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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

ホワイトリリィ(6)

200万ヒット記念SS「ホワイトリリィ」の6回目です。
まだ先は長いですが、お付き合いくださいませ。

それではどうぞ。


6、
                   ******

「ふわぁぁぁ・・・」
俺はつい大きなあくびをしてしまう。
それを見た女子社員たちがくすくすと忍び笑いを漏らしていた。
「寝不足ですか? 部長」
「鬼の洞上部長もあくびをすることがあるんですね」
女子社員たちの悪意の無いからかいが聞こえてくる。
「おいおい君たち。私だって人間だよ。眠けりゃあくびもするさ」
俺は苦笑しながらそう言った。
ちなみに鬼の洞上部長というのは仕事に対して厳しいかららしい。
別段仕事最中にあくびを咎めたり私語をするなと言っているわけではない。
仕事できちんと成果を出してくれれば、極端な話居眠りをしてもいいのだ。
もっとも、他への影響もあるので、実際に居眠りなどしていたら起こすしか無いだろうがな。
まあ、俺が寝不足なのは間違いない。
夕べはあれからあの女の改造に立ち会ったのだ。
あの女は結局ロシア人などではなかった。
イスラエルの諜報機関モサドの潜入工作員ユーリア・ベレロフスカヤという人物だったのだ。
ロシア系ユダヤ人の彼女は、モサドの指示で日本政府を困惑させている悪の組織クーライの情報収集に来たと言う。
潜入工作員である彼女の身体能力は予想以上に高く、女戦闘員どもが苦戦したというのもうなずける。
俺は彼女を手駒にするべく改造を命じ、今朝方までそれにかかっていたというわけだ。
今ではユーリアは我がクーライの女怪人ムカデ女として生まれ変わり、嬉々として我らを探ろうとしていたかつての仲間たちの拠点を破壊しに出かけている。
俺が帰る頃には片はついているだろう。

それはそれで楽しみではあるのだが、今の俺の一番の楽しみは本格的に始めた百合香へのパルス照射だ。
俺と了史が出勤した後は、百合香は自宅に一人きり。
俺は夕べと同じく、百合香の警戒心を解くためにリラックスさせるためのパルスを照射する。
エネルギーは自動供給されるから、照射しっぱなしでも問題は無い。
これを数日間も続ければ、おそらく百合香は俺と二人きりでいることも気にならなくなるに違いない。
そうなれば第二段階に移る。
本格的に百合香の感情を制御するのだ。
さぞかし面白いことになるに違いない。
俺はそんなことを考えながら、仕事を機械的にこなして行った。

「ん?」
なにやら廊下が騒がしいな。
何かあったのか?
「見波(みなみ)君、何かあったのかね?」
俺は様子を覗いて戻ってきた部下に尋ねる。
「部長、出たんですよ、また」
若い見波が何となく興奮気味になっている。
「出たって? 何が?」
俺は悪い予感を感じた。
「クーライですよ、クーライ! クーライの女怪人が出たんです! 副都心のあたりは大変なことになっているみたいですよ」
「え~っ!」
「うそ~!」
女子社員に心細そうな表情が浮かぶ。
やっぱりか・・・
隠密活動に徹するようには言っておいたのだが、さすがにイスラエルはただではやられてくれなかったか。
襲撃がどこかから漏れ、テレビが嗅ぎ付けたというところだろう。
まずいな・・・
廊下の方からおおーっっと言う声が上がる。
「来ました! ホワイトリリィが来ましたよ!」
誰かが親切にも廊下から教えてくれる。
「来たかっ!」
待ってましたとばかりに休憩室に向かう見波。
今頃休憩室のテレビは人だかりだろう。
何人かの社員は携帯でテレビを見始めている。
やれやれ・・・
俺は立ち上がると、トイレに向かって歩き出した。

