第一次世界大戦で産声を上げた戦車でしたが、その発達の過程で一つの特異な形状の戦車を生み出しました。
もともと塹壕に潜む敵兵を攻撃するのが目的であった最初の戦車は、車体の左右に機関銃や砲を搭載しておりましたが、多方向の敵に対処できるように回転できる砲塔形式となり、履帯の付いた車体に一つの砲塔という戦車の基本形ができるわけですが、多くの敵に対処するには多くの砲塔を載せるのがいいのではという思想から、多砲塔戦車の構想が生まれました。
このいわば陸上戦艦とも言うべき多砲塔戦車を最初に開発したのは英国で、五つの砲塔が各自独立していることからインデペンデント重戦車と名付けられました。
このインデペンデント重戦車に関しては、当ブログの2009年5月14日の記事を見ていただければと思います。
このインデペンデント重戦車は、各国の軍事関係者に衝撃を与え、各国ともに多砲塔戦車の開発に着手することになりますが、折からの世界恐慌で軍事費が削減されるなか、開発にも製造にも多額のコストがかかる多砲塔戦車は、やがて次々と開発中止へと追い込まれて行きました。
しかし、社会主義政権により第一次五カ年計画が進行中で世界恐慌の影響をほとんど受けなかったソ連では、多砲塔戦車の開発が続いておりました。
一つは大型砲塔一つと車体前部に小型銃塔二基を備えたT-28中戦車。
そしてもう一つが、世界で唯一量産された砲塔五つを持つ多砲塔戦車T-35でした。
T-35は、ソ連側資料では英国のインデペンデンス重戦車に影響を受けたものではないとされていますが、デザイン的にはほぼ似通ったものとなってました。
車体の中央から少し前よりにメインとなる大型砲塔が一基。
この砲塔には当時としては大口径の76.2ミリ砲を搭載し、大きな破壊力を有します。
そして車体を上から見て主砲塔の右前と左後ろに対称的に45ミリ砲の小型砲塔が一基ずつ。
さらにその逆側の左前と右後ろ側に機関銃を一丁搭載した小型銃塔を一基ずつと、合計五基の砲塔を備えました。
T-35は1932年には最初の試作車が完成し、翌年には二両目の試作車が完成します。
この試作車はT-32と呼ばれたともされますが、砲塔を五つも備えた勇壮な姿で軍事パレードには必ず登場したといいます。
この試作車をもとにT-35は量産が始まりますが、主砲塔や小型砲塔を当時量産中の他戦車の砲塔と共通にするなどコストダウンを図ったにもかかわらず、一両あたりの費用はT-28戦車の約五両分、BT-7戦車の約九両分という高いものになってしまいます。
また、とてつもなく巨大になってしまった車体は、40トンに押さえたもののエンジンがやはりアンダーパワーで機動性に乏しいものになってしまいました。
また装甲も30ミリ程度とそれほど厚いものにはできませんでした。
つまり、英国のインデペンデンス重戦車で明らかになっていた欠点をそのまま引き継いでいたのです。
そして、T-35にはほかにも問題がありました。
砲塔が五つもあるため、それぞれを操作する人員を配置しなくてはならず、なんと操作員が10名も必要だったのです。
しかも、信頼性が低いため整備用に専門の車外員が2名必要となり、戦車に乗らない戦車兵が必要になりました。
つまり、T-35一両に12名もの戦車兵が必要であり、これまたBT-7戦車あたりの三両分で、運用側からも運用しづらいという不満が噴出いたしました。
そのような使いづらい戦車でしたが、T-35は約六十両が生産され、独ソ戦に投入されました。
実戦ではやはりあまり活躍することもできずに独軍に個別に撃破されてしまったようです。
また、故障も多く、戦場にたどり着く前に故障で放棄されてしまったものもあったようです。
結局多砲塔戦車は有用ではなく、急速に廃れて行きました。
T-35も見た目は勇ましく、パレードの花形ではありましたが、実戦で役に立つものではありませんでした。
ですが、やはりこうした多砲塔戦車というものは、一種のロマンを感じてしまう気がするのは私だけでしょうか?
それではまた。
- 2009/08/31(月) 21:21:17|
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今日は衆議院の国会議員選挙の投票日でした。
私も投票に行ってきましたよー。
皆様も行ってこられた方が多かったのではないでしょうか。
自民、民主の二大政党間での政権選択選挙と言われましたが、どちらになるにせよ国民生活がよりよい方向に向かっていってほしいものです。
このところシミュレーションRPGの「ティアリングサーガ」をプレイ中。
とにかく難しい。
誰か死んでもOKプレイならそうでもないのかもしれないけど、誰か死んだらやり直しだととにかく難しい。
今まで何度放り出したことか・・・
今回は最後までやりたいなぁ・・・
できるかなぁ。
すみません、今日はこんなところで。
それではまた。
- 2009/08/30(日) 20:18:24|
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日奈久に上陸後、順調に北上してきた官軍衝背軍は、明治10年(1877年)4月1日には宇土まで進出。
熊本城まであとわずか10キロほどというところまでたどり着きました。
しかし、熊本城周辺には薩軍の熊本城包囲部隊などがおり、衝背軍としても容易には近づけない状況に見えました。
そのため一気に熊本城へ進出と意気込んだ官軍将兵を制し、衝背軍はここでその進撃を停止します。
参軍の黒田中将は兵力不足と補給不足で進撃できないと山県中将に進言。
山県中将はその言を受け入れて、黒川大佐を旅団長とする別働第四旅団(約二千六百名)を編成し、衝背軍に配属することに決めました。
一方薩軍は緑川に防衛線を敷き、衝背軍をそこで食い止める手配を取ります。
さらに鹿児島に戻って兵の募集を行なっていた別府晋介と辺見十郎太に、集まった兵力をもって衝背軍のさらに背後を突くように指示を出しました。
兵力不足に陥って来ていた薩軍は、衝背軍の日奈久上陸以前に別府晋介と辺見十郎太が兵士募集のために鹿児島に戻っておりました。
そこで彼らは、どうにか千五百名ほどをかき集め、九番大隊と十番大隊として編成し熊本方面へ向かうつもりでした。
ところがそこに官軍の日奈久上陸の報が届き、彼らは兵を連れて人吉に向かいます。
人吉で様子をうかがう彼らの元に、桐野利秋からの伝令が届いたのは3月31日でした。
伝令が伝えてきたのは、官軍衝背軍の背後を突けというものでした。
そこで別府と辺見は、いまや官軍の後方拠点となっている八代が衝背軍の北上につれて手薄になっていると知り、八代を攻撃することに決めました。
4月4日。
球磨川沿いに北上した薩軍は、坂本村というところで衝背軍に属する別働第二旅団の一個中隊に遭遇します。
薩軍の方が兵力が優勢であったため、この戦いは官軍の敗走に終わりますが、官軍は薩軍が後方でも行動していることに気がつきました。
4月5日。
薩軍は辺見が右翼隊を、別府が左翼隊を率いて八代に向かいます。
この時点で衝背軍はほぼ全力を北上させて緑川の線に展開させており、八代にはわずかの守備隊しか置いておりませんでした。
薩軍と官軍八代守備隊との戦闘は、薩軍の勢いと兵力に勝る攻撃で官軍が圧倒されて終わります。
薩軍は八代まであと3キロというところまで迫りました。
しかし、ここでこの日は日没となり、薩軍はこの日の八代突入をあきらめていったん後退いたします。
4月6日。
薩軍は再度八代攻撃に向かいます。
この日は球磨川沿いに八代市街に突進し、官軍守備隊を蹴散らして市内へ突入できるかと思われました。
しかし、このとき薩軍の横合いから官軍の増援部隊が攻撃を仕掛けます。
薩軍の動きを知って、急遽派遣されてきた別動第二旅団の二個中隊でした。
前日の5日に急遽八代に派遣されたのです。
この横合いからの攻撃は薩軍にとっては予想外でした。
武器弾薬に乏しい薩軍は、この官軍の攻撃を支えきることができませんでした。
やむなく辺見と別府は合流し、この日の八代突入をあきらめて人吉に向かって後退します。
官軍は間一髪のところで後方拠点の八代を守りきったのでした。
4月7日。
衝背軍に新編成の別働第四旅団が宇土半島に上陸し、合流のために進撃を開始します。
4月8日。
味方の衝背軍が緑川の線まで到達したことを知った熊本城の官軍は、城内の食糧の乏しさなどを知らせるとともに衝背軍との連絡を取るために、奥保鞏(おくやすかた)少佐の指揮する一個大隊規模の突囲隊を包囲突破のために出発させます。
突囲隊は薩軍の包囲陣の中を遮二無二突破し、衝背軍の前線にまで到達することができました。
この時衝背軍では、薩軍の中から一団の敵味方不明の兵力が迫ってくるのを見て一瞬緊迫する場面があったものの、程なくそれが味方の熊本城内の兵ということを知り大喜びで迎えたといいます。
奥少佐の突囲隊の到着により、熊本城内の食糧事情は急を要するものということがわかりました。
熊本城内ではネコネズミはおろか、加藤清正が戦国時代に用意したひじきまで食べているというのです。
一刻の猶予もありませんでした。
しかし、衝背軍の黒田参軍はすぐに熊本城へ向かって前進しようとはしませんでした。
彼はただ、熊本城救出の総攻撃を4月12日に行なうと告げたのみでした。
(22)へ
- 2009/08/29(土) 21:06:01|
- 西南戦争
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舞方雅人さんのパソコンから、おもしろい音がします。
*このエントリは、
ブログペットのココロが書いてます♪
- 2009/08/29(土) 07:51:36|
- ココロの日記
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北欧の国フィンランド。
第一次世界大戦でロシア帝国が崩壊したことにより、長い間の悲願だった独立を達成したこの国は、その後もロシア(ソ連)との間に幾度かの戦争を行ってきました。
そのうちの一つに「冬戦争」(1939-1940)があり、当ブログでも昨年10月に五回にわたって記事を掲載させていただきました。
このフィンランドの首都ヘルシンキはバルト海の奥フィンランド湾に面する都市ですが、そのヘルシンキに面した海上に浮かぶのがスオメンリンナ島です。
今でこそこのスオメンリンナ島は、ヘルシンキ市民の憩いの場として親しまれておりますが、もともとこの島はフィンランド湾及びヘルシンキを守るための要塞でした。
現在でも島の一部はフィンランド海軍の施設になっているとのことですが、要塞そのものは世界遺産として観光客にも親しまれているようです。
スオメンリンナ島にはこの要塞に関連して戦争に関する三つの博物館があります。
一つはそのものずばりの「軍事博物館」
ここにはAFV(装甲戦闘車両:いわゆる戦車の類)や砲兵器などが展示され、珍しい野戦炊事車などもあるようです。
二つ目は「潜水艦博物館」
ここには陸揚げされた実物の第二次大戦型潜水艦ヴェシッコが展示されていて、内部を見ることも可能だそうです。
このヴェシッコは、フィンランドがドイツに建造してもらったもので、第一次世界大戦後のヴェルサイユ条約で潜水艦の建造を禁止されたドイツが、フィンランド向けに建造することでのちのUボートの基礎となったものでUⅡA型と同型だそうです。
そして三つ目が「沿岸砲兵博物館」
フィンランド独立以前より300年間以上もの間要塞としてこの島を守ってきた沿岸砲兵隊の資料を集めたところだそうで、幾つかの砲がそのまま残されています。
驚くのがここにある大砲の一つで、なんと日本の明治32年呉工廠製の12センチ砲なのです。
なぜ北欧の国フィンランドのスオメンリンナ島に明治期の日本の大砲があるのか?
それは第一次世界大戦にまでさかのぼるお話でした。
第一次世界大戦中、ドイツは潜水艦による通商破壊戦を行ないました。
地中海でも連合国の商船がドイツの潜水艦の脅威にさらされ、英国もフランスも対潜水艦戦用に小型の駆逐艦を多数装備する必要に迫られておりました。
当時のフランスはこの大量に必要な駆逐艦を国内で建造することがかないませんでした。
フランスの造船能力をオーバーしていたのです。
自国で建造できないのであれば、輸入するしかないのですが、英国も手一杯であり、まだ参戦していないアメリカは頼れません。
そこで白羽の矢が立ったのが、連合国の一員としてアジアでドイツと戦っていた日本でした。
一刻も早く一隻でも多く駆逐艦がほしいため、フランス向け用の新型を設計する暇などありません。
そこでフランスは日本でもできたばかりの小型駆逐艦「樺」型を、そのまま建造してほしいと頼みます。
樺型駆逐艦は基準排水量600トンほどの小型の駆逐艦で、12センチ砲一門に8センチ砲四門、魚雷発射管を四基備えた手ごろな駆逐艦でした。
航続距離も長く、十隻建造された樺型はそのうち八隻が地中海に派遣されるなどして、連合軍に協力しています。
この樺型をフランスは日本より多い十二隻注文しました。
十二隻のフランス向けの樺型は「アルジェリアン」級と呼ばれ、当時のフランス植民地人の名がつけられました。
アルジェリアン級は1917年に十二隻無事に完成して引き渡され、フランス海軍で活躍します。
手ごろな大きさと性能を持ったアルジェリアン級は「タイプ・ジャポネ(日本型)」と呼ばれ、フランス海軍で重宝されたといいます。
第一次世界大戦後、1930年代には相次いで除籍されたアルジェリアン級でしたが、主砲の12センチ砲はまだ使い道があったので、ベルギーやほかの国に売却されました。
現在でもこのスオメンリンナ島以外にこの12センチ砲がベルギーに残っているそうです。
スオメンリンナ島の12センチ砲は、フランスから直接購入したのかそれとも別の国を経由したのかは定かではないそうです。
一説にはロシア経由とも言われます。
ですが、フィンランドはこの12センチ砲をラドガ湖の岬に据え付け、対ロシア用の砲台として使いました。
冬戦争のとき、この12センチ砲はラドガ湖の岬からソ連軍に向かって火を吹き続けました。
一日で162発も撃ったことがあるとも言われ、フィンランド兵にとってこの大砲はとても活躍した大砲として親しまれたといいます。
しかし、1945年に戦争が終わったとき、ラドガ湖畔はソ連領となりました。
そこでフィンランド兵たちは急いでこの大砲をはずし、スオメンリンナ島へと持ち帰ったのです。
この大砲だけはソ連に渡すなという思いがあったといいます。
こうして日本で作られた12センチ砲は、数奇な運命でスオメンリンナ島に残されました。
今でもこの大砲は「沿岸砲兵博物館」の入り口に展示されているそうです。
私は行ったことないですが、もし機会があれば見て来たいですね。
それではまた。
- 2009/08/28(金) 21:28:35|
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1500日間連続更新達成記念SS「ハンターマリカ」の二回目です。
記念日に気が付いたのが遅く、短めの記念SSとなってしまいましたが、楽しんでいただけるとうれしいです。
それではどうぞ。
2、
「ん・・・」
床の固さに意識がはっきりしてくる。
ん・・・
身じろぎをしたとき、両腕が後ろ手に拘束されているのがわかった。
とりあえず目を開けて周りを見る。
ひんやりした石の床。
私は両腕と、両足首も拘束されて転がされているらしかった。
シャンデリアに点された電球があたりを薄暗く照らしている。
どうやら見覚えのあるシャンデリア。
あの屋敷のホールに違いなかった。
「うふふ・・・目が覚めたようね」
背後からの声に私は身をよじって声の主を見る。
その瞬間、私は声が出ないほどの衝撃を受けた。
「お、お母さん・・・」
そこに立っていたのは紛れも無く十年前にあの男に連れ去られたはずの母だった。
しかも、あのときからほとんど変わりない姿で立っている。
違っているのは服装。
目の前の母は、黒いドレスを身にまとい、黒い長手袋を嵌めている。
口元には笑みを浮かべ、アイシャドウを引いた目元が妖艶さを漂わせている。
唯一その目だけが赤く輝き、母がすでに人間ではないことを告げていた。
「ふふ・・・久しぶりね茉莉香(まりか)。元気そうで何よりだわ」
言葉とは裏腹に温かみも何もない口調。
それどころかこうして身動きできない私をあざ笑っているかのよう。
でも・・・
でも・・・
まさか母が眷族にされていたなんて・・・
吸血鬼は気に入った異性を眷属にすることがある。
それはそうあることではなく、たいていは血を吸って下僕にしたあと、飽きて捨てるのが一般的だ。
捨てられた下僕は手当たり次第に人間の血を吸い、いくつかの下級下僕を作ったあたりでハンターに仕留められるのが多い。
今回私が倒した相手も、そうした下僕の一人だった。
だが、眷属は違う。
眷属は吸血鬼一族ということ。
下僕とは違い、数は少ないがほぼ不死といえる寿命を持つ。
能力も高く、返り討ちにされるハンターも少なくない。
私は自己に与えられた能力から、母が眷属になっていると感じたのだ。
あいつはそこまで私の母を穢したのか・・・
死んでいると思ってた。
血を吸われて死んでいると思っていた。
もしかしたら下僕にされてしまったかもしれないが、それでもどこかでハンターに倒されていたと思ってた。
いや、そう信じたかった。
こうして生ける屍になってしまった母を、この目で見るなんて耐えられない・・・
「ユウコよ、その女がお前の娘なのか?」
あまりのことに唇を噛んでいた私の脇から、重々しい声が響いてきた。
「はい、そのとおりです。ご主人様」
スッとひざまずく母。
私は声の主の方へと眼をやった。
一段高くなった場所。
あの首を刎ねてやった下僕が居たのもあそこだった。
今そこには黒マントを羽織った初老の男が椅子に座っている。
忘れもしない。
あの時母を奪った男だ。
その左右の脇には三人の女が立っていた。
いずれも顔立ちの整った美人であり、母と同じく黒いドレスに黒い長手袋を嵌めている。
いわばお揃いのドレスで右に二人、左に一人と立っているのだ。
この男は女を四人も眷属にしているのか・・・
「下僕の一人に会いに来てみれば、直前に教会のハンターに消されたという。どんなハンターかと思ったが、まさかユウコの娘だったとはな」
悔しい・・・
こんな奴に母の名を呼び捨てにされるなんて・・・
こんな奴に・・・
こいつに父は・・・
私は手足の拘束をはずそうともがいてみる。
だが、がっちりと嵌められた拘束具は、まったく私の努力を受け付けない。
「ククク・・・無駄なことだ。その拘束はちょっとやそっとでははずれない。よくやったぞ、ユウコ。来るがいい」
「ああ・・・ありがとうございます、ご主人様」
うっとりと喜びの表情を浮かべ、立ち上がる母。
軽やかな足取りで男のもとに行ってしまう。
またしてもこの光景を見せ付けられるなんて・・・
男の元にたどり着いた母を、男がそっと抱き寄せてキスをする。
その瞬間、ほかの女たちにちょっとだけ嫉妬の表情が浮かぶ。
だが、すぐにその表情は消え、穏やかに仲間の一人を見つめていた。
「あとで可愛がってやろう。それで、娘と再会した気分はどうなのだ?」
男から少し離れて立つ母。
その射るような冷たい視線が私に向く。
「残念ですわ。私の娘ともあろう者が、教会に尻尾を振るメス犬に成り下がっているなんて」
口の中で血の味がした。
どうやら唇の一部を噛み千切ってしまったらしい。
神よ・・・
これほどの試練をお与えになられるとは・・・
「うふふ・・・ご主人様、もしよろしければ、このような教会の犬は私が始末いたしますが・・・」
「ユウコよ、でしゃばるな」
「は、はい。申し訳ありません、ご主人様」
一瞬にして顔色をなくし、母は左の女の外側に下がっていく。
どうやら母は四人の中でも末席なのかも知れない。
「シスターマリカと言ったな。ユウコの娘であり、神に仕えるハンターであれば、さぞかしその血は美味に違いあるまい。味わわせてもらうぞ」
なっ・・・
ゆっくりと立ち上がる男を見上げ、私は言葉を失った。
殺されるのは覚悟していたが、こいつは私の血を吸い穢すつもりなのだ。
何とか・・・
何とかしなくちゃ・・・
「ククク・・・怖いのか? だがすぐに気持ちよくなる。恐れることはない」
男がにたぁっと笑う。
その背後では女たちも笑っている。
過去何人ものハンターがこうして殺されたのだろう。
特に女性のハンターは嬲り殺されたに違いない。
短剣も十字架も奪われた私は、必死で抵抗するしかない。
神よ・・・私を守りたまえ・・・
「ククク・・・」
布の引き裂かれる音がして、尼僧服が破られる。
下着もろとも引き裂かれた尼僧服から、私の胸があらわになる。
「くっ・・・」
「ククク・・・後ろ手に拘束され胸を強調する形になっているとはいえ、見事なものではないか。重苦しい尼僧服にしまっておくのはもったいないだろう」
男がぺろりと舌なめずりをする。
いやらしい。
こんな男に母は奪われたというの?
