昨日予告いたしましたとおり、本日より25日間連続で、当ブログの200万ヒット記念SSを投下いたします。
タイトルは
「ホワイトリリィ」です。
また、それにともない、今日から連載終了までの25日間、ブログタイトルを変更させていただきます。
「やさぐれ首領の趣味の世界征服日記」~ある悪の組織の中年首領の日々以上になりますので、お間違えのないようにお願いいたします。
(連載終了後には元に戻します)
今日は一回目です。
楽しんでいただけますとうれしいです。
それではどうぞ。
1、
『きゃぁぁぁぁっ』
とどめの一撃を食らって断末魔の悲鳴が上がる。
ゆっくりと倒れこむ毒蛾女。
背中の極彩色の翅が力なくマントのように広がっていた。
やがてぐずぐずと崩れ去る毒蛾女。
それを見下ろしていた女戦士がおもむろにポーズを取る。
『正義の勝利! 悪は滅びるのよ!』
白を基調としたバイザー付きヘルメットに白と赤のミニスカート型のレオタード。
膝までのロングブーツに肘までの長手袋。
背中にはマントが風に翻っている。
みずみずしい肉体に、あふれるような色気をかもし出すつんと突き出た形の良い胸と丸いお尻。
光り輝くファイヤーブレードを掲げる彼女こそ、正義の女戦士「ホワイトリリィ」であった。
「くっ、毒蛾女までも・・・おのれ・・・ホワイトリリィめ・・・」
俺は屈辱に歯噛みしながらモニターを消す。
ホワイトリリィの弱点を分析して作り上げたはずの毒蛾女でも歯が立たなかったとは・・・
やはり根本から対応を考え直す必要があるようだ。
俺はため息を一つつくと、肩からマントをはずして首を動かし、緊張をほぐす。
やれやれ・・・
俺ももう四十九歳。
充分なオジサンだ・・・
本来はこんなことなどやっている年ではないのだろうが・・・
俺はタバコに火をつけながら、自嘲気味に苦笑した。
俺の週末の楽しみ。
それは世界征服を行なうこと。
俺は若い頃の山歩きで、ある洞窟から異星人のものと思われるアイテム類を手に入れていた。
そのアイテム類で異星人のテクノロジーを手に入れた俺は、かつての特撮オタクだった頃の夢をかなえることにしたのだ。
いわゆる「悪の秘密結社の首領」になること。
そう、俺はその悪の秘密結社の首領となるために、その異星人のテクノロジーを使ったのだ。
バカなやつ。
そう思う人もいるだろう。
無論俺だってそう思わないわけではない。
異星人のテクノロジーを公にして、人類に対して貢献し、その特許料などで暮らすということも考えた。
だが・・・
そんなことをしたところでつまらないじゃないか。
このようなものは独り占めしてこそ楽しいというもの。
しかもあの、昔楽しんだ特撮番組と同じようなことが行なえるとしたら・・・
俺は躊躇いなくそちらを選んだ。
俺はひそかに自宅の地下にあの「アジト」と呼ばれるものを作り、そこで戦闘員と怪人を作り出している。
無論、さほど重要でも無い異星人のテクノロジーを、弁護士などを使って目立たないように特許をとり、その特許料で建てた自宅だ。
建築業者には老後の楽しみのカラオケルームやら書斎と言うことで、防音も完璧にしてある。
当然その後で自分なりの改築を施してあるのは言うまでも無い。
俺は大学を卒業すると中堅の製薬会社に就職した。
そしてそこで少し派手めのところがあるものの優しい妻と出会い、無理やり我がものにして結婚した。
俺はいつか妻を派手なコスチュームに身を包んだ悪の女幹部にすることを考え、自分の裏の世界をいずれは知らせるつもりでいたのだが、妻は息子の了史(りょうじ)が小学生の時にあっけなく癌で亡くなった。
今から考えれば、妻を女怪人にでも改造してやれば癌などで死なせることは無かったのだが、当時はまだしっかりとテクノロジーの把握もできていなくて、むざむざと死なせてしまったのだ。
それからの俺はテクノロジーの把握に努める一方で、妻のいない寂しさを仕事にぶつけ、了史に関しては雇った家政婦に任せきりのような状態にしてしまった。
