子は、必死になって着せられた全身タイツを脱ごうと躰のあちこちをまさぐるが、どうにも脱ぐことができないらしい。
「ああ・・・あああ・・・ああ・・・ん・・・」
「神原さん! えっ?」
見ていることしかできない夕子は、せめて声だけでもと思い彼女を呼ぶが、そのときじょじょに倫子の様子が変わってきたことに気がつく。
先ほどまで必死に脱ごうとしていたはずなのに、彼女はいつしか全身タイツに覆われた自分の躰を愛撫し始めていたのだ。
「ん・・・んん・・・はあん・・・何これぇ・・・気持ちいい・・・気持ちいいわぁ・・・」
両手で全身を撫で回しうっとりとした声をあげる倫子。
ベージュ色の全身タイツに包まれたまま寝そべるように横になると、そのまま両手で躰を撫でていく。
それと同時にうめき声も上げなくなり、夕子の左右にいるベージュの女たちのように無言になっていったのだ。
「神原さん・・・あなた・・・」
夕子は目の前で起こっていることに愕然とした。
ナイローンの多数を占めるベージュの女たちは、得体の知れない存在などではなく、こうして人間から作られたというのか?
やがて無言でゆっくりと立ち上がる倫子。
その姿はもはや周囲にいるベージュの女たちとなんら変わらない。
先ほどまでマスクをかぶせられたように顔の凹凸があったものが、今はすっかりなくなってまるでタマゴのようにつるんとした頭部になっている。
おそらくちょっと位置が入れ代わっただけで、もう彼女を見分けることはできないだろう。
立ち上がった倫子は、今まで彼女を押さえていたベージュの女たちと一緒にコマンダーパープルのところにやってくる。
そして全員がいっせいに右手をスッと上げ、ナイローンの敬礼をした。
「クククク・・・それでいい」
敬礼したベージュの倫子のあごを持ち上げるコマンダーパープル。
「お前はもう我らナイローンのベージュの一員。これからはナイローンにその身をささげるのだ。いいな」
「ナイローン!」
誇らしげに声をあげる倫子。
いや、もう彼女は神原倫子ではない。
目も鼻も耳も口もなく、顔の凹凸すらなくなったタマゴ形の頭部を持つベージュ色の女。
ナイローンの女戦闘員ベージュになってしまったのだ。
「そうやって・・・そうやってベージュの女たちを増やしていたというの? まさか・・・まさかナイローン全員が、元は人間だと?」
「そうではないが、我らの仲間を増やす手段の一つではある」
ベージュとなった倫子のあごから手を放し、夕子に向き直るコマンダーパープル。
倫子を含むベージュたちは、手を下ろし、そのまま彼の背後に直立した。
「私をあなたの女にするって言ってたけど、私も神原さんと同じようにベージュにするつもり?」
「む? クックックック・・・」
夕子の質問に笑い出すコマンダーパープル。
「お前をベージュにだと? そんなことをするものか」
「えっ?」
「ベージュは盲目的に命令に従ういわば人形のようなもの。そのようなものにお前を変えたとて面白くもなんともない。お前にはしっかりとした自我を持ち、その上で俺の女になってもらわねばならんからな」
「そんな・・・」
夕子は青ざめた。
自らの意思でこの男にひざまずくようになるというのか?
そんなことはありえないと思うものの、コマンダーパープルの背後に忠実に立っているベージュの一人になってしまった倫子のことを考えれば、自分もそうなってしまうことは充分に考えられる。
だが、敵の司令官の女になるなんて死んでもいやだ。
でも、今の状況ではおそらく死ぬこともできそうに無い。
舌を噛み切ったって人間は死ねるものではないのだ。
どうしたらいいの・・・
ぱちんと指を鳴らすコマンダーパープル。
それに合わせてベージュの一人が新たにたたまれた布を持ってくる。
コマンダーパープルはそれを受け取ると、夕子の前で広げて見せた。
「赤い・・・全身タイツ・・・」
それは血の色にも似た少し暗めの赤の全身タイツだった。
「ククククク・・・そうだ。お前のために特別に用意したナイローンスキン。クリムゾンのナイローンスキンだ」
「それを私に・・・」
「そうだ。お前はこれを着て俺の可愛いクリムゾンになるのだ」
「ああ・・・いやっ、そんなのいやっ! いっそ殺して! 殺しなさいよ!」
夕子は死に物狂いで暴れ始める。
何とか両腕を振りほどき、この場を逃げ出すのだ。
背後から撃たれようが斬られようがかまわない。
むしろ殺してもらいたいぐらいなのだ。
そのためにもとにかく両腕を押さえているベージュから逃れなければ・・・
「ククククク・・・無駄なことだ」
クリムゾンのナイローンスキンを傍らのベージュに手渡すと、コマンダーパープルが暴れる夕子に向かってスッと手をかざす。
「ああ・・・」
たちまち躰が動かなくなる夕子。
全身がまるで何かに固められたかのようにピクリとも動かせなくなったのだ。
口までも動かせなくなってしまい、死ねないまでも抵抗の意味で舌を噛み切ることすらできはしない。
「あ・・・ああ・・・」
「クククク・・・お前の場合には口も動かせなくしたほうがよかろう。いままで何人もの人間の女どもにナイローンスキンを着せてきたのだ。中には舌を噛もうとした奴もいたが、そんなことをしても苦しいだけだぞ。どうせナイローンの一員になれば口など消滅してしまうのだ。舌を噛み切ったところで意味は無い」
ああ・・・そんな・・・
身動きもできずコマンダーパープルの言葉を聴くしかない夕子は絶望に打ちひしがれる。
夕子が失踪したことは今頃ANT本部でも騒ぎになっているだろうが、おそらく居場所がわかっていないであろう現状では、ANファイターたちが助けに来てくれるとは思えない。
夕子の胸に絶望が募り、目から涙が一筋零れ落ちた。
「ククククク・・・心配するな」
コマンダーパープルが右手をかざしたままで、左手の指で夕子の涙をぬぐう。
「このようなものを流す必要ももうなくなる。すぐにお前の心もナイローンにふさわしいものとなるのだ。お前の顔は嫌いではないが、やはりお前には目も鼻も口も耳も無いほうが美しい」
「う・・・うう・・・」
「さあ、ナイローンスキンを着せてやれ」
あごでベージュたちに命じるコマンダーパープル。
「「「ナイローン!」」」
すぐにベージュたちが夕子に群がり、動かせない手足を勝手に動かして暗い赤色の全身タイツを着せ始める。
この中には先ほどまで人間だった倫子も混じっているのだろう。
着せられてしまえば自分もナイローンにされてしまうのだ。
「ああ・・・あああ・・・」
口も動かせないのでいやだと叫ぶこともできない。
どうすることもできない無力さに、夕子は打ちひしがれていた。
ベージュたちは夕子の片足ずつを持ち上げて足を通し、たくし上げるようにして全身タイツを腰まで持ち上げると、今度は片腕ずつそでに通していく。
自分の躰が得体の知れないものに包まれていくことに、夕子はおぞましさを禁じえない。
だが、自分の躰なのに自分の力では動かせないのだ。
「うう・・・ううう・・・」
夕子はただうめくことしかできなかった。
両手両足が覆われると、必然的に首から下がほとんど全身タイツに覆われることになる。
着せるための入り口である背中はまだ開いたままだが、前はもう暗い赤色に覆われてしまっていた。
やがてベージュの一人が、夕子の首のところに溜まっていた頭部のマスク部分を持ち上げて、夕子の頭にかぶせていく。
「うう・・・あああ・・・」
夕子は何とか抵抗しようとするものの、身動きができない状況ではどうしようもない。
夕子の頭にマスク部分がかぶせられ、目の前が暗い赤に染まっていく。
呼吸も若干息苦しくなり、マスク越しに息をするしかない。
そして最後に背中が閉じられ、夕子の全身は暗い赤色の全身タイツに覆われた。
- 2011/07/18(月) 21:10:38|
- クリムゾン
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本日朝8時ごろ、当「舞方雅人の趣味の世界」は
280万ヒットに到達いたしました。
6周年到達とほぼ同時に280万達成とはいいめぐり合わせに感じますね。
これもひとえに皆様のおかげでございます。
本当にありがとうございます。
昨日より始まりました短編SS「クリムゾン」が、期せずして6周年記念と280万記念の役割を背負ってしまいましたが、「クリムゾン」とは別のSSも構想しておりますので、遠くないうちに書き上げられればいいなぁと思っております。
まだ先になるとは思いますが、どうかお待ちくださいませ。
「クリムゾン」は今晩2回目を投下する予定です。
お楽しみに。
あらためまして、皆様本当にありがとうございました。
- 2011/07/18(月) 09:29:21|
- 記念日
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今日より三日間で、6年連続更新達成記念SSを一本投下させていただきます。
タイトルは「クリムゾン」です。
舞方の趣味全開の短編ですが、楽しんでいただけますとうれしいです。
それではどうぞ。
1、
201X年、日本は恐るべき危機を迎えていた。
「暗黒帝国ナイローン」と名乗る軍団が、突如侵略を始めたのだ。
どこからともなく現れる異形の軍団。
それはまるで人間がナイロンのベージュ色の全身タイツを身に着けたような、スベスベした体表を持つ目も鼻も耳も口も無い姿の連中だった。
しかも、そのベージュの全身タイツの連中はいずれもがスタイルのいい女性形をしており、男性形と思われるのはわずかに彼女らの指揮を取る「コマンダーパープル」と呼ばれる紫色の全身タイツに黒いマントを羽織った男と、「ナイロン獣」と呼ばれる動物の模様の付いたカラフルな全身タイツを着た者の一部だけだった。
彼らナイローンの攻撃に日本は窮地に陥った。
ベージュの全身タイツを着た女たちは集団で破壊活動を行い、それに対抗すべき警察も防衛隊も歯が立たなかったのである。
拳銃や機関銃の弾はその全身タイツを撃ち抜けず、大砲やミサイルは周囲に与える被害が甚大すぎて見合わない。
ベージュの女を一人倒すのにビルを一つ壊すわけにはいかないのだ。
さらに彼女たちを上回るのがナイロン獣だった。
シマウマ柄や豹柄、うろこなどの模様の付いた全身タイツを身に着けた男女だが、ベージュの女たちの数倍はパワーがあり、戦車の装甲すら拳や爪で引き裂いていく。
彼らもまた目も鼻も口も無い全身タイツ姿だが、動物の模様があったり尻尾や耳が付いていたりすることから識別は簡単である。
色もブルーやグリーンなどベージュの女たちとは違う色だった。
そう、まさに彼らはまるで古い特撮番組のごとく、幹部、怪人、戦闘員といったヒエラルキーを持っており、過去の特撮の悪の組織がそうであったように、手始めにまず日本を征服するという行動にでたのである。
当初たちの悪い冗談としか考えられなかった日本政府も、実際にベージュの女たちを率いるナイロン獣の破壊活動を目の当たりにすると、対策に乗り出さざるを得なくなった。
とはいえ警察も防衛隊も歯が立たない以上、政府に打てる手はほとんど無いに等しかった。
そんな中、ナイローン対策の切り札として設立されたのが、「Anti Nyloon Team(アンチナイローンチーム):略称ANT(アント)」であった。
ANTは日本の各種企業が協力して開発した特殊パワードスーツ「Anti Nyloon Suit(アンチナイローンスーツ):略称ANスーツ(アンスーツ)」を着て戦う五人の男女を中核としたチームで、彼ら五人は「Anti Nyloon Fighter(アンチナイローンファイター):略称ANファイター(アンファイター)」と呼ばれて、ナイローンとの熾烈な戦いを繰り広げることになったのだった。
彼らANファイターの活躍で、ナイローンの侵略活動は大いに阻害されていった。
ナイロン獣はANファイターには歯が立たず、五人のANファイターの繰り出す必殺技に次々と倒されていく。
ナイローンはコマンダーパープルの指揮の下、幾度となくANファイター抹殺を図ったものの、そのつど逆にナイロン獣やベージュの女たちを失う羽目に陥っていたのだった。
******
「お疲れ様でした」
「お疲れ様でした、司令」
夜も更けてきたあたり、カラオケ店の入り口から数人の女性たちが姿を見せる。
いずれも紺のスーツ姿で、仕事帰りのOLたちが数曲歌って楽しんでいたように見えるに違いない。
だが、そのうちの一人の口にした言葉に、声をかけられた女性の表情が引き締まる。
「伊井田(いいだ)さん、本部の外では私のことは・・・」
「あっ、す、すみません」
自分の犯したミスに気がつき、伊井田と呼ばれた女性が頭を下げる。
「くすっ、まあいいわ。本部の外でこうしてあなたたちと一緒にいることなんてあまり無いものね。それに誰にも気付かれなかったようだし・・・」
苦笑しながらも周囲に対する警戒を怠らないその女性が言葉を続ける。
「でも、どこでどうナイローンに情報が洩れるかわからないわ。あなたたちも充分に気をつけてちょうだい」
「「「はい、紅澤・・・さん」」」
背筋をピンと伸ばして返事する女性たち。
その様子は普通のOLとはちょっと言いがたい。
「ほら、そういうところ気をつけないと。今のは誰が見ても変に思うわよ」
