イアッキーノ提督が後退を決心したことで、海戦はここで終了かと思われました。
ところがこのあと、海戦は意外な展開を見せ始めます。
午後から夕方にかけ、英軍機の散発的な攻撃がイタリア艦隊を襲いました。
クレタ島からの雷撃機の攻撃は無事にしのいだものの、フォーミダブルからの再びの攻撃により、15時20分、ついにヴィットリオ・ヴェネトが魚雷一本を左舷艦尾に受けてしまいます。
浸水により速力の低下したヴィットリオ・ヴェネトでしたが、幸い応急修理により20ノットに復活。
西に向け後退していきます。
しかし、イタリア艦隊の不運はここから始まりました。
19時58分、またしても英軍機の攻撃により、ザラ級重巡洋艦ポーラに魚雷が命中してしまいます。
ポーラはこの魚雷により行動不能となり、艦隊から遅れることになりました。
イアッキーノ提督は日没で英軍機の空襲も無くなったと判断したのか、巡洋艦隊にポーラの救援に向かうように命じました。
提督の手元には英軍艦隊の情報がなかったらしく、砲撃戦になるとはまったく予想していなかったといわれます。
ポーラの救援に向かったのは、同じザラ級重巡洋艦のザラとフューメ、それに駆逐艦が四隻でした。
20時15分、戦場から離れていたウィッペル提督の英軍巡洋艦隊がレーダーでポーラを捕捉します。
続いて22時過ぎには英軍地中海艦隊の戦艦ヴァリアントも、レーダーでポーラを捕捉しました。
ちょうどその頃、イタリア艦隊のザラとフューメがポーラの救援に到着。
動けないポーラを曳航しようとしていたところでした。
22時27分、まず戦艦ウォースパイトが主砲を発射。
続いてヴァリアントとバーラムの二隻の戦艦も主砲を発射します。
三隻もの戦艦の砲撃を受けたイタリア艦隊はひとたまりもありませんでした。
相手は戦艦であり、こちらは重巡とはいえ巡洋艦です。
まともな勝負にはなりません。
フューメとザラの二隻の重巡洋艦はほとんどなすすべないままに短時間で大破炎上してしまいました。
フューメはそののち沈没。
ザラも英軍駆逐艦の魚雷で止めを刺されます。
ポーラも乗員が退艦した後に魚雷で沈められました。
他にイタリア駆逐艦二隻もこの戦いで沈没しております。
優秀なザラ級の重巡洋艦は、こうして同型四隻中三隻が一瞬にして失われました。
イアッキーノ提督はただ残りの艦隊を率いてトレントに引き揚げるしかありませんでした。
この「マタパン岬沖海戦」以後、イタリア艦隊は積極的な行動をすることはほとんどなくなりました。
英軍は地中海の制海権をほぼ手中にしたと言ってよく、艦隊がイタリア艦隊に悩まされることはなくなったのです。
このことは独伊の北アフリカへの補給路が英軍に脅かされることにつながり、北アフリカの戦いの帰趨を左右することになりました。
味方艦の救援が不運にも敵と遭遇してしまうという状況ではありましたが、英国艦隊に対する情報の不備が結局この事態を招いてしまったように思えます。
やはり情報は重要ですね。
それではまた。
- 2009/07/31(金) 21:11:40|
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以前、当ブログでロシア帝国の戦艦ボロディノ級を取り上げたことがありました。
ボロディノ級は、日露戦争当時ロシアの最新最強の戦艦でしたが、不幸にして日露戦争の日本海海戦において、同型五隻のうち出撃した四隻いずれもが撃沈されたり捕獲されるという不運に見舞われたクラスでした。
これと同じく、一回の海戦で同型艦四隻中三隻を失った重巡洋艦がありました。
イタリア海軍の重巡洋艦「ザラ」級です。
ザラ級重巡洋艦は、その一クラス前のトレント級重巡の改良版として建造が行われました。
トレント級重巡は、イタリア初の20センチ砲を主砲に持つ重巡として建造されましたが、当時のワシントン海軍軍縮条約の制限内で建造されたため、防御力が不足しておりました。
そこでイタリア海軍は主砲の砲力はそのままにして、速力の低下をしのんだり魚雷発射管を搭載しないなどの重量軽減策を行い、その重量を装甲に回すというやり方で防御力を高めた重巡を建造しようといたしました。
これがザラ級重巡洋艦であり、イタリア重巡としては攻撃力と防御力のバランスが取れ、完成当時は世界でも有数の防御力の重巡洋艦となりました。
基準排水量は約一万二千トン。
20センチ主砲を連装四基八門搭載し、速度は約32から33ノットと優秀な巡洋艦でありました。
1940年にドイツ軍がフランスに攻め込んだ際、イタリアもその漁夫の利を得るためにフランスに宣戦布告。
イタリアも第二次世界大戦に参戦します。
フランスでの漁夫の利が思うように得られなかったムソリーニは、こんどはギリシャに攻め込みますが、逆にギリシャ軍に痛撃を受け、アルバニアに追い戻されてしまいます。
イタリアの支援を行なわざるを得なくなったドイツはギリシャ侵攻を決断しますが、親英国であるギリシャには英軍の援軍が続々と輸送されてきつつありました。
このままみすみす英軍の増加を見過ごしていたのでは、ドイツのギリシャ侵攻も苦戦しかねなくなります。
そこでドイツはイタリアに対し、英国の輸送船団を攻撃するよう申し入れました。
自分から始めたギリシャ侵攻でしたが、当初イタリア海軍はこの輸送船団攻撃には消極的でした。
しかし、ドイツからの圧力と艦隊司令官イアッキーノ提督の攻撃を求める進言に動かされ、イタリア海軍は出撃します。
時に1941年3月26日でした。
イタリア艦隊はナポリからはイアッキーノ提督自らが座乗する戦艦ヴィットリオ・ヴェネトを旗艦とし、重巡三隻と駆逐艦が、タラントからは重巡三隻と軽巡二隻と駆逐艦がそれぞれ出撃。
英国の輸送船団を目指します。
一方英国海軍はいろいろな情報からイタリア海軍の出撃を察知しており、すでに輸送船団を退避するべく動いておりました。
さらにイタリア艦隊迎撃のため、カニンガム提督指揮下の戦艦三隻と空母一隻の地中海艦隊の主力と、ウィッペル提督の巡洋艦隊がそれぞれイタリア艦隊に向かっておりました。
3月28日朝、イタリア艦隊の索敵機が先に英国の巡洋艦隊を発見します。
その後英軍の巡洋艦隊もイタリア艦隊を確認し、午前8時12分に最初の一弾がイタリア艦隊から発射されました。
英軍巡洋艦隊は東に向けて逃走を開始し、イタリア艦隊はこれを追いましたが、イアッキーノ提督はこの英軍の動きを罠と読み追撃を中止させます。
引き返し始めたイタリア艦隊を今度は英軍が追跡。
すると、イタリア戦艦ヴィットリオ・ヴェネトに遭遇してしまいました。
午前10時55分にヴィットリオ・ヴェネトは英軍に対し砲撃を開始。
軽巡しかいなかった英軍艦隊は、すぐさま今度は南へ逃走します。
ちょうどその頃、イタリア艦隊の上空に英空母フォーミダブルから発進した雷撃機が到着し、ヴィットリオ・ヴェネトに対して攻撃を行ないます。
これによって英軍艦隊は辛くも逃走に成功しましたが、航空機攻撃もまた命中弾無しという結果に終わりました。
空母の雷撃機が来たことで、イアッキーノ提督は近辺に英空母がいることを知り、撤退を決めます。
ちょうどお昼ごろのことでした。
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- 2009/07/30(木) 21:19:54|
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ブログ妖精の一割は刊行なんだそうですよ。
*このエントリは、
ブログペットのココロが書いてます♪
- 2009/07/30(木) 10:27:24|
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1930年代、各国の間では長距離侵攻を行い敵空域の奥深くまで侵攻して戦闘を行う長距離重戦闘機の開発が流行しておりました。
ドイツ空軍もその例に洩れず、双発で高速な長距離重戦闘機の開発に乗り出します。
この開発はヘルマン・ゲーリングの支持の元行なわれ、要求された仕様は双発で単葉の全金属製というものであり、さらに爆弾倉や大口径の機銃などの装備が盛り込まれておりました。
しかし、メッサーシュミット社(当時はまだBFW社)は、高性能であれば要求仕様が一部満たされなくても採用されるはずとの目論見から、爆弾倉無しのスマートな双発重戦闘機を設計します。
当初この設計案は当然要求仕様に沿っていなかったため試作許可がおりませんでした。
しかし、メッサーシュミット社の政治力などいくつかの要素が絡み、試作が許可されます。
試作された機体はBf110というナンバーが与えられ、試験に供されました。
Bf110は爆弾倉がないために機体がスマートで速度も速く、Bf109の初期型よりも高速の時速509キロという速度を出すことができました。
このため、ドイツ空軍ではメッサーシュミット社の思惑通り、要求仕様であった爆弾倉がないにもかかわらずに正式採用を決定します。
採用されたBf110は単発戦闘機と区別するために「駆逐機」という名称で呼ばれることになりました。
Bf110は20ミリ機関砲を機首下面に二門搭載し、機首上面には7.92ミリ機銃を四丁搭載するという戦闘機としては重武装のもので、高い攻撃力を持っておりました。
この攻撃力でポーランド戦や西方電撃戦では活躍し、戦闘機としての一定の評価を受けることになります。
しかし、英国上空での戦い、いわゆる「バトル・オブ・ブリテン」では、爆撃隊の護衛という任務が足かせとなり、速度の優位を生かした戦法が使えませんでした。
速度の優位さが使えないとなると、動きの機敏さでは単発戦闘機にどうしても敵いません。
Bf110は英国上空では散々な目にあってしまい、装備機の九割以上を撃墜されるという部隊も出てしまいます。
こうなると「敵上空奥深くで戦闘する」戦闘機としては不適格とされ、昼間戦闘機としてのBf110は終わりを告げました。
ですが、Bf110も別の用途に転用され、そこで新たな任務で花開くことになりました。
対地攻撃用の戦闘爆撃機や、夜間爆撃に来る爆撃機を迎撃する夜間戦闘機としての任務です。
もともとBf110の開発時の要求には爆弾倉の装備というのがありました。
メッサーシュミット社はそれを無視したわけですが、胴体下部に爆弾を吊り下げても、Bf110は充分な(戦闘爆撃機としての)性能を発揮することができたのです。
Bf110は、わりと性能の低いソ連機のおかげで制空権をまだ確保できた東部戦線では存分な活躍をすることができました。
ソ連軍地上部隊にとってはBf110は大きな脅威となったのです。
また損害の多さから夜間爆撃に移行した英国長距離爆撃隊にとっても、Bf110は疫病神となりました。
夜間戦闘機に新たな道を見出したBf110は、赤外線照準機やレーダーなども装備され、また武装も強化されるなどして夜のドイツの上空を飛んだのです。
英国爆撃隊は、夜もまた多くの損害を出すことになったのでした。
戦争後半になると、さすがのBf110も旧式化して戦闘爆撃機としても夜間戦闘機としても役者不足となりますが、戦争中盤までは同じメッサーシュミット社の単発戦闘機Bf109とともにドイツの空を駆け抜けました。
まさにドイツ空軍を代表する機体の一種といえるでしょうね。
それではまた。
- 2009/07/29(水) 21:28:27|
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今日はスポーツの話題をあれこれ。
主にプロ野球です。
今年のオールスターゲームも終わり、セパ一勝一敗で星を分け合いました。
初戦はパ・リーグ優位に進めていただけに、パの連勝に終わっていた可能性も高かったので、セとしてはよかったのかも。
気になるのは日本ハムダルビッシュ投手の肩の具合ですね。
打球が当たったのがなんともないといいのですが。
報道では骨などには異常なく、打撲ですんだとのことですので、まずは一安心。
で、今日からプロ野球は後半戦。
我が阪神は何とか巻き返しを・・・といいたいところですが、今年はそろそろ見切りをつけて育成に専念するのもいいかもしれません。
おそらくクライマックスシリーズの出場は無理そうですし、来年以降のことを考えるべきではないでしょうか。
あの暗黒期を繰り返さないためにも、育成をおろそかにはしないでほしいです。
一方の北海道日本ハムはとりあえず首位で折り返しました。
丸顔で愛嬌のあったヒメネス選手が解雇されちゃうという残念なことがありましたが、やはり日本で活躍するにはもろもろのことが足りなかったのかも。
もしどこかの球団に拾われたら、再度出直してほしいものです。
また、そろそろ出始めるのが来年の監督人事。
ロッテはバレンタイン監督が今年限りということで、後任人事がスポーツ新聞をにぎわしてますね。
阪神と北海道日本ハムはともに留任は間違いないようですので、腰をすえてチームの指揮に専念してほしいです。
そしていよいよ夏の甲子園の代表校がじょじょに決まり始めましたね。
北海道は南北二校の代表が決定。
北北海道は旭川大学高校。
六年ぶり七回目の甲子園です。
南北海道は札幌第一高校。
こちらは七年ぶり二回目。
このところかつての甲子園の常連校だった駒大苫小牧や駒大岩見沢が出てこなくなりましたが、良くも悪くも実力が伯仲してきたということかもしれません。
出場が決まった二校ともがんばってほしいものです。
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2009/07/28(火) 21:17:32|
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第二次高瀬会戦で官軍に痛撃を浴びせられてしまった薩軍でしたが、いったん後退し態勢を立て直すことに成功しておりました。
さらに、熊本から到着した兵力が中核となって、官軍に対し三方からの分進合撃による逆襲を企図していたのです。
すなわち、右翼からは桐野利秋率いる三小隊約六百。
中央には篠原国幹、別府晋介率いる六小隊約千二百。
左翼からは村田新八の五小隊約千と、合計約二千八百もの兵力で、官軍を撃破しようとしておりました。
一方の官軍は、高瀬に約四千の兵力が集結しつつありました。
中核は第二旅団で、そこに近衛第一連隊や第八連隊が加わり、数の上では薩軍を上回る体勢を整えつつあったのです。
官軍は第二旅団の本営を高瀬の北にある船島に置き、薩軍の逆襲に備えておりました。
第三次高瀬会戦は2月27日の午前6時頃に始まりました。
薩軍篠原隊が菊池川東岸に到着し、布陣している官軍と戦端を開いたのです。
官軍は東岸に渡っていた前衛が篠原隊に攻め込み、西岸からは砲撃で対抗しますが、篠原隊も銃砲撃でこれに応戦、双方の激しい撃ち合いとなりました。
官軍はこの篠原隊の攻撃に対応するため、兵力を差し向けます。