再婚も考えないでもなかったが、気に入った女もいなかったのと、悪の組織を作るのに夢中でその気にはならなかった。
幸い、了史はそれでもまじめでおとなしい子には育ってくれたが・・・
俺にはおとなしすぎて物足りないものを感じさせる子になってしまった。
そんな了史も大学を卒業し、今では大手流通関係の会社に勤め、可愛い嫁さんも連れて来た。
別居するのだろうと思っていたのだが、うれしいことに同居すると言ってくれて、現在ではこの家に三人で住んでいる。
息子の嫁とはいえ、若い女性がいるというのは家の中が華やぐものだ。
俺は久し振りに気持ちが暖かくなるのを感じていたのだが・・・
ようやく着手した世界征服がここに来て頓挫しまくっているのだ。
理由は・・・そう、あの「ホワイトリリィ」だ。
警察も自衛隊も歯が立たない我が怪人たち。
バイトの募集と偽ったりして集めた女を改造した女戦闘員や、優秀な人材を拉致して作った女怪人たちが、いともあっさりとあのホワイトリリィに倒されてしまうのだ。
どこの何者かはわからないが、どうも異星人のテクノロジーが絡んでいるのは間違いないだろう。
いずれ正体を探り出し、完膚なきまでに叩きのめしてやらねばならん。
ふう・・・
俺は吸っていたタバコをもみ消すと、忌々しいホワイトリリィのことを脳裏からよけてアジトの部屋をあとにした。
「ただいま」
アジトからはいったん外部に出て、それから外出先から帰ったように振舞うのが俺のやり方だ。
そのために少し時間を潰して、ケーキなどを買って帰る。
面倒くさいが、俺は了史に裏の世界を知らせるつもりは無い。
あいつはやはり覇気を感じれらなくて、悪の組織の一員としては戦闘員ぐらいがせいぜいだろう。
無論我が組織には男性の戦闘員など不要だし、そんなことをするぐらいなら放っておく。
いずれあいつは俺が手を下さなくても勝手にくたばるだろう。
その方があいつのためだ。
俺はそう思っていた。
「お帰りなさいませ、お義父様(おとうさま)」
リビングからエプロン姿の百合香(ゆりか)さんが出迎えに現れる。
とびきりの笑顔がすごく素敵だ。
くりくりした瞳も、小さめの唇も、口元にあるほくろも、全てがとても可愛らしい。
この美しい百合香さんがあいつの嫁だとは信じられないぐらいだ。
あいつの功績は彼女を連れてきてくれたことだろうな。
「百合香さんただいま。これはお土産だ」
俺は途中で買ってきたケーキの手土産を渡す。
「まあ、そんな気を使わないで下さい、お義父様」
そう言いながらも百合香さんの顔がほころび、すごく嬉しそうに受け取ってくれる。
「すぐにお茶を淹れますね」
百合香さんがケーキの箱を持ってリビングに向かう。
その背中には色気があふれんばかりだ。
柔らかく流れるようなラインが背中からお尻にかけて膨らみ、そこからは太ももからふくらはぎ、踵へと集束して行く。
出るところは出て、くびれているところはしっかりくびれている。
しかし、主張しすぎることは決して無い絶妙なライン。
見事の一言だろう。
俺は百合香さんの後ろ姿を存分に堪能する。
百合香さんはあいつにはもったいない。
それが俺の出した結論だった。
「今日はまだ了史は帰ってきていないのか?」
俺はスーツを脱いで楽な服装に着替える。
どうやら了史はまだ帰ってきていないらしい。
流通関係だからな・・・土日も忙しかったりするようだ。
「はい。でも、もうすぐ帰ると思いますわ」
百合香さんがコーヒーを淹れてくれる。
「お義父様、どうします? ケーキ食べます?」
「いや、もうすぐ夕食だろう? 百合香さんの料理が楽しみだからよしておくよ」
これはお世辞でも何でもない。
彼女は非常に料理が上手なのだ。
毎日美味しい食事ができるのはいいものだ。
かつての妻も料理は上手だったが、彼女はさらに輪をかけている。
二十代半ばの若々しい肉体と言い、俺は彼女に惚れ込んでいた。
「まあ、お義父様ったら。でもありがとうございます。お世辞でも嬉しいですわ」
にこやかな笑顔で百合香さんは俺にコーヒーを差し出す。
美しい。
まさに女神と言うべきか?