「あ、いけない・・・」
顔を見合わせて自分たちも苦笑する女性たち。
今は紺のスーツ姿だが、彼女たちは五人のANファイターたちを陰で支えるANT本部のオペレーターたちなのだ。
そして、彼女たちに注意を与えた中央の女性こそ、これまでANファイターたちに的確な指示を下してナイローンの侵略を食い止めてきたANTの司令官紅澤夕子(べにさわ ゆうこ)である。
「それじゃみんな気をつけてね。明日当直の人は遅れないように。いいわね」
「「はい。お休みなさい」」
三々五々と女性たちが散っていき、夕子も最寄り駅に向かって歩き始める。
ANファイターのおかげでナイローンの襲撃を撃退したばかりなので、今までの経験から言ってここ数日は動きがないはずだ。
この機会に少しみんなで気晴らしをしようということで、今回司令部オペレーターの女性たちとカラオケを楽しんだのだった。
「あ、紅澤・・・さんもこっちなんですか?」
先を歩いていたオペレーターの一人神原倫子(かんばら みちこ)が振り返る。
司令部に配属されて間もない若い女性でくりくりした瞳がかわいらしいが、能力は折り紙付きでその甘い声とも相まってANファイターたちからの人気は高い。
普段は紅澤司令と夕子のことを呼んでいるので、どうにも紅澤さんとは呼びづらそうだ。
「ええ、神原さんもこっちなの?」
夕子は呼び慣れなさそうにしている倫子に苦笑しながらそう答える。
いつも紅澤司令と呼び慣れているのだ。
いきなり紅澤さんと呼ぼうとしてもぎこちなくなってしまうのは仕方が無いだろう。
紅澤先輩とでも呼ばせたほうがいいのかしらと夕子は思った。
聞くと倫子は地下鉄で二駅ぐらいのところに住んでいるらしい。
そう言われればオペレーターとしての身上書に住所が記載されていたことを思い出す。
地下鉄で言えばここから三駅ほどの位置に住む夕子は、意外と近くに部下が住んでいたんだなとあらためて思い、他愛無い話をしながら駅への道を歩いていた。
すっとあたりが暗くなる。
停電になったわけではない。
むしろ闇に覆われたといったほうがいいだろう。
夕子も倫子も突然のことに驚いたが、すぐに周囲を警戒する。
もしかしたらナイローンの奴らが動き出したのかもしれない。
だが、いつもなら少し時間を空けるはず。
先日撃退されたばかりでもう動き出したというの?
夕子は自分たちがパターン慣れしてしまっていたことを後悔した。
「ククククク・・・」
闇の中から人影が現れる。
「誰?」
夕子が鋭い声で人影に向かって誰何する。
「ククククク・・・ようやく会えたようだな、紅澤夕子」
「えっ?」
相手が自分の名を呼んだことに驚く夕子。
闇の中から姿を現したのは、紫色の全身タイツに身を包み肩から黒いマントを羽織った筋肉たくましい偉丈夫と、ベージュの全身タイツに身を包んだ女性たちだった。
「あなたはナイローンのコマンダーパープル!」
夕子は愕然とする。
まさかこんな場所でナイローンの指揮官と出会うなど想像もしていない。
「ククククク・・・会いたかったぞ、夕子」
くぐもった笑い声がコマンダーパープルの顔あたりから発せられる。
そこにはまったく目も鼻も口も無いにもかかわらず、ものを見ることも声を出すことも可能なようで、つるんとしたタマゴ状の頭部のどこにそんな機能があるのか夕子には不思議に思えた。
だが、相手は人間ではないのだ。
人間が全身タイツを着ているような姿をしているからと言って、人間と同じように考えてはならないだろう。
「私の名前を知っている・・・ということは・・・私が何者かも知っているということかしら・・・」
夕子は恐怖に怯える倫子を背後に隠し、コマンダーパープルと向き合った。
それと同時にコマンダーパープルの背後にいたベージュの女たちが散開し、二人を取り囲むように回り込む。
逃げ場は無いということね・・・
夕子の額に汗が浮かぶ。
どの道ベージュの女たちの囲みを破ったところで、この闇の中はおそらく異空間化しているはず。
夕子にここから出る手段は無いのだ。
「もちろんだ。お前は紅澤夕子。我らナイローンの憎き敵ANファイターどもの司令官を勤めている女だ」
「クッ・・・」
やはりそのことも知られていたのね・・・
夕子が歯噛みする。
どこからどう情報が漏れたのかはわからないが、相手のことを探るのが戦略の基本である以上、こちらのことを全力で調べてきたに違いない。
知られるのは時間の問題だったということか・・・
そのことに思い至らず、敵の行動のパターン化に慣れてうかうかと遊びに出た自分がうかつすぎた。
夕子はそう自責の念に駆られる。
「私たちをどうするつもり」
おそらく答えは決まりきっているのだろうが、夕子はそう尋ねずにはいられない。
何とか時間を稼いで仲間がこの事態に気が付いてくれるのを祈るしかないのだ。
「クククク・・・心配するな。お前たちを殺したりはしない」
「えっ?」
夕子は驚いた。
彼らナイローンにとって、ANファイターは目の上のこぶ。
当然その司令官たる夕子はすぐにでも抹殺せずにはいられない憎い敵のはず。
それなのに殺さないというの?
「紅澤夕子。俺はお前に会いたかったのだ。お前を殺すことなど考えてもいない。だから一緒に来るのだ」
夕子の驚きをよそに、両手を差し伸べてくるコマンダーパープル。
周囲のベージュの女たちもじりっと迫ってくる。
「あ・・・あの・・・お願いです」
夕子の背後で震えるようなか細い声を出す倫子。
その顔は青ざめて恐怖におののいている。
「神原さん?」
夕子は背後の倫子に振り返る。
いったい何を言う気なの?
「あの・・・お願いです。私はただのオペレーターなんです。紅澤司令とは違って、ただ仕事だからやっていただけなんです。ANファイターの詳しいことなど何も知らないし知らされてもいません。だからどうか・・・見逃してください」
両手を胸のところで組んで必死に懇願する倫子。
その姿に夕子は哀れさすら感じる。
何を無駄なことを・・・
彼らが私たちを見逃すはずが無いではないか・・・
見逃すつもりなら最初から私だけを確保しているはず・・・
夕子はそう思い無言で首を振った。
「ククククク・・・見逃すことはできんな」
「な、なぜ? どうしてですか? もうナイローンには逆らいません。オペレーターも辞めます。あなたたちの邪魔はしませんから・・・」
半分泣きながら必死に訴える倫子。
ナイローンの恐怖が彼女の冷静さを失わせているのだ。
「クククク・・・たまたま一緒に捕獲してしまったが、お前はいい素体になりそうだからな。さあ、二人とも来てもらおう」
コマンダーパープルがあごでベージュの女たちに指示を出す。
すぐにベージュの女たちが二人に駆け寄り、その腕を両側から拘束する。
「いやっ、いやぁぁぁ!!」
倫子の叫び声が響き必死に逃れようとするが、つかまれた腕はまったく振り解けない。
夕子も無駄だとわかっているので抵抗こそしないものの、その目は射るようにコマンダーパープルをにらみつけていた。
「クククク・・・飼いならされていない野生の目つきか・・・すぐにそんな目など不要にしてやるぞ」
コマンダーパープルが夕子に近づき、あごを持って顔を上向かせる。
「たとえ目をつぶされてもあなたのことをにらみ続けてやるわ」
「それはどうかな・・・ククククク・・・」
コマンダーパープルの手がスッとかざされると、夕子の意識はふっと遠くなってしまう。
「しばし眠るがいい、紅澤夕子よ。ククククク・・・」
コマンダーパープルの含み笑いがあたりに響いた。
******
「う・・・こ、ここは・・・」
冷んやりした空気が肌を撫でるのを感じて目を覚ます夕子。
周囲は相変わらずの闇。
なので周りのことはよくわからない。
「ん・・・」
躰を動かそうとして、夕子は自分が両腕を支えられて立たされていることに気が付いた。
しかも下着すら着けていない裸である。
「えっ? いやっ! 離して!」
羞恥から夕子は両手で胸と股間を隠そうとした。
だが、彼女の左右にはベージュの全身タイツを着た女性たちがいて、夕子の腕をがっちりとつかんでいる。
夕子は必死に腕を振り解こうとしたが、とても彼女の力では振りほどくことができなかった。
「目が覚めたようだな」
カツカツという足音が響き、夕子の前に紫色の全身タイツの男がやってくる。
「コマンダーパープル・・・」
「無駄なことはするな。人間の力でベージュを振り切ることは不可能だ」
「クッ・・・」
夕子は裸を晒している恥ずかしさに顔を赤くしながらも、そのことを認めざるを得ない。
もともと屈強な兵士たちだって、このベージュの女たちには歯が立たないのだ。
彼女の力で振り切るのは不可能だろう。
「な・・・」
夕子が驚いたことに、コマンダーパープルの手が伸びてきて彼女のあごをつかみあげる。
「思ったとおり美しい女だ。人間にしておくのはもったいない」
「な、何を・・・」
夕子は思わず手を振り切って顔を背ける。
「実にもったいない。特にその顔についている余分なものが邪魔だ。目、鼻、耳、口などお前にはまったくふさわしくない」
「な、ふざけないで。人間にとって目、鼻、耳、口は大事なものよ。邪魔だなんてとんでもないわ」
「ふ、そのようなものに頼るから人間は下等なのだ。我らナイローンは全身で感じることができる。そのような特定の器官に頼るようなことは無い」
全身でというのはおそらく事実なのだろう。
夕子の目の前にいるコマンダーパープルもナイロン獣もベージュの女たちも、いずれもが頭部はつるんとしたタマゴ形をしており目、鼻、耳、口は存在しない。
だが、まったく行動に不自由はしていないのだ。
むしろ人間よりはるかに動きがいい。
ANファイターもANスーツがあって初めて互角以上の勝負ができる。
生身の人間ではとても立ち向かえるものではないのだ。
「それにしても会えてよかったぞ、紅澤夕子よ。これで我が望みも叶うというものだ。ククククク・・・」
コマンダーパープルが不気味に笑う。
「それはどうも。私は会いたくなどなかったわ」
視線をはずしたまま吐き捨てるように言う夕子。
「クククク・・・そういうな。俺にとっては待ち望んでいた瞬間なのだ」
「待ち望んでいた?」
「クククク・・・そうだ。待ち望んでいた」
コマンダーパープルの言葉に戸惑う夕子。
自分を殺す瞬間を待ち望んでいたのだろうか?
だが、どうもそうは思えないことが夕子を戸惑わせている。
「紅澤夕子。お前は我がナイローンの憎むべき敵ANファイターの司令官だ。ANファイターはお前の指示のもと我がナイローンの行動を的確に読んで妨害してくれた。おかげでナイローンの日本侵略は大幅に予定を狂わされることになったのだ」
「当然の結果ね。あなたたちにこの日本を自由にさせてたまるものですか」
「クククク・・・だから俺は何とかお前を排除しようとお前のことを調査した。どうすればお前をANファイターから引き離すことができるかを考えたのだ。お前さえいなくなれば、ANファイターどもなどすぐに統率が取れなくなるだろう」
「クッ・・・」
コマンダーパープルの言葉は夕子が危惧していたことでもある。
もともとANファイターの五人はANスーツの適合者ということで選ばれたに過ぎない。
そのためチームワークという面ではいまだに難があることは事実だったのだ。
- 2011/07/17(日) 21:10:07|
- クリムゾン
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2005年7月16日は、当ブログ「舞方雅人の趣味の世界」が始まりました日です。
その日から今日で何と2192日目。
昨日で当ブログは開始以来
丸6年間を経過いたしました。
今日は新しく7年目のスタートです。
皆様本当にありがとうございます。
6年間が終わったということは、小学校に入った子が卒業ということなんですね。
自分でもすごいなぁとちょっとびっくり。
今年の3月にあの震災のため3日間ほどネットにつながらなくなったため、厳密には連続は切れたと言われるかもしれませんが、その間も記事は当日に書いていたので、どうか2192日連続と言いますことをご了承くださいませ。
ここまで来ることができましたのも、本当に皆様のおかげでございます。
ありがとうございます。
今後もここまで来たからにはまずは10年を目指してがんばっていきたいと思います。
そのためにも病気や怪我等には気をつけていかないとなりませんね。
ところで、2ヵ月半もの間SSの投下がなかったことで皆様にやきもきさせてしまったことと思います。
本来この日のために書き始めたものではないので、記念作品といては物足りないかと思いますが、ちょうど新作が間に合いましたので、明日から一本短編を投下したいと思います。
本当に長いことお待たせいたしてしまいまして申し訳ありませんでした。
どうかお楽しみに。
丸6年応援いただきましてありがとうございました。
今後も当「舞方雅人の趣味の世界」をよろしくお願いいたします。
- 2011/07/16(土) 20:44:24|
- 記念日
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学研の「歴史群像」の最新刊です。
表紙はこちら。