第二旅団本営にいた三好少将も前線である迫間に向かいそこで指揮を取りますが、薩軍からの銃撃を受け負傷してしまうほどの激しい銃砲撃でした。
午前10時ごろ、山鹿方面から桐野利秋隊が戦場に到着。
上流ですでに菊池川を渡河した桐野隊は、官軍左翼に攻めかかります。
ほぼ時を同じくして伊倉方面からは村田新八隊も到着し、菊池川の下流を渡って官軍右翼に攻撃を開始しました。
兵力的には優勢な官軍でしたが、この三方からの分進合撃は予想以上に痛撃となり、官軍右翼と左翼は戦線を支えることができませんでした。
特に薩軍桐野隊の攻撃はすさまじく、攻撃を受けた官軍左翼の乃木隊は簡単に蹴散らされ、桐野隊は元玉名というところまで進出を果たします。
この左翼と右翼の崩壊は、官軍にとっては致命的なものになりかねないほどのものでしたが、ここで官軍は粘りを見せました。
第二旅団の参謀長野津大佐は、薩軍桐野隊の側面に位置する稲荷山の重要性を即座に認識。
大迫大尉の中隊を派遣して稲荷山を確保させます。
間一髪のタイミングで稲荷山を占拠した官軍大迫中隊は、遅ればせながら稲荷山の占拠に向かった薩軍桐野隊の一部を稲荷山の上から射撃。
標高八十メートルほどの小山とはいえ、辺り一帯の制高点である稲荷山を薩軍はついに占拠することができませんでした。
この稲荷山の争奪は、羽柴秀吉と明智光秀との間で戦われた「天王山の戦い」になぞらえられ、西南戦争の天王山であるといわれます。
一方官軍右翼に攻撃を行なった薩軍左翼の村田隊は、篠原隊よりの応援も受けて順調に官軍右翼を押しておりました。
官軍右翼は第八連隊が布陣しておりましたが、薩軍の攻撃に抗しきれずについに後退。
周辺の集落に火を放ちながら葛原山へと後退して行きました。
稲荷山の確保はならなかったものの、桐野隊、村田隊の攻撃で左翼右翼が押し込まれていた官軍は苦しい立場に追い込まれておりました。
ところが午後2時ごろ、戦場に異変が生じます。
正面から官軍と戦っていた薩軍篠原隊が勝手に後退を始めたのです。
薩軍、いわば島津家の戦い方にはありがちな話とはされておりますが、早朝からの戦いで弾薬も乏しくまた疲労も重なってきたため、戦場から離脱したというのです。
しかもこれは桐野隊や村田隊に無断で行なわれたことでした。
篠原隊の後退で、官軍の中央部は圧力が弱まりました。
官軍は中央部から兵力を引き抜くことができるようになり、左翼右翼に兵力を移動させます。
官軍の兵力が急激に増加してきたため、薩軍村田隊はじょじょに押し返され始めました。
村田隊には篠原隊の一部が応援に来ておりましたが、その中には西郷隆盛の弟である西郷小兵衛もおりました。
この西郷小兵衛が胸を撃たれ戦死します。
のちに弟の戦死の報告を受けた西郷隆盛は、呆然として声も出なかったとのことでした。
西郷小兵衛を初め、薩軍は多くの損害を出し始めます。
午後4時ごろ、ついに薩軍村田隊も伊倉方面へと後退を始めました。
増援の到着により官軍に周囲を囲まれる形となった薩軍桐野隊もまた、多くの損害を出しつつ血路を切り開いて後退することになりました。
三方から官軍を包囲殲滅するはずだった薩軍の攻撃は、ここに費えたのです。
第三次高瀬会戦もまた、官軍がかろうじて勝利を収めることになったのでした。
稲荷山の争奪が「天王山の戦い」になぞらえられたごとく、この第三次高瀬会戦自体を西南戦争における「関ヶ原の戦い」と呼ぶ人もいるといいます。
薩軍はその主力と中心人物が一堂に会し、官軍に対して攻勢をかけた最初で最後の戦いだったからです。
しかし、連携のまずさや兵力の少なさなどから、薩軍は官軍を包囲殲滅する最大の好機を生かすことができませんでした。
こうして三回にわたった高瀬での戦いは終わりました。
官軍は高瀬に地歩を固めることはできましたが、なお薩軍は多くの兵力を保持しておりました。
戦いは、まだ始まったばかりでした。
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- 2009/07/27(月) 21:11:37|
- 西南戦争
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金曜土曜と連続でGoma様といつものVASLでのASL-SK対戦を楽しむことができました。
いや、まあ、楽しいのは楽しかったんですが・・・
シナリオはS25「Early Battles」
1941年6月のバルバロッサ作戦開始時のある村に対する独軍歩戦共同部隊の攻撃です。
攻撃側の独軍を私が、防御側のソ連軍をGoma様が担当となりました。
S24シナリオとは逆に、今度はドイツ軍が戦車が豊富。
二号戦車が二両、四号戦車D型(短砲身型)が二両、そしてこのバルバロッサ作戦時には第六装甲師団にしか配備されていないチェコ製35(t)戦車が二両と六両もの戦車があり、さらには歩兵も爆薬持ちのエリート分隊がいるなど、まさに戦力の充実していた装甲師団の一部っぽい。
不安は指揮官が十二個分隊に対して二人しかいないということですが、一人を回復専門にまわすなどして射撃を受けないようにするなど考えなくてはならないところでしょうか。
一方ソ連軍は戦車が二両と76ミリの歩兵砲が一門。
そのほかに歩兵の支援火器として50ミリ迫撃砲や対戦車銃が二門となかなかの火力です。
しかも戦車が曲者で、そこそこの火力を誇る45ミリ砲を搭載したBT-7戦車が一両に、巨大な152ミリ砲を搭載した当時としての化け物戦車KV-2が一両というものです。
BT-7は特別ルールにより移動するだけでチェックが必要なのですが、KV-2のほうにはそんな制限はまったくなく、装甲値は正面も側面も8あるので、独軍の三種類の戦車の主砲ではまず撃ち抜くことができません。
まさに「街道上の怪物」です。
この化け物をいかにして倒すか、あるいは無視するかが鍵となる。
そんな思いでシナリオを開始したものでした。
序盤、ソ連軍の歩兵がわりと前で守っているのに対し、独軍は戦車を隣接させ機関銃火力で蹴散らします。
この時期のソ連軍歩兵にはパンツァーファウストのようなものがないので、思い切り隣接させても平気です。
ソ連軍の前衛を混乱させ、独軍歩兵は森の中を進撃です。
ここまではまず順調でした。
独軍の勝利条件は、村の建物の確保と、自軍の戦車を二両以上無事な状態で保持することです。
つまり、五両の戦車を失えば独軍は負けてしまいます。
S24シナリオでは戦車を突出させすぎて無駄に失ってしまいました。
今回はそういうことがないようにと、できるだけ焦らずに戦車を進めるつもりでした。
ところが、なかなかうまくはいかないものです。
つまづきの始まりはソ連軍迫撃砲からの射撃でした。
50ミリ迫撃砲の火力はそれほど大きなものではありません。
なので、私にはそれほど脅威とは思われませんでした。
ところがこの迫撃砲、なかなかどうして侮れないのです。
なんとGoma様は迫撃砲の射撃で独軍戦車を撃ってきました。
おそらくこの時点で目標にできるものがそれしかなかったということもあったかもしれませんが、私には「おっ、戦車を撃ってきたか」ぐらいの感覚でした。
迫撃砲で戦車を撃つ場合は、「歩兵射撃表」が使われます。
通常の破壊確認ではないので、KIAの結果が出ない限りは破壊されません。
しかし、KもしくはKよりも1だけ大きいDR目だと、その戦車は衝撃や装甲不能に陥ります。
しかも、装甲が薄い戦車(全ての装甲値が4以下)は、ダイスの目が-1されるのです。
この時点の独軍戦車は装甲が薄く、三種類の独軍戦車はいずれも最大装甲値が3でした。
ダイスの目に-1されてしまいます。
なんと2ダイスで4以下で何らかの損害を受けるのです。
しかも迫撃砲は発射頻度(ROF)が高く、何度も当てられてしまいました。
たとえ4以下といえども何度も当てられたらそのうちに出ます。
結局撃たれた35(t)は走行不能になってしまいました。
走行不能はまだ主砲などを使えるとはいえ、勝利条件上無事な戦車ではなくなります。
独軍は一両失ったのでした。
その後もこの迫撃砲は歩兵に対して痛撃を浴びせ続け、独軍歩兵はいくつも混乱に追いやられます。
また、KV-2も前線に参加し、四号戦車を吹き飛ばします。
ソ連軍の76ミリ歩兵砲こそ、追加射撃の出目が悪く6ゾロで除去されてしまうものの、対戦車銃や機関銃も活躍。
装甲の薄い独軍戦車を痛めつけます。
もう一両の35(t)と二号戦車が相次いで砲塔への命中で「衝撃」という結果を受け、さらに二両目の二号戦車も対戦車銃で撃破されます。
KV-2に果敢に挑んだ独軍歩兵も、爆薬を持った分隊は152ミリ砲に吹き飛ばされ、他の二個分隊は二個分隊とも対AFV攻撃前判定チェックに失敗して白兵戦を挑めません
最後は「衝撃」を受けていた35(t)と二号戦車が相次いで撃破され、無事な戦車が一両のみとなった独軍の負けとなりました。
なんというか、あららっという間に負けてしまった感じです。
うーん・・・
何がまずかったですかねぇ・・・
焦らないようにと思ってはいたものの、やはり戦車を前に出してしまったということでしょうか・・・
それよりも左右からの挟撃となってしまったのがまずかったなぁ。
どっちかからは側面や後面を狙われてしまったというのがよくなかったですね。
うーん・・・
これで三連敗。
三連敗はちょっときついです。
結構へこみます。
少しやり方を見直さないとだめなんでしょうねぇ・・・
次回は入れ替え戦です。
今度はソ連軍で何とか勝利をものにせねば。
次回は勝つぞ。
それではまた。
- 2009/07/26(日) 21:11:27|
- ウォーゲーム
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「MustAttack」というウォーゲームコミュでどなたかも書いておられたのですが、この7月から第二次世界大戦中のドイツ海軍の戦艦「ビスマルク」を木製模型で作ろうという冊子が刊行され始めました。
私は不器用さからプラモデルを作るのも塗装の下手さからやめてしまった部類なので、こういう木製模型などは作れる方はすごいなぁと思うわけですが、大和でもミズーリでもなくビスマルクというところが惹かれますよねー。
当ブログでも以前書きましたとおり、英国海軍との壮烈な追撃戦ののちにビスマルクは沈められてしまうわけですが、その勇姿は魅力的であり、せめてウォーゲームの中だけでもビスマルクを活躍させてやりたいと思うのが人情でしょうか。
と、いうことで、私もビスマルクが出てくるウォーゲームで所有しているものを思い返してみました。
コマンドマガジンの付録となった「戦艦ビスマルクを撃沈せよ」やハガキゲームのビスマルクも所有はしているのですが、ふと思いついたのが「ノルウェー1940」です。

こちらが箱絵。
このゲームはドイツ軍によるノルウェー侵攻作戦時におけるドイツ海軍と連合国海軍の戦いをシミュレートしたもので、ドイツ軍側プレイヤーは二つの作戦目標をランダムに選ぶことができます。
ポケット戦艦リュッツォウや、巡洋戦艦シャルンホルスト、グナイゼナウなどを通商破壊艦として大西洋に突破させることを目的とするか、全ドイツ海軍を投入してノルウェー侵攻作戦を行なうか、ドイツ軍プレイヤーの目標が二つのうちのどちらかであることは連合軍プレイヤーにはわかるものの、両方に対応することは難しく、連合軍プレイヤーはどちらに対応するかに悩むことになります。
このゲームではビスマルクは選択ユニットなので、常に使えるわけではありません。
むしろビスマルクを選択することで、連合軍側にも戦艦二隻ほどが追加されてしまうので、選択するのも良し悪しということになります。
しかし、ノルウェー侵攻ということになれば、やはりドイツ軍プレイヤーとしてはビスマルクを投入したくなりますよね。
その強大な火力はドイツ軍のノルウェー侵攻を阻止しようとする連合軍に対し、大いなる脅威となることは間違いないでしょう。
残念ながらこのゲーム、私はほとんどプレイしたことがありません。
お互いの腹の探り合いがメインのゲームなので、ソロプレイもしづらいために手を付けたことも数えるほどです。
でも、やれば楽しそうだとは思うんですよね。
いつか機会を見つけてプレイしたいものです。
その折はビスマルクに暴れまわってもらいたいものですね。
それではまた。
- 2009/07/25(土) 21:01:12|
- ウォーゲーム
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2月26日、高瀬で再度戦端が開かれました。
官軍は、三好少将自らが高瀬後方の石貫に到達。
麾下部隊を展開させて薩軍と対峙します。
三好少将麾下の部隊が到着したことにより官軍は総勢約千六百に増強されました。
ここで官軍は薩軍に対して攻勢を取ることに決定。
菊池川を渡って薩軍に攻めかかります。
薩軍には前日到着していた越山休蔵率いる三個小隊が加わっていたものの、兵力的には劣勢な状態となり官軍の攻撃を受け止める形になってしまいます。
この越山隊は薩軍の右翼に位置しておりましたが、ここに攻撃を仕掛けてきたのは乃木少佐率いる約五百の官軍でした。
乃木隊と越山隊は早朝からぶつかり合いましたが、二百五十ほどの越山隊ではやはり防ぐことは難しく、さらに乃木隊に増援が加わったこともあって、正午ごろには後退を余儀なくされてしまいます。
官軍はこれに勢いを得て、増援でやってきていた約千の兵力が菊池川を渡河。
薩軍と正面からぶつかります。
薩軍は官軍の圧力を受け止めきれず、各部隊が後退を開始。
植木、伊倉方面と木葉方面へと撤退して行きました。
この後退に乗じて乃木隊は越山隊を追撃します。
負け続けだった乃木隊の兵士は、ここぞとばかりに薩軍を追いました。
逃げる越山隊を追って木葉を超え田原坂まで進出した乃木は、この田原坂の確保こそが重要だとして三好少将に増援を要請します。
しかし、いまだ相対的に兵力が劣勢と見たのか、三好少将はこの増援要請に対し逆に乃木隊に後退するよう命じました。
乃木はこの命令にやむなく後退。
官軍は田原坂を確保し損ねました。
この時点での判断としてはやむを得なかったことかもしれませんが、このとき田原坂を確保しなかったことが、のちのち官軍を大いに苦しめることになります。
薩軍を追い払うことに成功した官軍は、こののち高瀬の守りを固めます。
こうして第二次高瀬会戦も終結することになります。
この第二次高瀬会戦では一方的に押し捲られた薩軍でしたが、このまま押されっぱなしで終わるつもりはありませんでした。
熊本城への攻撃を強襲から包囲へと切り替えた薩軍は、この高瀬方面へと兵力を差し向けます。
篠原国幹、桐野利秋、村田新八、別府晋介という薩軍の中核がそれぞれの部隊を率いて高瀬に向かい、その総勢は約二千八百というものでした。
彼らは高瀬にいる官軍を三方からの分進合撃により撃破することに決定。
夜のうちにそれぞれの部隊を配置につけます。
