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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

ホワイトリリィ(5)

200万ヒット記念SS「ホワイトリリィ」の5回目です。

今日も楽しんでいただけるとうれしいです。
それではどうぞ。


5、
                   ******

「洞上君、どうかね一杯? 今日は付き合いたまえよ」
就業時間間際、やってきた専務が口元でクイクイとお猪口を傾ける仕草をする。
前社長のコネで専務になっているこの男ははっきり言って能力が無い。
それに外見のことは言いたくないが、腹が出ている上に頭部も薄く、さらには身だしなみにも気を使わないタイプなので、社員の人気は最低ラインだ。
だが、向こうは俺を気に入っているらしく、時々こうやって誘いをかけてくる。
まあ、現社長に無能と切り捨てられたくないために、できるだけ派閥を広げたいのだろう。
それに俺は総務部長と言うことで、現社長からの信任も厚いということになっている。
無論それは当然のことだが。
それにしても高級クラブで一杯はいいのだが、現社長の悪口や社員や仕事の愚痴を聞かされるだけなどまっぴらだ。
早々に始末してやりたいものだが、何かトラブルなどが起こった時に責任をかぶせるためだけにとりあえず飼ってやっている。
「すみません専務。今日は用事がありまして」
俺はへこへこと頭を下げる。
「洞上君、そりゃあ無いだろう。私が誘っているのだよ」
だから行きたくないのだ。
それぐらいもわからんのか。
「すみません専務。この埋め合わせは近いうちにしますので。そうだ、専務に良さそうなパターがあったんですよ。今度プレゼントしますよ」
こいつの頭にはゴルフと女のことしか無い。
まあ、適当なものをくれてやればいいだろう。
「おほっ。そりゃあ楽しみだ。うんうん、期待しているよ」
ゴルフクラブを振るマネをして、笑い声を上げながら去っていく専務。
やれやれ・・・
俺は苦笑しながら帰り支度をすると、早々に会社を後にした。

「お帰りなさいませ、ドスグラー様」
「「お帰りなさいませ、ドスグラー様」」
アジトに下りると、いつものごとく出迎えてくれる蜘蛛女と女戦闘員たち。
いつ姿を現すかわからない俺によく仕えてくれている。
まあ、当然そのように改造し洗脳しているのだがな。
「ご苦労。頼んでおいたものはできているか?」
「はい、もちろんでございます」
蜘蛛女が指を鳴らすと、女戦闘員の一人がアタッシュケースを持ってくる。
俺はそれを受け取ると、中身を確認した。
中にはリモコンスイッチとパルス発信機がいくつか入っている。
これを部屋に取り付けて、いつでも起動できるようにしておかなければ。
「うむ。よくやったぞ」
「ああ・・・ありがとうございます」
蜘蛛女がまるで構ってもらった子犬のような潤んだ目をする。
俺に褒められるということが何より嬉しいのだ。
女戦闘員たちも嬉しそうにマスクからのぞいた口元に笑みを浮かべている。
俺は彼らにもうなずいてやり、アタッシュケースを持って司令室を出る。
いよいよ作戦を開始するのだ。
百合香よ。
待っているがいい。

俺はいつものように一度外に出て家に帰ると、アタッシュケースを自室に置き、着替えをしてからリビングにいく。
一見何も変わらない普段と同じ光景だが、百合香だけは違っていた。
俺が帰ってきたことでぴんと神経を張り詰めている。
まるでこれから戦いに望むかのようだ。
今のキッチンには俺は到底踏み込めないだろう。
おそらく踏み込めば百合香はホワイトリリィに変身してまでも俺を拒否しかねない。
まあ、実際そこまではしないにしても、それほど百合香さんの張り詰めた空気は凄まじかった。

