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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

予想外

「ホーリードール」も五日連続更新となりました。
今日は32回目です。
それではどうぞ。


32、
青白い光に赤い稲妻が走る。
漆黒の刃が青い細身の剣と触れ合い、干渉しあった影響だ。
鎌と剣を引き、跳び退ってにらみ合うレディベータとホーリードールサキ。

「邪魔なのよ・・・」
ブラディサイズを振り上げる。
巨大な鎌なのに、その重さを少しも感じさせてない。
「あんたは邪魔なのよ!!」
そのままホーリードールサキに向かって飛び掛る。
黒と青の軌跡が交差し、火花を散らす。
決着は容易にはつきそうにない。

「ガアッ!!」
うなりを上げて飛び込むブラックパンサービースト。
だが、またしてもほんのちょっとの差でかわされる。
これでもう何度目の跳躍だろう。
今度こそと思うたびに、鋭い牙が宙を噛む。
おかしい・・・
おかしいおかしいおかしい・・・
何かがおかしい。
どうしても噛み付けない。
噛み付くことさえできれば・・・
噛み付くことさえできれば、あんな小娘などは一撃なのに・・・

廊下を逃げ回った子供たち。
恐怖の表情でこっちを見ていた。
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら、必死に逃げ回っていく。
だが、無駄なこと。
追い詰めて引き裂いて噛み殺す。
まさに最高の瞬間だった。
これこそが求めていたもの。
なんてすばらしい世界。

なのに・・・
なのになぜ?
なぜこの赤い小娘には噛み付けぬ?
いったいなぜ?

焦り。
苛立ち。
いまいましさ。
憎しみ。
手に取るように伝わってくる。
ビーストの内なる感情が漏れ出しているのだ。
無様ですわ・・・
ホーリード-ルアスミはそう思う。
むき出しの感情など無意味なもの。
そのようなものを撒き散らしたとしても、結果が変わるわけではない。
むしろ、相手に読まれることで行動の選択肢を狭めてしまう。
現に今のビーストには行動の余裕がすでにない。
隙をうかがうとか、背後に回るとか、そういうことすらできはしない。
とにかくこちらに噛み付くことのみ。
それしか考えられなくなっているのだ。
「まったく・・・無様ですわ」
ホーリード-ルアスミは可愛らしいピンク色の唇を動かし、そうつぶやいた。

白い光が飛び散る。
どろりとした感触が腕に伝わってくる。
まるで固まりかけのゼリーでも切ったかのよう・・・
しかも、切った先からより厚く固まってしまう。
これほどまでの魔力をヘルアクスに注ぎ込んでも切り裂けないとは。
光の結界を甘く見ていたのかもしれない。
光の手駒をおびき寄せて捕らえるつもりが・・・
罠にかかったのはもしかしたらこちらなのかも・・・
その思いにレディアルファの背筋が凍りつく。
一刻も早くレディベータに合流しなくては・・・
レディアルファの焦りをよそに、時間だけが過ぎていく。

「うふふふふ・・・」
白いドレスのすそから覗くすらりとした白い脚。
その脚を挑発的に組み、肘掛にひじをついて頬杖をする女。
その顔には酷薄そうな笑みが浮かび、自らの行いに満足する。
「悪いわね。その結界はお前ごときでは破れないわ。私自らが張ったものですもの。闇の女ごときに破れるものですか」
彼女の視線の先には何もない。
だが、彼女はしっかりと事の成り行きを見つめていた。
これは違反行為。
行なってはいけないこと。
だがかまうものではない。
闇を滅するのだ。
可愛いドールたちに少々手助けしたとして、いったい何が悪いという。
「ばれなきゃいいのよ・・・」
ゼーラの赤く塗られた唇がそうつぶやいた。