高瀬での三日目の戦いがまたしても始まろうとしておりました。
(15)へ
- 2009/07/24(金) 21:36:51|
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昨日に引き続き英軍機のお話を一つ。
第二次世界大戦が始まった1939年。
英国はすでにスーパーマリン社のスピットファイアやホーカー社のハリケーンと言った単葉の新鋭戦闘機をすでに配備し始めておりましたが、そんな中ですでに旧式化していた戦闘機の一つが、グロスター社の「グラディエーター」でした。
グラディエーターの開発は1930年にまでさかのぼりますが、当時の英国空軍は第一次世界大戦型の戦闘機から脱却しようと高性能の新型戦闘機を求めておりました。
そのため、空軍の要求の高さによって試作機のうちの多くが不合格となるほどの事態となりましたが、グロスター社の試作機は優秀な成績をおさめ、グラディエーターと名付けられ採用となります。
グロスター社の製作した試作機は高性能ではありましたが、当時としても旧式化しつつあった複葉機でした。
しかも引き込み脚ではない固定脚であり、速度発揮にはあまり望ましいものではありません。
ただ、密閉式のコクピットや金属製の機体など先進的な技術も取り入れてあり、いわば過渡期の戦闘機と位置づけられると言ってもいいかもしれません。
当時、単葉戦闘機はまだ技術的に未熟なところがあり、いろいろと不具合が発生することが予見できました。
そのため、新技術を取り入れたとはいえ堅実な複葉機であるグラディエーターは、単葉戦闘機が成熟するまでのつなぎとしてみなされ、生産されることになったのです。
第二次世界大戦では、やはり複葉戦闘機には現実の戦場は荷が重く、ドイツ軍機に多くが撃墜されてしまいます。
そのため、早々にフランスや英国の上空からは姿を消すことになりました。
ですが、グラディエーターにも輝いた瞬間がやってくることになります。
地中海の中心近くに位置するマルタ島は、当時は英国の支配下にありました。
第二次世界大戦前はさほど重要性のなかった島でしたが、イタリアが参戦し、さらに北アフリカで英独伊が戦うようになると、一躍この島は重要な島となります。
地中海の制海制空権を維持し、独伊軍のアフリカへの補給ルートを脅かすことのできるマルタ島は、独伊軍にとっては目の上のこぶとなりました。
そのため、マルタ島を無力化するために、独伊の空軍が繰り返しマルタ島を空襲するようになったのです。
英軍もマルタ島の防備を固めるために、空母に新鋭のスピットファイアやハリケーンを搭載してマルタ島に向かいましたが、到着までには時間がかかります。
その時点でマルタ島にあったのは、予備機として保管されていたシー・グラディエーター(グラディエーターの艦載機バージョン)だけでした。
英軍はこのシー・グラディエーターを四機組み立て、マルタ島の防空を託しました。
なんと、この時代遅れの四機の複葉戦闘機は、たった十日間という短い期間ではありましたが、英本国から空母で戦闘機が到着するまでの間、マルタ島を守り抜いたのです。
敵機撃墜記録こそないらしいのですが、迫り来るイタリア空軍の爆撃機をついにマルタ島には寄せ付けなかったのです。
この四機のシー・グラディエーターの活躍は、英国空軍の間では今でも語り継がれるほどだといわれ、まさにグラディエーターがもっとも輝いた瞬間だったといえるのではないでしょうか。
時代遅れの複葉戦闘機だったこともあり、グラディエーターは約750機ほどの生産に終わります。
しかも三分の一は海外に譲渡されたといわれます。
ですが、このグラディエーターこそマルタ島の守り神だったのかもしれませんね。
それではまた。
- 2009/07/23(木) 21:33:18|
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舞方雅人さんとココロがセッキンチュゥ♪セッキンチュゥ♪
*このエントリは、
ブログペットのココロが書いてます♪
- 2009/07/23(木) 10:38:41|
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皆様も映画などで、米軍のB-17爆撃機などに防御用の回転銃座が付いていたりするのは見たことがあるのではないでしょうか。
一人が銃座に入って、回転させながらせまり来る敵機を射撃する。
まさに爆撃機の死闘を一番如実に表す場所ではないかと思いますが、この回転銃座を背中に取り付けた戦闘機があったというのはあまり知られてはいないかもしれません。
第二次世界大戦前、英国では爆撃機の高速重武装化に伴い、爆撃機迎撃用の戦闘機を模索しておりました。
そのときにアイディアとして出されたのが、戦闘機でありながらも動力式の回転銃座を持ち、敵爆撃機と並行して飛びながら射撃を加えれば、射撃時間も長く保つことができより有効弾を撃ち込めるのではないかというものでした。
パイロットは操縦に専念でき、銃手が広い射界の回転銃座で射撃する。
このアイディアは有効と考えられ、英国は実際に試作機の開発に乗り出します。
ボールトン・ポール社とホーカー社が試作競作に名乗りをあげ、二社のうちボールトン・ポール社の機体が1937年に初飛行にこぎつけます。
試作機はそこそこの成績をおさめ、試作が遅れたホーカー社の試作機を蹴落として採用になりました。
採用となったボールトン・ポール社の機体は、「デファイアント」と名付けられ、量産が開始されます。
部隊配備は1939年12月ですので、まさに第二次大戦が始まった年にデファイアントは期待の新鋭機として配備が始まったのでした。
デファイアントの特徴は、戦闘機でありながら背中に背負った回転銃座があることです。
回転銃座には7.7ミリ機関銃が4門搭載されており、これがデファイアントの火力の全てでした。
つまり、多くの戦闘機のように翼や胴体内部に固定された前方への機銃がなかったのです。
回転銃座は自分の機の尾翼やコクピットなどを撃たないように工夫され、緊急時にはパイロットが射撃することもできたといいます。
ボールトン・ポール社としても、回転銃座には力を入れていたということなのでしょう。
しかし、第二次世界大戦のいわゆる「バトル・オブ・ブリテン」(英国上空の制空権確保の戦い)で、デファイアントは実戦のきびしい洗礼を受けることになりました。
独軍のBf110双発戦闘機や、He111、Ju87などの爆撃機には、戦前の構想そのままに回転銃座がそれなりの威力を発揮したものの、相手が機動性に富むBf109戦闘機のような場合には、重い回転銃座が機動性を損なってしまい、まさにカモとなってしまったのです。
また、前方固定武装がないため、たまたまパイロットが上手く相手の後方に取り付けたような場合でも、銃手が上手く射撃できなければ取り逃がしてしまうこともあり、まともな格闘戦などできません。
結局、敵機を撃墜するよりも損害ばかりが多くなり、デファイアントは昼間の迎撃戦闘機としては使えないということになってしまいました。
使い物にならないとされたデファイアントでしたが、夜間となると話は別でした。
夜間であれば独軍機にそっと近づき、回転銃座で一撃を加えることができたのです。
デファイアントは以後夜間戦闘機として使われ、レーダーも搭載されるなど改修を受けてそれなりの働きを見せました。
ですが、モスキートの夜間戦闘機型など本格的な夜間戦闘機が使われ始めるようになりますと、デファイアントはお役御免となりました。
やはり夜間戦闘機としても使いづらかったのだと思われます。
それでもデファイアントにはまだ任務が残っておりました。
訓練機や標的曳航機、さらにはECMを搭載した初期の電子戦機としても活用され、最終的には1000機を超える数が作られたのです。
デファイアントは戦闘機のくせに回転銃座を載せた奇妙な機体ではありましたが、英国の苦難の時期にそれなりの役割は果たしたといえるのでしょうね。
それではまた。
- 2009/07/22(水) 21:18:06|
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毎号購入している学研の「歴史群像」誌ですが、最新8月号(通算96号)も読み終えました。

表紙はこちら。
今号の特集は「ペリリュー島攻防戦」です。
太平洋戦争後半、米海兵隊と日本軍との島嶼での戦いですが、最終的にはほぼ占領されてしまったものの、米軍にもずいぶんと損害を与えた戦いとして、日本軍の防備の固さが存分に発揮された戦いだったんですね。
日本軍にはなかなか与えられなかった時間と資材ですが、この二つが相応に手に入ったならば、日本軍もずいぶんと防御火力を発揮できたんだということを、見せてもらうことができました。
今号も面白い記事がいっぱいで、「イタリア軍の北アフリカ戦線」や「フランス戦車隊、前へ」など、実に興味深く読むことができました。
フランス戦車の話などは、第一次世界大戦の成功が第二次大戦でフランス戦車が活躍できなかった理由であるということで、ドイツと好対照を成しているんだということがよくわかりました。
他にも会津戦争や30年戦争などなど、楽しく読むことができました。
こうしていつも楽しい歴史記事が隔月で読めるのはありがたいことですよね。
次号は第二次ソロモン海戦や小牧・長久手の戦いの記事が載るようです。
次号も楽しみだなぁ。
それではまた。
- 2009/07/21(火) 21:28:24|
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今日は7月20日。
40年前に人類初の偉業が達成された日です。
今から40年前の1969年7月20日、アメリカが打ち上げた宇宙船「アポロ11号」の月着陸船が、月面「静かの海」に無事に着陸に成功しました。
三人乗りのアポロ宇宙船でしたが、月面に降りる月着陸船は二人乗り。
ニール・アームストロング船長とエドウィン・オルドリン飛行士の二名が月着陸を行ないました。
アームストロング船長の月面に降り立つシーンは全世界に中継され、多くの人々が見たそうです。
私はリアルタイムで見たとしても記憶が定かではなく、何度ものちに繰り返された映像を見た記憶しかありません。
月という地球に一番近い天体ですが、そこに到達するだけでも人類は何千年とかかりました。
子供心にも人類が月に行ったというのは、とてもすごいことだと思ったものでした。
今の子供たちにはあんまり宇宙へ行きたいという希望が無いそうですが、たぶん私と同年代ぐらいの人は宇宙に対する大きな憧れがあったのではないでしょうか。
いつか宇宙が手軽にいける場所になってほしいものですね。
それではまた。
- 2009/07/20(月) 21:09:49|
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昨日まで170万ヒット達成に始まる怒涛のSS十一日間連続更新というすさまじい状況だったわけですが、SSは昨日でいったん打ち止めです。
今日からはまた通常更新で行きますので、よろしくお願いいたします。
今日は頂き物のご紹介。
私がいつもお世話になっておりますサイト様、「夜に棲む日々」の管理人でいらっしゃいますdeadbeat様から、当ブログの四周年記念にイラストを贈っていただきました。
なんとなんと、私の160万ヒット記念作「ローカストの最期」より、ムカデ女に改造されてしまった古木葉雪美(ふるきば ゆきみ)ちゃんです。

まずは改造前のお姿。

そして、ザームによってムカデ女になってしまったあとのお姿です。
もう感激です。
自分の文章のキャラが、こうしてイラストになるなんてもう最高の幸せですね。
可愛い雪美ちゃんが、不気味な、それでいて妙に美しさの残るムカデ女になってしまったのがとてもよく描かれていてすばらしいです。
たぶん皆様にもその美しさがおわかりいただけると思います。
deadbeat様、このたびは本当にありがとうございました。
このイラストは大切にさせていただきます。
それではまた。
- 2009/07/19(日) 21:13:23|
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三日間連続の四周年記念SS「ネズミとネコ」も、今回が最終回です。
楽しんでいただければ幸いです。
それではどうぞ。
3、
「それにしても美しい女子(おなご)じゃ。見ろ、青城(あおき)、久しく勃たなかったわしの股間が見事に勃ったわい」
「まことに。男なら誰もがそそられる姿かと。御前」
思わず私は今自分がどんな姿をしているのかに思い至って恥ずかしくなる。
グレーのレオタード姿で両手足を拘束されて座っているのだ。
男どもが喜ぶのも無理はない。
「もうすぐこれがわしのものになるのだな?」
「はい、御前」
えっ?
わしのもの?
どういうこと?
「私をどうするつもりなの?」
私は老人をにらみつける。
こんなやつの慰み者になるぐらいなら死んだってかまわない。
でも・・・
どうにかしてもう一度美亜に会いたい・・・
「何、心配はいらん。君には最初の予定通り、わしのために働く女になってもらう。わしのためならなんでもする女にな」
老人の下卑た笑みに私はぞっとした。
「冗談じゃないわ! 誰があなたのためになど」
「ふっふっふ・・・君の意志など問題ではないのだよ。そうだろう、青城?」
「はい、御前」
老人の脇に控えていた男が、ゆっくりと私に近寄ってくる。
私の本能がこの男は危険だと告げているが、今はどうにもできはしない。
「これは日本の製薬会社とCIAが共同開発したものでね。たまたまできあがったものなんだが、洗脳にはちょうどいい代物なのだ」
男が内ポケットからケースを取り出し、その中の注射器を見せ付ける。
「せ、洗脳?」
私の意識を変えるということ?
「い、いやっ! やめてぇ」
私は大声で叫んでいた。
「これを注射し、後は適度な暗示と視覚効果を繰り返すことで、君の心はわしのものになるというわけだ。青城、始めろ」
老人にうなずき、男が注射器を持って私に迫る。
「ひっ!」
「暴れるなよ。針が折れる」
袖がまくられ、私の腕に注射器が突きたてられる。
薬剤が注入され、私はあまりのことに声もでなかった。
「これでいい。しばらくすれば気持ちよくなる」
「い、い、いやぁ・・・いやよぉ・・・」
私は駄々っ子のように首を振る。
「心配はいらんて。すぐに気持ちよくなるそうだ。そうしたら何も考えられなくなる。気持ちよさだけを感じていればいいのだよ」
「それに麻薬のように習慣性があるわけでもない。安心しろ」
男の口元がにやりと笑う。
安心しろなどと言われたって安心できるはずがないじゃない。
ああ・・・助けて・・・
あなたぁ・・・美亜ぁ・・・
ああ・・・
頭がぼうっとする・・・
なんだか躰がふわふわするわ・・・
ここはどこ?
私はいったいどうなっているの?