あいつにはもったいなさ過ぎる。
俺は百合香の夫である了史をいまいましく思いながら、テレビをつけた。
『謎の組織クーライの怪人による被害は先週に引き続き軽微なものとなりました。これはホワイトリリィさんによるクーライの怪人に対する防衛活動と、警察による近隣住民の避難が適切に行なわれたためであり、ここに至ってようやく両者の強調が見られ始めたことが・・・』
テレビから流れてくる女性アナウンサーの声。
コーヒーの味が不味くなる。
「クーライ」というのは俺の作った組織の名前だ。
俺は堂々と日本政府に対し、この国を征服すると宣言をして行動を開始した。
無論、支配して何をしようというのでもない。
ただ支配したかったのだ。
かつていろいろな組織が世界征服をたくらみ、そのたびにこの日本で躓いていた。
まあ、それはテレビの特撮番組内のことであり、正義のヒーローが活躍する番組である以上仕方の無いことだろう。
だが、俺としてはその長い失敗の歴史をくつがえしてやりたかった。
子供っぽいくだらない妄想と言われればそれまでだろう。
結婚した子供を持ち、社会でもきちんとした会社に属する人間が考えることでは無いかもしれない。
しかし、そんなことは知ったことじゃない。
俺は俺のやりたいようにやる。
適当な女性を改造して女怪人に作り上げ、それを使ってこの日本を支配する。
支配したあとは・・・まあ、なるようになるだろう。
しかし、俺の野望は最初から阻止された。
女怪人に活動を開始させたら、ホワイトリリィが現れたのだ。
俺はこれまでに五人の女怪人を失っている。
女戦闘員に至っては四十人を下るまい。
今日の毒蛾女も、有望な新体操選手を使ったというのに、善戦したというだけだった。
何とかしなくては・・・
まずはホワイトリリィの正体を探らなければな・・・
だが・・・どうやって・・・
「このクーライって組織、何を考えているんでしょう・・・世界征服なんて子供のようだと思いませんか?」
百合香さんがキッチンで夕食の支度をしながら俺の方を見る。
「そ、そうかな・・・」
俺はどきっとした。
まあ、俺がそのクーライの首領だとは夢にも思わないだろうが・・・
用心に越したことは無い。
「今日だって買い物の途中に、クーライの女怪人が暴れていたんですよ。おかげで買い物が思うようにできなくて・・・」
「そ、そうだったのか。怪我はなかったかい?」
「あ、はい。大丈夫ですわ」
百合香さんが微笑む。
だが、先ほどの困ったような表情も綺麗なものだ。
そう思う俺は思わず苦笑する。
しかし気をつけなければならないな。
部下たちに百合香さんを傷つけたりしないように徹底させる必要がありそうだ。
「ただいまー」
そんな話をしていると了史が帰ってくる。
「お帰りなさい、了史さん」
すぐに百合香さんは玄関まで出迎えに行く。
やれやれ・・・
きっと玄関では熱いキスが交わされているのだろう。
俺は内心のもやもやをぐっと殺して、苦いコーヒーを飲み干した。
******
「洞上(どうがみ)部長、こちら検印お願いいたします」
総務課の女子社員が俺の前に書類を置く。
なかなか可愛い娘だ。
女戦闘員として手元に置いておくのもいいかもしれないな・・・
俺はそんなことを考えながら書類に目を通す。
と言っても、実際はめくら判と同じようなもの。
俺が判を押さないと通らないから押しているだけだ。
実際にきちんと目を通そうと思ったら、とてもじゃないが一日仕事だろう。
それも書類の内容を読むだけで。
そんな意味の無いことをしても仕方が無い。
結局俺は数分で数十枚の書類に判を押して手渡した。
書類を持って立ち去るスカイブルーの制服に包まれた女子社員の後ろ姿を見送りながら、俺は百合香さんのことを考える。
百合香さんは実に素敵な女性だ。
了史が百合香さんと結婚したのは、まさに天の恵みであると同時に天の悪意を感じてしまう。
なぜあいつが百合香さんの夫なんだ・・・
あいつのどこがいい。
不思議かもしれないが俺は了史に愛情は持っていない。
家政婦に任せきりで手の掛からなかった了史はどこか遠くの存在に感じるのだ。
無論家族としては問題なく暮らしていると思う。
しかし、百合香さんを連れて来た日から、俺はあいつに対し憎しみにも似た嫉妬を感じていたのだ。
百合香さんを俺のものにする。
いつごろから考え始めたかはもうわからない。
だが、俺は百合香さんを見た時からそう決めていたような気がする。
了史と百合香さんの結婚からもう一年。
俺は内心を気付かれて別居されないように注意を払ってきた。
だが、それももう限界だろう。
そろそろ行動を起こす時だ。
単純に百合香さんを手に入れるだけなら、俺にはクーライの首領としての力がある。
アジトに連れ込んで脳改造で洗脳してしまえばよい。
だが、それで手に入るのは人形となってしまった百合香さんだ。
俺が愛した百合香さんではない。
俺が手に入れたいのは人形ではなく生きた百合香さんだ。
息子の妻を寝取る。
ふふふ・・・
これほど背徳的で悪に相応しいことも無いかもしれないな・・・
俺はつい含み笑いを漏らしていた。
- 2010/02/20(土) 19:06:11|
- ホワイトリリィ
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