久しぶりにSSを書きました。
久しぶりに書いたら、なんか変なSSになってしまいました。(笑)
うーん・・・楽しんでいただけますでしょうか?
よろしければごらんくださいませー。
アタック オブ ザ キラートマトに敬意を表し・・・
「おーい、リンダ」
私はオバノン報道部長の声に顔を上げる。
いつも苦虫を噛み潰したようなオバノン部長は、すぐに行動しないと機嫌が悪い。
私は飲みかけのコーヒーを置いて、すぐに部長の下へ駆け寄った。
「お呼びですか? 部長」
「ああ、今、手は空いてるか?」
空いていなくても空いているという返事以外に聞きたくないくせに・・・
「ハイ、空いてますけど」
私としてはそう言うしかない。
願わくばあまり手間のかからないことを言いつけられますように・・・
「郊外にあるモーリンデン農場とやらで近隣住民とトラブルになっているらしい。なんでも家が壊されているとかでネタになりそうだ。すぐに取材に行ってくれ」
「・・・ハイ、わかりました」
内心でエーッと叫び声をあげたいのを我慢し、私はそう答える。
はあ・・・やれやれだわ。
「写真屋にジョナサンを連れて行っていいぞ。車も社のを使っていい」
「ありがとうございます」
私は部長に頭を下げ、すぐに机からカバンを取る。
そして先ほど帰ってきたばかりのジョナサンに声をかけた。
「ジョナサン、悪いけどまた取材よ。いっしょに来て」
「うえ? 俺、今帰ってきたばかりっすよ」
ホットドッグをパクつきながら驚いているジョナサン。
「仕方ないでしょ。オバノン部長の命令なんだから」
私も思わず苦笑する。
私の机の上に散らかった書きかけの記事に眼をやり、ジョナサンも肩をすくめた。
「やれやれ・・・仕方ない、行きますか」
私はカメラケースを抱えた彼を従え、“アーカム・ガゼット”の社屋をあとにした。
「で、どこに行くんです?」
社用のピックアップを運転するジョナサン。
まだ若い彼だけど、カメラの腕は一流。
でも運転はちょっと二流かな。
「町外れにあるモーリンデン農場よ。何でも近隣住民とトラブルになっているとか」
私は窓を開け、少しでも涼しい風を取り入れる。
「なんですか? またウシの臭いがいやだとかそんなんじゃ?」
「農場だからウシじゃないとは思うけどね」
私は窓から入る風に髪をなびかせ、つかの間のドライブを楽しんだ。
******
「えっ? 何あれ?」
モーリンデン農場に着いた私は目を疑った。
農場の入り口の柵は壊れ、赤い服を着た男女がなにやら作業をしている。
奥にある倉庫の前には、何か赤いものがうず高く積まれ、そちらでも赤い服の男女がうろついていた。
「なんですか、あれ?」
「わからないわ。もう少し近づいてみましょ」
私はジョナサンにピックアップを近づけるよう指示し、農場の母屋の近くまで進んでいく。
農場の人たちはみな一様に赤い服を着て、なにやらせこせこと動いていた。
「ああ、何かと思ったらトマトなのね。ここはトマトを作っているんだわ」
母屋に近づくにつれ、積まれた赤いものの正体が判明する。
真っ赤に色づいたトマトだったのだ。
それにしてもすごい量。
きっとケチャップとかの加工用なんでしょうね。
私はあんまりトマトが得意じゃないから、これだけ積まれているとなんだか恐ろしさを感じちゃうわ。
ピックアップを母屋の前に止めた私たちは、車を降りて話しかけた。
「すみません。アーカム・ガゼット紙のリンダ・ウェイトリーといいます。農場主の方はいらっしゃいませんか? 取材させていただきたいんですが」
でも、誰も反応してくれない。
みんなトマトを大事そうに持って、一個一個丁寧に倉庫の前に積んでいる。
トマトってそんなふうに収穫するの?
大変だわぁ。
「あの、すみません」
私は男性の一人を呼び止める。
男は私をギロッとにらむと、すぐに手にしたトマトに目を向けた。
「すみません。農場主の方は?」
「お前さんもトマトに奉仕するがいい・・・」
「はあ?」
私は思わず聞き返す。
この人は何を言っているのだろう?