ぐらぐらする頭をしっかり支えようとするけれど、どうしてもぐらぐらしてしまう。
目の前に置かれたテレビモニター。
ちらちらと赤や黄色や緑が瞬いている。
なんだかとても綺麗・・・
目が離せない・・・
ああ・・・
なんだかとっても気持ちがいいわぁ・・・
******
あれからどのくらい経ったのだろう・・・
私は椅子に座りっぱなし・・・
ずっと目の前のモニターの明滅する光を見てるだけ。
なのにとても楽しい。
おトイレにも行かず、時々手足をはずされてバケツのようなものにさせられる。
周りに人がいるのに全然気にならない・・・
むしろ、私の中から汚いものが出て行くようでとても気持ちいい・・・
ああ・・・
なんだか幸せな気分・・・
何も考えないで過ごすのは気持ちいいわぁ・・・
青城って人の声がする・・・
はい・・・私の名前は素襖美香子です・・・
はい・・・私は怪盗マウスです・・・
私はちゃんとお答えする。
あの老人の顔がモニターに映される・・・
老人は・・・御前・・・
御前様・・・
私の全てを捧げる人・・・
私がお仕えするお方・・・
御前様・・・
御前様・・・
御前様・・・
私は御前様のもの・・・
御前様のために働くのが私の生きがい・・・
御前様が私の全て・・・
御前様・・・
御前様の声が聞きたい・・・
御前様のお顔を見たい・・・
御前様のお姿が愛しい・・・
青城が言う。
御前様のために働くのだと。
当然だわ。
私は御前様のために生きる女。
御前様のためなら何でもするわ。
青城が言う。
御前様のためなら人だって殺せるかと。
もちろんよ。
御前様がお命じになるのなら、どんな人でも殺してやるわ。
青城が言う。
御前様に抱かれたいかと。
ええ、当たり前でしょ。
御前様に抱かれるのは女として最高の栄誉だわ。
私はこの肉体の全てで御前様に満足してもらいたいわ。
青城が言う。
お前はマウスではなくキャットだと。
ええ、そうよ。
私はマウスなんかじゃない。
私は身軽なキャットよ。
御前様に可愛がってもらうためなら、どんなところへも入り込むわ。
御前様・・・
御前様・・・
御前様・・・
******
「おい、起きろ」
青城の声で私は目を覚ます。
なんだかとっても気持ちがいい。
生まれ変わったようなってこういう気分のことかしら。
私はベッドの上で躰を起こすと、シーツで胸を隠すのだった。
「悪いけど、そう簡単に裸を見せるつもりは無いわ」
青城が苦笑する。
「気分はどうだ?」
「頭がなんとなくぼうっとするけど、悪くは無いわ。むしろいい気分かしら」
私は薄く笑みを浮かべた。
こういう笑みに男は油断するもの。
青城にしたって悪い気分はしないはず。
「着替えを用意してある。着替えたら御前の元へ行け」
「了解。すぐに行きますとお伝えを」
私は追い立てるようにして青城を部屋から出すと、シーツをはずしてロッカーの扉を開けた。
「うふふ・・・素敵」
そこには私好みの黒いレザーでできた衣装がかけられていた。
黒いエナメルレザーのキャットスーツ。
首からつま先までを覆うぴったりした全身タイツ状になっているけど、胸のカップは取り外すことができ、股間もファスナーで開くようになっている。
私にはとてもふさわしい衣装だわぁ。
私はうれしくなってすぐにそれを身に付ける。
もちろん下着なんてものは着けはしない。
肌に吸い付くように密着するエナメルレザーの心地よさに、私は思わずゾクゾクした。
足元にはひざ上までのニーハイブーツが置いてある。
もちろんこれも黒のエナメルレザーでできており、ピンヒールタイプのものだ。
サイドのジッパーを下ろし、脚を通して履いていく。
ヒールのおかげで背筋がピンとなるので気持ちがいい。
あとは黒エナメルの長手袋。
指先にちょっとした金属製の爪が付いている。
うふふ・・・
これで引っかかれたら痛いじゃすまされないかもね。
私は腕を通して眺めてみる。
爪の金属質の輝きがとても綺麗。
私は思わず爪に舌を這わせ、その冷たい感触を味わった。
最後は頭にかぶるマスク。
同じ黒いエナメルレザーで、頭をすっぽりと覆ってくれる。
でも、口元と目だけは覗いているので、見たりしゃべったりするのに不都合はない。
頭の上には両側に尖った三角耳が付いていて、私が何者かを示している。
「ニャーオ」
私は手首をちょっと曲げ、甘えたように鳴いてみる。
うふふふ・・・
とっても気持ちいいわぁ。
猫って最高。
そう、私はキャット。
御前様の飼い猫なの。
「お待たせいたしました、御前様」
御前様のいらっしゃる部屋に入り、私はスッと片膝を折る。
御前様の目が私に注がれ、私はそれだけでとてもうれしかった。
「おお、来たな。うむ、よく似合うぞ。とても美しい黒猫だ」
「ありがとうございます、御前様。ニャオーン」
御前様のお言葉がうれしくて、思わず私は鳴いちゃった。
「うむうむ、可愛いキャットよ、こちらへおいで」
「はい、御前様」
私はすぐに御前様の足元にひざまずき、甘えるように顔を上げた。
「いい子だ。今日からお前は私の飼い猫。私のために働くのだぞ」
「はい、御前様。私はキャット。御前様の忠実な飼い猫です。ニャオ」
私は御前様にその忠誠心を見せるべく頭をこすり付ける。
ああ・・・なんて幸せなのかしら。
御前様に触れていられるなんて最高だわぁ。
「キャットよ、この写真を見るのだ」
「はい、御前様」
私は御前様が差し出した一枚の写真を見る。
そこにはマンションの玄関を出る父親と、それを見送っている女の子と母親の姿が写っていた。
一瞬何か懐かしい感じがしたものの、どうってことない写真に過ぎない。
「これがどうかなされたのでしょうか? 御前様」
私は写真を御前様に返し、その意図を尋ねてみた。
「ん? お前はこの写真を見てどう思った?」
「特に・・・何も。平凡そうなつまらない感じの男と、くだらない笑顔を見せている私と娘としか・・・娘は多少は可愛いようですけど、それだけですわ」
あの写真にいったい何の意味があるのだろう。
そこに写っている私は私ではない。
あれは過去のくだらない私だ。
思い出す意味すらないわ。
「ククククク・・・そうかそうか。これでお前は完全に私のものとなったわけだな」
御前様がうれしそうに笑っている。
「はい、御前様。キャットは身も心も御前様のものです。どうかこれからはずっと可愛がってくださいませ。ニャーオ」
私もうれしくなって鳴いてしまう。
「いいとも、たっぷり可愛がってやるぞ。熟れたお前の躰は味わい深そうだからな」
「ああん、御前様ぁ」
私はメス猫らしく腰を振る。
御前様のおチンポが欲しくてたまらない。
私は舌なめずりをして御前様の股間に眼をやった。
「だがその前に、やってもらわねばならないことがある」
「ああ・・・はい、何なりとご命令を、御前様」
私は欲情を抑えて命令を待つ。
御前様にお仕えするキャットとして、命令は絶対なのだ。
「これを見ろ」
先ほどとは違う写真を見せてくる御前様。
そこには以前テレビで見た政治家が写っていた。
「野党の幹事長だ。こいつがどうにも小うるさくてな。スキャンダルなネタでもあれば少しはおとなしくもなろう。キャットよ、こいつのスキャンダルネタを探って来い。屋敷に忍び込めば何かあるだろうて」
「かしこまりました御前様」
私はすぐに立ち上がる。
ここからはメス猫キャットではなく怪盗キャットの時間。
楽しい潜入活動が待っているわ。
うふふふ・・・
楽しみぃ・・・
「屋敷の様子などは青城がある程度は探ってくれておる。後はお前の腕次第だ」
「お任せくださいませ御前様。このキャットが必ずや御前様のご満足いただけるような情報を手に入れてまいりますわ。ニャーオ」
私は爪をペロッと舐め、ワクワクする心を楽しんだ。
「クククク、帰って来たらたっぷり可愛がってやるぞ。しくじるなよ」
「ああん、楽しみですわぁ。それでは行ってまいります、御前様。ニャーオォ」
私は一声高く鳴き声を上げると、御前様の部屋をあとにするのだった。
END
- 2009/07/18(土) 20:58:58|
- ネズミとネコ
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「ネズミとネコ」の二回目です。
それではどうぞ。
2、
「ただいま・・・」
「パパお帰りー」
「お帰りなさい」
玄関先で声が弾む。
だが、入ってきた夫は浮かない顔だった。
「何かあったの?」
「パパ、大丈夫?」
私も美亜も心配する。
疲れているだけじゃなさそうなのだ。
「ん? あ、ああ、大丈夫だよ。ちょっと疲れたかな?」
すぐに笑顔を見せる夫。
私たちが、特に美亜が心配そうにしていることに気が付いたのだろう。
私はその気遣いに感謝して、カバンを受け取り夫をリビングへと連れて行った。
「はい、コーヒー」
「あ、ありがとう」
美亜が寝たあとで、私は夫にコーヒーを淹れる。
ついでに私の分も淹れ、二人で仲良くコーヒータイム。
「今日ね、美亜ったら幼稚園の近くで野良猫見かけちゃって。うちで飼いたいって言うのをなだめるのに大変だったわ」
「ああ、このマンションはペット禁止だし、それに君は猫が苦手だったっけ」
「ええ、ちょっとね・・・小さいころいきなり引っかかれてから、どうもだめなの」
私は苦笑する。
怪盗マウスだからってわけじゃないけど、猫はどうも苦手なのよね。
「それで? 何があったの?」
他愛も無い話のあとに私は本題を切り出した。
「ん? いや、たいしたことは・・・」
「嘘。あんな表情していたんだもの。たいしたことないなんて嘘でしょ」
夫は嘘がつけない人だ。
その正直なところも魅力の一つなんだけどね。
「・・・・・・実は、マウスのせいでうちの社がピンチなんだ」
私はドキッとした。
マウスのせいで?
一体どういう?
「ど、どういうことなの? マウスのせいって?」
「マウスが手に入れてきた資料を基に、うちの記者が裏づけを取ろうとしたらしいんだけど、どうもそれが明るみにでちゃったらしいんだ」
「明るみに?」
「ああ、それで政治家側と企業から、うちがでっち上げのスクープを捏造するつもりだということで、うちの社を訴えるって話になりかけているらしい」
「何それ? だって証拠があるんでしょ?」
「あの証拠だけじゃ不十分らしい。圧力をかけられて握りつぶされればおしまいなんだそうだ。もっと決定的な証拠があればって編集部では騒いでたよ」
「決定的な証拠・・・」
私は思いをめぐらせる。
だったらその決定的な証拠を盗ってくればいいんだわ。
******
夫も美亜も寝静まった真夜中。
私はこっそり起きだすと、そっと寝室を抜け出した。
夫は寝つきがいい人だから、少々のことでは起きてこない。
暗闇の中でタンスから衣装を取り出すと、私はマウスの衣装に着替えていった。
肌の露出を抑えるためにすべすべの肌色のストッキングを穿き、同じくすべすべのグレーのハイネックのレオタードを着て背中のファスナーを閉じる。
こうしてナイロンの衣装に包まれるとなんだかとっても気持ちがいい。
私は少しの間すべすべの感触を楽しんだあとでグレーの長手袋を嵌め、口元と目だけが出る丸い耳付きのマスクをかぶって髪を中に入れてしまう。
腰にベルトポーチをつけたら玄関に行き、グレーのひざ上までのブーツを履く。
こうしてマウスの衣装に身を包んだ私は、静かに夜の街に飛び出した。
引っ掛け鍵やワイヤーを使って、私は屋根の上を飛び回る。
下手に地上を動くより、このほうが距離も時間も稼げるのだ。
むかしのニンジャはいろいろと考えていたのよね。
夜のひんやりした空気がナイロンから熱を奪って心地よい。
動きが阻害されない肌に密着したこの衣装。
アニメやマンガだってかまわない。
だって、こんなに気持ちいいんだもん。
程なく私は目的の場所に着く。
都心の真ん中に邸宅を構えている大物の自宅。
おそらくここには何らかの証拠があるはず。
二、三日昼間にいろいろと調べてみて、私はそれを確信していた。
夜だというのに玄関先にはガードマンもいる。
ご苦労様だわ。
私は塀伝いに歩き母屋の屋根に飛び移る。
ハイヒールのかかとが屋根瓦にこつんとあたるが、それ以外に音はしない。
くノ一はどんな服装でも活動できなくてはならないとの教えから、私はドレスやハイヒールでの訓練を常時受けてきた。
そのせいか、足元はハイヒールのほうがかえって動きやすいのよね。
レオタード姿にハイヒールのブーツなんて我ながら盗みには不向きだと思うけど、これが一番しっくり来るのだから仕方がないわ。
こういう日本家屋はどこからでも侵入できる。
特に屋根裏は無防備なことが多い。
いくつかのセンサーを付けてはいるようだけど、そんなの私には意味がない。
私はベルトのポーチから携帯電話を取り出すと、デジタルカメラを起動させる。
携帯のデジカメ程度でも赤外線は見えるのだ。
私は難なく赤外線センサーを避け、屋根裏に忍び込む。
目的の場所は屋敷の中心部。
人間、何か隠したかったり守りたかったりするものは、中央部に置くことが多いのよ。
誰もいない静かな書斎。
私の勘がここに何かあることを告げている。
私は周囲を確認し、そっと室内に飛び降りた。
いくつもの本棚が置かれ、結構な量の蔵書がある。
でも、それらはあまり手を付けられた様子がない。
きっと格好付けというか見せるためだけの蔵書なんだろう。
あきれちゃうわね。
さてと・・・
私は室内を見渡した。
「見~つけた」
壁にかけられている小さな絵。
書斎には不釣合いな感じの絵に私はピンときた。
私はセンサー類や警報機がないか確認し、そっと額縁を取り外す。
「ビンゴ」
そこには壁に取り外せるふたがあり、外すことで金庫の扉が現れたのだ。
少なくともこうして隠してある以上、表ざたにはしたくないものが入っているに違いない。
私はマスクから覗く唇を舌で舐めながら、金庫のダイヤルに手を伸ばす。
そしてマスク越しに耳を付け、そっとダイヤルを回していった。
ダイヤルキーは簡単に合わせられ、口の中で針金に気を込めて曲げたもので鍵も簡単に開けられた。
隠すことに熱心だと、意外と鍵そのものには気を使わないもの。
見つけられないと思っているからなんでしょうね。
私はレバーを回して金庫を開ける。
これで証拠はいただきだわ。
『ご苦労様』
私は息を飲んだ。
金庫の中にはこう書かれた紙切れが一枚あっただけ。
これはいったい?
私はこれが罠だったことに気が付いた。
急いで逃げなければ。
そう思った私の前に男たちが現れる。
「罠にかかったようだな。ネズミめ」
いっせいに拳銃を構える男たち。
私は悔しさに唇を噛む。
「少しの間おとなしくしてもらおう」
中央の男がそういうと、拳銃から何かが発射される。
腹部に痛みを感じた私は、反射的にお腹に手を当てそこを見る。
これは、ます・・・い・・・?
そこには小さなダーツの矢のようなものが刺さっていて、私は急速に意識を失った。
******
「ん・・・」
徐々に意識が戻ってくる。
私はいったい・・・
ハッとして目を開ける。
ここは?
私は自分の状況を確認した。
どうやら椅子に座らせられているらしい。
ご丁寧に両手と両脚は椅子に固定されている。
囚われの身ってことね。
幸い服は脱がされておらず、レオタードもストッキングもそのまま。
陵辱などがされた気配は無い。
まずいのはマスクが取り去られているということ。
素顔が晒されてしまっている。
どうしよう・・・
マウスの正体が私だと世間に知れたら・・・
夫も美亜も大変なことになっちゃうわ。
「目が覚めたようだね。素襖(すおう)美香子君」
えっ?
どうして私の名前を?
素顔が知られたからってこんなに早く?
私は驚いた。
まさか名前まで知られているとは思わなかったのだ。
「ようこそ我が家へ、素襖美香子君。いや、怪盗マウスというべきかな?」
現れたのは車椅子に座った老人。
やせこけてはいるものの、鋭い眼光は私を射抜くように見つめてくる。
確か・・・この屋敷の大物の父親だわ。
なるほど、息子のバックにはこいつがいるということなのね。
「無言かね、怪盗マウス? それともここから逃げる算段でもしているのかな?」
私は黙って老人をにらみつける。
どこにチャンスがあるかわからないのだ。
そのチャンスを掴むためにも今は逃げることだけを考えたほうがいい。
「まあいい、バカ息子が不用意なことをしたおかげで、こうして君を手に入れることができたのだ。あいつには感謝せんとならんな」
老人の背後には二人の男が立っている。
いずれも屈強そうで、懐には拳銃を忍ばせているのは間違いない。
暗がりだというのにご丁寧にサングラスをかけているとはね。
「君を探すのには苦労したよ。甚左衛門(じんざえもん)はわしに黙って君を解放してしまったのだから」
えっ?
どうしてここでお爺様の名前が?