俺は夕刊を取り上げて目を落とす。
強化してある眼は老眼などものともしない。
ほとんどの連中が眼鏡をかけているこの年代で、俺は眼鏡には縁の無い生活を送っていた。
「うん?」
俺はわざとらしく声を出す。
とたんにキッチンで夕食の支度に勤しむ百合香の躰がピクリと緊張した。
今はまだ警戒されるのは仕方が無い。
俺は苦笑しながらも続ける。
「蛍光灯の点きが悪くなってきたかな? 目がしょぼしょぼする」
俺はわざとらしくそう言って鼻の付け根を指でつまむ。
『お義父様ったら・・・もしかしてそろそろ老眼なんじゃないですか?』
今までならそんな他愛もない軽口を言ってくれたかも知れない。
だが今の百合香は無言で食事の支度に没頭している。
まるで俺の存在を無視するかのようだ。
意識すればいやでも先日の事を思い出す。
であれば、思い出さないように無視を決め込んでいるのだろう。
俺は椅子の上によじ登って、照明器具に手を伸ばす。
幸い百合香はこちらを見る様子は無い。
俺はアタッシュケースから取り出しておいたパルス発信機を照明器具に取り付け、リビングにパルスを流せるようにする。
これでいい。
了史がいる間は無理だろうが、百合香は専業主婦としてほとんどの時間をこの家で過ごしている。
その間中パルスを与えてやれば・・・
俺は思わず笑みが浮かんだ。

「お義父様、食事の準備ができました。もう食べられますか?」
キッチンから百合香の声がする。
「あ、ああ、そうだな」
俺は慌てて椅子から下りた。
「蛍光灯のせいじゃないな。俺もそろそろ老眼が来たかな?」
俺はわざとらしくため息をつく。
『そんなこと・・・先ほどのは冗談ですわ。お義父様はまだまだお若いですから、老眼なんてまだ早いです。きっと目がお疲れなんですよ』
などと言ってくれるのを期待・・・したのだが・・・
百合香は何となく俺と距離をとるようにして食器を並べていく。
できるだけ目を合わさないようにしているようだ。
今日はどうやらビーフシチューとサラダらしい。
先ほどからいいにおいが俺の鼻をくすぐっている。
「お義父様」
「ん? な、何だい?」
思わず俺の声も上ずっている。
何をやっているんだ、俺は?
「パンがいいですか? それともご飯?」
百合香のぎこちない笑顔が俺に向く。
彼女も何とか普段通りであろうとしているようだ。
「そうだな。やはりご飯かな」
日本人である以上、お米のご飯は食事の基本だ。
パンも悪くは無いが、洋食のビーフシチューといえども俺はご飯で食べたい。
こんなこと・・・
世の悪の組織の首領は考えたことがあるのだろうか・・・
パンがいいかご飯にしようかなどと考えている悪の首領ドスグラー。
蜘蛛女たちには見せられんな。

俺は一人黙々と食事を取る。
これ以上は無いと思えるほど美味いビーフシチューだが、一人で食べるのはやはり味気ない。
百合香は俺にご飯をよそうと、食事は了史と一緒に食べると言って自室に引き上げてしまった。
多少申し訳無さそうな顔をしていたものの、やはり俺と二人きりにはなりたくないのだろう。
やれやれ・・・
一刻も早く百合香の感情をいじってやらなくてはな。
俺は食事を終えると、食器を洗い場に下げ、二階の百合香の部屋に行く。
無論襲ったりするわけではない。
「百合香さん、食事美味しかったよ。ありがとう」
俺は扉の前でそう言うだけで下に下りる。
何をやっているんだか・・・

自室に戻った俺はすぐに蜘蛛型ロボットを放す。
リビングの様子を探らせるのだ。
このロボットからの映像は、携帯などでも受信でき、移動しながら見ることもできる。
とりあえずは今はパソコンのモニターで確認したところ、百合香はまだ部屋にいるらしい。
リビングに俺がいるかもしれないので、出てくる気が無いのかもしれないな。
それなら先に他への仕掛けを済ませてしまおう。
俺は蜘蛛型ロボットに階段を見張らせ、その映像を携帯で確認しつつ部屋を出る。
先ほどリビングには仕掛けたから、とりあえずは一階の部屋に仕掛けていく。
キッチン、お風呂、共有の和室。
俺は次々とパルス発信機を仕掛けていった。
トイレは・・・
まあ必要あるまい。
一通り仕掛け終わったあたりで二階で物音がした。
どうやら了史が帰ってくるらしい。
百合香が部屋から出てきたのだろう。
俺は百合香の姿を携帯で確認するとそそくさと部屋に戻る。
まったく・・・
何をやっているんだか・・・