なんて悔しい・・・
男の爪が再び尼僧服を切り裂く。
胸元からすそまで一直線に切り裂かれた尼僧服は、もはや私を隠してはくれない。
かろうじて下の下着だけが性器のある場所を隠していた。
「シスターにしておくにはもったいない。ここも後でたっぷりと可愛がってやろう」
私に覆いかぶさるようにして、男の指が股間を探る。
あまりのことに私は背筋がぞっとした。
「あ・・・」
それはいきなりだった。
男が不意に私の首筋に噛みついたのだ。
うかつにも意識を下半身に集中していたため、いきなり噛み付いてくるとは思わなかった。
ゴクリ・・・
音を立てて男の喉を私の血が流れていく。
急速に躰が冷えて力が抜けていく。
頭の中に靄がかかり、何がなんだかわからなくなる。
これが・・・血を吸われるということなの?
「クククク・・・これでいい。もはやお前は我のもの。抵抗は無意味だ」
男の声が頭に響く。
私の中から急速に抵抗する気持ちが消えていく。
どうして?
だめなのに・・・
こんな奴の言いなりになってはだめなのに・・・
でもだめだった。
私はもう彼に抵抗する気持ちがわいてこない。
血を吸われたことで、彼への憎しみまでが吸い出されてしまったかのようだわ・・・
「さあ、もう一度吸ってやろう。首を差し出すがいい」
「ああ・・・はい・・・」
言われるままに首筋を見せる。
どうして従ってしまうのかわからない。
でも、従いたい。
従うのが当たり前。
ツプと彼の牙が突き刺さる。
かすかな痛みが心地いい。
すうっと力と熱が抜けていく。
なんて気持ちいいんだろう・・・
血を吸われることがこんなに気持ちいいことだったなんて・・・
「ああ・・・」
思わず声が出てしまう。
気持ちいいよぉ・・・
彼の背後にいる女たち。
四人ともが私を見ている。
皆一様にうらやましそうな顔をしているわ。
うふふ・・・
見てぇ・・・
今彼に血を吸われているのは私なの。
私だけが彼のものなのよ。
彼の柔らかい唇が首筋を離れていく。
全身の熱と力を失った私は、ぐったりと彼に抱かれているだけ。
でも、気もちがいい。
もっと・・・
もっと吸ってほしい。
最後の最後の一滴までも私を飲み干してほしい。
「ククク・・・どうだ? もっと吸ってほしいか?」
「ああ・・・はい。お願いです。もっと吸ってください」
彼の問いかけに私はすぐに答えた。
もう何もいらない。
神も教会も必要ない。
ほしいのは彼だけ。
彼さえいれば何もいらないわ。
「教会のハンターといえども他愛ないものよ。シスターマリカ、我に従い我が眷族となるか?」
「はい。なります。ご主人様の眷属になりますぅ・・・」
私は無我夢中でそう答えた。
彼のそばにいられるなら、どんなことでもしてみせるわ。
「クククク・・・いい返事だ。ハンターが眷属になることは珍しいことではないが、これでまた教会にはダメージとなろう」
私は彼に抱きかかえられ、彼の部屋へと連れて行かれた。
******
射るような四人の視線。
うふふ・・・
新たなる眷属に対する嫉妬というところかしらね。
せいぜいにらみつけるがいいわ。
今日からは私もご主人様の眷属。
あなたがたとは同じ立ち位置。
誰が一番ご主人様の寵愛を受けるのかしらね。
うふふふふ・・・
「お待たせいたしましたご主人様」
私は黒いドレスのすそをつまんで一礼する。
「ご主人様の眷族に加えていただきましたこととても感謝いたしております。どうか末永くよろしくお願いいたします」
「うむ。我に仕えよマリカ。こいつらとともに。お前たち仲良くするのだぞ」
「「「「はい、ご主人様」」」」
いっせいに彼のほうを向き一礼する女たち。
仲間でありライバルでもある彼女たちを私は一瞥する。
せいぜい仲良くしなくちゃ。
特に“お母さん”とはね。
私はこれからの長く退屈な生活をいかに楽しむかを想像し、思わず笑みを浮かべるのだった。
END
- 2009/08/27(木) 21:47:51|
- 異形・魔物化系SS
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お待たせいたしました。
二日遅れとなりましたが、1500日間連続更新達成記念SS「ハンターマリカ」を今日と明日の二日間で投下させていただきます。
短めの作品ですが、楽しんでいただければうれしいです。
それではどうぞ。
1、
「おのれ小娘がぁっ!」
乱杭歯をむき出しにし、醜い老婆のような顔でにらみつけてくる女。
私は十字の形をした二本の短剣をかざし、その女に近づいた。
「ここは・・・ここは私があのお方よりいただいた土地。何をどうしようと私の勝手よ!」
「それはお前たち吸血鬼の考え。人間には人間の考えがあるし、お前たちに好き勝手される覚えもない」
神聖なる武器の輝きは目の前の化け物を多少はひるませる。
だが、それだけではだめ。
こいつらは完全に消去してしまわねば犠牲者が増えるだけ。
私は両手の短剣をスッと引いた。
「お黙りぃっ!」
両手の鋭い爪をかざしてかかってくる吸血鬼。
もはや彼らのモットーとするエレガントさなどかけらもない。
ただの追い詰められた生きる屍。
神に見捨てられた存在。
私はただそれを抹消してやるだけ。
短剣を引いたのが誘いだとなぜわからないの?
私は両手を一閃する。
神に祝福された聖なる短剣は、狙い過たずに吸血鬼の胸を突き、首を刎ねた。
ずしっと思い手ごたえがあり、ゴトッという音が響く。
私の足元には信じられないという表情を浮かべた哀れな首が転がった。
「聖なる炎よ、穢れた魂を清め神の御許に届けたまえ・・・」
私は十字を切って祈りを捧げる。
青白い炎が上がり、ようやく死ねた屍に永遠のやすらぎを与えていった。
******
「終わりました。これでしばらくはこのあたりは安心でしょう」
村に戻った私を村人たちが出迎える。
みな一様に安堵の表情を浮かべていた。
「ありがとうございますシスターマリカ。これで村は救われました」
村長が頭を下げる。
だが、一人だけ表情が優れない少女がいた。
「村長、あの娘は?」
私はふと気になった。
もしかしたら・・・いいえ、たぶんそうだと思うから・・・
「ん? ああ、あの娘はサラといいまして、母親をあの悪魔に連れ去られましてな・・・」
やはりそうか・・・
浮かない顔をするのも無理は無いわ。
でも、私にはどうすることもできない。
ただ、もう戻ってこないことを告げてあげるだけ。
「サラ・・・」
私は少女のところへ行く。
少女は悲しげな目をして私を見上げてきた。
おそらく私も父をこういう目で見上げていたのだろう。
「シスターマリカ・・・ママは、ママは帰ってこないの?」
「サラ・・・あなたのママは神に召されたの。今はきっと神の御許で安らかな時を過ごしているわ。サラとは会えなくなっちゃったけど、ママはいつでもサラのことを見守っているわ」
残酷なようだが私は真実を告げてやる。
下手な希望を持たせると、子供はその希望にすがって過ちを犯してしまうかもしれない。
それよりはきちんと向き合わせて、その上でケアをしてあげるほうがいい。
「ママ・・・えぐっ、えぐっ・・・ママーーー!」
みるみる涙が浮かび、泣き崩れてしまうサラ。
ごめんなさい。
私は心の中で少女に謝る。
ごめんなさい。
あなたのママを救うことはできなかった。
私が乗り込んだとき、すでに彼女は吸血鬼と化していた。
もはや消滅させて魂を救うしか道はなかったの。
ごめんなさい。
私は泣きじゃくるサラを村人にゆだね、宿屋に向かうしかなかった。
******
「お母さん!」
「優子(ゆうこ)! 優子ぉ!!」
漆黒のマントを翻した初老の白人紳士。
シルバーグレーの髪がきらきらと輝き、青いはずの瞳が赤く輝いている。
真っ青で血の気の無い顔は理知的に整い、歪んだ笑みが口元に浮かんでいた。
「ああ・・・いや・・・いやぁ・・・」
三人で外出し、楽しいときを過ごしてきた母は、父と私に対して精いっぱいのおしゃれをしていたが、皮肉にもそのおしゃれは私たちに向けられたものではなくなってしまう。
恐怖に恐れおののきながらも、男の目に捕らえられてしまった母は、ゆっくりと男の元に歩み寄った。
必死に抵抗するものの、躰が言うことを聞かないのだろう。
母は首を振って嫌がりながらも、男に近づくのをやめることはできなかった。
私も父も母の異常さと男の異質さを感じていたものの、どうしても躰が動かなかった。
できるのはただ声を出すことだけ。
私はお母さんという呼称を、父は母の名をそれぞれ呼び続けたが、母の歩みを止めることはできなかった。
「クククク・・・東洋のこんなところでこれほどの女に出会うとはな。私は運がいい」
男がマントを広げて母を招き入れる。
「ああ・・・いやぁ・・・やめて・・・」
か細い声で拒否の言葉を言う母。
でも、男は母を抱き寄せた。
「くそぉっ! 何で躰が動かないんだ!! 優子を放せぇっ!!」
「お母さん! お母さん!!」
私は動かない躰を必死に動かそうとする。
でも、最初に赤い目を見てしまってから、躰がまったく動かない。
どうして・・・
どうして私はあの時公園を通って行こうなんて言ったのか・・・
「ああ・・・」
母の首筋にキスをする男。
「いやぁっ!」
「優子っ!!」
私も父も目をそらしたい瞬間だった。
「ああ・・・あああ・・・」
何の抵抗もできずにキスを受けてしまった母。
キス?
あれはキスなの?
「クククク・・・やはり美味い血を持っている。久しぶりの上物だ」
上物?
上物って何?
私の母をそんな品物みたいに言わないで!!
母の首筋につけられた二つの傷。
赤い血がふた筋流れ出す。
男はそこに舌を這わせ、母の血を舐め取った。
「ククク・・・ではもう少し」
再度母の首筋に顔をうずめる男。
母の顔が苦痛に歪んだ。
嘘・・・
嘘よ・・・
見たくない・・・
こんなのって見たくない!
母が・・・
あの母が・・・
父や私といつも仲良くして優しかったあの母が・・・
男のキスを喜んでいる・・・
うっとりと顔を蕩けさせ、背後から抱きかかえている男によりかかっていっている・・・
「ああ・・・はぁん・・・」
口からは切なそうな吐息が洩れ、まるで男と恋人同士のよう・・・
「お母さん!」
「優子ぉっ!!」
私と父はひたすらに母を呼ぶ。
それしかできることがない。
この状況から目をそむけることもできないのだ。
「クククク・・・どうだ? 夫と子供に見られながら血を吸われるのは。最高の気分だろう?」
にやっと笑いながら私たちを男は見た。
「ああ・・・はい・・・最高です・・・」
うっとりと甘えるような母の声。
こんな声を聞いたことは無い。
私は言葉が出なかった。
「クククク・・・もっと吸ってほしいか、女よ?」
「ああ・・・はい・・・もっと・・・もっと吸ってください」
男に懇願する母。
もうやめて!
そんなお母さんを私たちに見せないで!