「甚左衛門は君がモノにならなかったと言っていた。だが、こうして君を見ると、奴は立派に君を仕込んでくれたようだな」
「私を仕込んだ?」
私はつい黙っていられなくなってしまった。
「そうだ。奴をバックアップし、くノ一を育てさせたのはこのわしだ。この国の政界で権力を維持するためには、優秀なスパイが必要じゃでな」
「そういうことだったの・・・」
私は納得した。
時代錯誤なくノ一として育てられたのにはそういうわけがあったんだわ。
「世間を騒がす怪盗マウスが女性らしいと知ったとき、わしはすぐに甚左衛門の仕込んだくノ一のことを考えたよ。そこでいろいろと調べさせ、あのときの娘が素襖美香子という名で暮らしていることを知ったのだ」
なんてこと・・・
調べられていたなんて・・・
私は後悔した。
マウスなんてやるんじゃなかったのだ。
「そして今回、バカ息子の件を利用して、こうして罠を仕掛けたというわけなのだ。いや、苦労させられたものよ」
老人が笑っている。
七つ道具の入っているベルトポーチも奪われている今、私は悔しさに歯噛みするしかなかった。
- 2009/07/17(金) 21:38:16|
- ネズミとネコ
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170万ヒット記念として、昨日まで八日間連続で「ホーリードール」&「グァスの嵐」を投下させていただきましたが、今日からは丸四年連続更新達成記念SSを三日間連続で投下させていただきます。
タイトルは「ネズミとネコ」
今日はその一回目です。
それではどうぞ。
「ネズミとネコ」
1、
カチッと音がして、ダイヤルが合う。
あとは・・・
私は手袋を嵌めた手で腰のポーチから少し太目の針金を取り出すと、先っぽをちょっと曲げて鍵穴に差し込んだ。
ふむふむ・・・
中はこういう形になっているわけね・・・
針金を通じて鍵の形状が私に伝わってくる。
私はその形を脳裏に刻み込み、針金をどう曲げればいいかを考えた。
鍵の形状を探り終えた私は、針金を引き抜くと、それを口の中に放り込む。
そして気を込めながら舌と歯で針金を曲げるのだ。
口の中から取り出した針金は、一見するとただの捻じ曲がった針金に過ぎない。
だがそれを鍵穴に差し込んでねじれば、またしてもカチッと音がする。
OKOK。
私に開けられない金庫などないのよ。
私はちょっとした優越感を味わいながら金庫を開けた。
うふふふ・・・
やっぱり溜め込んであるわねぇ。
目の前にあるのは現金の束。
それと各種隠し書類。
私はそっと書類を取り出すと、腰のポーチから小型カメラを出して撮影する。
無論本物はそのまま金庫の中に戻し、現金だけを多少いただく。
どうせやばいお金なんだし、現金としておいてある以上は表ざたにするつもりのない金だ。
奪われても被害届けなんか出せるはずがない。
庶民から巻き上げた金をささやかながらでも取り返すってわけ。
あとは・・・
巡回がこないうちに引き揚げなくちゃ。
私はマスクの下半分から露出した唇をぺろりと舐める。
そして入ってきた通風ダクトに再び入り込み、その場をあとにするのだった。
******
「もうそろそろパパが帰ってくる時間だね」
「だねー」
娘の美亜(みあ)が私のマネをする。
んーーー可愛い。
私は思わず抱き寄せてほお擦りしてしまう。
「今日は美亜の大好きな甘ーいカレーライスだよ。パパのは辛くしてあるけどね」
「わーい! 美亜、カレーライス大好き」
美亜が両手でバンザイをする。
美亜の笑顔は天使そのもの。
もうね、世界で一番可愛いの。
美亜のためなら、ママはなんだってしちゃうぞー。
あら?
どうしたのかな?
美亜がじっと私を見てる。
「どうしたの、美亜?」
「あのね、ママ」
「なーに」
私はしゃがみこんで美亜と目を合わせた。
「美亜、カレーライスも大好きだけど、ママはもっと大好き」
・・・・・・
うきゃーーーー!!
な、なんてうれしいのぉ!!
私は美亜をぎゅっと抱きしめた。
「美亜、ママも美亜が大好きよー」
「う~・・・ママ苦しい」
「あ、ごめんねー」
思わず力が入っちゃったみたい。
私は美亜を離し、頭を撫でた。
あーん・・・幸せだよぉ・・・
「ただいまー」
玄関先で声がする。
「おっ、パパが帰ってきたよ」
「うん」
美亜がニコニコして玄関に向かう。
さっきママ大好きって言ったのに、どうやらパパも大好きらしい。
美亜、ママだってパパが大好きなんだからね。
弘斗(ひろと)さんは簡単には渡さないんだからね。
娘に変な対抗心を感じてしまったことに苦笑しながらも、私も玄関に向かうのだった。
「ただいま、美亜。幼稚園は楽しかったか?」
「パパお帰りー。うん、楽しかったよー」
「そうかー」
私が行くと、美亜は夫に抱き上げられているところだった。
「んー、日に日に大きくなるなー」
「お帰りなさいパパ」
私は夫のカバンを受け取り、一緒に部屋に戻ってくる。
夫は美亜を抱いたまま部屋に入り、リビングのソファに座らせた。
「今日はカレーか。いいにおいだぁ」
キッチンから漂うスパイシーな香り。
この香りには誰もがお腹がなっちゃうよね。
「もう食べる? それとも先にお風呂入る?」
「うーん・・・腹減ってるけど、先に風呂にするか・・・」
とそこまで言って美亜を見る夫。
「美亜はもう食べたのか?」
ふるふると首を振る美亜。
今日はパパと食べると言って、まだ食べてなかったのだ。
「おっ、そうか。ようし、じゃパパと一緒に食べような。美香子(みかこ)、風呂は後だ、先に食事にしよう」
夫の言葉に、私は笑顔でキッチンに向かうのだった。
「ん・・・美亜はもう寝たか?」
「ええ、もうぐっすり」
風呂上りの夫がソファに腰を下ろす。
「久しぶりに一緒にご飯食べられたなぁ。でも、明日からまた忙しくなりそうだよ」
「そうなの?」
私は後片付けを終え、コーヒーを淹れて差し出した。
「うん。またあの怪盗マウスが現れたんだ。今回は与党の大物に裏金を渡していた企業の隠し書類が送られてきたんだよ」
「えっ? 怪盗マウスってあの?」
「うん。世間じゃ義賊ってもてはやされているよな。実際今回も政治家の癒着の証拠をうちに送ってきたし、山手区には金がばら撒かれたって言うぞ」
何事かを考えるようにコーヒーを飲む夫。
私はちょっと複雑な気持ちになる。
その証拠を盗んできたのは私だからだ。
でも、悪人をのさばらせることはできないわ。
あの証拠があれば、おそらく捜査の手が伸びるはずよね。
「おかげでその裏を取るためにうちの記者たちはてんてこ舞いさ。俺は裏方でよかったよ」
「うふふ・・・そうね」
「でも、怪盗マウスって何者なんだろうな。警察でもよくわかってないらしいし・・・」
「悪の証拠を掴んでくるんでしょ? 悪い人じゃないわよ」
私は自己弁護込みでそう言った。
そりゃ・・・
盗みは悪いことだとは思うけど・・・
相手のほうがよほどあくどいわ。
「それに女だって話もある・・・」
私は思わず飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。
見られてた?
いつ?
どこで?
私は以前のことを思い出す。
「何でもボディスーツだかレオタードみたいのを着た女だって話がある。ブーツと手袋を嵌めてたらしい」
う・・・
やばい・・・
どこかで完全に見られたんだ。
でも、あらためて言われると恥ずかしいよぉ・・・
だってぇ、動きを重視したら躰にピッタリのほうがいいと思ったんだもん。
「あは・・・あはは・・・それって何かマンガかアニメじゃないの?」
「だよなぁ。いくらなんでもレオタード姿の女怪盗なんてアニメかマンガだよな」
う・・・
い、いいじゃない・・・
レオタード着た女怪盗でいいじゃない。
「そうよねぇ。アニメかマンガよねぇ」
私は苦笑するしかなかった。
******
「ふう・・・」
弘斗さんと美亜を送り出し、掃除と洗濯を終えたらもうお昼。
私は冷蔵庫から飲み物を出して一息つく。
そうそう。
マウスの衣装を手入れしておかなくちゃね。
私は洋服ダンスの奥に隠したケースを取り出した。
そこに入っているのは衣装と小物。
グレーのレオタードにロンググローブ、いくつもの道具の入ったベルトポーチ。
そして目と口元だけが覗くようになっているグレーのマスク。
これはマウスの名にふさわしく、ちゃんと丸い耳も付いている。
さすがにグレーのブーツはここには入れて置けないから、靴箱に入っているけど、それ以外は全部このケースに入っている。
そう、最近世間を騒がせている怪盗マウスとは私のこと。
江戸時代の盗賊ねずみ小僧にあやかった名前なの。
幼い頃から鍛えられたくノ一としての技術を、私は盗みに使っていた。
幼い頃にお爺様に拾われた私は、この現代には時代錯誤なくノ一として育てられたのだ。
お爺様が言うにはそれなりの技量を習得したらしかったけど、一人前になる前にお爺様は亡くなり、私はまた一人になった。
お爺様は私に何かさせるためにくノ一に育てたようだったけど、それがなんだったのかは今ではもうわからない。
ただ、一人で暮らすには問題ないように戸籍なども作っておいてくれたため、こうして一人の主婦として暮らしている。
夫の弘斗は週刊誌を出版する出版社の事務担当。
たまたま私がアルバイトしていた喫茶店で知り合い、いつしか惹かれあって結婚していた。
私がマウスになったのはほんのちょっとしたきっかけから。
夫が世の中には巨悪がいるのに警察もマスコミもなかなか手が出せないと嘆いていたこと。
美亜が大きくなるまでに、悪人がいなくなればいいねなんて話していて、だったら証拠を掴めばいいんじゃないかなって思ったから。
最初はどきどきだったけど、やってみたら意外と簡単だった。
私に仕込まれたくノ一の技量が侵入をたやすくしてくれる。
手に入れた証拠で、政治家と暴力団とのつながりが明るみにでたとき、何だか本当にうれしかった。
ついでにくすねてきたお金を近所にお裾分けしたら、義賊扱いされちゃったのよね。
それ以来、悪の退治とスリルを求め、時々マウスが出没するってわけ。
あの盗みのときのドキドキ・・・
たまらないのよねぇ。
- 2009/07/16(木) 21:52:15|
- ネズミとネコ
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2005年の7月16日に旧ブログからスタートした「舞方雅人の趣味の世界」ですが、なんと丸四年間の毎日連続更新を達成いたしました。
合計で1461日間、毎日よくも更新したものです。
今日からは五年目のスタート。
また丸五年間の連続更新ができるようにがんばっていきたいと思います。
どうか応援よろしくお願いいたします。
丸四年連続更新記念SSは、このあと投下しますのでお楽しみに。
それではまた。
- 2009/07/16(木) 21:12:28|
- 記念日
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舞方雅人さんとココロがセッキンチュゥ♪セッキンチュゥ♪
*このエントリは、
ブログペットのココロが書いてます♪
- 2009/07/16(木) 10:22:10|
- ココロの日記
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「ホーリードール」の33回目です。
それではどうぞ。
33、
『ドールサキ! 答えて!』
んあ?
あれ?
なんだろ・・・
お腹が痛いよ・・・
悪いものでも食べたかな・・・
私また食べ過ぎちゃったかな・・・
でも、目が開かないよ・・・
明日美ちゃんの声が聞こえるのに・・・
明日美ちゃんの顔が見えないよ・・・
「ドールサキ! 損傷度を明示してください。ドールサキ!」
動かなくなってしまったホーリードールサキに呼びかけるホーリード-ルアスミ。
無論、戦闘中であるために視線は闇の女からはずさない。
だが、ホーリードールサキからの答えが無いのだ。
外見からの損傷度はせいぜいがCランク。
ならば戦闘にそれほど差し支えるはずが無い。
内部損傷が激しいのかもしれない。
だとしたらホーリードールサキは一時的損傷ではなく、この戦闘中の回復は見込めないかもしれない。
ホーリード-ルアスミはホーリードールサキへの呼びかけをやめ、闇の女との戦いに集中することにした。
手ごたえは確実にあった。
ブラックパンサービーストが命を賭けて掴んだ光の手駒の一瞬の隙。
その隙にレディベータは思い切り破壊の魔力を叩き込んだのだ。
死んだってかまわない。
ううん・・・
むしろ死んでほしい。
こいつさえいなければ・・・
残念ながら願いは叶わなかったようだ。
でも、どうやら動けなくなったらしい。
好都合だわ。
後はもう一体の光の手駒を除去すれば・・・
レディベータは立ち上がり、ブラディサイズを構えなおした。
「だめだわ・・・どうやっても結界がはずれない・・・」
何度目かの切り込みを行なった後で、再度ビルの屋上に舞い戻る。
肩で息をするレディアルファ。
何度も魔力を集中してヘルアクスを振ったため、魔力の消耗が激しいのだ。
このままでは上手く結界を抜けられても、戦闘の役に立てないかもしれない。
「こうしている間にもベータが・・・」
レディアルファは唇を噛んだ。
「レディアルファ」
ストッと言う足音がして、レディアルファの脇に黒い人影が降り立った。
「デスルリカ様」
降り立った人影がデスルリカであることを確認し、思わず表情がほころぶレディアルファ。
「結界はまだ破れないの? そんなに強力なの?」
心配そうにレディアルファの様子をうかがうデスルリカ。
黒エナメルのボンデージレオタードを身にまとい、太ももまでのロングブーツと二の腕までの長さのロンググローブを身につけ、背中には黒マントがなびいている。
ねじれた角のサークレットを頭に嵌めたその姿は、まさに闇の女王と言ってもよい姿だ。
「はい・・・それがまだ・・・」
首を振るレディアルファ。
ビルの屋上にいる二人の前には、小学校が何事も無いように眼下に広がっている。
そこで光と闇の戦闘が行なわれているとは思えない。
強力な結界が、外部と内部を遮断しているのだ。
だが、それほどまでに強力な結界を光が張れるとは・・・
「わかったわ。私がやってみます」
デスルリカはすっと右手を上げ、デスハルバードを呼び出した。
一つの柄に槍の穂先と斧の刃がついている実用的な武器。
漆黒に輝くそれはまさに闇の武器にふさわしい。
デスルリカは、漆黒のハルバードをスッと構え、そのままジャンプして切り込んだ。
「チッ」
舌打ちするゼーラ。
闇の女も案外諦めが早いわね。
早々に大いなる闇の代理を呼び寄せるとは・・・
「まずいじゃないの・・・」
頬杖をやめ、左手の親指の爪を噛む。
サキは損傷を受けて動けなくなっているし、アスミ一人では荷が重い。
負けるとは思わないが、ここで二体のドールと引き換えにするには割が合わない。
せっかくベストに調整したドールだ。
まだまだ役に立ってもらわねば・・・
それに・・・
ゼーラは腕を一振りして結界をはずす。
彼女自身が結界を張ったと闇の代理に知られるわけにはいかない。
「いまいましいわね。せめてあの場を焼き尽くさないと・・・」
腹の虫が収まらない。
「まあ・・・いいわ」
闇に触れた人間どもが全て浄化される。
大人も子供も闇に触れたものは聖なる炎で焼かれるのだ。
そいつらの悲鳴を聞けば、少しは心が落ち着くだろう。
「えっ?」
空中でどうにかバランスを取り、そのまま校庭に着地する。
強力な結界ということで、デスハルバードに充分すぎるほどの魔力を込めて振り下ろしたのだ。
だが、デスハルバードは何も切り裂くことはなかった。
デスハルバードが結界に勝ったのではない。
そこには何もなかったのだ。
あったのはレディベータが張り巡らした結界。
これは闇の女であるデスルリカやレディアルファを押し留めるものではない。
なので、デスルリカはそのまま小学校の敷地内に入れたのだ。
「結界を・・・消した?」
スッと立ち上がるデスルリカ。
すぐさまその脇にレディアルファが舞い降りる。
「嘘・・・あんなに強力だった結界が・・・」
彼女にも結界がいきなり消えたのがわかったのだ。
だが、その理由がわからない。
光にとって結界の意味がなくなった?