今月は第一特集が「衝撃のノモンハン」ということで、ノモンハン事件の特集です。
当ブログでも過去にノモンハン事件の記事を書いたことがありましたので、この記事には興味がありました。
おお、これはというような記事ではありませんでしたが、ノモンハン事件の経緯を手軽に読むにはいい記事だと思います。
第二特集は「島津軍 琉球侵攻」
島津氏の沖縄占領に至った経緯が書かれており、これは個人的に知らないことが多かったので楽しく読ませていただきました。
第三特集が「シャンパーニュ・アルトワ会戦」
第一次世界大戦二年目に行われた連合軍による戦線突破作戦ですが、思ったような成果は上げられずに終わりました。
この記事は当時の仏軍の攻撃がなぜ頓挫したのかをわかりやすく教えてくれます。
ここまでは読み終えたところで、あとまだ連載記事等が未読です。
毎回楽しみにしている雑誌ですので、今回も楽しく読ませていただいてます。
続きを読むのが楽しみです。
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2011/07/15(金) 21:00:20|
- 本&マンガなど
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今年のプロ野球オールスターゲームの、両リーグの「最後の一人」枠が決まりましたー。
セントラルリーグからは読売巨人の澤村投手。
パシフィックリーグからは北海道日本ハムの斎藤投手という新人二人が選出です。
おめでとうございます。
とはいえ、巨人の澤村投手はローテーションでバリバリ活躍していらっしゃいますが、日本ハムの斎藤投手はちょっと選ばれるのが早かったかなという気も。
故障明けからあまり経っていないですし、先日の投球もあまり褒められる内容ではありませんでしたので、今回選ばれたのは知名度の高さ故といったところでしょうか。
もちろん選ばれたからにはがんばって欲しいですし、おそらく1イニング程度の投球になるでしょうから、全力でセ・リーグの打者に向かっていって欲しいところですね。
それに他球団の選手との交流はめったに無いことでしょうから、これを機会にいろいろと話しをして言葉は悪いですが相手の技術を盗んでいってほしいものです。
オールスターはいよいよ来週末ですね。
楽しみです。
もう一つスポーツの話題。
女子サッカーワールドカップドイツ大会で、日本が何と決勝進出です。
決勝の相手はアメリカ。
いままで日本の女子サッカーは気にも留めておりませんでしたが、まさかまさかの決勝進出。
これはもう勢いに乗って何とか優勝して欲しいですね。
こちらも決勝戦が楽しみです。
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2011/07/14(木) 21:17:29|
- スポーツ
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「朝鮮戦争」停戦後の1954年(昭和29年)、日本で航空自衛隊が発足します。
翌1955年(昭和30年)12月、米軍より主力戦闘機としてF-86F型を9機供与されたのが、航空自衛隊在籍のF-86の始まりでした。
さらに翌年の1956年(昭和31年)には171機ものF-86Fが供与され、さらにノースアメリカン社で製造した部品を日本で組み立てるというノックダウン生産で70機のF-86Fが生産されました。
その後は日本の三菱重工においてライセンス生産が行われ、1961年(昭和36年)までに230機の日本製F-86Fが完成し、航空自衛隊におけるF-86Fの総数はなんと480機にも上りました。
ところが、機体は急速に増勢できますが、パイロットはそうそう簡単には訓練できません。
結局パイロット不足のために寝ている機体が何機も現れるという事態となってしまい、これが問題となったことで米軍から供与された機体のうち最初に45機を、のちにさらに15機を返還するというはめに陥ってしまいます。
とはいえ、400機を超えるF-86Fが日本全国に配備されることになり、航空自衛隊の戦力は大きく強化されました。
また、1958年(昭和33年)には、全天候型のF-86Dも米軍から供与が始まり、こちらは122機が配備となりました。
しかし、F-86Dはライセンス生産は行われず、すべて米軍の中古機だったといいます。
残念なことにF-86Dのほうは、F-86Fに比べて故障が多く、特にレーダー等の電子機器は日本の湿気に弱くてうまく稼働しないことが多かったそうで、わずか10年ほどでF-86Dは日本の空から姿を消すことになりました。
しかし、F-86Dによって全天候型戦闘機運用のノウハウを得られたことは、航空自衛隊にとっては大きな意義のあるものでした。
一方400機を超えるほどの大量配備となった日の丸F-86Fは、航空自衛隊の象徴として多くの特撮番組でその姿を見せることになりました。
「ゴジラ」に代表される日本の怪獣映画では、巨大な怪獣を攻撃する自衛隊機として頻繁にF-86F(の模型)が画面に登場しましたのは、多くの方がご覧になったのではないでしょうか。

