第一次世界大戦後、英国では敵国近海の航路や敵国の港湾の入り口などに機雷を敷設することで、敵国の通商を混乱させることが戦争には有効であると考えられました。
しかし、敵国近海での機雷敷設はなかなか困難な任務であり、今までの通常の機雷敷設艦では敵の妨害に遭ってしまうことが予想されます。
そこで英国は、機雷を敵国近海で強行敷設することのできる高速で武装した機雷敷設艦を建造することにいたします。
このとき敵国の妨害として考えられたのは駆逐艦でした。
そのため、この強行機雷敷設艦は駆逐艦に勝る速度を持つことが大事とされ、船体を駆逐艦の大型化したようなものにすることとなります。
こうして第二次世界大戦直前の1938年・1939年計画で四隻建造されたのが、「アブディール」級敷設巡洋艦でした。
「アブディール」級は、基準排水量2650トンと日本の5500トン型軽巡の半分ほどの排水量しかなく、むしろ日本の駆逐艦「陽炎」級(基準排水量2000トン)に近い大きさで、巡洋艦というよりもまさに大型駆逐艦というほうが近いのですが、英国海軍はこの「アブディール」級を巡洋艦に区別しておりました。
全長は127.4メートル、最大幅は12.2メートルと大きさも「陽炎」級に近いもので、防御も重要な機関部だけを防御する程度の軽防御で済ませる代わりに高速を持たせるというものでした。
ただ、残念ながら計画時点では39.8ノットという驚異的な高速を出せる予定だったのですが、実際には36ノットほどと計画値には至りませんでした。

(アブディール)
1941年、第二次世界大戦が始まって二年目に「アブディール」級は四隻が続々と就役しました。
「アブディール」級は船体内におよそ150個もの機雷を持ち、これを持ち前の高速を生かして敵国近海にばら撒くのが任務でしたが、むしろそういった機雷敷設任務よりも意外な任務に就くことのほうが多かったようです。
それは地中海に浮かぶ島「マルタ島」への物資輸送任務でした。
イタリアの参戦で地中海も戦場になりましたが、その地中海の中央部にあるマルタ島は戦略的に重要な島であり、その保持は英軍にとって非常に重要なことになったのです。
しかし、地中海はイタリア海軍が「我らの海」と呼ぶほどであり、ドイツ軍もUボートの戦隊を送り込んでおりました。
英国海軍にとってもマルタ島への物資補給は容易ではなく、低速の輸送船ではたどり着けない可能性が大きいものでした。
そこで「アブディール」級の高速と機雷格納庫に目がつけられ、「アブディール」級は急遽高速輸送艦としてマルタ島への物資輸送に使われたのです。
「アブディール」級はその任務をよく成し遂げ、マルタ島の保持に大いに貢献いたしました。
英軍はその有効性からさらに二隻を追加建造いたします。
しかし、マルタ島への輸送は代償も大きく、最終的には「アブディール」級六隻のうち三隻が戦争によって沈められてしまいました。
「大型駆逐艦」のような船体で「巡洋艦」の名前を与えられ「敷設艦」として使われつつ「高速輸送艦」としての評価が高いという「アブディール」級でしたが、こうした高速万能艦というのは実に使い勝手がいいものだということを認識させてくれた艦だったかもしれませんね。
それではまた。
- 2011/05/30(月) 21:17:33|
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