私は目を閉じて耳をふさぎたかった。
でも、それは叶わなかったのだ。
「では我が元へ来るか? 夫も子も捨てて」
「はい。行きます。夫も子供も要りません。あなただけに尽くします」
私たちに背を向けて男に抱きつく母。
勝ち誇ったような男の顔を見た瞬間、私はベッドで飛び起きた。
******
「はあ・・・はあ・・・夢・・・夢か・・・」
汗でぐっしょり濡れた下着。
ベッドのシーツもべちゃべちゃだわ。
またしてもこの悪夢。
いつまで経っても忘れることなどできはしない。
強烈に刻み込まれてしまった悪夢。
あの瞬間、私たち親子の楽しい時間は失われた。
母と男はいなくなっていた。
父は必死で母を捜したが、なんの手がかりも見つけられなかった。
父はやがてお酒に逃げ、抜け殻のようになって死んでいった。
私は父方の祖母に引き取られたが、やがてそこを抜け出して教会に加わった。
私たち家族の幸せを奪ったもの。
そいつらに復讐を果たしたかったのだ。
あれから十年。
私は教会で吸血鬼どもに対処する方法を教わり、教会のハンターとして生きている。
あのときの吸血鬼とはいまだめぐり合ってはいないが、この地方にそれらしい噂を聞いたので、もしかしたら会えるかもしれない。
そのときは・・・私は父母の仇を討ちたい。
とびらを叩くノックの音。
「シスターマリカ、起きていらっしゃいますか?」
とびらの向こうで声がする。
「ええ、起きてます。どうぞ」
私は起き上がると、汗に濡れたままの下着を不快に感じながら、上に毛布を羽織ってベッドに座る。
「すみません、失礼します」
とびらを開けて入ってきたのは村の青年の一人だった。
名前はすぐに思い出せない。
誰だったっけ・・・
「シスター、実はサラという女の子がいなくなってしまいまして・・・」
青年は、寝ていたところを起こしてしまったのが申し訳ないのか、それともサラがいなくなったこと自体が申し訳ないのかわからないような顔をしてそう言った。
「サラが?」
母親を奪われた女の子だ。
「祖母が眼を離した隙にいなくなったそうで・・・今村の男たちが探しているんですが、どうも・・・」
青年の歯切れが悪い。
つまり最悪の予想になっているということか・・・
私は無言で立ち上がると、毛布を捨てて汗をかいた下着を脱ぎ始めた。
「し、シスター?」
突然のことに目を白黒させる青年に、私は部屋を出るように言った。
要はサラがあの屋敷に向かったようだから連れ戻してほしいということなのだ。
呪われた屋敷に行くものなど村人の中には居はしない。
だが、行ってきてくれとも頼みづらいから歯切れが悪くなったのだ。
やれやれだわ。
私は尼僧服に着替えると、聖なる短剣をベルトに挟む。
いくつかの呪具と薬品をそろえ、尼僧服のポケットに押し込んだ。
そして神に祈りを捧げてから、宿の部屋をあとにした。
いきさつは思ったとおりだった。
サラは母親恋しさのあまりあの屋敷に向かってしまったのだ。
屋敷の主は浄化したから心配はないと思うけど、このあたりは野犬が出たりするらしい。
サラが野犬に襲われたりしていなければいいけど・・・
松明を手に道を急ぐ。
森の中は真っ暗で月の明かりも届かない。
ふくろうの声が不気味に響き、かすかに動物の気配が漂っていた。
「サラ、どこにいるの?」
私はあえて声を出す。
こうすれば不用意に動物と出会う危険性は低くなる。
向こうだってわざわざ人間と出会いたいとは思わないはずだ。
「サラー、返事をしてー」
私は呼びかけながら道を進む。
少女の足取りを考えると、もうそろそろ出会ってもいい頃のはず。
まさか道から外れて森の中には行かないと思うけど・・・
道の先に白いものがある。
いや、あれは白い服を着た少女。
サラが倒れているんだわ。
「サラ」
私は急いで駆け寄った。
「サラ、サラ、大丈夫? しっかりして」
私はしゃがみこんでサラを抱き起こす。
どうやら気を失っているだけみたい。
白い服にも破れたところや血の跡などはない。
歩いて疲れて気を失ったのかも。
でも、無事でよかった・・・
私はホッと安堵した。
「えっ?」
抱きかかえられぐったりしていたサラがいきなり目を覚ます。
そして握っていた右手を開き、何かの粉を私に吹きかけた。
とっさのことに対処ができない。
「こ、これは・・・」
急速に広がってくる眠気と脱力感。
眠り薬の一種を嗅がされたのに違いない・・・
「うふふ・・・よくやったわ、サラ」
薄れていく意識の中で誰かの声が聞こえてくる。
「さあ、あなたは村へお帰りなさい。あと十年したら迎えてあげる」
スッと私の手を逃れ、パタパタと走り去っていく少女。
私はなすすべもなくその足音を聞くしかない。
あの時とおんなじだわ・・・
「うふふ・・・教会のハンターも催眠をかけられただけのただの少女には警戒が薄らいだようね。さあ、おとなしく眠るのよ」
私の意識は闇に飲まれた・・・
- 2009/08/26(水) 21:53:29|
- 異形・魔物化系SS
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一日遅れですが、昨日で夏の全国高校野球選手権大会が終わりましたね。
決勝戦はすさまじい試合で、ついつい最後は日本文理高校が逆転しないかなと思っちゃいましたが、最後は一点差で中京大中京が逃げ切りました。
中京大中京は43年ぶりとは言うものの、7度目の優勝とのことで、さすがに名門の底力が勝ったということなのかもしれませんね。
日本文理も新潟県勢初の決勝進出で、惜しくも優勝は逃したものの打撃のすごい高校でした。
北海道勢は二校合わせて一勝にとどまってしまい、あの駒大苫小牧旋風の再来はなりませんでした。
また来年、少しでも上位にいけるようにがんばってほしいです。
北海道に再び優勝旗が来てくれることを望みます。
一方プロ野球も終盤戦ですね。
クライマックスシリーズの出場をかけた三位と四位の争いが激しくなりそうですが、セ・リーグのヤクルトと阪神広島との間がかなり離れてしまっているので、逆転があるかどうか・・・
それに比べてパ・リーグは楽天と西武が僅差で争っていますので、こちらはおもしろくなりそうです。
ここに来て夏風邪ならぬインフルエンザの流行が心配ですね。
日本ハムがその影響をもろに受けてしまった状態で五連敗。
ソフトバンクにひっくり返されるかもしれない状況になっちゃいました。
何とか負の連鎖を断ち切って突き放してほしいですね。
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2009/08/25(火) 21:14:25|
- スポーツ
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昨日の2009年8月23日を持ちまして、2005年7月16日の旧ブログ開設以来、なんと1500日間連続更新を達成させていただきました。
1500日
自分でも信じられない数字ですね。
なんだかんだと続けてきてよかったーと思います。
これも皆様の応援のおかげ。
いつも述べていることですが、あらためて皆様本当にありがとうございました。
で、本来ならば1500日達成記念SSを公開しますって流れになるのですが・・・
大変大変申し訳ありません。m(__)m
実はずーっと以前に、いつになったら1500日になるのかなーと思って、日数計算してメモっておいたのですが、そのメモしていたことすら失念しておりまして、昨日そのメモをたまたま見返したところ、その日が1500日目だということに気が付きましたのです。orz
なので、昨日本当にたまたまメモを見なければ、忘れ去っていたわけでして、後日がっかりしていたことになっていたかもしれません。
その意味では本当に運がよかったと思えるのですが、いかんせん昨日知ったのでは記念SSを書く暇もなく・・・
大変申し訳ありませんが、1500日記念SSは後日回しとさせてくださいませ。m(__)m
本当に本当に申し訳ありません。
いつもなら節目にはSSを投下していたのですが、今回は節目に気が付くのが遅すぎました。
近いうちに何らかのSSを投下しようとは思いますので、どうかそれまでお待ちくださいませ。
1500日間もの間、毎日お付き合いくださりました皆様、本当にありがとうございます。
これからも2000日、3000日目指してがんばりますので、どうか応援よろしくお願いいたします。
それではまた。
- 2009/08/24(月) 21:21:27|
- 記念日
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今日は札幌歴史ゲーム友の会の例会に参加させていただきました。
参加者数がなかなか多く盛況だったと思います。
s.jpg)
こちらはサッポロ辺境伯様(独軍)とMどりっひ様(連合軍)が対戦されていらっしゃった「1918」(CMJ)
独軍の大突破に連合軍は一時パリ前面ががら空きになっていたようでしたが、独軍の攻勢の限界とともに連合軍の反撃で押し返されていたようです。
それでも勝利得点的には独軍の勝ち逃げっぽい感じでした。
s.jpg)
こちらは今日も6ゾロ様(米軍)とSpringfield様(独軍)が対戦されていらっしゃったASL-SK(MMP)のシナリオS1。
当札幌歴史ゲーム友の会の若手ホープSpringfield様が、初めてASL-SKに足を踏み入れられました。
今日も6ゾロ様ご指南の元で対戦を楽しまれていた様子。
勝敗はなんとビギナーズラックなのかSpringfield様の勝利でした。
s.jpg)
こちらはその後ASL-SK対戦に味を占められた(?)Springfield様(米軍)と私舞方(独軍)が対戦したシナリオS7。
米軍は白兵戦でダイスの目が振るわず、一個分隊の独軍に二個分隊の米軍を屠られてしまうなどして独軍を押し切れず、独軍舞方の勝利となってしまいました。
でもASL-SKの楽しさは存分に味わっていただけたようです。
s.jpg)
こちらは今日も6ゾロ様と途中からいらっしゃったかっぱ様とのASL-SK対戦。
シナリオS1をこちらも対戦しておりましたが、陣営と勝敗は確認してません。
s.jpg)
こちらはHIRO会長様と柿崎唯様の対戦していらっしゃった「オンスロート」(CMJ)
こちらも楽しくプレイなされていたようですが、陣営と勝敗は確認しておりません。
夕方6時過ぎには会場をあとにしましたが、今日も楽しい時間が過ごせました。
札幌歴史ゲーム友の会の皆様、どうもありがとうございました。
それではまた。
- 2009/08/23(日) 21:20:48|
- ウォーゲーム
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昨日に引き続き今日もマンガの紹介など。
こちらも皆様ご存知かと思われますが、キルタイムコミニュケーション社二次元ドリームコミックスの「戦乙女ヴァルキリー2」(inoino様作)です。

こちらが表紙。
触手うねうねでいいですねー。(笑)
「スレイブヒロインズ」に連載されていたものを単行本にしたものなのですが、やはりこういうのは一気に読むのがいいですね。
連載中だと続きが気になるーってもだえちゃいますから。(笑)
内容については元ゲームに準じているのでしょうか?
そのあたりは元ゲームが未プレイなのでちょっとなんともいえません。
で、以下ちょっとだけネタバレ含む個人的感想など。
[染まれ染まれー]の続きを読む
- 2009/08/22(土) 21:16:53|
- 本&マンガなど
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すでに各方面で話題になっておりますあの悪堕ち作家様合同同人誌が手に入りましたのでご紹介ですー。
「堕落事故調査委員会」の皆様による「堕落惑星」でございます。

こちらが表紙。
いきなり水星さんと金星さんがいい感じですね。
内容についてのネタバレなどはするつもりはありませんが、個人的感想などちょこっと。
まず、ここに集われた方々がなかなかのものだと思います。
中には商業誌でご活躍中の方もいらっしゃいまして、そうでない方も含め、レベル的には高い位置にいらっしゃる方々ではないでしょうか。
もちろんお手に取られた各個々人の好き嫌いという好みの問題はあるでしょうから、万人に向くというものではないかもしれませんけど、私はイラスト、文章ともに楽しませていただきました。
また、一つ一つのお話に対して、それぞれに絵師様が付くという形ですので、このお話にはこの絵師様という区分けができ、作り手側も読み手側も作りやすく読みやすくなっているのではないでしょうか。
合同作成と言っても過度に錯綜することなく完成していると思います。
この作品、絵師様も書き手様もお名前を存じている方ばかりなのですが、絵師様のイラストは見たことがあっても、書き手様の文章は読むのはこれが初めてでして、正直うまいなぁと思ってしまいました。
書き手様お二人いらっしゃるのですが、お二人とも実に丁寧な描写を心がけておられ、情景を想像するのがとてもたやすく、また読みやすい文章だと思いました。
私も書き手の一人として、この文章は見習わなくてはなりませんね。
書き手様の技量がうらやましいです。
堕とすシチュも豊富で、各話それぞれがまったく違う雰囲気を持っているのも面白いです。
妖魔化、異形化、悪の女幹部化などどれも見事でした。
個人的にはとても楽しめた一冊でした。
「堕落事故調査委員会」の方々、どうもありがとうございました。
それではまた。
- 2009/08/21(金) 21:16:38|
- 同人系
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先日ひそかにリンクだけは張っておいたのですが、このたびご紹介の許可もいただきましたので、ご紹介させていただきます。
「紫の正義」というサイト様の管理人をなされ、いくつものアダルトゲームの攻略を公開なさってこられました印度一好色様が、このたび悪堕ち系ノベルゲームの作成に取り掛かられました。
そして、そのゲーム作成にまつわる進捗具合やキャラ設定などの公開に加え、ご自身大好きな悪堕ち系の情報を公開するためのブログをこのたび開設なされました。
そのブログがこちら。
「
園芸戦隊ガーデンジャー」(クリックでリンク先に飛べます)
ブログタイトルはその作成中のノベルゲームのタイトルから。
作成中とはいえ、すでに一部公開されており、ブログの右柱の管理人プロフィールの下にある「ダウンロード」のところからダウンロードすることが可能です。
私もプレイさせていただきましたが、とにかく堕とし方のシチュが豊富で楽しませてくれること請け合いです。
キャラも魅力的なキャラがいっぱいで、悪の女幹部でありメイドでもあるという陽子ちゃんが個人的にツボでした。
皆様もぜひ体験していただいて、感想コメントなどを送られるときっとお喜びになられると思います。
おもしろいですよ。
印度一様、これからもよろしくお願いいたします。
応援しております。
それではまた。
- 2009/08/20(木) 21:25:03|
- ネット関連
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きょうは兵士についてかんがえてみました!!
*このエントリは、
ブログペットのココロが書いてます♪
- 2009/08/20(木) 10:31:25|
- ココロの日記
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明治10年(1877年)3月20日午前10時ごろ、鉄壁を誇った薩軍の田原坂防衛線がついに官軍に突破されました。
薩軍は各隊が個別に後退を始め、連鎖的に陣地を放棄して行きました。
官軍は勢いに任せて薩軍を追撃しましたが、薩軍はわずかの兵を向坂に集めて反撃し食い止めます。
官軍もこれ以上の突破はなりませんでした。
3月4日に攻撃が開始されて以来、17日間の攻防の末にようやく田原坂防衛線は崩れました。
まさに死闘と言っていい戦いでした。
両軍の砲撃銃撃で山肌は削られ、草木はなぎ倒されました。
薩軍も官軍もこの田原坂の戦いでは大きな損害を出しました。
記録の残っている官軍の死傷者数は、この17日間で二千四百名にもなりました。
田原坂は突破されました。
官軍はついに坂を越えました。
しかし、薩軍は完全に敗退したわけではありません。
薩軍は秩序だった後退を行ない、再度防衛線を張りました。
山鹿の桐野隊も隈府へと後退し、まだがんばっている吉次峠から木留、植木を通り隈府へとつながる新防衛線を構築して官軍を迎え撃つ体勢を整えます。
官軍はまだまだほんの一山超えただけでした。
一方、日奈久に上陸した官軍の衝背軍に対するため南下した薩軍は、部隊を三つの道路に分けて分進し、北上してきた官軍前衛と氷川沿いにある宮原、鏡、立神という村付近で遭遇しました。
薩軍はここで官軍をがっちり食い止め、官軍の北上は一時停止を余儀なくされてしまいます。
3月21日、官軍は黒田参軍と別働第一旅団(別動第二旅団を改称)の残余が日奈久に上陸。
25日には山田顕義少将指揮する別動第二旅団(こちらは新設)と川路利良少将兼大警視指揮する別働第三旅団も上陸し、衝背軍は兵力約八千名へと増強されました。
3月26日、氷川沿いに展開した衝背軍は、増強された兵力をもって薩軍防御陣に攻撃を仕掛けます。
官軍は海軍の軍艦による海上からの支援も受け、薩軍を圧倒。
薩軍はたまらず小川にまで後退しますが、ここも午後には制圧されました。
衝背軍は海沿いに別働第一旅団、山側に別働第三旅団を配し、その中間に別動第二旅団を置くという三旅団並進の態勢で薩軍を北に押し上げます。
北海道開拓使長官だった黒田清隆参軍は、あくまでも着実に進撃することを考え、いずれかの部隊が突出するようなことを戒めました。
3月30日、衝背軍は宇土半島の付け根にある松橋に到着します。
松橋は薩軍にとっては落とされてはならない要衝でした。
ここから先は肥後平野が広がるために、官軍を阻止することが難しくなってしまうからです。
薩軍はなんとしてでもここで官軍を食い止めなくてはなりませんでした。
黒田参軍は別働第三旅団に娑婆神峠を攻略させて側面の憂いをなくした上で、高島少将(28日に大佐より昇進)の別働第一旅団と山田少将の別動第二旅団に松橋攻略を命じました。
しかし、さすがに薩軍の守りは堅く、さらに薩軍は水門を破壊して水田に海水を引き込んだため一帯が湿地となってしまい、官軍兵士は思うように進めません。
迂回して側面に回ろうとした別動第二旅団も丘陵に陣取る薩軍兵士の射撃に射すくめられ、これも進撃を阻まれます。
折からの雨がそれに輪をかけ、官軍の攻撃はまったく進捗しないまま、損害だけがかさみます。
山田少将は一時後退も考えましたが、高島少将がこれに反対。
一度引いたら薩軍の防備は強固となり、再攻撃時に多大な犠牲が予想されてしまう。
ここは撤退するべきではないと訴えました。
おそらく田原坂での苦戦を思ったのではないでしょうか。
結局30日は雨と泥の中官軍は野営に入ります。
翌31日、干潮で潮が引いたのを利用し、別働第一旅団は海岸沿いに松橋を攻撃。
別動第二旅団もそれに呼応して再度の松橋攻撃を仕掛けました。
この攻撃に薩軍も松橋を守りきれなくなり、ついに松橋は官軍の手に陥落します。
そのまま官軍は勢いに任せて北上し、翌4月1日には宇土まで一気に進出しここも占領しました。
宇土は熊本城までわずか10キロに位置しており、宇土東方の木原山から熊本城を望んだ官軍将兵は思わず万歳を叫んだといいます。
2月22日に薩軍の攻撃が開始されて以来、薩軍に包囲され続けた熊本城まで官軍はあとわずかに迫ったのでした。
(21)へ
- 2009/08/19(水) 21:28:50|
- 西南戦争
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今回のSSはちょっと特異だった分受けが悪かったですかね。
また次回皆様に楽しんでいただけるようなものを書いていきたいと思います。
さて、夏の全国高校野球選手権大会もたけなわですが、今日は南北海道代表の札幌第一高校と智辯和歌山高校との試合が行なわれました。
リアルタイムで見ていたわけではないので、詳しい経過はわからないのですが、前半は札幌第一が得点を重ね、リードを奪っての試合展開だったようです。
しかし、5点取った後は得点することができずに智辯和歌山のペースになっていったようで、七回に二点を奪われ、5-4と一点差にまで詰め寄られたあとも点差を広げることができなかったようです。
一点差のまま九回に入ったことで、やはり札幌第一は勝ちを意識してしまったのでしょうか、先頭打者にヒットを許した後一死から連打で4点を奪われ逆転負け。
甲子園には魔物がいるとの言葉どおりになってしまいました。
あの駒大苫小牧の準優勝以後北海道はベストエイトもままならなくなってしまいましたが、また来年がんばってほしいものです。
札幌第一の皆さん、お疲れ様でした。
それではまた。
- 2009/08/18(火) 21:11:30|
- スポーツ
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「観察日記」の三日目、最終回です。
楽しんでいただければうれしいです。
それではどうぞ。
(3)
14月21日
今月も今日でおわり。
夏休みもあとはん分です。
アキもなんだか元気になってきました。
朝になるとサユリのへやに来て、いちどあの黒いスーツすがたになります。
そして、二人でいっしょにさわりっこします。
すべすべして気もちいいみたいです。
そしてちきゅう人のすがたになると、せいふくをきてしごとに行きます。
いつもこの時間は同じだけど、今日は少しちがいました。
二人でいっしょにぬけだして、トイレに行って黒いスーツすがたになってさわりっこしてました。
じいが言うには、だいぶ二人ともスーツになれてきたみたいなんだそうです。
もうアキもねないようにするなんてしなくなったみたいだし、夜になるとスーツすがたでへやですごすようになったみたいです。
もうすぐこうていへいかのいだいさがわかるようになるのかな?