また、F-86Fは航空自衛隊の戦技研究班である「ブルーインパルス」の初代使用機としても有名で、各地の航空祭などでその優れた飛行技術に見入った方も多いでしょう。
白い機体に青いラインを描いたF-86Fは、大空の青さにとても映えていたのが、記録映像等からもうかがえます

しかし、残念な事故もありました。
1971年(昭和46年)7月30日、岩手県の雫石上空で訓練飛行中のF-86Fは、全日空58便と空中衝突。
旅客機側の乗員乗客162名が全員死亡するという大惨事があったのです。
とてもとても痛ましい事故でした。
1962年(昭和37年)には、航空自衛隊第二世代の戦闘機としてロッキード社のF-104をライセンス生産したF-104Jが配備されて行きますが、F-86Fはその後も数を減らしながらも使い続けられ、支援戦闘機としての任務に就いたりいたします。
そして、最後のF-86Fが航空自衛隊から姿を消したのは1980年(昭和55年)のことでした。
日本のF-86Fは愛称を「セイバー」ではなく「旭光」と名付けられましたが、あまりその名では呼ばれずに「ハチロク」と呼ばれることが多かったようです。
日本の航空自衛隊の黎明期を支えたF-86F。
世界的な名機は日本にとっても名機でした。
それではまた。
- 2011/07/13(水) 21:12:58|
- 趣味
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今日はセイバーの話題。