俺は百合香がリビングに入ったのを見計らって、早速装置のスイッチを入れる。
とりあえずは緊張をやわらげ、俺に対する警戒心を薄めるのだ。
パルス発信機の小さなパイロットランプが点灯し、作動し始めたことを教えてくれる。
俺は蜘蛛型ロボットにリビングを監視させ、百合香の様子を観察した。
始めは先ほどと同じく一人でも緊張気味だったのが、少しずつほぐれていくような・・・
気のせいか表情が少し柔らかくなったような・・・
うんと伸びをする仕草がどこか猫を思わせるような・・・
やれやれ・・・
俺はここまで百合香に心捕らわれているのか?
相手は憎きホワイトリリィだぞ。
それでもいいのか?
・・・・・・いいのだ。
百合香を俺のものにする。
今はそれだけでいい。

『ただいまー』
了史が帰ってきたか。
いそいそと百合香が玄関へ出迎えに行く。
俺は苦々しい思いでパソコンを閉じた。
俺はそっと部屋を出ると、リビングに二人がいることを携帯で確認して二階へ上がる。
そして二人の寝室にパルス発信機を仕掛けて作業終了。
ホッと一息ついて自室へ戻る。
やれやれだ・・・

今日も早々に百合香たちを眠らせる。
まだまだ百合香の想いは了史にあるのだ。
そんな状態で了史に百合香を抱かせてなるものか。
俺はそんなことを考えつつアジトに潜る。
蜘蛛女よりの連絡が入っていたのだ。
何か俺の指示を仰ぎたいらしい。
もっともあいつは他愛も無いことで俺を呼び出すことがある。
俺の姿を見ることで喜びを感じたいと言う、ただそれだけの理由で俺を呼び出すこともあるのだ。
威厳のある首領と慕われる首領。
どちらがいいものやら。

「何事だ? 蜘蛛女よ」
「お待ちしておりました、ドスグラー様」
蜘蛛女たちが跪く。
「用件を言え」
俺は首領の椅子に座り、彼女たちを見下ろす。
「ハッ、我々を探っていた人間を捕らえました」
「ほう・・・」
蜘蛛女の報告は特に目新しいものでは無い。
俺は日本政府に正式に宣戦を布告していると言ってもいいのだ。
無論最初は冗談と思っただろう。
だが、主都庁舎への襲撃や、国会議事堂の破壊など、俺が本気であることを示してやったところ、すぐに日本政府はクーライの情報を収集しにかかってきた。
敵を知らねば闘いはできない。
目に見える戦いとは別のところでも戦いは起こるのだ。
おそらく今回も公安の犬だろう。
それにしても・・・
ホワイトリリィさえ出現しなければ、首都はおそらくもう手中に収まっていたはず。
それを考えると、やはり百合香を一刻も早く俺のものにしなければ。
「いつもの通り始末いたしましょうか? それとも洗脳して送り返しましょうか?」
蜘蛛女が処分を尋ねてくる。
おそらく洗脳して送り返しても意味はあるまい。
さすがに日本の警察庁警備局公安課ともなると、潜入捜査のプロである。
薬物や尋問、洗脳などにはある程度の対策と知識も持っているのだ。
敵に捕らわれて送り返された、あるいは一時的に連絡が取れなくなった者などは洗脳されたと疑うだろう。
特に、あの合同庁舎二号館襲撃事件の後ともなれば、クーライに接触した人物は全て疑ってかかると考えてもいいだろう。
「どんな男だ?」
公安の潜入捜査官ともなれば、肉体的にも精神的にも鍛えてあるだろう。
うまく使えば利用価値があるかもしれない。
俺はそう思ったのだ。
「男ではありません。女です」
「ほう・・・」
女を使ってきたか。
こちらを油断させるつもりかもしれない。
クーライは女性を改造して手駒に使うという噂がある以上、今まで公安が女性を潜入捜査官として差し向けてきたことはない。
有能な捜査官をむざむざ敵の手駒にさせるわけには行かないからな。
だが、クーライの首領ドスグラーは男である。
男というものはどうしても女には甘いもの。
俺自身が百合香に惚れ込んでしまっているように、例え敵としてもどこか甘くなるのだ。
それを見越して潜入させてきたのかもしれない。
ただ、潜入捜査官ということは目立つような美人では無いだろう。
おそらくどこにでもいるOLという感じを漂わせているに違いない。
通る人全てが振り返るような美人では、潜入捜査などできやしないからな。
「連れて来い」
俺はその女に会ってみようと思った。