クーライの残虐性は人々にも知れ渡っている。
俺はやはり悪の組織というものは人々に恐怖を与える存在であることが大事だと考えていた。
征服した後も人々に服従を強いるなら、やはり恐怖がうってつけなのだ。
そのためには時々見せしめ的に破壊活動を行なう必要がある。
日本の国家能力を低下させ、人々には恐怖を与える。
それがクーライの基本的な活動だ。
だから俺はクーライの女怪人たちの姿がテレビなどに映し出されても気にしなかった。
かえって恐怖感を煽ることになるだろうと思ったからだ。
だが、その目論見は今のところはずれている。
クーライの残虐性を見せる女怪人たち以上に、一人の凛々しい正義のヒロインをクローズアップしてしまっているからだ。
白いミニスカート型のレオタードを身に纏ったホワイトリリィが、女怪人たちと死闘を繰り広げる様は、まるで特撮ドラマか映画のようだ。
人間などというものは自分の身に振りかからなければ、どんな災厄もテレビの中のこととして片付けてしまう。
結果、恐怖を振りまくはずのクーライが、ホワイトリリィの引き立て役になってしまい、人々は最近ではクーライの女怪人が現れることでホワイトリリィが出てくることを待ち望むようになってしまっている。
ホワイトリリィの姿を映したニュース映像はネットで何度も流されるほどだ。

そして、それと同時に俺自身苦笑せざるを得ない状況も生まれている。
かつての俺が・・・いや、今の俺がそうであるように、悪の組織クーライに魅力を感じる人間もいる。
今の日本の閉塞感を打破する必要悪として考えている者や、単純に美しい女怪人たちに惚れ込んでいる者もいる。
ばかばかしい話だが、クーライの女怪人はひそかにファンが多いのだ。
カマキリ女、毒蛾女、カゲロウ女、セミ女、トンボ女・・・ホワイトリリィとの戦いで失った女怪人たちはいずれもとても人気が高い。
おそらく今回のムカデ女もそうなるだろうし、今はまだTVに姿を捉えられていない蜘蛛女やホタル女たちなども、その姿を見せれば多くのファンを魅了するはずだ。
皆、異形の存在ではあるものの、その姿は女性のラインをとどめている。
異形でありながら美しくさえ感じさせるものを持っているのだ。
俺だって男だ。
むさくるしい男を改造するより、美しい女を改造して手駒にしたい。
美しい女であれば、その魅力を維持しておきたいと思うのも当然ではないだろうか。
戦闘員も怪人も俺は女性を改造する。
美しい女怪人こそ悪の首領の手駒に相応しいではないか。
俺はそう独り決めして女怪人を作り出している。
確かKiss in theなんとかというどこぞのネットのサイトにそういった悪の組織があったなぁ。
素敵な女怪人のイラストは俺も参考にさせてもらったもの。
俺はそんなことを考えながらトイレに入った。

「もしもし、蜘蛛女か?」
俺はトイレの個室に入り、充分に注意をした上で携帯で蜘蛛女に電話する。
本当なら腕時計型通信機とか、指輪に仕込んだ通信機のようなものがそれらしいのだろうが、わざわざそんなものを作らなくても携帯で用が足せるならそれでいい。
もっとも、携帯をかける悪の組織の首領なんてのは、威厳が無いことはなはだしいかもしれないな。
『もしもし、ド、ドスグラー様ですか? も、申し訳ありません』
第一声が謝りの言葉とは、俺の電話の理由がわかっているようだ。
俺の携帯からの音声は通常はアジトのスピーカに繋がるようになっている。
相手の応答もアジト内のマイクが拾ってくれるのだ。
そのため、普段俺からの指示を携帯で伝える時には、あの有名な特撮番組の首領よろしくアジト内に俺の音声がランプの輝きとともに響くことになる。
無論その時はアジト内の全員が直立不動、もしくは跪いた状態で俺の声に耳を傾ける。
だが、今回はある意味叱責だ。
女戦闘員たちに聞かれてはアジトの責任者たる蜘蛛女もばつが悪いだろう。
それに今回は蜘蛛女の責任とばかりも言えない。
昼間っから単独行動を取らせた俺にもうかつだったところがある。
そのため俺は今回はスピーカーから音声を流すことは避けることにした。
蜘蛛女の威信を低下させるわけにはいかないからな。
彼女はアジト責任者として充分すぎるほどに役立ってくれているのだから。