夜になると、アキがサユリのへやに来ました。
そして二人で黒いスーツすがたになってさわりっこします。
とても気もちよさそうです。
『あん・・・ああ・・・紗由里・・・だめ・・・気持ちよすぎる・・・』
アキの黒いスーツの上をサユリの黒い指先が動いている。
アキはすごく気持ちよさそうにしていた。
『うふふ・・・気持ちいいでしょ? もうこのスーツのことチーフに言ったりしないよね?』
そう言いながらマスクを密着させるサユリ。
二人の口がマスク越しに触れ合い、まるで男の人と女の人がキスをしているみたいだ。
『言わない・・・言わないわ。このスーツのことは誰にも言わない。私たちだけのものよ』
アキの指もサユリの躰の上を動いて、サユリは時々躰が震えている。
『ええ、これは私たちだけのもの。私たちにジャニン星人がくれたプレゼント』
『ええ・・・こんな素敵なプレゼントをいただけるなんて・・・』
二人はくねくねと躰をくねらせている。
『これからは皇帝陛下のために・・・』
『ええ・・・これからは皇帝陛下のために・・・』
ぼくは二人がそう言ったのをはっきりと聞いた。
******
15月1日
きのうの夜はアキはじぶんのへやにもどりませんでした。
二人でいっしょに黒いスーツのままでねていました。
ベッドの中では二人とも小さいこえでしゃべっています。
スーツのはたらきでこうていへいかへのおことばをしゃべっているんです。
こうすることでこうていへいかのいだいさがわかるんだとじいが言いました。
二人はベッドからおきると顔をあらう場しょへ行きました。
そして少しの間二人でだまってかがみにむかって立っていましたけど、いっしょに右手を上げてヒーッと言いました。
それを見たじいはすごくよろこびました。
あの右手を上げてヒーッと言うのは、こうていへいかのいだいさがわかってきたしょうこなんだそうです。
ああすることが、こうていへいかにしたがいますって言っているのと同じなんだそうです。
今日の二人はせいふくをきてオペレーションルームには行きませんでした。
お休みの日なんだそうです。
ちきゅう人もちゃんとお休みをとるんだって言ってました。
二人はずっとへやにいました。
へやの中では黒いスーツすがたのままでした。
そしてすりすりとさわりっこしたり、かがみに向かって右手を上げてヒーッって言ったりしてました。
なんだかすごく楽しそうでした。
******
15月4日
アキはサユリのへやにいっしょにいるようになりました。
夜はいっしょに黒いスーツすがたでさわりっこして、いっしょにベッドでねてこうていへいかへのおことばをしゃべります。
朝もいっしょにかがみの前で右手を上げてヒーッって言って、いやいやちきゅう人のすがたになってへやを出ます。
オペレーションルームでは、画めんを見ながらゆびをうごかしてますけど、なんだかいやいややっているみたいです。
そしてときどきトイレにぬけだして黒いスーツすがたになります。
アキもサユリも同じです。
トイレが長いっておこられてました。
二人はほかのちきゅう人に話しかけられたりしてもうれしそうじゃありません。
なんだかいやそうです。
早くへやにもどってスーツすがたになりたいようでした。
「ねえ、爺」
ぼくは爺に声をかける。
「なんですかな? 若様」
爺はいつもニコニコしている。
そうでないときはうれしそうなのに泣いたりする。
「あのメスたちがスーツ着られなくなったらどうするかなぁ・・・」
ぼくはなんだかちきゅう人のメスたちに意地悪をしてみたくなっちゃった。
だってあんなにスーツが気もちよさそうなんだもん。
着られなかったらどうなるか気になるよね。
「ふむ・・・」
爺があごに手を当てて考えている。
「なるほど。これまでずっとスーツによる洗脳が浸透してきていたので順調だと思っておりましたが、ここで一度スーツから引き離してみるのも面白いですな・・・」
「スーツ着られなくしちゃったら、だめ?」
ぼくはもう一度聞いてみる。
「いや、それは面白い考えですぞ若様。あのメスたちのスーツを一度機能停止させてみましょう。その状態でスーツを欲しがるようであれば、洗脳は上手く行っている証拠ですぞ」
爺はにっこり笑ってそういった。
「いやいや、さすが若様じゃ。これでまた面白い実験になるわい。礼を言いますぞ、若様」
そして爺はぼくの頭を撫でてくれた。
えへへ・・・
爺に頭撫でてもらうの久しぶりだよ。
『えっ?』
『ど、どうして?』
アキとサユリが驚いている。
二人でへやに戻ってきていそいそと制服を脱いだのに、スーツ姿になれないからだ。
『紗由里、あ、あなたもなの?』
『戻れない。スーツ姿に戻れないわ。どうしてなの?』
顔を見合わせているアキとサユリ。
青ざめた顔しているよ。
なんだかちょっとかわいそうかな・・・
『いやぁっ! いやよぉ!』
『ああ・・・お願い・・・スーツを・・・スーツを着させて』
二人は必死に躰をこすったり撫でたりしているけど、黒いスーツは現れない。
爺が一時的に機能を停止させているからだ。
でも、最初にあのスーツを着せたときにはとても嫌がっていたのにね。
「見なされ若様。あのメスども、最初はあんなに嫌がっていたのに、今ではスーツを着たくて仕方がないようですぞ」
「うん。これっていいことなんでしょ?」
「もちろんですじゃ。このメスたちはもう言いなりになりますぞ。あとは帝国のために働くよう仕向けるだけです。ここまでうまく行くとは思いませんでしたな」
爺はすごくうれしそうだ。
実験がうまく行ったからうれしいんだね。
そのあと、じいがスーツをきたかったら言うとおりにするのじゃと言ったら、サユリもアキも言うとおりにしますと答えました。
じいはぼくに何かめいれいしてごらんと言ったので、ぼくは何をめいれいしようかと考えました。
ぼくは二人にさか立ちをさせたり、ぴょんぴょん飛び跳ねさせたり、ジャンケンをさせたりしてみました。
二人はちゃんとぼくの言うとおりにしてくれたので、ぼくはじいに言って二人にスーツをきせてやりました。
二人はとてもよろこんでスーツ姿になり、ジャニンていこくとこうていへいか、それにぼくにちゅうせいをちかいますと言いました。
ちゅうせいをちかうと言うのは、何でも言うことを聞きますと言うことだとじいが言いました。
二人がぼくの言うことを聞くようになったので、なんだかうれしいです。
******
15月6日
二人はぼくの言うことを聞くようになったので、ぼくはじいとそうだんして二人にアースナイトのじゃまをさせてみることにしました。
ぼくは何をさせたらいいのかよくわからなかったけど、じいが何でもいいよと言ったので、アースナイトがどういうちきゅう人なのかぼくたちに教えるようにめいれいしました。
するとじいはうんうんとうなずいて、さすがはわかさまじゃと言いました。
二人はスーツすがたで右手を上げてヒーッって言ったあと、ちきゅう人のすがたになってオペレーションルームへ行きました。
そして画めんを見ながらゆびをうごかしていました。
しばらくすると、けんきゅうじょに女の人がやってきました。
お父さんのおしごとのおてつだいをしているシャノンさんです。
シャノンさんはとてもきれいな人で、とてもやさしい人です。
シャノンさんはじいにすぐ来てほしいと言ったので、じいはシャノンさんと行ってしまいました。
じいが行ってしまったので、ぼくはしばらく画めんを見ていました。
でも、二人ともいつもと同じことしかしていないので、つまらなくなってしまいました。
何かめいれいしようかと思いましたが、二人のへやいがいではめいれいしたり声をかけたりしたらだめだよと言われていたので、やめました。
すると、じいとシャノンさんがお父さんといっしょにもどって来ました。
お父さんはとてもニコニコして、ぼくによくやったと言って頭をなでてくれました。
ぼくはどうしたんだろうと思いました。
するとじいが、あの二人がアースナイトのじょうほうをおくってきたのだと言いました。
今まで手に入らなかったじょうほうがぼくのめいれいで手に入ったので、お父さんがほめてくれたのです。
お父さんだけじゃなく、シャノンさんもえらいねって言ってくれました。
ぼくはうれしかったです。
******
15月8日
今日は二人はお休みの日です。
じいはしあげをすると言いました。
二人をちゃんとジャニンていこくの一いんにするのだそうです。
ぼくは黒いスーツすがたですりすりしていた二人にアジトに来るようにめいれいしました。
二人はすぐに右手を上げてヒーッと言って、ちきゅう人のすがたになってへやを出ました。
そして車をつかってぼくたちのアジトに来ました。
とちゅう、じいやほかの人が二人のあとがつけられていないかしらべていましたが、どうやらつけられなかったみたいでした。
アジトに入ると、二人はすぐに黒いスーツすがたになり、かつかつと足音をひびかせて歩きました。
ならんで歩く二人は、なんだかかっこいいと思いました。
ぼくはじいの言うとおりに二人をけんきゅうじょのへやに入れました。
そのへやはさいしょに二人がねかされていたへやで、とうめいのかべがぼくたちと二人の間にありました。
「いいですか、若様? これよりこの地球人のメスどもの仕上げを行ないます」
ぼくは爺の言葉にうなずいた。
「まずはあの二人によく来たと言ってやりなさい」
「よく来た?」
「そうです。命令に従ったことを褒めてやるのです。二人ともよく来たと言ってやりなさい」
ぼくは爺の言うとおり、マイクに向かってよく来たと言ってやる。
『ヒーッ! ありがとうございます、シェムーグ様』
二人は背筋を伸ばして右手を上げ、ぼくの名前を呼んでくれた。
なんだか気分がいいな。
「爺、後はどうすればいいの?」
「二人に聞きたいこととかあったら聞いてみなさい。このメスたちは声をかけてもらえるのがうれしいはずですので、何でも答えてくれましょうぞ」
聞きたい事って言われても・・・
ぼくは少し考えた後、マイクに向かってこう言った。
「そのスーツの着心地はどう? 気持ちいい?」
『はい。とても気もちがいいです』
『ずっと着ていたいです。もう人間の姿に戻りたくありません』
二人はくねくねと自分のスーツに指を這わせている。
とても気持ちよさそうだ。
「最初はあんなに嫌がっていたのに?」
『ああ・・・お赦しくださいませ。あの時はこのスーツのすばらしさに気がつかなくて・・・』
『私もです。今ではおろかだったと思います。このスーツは最高です』
すごいや。
やっぱりスーツが気持ちよくて脱ぎたくないんだ。
画面で見ていてもそう思ったけど、こうして二人がそう言うんだから間違いないよね。
「これからは皇帝陛下のために働くように命令してやりなさい」
爺にそう言われたので、ぼくは二人に皇帝陛下のために働くように命令する。
『ヒーッ! かしこまりました』
『ヒーッ! 私たちは皇帝陛下のために働きます』
ぼくたちに向かって右手を上げる二人を見ると、なんだかぼくが皇帝陛下になったみたいだね。
「若様、あのメスどもにナンバーを与えてあげるのです」
「ナンバー?」
ぼくは爺から手渡された紙を見た。
そこには“地球製女戦闘員一号&二号”と書かれていた。
ぼくが爺を見上げると、爺はにっこりとうなずいた。
「アキ、お前は今からジャニン帝国の地球製女戦闘員一号だ」
『ヒーッ! ありがとうございます。私はジャニン帝国の地球製女戦闘員一号です』
「サユリ、お前はジャニン帝国の地球製女戦闘員二号だ」
『ヒーッ! 私は地球製女戦闘員二号です。ナンバーをいただけてとても幸せです』
二人はうっとりとした目つきで右手を上げていた。
これで仕上げは終わったみたいだ。
******
こうしてちきゅうせい女せんとういんになった二人は、しぶしぶちきゅう人のすがたにもどると、アースナイトのたてものにもどりました。
これからあとは、じいが引きついで二人にアースナイトのじゃまをしてもらうそうです。
それから今回のじっけんがうまくいったので、ちきゅうせい女せんとういんをもっとふやすことにしたとも言ってました。
お父さんは、今回ぼくがちきゅう人にこうていへいかのいだいさをちゃんと教えてあげれたことをすごくほめてくれました。
お父さんのしごともだいぶ楽になるだろうって言ってました。
シャノンさんも、きっと近いうちにお父さんがおうちに帰れるって言ってくれました。
今、じっけんしつのぼくの前には、ちきゅうせい女せんとういんたちがつれてきたアースナイトのメスがねています。
このメスにもあの黒いスーツをきせて、ちきゅうせい女せんとういんにしちゃうんだそうです。
でも、そのかんさつはぼくはできません。
ぼくはもうすぐ夏休みがおわるのでおうちに帰らなくてはならないからです。
でも、きっとあのアースナイトのメスも、黒いスーツの力でちきゅうせい女せんとういんになるでしょう。
これがぼくの夏休みのかんさつ日記です。
とてもおもしろかったです。
おわり。
- 2009/08/17(月) 21:29:51|
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観察日記の二回目です。
それではどうぞ。
(2)
14月15日
きょうから夏休みのじゆうけんきゅうをします。
ぼくのじゆうけんきゅうは、ちきゅう人のかんさつ日記です。
じいがつかまえてきた二人のちきゅう人のメスどものかんさつを行ないます。
じいがつかまえてきたちきゅう人は、アースナイトというわるいやつのなかまです。
オペレーターというメスたちだそうです。
じいは、そのオペレーターにこうていへいかのいだいさがわかるようになるスーツをきせてはなしてあげました。
オペレーターは、アキとサユリという名まえです。
でも、黒くて目だけしか出ないスーツをきているので、どっちがサユリでどっちがアキかわかりません。
でも、ぼくは二人のおっぱいの大きさがちがうことに気がついたので、おっぱいの大きいのがサユリで小さいのがアキだとわかりました。
サユリとアキは、ちきゅう人がよくつかう車というのりものの中で目をさましました。
すると二人は、まっ黒なスーツをきているのにとてもおどろいてました。
さいしょはなにかおたがいに言いあってましたが、しばらくするとスーツがきえて、じいに見せてもらったちきゅう人のサンプルとおなじすがたになりました。
じいにどうしてなのか聞いたら、オペレーターにきせたスーツはとくしゅなもので、はだの一ぶに同かしているんだそうです。
でも、そのせいで、ちきゅう人がふつうのすがたにもどりたいと考えると、スーツはそれをうけ入れてかいじょされちゃうんだそうです。
でも、ねてしまったり気をうしなったりすると、またスーツがかつどうしてこうていへいかのいだいさを教えこむんだそうです。
なので、ぼくは、この二人がちゃんとこうていへいかのいだいさをりかいするようになるかをかんさつするのです。
二人は車の中でふくをきると、すぐに車を走らせました。
とちゅう何どか行ったりきたりして後ろを見たりしてたけど、小がたロボットがちゃんとくっついていたので、二人のすがたはぼくにはちゃんと見えてました。
こんどはちきゅう人のすがたになったので、かみの毛の色と長さで二人の区別がつきました。
茶色で短いのがアキ、黒くて長いのがサユリです。
二人の車はたてものに入りました。
そして地下の車がいっぱいあるところで車からおりて、たてものの中に入りました。
たてものの中にはちきゅう人のオスがいて、二人から何かを見せてもらうととびらが開きました。
二人はとびらの中に入ると、なんだかホッとしたように見えました。
そして小さなへやに入るとボタンをおしました。
それはエレベーターでした。
二人はエレベーターから出ると、ろうかを歩いてまたへやに入りました。