と言っても、こちらの金髪アホ毛美少女の腹ペコ王様(なんちゅう言い様)のことではありません。
「ノースアメリカンF-86セイバー」のことでございます。
第二次世界大戦も末期、「P-51マスタング」という名戦闘機を生み出したノースアメリカン社も、次期新型戦闘機はジェットの時代になると考えておりました。
そこでノースアメリカン社は、名機マスタングのジェット化という位置づけで新型機の自主開発を行うことにし、主翼尾翼等をそのまま流用して胴体のみをジェット化することにいたします。
ノースアメリカン社はこの自主開発の新型機をアメリカ海軍に提示。
ちょうど海軍側も艦載機のジェット化を考えていたところから、この新型機はアメリカ海軍によりXFJ-1として制式に開発指示が下りました。
これを受けてノースアメリカン社は、更なる受注数増を目指すためにこの機体を陸軍航空軍にも提示。
陸軍航空軍もこの機体に興味を示し、陸上機型をXP-86として開発するようにノースアメリカン社に指示します。
こうして海軍と陸軍航空軍双方からの新型機開発を命じられたノースアメリカン社でしたが、完成した試作機は意外と凡作で、先にリパブリック社が完成させた「F-84サンダージェット」とそう変わらない性能しか出せませんでした。
(ただし、F-84はのちに対地攻撃機として朝鮮戦争で大いに活躍いたします)
このままではF-84との差異を出せないことにノースアメリカン社は悩みました。
ところが、ドイツとの戦争が1945年の5月に終結し、各国の調査団がドイツの技術を奪ってくることができるようになると、XP-86に転機が訪れます。
ドイツの先進的航空技術の一つに翼をまっすぐ横に伸ばすのではなく、斜め後方に延ばしていくという後退翼の技術がありました。
この後退翼の技術をXP-86に取り入れれば、速度性能などの大幅な向上が見込まれたのです。
しかし、後退翼の技術はまだ未知数でした。
さらにノースアメリカン社の設計者の中には、「俺たちの戦闘機をドイツ機にするつもりか」と反対するものもいたといいます。
アメリカ海軍もまた後退翼には懐疑的で、従来の直線翼のまま試作機を作るようにノースアメリカン社に命じました。
こうして海軍のジェット機は直線翼のFJフューリーとして完成することになります。
しかし、こうした反対もありましたが、ノースアメリカン社はXP-86を後退翼の機体として完成させることにし、主翼尾翼の改設計を行います。
こうして新たに後退翼の戦闘機として完成したXP-86の試作機は、1947年10月1日に初飛行を行いました。
名機にはいろいろと逸話がつきものにもなりますが、XP-86は初飛行の時点で運の良さに恵まれました。
この日初飛行したXP-86は、いざ着陸するというときに前輪がロックされないという故障を起こします。
前輪がロックされなければ、着地のときに前のめりに滑走路に激突してしまいかねません。
テストパイロットは機首をなるべく上に上げた状態で着陸しましたが、このとき主輪が地上に着地したショックで前輪のロックがかかるという偶然が起こり、XP-86は無事に着陸できたのです。
XP-86は試験を優秀な成績でクリアしていくことになりますが、1947年の10月19日には、降下速度で音速を超えることにも成功。
陸軍航空軍は制式に「P-86」、愛称を「セイバー」として採用を決定します。
翌年アメリカ陸軍航空軍は制式に空軍として独立。
これを機にPナンバーからFナンバーへと変わり、P-86はF-86へと変更されました。
1950年に「朝鮮戦争」が始まると、アメリカは国連軍として朝鮮戦争に参加します。
序盤では第二次大戦で活躍したB-29やF-51(P-51)のようなプロペラ機や、F-80CやF9Fのような直線翼のジェット機が活躍いたしますが、やがて北朝鮮側には強力な戦闘機であるソ連製のMig-15が配備され始めます。
Mig-15はソ連がドイツの技術を手に入れて製作した後退翼のジェット戦闘機でした。
朝鮮半島上空に現れたMig-15の前に、アメリカ軍はおろか国連軍の直線翼型ジェット戦闘機は苦戦を強いられることになったのです。
Mig-15の登場にアメリカ空軍は同じ後退翼のジェット戦闘機であるF-86を投入いたしました。
この時点でF-86は初期型のF-86AからF-86Eに発展しており、さらに決定版のF-86Fも朝鮮戦争に投入されます。

F-86とMig-15は朝鮮半島上空で死闘を繰り広げました。
同じドイツの後退翼技術で作られたライバル同士でしたが、最終的にはF-86側がMig-15を圧倒いたしました。
ただ、12.6ミリ機銃6挺しか装備していないF-86は、Mig-15を撃墜するのは結構難しかったとも言います。

(航空ショーで一緒に飛行するF-86とMig-15)
F-86はその後西側各国で主力戦闘機として使われました。
アメリカだけではなくカナダ、オーストラリア、イタリア、日本でライセンス生産され、その総生産機数は8600機を超えたといいます。(一説では9000機越えとも)
タイプも昼間戦闘機型のF-86Fのほか、レーダーを装備して全天候型戦闘機としたF-86Dも作られ、アメリカ海軍も海軍型のセイバーとしてFJ-2として採用しました。
使用国は35ヶ国以上に及び、まさに大ベストセラー戦闘機となったのです。

空対空ミサイルで初めて敵機を撃墜したのもF-86でした。
台湾の中華民国空軍のF-86Fが、赤外線ホーミングミサイルである「サイドワインダー」を使い、中華人民共和国(中国)空軍のMig-17を撃墜したのです。
1958年9月24日のことでした。
F-86は1960年代はおろか1970年代になっても使われ続け、最終的には1980年代前半になってようやく各国の空軍から退役いたしました。
まさに息の長い名戦闘機であり、各国の空軍に与えた影響も少なくありませんでした。
それは、日本の航空自衛隊に対しても同じだったのです。
続く。
- 2011/07/12(火) 21:42:31|
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今月の「タミヤニュース」507号が到着。
こちらが表紙です。

今月号の表紙は第二次世界大戦中の第8空軍の爆撃中隊のマーク二種とのこと。
そう言われますと、二つとも爆弾持ってたり落としてたり。
連載記事の「第二次大戦イタリア軍装備解説」は、M40/M41/M42自走砲の後編。
タミヤからもセモベンテとして模型化されているM40ですが、北アフリカ戦線のイタリア軍車両としては一番強力な砲を積んでいる車両だったらしく、ドイツ軍にも信頼されていたらしいです。
イタリア降伏後はこのM40もドイツ軍に捕獲使用されたとのことですが、なんとなくイタリア兵が乗るよりもドイツ兵が乗ってドイツの黒い十字マークつけたほうがかっこよく見える気がするのは私だけ?
ASLのドイツ軍モジュール「Beyond Valor」にも、ドイツ軍車両の一つとしてユニット化されてますね。
新製品紹介では、P-51Dマスタングが1/32で登場とのこと。
実機を製作していたノースアメリカン社の資料を保管しているボーイング社にまで当たって実機の資料を手に入れ、精密に作り上げた決定版だそうで価格も一万円越え。
でも写真を見てもそのすばらしいできばえが感じられますね。
戦車のほうでは初期の中東戦争で活躍したイスラエルのM1スーパーシャーマンが登場。
主砲が長砲身の76ミリ砲に換装され、基となったM4とは印象が変わった感じです。
イスラエルはM4をとにかく徹底的に使いまくりましたからねぇ。
今回印象に残ったのは、今年の静岡ホビーショーにはるばるいらっしゃったというスペイン人のプロモデラーの方の手記を2ページに渡って記載されていることでしょうか。
やはりスペインでは今回の震災で日本壊滅的な報道がなされているらしく、この方も周囲に猛反対されたらしいけれど、幸い日本にご友人がいるらしく、静岡のあたりは特に問題ないことを知り来日したらしい。
それで来日してホビーショーに参加して、やっぱり日本に来てよかったと思ったそうです。
今回そのことを手記にしてタミヤニュースに寄稿してくれたようですけど、日本に来てよかったという外国の方の声を聞くのはうれしいですよね。
今月も面白いタミヤニュースでした。
それではまた。
- 2011/07/11(月) 21:31:20|
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昨晩は恒例のGoma様とのVASLによるASL対戦。
先日購入したエキスパンションキットのシナリオをやろうということで、久しぶりにSKルールのシナリオ対戦となりました。