「キュイーッ」
肉体改造の余波で、戦闘員化した者たちはどうしても奇妙な声を発してしまう・・・わけはなく、これは俺が戦闘員というものに対する思いの具現化である。
最近の特撮には戦闘員というものが使われなくなったらしいが、やはり悪の組織の構成員に黒尽くめの戦闘員は不可欠だろう。
肉体を強化し、黒尽くめの服装で悪の尖兵として活動する戦闘員たち。
しかもそれがすべて美しいボディラインを持つ女戦闘員ばかりだとしたら・・・
世の悪の組織すべての首領はクーライのことをうらやましく思うかもしれないな。
だが、実際に彼女たち女戦闘員なくしてはクーライとて活動は成り立たない。
「は、離して、お願いだから家へ帰して!」
両腕を女戦闘員につかまれて連れて来られた女を見て俺は驚いた。
外国人?
まさに彼女は金髪碧眼の外国人だったのだ。
日本の公安が?
いや、違うな。
彼女は日本の公安ではない。
CIAとかフランスのDGSEとか、そういった機関の人間かもしれないな。
「おとなしくしなさい。あなたは今クーライの首領ドスグラー様の御前にいるのよ」
蜘蛛女が鋭い爪を彼女ののど元に突きつける。
ドスグラーの姿を見せたということは、この女には今のままでは生きてここから出ることはなくなったということだ。
「ドスグラー? 首領? これは何かの撮影なんですか?」
金髪の女はその青い目で俺をまじまじと見つめてくる。
「女、名は何と言う?」
「・・・ドミニカ・ブラジェンスカヤ」
ロシア系か・・・
「職業は?」
「駅前でロシア語を教えているわ」
俺をにらみつけるように言う。
「我らのことをなぜ探っていた」
「探ってなんか・・・たまたまこのあたりを通っただけよ」
「嘘は言わないほうがいいわ。あなたの行動は筒抜けだったのよ」
蜘蛛女の爪が彼女ののどにほんのちょっと食い込む。
「ほ、本当よ・・・探ってなんかいません」
身をそらすようにして爪から離れようとするドミニカ。
「まあ、いい。嘘か本当かはすぐわかる。適性を調べろ」
「ハッ」
蜘蛛女はドミニカの両腕を押さえていた女戦闘員たちに顎をしゃくる。
「キュイーッ」
すぐさま戦闘員たちは彼女を連れて行こうとした。
「ま、待って! 適性って何? 私をどうするつもりなの?」
「うふふ・・・よかったわね。あなたの適性を検査するわ。適性値が高ければあなたはクーライの女怪人として生まれ変われる。そこそこの適性値でも女戦闘員よ」
冷たい笑みを浮かべる蜘蛛女。
「女怪人として?」
ドミニカが青ざめる。
「そう。ドスグラー様に忠実にお仕えする女怪人になるの。でもね、適性値が低ければあなたは死ぬ。せいぜい適性が高いように祈りなさい。あははははは・・・」
「い、いやぁぁぁぁぁぁ」
蜘蛛女の笑い声とドミニカの悲鳴が交錯した。
  1. 2010/02/24(水) 21:12:36|
  2. ホワイトリリィ
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Author:舞方雅人
(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
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