何度目かの火花を散らして跳び退る。
この闇の女は強い。
大鎌を振り回すだけじゃなく、的確なところで魔法を撃ち込んでくる。
そのたびに体勢を合わせてはじき返し、逆にいくつかの魔力をこちらも撃ち込んだ。
だが、かわされる。
強い。
ビーストなど比べ物にならない。
だが、倒す。
闇は駆逐する。
光は闇を打ち払う。
レイピアを構えなおし、ホーリードールサキは一回呼吸を整えた。

ようやくですわね・・・
スッと杖の先を床に向ける。
力を抜いて緊張をほぐす。
次の動きに備えるのだ。
向こうの動きに対応するため、ぎりぎりまで動きを止める。
いらついたビーストがこの時を逃すことはありえない。
そのために何度となくかわして挑発したのだ。
「来てもいいですわ」
ホーリード-ルアスミは小さく微笑んだ。

標的の動きが止まる。
小刻みに動き回っていた標的がようやく止まった。
闇の女の指示も来た。
逃さない。
このチャンスは逃さない。
お前の命もここまでよ!
全身をバネのようにはじけさせ、ブラックパンサービーストは跳びかかった。

正面から跳び込んでくるビースト。
予想通りの軌跡を描く。
これで終わり。
ホーリード-ルアスミは杖を持ち上げて空中に円を書く。
円が魔法陣になれば、ビーストは浄化される。
「ライトニング!!」
空中に浮かんだ魔法陣から、青白い稲妻が放たれた。

「もらった!!」
再度ブラディサイズを振り下ろすレディベータ。
もとより当たることは期待しない。
これは牽制。
次に魔法をぶつけ合うのもわかっているはず。
でもね。
あっちの戦い自体をダミーにしちゃったことには気付いてないでしょ。
ビーストは単純。
だからこそ御しやすい。
激しい戦いの中でも、主人の命令を無視するようにはできていないのよ。

「えっ?」
予測がずれた。
ビーストを直撃するはずの稲妻がフェンスを直撃する。
しなやかな躰を思い切り伸ばしたビーストが頭の上を飛び越える。
その行き先は・・・
「ドールサキ!」
ホーリード-ルアスミは警告の叫びを発していた。

大鎌の刃をレイピアで受け流す。
そしてそのまま左手に魔力を込め、相手の出方を待ち受ける。
何度も繰り返される動き。
だが、今回は違っていた。
背後から急速に迫る闇の気配。
思わず反射的に左手の魔力を撃ち放つ。
青い光が漆黒の獣を直撃し、その勢いを押し殺す。
だが、漆黒の獣は止まらない。
片目をつぶされ、鼻を砕かれても止まらない。
ホーリードールサキはレイピアを構えなおす。
しかし、それこそが闇の狙いだった。

ズシンという衝撃。
腹部に熱いものが走る。
「ぐ・・・」
何?
今のは何?
損傷損傷損傷。
破損破損破損。
ダメージダメージダメージ。
頭の中で警告が走り回る。
あ・・・れ?
ここは・・・どこ?
私は・・・何を?
どさっと言う音と衝撃が響いてくる。
あれ?
私・・・倒れちゃった?
なんでだろう・・・
何か・・・変だよ・・・

「ライトニング!!」
ホーリード-ルアスミの杖が空中に魔法陣を描き出し、稲妻が走り出す。
「グギャァッ!」
頭にダメージを受けたブラックパンサービーストに、その稲妻を避ける力はもうなかった。
断末魔の叫び声を上げ、電撃に焼かれるブラックパンサービースト。
そのまま倒れて動かなくなる。

「ブラックパンサービースト!」
ホーリードールサキの一瞬の隙をつき、闇の牙を叩き込んだレディベータが思わずビーストに駆け寄る。
相手の隙を作ってくれた大事な手駒だ。
最後までおとりの仕事は果たしてくれたのだ。
レディベータは半ば焼け焦げた女性教師の遺体にしゃがみこみ、見開いたその目をそっと閉じさせた。
  1. 2009/07/12(日) 22:19:55|
  2. ホーリードール
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舞方雅人

Author:舞方雅人
(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
どうぞ楽しんでいって下さいませ。

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