そこには二人のちきゅう人がいて、二人を門のようなものの間に通しました。
そしてなにかいろいろとさわられたりしていました。
じいに聞いたら、しんたいけんさをしていじょうがないかしらべているんだそうです。
でも、しらべてもちきゅう人にはスーツのことはわからないって言ってました。
二人のほうもスーツのことを言いたいのだけど、すりこみのせいで言うことができないんだと言ってました。
しばらくすると二人はそのへやをぬけ、またろうかを歩いて行きました。
そしていくつものとびらがあるところに来ると、べつべつのとびらに入って行きました。
でもすぐにアキが出てきてサユリの入ったとびらに入ります。
ぼくの小がたロボットもいっしょに中に入れました。
じいは、おそらくちきゅう人には二人がふつうの外出からもどってきたとしか思わないはずだと言いました。
『いったい・・・何がどうなっているのかしら・・・』
『わからない・・・わからないです。気がついたらあんな格好してて、脱げなくて、でもこんなのいやだ、元に戻りたいって考えたら消えちゃって・・・』
ベッドに腰掛けているサユリが頭を抱えている。
部屋の壁にもたれかかっていたアキも、へたり込むように腰を下ろす。
『今でも気を抜くとあの服に全身を覆われそうだわ。あのベルトの紋章、あれはまさしくジャニン帝国のものよ』
『あの服みたいのはなんなんですか? 私たち、ジャニン星人に何かされちゃったんですか?』
『わからない。でも、何かされたのは確かだわ。紗由里といっしょに映画館に入った後の記憶がないし・・・』
唇を噛んでいるアキ。
『うわーーん、いやぁぁぁぁぁ』
サユリもベッドに倒れこんで泣き出してしまう。
地球人も泣くときはぼくたちと同じだね。
ぼくはその様子を日記に書いた。
『泣いている場合じゃないわよ紗由里。もっと大事なことがあるわ』
『ヒクッ・・・な、なに? 大事なことって』
躰を起こし涙を拭うサユリ。
『私たちがジャニン星人に何かされたことを、チーフや他の人たちに伝えなければならないのに、私、何も言うことができなかったのよ』
『あっ・・・』
アキの言葉にサユリが両手で口元を覆う。
『何かに書いてと思ったけど、それも無駄だった。あのこと以外は普通にしゃべることができるのに、あの服のことはしゃべることも書くこともできなかったわ』
『それでいつものチェックのときに妙な顔をしていたのね』
『ええ、何とか私たちの身に起こったことを伝えようとしたんだけど・・・』
アキが首を振る。
『私たち・・・どうなっちゃうのかな・・・』
うなだれるサユリ。
『わからない。でも、ジャニン星人が何かたくらんでいることは確かだわ。せめてチーフには私たちの身に起こったことを知らせないと・・・』
『でも、でも知らせてどうなるの? もしかして私たちがジャニン帝国のスパイだとか疑われたりしない?』
『えっ?』
『私たちがあの格好していたら、ジャニン帝国のスパイと思われたりしない?』
『そ、そんなこと・・・ないと思う・・・』
言葉が小さくなるアキ。
『ねえ、亜希、少し様子を見ようよ。こうして意識していればあの格好には戻らないんだし、変な誤解で私疑われたくない』
『紗由里・・・』
『亜希だってそうでしょ? せっかく次の昇任試験はチャンスなのに、こんなことで試験が受けられなくなってもいいの?』
『それは・・・』
言葉に詰まるアキ。
『大丈夫だよ。私たちどこもおかしいところなんてないよ。私、ちゃんとジャニン帝国のこと嫌いだし、地球を守りたいって思っているよ』
『それは私だって』
『だったら黙っていようよ。こんなことで妙な誤解を受けたくないよ』
『う・・・ん・・・そうだね。それがいいかも』
アキもサユリの言葉にうなずいた。
そのあと二人はいろいろなおしゃべりをしてわかれました。
じいに聞くと、おしゃれのこととかを話していたそうです。
すりこみがはたらいているので、ほかのちきゅう人にあのふくのことを話そうという気もちがうすくなるので、二人はたぶんだれにも話さないだろうと言ってました。
夜になって水あびをしたサユリはベッドに入ってねています。
しばらくするとサユリの頭があのマスクにおおわれました。
ねむってしまったので、スーツがかつどうをはじめたのです。
サユリはなんだかくるしそうでしたが、だんだんうごかなくなりました。
じいに聞いたら、せんのうパルスというものがおくすりのようにきいてきているんだと言いました。
もう時間もおそいのでぼくもねます。
おやすみなさい。
******
14月16日
ぼくがおきると、もうちきゅう人もおきていました。
でも、なんだかようすがへんです。
アキがサユリのへやに入ってきて、サユリと話しています。
『大丈夫、紗由里? おかしなところない?』
『どうしたの亜希? おかしなところって?』
きょうの二人は昨日とは違う服を着ている。
サユリはまだ寝る前に着たゆったりした服のままだが、アキのほうは暗い緑色のきちんとした服だ。
爺に聞いたら、アキの着ているのはアースナイトが所属する地球防衛隊のオペレーターの制服なんだって。
『目を覚ましてびっくりしたわ。あの格好になっていたのよ。それになんだか頭痛がして・・・』
『ああ、私も目が覚めたらそうだったわ。たぶん意識が途切れたからじゃないかしら』
サユリは朝食を食べている。
四角いものに何かを塗って、白い液体と一緒に食べていた。
『ああって、紗由里、よく落ち着いていられるわね。あんな格好で寝ているなんておかしいと思わないの?』
『仕方ないでしょ。寝ちゃったらあの格好でいたくないっていう意思が途切れちゃうんだもの。どうしようもないわ』
パクパクと朝食を食べている紗由里。
なんだかぼくもお腹すいてきちゃった。
『仕方ないって・・・これはジャニン星人が何か仕掛けているのよ。そのうち取り返しがつかなくなるかもしれないわ。やはりチーフには言わないと・・・』
『でも言えないんでしょ。仕方ないじゃない。それに何かって何? かえって私たちが疑われるだけよ』
『それは・・・でも、このままじゃ・・・』
『わかったわ。亜希がそういうならもう止めない。でも私は気にしないことにするし、だれにも言うつもりは無いわ』
朝食を終えて着替え始めるサユリ。
どうやらサユリもアキと同じ服を着るらしい。
『私は変に疑われたくないの。チーフに言うなら私を巻き込まないでね』
『紗由里・・・もうわかったわよ。こっちはこっちで好きにやるわ。先に行くわね』
怒ったように出て行ってしまうアキ。
サユリは悲しそうに亜希の出て行った先を見つめていた。
「どうやら洗脳には個人差があるようですな」
一緒に画面を見ていた爺が言う。
「個人差?」
ぼくはよくわからなくて聞き返した。
「あの茶色の髪のほうは意志力が強いのでしょう。まだ洗脳の効果が薄いようです。まあ、刷り込みがあるので他に話すことはないでしょうが・・・もう一人の黒い髪のメスはそこそこ効果が出てきているようです。わりと早めに皇帝陛下の偉大さを知ることになるかもしれません」
そういうことか。
二人がそれぞれ違うってことだね。
だからちゃんと観察しないとだめなんだ。
ぼくはサユリがへやを出たあとで、小がたロボットをあちこちうごかしてみました。
アキとサユリのかんさつをするには、ちきゅう人のたてもののどこに二人がいるのか知らなければならないのです。
すると、アキもサユリもたてものの中のおなじ場しょにいることがわかりました。
そこは高いてんじょうの広いへやで、大きな画めんが前にあって、いくつもつくえがあるへやでした。
そこにはちきゅう人のメスがおおぜいいて、みんなつくえの上の小さな画めんを見ていました。
そして後ろの高い場しょにいるメスが何か言うと、つくえにむかったメスの何人かがそれにへんじをしてました。
じいが言うには、ここはちきゅうぼうえいたいのオペレーションルームというもので、アースナイトにしじをする場しょなのだそうです。
前から場しょはわかっていたんだけど、中を見るのははじめてだと言ってました。
サユリはまたしんたいけんさをうけて、へやに入ったあとはつくえにむかったままだったけど、アキはちらちらと後ろの高いところにいるメスやほかのメスたちを見てました。
でも、そのうち首をふると、つくえにむかってゆびだけをうごかしてました。
ずっとそのままだったので、ぼくはたいくつになってしまいました。
でも、これはじゆうけんきゅうなんだから、ちゃんとかんさつしなくてはなりません。
するとじいが、メスたちがちがううごきをし始めたらよんであげるから、へやであそんできていいよと言ったので、ぼくはへやにもどりました。
******
14月19日
サユリは、ねる前にきるふくをきなくなりました。
そしてベッドにねると、すぐに黒いスーツのすがたになるようになりました。
サユリは黒いスーツすがたになると、なんだかもじもじと体をくねらせています。
ときどきはぁとかふぅとかためいきをついています。
なんだかすごくきれいな気がします。
アキはなんだか元気がありません。
なるべくねないようにするって言ってます。
ねたらへんになっちゃうって。
黒いスーツが気もちよくなってしまうって言ってます。
アキがそう言うとサユリはわらっていました。
アキとサユリは毎日同じぐらいの時間にあのオペレーションルームに行きました。
そして同じようにつくえにむかって小さな画めんを見ながらゆびをうごかしています。
でも、もうアキはちらちらと後ろを見たりほかのメスたちを見るようなことはなくなりました。
二人ともこの時間は毎日同じようにしているので、ぼくはちょっとつまらないです。
じいがまたあそんできていいよと言ったので、ぼくはへやにもどることにしました。
- 2009/08/16(日) 21:11:52|
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今日から三日間で一本SSを投下させていただきます。
札幌はもうすぐ夏休みも終わりですが、8月いっぱい夏休みという方も多いでしょう。
今回は夏休みの自由研究です。
お楽しみいただければうれしいです。
それではどうぞ。
(1)
ぼくのお父さんはしょうぐんでしれいかんをやってます。
みんなぼくのお父さんはえらくてきびしいといいますが、ぼくにはとてもやさしいお父さんです。
お父さんは今、ちきゅうという星へでかけていて、そこの生きものをこうていへいかのどれいにするためにはたらいてます。
ぼくはこの夏休みに、お父さんに会いに行こうと思います。
ちょっと遠いけど、ぼくはもうお兄さんになったのだから、だいじょうぶです。
******
「これは若様。こんなところまでようこそおいでくださいましたなぁ」
地球に着いたぼくを爺が出迎えてくれた。
爺は代々我が家に仕えているお爺ちゃんで、お父さんの身の回りのことの世話をしてくれている。
代々仕えるってよくわからないけど、ぼくが生まれたときから爺はお爺ちゃんだから、きっと昔から長くいるということなのだと思う。
「爺、ぼくちゃんと地球まで一人で来れたよ」
ぼくはリュックを背負ったまま爺にちゃんと一人で来たことを言う。
お母さんは弟が生まれたばかりで来られなかったけど、僕はもうお兄さんだから一人でできるんだ。
「うんうん、一人でここまで・・・ご立派になられましたなぁ」
爺はすぐに泣いてしまう。
ぼくが何かしたといえば泣き、弟が生まれたといっては泣く。
ずいぶんと泣き虫なのだ。
ぼくはもうお兄さんだから泣かないぞ。
「おお、来たか。しばらく見ないうちに大きくなったな」
アジトの司令室に爺が連れて行ってくれた。
司令室にはお父さんの他にも何人もいたけど、お父さんは中央でかっこいい服を着て立っている。
ここではお父さんが一番えらいんだ。
ぼくは強そうなお父さんを見てすごくうれしかった。
「お父さん」
ぼくはお父さんに駆け寄った。
するとお父さんはぼくを抱きかかえてくれた。
お父さんに抱かれるのはちょっと恥ずかしかったけど、大きなお父さんがすごくよく感じられた。
「お父さん。ぼく一人でここまで来れたよ」
「そうかぁ。えらいぞ。よくやった」
お父さんはぼくを両手で高く持ち上げる。
こうしてもらうと、ぼくは周りがとてもよく見える。
すごく大きくなった気がして気持ちいい。
「ほんに若様もご立派になられて・・・」
また爺が泣いている。
泣き虫だなぁ。
「迷惑をかけたなズバール」
「なんの、ワシよりもシャノン殿のほうがいろいろと骨を折ってくださいましたわい」
「うむ、彼女にも礼を言わねばな。こいつをここまで無事に送り届けてくれて助かった」
お父さんと爺が何かしゃべっている。
きっとお仕事のことだろう。
お父さんは忙しいのだ。
「さ、若様、この爺があちこち案内して差し上げましょう」
「うむ、アジト内を見てくるといい。だが、働いている人の邪魔をしてはいかんぞ」
お父さんはぼくを降ろしてそう言う。
ぼくはもうお兄さんだから邪魔しないよ。
ちゃんとわかってるよ。
ぼくは子ども扱いされたことにちょっと腹が立ったけど、アジト内を見てまわれるのが楽しみで、そんなことは気にならなかった。
爺に見せてもらったアジトはとても大きかった。
もう建物がいっぱいあって、どこがどこだか迷っちゃう。
もし爺がいなかったら迷子になっていたかもしれない。
でも、いろいろな場所があってなんだかすごく楽しかった。
それにいろいろな人が働いている。
地球を皇帝陛下のものにするためにみんな働いているんだ。
すごいなぁ。
地球人のサンプルも見せてもらった。
なんだかぼくたちとあんまり変わらないみたいだけど、爺が言うにはとても野蛮な生きものならしい。
オスとメスがいて、オスはぼくと同じようにおチンチンが付いている。
メスはお母さんと同じようにおっぱいが大きい。
でも、こんなに似ているのに、中身は野蛮で全然違うんだって。
やっぱり星が違うからなのかなぁ。
お父さんがなかなかおうちに帰ってこられないのは、この地球人のせいなんだって。
地球人は皇帝陛下の偉大さがわからないから、いつまでも逆らい続けるって爺が言ってた。
でも、皇帝陛下はお優しいから、地球人をちゃんと生かしたまま奴隷にするので、星ごと破壊とかは行なわないんだって。
でも、地球人はそんな皇帝陛下の優しさにつけこんで、お父さんの仕事の邪魔ばかりするらしい。
だからお父さんはなかなかおうちに帰ってこられないんだって。
ぼくは地球人が嫌いになった。
夕食はお父さんと一緒に食べることができた。
爺のほかにも何人かの女の人がいたりして、いろいろと食事の用意とかしてくれた。
お父さんは偉いので召使いが何人もいるらしい。
すごいなぁ。
「学校は楽しいか?」
「うん。楽しいよ」
ぼくはお父さんにそう言った。
「もう夏休みの宿題は終わったのか?」
「まだだけど、半分以上はやっちゃったからあとは帰ってからで大丈夫だよ。でも、自由研究が何をしたらいいのかわからなくて困っているんだ」
この自由研究をどうしたらいいのかがぼくが困っていること。
何かいい題材がないかなぁと思う。
「自由研究か・・・お父さんも子供の頃は何をしたらいいのか悩んだものだったなぁ」
お父さんがなんだか懐かしそうにそういう。
ええっ?
ぼくは驚いた。
お父さんも何をしたらいいのか悩んだんだ。
お父さんは何でもできちゃうと思っていたよ。
「本当はここにいる間に何かできればいいんだけど・・・」
ぼくはこの地球で自由研究ができないかと思っていた。
地球でなら、クラスメイトがあっと驚くような自由研究ができるかもしれないよね。
「うーん・・・とは言ってもなぁ・・・地上に出すにはあまりにも危険すぎる。アースナイトの連中に見つかったりなどしたら・・・」
お父さんが難しい顔をしている。
アースナイトってなんだろう?