そこまで考えてデスルリカとレディアルファが息を飲む。
それはすなわち、レディベータの敗北を意味するのではないだろうか。
「レディベータ!」
「ベータ!」
デスルリカとレディアルファは、急いで校舎に向かうのだった。
この場を浄化する。
それがゼーラ様よりの指示。
ホーリード-ルアスミはホーリードールサキを確保するべく闇の女と対峙する。
動作不能となっているホーリードールサキをこの場より遠ざけ、ここを浄化しなくてはならない。
そのためには・・・
「フリーズクラッシュ!」
ホーリード-ルアスミの杖が魔法陣を描き、強烈な冷気が噴き出した。
- 2009/07/15(水) 21:21:51|
- ホーリードール
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170万ヒットに始まる連続SS投下も一週間連続になりました。
今日は「グァスの嵐」の24回目です。
それではどうぞ。
24、
「ほら、どうした。脚がふらついているぞ。躰が泳いでいる」
突き出された剣先を涼しげな顔でひょいとかわす。
もとよりド素人の剣先などかわすのはわけはない。
だが、油断はできない。
素人だからこそ予測できない動きもしてくるからだ。
ダリエンツォはそのこともよく知っていた。
息が上がる。
躰がふらつく。
足元がおぼつかない。
細身の剣だというのに、剣の重みで腕がどうにかなってしまいそうだ。
だけど、なんだか気持ちがいい。
ダリエンツォ様に剣の稽古をつけてもらえるなんて。
彼の部下でもありえない幸運だ。
それに剣を振るうのは楽しい。
あの男を刺したときの気持ちよさが蘇る。
残念だわ。
あの時はたった一回だけだった。
今ならもっともっと切り刻んでやれたのに。
クラリッサの顔が狂気の笑みを浮かべる。
私をもてあそんだ男たちを私は赦さない。
クラリッサはへとへとになりながらも、剣を振るうのをやめなかった。
「まあ、だいぶよくなったかな」
苦笑するダリエンツォ。
タオルで汗を拭き、ワインのビンを傾ける。
「本当ですか、ダリエンツォ様?」
同じく汗を拭うクラリッサ。
白いブラウスが汗でピッタリと張り付き、豊かな胸を強調する。
「ああ、三日前に比べればな」
ワインのボトルを手渡すダリエンツォ。
クラリッサが受け取り、口をつける。
その様子をダリエンツォは笑顔で眺めていた。
この女・・・結構化けるかもしれん・・・
クラリッサを見てそう思う。
今まで家事しかこなしていなかったから動きはよくないが、素質は悪くない。
訓練すれば剣の腕も上達しそうだ。
何よりあの一件で俺に心酔している。
おそらく俺が命じれば、少々のことならやってくれるだろう。
手元において仕込んでみるのは悪くない。
「クラリッサ」
「はい、ダリエンツォ様」
名を呼ばれたことでうっとりとした表情を浮かべるクラリッサ。
ゆがめられた感情が彼女を支配しているのだ。
「俺の言うことなら何でも聞くか?」
「もちろんです、ダリエンツォ様」
「俺はお前の恋人を始末させた男だぞ」
「当然、当然です。あれは当然のことです。あの男は私を支配しようとしたんです。でも、ダリエンツォ様のおかげで私はあの男の本性を知ることができました。あの男は死んで当然なんです、ダリエンツォ様!」
クラリッサの目に狂気が走る。
こぶしを握り締め、まるで目の前にダリオがいるかのようだ。
「ダリエンツォ様が命令なさらねば、私自らが殺しましたわ。うふ・・・そう・・・一インチ刻みで刻んでやりましたわ。あは・・・あはははははは」
高笑いするクラリッサに、ダリエンツォは苦笑する。
ちょっとやりすぎたようだが、まあ、適度に狂った女も悪くない。
「明日出港する。そうガスパロに伝えてこい」
「えっ?」
クラリッサの笑いが止まる。
「ヒューロットからサントリバル、そしてアルバへ向かう。やはり自航船を追うのがいいようだ」
クラリッサが飲んだ後テーブルに置かれていたワインのボトルを取り上げるダリエンツォ。
ふと気がつくと、クラリッサの躰が震えていた。
「どうした? 早く伝えてこい」
「行って・・・行ってしまわれるのですか?」
「ん?」
口へ持って行きかけたワインのボトルが止まる。
「私を置いて・・・私を一人にして・・・行ってしまわれるのですか?」
クラリッサの目から大粒の涙がこぼれている。
その目はまるで主人に捨てられる子犬のようだった。
「やれやれ、何か勘違いしてないか?」
困ったものだとダリエンツォは苦笑する。
「誰がお前を置いていくと言った。お前も来るんだ」
「えっ?」
「お前は俺のものだ。一緒に連れて行ってやる」
「あ・・・」
クラリッサの表情がいきなり明るくなる。
「だから早く伝えてこい」
「かしこまりましたダリエンツォ様」
すぐに部屋を飛び出していくクラリッサ。
やれやれだ・・・
その後ろ姿を見てダリエンツォは肩をすくめた。
「これはいったい?」
物置小屋に入ったエミリオとフィオレンティーナは目を丸くした。
小屋にはさまざまな道具が置かれ、大きな鉄の塊が二つ、どんと鎮座していたのだ。
「ミュー、これはいったい何なんだい?」
思わずエミリオはミューを見る。
ミューは少し黙っていたが、やがて口を開いた。
「ミューは質問には答えなくてはなりません。これは蒸気機関と発電機です」
「蒸気機関? 発電機?」
やっぱり何がなんだかわからない。
おそらく自航船に関するものなんだろうということがうっすらと感じるだけ。
エミリオもフィオレンティーナもお互いに顔を見合わせるしかなかった。
「蒸気機関とか発電機って何をするものなのか教えてもらってもいいかな」
なんとなく尋ねていいのか躊躇する。
でも、目の前にこういうものがある以上、エミリオはそれがどんなものなのか知りたかった。
「今のはミューは拒否してもいいのでしょうか? ミューには教えていいのかどうか判断がつきません。マスターがいないとミューは判断ができないのです」
困ったように首を振るミュー。
その幼い少女のような外見に、エミリオはなんだか自分が悪いことをしている気がした。
「あ、いいんだいいんだ。無理に訊こうとは思わない」
エミリオは両手を振って発言を引っ込める。
「ただ、これがどんな働きをするものなのかが知りたかっただけなんだ・・・」
「もう、エミリオったら。別にこれがなんだっていいでしょ。無くて困るもんじゃなし。ねえ、ミューちゃん」
フィオレンティーナがエミリオをちょっと小突く。
ミューちゃんだって知られたくないことがあるのだ。
そこをちゃんとわかってあげないと。
フィオレンティーナはそう思った。
「はい。これが無いことでエミリオ様がお困りになることはないと思います」
「うんうん、ほら見なさい」
ミューの言葉にうなずくフィオレンティーナ。
「ミューちゃんだって困らないのよね。小屋ごと燃やそうって言うぐらいなんだから」
「はい。これが無くなればミューの動力があと六十五日ほどで停止するだけです」
「ほらね。ミューちゃんだって動力が止まるぐらい・・って、ちょっと待ってよ!」
フィオレンティーナの目が驚愕に見開かれる。
「動力が止まるって、どういうことなの?」
「ミュー、それはどういうことなんだ?」
エミリオも驚く。
先ほどミューは作られたものだと言っていた。
でも、そんなこと信じられるものじゃない。
だが、動力が停止するって・・・それはミューが動かなくなるってことなのか?
「動力が止まるとミューは全ての動作を停止します。再起動が行なわれるまで動くことはありません」
「動かなくなるの? ミューちゃんが?」
「そうです。動力が止まるとミューは全ての動きが止まります」
ミューはこくんとうなずいた。
「こ、これがあれば動かなくなることは無いのか?」
よくわからないが、この鉄の塊がなくなると動かなくなるというなら、これがあればいいのかもしれない。
「これがあれば水素が手に入ります。水素があれば動力が止まることはありません」
「はぁ・・・」
フィオレンティーナがほっと胸をなでおろす。
「よかったぁ。ミューちゃんはこれがあれば動かなくなることは無いのよね?」
「はい。水素を補給すればです。」
そこには微妙な差があるのだが、ミューは短絡的な質問として捉えた。
「ミュー。これをそのまま壊さずに置くことはできないかい?」
エミリオの言葉にミューは首を振る。
「チアーノ様は自ら自航船を破壊されました。それはミューに自航船に関する全てのものを破壊するように指示したのだと思います」
「いや、それはそうかもしれないけど、これは自航船に関するものじゃないだろう?」
エミリオが食い下がる。
難しいことはどうでもいい。
ミューが動かなくなっちゃうなんて、そんなのよくないに決まってる。
- 2009/07/14(火) 21:25:24|
- グァスの嵐
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こちらも超お久しぶりの「グァスの嵐」です。
23回目となります。
ではどうぞー。
23、
雨が強くなってくる。
それに伴い、風も勢いを増してきたようだ。
何をしに行ったのかわからないが、一人で大丈夫だろうか・・・
そう思うと気が気ではない。
これがエミリオのいいところでもあり困ったところでもある。
「ゴル、後を頼む。僕、ちょっと様子を見てくるよ」
立ち上がるエミリオ。
浅黒いたくましい青年の姿がそこにある。
「ん、わかった。船は任せろ」
ゴルドアンがうなずく。
こうなったらエミリオをとめることなどできはしない。
とことん納得するまで自分で動かないと気がすまないのだ。
そのことを知っているゴルドアンは、ただエミリオを送り出すだけだった。
「私も行く」
予想外の声がする。
ゴルドアンの横でスッと立ち上がるフィオレンティーナ。
その目はエミリオの背中に見据えられ、口をきっと引き締めていた。
「フィオ、だめだよ。嵐が来てるんだ。ここにいたほうがいい」
驚いたエミリオがすぐに止める。
「そのとおりだ。行くのはエミリオだけで・・・」
「ぐずぐずしてないで行くわよ。ミューちゃんが危ないかもしれないじゃない。それに二人いたほうが何かと便利よ」
ゴルドアンの声をさえぎり、ひょいと渡し板を飛び越えるフィオレンティーナ。
ここのところの航海で、だいぶ船の乗り方に慣れたらしい。
「フィオ、だめだって」
押し留めようとするエミリオの腕を掴み、そのままぐいぐいと引っ張っていく。
逆にエミリオがフィオレンティーナの後ろにつくことになってしまった。
「やれやれ、言い出したら聞かないのがここにもいたか。エミリオ、連れて行ってやれ。何言ってもあきらめないだろう」
苦笑するゴルドアン。
大きく広がった口の端が笑いに歪んでいる。
「ちょ、こら、フィオったら・・・わ、わかったから手を離して」
フィオレンティーナに引きずられる様な格好のエミリオ。
二人は桟橋からミューの向かった島の奥へと向かっていった。
物置小屋の火はくすぶっただけで消えてしまった。
家の方はちゃんと燃えたのに、風雨の強まりが火を急速に弱めてしまったのだ。
ミューは少しの間空を見上げ、渦巻く黒雲を見て首を振る。
「この風と雨では燃やすことができません。嵐が過ぎ去るのを待つしかないです」
左手首のレーザートーチを格納し、手首を嵌めなおす。
二、三度手首をひねって落ち着かせると、継ぎ目も目立たなくなった。
「一度船に戻り、嵐が過ぎたらまた・・・」
そうつぶやいて振り向いたミューの耳に、エミリオとフィオレンティーナの声がかすかに響く。
「エミリオ様とフィオレンティーナ様? どうして?」
二人はファヌーにいるはずなのに。
どうしてこちらに来たのだろう。
二人が彼女を探しに来たとは、まだミューには思えなかったのだった。
「ミュー! どこだーい? 嵐が来ているから戻っておいでー!」
桟橋から続く小道を上っていくエミリオとフィオレンティーナ。
どうやらここは人が住んでいる島らしい。
誰かの家に行ったのなら、そこで嵐が過ぎるのを待てばいいが、そうじゃなかったときが大変だ。
それを確かめたかったのだ。
「ミューちゃーん! どこにいるの? 返事をしてー!」
びゅうびゅうと吹き始めた風の音に逆らうように、フィオレンティーナが大声を張り上げる。
彼女にとってもなんだかあの少女はほっとけないものを感じたのだ。
なんだか可愛い妹のような感じを、フィオレンティーナはミューに抱いていた。
「エミリオ様、フィオレンティーナ様」
岩陰に続く小道から姿を現すミュー。
雨のおかげで着ているものが濡れている。
「ミューちゃん、ちょっと、ずぶ濡れじゃない」
自分も大して変わらず濡れているのを棚に上げ、フィオレンティーナは思わずミューに駆け寄る。
そして、腰にかけていた汗拭き用のタオルで、ミューの顔を拭ってやった。
「大丈夫かい、ミュー?」
エミリオも心配そうに尋ねるが、無事にミューが見つかったことで表情は明るかった。
「ミューは大丈夫です。でも、どうしてここへ?」
おとなしく顔を拭ってもらいながら、ミューは不思議そうな表情でエミリオを見上げた。
「嵐が来ているからね。ミューが心配だったんだ。雨風をしのげるところはあるのかい? なければエレーアに戻ってそこで嵐をやり過ごそう」
「あ・・・」
ミューは困ってしまった。
エミリオの言葉にどう答えようかとシナプス回路を電流が走りぬける。
だが、結局は正確な答えを言うしかミューには許されなかった。
「あります。ミューとマ・・・チアーノ様の家は半分以上焼けましたが、物置小屋がまだほとんど焼けずに残ってます。そこならば現状の損傷度合いでも嵐を避けることが可能と判断します」
ミューはそう言ってうつむいた。
「エミリオ・・・」
フィオレンティーナが驚いて顔を上げる。
「ミュー。やっぱりここは君とマスターの住んでいた場所だったのか」
「そうです。チアーノ様はここで十八年と四ヶ月間、ミューは十一ヶ月と二十四日間をここで暮らしました」
ミューがうなずき、雨に濡れた金髪が揺れる。
「ミュー・・・君がここへ来たのは、君たちが住んでいた家を焼くためだったのかい? もしかして自航船の痕跡を?」
「そうです。チアーノ様がいなくなってしまった今、蒸気ボイラーやプロペラなど自航船に関わるものを残してはいけないのです。この星の人々に技術を知らしめてもいいかの判断をミューがしてはいけなかったのです。ミューはこれ以上過ちを犯してはいけないのです」
「ミュー・・・」
エミリオは言葉が出なかった。
「ミュー。君はいったい何者なんだ? 君はこの星の人々って言った。この星ってなんだ? 星ってのは夜空に光るものじゃないのか?」
「ミューは正式にはM-T6(ミュー-タウゼクス)というナンバーの帝国製擬生物型星系探査補助ロボットです」
「へ?」
エミリオもフィオレンティーナも目が点になる。
ミューが言った言葉は何がなんだかわからない。
「帝国探査局の星系探査用宇宙船『プローバー73』に搭載され、この“グァス”にやってきました。任務は“グァス”の探査をする探査員のサポートでした」
「ミュー・・・」
「ミューちゃん・・・」
雨の中ミューを見つめる二人。
「ミューは“ターラック”の工場で作られた工業製品です。別の星から来た機械なんです」
そこまで言ってミューは黙り込む。
それは二人の反応をうかがっているようにも見えた。
「機械・・・ってなんだ? ロボなんとかって何なんだ? ミューは人間じゃないってことなのか?」
「嘘でしょ? だって・・・ミューちゃんこんなに温かいよ」
ミューの手を握るフィオレンティーナ。
「ミューの躰が温かいのは、擬生物型として作られたからです。燃料電池による発電の一部を熱に回しているのです」
「なに言ってるのかわからないよ。難しいこと言わないでよ」
フィオレンティーナは首を振った。
稲光が三人を照らし出す。
少し遅れて雷鳴が鳴り響いた。
「今はそのことはあとにしよう。その物置小屋に案内してくれ。そこで嵐を避けよう」
「そうね。今はそうしましょう。ミューちゃん、お願い」
「こちらです」
一瞬迷ったように動きを止めたミューだったが、すぐに二人を物置小屋に案内する。
三人は小道伝いに岩陰を抜け、一部が焼けた物置小屋に入っていった。
- 2009/07/13(月) 21:27:13|
- グァスの嵐
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「ホーリードール」も五日連続更新となりました。
今日は32回目です。
それではどうぞ。
32、
青白い光に赤い稲妻が走る。
漆黒の刃が青い細身の剣と触れ合い、干渉しあった影響だ。
鎌と剣を引き、跳び退ってにらみ合うレディベータとホーリードールサキ。
「邪魔なのよ・・・」
ブラディサイズを振り上げる。
巨大な鎌なのに、その重さを少しも感じさせてない。
「あんたは邪魔なのよ!!」
そのままホーリードールサキに向かって飛び掛る。
黒と青の軌跡が交差し、火花を散らす。
決着は容易にはつきそうにない。
「ガアッ!!」
うなりを上げて飛び込むブラックパンサービースト。
だが、またしてもほんのちょっとの差でかわされる。
これでもう何度目の跳躍だろう。
今度こそと思うたびに、鋭い牙が宙を噛む。
おかしい・・・
おかしいおかしいおかしい・・・
何かがおかしい。
どうしても噛み付けない。
噛み付くことさえできれば・・・
噛み付くことさえできれば、あんな小娘などは一撃なのに・・・
廊下を逃げ回った子供たち。
恐怖の表情でこっちを見ていた。
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら、必死に逃げ回っていく。
だが、無駄なこと。
追い詰めて引き裂いて噛み殺す。
まさに最高の瞬間だった。
これこそが求めていたもの。
なんてすばらしい世界。
なのに・・・
なのになぜ?
