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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

マスター

今日は「グァスの嵐」を投下します。
少しだけですがどうぞ。


25、
「ミュー、君はマスターの言うことは聞かなくてはならないんだね?」
エミリオの表情がきびしくなる。
今から言うことがいいことなのかどうかはわからない。
だけど、ここ数日いっしょにいて、ミューが動かなくなってしまうなんてのはエミリオには耐え難くなっていたのだ。
「はい。ミューはロボットです。ロボットはマスターの命令には従わなくてはなりません」
ミューはこくんとうなずいた。
「それじゃ・・・」
いいのか?
それを言ってもいいのか?
エミリオはつばを飲んだ。
だが、言わずに後悔するよりは、言って後悔した方がいい。
「ミューは今マスターがいない状態だと言ったね?」
「はい。今のミューにはマスターはおりません」
「だったら、僕がミューのマスターになりたい。僕がミューのマスターになってもいいだろうか?」
「えっ?」
フィオレンティーナが驚きの表情を浮かべてエミリオを見る。
それはフィオレンティーナも考えていたことだったのだ。

「ミュー、僕がマスターじゃだめなのか?」
ミューはエミリオの顔をただ見つめる。
そこには困惑の表情が浮かんでいた。
「ミュー」
「ミューちゃん、お願い。これからもいっしょにいようよ。ミューちゃんがいなくなっちゃうのやだよ。いっしょにいようよ」
エミリオとフィオレンティーナの言葉をただ黙って聞いているミュー。
だが、ミューは静かに首を振った。

「ミュー・・・」
「ミューちゃん・・・」
がっくりと肩を落とすエミリオとうつむくフィオレンティーナ。
ミューのマスターになるというのは、ある意味切り札だったのだ。
だが、やはりそれは勝手なことだったのかもしれない。

「違うのです」
ゆっくりと口を開くミュー。
「エミリオ様、フィオレンティーナ様、違うのです」
「ミュー?」
「違うって? 何が?」
エミリオもフィオレンティーナもどういうことかわからない。
「ミューにはわかりません。判断ができません」
「ミュー・・・」
「ミューちゃん・・・」
「ミューはきっと壊れちゃったんです。だから、エミリオ様の申し出を受け入れていいのかどうかわかりません。判断ができません」
再び首を振るミュー。
まさにどうしていいのかわからないのだ。

「ミュー」
そっと歩み寄るエミリオ。
だが、それより先にフィオレンティーナがミューを抱きしめる。
「フィオレンティーナ様」
「バカね・・・受け入れればいいの。受け入れればいいのよ。こうして出会ったのも何かの縁。エミリオも私もミューちゃんを受け入れているんだから、ミューちゃんも私たちを受け入れればいいの」
ミューを抱きしめ、その頭を撫でるフィオレンティーナ。
「フィオレンティーナ様・・・」
「フィオでいいの。フィオでいいんだってば」
「フィオ・・・様・・・」
抱きしめられながらミューはなすがままになっている。
「ミュー、フィオの言うとおりだ。僕たちを信じてくれ」
「エミリオ様・・・」
ミューが顔を上げ、エミリオが力強くうなずく。
「チアーノ様が言いました。“いいマスターを探すんだ”と。ミューにはエミリオ様こそがいいマスターである確率が高いと判断します。エミリオ様、ミューをよろしくお願いいたします」
「ミュー・・・いいのかい?」
「はい。ミューはもう一度自分で判断しようと思います。エミリオ様、ミューのマスターになってください」
「うん。約束する。マスターとして絶対ミューの嫌がるようなことはしないよ」
すっと右手を差し出すエミリオ。
ミューはフィオに抱きしめられたまま、しっかりとその手を受け取った。

「おはよう、艦長。綺麗に晴れ上がったようだな」
雨上がりの濡れた甲板を歩いてくるエスキベル提督。
三角帽の下の表情もいつになく明るい感じだ。
ただ、鋭い眼光だけは変わらない。
部下のミスを見つけ出し、いつでも叱責してやろうという目だ。
「おはようございます提督。夕べは眠れなかったのではありませんか?」
リューバ海軍の小型ギャレー『デ・ボガスタ』の艦長ファン・ナルバエスは、脇にいる水兵にすぐに飲み物を持ってくるようにあごで指示する。
「ん? そんなことはないぞ。ワシとて船乗りだ。あの程度の嵐で眠られなくなるほどではない」
艦橋の手すりに躰を預け、楽な姿勢で前方を見る。
すでに明けた空は綺麗な青空を見せており、夕べの嵐が嘘のようだ。
甲板では水兵たちが艦長の指示の下、濡れた甲板と帆、それにオールの手入れに余念がない。
毛むくじゃらで胸板の厚い筋肉隆々な奴隷種族のラーオン人も、狭苦しい漕ぎ手区画から顔を出し新鮮な空気を吸っている。
ただエスキベル提督は、ラーオン人の一団を見ると顔をしかめていた。

「提督、ホットワインはいかがですか?」
マグを差し出すナルバエス艦長。
「うむ」
エスキベル提督は礼を言うでもなく受け取り、一口飲むとこう言った。
「どうもあのラーオン人というのは気に入らんな。動物のくせに人間と同じような姿をしている。気に入らん」
ナルバエス艦長は苦笑するしかない。
リューバ海軍に限らず、漕ぎ手を必要とするギャレー船にとってラーオン人は必要不可欠だ。
だが、その扱いは決してよくはない。
足を鎖で固定し、死ぬまでオールを漕がせるのだ。
食事も決して潤沢に与えはしない。
まさに奴隷としての扱いだった。
知能も高くはなく、教えたことを実直に繰り返すので、漕ぎ手としては理想的ということなのだ。
なぜそんな種族がラーオン“人”と呼ばれるのかは誰も知らない。
エスキベル提督同様、彼らを動物としか思ってない人間は数多い。
四本腕のトカゲ型のバグリー人や四足歩行のザガン人のほうがはるかに人間離れしている姿をしているにもかかわらず、彼らはその知能の高さで人間同様の扱いを受けているのとは対照的だった。

「間もなく出航準備も整います。次はトゥルポ島というところでしょうか?」
ナルバエス艦長はラーオン人のことにはまったく触れず、次の行動のことのみを告げる。
「そうだな・・・自航船の手がかりがまったく見当たらんはずはないのだ。いまいましい」
苦虫を噛み潰したような表情になるエスキベル提督。
自航船の秘密さえ手に入れれば、彼も中央でもっと羽振りがよくなるはずなのだ。
その目論見が今のところはずれていることに、彼は苛立ちを隠せなかった。
  1. 2009/09/29(火) 21:36:49|
  2. グァスの嵐
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Author:舞方雅人
(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
どうぞ楽しんでいって下さいませ。

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