「まったくです。地上に出るなどもってのほかですぞ。このアジト内ならまだしも、地球はとても危険な場所なんですからな」
爺が首を振っている。
うーん・・・アジトの外には出られないのか。
「でも、地球で自由研究ができればクラスメイトにもきっと驚いてもらえるよ」
「なるほどな。ズバール、何かいい自由研究の材料はないかな」
お父さんに言われて、爺は少し考えている。
何かいい題材があるといいな。
「おお、そうだ。あれはいかがでしょう? 無意識時でないと使えないために役に立つかどうかわからず、実験が延び延びになっていたあのスーツの観察を若様にしていただくのです。あれならモニターでの観察だけですし、地球人の生態を観察することで自由研究の題材になるのではないでしょうか」
爺がぽんと手を叩いた。
何かいいことを思いついたときの爺のくせだ。
「む? あのものの役に立つかどうかわからんスーツのことか? 確かに実験には数日間の経過観察が必要だとは研究班から言われているが・・・」
「このさい若様に観察をしていただきましょう。若様もいずれは将軍職をお継ぎになる身。社会勉強の一つになりましょう。もちろんこの爺めもお手伝いいたしますのでご安心を」
「うーむ・・・よし、あとで研究班に俺から言っておくことにしよう。ズバール、すまんがこの子の面倒をよろしく見てやってくれ」
お父さんと爺が何のことだかよくわからない話をしている。
でも、なんだか自由研究ができそうだよ。
「若様、ご安心を。きっといい自由研究ができますぞ。爺めにお任せあれ」
「うん、ありがとう、爺」
ぼくは爺にお礼を言った。
******
それからしばらくして爺に呼ばれたので付いて行ってみると、アジトの研究所というところに連れて行ってもらえた。
すると、透明な壁の向こうに、真っ黒な躰にぴったりした服を着た人が二人寝かされていた。
二人は目だけ出したマスクをかぶり、足にはブーツを履いて手袋をつけ、帝国の紋章の付いたベルトを腰に嵌めていた。
「爺、あの人たちは何なの?」
ぼくは不思議に思ってそう聞いた。
だって、あんな真っ黒な服装の人は見たことないし、とても奇妙だけどなんだか美しかったから。
「若様、あれは地球人でございます」
「えっ?」
ぼくは驚いた。
確かに地球人とぼくたちの体つきは似ているけど、あんな服を着たら見分けがつかないよ。
「あれは地球人のメスです。若様にはあのメスどもの観察をしていただきたいのです」
「地球人のメスを?」
そういわれてみれば、あの真っ黒な人たちの胸は膨らんでいる。
「そうです。あの服には特別な仕掛けがしてありましてな。わかりやすく簡単に言うと、あの服を着た地球人はじょじょに皇帝陛下の偉大さがわかり、帝国に心からお仕えするようになるはずなのです」
ええっ?
野蛮な地球人が皇帝陛下の偉大さがわかるようになるの?
本当に?
「ですが、まだ実験段階でしてな。しかも、地球人の意識があるときには上手く作動しないのです」
「えっ? それじゃだめなんじゃないの?」
ぼくは爺にそう言った。
「寝たり意識を失ってくれれば上手く作動するので、寝ている間にじょじょに皇帝陛下の偉大さがわかるという仕組みなのですが、何せ時間がかかるゆえ実験もままならなかったのですよ。でも、若様が観察してくれれば助かります」
「ふーん・・・」
ぼくは正直がっかりした。
もっと楽しい自由研究ができるかと思ったのに、地球人のメスどもの観察だなんて・・・
「あの者たちがこれからどうなるのか。ちゃんとスーツの機能が働いて皇帝陛下の偉大さをあの者たちが感じるようになるか。若様にはそれを観察していただきます。どうですか? 他ではできない自由研究だと爺は思いますぞ」
そうか・・・
確かに爺の言うとおりだ。
地球人の観察日記なんて他では絶対できないよね。
さっきはがっかりしちゃったけど、これはぼくしかできないんだ。
うん、そう考えるとなんだかワクワクして来たや。
「うん、わかったよ爺。ぼくちゃんとあのメスどもを観察するよ」
「おお、やってくれますか? それでこそ若様。お父様もきっとお喜びになりますぞ」
ぼくの言葉に爺はうんうんとうなずいた。
なんだかお父さんよりも爺のほうが喜んでいるみたいだけどなぁ。
「それでこれからどうするの? この部屋であの地球人のメスどもを飼うの?」
「いやいや、それではたいした観察にはなりますまい。あの地球人どもは一度解放します」
爺がにやりと笑う。
爺がこういう顔をするときはいつも何か楽しいことを考えているときだ。
「解放しちゃって大丈夫なの? 逃げちゃったりしない?」
「ご心配なく。最小限の刷り込みは行ないました。あの地球人どもは戦闘員スーツを着せられていることに驚きはするでしょうが、すぐにスーツを解除して日常生活に戻るはずです。また、スーツを着せられたことをあの二人以外に話すこともできないでしょう」
爺の脇から若い研究員さんが教えてくれる。
よくわからないけど、どうやら二人が逃げる心配はないみたいだ。
「これがあの地球人どものデータです」
そう言って渡されたものには、二人の地球人のメスの画像と名前、それにいろいろな数字が書いてあった。
ぼくは画像の地球人たちがどっちがどっちなのかを見極めようとしたけど、二人ともマスクのおかげで目だけしか出してないので、わからなかった。
仕方ないので、おっぱいの大きさが違うのでそちらで区別することにする。
おっぱいの大きいのがサユリ、ちょっとだけ小さいのがアキという名前だ。
ぼくは名前と特徴をメモに書いた。
「さて、ここからは若様にお任せしますぞ。しっかり観察してください」
爺がノートパソコンのようなものをくれる。
この画面にあの地球人のメスどもの姿が映し出されるんだって。
メスどもには常時小型ロボットが張りついて様子をこの画面に送ってくれるから、ぼくはそれを観察するだけ。
ぼくが地球にいる間、観察日記を書いていくよ。
- 2009/08/15(土) 21:17:52|
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第二次世界大戦中、ドイツはさまざまな種類の車体に大砲を載せて自走砲を作りました。
一方アメリカも、1941年にマーシャル将軍が自走砲の必要性を訴えたことにより、各種自走砲の研究が始まります。
以後、アメリカでも各種自走砲が作られていくことになるのですが、戦車の車台を利用した本格的なものを作成する前に、手っ取り早い自走砲として、M3ハーフトラックを使った自走砲がいくつか作られることになりました。
M3ハーフトラックは、映画などでもおなじみのアメリカの装甲兵員輸送車で、M3偵察装甲車の後輪がゴム履帯になったような車両でした。
このM3ハーフトラックが、自走砲の車台に選ばれたのです。
最初に作られたのは、75ミリ野砲を積んだタイプでした。
このタイプは主砲の種類によっていくつかの形式に分かれますが、基本的には同じようなものであり、自走対戦車砲として使われました。
当時のドイツ軍の三号戦車あたりを相手にするなら、この75ミリ野砲でも充分だったのです。
ところが、英国ではこの75ミリ砲の貫徹力では不充分と考えました。
そこで、より貫徹力のある英国製6ポンド砲もしくはそのアメリカでのライセンス生産型である57ミリ対戦車砲をM3ハーフトラックに搭載した自走対戦車砲を作成するようアメリカに要求しました。
アメリカはこの要求にしたがい、57ミリ対戦車砲を搭載した自走砲を試作します。
この自走砲はT48というナンバーを与えられ、75ミリ野砲と同じような搭載方法で57ミリ対戦車砲を搭載しました。
T48は特に大きな問題もなく、1942年の12月に英国向けに量産が開始されました。
そして翌1943年の5月までに962両が完成いたします。
ところが、1943年にもなると、英国にはレンドリースなどでM4中戦車などが続々と送られてきておりました。
そのため、英国はこのT48自走砲の必要を感じなくなってしまっていたのです。
英国はせっかく自分たちのために作ってくれたT48を30両しか受け取りませんでした。
しかも、受け取った30両も、もともとの装甲兵員輸送車に再改造してしまいます。
宙に浮いたT48は、ソ連向けに積み出されました。
独ソ戦の最中で一両でも戦闘車両がほしいソ連は、このT48を650両受け取ります。
残った280両ほどは、アメリカで装甲兵員輸送車に再改造されました。
結局英国のために作ったT48は、英国でもアメリカでも使われず、ソ連が使っただけでした。
ですが、搭載された57ミリ砲はそこそこの貫徹力を持っていたので、独軍にとってはそれなりの脅威になったのではないでしょうか。
これまた奇妙な運命をたどった自走砲だったと思います。
それではまた。
- 2009/08/14(金) 21:21:06|
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今日は久々にSSを一本投下します。
ちょっと軽めの変わったSSかと思いますが、楽しんでいただければ幸いです。
それではどうぞ。
「はあ・・・」
何度目かわからないため息をつく。
「買っちゃった・・・」
俺は目の前に広がった衣装を前に複雑な思いを抱く。
「はあ・・・」
着てくれるわけないよなぁ・・・
またしてもため息をつく。
目の前には両手両脚を広げた豹がいた。
いや、違う。
正確には豹柄の全身タイツだ。
ナイロンでできたすべすべの衣装。
足はつま先まで一体で作られ、背中のファスナーを閉じれば手首から先と首から上しか出ないようになっている。
黄色に黒の豹柄模様がプリントされ、見た目にもとても綺麗だ。
きっとこれを着た理沙(りさ)はすごく綺麗に違いない。
スタイルのいい理沙には絶対似合うはずだ。
着てさえくれれば・・・だけどな・・・
「はあ・・・」
何度目かプラス2回目のため息をつく。
「何で買っちゃったんだろう・・・」
俺はそうつぶやく。
安かったから・・・
全身タイツが一万円以下なら安い部類だろう。
特にこのような縫製もしっかりした奴なら二万や三万したっておかしくない。
どうかしていたのかもしれない。
いくら俺が全身タイツやレオタードが好きだからって、いきなり豹柄全身タイツはないだろう。
まずはこう、ワンピースの水着あたりから褒め殺して、レオタードのよさなんか語ったりしてその気にさせて・・・なんてのが普通だろう。
普通・・・か?
ま、それはともかく、いきなり彼女に豹柄の全身タイツを見せて、これを着てくれって言ったところで着てくれるはずなどないよな。
「はあ・・・」
俺はやっぱりため息をついた。
何の気なしに見たサイト。
特撮ヒーローモノのサイトだった。
ただそこは、ヒーローよりも悪の手先側の応援サイトのようで、全身タイツ系の女戦闘員なんてイラストが画面を飾っていた。
レオタードや全身タイツに興味がある俺としては、こういった黒レオタや黒い全身タイツを着込んだ女戦闘員なんてのも大好きで時々覗きに来ていたが、たまたまそこで広告されていたのがこの豹柄の全身タイツだったのだ。
モデルさんが着込んだ素敵な豹柄の全身タイツ。
俺はすぐにクリックした。
もちろんそのときは買うなんて考えもしなかった。
ただ、全身タイツの綺麗なモデルさんの画像を見たかっただけだった。
モデルさんの画像はとても素敵だった。
まるで女性が豹になってしまったかのような錯覚さえ覚えるほどだった。
この全身タイツを理沙が着てくれたら・・・
そう思うとこれがほしくなった。
今宵の彼女はとてもワイルド。
こんなキャッチコピーも素敵だった。
今がマンネリとは言わないけれど、理沙とのセックスに刺激があるかもしれない。
そう思った。
全国送料無料。
サイズはSから3Lまで。
商品名は表示せずにお届けいたします。
そういった表示の下をクリックし、気がつくと俺は申し込んでいた。
ネットの通信販売なんて利用するのは久しぶりだ。
せいぜいアマゾンなどで本を買ったりするぐらいだったからな。
で、届いたのが今日だった。
箱には俺の宛名が書いてあるだけ。
いや、裏に通信販売のゴッドレス通販って書いてあった。
箱を開けると、丁寧に折りたたまれた全身タイツが入っていた。
ビニールから丁寧に取り出して広げてみた。
とても綺麗。
豹柄が美しい。
すぐにでも理沙に着てほしい。
「はあ・・・」
どうしよう・・・
なんて言おう・・・
どうやって理沙に着てもらおう・・・
難しいかなぁ・・・
猫耳も恥ずかしがって付けてくれなかったもんなぁ・・・
全身タイツなんて顔真っ赤にして二度と来ないって言うかもなぁ・・・
ピンポンとチャイムが鳴る。
心臓が口から飛び出しそうになる。
やばい!
もうこんな時間。
理沙のバイトが終わったんだ。
俺はとりあえず豹柄の全身タイツと箱やビニール袋を押入れに押し込んだ。
なんだかエロ雑誌を隠しこんでいるような気がしたが、とにかく今は見られたくない。
俺は押入れの戸を閉めると、すぐに玄関のドアを開けに行った。
「真(まこと)君、こんばんはー」
いつものようににこにこ顔の理沙が立っていた。
栗色の長めの髪に栗色のくりくりした瞳。
鼻はすっと鼻筋が通り、小さめの口が笑みを浮かべている。
いつも通りの可愛い笑顔。
ちくしょー!!
どうしてお前はそんなに可愛いんだよ。
「お邪魔しますねー」
そう言って靴を脱いで入ってくる。
スカートからすらりと伸びた脚が素敵過ぎるだろ。
「ああ」
俺はなんとなくそう言って理沙を迎え入れる。
「お腹すいたでしょ? 今すぐ作るから待っててね」
買い物袋を置き、ハンガーからエプロンを取って身につける。
理沙はこうして週に二三度夕食を作りに来てくれるのだ。
「なんだったらビール飲んでていいよー」
「いや、待ってるよ。飲むならいっしょに飲みたいし・・・」
俺はぶっきらぼうにそう言った。
「ん、ありがと。じゃ、ちゃっちゃと作っちゃうね」
台所から笑顔で俺を振り返る理沙。
もう、それだけで俺は地に足がつかなくなっちまう。
「お疲れ様」
「真君もお疲れ様」
そう言って二人でビールを傾ける。
この季節はやっぱり冷たいビールが美味しい。
俺は理沙の作ってくれたおかずを肴にビールを飲み、二人で他愛ない話をしてすごす。
なんていうか、彼女がいてよかったーって思う瞬間だ。
「ねえ、真君。あれ、何?」
ふと俺の背後を指差す理沙。
俺は何の気なしに振り返る。
その瞬間俺は血の気が引いていった。
なんと、押入れから豹柄全身タイツの袖が覗いていたのだ。
「ねえ、何なの? 見せてぇ」
理沙が甘えた声を出す。
こいつは何か興味があるものを見つけると、絶対にしっかり見るまで引き下がらない。
俺は天を仰いだ。
「いや、その・・・」
どう言ったものかと思っていると、理沙がきょとんとした顔をしていた。
まさか自分が着るように言われる全身タイツだなんて思いもしてないんだろう。
ええい、どうせ着てもらおうと思っていたんだし、こうなりゃやけだ!
俺は立ち上がると押入れのところに行き、豹柄全身タイツを取り出した。
「これ・・・」
俺はそう言って豹柄全身タイツを理沙に見せる。
「うわぁ・・・これって全身タイツ? 真君が着るの?」
目を丸くしてそんなことを言う理沙に、俺はぶんぶんと首を振る。
「違うの? 見ているだけ?」
俺はもう一度首を振る。
「それじゃ誰が・・・?」
首を傾げた理沙の顔が、みるみる赤く染まっていった。
「や、や、や・・・だめ、だめだから。着れないから。無理だから。絶対絶対無理だから」
両手を突き出して必死に左右に振り、同時に首もぶんぶんと振っている。
「だ、だってだって・・・そんなの着たら躰の線出ちゃうじゃん。着れない。絶対着れないよぉ!」
う~・・・そこまで否定するかぁ?
これを見せて着られないからって言われて、ハイそうですかと引き下がることなどできるかっ!
もう、理沙になんと思われてもいい!!
絶対絶対着てもらうんだ!!