なぜこの赤い小娘には噛み付けぬ?
いったいなぜ?
焦り。
苛立ち。
いまいましさ。
憎しみ。
手に取るように伝わってくる。
ビーストの内なる感情が漏れ出しているのだ。
無様ですわ・・・
ホーリード-ルアスミはそう思う。
むき出しの感情など無意味なもの。
そのようなものを撒き散らしたとしても、結果が変わるわけではない。
むしろ、相手に読まれることで行動の選択肢を狭めてしまう。
現に今のビーストには行動の余裕がすでにない。
隙をうかがうとか、背後に回るとか、そういうことすらできはしない。
とにかくこちらに噛み付くことのみ。
それしか考えられなくなっているのだ。
「まったく・・・無様ですわ」
ホーリード-ルアスミは可愛らしいピンク色の唇を動かし、そうつぶやいた。
白い光が飛び散る。
どろりとした感触が腕に伝わってくる。
まるで固まりかけのゼリーでも切ったかのよう・・・
しかも、切った先からより厚く固まってしまう。
これほどまでの魔力をヘルアクスに注ぎ込んでも切り裂けないとは。
光の結界を甘く見ていたのかもしれない。
光の手駒をおびき寄せて捕らえるつもりが・・・
罠にかかったのはもしかしたらこちらなのかも・・・
その思いにレディアルファの背筋が凍りつく。
一刻も早くレディベータに合流しなくては・・・
レディアルファの焦りをよそに、時間だけが過ぎていく。
「うふふふふ・・・」
白いドレスのすそから覗くすらりとした白い脚。
その脚を挑発的に組み、肘掛にひじをついて頬杖をする女。
その顔には酷薄そうな笑みが浮かび、自らの行いに満足する。
「悪いわね。その結界はお前ごときでは破れないわ。私自らが張ったものですもの。闇の女ごときに破れるものですか」
彼女の視線の先には何もない。
だが、彼女はしっかりと事の成り行きを見つめていた。
これは違反行為。
行なってはいけないこと。
だがかまうものではない。
闇を滅するのだ。
可愛いドールたちに少々手助けしたとして、いったい何が悪いという。
「ばれなきゃいいのよ・・・」
ゼーラの赤く塗られた唇がそうつぶやいた。
何度目かの火花を散らして跳び退る。
この闇の女は強い。
大鎌を振り回すだけじゃなく、的確なところで魔法を撃ち込んでくる。
そのたびに体勢を合わせてはじき返し、逆にいくつかの魔力をこちらも撃ち込んだ。
だが、かわされる。
強い。
ビーストなど比べ物にならない。
だが、倒す。
闇は駆逐する。
光は闇を打ち払う。
レイピアを構えなおし、ホーリードールサキは一回呼吸を整えた。
ようやくですわね・・・
スッと杖の先を床に向ける。
力を抜いて緊張をほぐす。
次の動きに備えるのだ。
向こうの動きに対応するため、ぎりぎりまで動きを止める。
いらついたビーストがこの時を逃すことはありえない。
そのために何度となくかわして挑発したのだ。
「来てもいいですわ」
ホーリード-ルアスミは小さく微笑んだ。
標的の動きが止まる。
小刻みに動き回っていた標的がようやく止まった。
闇の女の指示も来た。
逃さない。
このチャンスは逃さない。
お前の命もここまでよ!
全身をバネのようにはじけさせ、ブラックパンサービーストは跳びかかった。
正面から跳び込んでくるビースト。
予想通りの軌跡を描く。
これで終わり。
ホーリード-ルアスミは杖を持ち上げて空中に円を書く。
円が魔法陣になれば、ビーストは浄化される。
「ライトニング!!」
空中に浮かんだ魔法陣から、青白い稲妻が放たれた。
「もらった!!」
再度ブラディサイズを振り下ろすレディベータ。
もとより当たることは期待しない。
これは牽制。
次に魔法をぶつけ合うのもわかっているはず。
でもね。
あっちの戦い自体をダミーにしちゃったことには気付いてないでしょ。
ビーストは単純。
だからこそ御しやすい。
激しい戦いの中でも、主人の命令を無視するようにはできていないのよ。
「えっ?」
予測がずれた。
ビーストを直撃するはずの稲妻がフェンスを直撃する。
しなやかな躰を思い切り伸ばしたビーストが頭の上を飛び越える。
その行き先は・・・
「ドールサキ!」
ホーリード-ルアスミは警告の叫びを発していた。
大鎌の刃をレイピアで受け流す。
そしてそのまま左手に魔力を込め、相手の出方を待ち受ける。
何度も繰り返される動き。
だが、今回は違っていた。
背後から急速に迫る闇の気配。
思わず反射的に左手の魔力を撃ち放つ。
青い光が漆黒の獣を直撃し、その勢いを押し殺す。
だが、漆黒の獣は止まらない。
片目をつぶされ、鼻を砕かれても止まらない。
ホーリードールサキはレイピアを構えなおす。
しかし、それこそが闇の狙いだった。
ズシンという衝撃。
腹部に熱いものが走る。
「ぐ・・・」
何?
今のは何?
損傷損傷損傷。
破損破損破損。
ダメージダメージダメージ。
頭の中で警告が走り回る。
あ・・・れ?
ここは・・・どこ?
私は・・・何を?
どさっと言う音と衝撃が響いてくる。
あれ?
私・・・倒れちゃった?
なんでだろう・・・
何か・・・変だよ・・・
「ライトニング!!」
ホーリード-ルアスミの杖が空中に魔法陣を描き出し、稲妻が走り出す。
「グギャァッ!」
頭にダメージを受けたブラックパンサービーストに、その稲妻を避ける力はもうなかった。
断末魔の叫び声を上げ、電撃に焼かれるブラックパンサービースト。
そのまま倒れて動かなくなる。
「ブラックパンサービースト!」
ホーリードールサキの一瞬の隙をつき、闇の牙を叩き込んだレディベータが思わずビーストに駆け寄る。
相手の隙を作ってくれた大事な手駒だ。
最後までおとりの仕事は果たしてくれたのだ。
レディベータは半ば焼け焦げた女性教師の遺体にしゃがみこみ、見開いたその目をそっと閉じさせた。
- 2009/07/12(日) 22:19:55|
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「ホーリードール」の31回目です。
楽しんでいただければ幸いです。
それではどうぞ。
31、
まるで爆発でもしたかのように、鉄の扉が吹き飛んだ。
紙切れのように宙を舞う鉄の扉。
「グアウッ!」
そのすぐあとから黒い影がうなり声を上げて飛び出してくる。
「ビースト!」
「動きが速いですわ。対応を間違えないで」
「言われなくても!」
青い少女がレイピアを持って黒い影に飛び掛る。
すぐさま赤い少女は杖で空中になぞり、その残像で魔法陣を形作る。
「フリーズクラッシュ!!」
空中に現れた魔法陣から強烈な冷気が噴出し、一直線に全てのものを凍らせる。
ビーストの軌跡が重なり合えば、動きを止めるには充分だ。
もし重ならなくても、それはそれで進路を制限し、ホーリードールサキのレイピアが命中しやすくなる。
ホーリード-ルアスミはそこまで読んで放ったのだった。
「闇の抱擁!」
叫び声と同時に漆黒の闇の塊がフリーズクラッシュの進路を阻み、冷気を全て吸収する。
闇による魔力の吸収だ。
「闇の女!」
扉の吹き飛んだ階段室に目をやるホーリード-ルアスミ。
“闇の抱擁”を使えるのは、闇の女をおいて他にはいないはず。
ビーストよりもまず対処するべき相手だった。
はたして階段室の入り口には、漆黒のレオタードとロンググローブを身につけ、それにニーハイブーツを履いて手には巨大な鎌を持つ闇の女が立っていた。
「やはりあなたですか。闇をまといし闇の女よ、聖なる光で浄化して差し上げます」
スッと杖を構えるホーリード-ルアスミ。
「うふふ・・・それはどうかしらね光の手駒さん。私たちは簡単に消されるほど弱い闇では無いわよ」
こちらもブラディサイズを構えるレディベータ。
おそらくブラックパンサービーストはもう一人の手駒を充分に引き付けてくれるはず。
魔法を主体とするこの女なら、それほど恐れることはない。
「闇は光の前に消え去るのみ。コロナ!」
ホーリード-ルアスミの杖が動き、レディベータの足元から火柱が立ち昇る。
だが、その動きは見切られており、レディベータの姿はすでにそこにない。
「甘いわ! 今度はこっちよ! ブラディサイズ!」
火柱を避けるための跳躍をそのままホーリード-ルアスミに向けての攻撃に転化するレディベータ。
漆黒の刃がホーリード-ルアスミの胸目がけて振り下ろされる。
「シールド!」
青白い光がホーリード-ルアスミの前に展開し、ブラディサイズを受け止める。
漆黒の刃がシールドと干渉して火花を散らし、その衝撃でレディベータは跳び退った。
「くっ」
再びブラディサイズを構えなおすその瞬間。
レディベータはまたしても床に転がって回避する。
肩口までの髪が風に舞い、その一部が切り取られた。
「ドールサキ」
「闇の女を確認。ビーストより優先浄化する」
レディベータの髪を一筋切り裂いたレイピアが青く輝く。
ブラックパンサービーストとの戦いを一時回避してホーリード-ルアスミの元へ駆けつけたのだ。
「やって・・・くれる・・・」
すばやく立ち上がり、ギリと唇を噛み締めるレディベータ。
その目は怒りに燃えている。
「気に入らないのよ、光の手駒。どうしてあんたがデスルリカ様の娘なわけ? どうして光の手駒なんかやっているわけ?」
隙をうかがっているブラックパンサービーストを背後に回らせ、自らは正面から光の手駒をにらみつける。
その目は赤い少女には向けられていない。
自分の全てを捧げる人の娘である青い少女に向けられていた。
「ドールアスミ、援護を。正面の闇の女は私が浄化する」
「わかりましたわドールサキ。存分に」
すいっと一歩下がるホーリード-ルアスミ。
力と力のぶつかり合いなら、ホーリードールサキのほうが適している。
それにしても・・・
あの闇の女は何を言っているのだろう・・・
「でぇぇぇぇぇーい!!」
大鎌を振上げて突進するレディベータ。
呼応するかのようにホーリードールサキもレイピアをかざして飛び掛る。
キンという甲高い音が響き、細身のレイピアが巨大な鎌の刃をはじく。
だが、それはレディベータの読んでいたこと。
ブラディサイズを受け流されるままにして、左手に魔力を込めて撃ち放つ。
「きゃんっ」
腹部に衝撃を受け、思わず声を上げてしまうホーリードールサキ。
そのまま返す刃を首筋目がけて叩き込む。
しかし、今度もホーリードールサキのレイピアが刃を受け止め、反動を使って後ろに跳び退る。
一瞬正面からにらみ合う二人の少女。
わずか数日前まで仲のよかった二人の姿はそこにはない。
「グアゥッ!!」
赤い少女に飛び掛るブラックパンサービースト。
その持てる全ての力でこの少女を屠るのだ。
それが命じられたこと。
闇の命令は絶対。
先ほどまでの昂揚感を維持したまま、目の前の赤い少女を食い殺すことだけが彼女の使命だった。
援護をしなくてはなりませんのに・・・邪魔ですわ・・・
ホーリード-ルアスミはわずらわしそうに跳びかかってくるビーストに眼をやった。
肉食獣を元にしたビーストの動きはすごく俊敏。
おそらくこれまで浄化したビーストのいずれよりも動きは速い。
だけど・・・
所詮はビースト。
闇の女との戦いに比べればたやすいもの。
ホーリード-ルアスミは跳びかかってきたビーストをわずかな動きでかわしてみせる。
ビーストは単純。
闇によって心の闇を引き出された人間に過ぎない。
その思考力も極端に落ち、ほぼ本能に突き動かされているだけの文字通りの獣だ。
ならば・・・
こうして挑発するような動きを見せれば、ビーストは頭に血を上らせる。
より無駄のない動きでこちらを襲ってくるだろう。
それは非常に読みやすい動き。
ホーリード-ルアスミはそれを待っていた。
「そ、そんな・・・」
予想しなかった事態にその端麗な顔が苦悩に歪む。
滑らかな薄い膜をまとったかのような、全身を漆黒のタイツで覆った女性が、小学校近くのビルの屋上に降り立った。
ピンヒールと言ってもよいほどのハイヒールのブーツがかつんと音を立てる。
本来ならこんなところに降り立つはずではなかった。
レディベータをカバーするために、小学校の屋上に降り立つはずだったのだ。
だが、それは叶わない。
結界によってはじかれたのだ。
小学校を覆う結界はレディベータが張ったもの。
闇が張った結界を闇が通り抜けることに何も問題は無い。
光の手駒たちは無理やり力ずくで結界を切り裂いたようだけど、レディアルファが入るのにはそんなことをする必要はないのだ。
なのに結界は彼女をはじいた。
考えられる理由はただ一つ。
「光も結界を張ったのか・・・」
レディアルファは唇を噛んだ。
「ヘルアクス」
闇が渦巻いて彼女の手元に巨大な斧が現れる。
「デスルリカ様。レディベータが光の結界に捕らわれました。すぐに取り返しに行きます」
ヘルアクスを構え、小学校を覆う光の結界を破りに行くのだ。
『レディアルファ、待ちなさい! 私もすぐに行き・・・』
「ベータ、今行くわ。待っててね。てぇーーーい!!」
レディアルファは小学校目がけてジャンプした。
- 2009/07/11(土) 21:50:02|
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三日連続となります「ホーリードール」の30回目をお送りします。
それではどうぞ。
30、
床に点々と血の跡をつけながら、次々と子供たちを襲うブラックパンサービースト。
黒い影が通った後には、真っ赤な地獄が広がっている。
食うためではない。
楽しいのだ。
恐怖に逃げ惑う獲物をいたぶるのが楽しいのだ。
興奮は肉体を極限まで駆り立てる。
それに応えてくれる強靭な肉体。
こんな楽しいことはほかにない。
ブラックパンサービーストは歓喜のうなりを上げて走り回っていた。
「あーあ・・・はしゃいじゃって。楽しそうだこと。でも、これで光の手駒がここへ来るのは間違い無いわね」
血に濡れた床をブーツで踏みしめるレディベータ。