「トマトに奉仕するのだ。トマトのしもべとなるのだ」
そう言って男性は私をすり抜けるようにして倉庫のほうへ行ってしまう。
私は首を傾げるしかなかった。
「どうします? こいつらなんだか変ですよ」
ジョナサンも周囲の人間が奇妙に感じるようだ。
おそらくこの奇妙さが近隣とのトラブルになっているのかもしれないわね。
「仕方ないわ、母屋に行ってみましょうか・・・」
私とジョナサンが母屋に足を向けたとき、突然銃声が響く。
思わず私とジョナサンは顔を見合わせた。
「銃声ですね」
「行きましょう」
私は銃声のしたほうに向かって走り出していた。
******
「いやー! ママーッ!」
「貴様ら! 妻から離れろ!」
私とジョナサンがたどり着いたのは、広いトマト畑に隣接した隣の家だった。
見ると、赤い服を着た一団が玄関先に固まり、隣家の主人と思われる男性が狩猟用のライフルを一団に向けて構えている。
その脇には白い服を着た少女が一人いて、泣いているようだった。
「何があったんでしょう?」
「わからないわ。でも、これがトラブルらしいわね。とりあえず写真をお願い」
私はジョナサンに写真の手配を頼むと、話を聞こうと前に出た。
「エミリー、早くこっちへ!」
威嚇するように銃を構えている男性。
すると、赤い服の集団から一人の女性がふらふらと男のほうへと近づいていく。
「ママ」
白い服の少女が彼女に抱きつき、銃を構えた男性が二人をカバーする。
やっぱりこの家のご主人と奥さん、娘さんのようだわ。
「すみません」
私はなるべく刺激しないように声をかける。
「アーカム・ガゼット紙のリンダ・ウェイトリーです。何があったんですか?」
「どうもこうもない。こいつらいかれてやがるんだ。トマト畑を広げるから家を取り壊すって・・・」
銃を構えたご主人が横目で私の方を見る。
その後ろには口元を赤くした女性が少女を抱きしめていた。
「ママ、大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。ちょっとトマトを無理やり食べさせられただけ」
エプロンからハンカチを取って口を拭う彼女。
どうやら怪我とかはしていないようね。
私はどうして隣家を壊すようなことになったのか、農場の人たちに聞こうと思った。
農場の人たちはみな赤い服を着て、手に手にトマトを持っている。
そして不気味な笑みを浮かべ、無言で立ち尽くしていた。
何、この人たち?
私は背筋がぞっとした。
まるで何か得体の知れないものを見ているかのよう。
話が通じるかどうか怪しく感じてしまう。
「ここは俺の家だ。農場へ帰れ! 二度と近づくんじゃない!」
ライフルを向けるご主人に対し、赤い服の一団が笑みを浮かべたままトマトを差し出してくる。
「お前もトマトを食べなさい。そうすればすぐにトマトのすばらしさがわかる。トマトに奉仕するのだ」
口々にそういいながらゆっくりと近づいていく赤い服の一団。
奥さんはおびえてしまったのか家の中に入ってしまう。
でも、子供を外に置いたままってのはどうなの?
再び銃声が響く。
ライフルを持ったご主人が、空に向かって銃を撃ったのだ。
威嚇の意味だが、少しは効いたようで、赤い服の一団の足が止まる。
家の中からはまた奥さんが出てきて、少女の脇を通り抜け・・・
通り抜け?
「ぐわぁっ! エ、エミリー・・・」
「いやぁっ! パパーッ!!」
血しぶきが飛び散り、少女の悲鳴があたりに響く。
私は目を疑った。
あの奥さんが、ナイフで夫の背中を刺したのだ。
どうして?
いったいどうしてなの?
いったいここで何が起こっているの?
