今年最初の更新は、「ホーリードール」の37回目です。
戦い済んで少しばかりの休息です。
37、
白い空間。
雲のような白いモヤが足元にたなびき、ゼーラが歩みを進めるごとに撒き上がる。
同じように白い台。
台というよりもふかふかのベッドのようだ。
寝かせられているのは赤と青の少女たち。
眠っているように目を瞑り、桜色の唇を閉じている。
ゼーラはそっと傍に行って胸をなでおろす。
損傷の度合いは軽くはない。
だが、充分に修復が可能なレベルだ。
せっかくのドールを廃棄する必要がないことに、ゼーラは心から安堵した。
白いドレスのまま片足をベッドの上に乗せる。
そしてそのまま覆いかぶさるように赤の少女の上に躰を移動させ、その可愛らしい顔を眺めている。
身じろぎもしない赤の少女。
最後の力を振り絞ってホーリードールサキを回収してくれた。
二人の闇の女を相手によく粘ってくれた。
左腕の損傷はすぐに直してあげる。
私の可愛いホーリード-ルアスミ。
ゼーラはそっと赤の少女の左腕を持ち上げる。
赤い手袋に覆われた華奢な細い腕。
その手の甲にそっと口付けをして、ゼーラは魔力を送り込む。
すぐに白い光がホーリード-ルアスミの左腕を覆い、損傷箇所を修復していく。
この程度の損傷ならば、一日もあれば問題はなくなるだろう。
ゼーラは笑みを浮かべてホーリード-ルアスミの髪を手で梳いた。
『一瞬にして校舎が倒壊するという信じられない事故が起きました。ごらんください。いまや子供たちの楽しい学び舎であった小学校は、完全に瓦礫の山と化しております』
画面の中で赤色回転灯が瞬いている。
多くの人間たちが右往左往するなか、レポーターだけが声を張り上げている。
『いったい何があったのか想像も付きません。倒壊する瞬間を見た者すらおりません。言える事は、学校が倒壊したという事実だけです』
先ほどまで自分たちがいた場所だ。
結界を解いた瞬間、倒壊した学校があらわになったのだ。
すぐに消防と警察が呼ばれ、あたりは大混乱に陥った。
今では近隣の駐屯地から自衛隊も呼ばれ、必死に救助活動が行なわれている。
瓦礫の中から一人でも生存者がいないかと懸命に行なわれているのだ。
「どれだけ生き残ったやら・・・」
TVに向かってポツリとつぶやくレディベータ。
生存者は少ないだろう。
ブラックパンサービーストが食い散らかしたうえ、どこかに隠れていたとしても、あの校舎の倒壊に巻き込まれたであろうから。
可能性があるとすれば、校舎の外に出た子達ぐらいか。
おそらくほんのわずかに過ぎないだろう。
何があったのかもわからないに違いない。
「倒壊か・・・光もやることが派手だわね」
スッとホットミルクのマグをレディベータの前に置くレディアルファ。
「あ、ありがとうございます、アルファお姉さま」
漆黒の手袋に包まれた手で温かいカップを取るレディベータ。
そのにこやかな表情に思わずレディアルファも笑みが浮かぶ。
『次々と子供たちの遺体が運び出されます。なんという光景でしょう・・・涙が止まりません。なぜこんなことになってしまったのでしょう・・・』
女性レポーターも嗚咽を漏らす。
自衛隊員が毛布をかけた担架を運び出していく。
周囲では両親たちが泣き崩れていた。
「アルファお姉さま・・・」
「なに?」
「デスルリカ様は?」
先ほどから姿が見えないことにレディベータは気になっていた。
またしても自分が勝手なことをしてしまったから・・・
前回といい、今回といい、どうして私は勝手なことばかりしてしまったのだろう。
デスルリカ様はきっと怒っているのではないだろうか。
だから顔を見せてくれないのではないだろうか。
レディベータはそれが気になっていたのだった。
「大いなる闇にお会いしているわ」
「えっ? 大いなる闇に?」
どういうことだろう。
この世界を闇に覆うことに関しては、デスルリカ様が行なわれることのはず。
その手足となって動くのが私たち闇の女の使命。
まさか・・・
「まさか・・・私のことで?」
「フッ、まさか。違うでしょ」
心配そうに顔を上げるレディベータに、レディアルファは鼻で笑い飛ばした。
おそらく光の手駒に対してのことだと思うのだ。
大いなる闇はいちいちレデイベータのことなど気にもしないだろう。
「心配しなくていいわよ。ベータは気にすることなどないの。今回だって光の手駒に充分ダメージを与えられたわ。デスルリカ様だってそう思っていらっしゃるわよ」
椅子の背後からレディベータを抱きしめるレディアルファ。
その温かさがレディベータはうれしかった。
躰の位置を入れ替える。
ホーリード-ルアスミに関してはこれでいい。
あとは青の少女、ホーリードールサキを修復しなくては。
内部損傷がやや激しい。
おそらく、いくつかの臓器は作り直さねばならないだろう。
だが・・・
ゼーラの顔には笑みが浮かぶ。
作り変えるのだ。
もともとの肉体から作り変えることで、ドールはどんどん彼女のものになる。
気に入ったドールは長く手元においておきたいもの。
今回はいい素材が手に入った。
どんどん好みに作り変えるのだ。
精神も肉体も彼女のものになるのだ。
今回はよかった。
間一髪で闇に触れられなかったのだ。
闇に触れられたドールなど汚らわしい。
それだけで興味がなくなる。
大事にしていればいるほど、闇に触れられたら嫌いになる。
闇の手駒になど触れられてたまるものか。
静かに横たわるホーリードールサキ。
その上半身をそっと抱き上げる。
可愛らしい少女。
その柔らかい唇に、ゼーラはそっと口付けをした。
- 2010/01/01(金) 21:10:40|
- ホーリードール
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皆様、新年あけましておめでとうございます。旧年中はいろいろとお世話になりました。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
今年も趣味のミリタリーネタから、ウォーゲーム、そして洗脳改造悪堕ち系SSをたくさん投下していきたいと思っております。
皆様の変わらぬご支援をいただけますようがんばりますので、応援よろしくお願いいたします。
今年が皆様にとりましてもよい年になりますようお祈り申し上げます。
- 2010/01/01(金) 07:00:00|
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