「ホワイトリリィと交戦に入ったらしいな。不手際だぞ」
『ああ・・・申し訳ございません。お叱りは後ほど必ず・・・』
俺は洋式便器の便座のふたに腰掛ける。
今回俺は蜘蛛女の持つ携帯に直接電話をかけたのだ。
周りの女戦闘員に多少の違和感は与えるかもしれないが、頭ごなしに叱責を受けるよりははるかにましだろう。
もちろん何重ものセキュリティなどをかけているから、一般回線を乗っ取っているにもかかわらず、電話会社にこの通話が漏れることは無い。
そういえばアジト内で付けている蜘蛛女のベルトポーチに入っていた携帯電話には女性らしく可愛いアクセサリーのストラップが付いていたな。
今頃蜘蛛女はその可愛いストラップ付きの携帯を耳に当ててかしこまっているのだろう。
俺はそんな光景を想像して苦笑する。
無論各女怪人たちには、当然のごとく頭部に通信チップが埋め込まれている。
アジトからであれば、携帯電話などを使わずとも俺からの通信を受け取ることができるのだ。
作戦行動中などは当たり前だがそちらを使う。
いちいち携帯を取り出すなどできるはずも無いからな。
本当ならば叱責である以上携帯にかけるなどという事はしないでおきたい。
だがここは会社内。
ここからでは携帯を使うしかない。
やむを得まい。
それに、女怪人たちはどうも各自の携帯に俺からの直通電話が入ることが結構嬉しいものらしく、できれば体内の通信チップよりも所有している携帯への連絡を欲しがっている。
そういえば毒蛾女も以前には・・・
『やったぁ、ドスグラー様、お電話ありがとうございます』
などと弾んだ声を聞かせてくれていたな・・・
俺は胸にちょっとした痛みを覚える。
可愛い怪人を失うというのはつらいものだ。
数ある悪の組織の首領も、こんな思いを味わったのだろうか・・・

『ド、ドスグラー様?』
俺は一瞬毒蛾女のことで我を忘れていたらしい。
俺が無言になってしまったことで、蜘蛛女が不安に思ってしまったようだ。
『お怒りはごもっともでございます。どのようなお叱りも覚悟しております』
「そんなのは後のことだ。モサドの連中にそれなりのダメージは与えたのか?」
俺は改めて状況を確認する。
『はい、人的被害はさほど与えられはしませんでしたが、拠点となっていた場所と、集積されていた物資やデータなどに関しては破壊いたしました。これで当分は活動を停止するかと』
ほう・・・
なかなかいいさじ加減だ。
やつらは復讐となると火が付くからな。
人的損害が少なければ折り合いも付けやすかろう。
イスラエルにもケンカを売ってしまったことになるが、まあいい。
ちょっかいをかけてきたのは向こうが先だ。
他の国の情報機関への牽制にもなるだろう。
「上出来だ。すぐにムカデ女を撤収させろ。ホワイトリリィには手を出すな」
ホワイトリリィには手を出すな・・・
俺は自分で言ったこの言葉にどきっとした。
俺はホワイトリリィの身を案じたのか?
それともホワイトリリィには歯が立たないと見て、ムカデ女の身を案じたのか?
やれやれ・・・
参ったものだ・・・
自分自身を偽るのはやめたはずなのに・・・
『かしこまりました。ムカデ女はすぐに撤収させます』
「ああ、くれぐれも気をつけるんだ。あとを付けられたりしないようにな」
『かしこまりました。その点は抜かりなく』
ふう・・・
俺は携帯を閉じる。
やれやれだ・・・

ホワイトリリィとムカデ女の決戦を期待していた観衆には悪いが、ムカデ女が早々に撤収したことで、戦いらしい戦いにはならなかったようだ。
俺はほっとしたものを感じつつ、午後の仕事を終えて家路につく。
まだまだ効果は望めないだろうが、パルスのおかげで多少は百合香も・・・
そこまで考えて、俺ははたと気が付いた。
そうか・・・
午後の騒ぎでホワイトリリィとして出かけていたか・・・
なんてこった・・・
  1. 2010/02/25(木) 21:18:49|
  2. ホワイトリリィ
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Author:舞方雅人
(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
どうぞ楽しんでいって下さいませ。

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