対戦したシナリオはS44「Across The Border」
第二次大戦開始直後のポーランド軍対スロバキア軍の戦いです。
このシナリオは、第二次世界大戦が始まった直後、ドイツ軍によるポーランド侵攻と呼応する形でドイツの同盟国となったスロバキア軍もポーランドに侵攻を開始するのですが、その場面を扱ったシナリオです。
私が防御側のポーランド軍を、Goma様が攻撃側のスロバキア軍を担当いたしました。

これが開始時点の両軍の初期配置。
薄いグリーンがポーランド軍で、鮮やかなグリーンがスロバキア軍です。
(厳密には薄いグリーンは連合軍側中小国ユニットで、鮮やかなグリーンは枢軸軍側中小国ユニットです)
ポーランド軍の一部がうっすらと表示されているのは隠匿配置されているためで、私には見えてますが、Goma様側のパソコン画面には表示されません。
Goma様はこちらのユニットがどこにいるかはわからないわけです。
兵力はポーランド軍が指揮官二名と6個分隊、一方のスロバキア軍が指揮官二名と10個分隊プラス装甲車4両となりますが、スロバキア軍の10個分隊の半分は2ターン目にならないとやってきません。
勝利条件はスロバキア軍がゲーム終了時点で6点を確保すること。
装甲車1両が盤の左側に真ん中の道路と一番下の道路から出るたびに1点が、M7、M5、K6の建物をスロバキア軍が支配するごとに2点が入りますので、それを組み合わせて6点取ればいいわけです。
ポーランド軍としては、スロバキア軍の装甲車が4両とも突破してしまうと、それだけで4点取られてしまいますので、何とか突破を阻止したいところなのですが、肝心の対装甲車両用の兵器がたった1挺の対戦車ライフルしかなく、1挺ある中機関銃がかろうじて対装甲車両に使えるというぐらい。
非常に心もとないものなのですが、この心配はのちに最悪な状況で的中してしまいます。

スロバキア軍の第一ターンが終了したところ。
この時点では双方ともに損害はありません。
ポーランド軍の隠匿ユニットも姿を隠したままです。

スロバキア軍の第二ターンが終了したところです。(マーカー類ははずしてあります)
こちらの射撃でスロバキア軍の一個ユニットが混乱しましたが、L8の建物ではスロバキア軍とポーランド軍の白兵戦が始まっています。

スロバキア軍の第三ターンの終了時です。
何ということでしょう。
スロバキア軍の装甲車が、全部盤外に突破してしまったじゃないですか。
残念ながらポーランド軍の対戦車ライフルは絶好のチャンスに射撃をはずしてしまい、まったく何もできなかったのです。
また、もう1挺の機関銃のほうもROFという複数射撃回数がうまく回り合計三回も装甲車に銃弾を命中させることに成功したにもかかわらず、1発も貫通させることができずにすべての装甲車の突破を止めることができなかったのです。
これでスロバキア軍は4点をこの時点で確保してしまいました。
さらにL8に続いてK6でも白兵戦が始まってしまいました。

スロバキア軍の四ターン目の終了時です。
このシナリオはわずか4.5ターンしかなく、スロバキア軍にとっては時間との勝負でしたが、この時点でK6の建物が奪われてしまいました。
これで合計6点。
スロバキア軍はあとはポーランド軍に奪い返されなければいいだけです。
結局この後ポーランド軍はK6の建物を奪い返すことができませんでした。
スロバキア軍の勝利でした。
明らかにあららっという間に4両の装甲車に突破されてしまったことがポーランド軍の敗因でしょう。
とはいえ、装甲車に対抗できる兵器が対戦車ライフルと機関銃各1挺では撃破はなかなか難しいです。
ただ、対戦車ライフルは当たればサイコロ二個で5以下ぐらいで撃破なので、サイコロの目がよければ1両2両やっつけることも可能ではあるんですけどね。
今回もまた負けてしまいました。
次回はこれの入れ替え戦です。
なんだか今度は対戦車ライフルに活躍されそう・・・かも。
今日はこれにて。
それではまた。
- 2011/07/10(日) 20:53:09|
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先日、コマンドマガジン日本版24号付録の「仁川上陸作戦 マッカーサーの賭け」のユニットを切ったという話をしましたが、今日はこちらもユニットカット。

コマンドマガジン日本版25号付録の「Strike North スカンジナビア電撃戦」です。
このゲームは、第二次世界大戦時のスカンジナビア半島(ノルウェー・スウェーデン・フィンランドのある半島)を舞台にしたゲームでして、メインは仮想戦である1943年のドイツ軍によるスウェーデン侵攻作戦と、連合軍によるノルウェー上陸作戦を扱った「1943年ゲーム」です。
スウェーデンは、実際には第二次世界大戦中は中立を守ったわけですが、1943年にドイツは対ソ戦の「ツィタデル作戦」でソ連軍に痛撃を与えたあと、余剰兵力をもってスウェーデンに侵攻するつもりだったそうです。
このゲームでは、その「ツィタデル作戦」がうまく行ったという設定でドイツがスウェーデンに侵攻したらどうなったかというシナリオと、それとはまったく逆に、1943年に行われた連合軍の「ハスキー作戦(シシリー上陸作戦)」が、地中海のシシリー島ではなくスカンジナビア半島のノルウェーに行われたという設定で、米英連合軍がノルウェーに侵攻してくるシナリオを楽しむことができるゲームとなっています。
バランス的なものはまだソロプレイもやっていないのでよくわかりませんが、仮想戦ですのである程度はバランスが取られているのではないかなと予想していますけど、どうなのでしょうか。
ユニットを見る限りにおいては、やはりドイツ軍の装甲師団は強力のようです。
連合軍としては、海上からの砲撃支援と航空機による支援が欠かせないことになるでしょう。
また、このゲームは、同じマップを使って仮想戦ではなく実際に1941年にドイツ軍によって行われたノルウェー侵攻作戦を扱う「1941年ゲーム」をプレイすることもできます。
ユニットはまったく共通性はなく、「1941年ゲーム」用のユニットを使うことになりまして、そこに「1943年ゲーム」ルールと一部「1941年ゲーム」用ルールが加わるという、いわば二つ目のゲームが入っていると言っても過言ではありません。
こちらはユニットそれぞれが隠蔽マーカーによって戦力がわからないまま移動するので、弱小と思ったら強力だったとか、強力だと思って手を出さなかったら実は弱小だったとかが楽しめそうです。
さすがにこちらはソロプレイはしづらいので、どなたかと対戦ということになるでしょうが、はたして対戦してくださる方はいらっしゃいますでしょうかね。
スカンジナビア半島というマイナーな地域を舞台にし、さらに仮想戦ということでなかなかテーマ的には食指が動くものではないのですが、これもずっと死蔵されていたゲームですので、ここらで一つプレイしてやりたいものだと思います。
今日はこれにて。
それではまた。
- 2011/07/09(土) 21:18:18|
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1944年の1月に初飛行が行われたアメリカ軍のジェット戦闘機P-80シューティングスターは、優秀ではありましたがその後もトラブルが続き、結局第二次世界大戦には間に合いませんでした。
これは昨日も書きましたが、P-80そのもののトラブルもさることながら、ジェット機という新技術に不慣れな現場支援体制というものも大きな要因の一つでした。
本来であればこの時点で乗員訓練と整備等の支援体制訓練に使えるジェットの練習機があればよかったのですが、第二次世界大戦中ということもあり、米軍はジェット練習機をつくろうとはしませんでした。
そこでロッキード社は、P-80の訓練はP-80を基にした練習機があればいいんじゃないかということで、P-80を複座にした練習機を自主開発することにします。
これは開発開始が1947年ということもあり、P-80C型をベースに行われましたが、胴体を若干延長して後部座席を据え付け、そのぶんの重量軽減として12.7ミリ機銃を6挺から2挺に減らす程度の改造で済まされました。
こうして完成した複座練習機型は1948年3月に初飛行を行いますが、操縦特性はP-80Cとほとんど変わらず、何の問題もありませんでした。
米空軍はすでにこの初飛行前からジェット練習機の必要性を感じていたので、ロッキード社に対しTF-80C(空軍独立でPからFに変更、Tは練習機の意味)として制式採用することと20機の生産を行うよう指示しておりましたが、ロッキード社はこれから各国空軍がジェット化を迎えるにあたりジェット練習機を必要とするはずだとの思いから各国に売り込みをかけました。
すると、驚いたことにこの練習機は多くの国から引き合いがあり、ロッキード社に発注が寄せられます。
その後TF-80Cから練習機専用ナンバーとしてT-33という機種番号に変更となりますが、元が戦闘機だったT-33は操縦が難しすぎず易しすぎもしないという練習機にぴったりの操縦性を持っていたため、最良の練習機として各国が装備いたしました。
最終的には6500機を超えるという練習機としては驚異的な生産機数となり、練習機の大ベストセラーとなったのです。