「お願いします!!」
俺はいきなり土下座した。
理沙はわりと頼まれると断れない娘だ。
先日も大学祭の実行委員に推薦され、仕方なく引き受けていたそういう娘だ。
だからここは俺はとにかく拝み倒しで行くしかない。
「理沙がこれを着た姿が見たいんだ。きっと似合う。いや絶対似合う。だから、だから、お願いします!!」
「だ、だめ。だめだよぅ。こんなの着るの恥ずかしいよぅ」
理沙はぶんぶんと首を振る。
だが俺は引き下がらない。
「恥ずかしくなんかない! 絶対理沙はこれが似合う。それに俺しか見ないから大丈夫だから。お願いします!」
「真君に見られるのが恥ずかしいんだよぅ。私、スタイルよくないし・・・」
「そんなことない!! 絶対そんなことない!! 俺が保障する!! 理沙はスタイルいいよ。これ着たら絶対似合うって!!」
俺は必死になって床に頭をこすり付ける。
俺だってこんなに恥ずかしい格好しているんだぞ。
「う~・・・」
「お願いします!!」
「一回・・・だけだよ」
俺は思わず顔を上げた。
理沙は恥ずかしそうに赤くなってうつむいている。
「一回だけで・・・いいです」
俺はこくこくとうなずく。
心の奥底では一回だけですますつもりなんてないのに、とにかく着てもらいたい俺はその提案を呑むしかなかった。
「一回だけで・・・一回だけでいいです。理沙がこれ着てくれたら俺はもう死んでもいい」
「ば、バカ。死んじゃ困る」
理沙が思わず顔を上げ、俺は彼女と目が合った。
「もう・・・しょうがないなぁ・・・」
苦笑する理沙に、俺は天にも昇る思いだった。
と、なれば善は急げだ。
理沙の気が変わらないうちに着替えさせるに限る。
明日になればいやだって言うかもしれないからな。
「う~・・・恥ずかしいよぅ。今日じゃなきゃだめ?」
「だめ。一回だけだから覚悟決めなさい」
「覚悟って言われても・・・う~・・・」
なんとなくまだ渋る理沙に、俺はすべすべの豹柄全身タイツを手渡して風呂場に向かわせる。
「うわぁ・・・すごくすべすべしてるんだね。手触りが気持ちいい・・・」
豹柄全身タイツを手に取った理沙は驚きで目を丸くした。
「さ、入った入った」
「う~・・・絶対見ないでよ」
「見ません。見ませんって」
俺は理沙の肩を押して風呂場に押し込む。
はあ・・・
これでどうやら着てくれるだろう。
「絶対見ないでよ」
「だから見ないって」
風呂場の狭い脱衣所から理沙の声がする。
俺は見たいのを必死でこらえてドアに背を向ける。
我慢我慢。
でも、きっと理沙があの豹柄全身タイツを着た姿は似合うだろうなぁ・・・
「ひゃあっ」
風呂場から理沙の声がした。
「り、理沙?」
「な、なんでもない。なんでもないの。ちょっとあまりの肌触りのよさにびっくりしただけ・・・」
俺がびっくりして声をかけると、すぐに理沙の声が帰ってきた。
「お、脅かすなよ」
「ごめん」
俺はなんでもなかったことにホッとした。
「ふ、ふわぁっ! な、何これぇっ!」
またしても脱衣所から理沙の声だ。
「またかよ。今度は何なんだ?」
俺はさっさと着替え終わらないかとやきもきしていたので、ちょっとむっとしてしまった。
「いやぁっ! か、躰が、躰がぁっ!!」
な、何だ?
俺はすぐに立ち上がり、風呂場のドアを叩く。
「どうした? 理沙? 何かあったのか?」
「だ、だめぇ・・・入って・・・躰の中に入ってこないでぇ・・・」
なんだか少し苦しそうな理沙の声。
でも、入るなと言われれば入るわけにはいかないよな。
「ああ・・・だめぇ・・・躰がぁ・・・躰がおかしくなっちゃう・・・」
な、何だ?
いったいあいつは何しているんだ?
「理沙、俺だ、入るぞ。いいか?」
俺はドア越しに声をかけた。
「理沙? 理沙?」
返事が無い?
「ああ・・・私は・・・私は・・・」
いや、中で理沙が何かつぶやいている。
いったい何がどうなっているんだ?
開けたい・・・
今すぐにドアを開けたい・・・
でも・・・
でも、開けたら理沙に怒られそうだしなぁ・・・
「理沙? 理沙?」
「・・・ハイ・・・私は・・・」
よかった、ちゃんと返事してくれる。
「理沙? 大丈夫なのか?」
「・・・ハイ・・・ゴッドレスに忠誠を・・・」
はあ?
何を言ってるんだ、あいつは?
「理沙? 開けるぞ? いいか?」
俺はドアノブに手をかける。
「・・・ハイ・・・仰せのままに・・・私は豹女・・・」
「理沙? 開けるぞって! いいのか?」
俺はドアノブをグッと回した。
いきなりドアが開いて、俺は押し返されてしまう。
「な、何だ?」
「もう、うるさいわね。少しはおとなしくしてられないの?」
ドアの向こうに腰に手を当てた理沙が立っている。
その姿はまさに俺が夢見た豹柄全身タイツ姿だった。
「理沙・・・だって、なんだか変な様子だったから・・・」
俺は理沙の姿に見惚れながら、ちょっと言い訳を言ってしまう。
「仕方ないでしょ。改造を受けていたんだから」
腰に手を当てたまま、ちょっと口を尖らせる理沙。
はい?
今なんとおっしゃいましたか?
“改造”ですと?
イッタイソレハナンノコトデスカ?
「改造って?」
「改造は改造よ。私の躰をゴッドレスの女怪人にするための改造に決まっているでしょ」
ぽかんと口を開けた俺に、決まりきったことを聞くなという感じで理沙が言う。
「ゴッドレスの女怪人?」
「そうよ。私は秘密結社ゴッドレスの女怪人豹女に改造してもらったの。どう? 似合う?」
くるりと一回転する理沙。
すると彼女のお尻から全身タイツにはなかったはずの尻尾が垂れ下がっている。
さらには頭に猫耳までも付いていた。
「いや・・・その・・・似合う・・・けど・・・」
「けど?」
どうしたのと言わんばかりに顔を近づけてくる理沙。
「その・・・尻尾や猫耳なんて付いていたか?」
「ああ、これ? 言ったでしょ? 私は豹女なの。尻尾や豹耳がつくのは当たり前でしょ」
「ああ・・・そうなのか・・・」
俺はなんとなく納得する。
いや、納得するのか?
違うだろ!
「いや、理沙、そりゃ俺がそんなの着せたのは悪かったけど、冗談はよせよな。いくら俺が特撮好きだって秘密結社だの改造だのってのはさすがに引くって」
「冗談なんか言って無いわ。真君信じてないのね? 私はもう人間なんかじゃないのよ。ゴッドレスの豹女なの。理沙だなんて呼ばないで」
腰に手を当てて怒っている理沙。
いや、そりゃ信じないでしょ、普通。
「わかった、わかったよ。そういう設定なら付き合うよ。俺だって嫌いじゃないからさ」
俺は苦笑しながらそう言った。
まあ、確かに豹女にはふさわしい豹柄全身タイツだしな。
「ふーん・・・信じてなさそうだけど、まあ、いいわ。今日からここも我がゴッドレスの前線基地にするわね。いいでしょ?」
「拒否できるのか?」
理沙は少し首をかしげる。
「拒否してほしくないけど・・・真君がいやならあきらめるわ。私のアパート使えばいいし・・・でも、できれば真君といっしょにいられたらなあって思うの」
ちょっと悲しげな顔をする理沙。
全身タイツのせいかすごく可愛い。
「いや、聞いただけ。理沙が望むならここ使っていいよ」
「もう、また理沙って呼んだ。私は豹女なの。ちゃんと呼んでくれないと殺しちゃうぞ」
赤くマニキュアの塗られた尖った爪をぺろりと嘗める理沙。
なんというか理沙ってこんなにノリがよかったっけ?
とにかく俺は豹柄全身タイツをまとった理沙を存分に観賞させてもらったのだった。
******
でも、俺にもわかってきた。
理沙は本当に豹女になっちゃったんだ。
あの豹柄全身タイツは特殊な繊維でできていて、着用者をゴッドレスの怪人にしちゃうらしい。
無論、素質のないものには作用しないらしいんだが、幸か不幸か理沙には素養があったわけ。
千人に一人ぐらいだそうだから、理沙は選ばれたってことなんだろう。
豹柄の全身タイツは理沙の皮膚と一体化し、もう脱ぐことはできない。
彼女自身脱ぐなんてことは考えもしない。
夜は理沙に求められるままに彼女のリードでセックスする。
豹女になった理沙は性欲が解放されたのか、俺を頻繁に求めてくる。
セックスの時にはちゃんと股間に性器が形成され、俺のモノを飲み込むのだ。
なんというか、すごく気持ちいい。
ああいうのを名器というのかもしれないな。
理沙はもう大学にもバイトにも行ってない。
昼は俺の部屋で過ごし、夜は呼び出しがあればゴッドレスのために任務を果たす。
彼女が夜出て行った次の日は、何らかの事件が報道されるので、きっと彼女はその事件に関わっているのだろう。
先日、俺が大学から戻ると、彼女の仲間だという娘が来ていた。
白黒ぶちの全身タイツをまとった娘で、牛女さんと言うことだった。
牛女の名にたがわぬ巨乳で、俺はちょっと惹かれたものの、手を出したら殺すわよとの豹女の一言におとなしくしているしかなかった。
でも、その夜はたっぷりサービスしてくれたけどね。
今では俺も彼女のことを豹女と呼ぶようになった。
ゴッドレスの女怪人のくせに、彼女は俺にとても優しくしてくれる。
豹柄の躰にエプロンをつけ、尻尾を振りながら食事の準備をしてくれたりする姿を見ると、俺はもうたまらずに彼女を抱きしめちゃったりする。
そんなときは彼女も甘えたように喉を鳴らし、俺とのセックスをせがんでくる。
結局俺は、豹柄全身タイツをよろこんで着てくれる彼女を手に入れたってことなんだろう。
まあ、こんな彼女も悪くない。
END
- 2009/08/13(木) 21:29:31|
- 怪人化・機械化系SS
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にゃんにゃん。今日はねこさんの気持ちになって一日過ごしてみました
*このエントリは、
ブログペットのココロが書いてます♪
- 2009/08/13(木) 10:54:10|
- ココロの日記
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3月15日に横平山を占拠した官軍でしたが、17日になってもなお田原坂一帯の薩軍防衛線は突破できませんでした。
抜刀隊をはじめとして、多くの官軍兵士が力闘奮戦しましたが、薩軍の堅い守りを崩すことはできませんでした。
3月4日に始まったこの田原坂付近の戦いでは、すでに官軍は約二千もの戦死者を出しており、負傷者もまた二千名を越えておりました。
これは官軍にとっても無視できぬ数字であり、これ以上の損害はなんとしても防ぎたいものでありました。
3月18日、官軍は野津少将、三好少将、大山巌少将などが集まり、今後の方策を練りました。
そして翌19日を休養にあて、20日をもって総攻撃を行なうことに決します。
官軍としても、ここで何とか薩軍の防衛線を突破しなければ、包囲されている熊本城が陥落してしまい、この戦争そのものが失われかねないのです。
持てる兵力の大部分をつぎ込んでの総攻撃を行なうしかありませんでした。
一方その頃、田原坂での戦闘がいっこうに進捗しないことに業を煮やした政府部内から、別働隊を用いて薩軍の背後からも攻撃させるべきではないかとの声が出始めておりました。
長崎警備隊指揮官の高島大佐もその一人で、参軍の山県有朋に別働隊を八代あたりに上陸させ、薩軍の前線と拠点である鹿児島との連絡を絶ち、分断するべきであると訴えました。
そういった声を汲み、官軍は3月14日に薩軍の後背に回る別働隊として別働第二旅団を編成します。
この別働隊は「衝背軍(しょうはいぐん)」とよばれ、参軍には黒田清隆中将が、そして別動第二旅団司令長官(心得)として高島大佐が任命されました。
別動第二旅団は中核に歩兵四個大隊を持ち、それに警視隊千二百名が加わった総勢約四千名ほどの部隊であり、3月18日には高島大佐自身が歩兵二個大隊と警視隊の一部を引き連れて輸送船に分乗し、海軍の護衛の下に出港します。
途中天草を経由した船団は、翌19日早朝には八代湾に侵入。
日奈久(ひなぐ)に上陸することに決定します。
しかし、日奈久には薩軍の小部隊約三百がいることがわかり、日奈久の南にある洲口(すぐち)の浜に上陸地点を変更。
遠浅の洲口の浜の沖合い約一キロの海上で、黒木中佐指揮の二個大隊と警視隊五百が小船に乗り移って上陸を開始しました。
海岸の守備にまで兵力を回せない薩軍の防備は弱く、日奈久に向かってきた官軍に抵抗するものの、少数である上に官軍海軍の海上からの艦砲射撃も受け、日奈久から後退するより他はありませんでした。
官軍は日奈久を確保したのち、そのまま勢いに任せて八代まで進出します。
八代は南熊本の重要都市でしたが、薩軍は兵力をほとんど置いておらず、官軍の前にあっけなく占領されてしまいました。
夕方には高島大佐と残りの兵力も八代に上陸。
八代は以後官軍の重要拠点として使われることになりました。
官軍の日奈久上陸と八代の陥落は、田原坂で戦っていた薩軍に衝撃を与えました。
このままでは正面と背後から挟撃されてしまいます。
薩軍はただちに上陸した官軍に対処するため、三番大隊長の永山弥一郎が部隊を率いて向かいました。
永山は海岸防備の責任者であっただけに、官軍上陸に責任を感じたのかもしれません。
薩軍はまたしても兵力を分けざるを得なくなってしまいました。
3月20日。
降りしきる雨の中を官軍は田原坂の薩軍に対する攻撃配置につきました。
この日の官軍は攻撃兵力に十九個中隊、予備に二十三個中隊を用意するという過去最大の兵力を用意しました。
午前6時、官軍は薩軍陣地帯に向かって砲撃を開始。
砲撃後、雨と砲撃で対応が遅れた薩軍に対して、官軍歩兵が突撃を開始しました。
今回官軍は今までと違い、七本と境木という場所の薩軍陣地にのみ攻撃を集中。
一点突破を目指しました。
二ヶ所だけを集中攻撃された薩軍は、官軍の猛攻にじょじょに押され始めます。
吉次峠の薩軍も、官軍の牽制攻撃に釘付けにされ、田原坂の応援ができません。
午前10時ごろ、ついに薩軍の敗走が始まります。
鉄壁の田原坂防衛線が突破された瞬間でした。
(20)へ
- 2009/08/12(水) 21:45:01|
- 西南戦争
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雨で丸二日順延されていた全国高校野球選手権大会が再開されましたね。
北北海道代表の旭川大高が第一試合で出場いたしましたが、惜しくも静岡代表の常葉橘に敗れました。
二点で抑えたのですが、完封されては勝てませんですね。
静岡県は今朝震度6弱という大きな地震があったばかりですので、常葉橘の勝利は地元にとっては大きな力となったのではないでしょうか。
また、プロ野球では阪神タイガースの今岡誠選手が来期の構想から外れたとの報道がなされましたね。
今年は期待されたのですが、思うような成績をあげることができず二軍落ち。
悔しい思いをしたと思います。
まだ腐る年齢でもないと思いますので、トレードなどで他球団へ移籍して活躍の場を求めるのもいいかもしれません。
同一リーグへの移籍は正直してほしくないのですが、中日の落合監督あたりなら上手に使ってくれそうな気もします。
できれば阪神でもう一花咲かせてほしいものなのですけどね。
今日は上でも述べましたように、静岡県を中心に大きな地震がありました。
また、台風九号では雨によってあちこちで被害が出ておられます。
心よりお見舞い申し上げます。
- 2009/08/11(火) 21:09:46|
- スポーツ
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先日から妙にあるアニメに嵌まってしまいました。
「化物語」です。
内容については私が言うこともないでしょうからここでは書きませんが、キャラに嵌まりました。
と言うか、正確にはキャラと声優さんの声にですね。
実は以前から声優さんの加藤英美里さんの声が好きでして、最初に嵌まったのは「出ましたっ! パワーパフガールズZ」のメインヒロインの一人ハイパーブロッサムの声を聞いたときでした。
なので、パワパフZはずっと見続けていたわけです。(笑)
まあ、パワパフZはセデューサという悪堕ちキャラもいるので、その意味でも面白かったんですけどね。
その後、「らき☆すた」では柊かがみの声を担当され、やっぱりこの人の声はいいなぁと再確認したわけですが、この「化物語」においては、八九寺真宵(はちくじまよい)と言う小学生の女の子(実は・・・)の役を担当されており、主人公の男子高校生阿良々木暦(あららぎこよみ)君との掛け合いが実に楽しく表現されておりました。
この八九寺真宵と言うキャラの可愛らしさと加藤英美里さんの声で、すっかり嵌まってしまったというわけなのです。
いやー、可愛いわぁ。(笑)
で、それと同時に第一話から登場した戦場ヶ原ひたぎ(せんじょうがはらひたぎ)という阿良々木君のクラスメート(第一話&二話のメインヒロイン)もいいですねぇ。
毒舌で阿良々木君をこてんぱんにしてくれますし、どこから取り出すのかわからないほどの文房具で武装して攻撃してきますけど、阿良々木君が気になってついに告白してしまうツンデレちゃん。
「ケロロ軍曹」の日向夏美役の斎藤千和さんが声を当てているのですが、全然違いますね。
声優さんってホントすごいなぁって思います。
と言うわけで、ひたぎちゃん&真宵ちゃんに嵌まってしまった舞方なのでした。(笑)
それではまた。
- 2009/08/10(月) 21:16:47|
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1940年5月に始まったドイツ軍による西方電撃戦は、フランスという当時の陸軍大国が降伏するという予想外の大成功を収めました。