「うふふふ・・・私はもうトマトの虜なの。トマトに奉仕するのよ。トマトを広めなくてはならないの。それを邪魔する者は許さないわ・・・」
口元に笑みを浮かべ、血の滴るナイフを握り締めている奥さん。
その表情が赤い服の一団と同じであることに私は気が付いた。
「いやぁっ! パパーッ! パパーッ!」
動かなくなった父親にすがりつく少女。
私は目の前で起こったことが信じられない。
隣ではジョナサンも唖然としたままでシャッターを切っている。
何が何だかわからない・・・
「うふふふ・・・キャシー、あなたもトマトを食べなさい。美味しいわよ」
母親の言葉に少女が振り返ったとき、赤い服の一団がいっせいに動き出す。
「いやぁっ!」
「いやっ、やめてぇっ!」
「うわぁっ! は、放せぇっ!!」
遅かった・・・
とっととこの場から逃げ出すべきだったのだ。
私は必死に抵抗するが、赤い服の一団に手足を押さえつけられてしまう。
見ると、少女もジョナサンも手足を押さえつけられ、身動きが取れないようにされていた。
「は、放しなさい。お願い、放してぇ!」
「くそっ、お前らどういうつもりだ!」
私とジョナサンは必死に逃げ出そうとするものの、両手両脚を掴まれて身動きが取れない。
いったい私たちをどうしようというの?
「いやぁっ! トマトいやぁっ!」
押さえつけられた少女の口元に真っ赤なトマトが寄せられる。
少女は歯を食いしばって首を振り、何とかトマトを口にしないようにしているが、まわりの赤い服の連中が無理やり口をこじ開ける。
「やめなさい! 嫌がっているじゃないの!」
私は何とかやめさせようとしたものの、少女の口にトマトがつぶれるのもかまわずにねじ込まれる。
「がふっ、ぐほ・・・」
少女は必死に抵抗していたが、鼻をつままれたり無理やり押し込められたりして、ついにその喉がごくりとトマトを飲み込んでしまった。
「ゲホッ、ゲホ・・・」
少しの間むせていた少女だったが、しばらくすると落ち着いたように呼吸が整う。
すると驚いたことに、少女は自ら手を伸ばしてトマトを受け取ったのだ。
「うふふ・・・」
笑みを浮かべてトマトをかじり舌なめずりをする少女。
先ほどまで嫌がっていた様子は微塵もない。
「うふふふ・・・美味しいでしょ、トマト」
自らもトマトを口にしながら母親が少女に話しかける。
「ええ・・・とても美味しいわ。うふふふ・・・私はもうトマトの虜。トマトに奉仕いたします。トマトを世界に広めます」
少女の笑みは赤い服の一団と同じだった。
少女も彼らの仲間になってしまったのだ。
「さあ、この家を破壊しましょう。トマト畑を広げるのにこの家は邪魔だわ。この家を壊しトマトの苗を植えるの。ここはトマト畑になるのよ」
少女がうれしそうにそう言う。
もはや少女にとってこの家は邪魔な存在なのだ。
いろいろと思い出もあるはずの家なのに・・・
「ええ、そうしましょう。この家を破壊してトマト畑にするの。でも、その前に・・・」
少女の母親が私を見る。
私は背筋が凍りついた。
いやだ・・・
いやだ・・・
あのトマトを食べるのはいやだ!
いやよぉ!
私は必死になって暴れたけど、赤い服の一団が私を押さえつけて身動きが取れない。
歯を食いしばって首を振る私の前に、あの少女がやってくる。
「お姉ちゃん、トマト、美味しいよ」
私の口にトマトが押し付けられた。
******
「うふふ・・・美味しい」
私はトマトを一口かじる。
みずみずしい果肉とゼリーが口の中に広がって、えも言われぬ幸せを私に与えてくれる。
ああ・・・
なんて幸せなのかしら。
トマトは最高の植物。
私はトマトの虜。
身も心もトマトのしもべなの。
トマトに奉仕しなくてはならないわ。
私の隣では、赤いシャツを着たジョナサンが、トマトをかじりながらピックアップを運転している。
ピックアップの荷台には農場から持ってきたトマトがいっぱい。
早く会社に戻ってみんなにトマトを食べさせなくちゃ。
きっとすぐにみんなもトマトの虜になるわ。
そうしたら町を壊してトマト畑にするの。
今にトマトがこの国中に・・・ううん、世界中に広まるわ。
なんてすばらしいのかしら。
私たちはトマトのしもべ。
トマトに奉仕するために生きるのよ。
私は途中で買った赤いワンピースに身を包み、窓からの風に髪をなびかせながらトマトをまた一口かじって舌なめずりをする。
ああ・・・美味しいわぁ・・・
END
いかがでしたでしょうか?
楽しんでいただけましたらうれしいです。
- 2009/10/17(土) 19:32:19|
- 催眠・洗脳系
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