このT-33練習機は、太平洋戦争後新たに設立された日本の航空自衛隊にもアメリカから戦闘機のF-86Fとともに供与が行われ、最終的には69機のT-33がアメリカから供与されました。
そして日本でも川崎重工がライセンス生産を行い、210機の日本製T-33が航空自衛隊のパイロット養成に使われたのです。
(この210機と、カナダ製CT-133の656機を含めて先ほどの総生産数6500機以上という数字になります)
T-33は各国でも長い間練習機として使われ、使用国は40ヵ国にも及びました。
中には練習機ですが武装を施して軽攻撃機AT-33として使用した国もあります。
タイトルに上げました数字2298名は、日本の航空自衛隊においてT-33練習機でパイロットになった人たちの総数といわれる数字です。
航空自衛隊で使われたT-33は、残念なことに1999年に起こった痛ましい事故によって2000年に残存全機が強制退役となるまで40年以上にわたって使われてきた驚くべき長寿の機種でした。
航空自衛隊はおろか、ライセンス生産に当たった川崎重工も含め、日本の航空界に多大な貢献をしてくれたのがT-33でした。

米軍愛称の「シューティングスター」でも、日本での公式愛称とされた「若鷹」でもなく、その形式名から「サンサン」と呼ばれたT-33。
日本ばかりではなく各国空軍のジェット化に大きな貢献を残した偉大な練習機だったのです。
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2011/07/08(金) 21:19:16|
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昨日は昨年が朝鮮戦争勃発から60年ということに絡んで、朝鮮戦争の仁川上陸作戦を扱ったウォーゲームを紹介しましたが、今日は実際に朝鮮戦争で活躍した航空機をご紹介。
第二次世界大戦中の1943年、アメリカも次世代機としてのジェット機に目を付け、ロッキード社にジェット戦闘機を開発するように命じました。
これに対しロッキード社では、「双胴の悪魔」として恐れられた「P-38ライトニング」戦闘機を設計したジョンソン技師を中心としたグループに設計を依頼。
ジョンソン技師は一説にはわずか一週間ほどで設計を完成させ、半年後の翌年1944年の1月には試作機を初飛行させるという驚異的なスピードで試作機を完成させました。
しかし、この試作1号機に搭載していたエンジンは英国製のエンジンで、ライセンス生産されることになっていましたが、トラブルがあったり生産が進まなかったりしたことから、2号機以後にはジェネラル・エレクトリック社製のエンジンを搭載することにし、そのエンジン搭載にあわせた改良と、飛行時等における不具合部分を改良することになりました。
こうして完成した新型戦闘機は「P-80シューティングスター」と名付けられ、その高性能ぶりに米軍は大いに期待いたします。
最高速度は時速850キロを超え、当時のレシプロ戦闘機の最高峰「P-51マスタング」の時速700キロと比べても大幅に向上しておりました。
武装も12.6ミリ機関銃を機首に6挺装備し、爆弾も900キログラムぐらいまで搭載することができたのです。
実際、P-80の1機の攻撃に対して爆撃機を護衛しようとするならば、P-51が6機は必要になるという計算もされていたのです。

米軍はすぐにP-80を制式採用し、まず1000機が早くも発注されました。
しかし、ここからP-80は新型機特有のトラブルが多発します。
これはP-80そのものによるものもありましたが、ジェット機という新技術を扱うことになった整備等支援部門の不慣れも大きいものでした。
戦争の進展にともない最終的には3500機以上もの発注が行われたP-80でしたが、トラブル等が続いたため結局は最初の量産機数機が戦時下の空を飛んだのみでした。
ドイツ機とも日本機とも戦うことはなく、P-80は900機ほどで生産を終えることになったのです。
この時点では、P-80は間に合わなかった戦闘機でした。
ところが、第二次世界大戦が終結すると、今度はにわかに東西間の緊張が高まってきます。
米軍は1948年に空軍が独立すると、いままで追撃機(パーシューター)としてPの字が付いていた機種番号も、戦闘機(ファイター)に改めてFの字を付けることになり、P-80はF-80へと変更されました。
さらに大戦中の事故等を教訓にした改良型F-80C型があらためて量産されることになり、800機近くが新たに生産されたのです。
このF-80Cは、1950年に勃発した朝鮮戦争の序盤に米空軍の主力戦闘機として投入されました。
ジェット機であるF-80Cは、北朝鮮側のプロペラ戦闘機に対しては優位に立つことができましたが、やがて北朝鮮側がソ連の援助の下でソ連製のMig-15ジェット戦闘機を投入するようになると、性能の面で劣るF-80Cは戦闘機としては使えなくなっていきました。
米空軍はF-80Cを戦闘機として使うのを諦め、Mig-15に対しては新鋭のF-86戦闘機で対抗することにして、F-80Cは爆弾を装備した戦闘爆撃機として使用することにいたします。
さらに機首にカメラを装備した偵察機型のRF-80も投入し、F-80は対地攻撃や写真偵察にその活躍の場を移していきました。
F-80はこうした任務変更にも適応し、朝鮮戦争ではすべての米軍機(種)の中で最高の出撃数を誇りました。
第二次世界大戦には間に合わなかったF-80でしたが、その基本能力の高さは朝鮮戦争で発揮されたのです。
しかし、F-80の基本性能の高さはこの戦闘機型の活躍だけにとどまりませんでした。
続く
- 2011/07/07(木) 21:15:22|
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第二次世界大戦後の大きな戦争の一つであります「朝鮮戦争」は、その開始が1950年、停戦が1953年と足掛け四年に渡って行われた戦争ですが、昨年が開始から60年目だったんですね。
どうも今年がバルバロッサ作戦や太平洋戦争開始から70年というのばかり気にしていたので、ちっとも気がついてませんでした。
なぜそんなことを思い出したかというと、久しぶりに、ホントに久しぶりにウォーゲームのユニットを切ったのですが、そのゲームがコマンドマガジン日本版24号付録の「仁川上陸作戦 マッカーサーの賭け」だったので、そういえば朝鮮戦争からも60年が経つんだなぁと気が付いた次第なのです。