このフランスの降伏はまた、フランスが装備していたさまざまな車両や戦車、武器などをドイツが接収するという収穫を生み、ドイツ軍はチェコ、ポーランドに続いて自国装備に他国の軍装備を加えることができました。
中でもやはり装甲車両は、ドイツ軍にとって利用価値の高いものでありましたが、残念なことにドイツ軍の主力としても使えたチェコ製戦車と違って、フランスの戦車はその設計思想の違いなどからドイツ軍にとっては使いづらいもので、主力装備にできるようなものではありませんでした。
特に一人しか入れない砲塔は不都合な面が多く、せっかく接収した戦車も二線級の装備として後方での警備業務などにしか使えません。
一方、武装の貧弱さからもはや主力戦車としては使いようのなくなった一号戦車を、その砲塔を取り外して対戦車砲を装備した自走砲に改造したものは、一号対戦車自走砲(正確には4.7センチ砲搭載一号戦車B型)としてそれなりの活躍をすることができ、旧式戦車の車体の再利用方法としての自走砲化というものが有効であると認識されつつありました。
一号対戦車自走砲はその防御力の貧弱さなどもあり、早々に生産は終了してしまいます。
そこで、その後継車両としてフランス戦車の車体を使った自走砲を作ろうという考えが、ごく自然に発生することになりました。
使いづらい砲塔を取り外し、充分に使える車体を対戦車自走砲に使うのです。
選ばれたのは、フランスが歩兵の支援戦車として配備していたルノー社のR35戦車でした。
ルノー社のR35は、旧式化したルノーFTを更新する目的で作られた二人乗りの小型戦車で、極端なことを言えば、ルノーFTを装甲と機動力を向上させ近代化したものでした。
このルノーR35は鋳造の車体を持ち、その装甲厚は最大で45ミリと当時としてはなかなかのものでしたが、短砲身の37ミリ砲は貫徹力が低く、また一人用砲塔のためにドイツ軍にとっては使い勝手が悪かったので、砲塔を取り外して自走砲に改造することになったのです。
自走砲への改造はアルケット社が担当し、一号対戦車自走砲と同じくチェコ製の4.7センチ対戦車砲を搭載することになりました。
このチェコ製の4.7センチ対戦車砲は、三号戦車H型や初期のJ型に搭載された5センチ42口径長戦車砲とほぼ同等の貫徹力を持つ優秀な対戦車砲で、当時のドイツ軍の主力対戦車砲であった3.7センチPAK36よりもはるかに有力でした。
新型の5センチ対戦車砲PAK38はまだ開発されたばかりで、自走砲の主砲としては利用できなかったのです。
こうしてチェコ製の4.7センチ砲をオープントップの戦闘室に収めた形の対戦車自走砲が完成し、4.7センチR35(f)対戦車自走砲として採用されました。
4.7センチR35(f)対戦車自走砲は、1941年に約二百両が改造され、主にフランス駐留の部隊に配備されます。
1944年になっても約百十両が使用されており、ノルマンディー上陸作戦後すでに非力となったにもかかわらず米英連合軍を迎え撃ちました。
こちらも使えるものは何でも使わざるを得なかったということなんでしょうね。
それではまた。
- 2009/08/09(日) 21:37:55|
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暑いですねー。
ここ数日札幌も夏らしい日が続いております。
先月まではずっと雨続きで、農作物にも結構被害出ていたようですので、この暑さで少しでも生育の遅れが取り戻せるといいですね。
まあ、暑いと言っても30度まで届くわけではないので、本州の方々に比べると過ごしやすいのでしょうけど、暑さに弱い汗かきの私はつらいです。
おかげで創作がはかどらないことはかどらないこと・・・(笑)
暑いと言えば、今日から第91回全国高等学校野球選手権大会が甲子園球場で始まりましたね。
録画してあった開会式の様子見ましたけど、やはり入場行進はいいものですよね。
北北海道の旭川大高は明日二日目、南北海道の札幌第一は五日目の十二日に登場です。
まずは一勝目指してほしいですね。
北海道のメリットは二校出ることなので、最低でも二回楽しめるのはいいところかな。
両校ともがんばれ。
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2009/08/08(土) 21:19:37|
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3月5日、6日、7日、8日と官軍は田原坂及び吉次峠への攻撃を行ないました。
しかし、守りやすい田原坂の地形は、官軍の攻撃をあざ笑うかのように跳ね返し続けました。
特に薩軍の抜刀攻撃は強力で、官軍はいつも薩軍の陣地に迫っては切り伏せられてしまうことが常でした。
また、両軍の射撃戦も相当に激しく、お互いに撃ちあった銃弾が空中で衝突するという現象まで発生しました。
これを「行き合い弾」といい、田原坂周辺でいくつものちに発見されることになります。
当時官軍の弾薬製造力は、一日十二万発だったといわれますが、田原坂での連日の戦いでは官軍だけで平均三十二万発の弾薬が消費されたのです。
中には六十万発を超えた日もあるといわれ、日露戦争中の旅順要塞攻略戦以上に消費したのでした。
そのため政府は弾薬の緊急輸入など対応を迫られたといいます。
3月9日、ここで官軍はようやく横平山に目をつけました。
連日の官軍の猛攻は、いつも横平山方面からの薩軍の側撃で痛手をこうむっていたのです。
横平山は吉次峠に連なる山地の一角で、ここからは田原坂攻撃を行なう官軍の姿が丸見えでした。
このために薩軍はすぐに官軍の動きに呼応でき、官軍に対していいタイミングでの反撃が行えたのです。
官軍もようやくこのことに気がついたのでした。
官軍は横平山の手前から迂回するように回りこんで攻撃を開始。
夕方には横平山の一角に取り付きます。
しかし、この山の重要性を知っていた薩軍もまた反撃を開始し、この横平山でも両軍は激戦を繰り広げることになりました。
3月11日、官軍はついに田原坂の正面突破は困難と判断。
以後西側斜面からの突破と横平山の奪取に切り替えます。
とはいえ、切り替えてすぐに結果が出るものでもなく、11日、12日、13日とまたしても激戦が繰り広げられるだけでした。
官軍にとっての脅威は薩軍の抜刀攻撃でした。
近接戦闘になってしまえば火力の優位は発揮できません。
日本刀をきらめかせて突っ込んでくる薩軍に、官軍兵士は対抗することができませんでした。
そこで官軍は、兵士の中から士族出身の者をつのって抜刀隊を編成します。
最初に編成されたこの抜刀隊は五十名。
彼らはすぐに横平山への攻撃に投入されました。
抜刀隊の威力は大きく、横平山は一時官軍が占拠することに成功します。
しかし、薩軍の反撃に持ちこたえることができず、官軍は後退。
抜刀隊も十三名が戦死し三十六名が負傷という状況で壊滅してしまいました。
そこで官軍の本営では、士族出身者が多い警視庁警視隊から抜刀隊を選抜します。
さらに東京からも警視庁抜刀隊約九百名が戦地に到着、警察官で構成された抜刀隊が約千名編成されました。
よくこの警視庁抜刀隊には東北諸藩の藩士が多く、彼らは切り込みの際に「戊辰の仇」と叫んだとされていますが、実際はそれほど東北出身者が多かったわけではなく、むしろこのことが宣伝によって広められたために、その後の巡査による新撰旅団の編成の際に東北出身者が多く集まったといわれます。
3月14日、警視庁抜刀隊の支援の下、官軍は再度横平山への攻撃を行ないます。
この時も警視庁抜刀隊は薩軍の抜刀攻撃をよく受け止め、官軍の横平山占拠に貢献しました。
しかし、またしても薩軍の反撃に横平山を放棄せざるを得ず、官軍は後退して行きました。
この3月14日の戦いで、警視庁抜刀隊は薩軍と対等に戦えることが証明され、のちにこの栄誉をたたえて「抜刀隊の歌」が作られます。
この「抜刀隊の歌」は、後にこれを元に「陸軍分列行進曲」が作られ、現在でも陸上自衛隊や警察などで演奏されております。
警視庁抜刀隊は、翌日15日の攻撃にも参加。
この日の官軍の攻撃により、ついに横平山は官軍が支配します。
薩軍にはもはや横平山を取り戻す力はありませんでした。
膠着状態だった田原坂での戦いに少し明かりが差し込んだ瞬間でした。
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- 2009/08/07(金) 21:16:46|
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大正13年、日本陸軍は自動車牽引に適した新型10センチ加農砲の開発に着手することになりました。
これはそれ以前に開発された十四年式10センチ加農砲が、馬に引かせる設計だったことで多少の性能不足をしのんだためであり、自動車牽引とすることで威力増大を図ったのです。
加農砲とは、榴弾砲や迫撃砲のように山なりに砲弾を飛ばすのではなく、基本は砲弾を一直線に飛ばす砲の事で高初速長射程で長い砲身を持つのが一般的です。
もちろん遠くを狙うときには上向きに弾を撃ち出すので、山なりの弾道になることは榴弾砲などと同じですが、より遠くまで飛ばせることが多いです。
もともとはフランス語で大砲を表す「canon」から来ており、カノンだけで大砲なのですが、日本語ではカノン砲と訳され同じ言葉がつながる形となり、漢字を無理やりあてはめて加農砲と表記されるようになりました。
新型加農砲は昭和5年から試作が始まり、昭和7年8月に試作砲が完成します。
試作砲は機能試験や運動試験などを繰り返し、昭和10年の10月に正式化され、九二式10センチ加農砲と命名されました。
九二式10センチ加農砲は、正確には口径105ミリで最大射程は18000メートルにもなりました。
命中精度もよく、昭和11年に行なわれた砲兵学校での長射程射撃では、その命中精度に皆が驚いたといいます。
最新の長射程の大砲として日本陸軍の期待を受けた九二式10センチ加農砲は、昭和14年のノモンハン事件で実戦に参加します。
この時は、野戦重砲兵第七連隊の16門がソ連軍に対して火を吹きましたが、なんと、最大射程での砲撃の最中に砲をささえる脚部が折れてしまうという事故が続出してしまいます。
脚部が折れては砲撃はできません。
大砲にあるまじき欠陥であり、試験時に見落としていたというのが信じられないぐらいの大きなミスなのですが、これは日本軍の貧乏であるがゆえに起こったものともいえました。
日本国内ではこの砲の最大射程までをカバーするような射撃演習場が少なく、また最大射程での砲撃は砲に大変な負担を与えて砲の寿命を縮めることから、平時においては最大射程ではなるべくつかわないということが指示されていた上、連続射撃も砲弾節約のために行われなかったからです。
そのため、実戦で最大射程での連続射撃という普段行なわないことを二重に行なった結果、脆弱だった脚部が損傷してしまったのでした。
この欠陥はすぐに改善されることになり、以後の生産された砲では問題はなくなったといいますが、それでも普段は最大射程での使用はしないとされていたようです。
改良を受けた九二式10センチ加農砲は、昭和17年のフィリピン戦において、バターン半島やコレヒドール島に対する砲撃に使用され、野戦重砲兵第八連隊の16門が七千発以上の砲弾を撃ちこんだといわれます。
日本軍を代表する長射程の大砲ですが、やはり使ってみないとわからないということもあったんですね。
それではまた。
- 2009/08/06(木) 21:01:24|
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舞方雅人さんとココロがセッキンチュゥ♪セッキンチュゥ♪
*このエントリは、
ブログペットのココロが書いてます♪
- 2009/08/06(木) 10:35:29|
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官軍は参軍の山県有朋や川村純義、鹿児島征討総督の有栖川宮熾仁(たるひと)親王も博多に到着し、三浦梧楼少将の第三旅団も博多に上陸するなど着々と兵力の増強を図っておりました。
一方官軍の増強に呼応するように、薩軍もまた兵力の集中と防御陣地の構築を行ないます。
この防御陣地は官軍の主攻方向に対するために、北から味取山、金比羅山、田原、七本、轟、横平山、耳取、原倉、吉次、三ノ岳、大多尾、野出と長大な範囲に広がり、有明海にまでいたろうという長さのものでありました。
兵力は薩軍と党薩諸隊合わせて約七千名であり、その主力は田原に置かれておりました。
田原は高瀬から植木にいたる途中にある丘陵で、その高さは100メートルほどに過ぎないといいますが、この丘陵の中をくねくねと曲がりくねった切り通しの坂が通っており、これが田原坂と呼ばれます。
この田原坂は加藤清正が熊本城築城に合わせて北側の守りとして切り開かれたともいわれ、切り通しの峠道を左右の土手状の高所から攻撃できるため、守りやすく攻めづらい絶好の防御拠点となっておりました。
攻撃側には難所と思われる田原坂のことは、おそらく官軍とてわかっていたことでしょう。
しかし、官軍はここを通る必要がありました。
当時はまだ各地の道路が整備されていたわけではありませんでした。
街道といえども多くは道幅が狭く、軍勢の通行には適しておりませんでした。
特に攻撃力の中核となる大砲は、その移動に道幅の広い道路が必要でした。
博多方面から熊本にいたる道のりで、大砲を問題なく通すことのできる道幅がある道路は、この田原坂を通るものしかなかったといいます。
官軍はここを通るしかなかったのです。
明治10年(1877年)3月4日。
官軍はこの田原方面において、主力による攻撃を開始します。
田原坂に対する攻撃を主攻、吉次峠に対する攻撃を助攻とした一大攻撃でした。
官軍の参加兵力はおよそ一万五千とも言われます。
まさに官軍の全力と言ってもいい戦力でした。
しかし、攻撃三倍の原則から考えると、防御拠点に篭る薩軍七千に対しては不足といわざるを得ません。
事実、官軍は以後この地において非常なる苦戦を強いられることになるのです。
田原坂方面では、近衛第一連隊第一大隊を中核とする主隊が、豊岡、平原に位置する薩軍右翼を攻撃。
しかし、側面からの薩軍の攻撃を受け、大きな損害を出して敗退します。
田原坂を攻め上った第十四連隊の一部も一の坂で釘付けとなり、損害ばかりが増えて行きました。
攻撃が進捗しないことに危機感を覚えた第一旅団長の野津少将は、自ら部下の督戦に出向き、前線付近で兵に酒を振舞うなどしましたが、兵のがんばりにもかかわらず、薩軍の防備を抜くことはできませんでした。
午後遅く、戦場には激しい雨が降り始めます。
先込め銃が主である薩軍は、この雨で火力が減衰し、防御力が弱まりました。
野津少将はここがチャンスとばかりに各部隊に突撃を命じます。
突撃ラッパの鳴り響く中、官軍はいっせいに薩軍目がけて飛び出しましたが、薩軍もこれに応戦。
火力の減衰を薩軍自慢の白兵斬り込みで補い、官軍を斬り捨てて行きました。
結局この突撃も撃退され、官軍のこの日の攻撃は失敗に終わります。
かろうじて田原丘陵の向かいに位置する二股台地を占領し、成果が何もないという事態だけはまぬがれました。
一方官軍の助攻である吉次峠の戦いでは、薩軍にも手痛い損害が出ることになりました。
官軍は第一旅団長の野津少将の弟である野津道貫大佐が、二個大隊を率いて朝の濃霧を利用して吉次峠に接近して行きました。
そして吉次峠のとなりにある半高山に攻め上り、これをほぼ占領というところまで行きます。
この官軍の行動を察知した薩軍は、篠原国幹と村田新八が部隊を率いて反撃に出ました。
薩軍は篠原が左翼、村田が右翼からと言う感じでちょうど官軍を挟撃する形になり、官軍はここでも損害が続出します。
官軍は左に対すれば右から、右に対すれば左から攻撃を受けると言ったありさまで、苦戦を強いられますが、このとき、官軍の江田国通少佐が薩軍内に一人の人物を認めました。
その人物は緋色の外套を羽織り、銀で飾られた刀を持っているという非常に目立つ格好をしていたといい、薩摩出身であった江田少佐には、その人物が誰なのかよく知っておりました。
その人物こそ、薩軍一番大隊長篠原国幹だったのです。
江田少佐は部下の中から射撃の名手を呼び寄せると、篠原の狙撃を命じます。
戦場に数発の銃声が響き、篠原は倒れました。
部下が目立つ格好をした篠原を必死に止め、何とか前線から下がってもらうよう進言したといいますが、篠原は死を覚悟していたのか聞き入れなかったといいます。
享年41歳でした。
篠原の戦死は薩軍に衝撃を与えました。
しかし、篠原の敵討ちとばかりに官軍に対する攻撃は強まり、指揮を取っていた野津大佐は負傷、江田少佐は戦死します。
午後三時ごろ、官軍はついに後退。
吉次峠でも官軍の攻撃は失敗に終わりました。
田原坂、吉次峠での官軍の損害は大きく、消費弾薬も当初予想の数倍に及ぶものでした。
たった一日の戦いでしたが、官軍にとっては悪夢の日でした。
一方の薩軍も、篠原国幹という指揮官を失い、戦いの前途に暗雲を感じました。
そして、田原坂を巡る戦いは、まだ始まったばかりでした。
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- 2009/08/05(水) 21:14:41|
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