「仁川上陸作戦 マッカーサーの賭け」は、朝鮮戦争が始まって三ヵ月後の1950年9月に行われた米軍を中心とした国連軍による仁川上陸作戦をゲーム化したもので、コマンドマガジン日本版には24号で付録に付いたものです。
24号が出たのが1998年ですから、13年間放置したままで、このたびやっとユニットを切ったということになります。
ゲームの整理もしなくちゃなぁなんて思っていたので、この際ユニット切ってソロプレイでもしてみようかなんて思ったわけです。
ルールブック見る限りにおいては、わりと一般的なシークエンスのようで、国連軍の補充増援から移動戦闘、次に北朝鮮軍の補充増援から移動戦闘と、オーソドックスな感じです。
一方ユニットには戦闘力と移動力のほかに練度が記載されており、この練度差がダイス目修正になるようです。
国連軍側には航空攻撃や艦砲射撃などもありますが、これもわりと一般的な支援火力として処理されるようです。
勝利条件は国連軍がとにかくソウルを占領することが重要で、その占領が後になればなるほど得点が低くなるようになってます。
なので、国連軍はできるだけ早いうちにソウルを占領しなくてはなりません。
そんなにルール的な難しさは無いようなので、今度ソロプレイしてみて、機会があればどなたかと対戦してみましょうか。
考えてみれば、私はこれぐらいしか朝鮮戦争のゲームって持ってないので、貴重と言えば貴重かも。
たかさわ様のサイトで他の方々のこのゲームのプレイの様子などを参考にさせていただこう。
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2011/07/06(水) 21:15:04|
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つい先日就任したばかりの松本復興担当大臣が辞任ですか。
まあ、なんにしてもものには言い方があると思いますので、きちんとした物言いのできない人は大臣という地位にはふさわしくは無いとは思いますが。
それにしても復興が一行に進んでいない気がしますね。
これはあくまで私がニュース等を見て感じる思いというだけですが。
いったい政府は何をやっているのでしょうか。
力の向けどころが間違っているような気がしてなりません。
まあ、政治のことはこれぐらいで。
昨日プロ野球は今年のオールスターゲームの出場選手が発表されました。
北海道日本ハムからは、ファン投票で先発投手のダルビッシュ投手、外野手で中田選手、指名打者で稲葉選手が選ばれ、選手間投票で外野手の糸井選手が、監督推薦で武田勝、武田久の両投手が選ばれまして、合計6人がオールスターに出場です。
中でもやはり中田選手はプロ入り四年目で初めてのオールスターですし、ファン投票で選ばれての出場ですからうれしいでしょうね。
ファンとしてはやはりここはホームランを一本打って欲しいと期待してしまいます。
活躍して欲しいですね。
一方我が阪神からは4人が出場です。
ファン投票で抑え投手として藤川球児投手が選ばれ、選手間投票で二塁手の平野選手が、監督推薦で新人の榎田投手とマートン選手が選ばれました。
榎田投手は阪神の新人としては藪投手(現阪神2軍コーチ)以来17年ぶりとのことですので、ぜひともオールスターで活躍してほしいです。
あ~、でも榎田投手がマウンドにいて打席に中田選手がいたら困るなぁ。(笑)
そのときは榎田選手を応援しましょうか。
今年のオールスターは3試合で、3戦目は仙台ということですから、ぜひとも東北の方々に楽しんでいただきたいものです。
それではまた。
- 2011/07/05(火) 21:17:07|
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去る6月28日に、アニメ「宇宙戦艦ヤマト」でドメル将軍やズォーダー大帝などを演じ、洋画の吹き替え等でもご活躍なされていらっしゃった声優の小林修氏が、ガンのためにお亡くなりになられていたというニュースが入ってまいりました。
ショックです。
またお一人、思い出深い声優さんが亡くなられてしまいました。
小林氏は迫力ある重厚な声で渋い男性の役を多くこなしておられました。
個人的にはやはりあのズォーダー大帝の高笑いを忘れることができません。
他にも「銀河英雄伝説」では尊大なブラウンシュバイク公を演じ、貴族主義のいやな感じをかもし出していましたし、「クラッシャージョウ」では情報部二課のバード中佐を演じて主人公ジョウを影で助けてくれます。
まさに欠かせない名脇役を数多くこなしてくださった声優さんですね。
もう小林氏の声が聞かれないと思うと残念でなりません。
ご冥福をお祈りいたします。
- 2011/07/04(月) 20:59:27|
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今日はプロ野球の話題。
北海道日本ハムは今日もデーゲームで西武との試合でしたが、5対2で見事に勝利し、同一カード三連勝となりました。
通算でも四連勝となり、ソフトバンクがオリックスにサヨナラ負けを喫したため同率ですが首位に躍り出ることになりました。
まさにやりましたーな状況ですが、そんな中個人的にうれしい活躍がありました。
今日2番セカンドでスターティングメンバーに名を連ねた杉谷拳士選手が、4打数2安打2打点と大活躍してくれたのです。
杉谷選手は帝京高校出身の20歳で、昨年はイースタンの最多安打記録を更新した好打者です。
今年の注目株ということで春先にテレビで紹介されて以来、個人的にも注目しておりました。
先日田中賢介選手が足を骨折したことで一軍に登録となったわけですが、昨日も3打数2安打と打っており、これで二日連続の活躍です。
新外国人のスケールズ選手が入団しましたが、出番を奪われないようこれからもがんばって欲しいですね。
今日は阪神も大勝し万々歳です。
この調子で勝ち続けて欲しいなぁ。
それではまた。
- 2011/07/03(日) 21:39:58|
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毎月購入している雑誌もう一種は「グランドパワー」誌(ガリレオ出版)です。

こちらが今月号の表紙。
今月は「日本陸軍装軌式特殊車両」の特集です。
いわゆる装甲作業車や架橋車両の特集ですね。
日本陸軍は機械化に熱心ではなかったように思われますが、それでもこういった特殊車両は何種もそろえており、意外と機械化が理解されていたようです。
今号では、敵前でいろいろな作業(壕に超壕装置を架けたり、特殊爆薬を仕掛ける等)を行う「九六式特殊作業機」に始まり、九七式中戦車の車台を使い火炎放射器を装備する「火焔戦車」、地雷原を開削する「地雷作業車」、森林突破用の「伐開機」、クレーン等を装備した「九五式野戦力作車」、湿地を突破するために履帯にフロートをつけた「湿地車」などなど、日本陸軍の装備した特殊車両がこれでもかとばかりに紹介されてます。
個人的にはこうした特殊車両はあまり知らない部類のものなので、こうして紹介してもらえるのはうれしいですね。
日本軍も結構いろいろと考えていたんだなぁと思わせられます。
もう一つの特集は「チャーチル歩兵戦車の特殊バリエーション」
これはまさに第一特集と対になるような特集ですね。
英国の歩兵戦車チャーチルシリーズは、その車体の大きさからいろいろな特殊車両のベースになりましたが、それらが今月号には網羅されてます。
火炎放射器を備えた「チャーチル・クロコダイル」や、自らの車体そのものが壕や川などの橋となる架橋戦車タイプの「チャーチルARK」、障害物破砕用の巨大迫撃砲を搭載した「チャーチルAVRE」など、こちらもチャーチル戦車の特殊車両がいっぱい紹介されていて、洋の東西での特殊車両の競演といった感じです。
それにしてもチャーチルAVREの290ミリ迫撃砲はほんと太いですね。
再装填は砲身を立てて、下から行うんだそうで、巨大な砲弾を再装填するのは骨が折れそうな感じです。
次号は60年代陸上自衛隊の主力装備の一つ「60式自走無反動砲」の特集のようです。
これは楽しみです。
それではまた。
- 2011/07/02(土) 20:44:40|
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