すでにこの学校には結界を張ってある。
どんなに悲鳴が上がろうと、外に漏れる気配はない。
『あらあら、ベータったら。ちょっとやりすぎじゃないの?』
「アルファお姉さま?」
脳裏に響いてきた声にベータは思わず声を出す。
「だって、荒蒔紗希も浅葉明日美も学校に来てなかったんです。どうせおびき寄せなくちゃならないんなら、早い方がいいと思って・・・」
ちょっと口を尖らせて言い訳じみたことを言ってしまう。
『勘違いしないで、ベータ。とがめているんじゃないの。暴れまわることに夢中で警戒がおろそかになっているということなの』
「えっ?」
驚くレディベータ。
結界にはまだ何の反応も・・・
ズシンとした感触が躰を走る。
来た・・・
結界の一部が破損したのだ。
そのことはすぐにレディベータには感じられた。
どうやら光の手駒は、力任せに結界をこじ開けたらしい。
「来ました。奴らが来ました、アルファお姉さま」
『こちらでも確認したわ。すぐに行きます。油断しないで』
「はい、大丈夫です。アルファお姉さま」
そう言って両手を前にかざすレディベータ。
すぐに闇が渦を巻き、大きな長柄の鎌が現れる。
それをしっかり握り締めると、レディベータはぺろりと唇をひと舐めした。
午前中の小学校の校門前。
何人かの人々がふと足を止める。
どこからか現れた二人の少女が立っていたのだ。
おそらくその小学校に通っているであろうぐらいの少女たち。
一人はショートカットの髪をして青いミニスカート型のコスチュームを身にまとい、手には鋭い細身の剣が握られている。
もう一人は背中に達する長い髪に赤いミニスカート型のコスチュームを着て、手には杖のようなものを持っている。
その二人の姿があまりにも学校の校門前という状況に似つかわしくなくて、人々は思わず足を止めたのだった。
「行くよドールアスミ」
「ええ、闇が広がりつつあります。浄化しなければ」
二人は顔を見合わせ、うなずきあう。
そしていきなり青いコスチュームの少女が校門前を切り裂いた。
それは妙な光景だった。
青い少女はいきなり何もない空間を切り裂いた。
だが、X字に切られた空間は、確かに切れ目を生じたのだ。
そしてその切れ目を二人の少女は通り抜け、かき消すように消えてしまう。
何もない空間に消えてしまったのだ。
驚いた数人が駆け寄ったが、そこには何もなく、ただ静かに小学校へ通じる道があるだけだった。
小さく聞こえてくる悲鳴。
かすかに漂ってくる血の匂い。
結界に入ったとたん、二人はそれを感じ取った。
「まだ生き残りが大勢いるようですわね」
「うん。闇と接触してないといいけど・・・」
「無駄ですわドールサキ。すでにここは汚染されました。焼き尽くすのが賢明かと」
「そうだね。闇に触れたものは浄化するしかない」
ゆっくりと校舎に近づいていく二人のホーリードール。
彼女たちが気にかけているのは、生存者が少なくなってしまうことではない。
闇の攻撃を受けて戦闘不能になり、結果的に闇の侵食を食い止められなくなることなのだ。
だから、神経を張り巡らして接近する。
いつどこで攻撃を受けるかわからない。
闇は狡猾だ。
あの悲鳴も血の匂いもおとりで無いとは言い切れない。
「うるさい悲鳴ですわね。いっそ誰もいなくなってくれるといいんですけど・・・」
「でも、悲鳴のところにビーストがいると思う。一気に突入しようか」
今にも飛び出しそうな青い少女に赤い少女は首を振る。
「危険ですわ。この結界はビーストごときに張れるものではありません。闇の女が一人いるはずです」
「闇の女!」
グッとレイピアを握り締めるホーリードールサキ。
前回の戦いを思い出したのだ。
今度は逃がさない。
闇は浄化しなくては・・・
「闇の女の所在を確認するのが先です。ビーストごときはいつでも浄化できます。それにおあつらえ向きに闇がここに結界を張っていますから、ここから闇が漏れることもありません」
「そうだね、ドールアスミ。ビーストはたやすい」
「屋上へ上がりましょう。そこから闇の女を・・・」
「OK。それじゃ行くよ」
タンと地面を蹴る二人。
そのまま校舎の屋上までジャンプする。
普段は危険防止のために立ち入り禁止になっている屋上。
そのフェンスに囲まれている屋上に少女たちは降り立った。
「屋上か・・・」
思わず天井を見上げるレディベータ。
すでに廊下に動く影はない。
一階はほぼ全滅したのだ。
百人ほどいたはずの人間が、今はもう一人もいない。
悲鳴の中心はいまや二階に移っている。
玄関や窓から外に出ることができた子も少しはいるだろう。
だが、そんなのはどうでもいい。
ブラックパンサービーストは光の手駒をおびき寄せるという使命をちゃんと果たしたのだから。
あとは・・・
レディベータはブラディサイズをぎゅっと握り締める。
「ブラックパンサービースト! 屋上へ行きなさい! お楽しみはそこまでよ!」
「グアウッ!」
二階でうなり声が上がったのを、レディベータの耳は聞き取った。
屋上にある階段室の入り口。
そこを開ければ階段があって下に下りることができる。
でも、普段はかたく施錠され、屋上への出入りはできはしない。
扉自体も頑丈な鉄の扉だ。
だが、その鉄の扉の向こうからじんわりと闇が漏れてくる。
闇が近づいてきている証拠だ。
どうやら向こうから来てくれるらしい。
二人のホーリードールは無言で左右に展開する。
ただ闇を駆逐する。
その目的のためだけに・・・
- 2009/07/10(金) 21:56:04|
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夕べに引き続き「ホーリードール」の29回目です。
お楽しみいただければ幸いです。
29、
甘い液体が喉の奥に滑り込む。
あ・・・
その瞬間、百合子の躰に震えが走った。
決して悪寒ではない。
それどころかとても甘美な震えだ。
ああ・・・
全身の力が抜けていく。
とろりと甘く、それでいてさわやかな液体。
もっと・・・
無意識に求めてしまう。
百合子はいつの間にかレディベータの舌に自らの舌を絡めているのだった。
ドクン・・・
心臓が跳ね上がる。
あ・・・
百合子の目から光が消える。
ドクン・・・
スーッと心が冷え込んでいく。
ドクン・・・
あ・・・ら?
私・・・いったい?
百合子は何がなんだかわからない。
まるで周りには何もなくなってしまったかのようだ。
あれは・・・?
百合子の目の前に黒いものが現れる。
あれは何?
黒いものは百合子の前で突然金色に輝く目を開く。
ひっ!
息を飲む百合子。
だが、なぜかその金色の二つの目から目をそらすことができない。
それどころか、その目にまるで吸い込まれそうに感じていることに気が付いていた。
あの目・・・どこかで・・・
心の奥底がえぐられる。
彼女自身も忘れていた心の奥底。
それが今じわりと広がっていた。
ああ・・・そうだわ・・・
あれはいつだったろう・・・
両親に連れられて行った動物園。
檻の向こう側にいた美しい獣。
真っ黒の毛皮を身にまとい、金色の目で周囲をにらみつけていた。
しなやかな躰で隙のない動きをして獲物を選り分けるかのように人間を見下していた。
本来なら檻の中で身を守るべきは人間のほう。
なのになぜあの獣は檻の中で人間をにらみつけているのだろう・・・
檻の中の獣と目が合った。
そうだわ・・・
この目だった・・・
金色の輝くこの目。
すごく美しかった。
しなやかで・・・
それでいて獰猛で・・・
黒い毛皮がとても美しかった・・・
そうよ・・・
私もあんなしなやかで強靭な躰が欲しかった・・・
美しい黒い毛皮が欲しかった・・・
獲物を選り好みして引き裂く強さが欲しかったのよ・・・
私は欲しかったの!
ドクン・・・
「あ・・・が・・・」
百合子の背筋がピンと伸びる。
かけていたメガネが床に落ちる。
口が裂け、犬歯がめきめきと音と立てて尖っていく。
瞳は縦に細くなり、金色に輝き始める。
耳も尖り、鼻はちょんと突き出てふるふると震えるひげが伸びていく。
両手の爪も鋭い鉤爪へと変化し、着ているものを引き裂いていく。
「あ・・・ぐ・・・ぐる・・・ぐるる・・・」
うなり声を上げながら、百合子の躰は変わっていく。
女性のラインを残しながら、黒い毛皮に覆われたしなやかな肉食獣へと変わっていくのだ。
「ふーん・・・先生の闇は黒猫なんだ。いや、ちょっと違うわね。もしかして黒豹かしら」
見た目は悪くないものの、さえない女性教師とばかり思っていた縁根先生にこんな闇があるとは驚きだった。
だが、ドーベルビースト同様、しなやかな肉食獣のビーストは悪くない。
レディベータは目の前で変化していく百合子を笑みを浮かべて見つめていた。
「グル・・・グルルル・・・」
四つんばいになりうなり声を上げるビースト。
金色の目がらんらんと輝き、お尻から伸びた尻尾がゆらゆらと揺れている。
鋭い爪と牙が獲物を引き裂きたくてうずうずしているようだ。
もはや縁根百合子はそこにいない。
いるのは闇に心を犯され、肉体までも変えられてしまった邪悪なビーストがいるだけだった。
「うふふ・・・さしずめブラックパンサービーストってところかしら」
レディベータが近寄り、ビーストの喉を撫でてやる。
「グルルル・・・」
「うふふ・・・可愛いビーストになったじゃない。気に入ったわ。餌にするのはもったいないけど、さあ、光の手駒をおびき寄せるのよ。存分に暴れなさい!」
躰をすり寄せ喉を鳴らすビーストに、レディベータは命令する。
「グアゥ!」
ブラックパンサービーストは一声うなると、体育用具室の扉を開け、学校内に飛び出した。
「うふふふ・・・これでここは血の海ね」
レディベータの口元が笑いに歪んだ。
「きゃあー」
「いやぁー」
「うわーん」
さまざまな声が交錯する。
授業中に突然教室に入ってきた巨大な黒い獣が、いきなり教師に飛び掛ったのだ。
喉を噛み切られた教師はその場で絶命し、血しぶきを撒き散らす。
生徒たちはあまりのことに悲鳴を上げて逃げ惑う。
それを黒い獣は次々と爪と牙で切り裂いていった。
「グルルル・・・タノシイ・・・タノシイワァ・・・」
返り血で血まみれになりながら、ブラックパンサービーストは興奮を隠しきれない。
逃げ惑うガキどもを殺していく。
それがこんなに楽しいことだったなんて。
鉤爪で引き裂き牙で食いちぎる。
躰はとてもしなやかで強靭。
自分がこんなにすばらしい存在になれたなんて・・・
最高。
最高だわぁ。
生まれ変わった百合子はその肉体のすばらしさを存分に味わっていた。
「目が覚めた?」
直立不動で立ち尽くす青い少女。
その目はじっと目の前にいる白いドレスの女性に注がれている。
「はい、ゼーラ様」
さくらんぼのような可愛い唇が言葉をつむぐ。
ゼーラは仕上がりに満足した。
「それでいいわ。さあ、アスミもいらっしゃい」
優雅な仕草が赤い少女を差し招いた。
「はい、ゼーラ様」
脇にじっと控えていた少女がスッと青い少女の隣に立つ。
その様子はさながら一幅の絵画のようだ。
「んーん、いい感じだこと。さあ、お行きなさい。また闇が広がりを見せているわ。聖なる戦士の力で闇を浄化するの。いいわね」
目の前に少女たちに惚れ惚れするゼーラ。
この娘たちはこれまでのドールとはわけが違う。
じっくり念入りに調整した一級品。
闇の脅威に充分対処できるはず。
大いなる闇め・・・
この娘達の力を見るがいいわ。
「「かしこまりましたゼーラ様」」
口をそろえて一礼する二人のドール。
白い光の空間から姿を消す二人に、ゼーラは笑みが浮かぶのを止められなかった。
- 2009/07/09(木) 21:58:27|
- ホーリードール
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にこっ◇にこっ◇きょうはなんだかうれしいです!えへへ……☆
*このエントリは、
ブログペットのココロが書いてます♪
- 2009/07/09(木) 10:10:08|
- ココロの日記
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すみませんでした。
本当にお待たせしてしまいすみませんでした。
気が付いたら、前回掲載からなんと一年も経ってしまっておりました。
本当に本当にすみませんでした。
「ホーリードール」の第28回目をお届けします。
お楽しみいただけましたら幸いです。
28、
「それじゃ行ってらっしゃい。私はこのあたりで時間をつぶしているから、何かあったらいつでも呼んでくれてかまわないわ」
紺のスーツ姿で雪菜を見送る美野里。
その様子は、出勤前に妹を見送っている姉の姿そのものだ。
「ありがとうアルファお姉さま。それじゃ行ってきます」
にこやかな笑顔を見せる雪菜。
だが、すぐにペロッと舌を出した。
「いけない、この姿のときは美野里お姉さんだったっけ」
「そうよぉ。誰にも聞かれなかったと思うけど、私たちが闇の女であることはまだ知られるわけにはいかないわ。まあ、人間どもの中にわかる奴がいるとも思えないけどね」
困ったものだというように苦笑する美野里。
彼女自身黒いレオタード姿のレディベータを見慣れているせいで、目の前の少女の姿に違和感を感じているのだから仕方がない。
「とにかく、光の手駒には充分注意して。奴らは闇に触れたものを容赦しないわ。徹底的に浄化してくるわよ」
「わかってる。紗希ちゃんが光の手駒だなんて信じたくなかったけど、彼女はもう憎むべき敵・・・」
そう言いながらも雪菜の言葉には力が感じられない。
「ふう・・・留理香様のご命令とは言え、光の手駒を生かして捕らえなければならないとは・・・ね」
美野里も肩をすくめてしまう。
デスルリカ様の大事な娘である荒蒔紗希。
光に捕らわれ光の手駒になっている彼女を、どうにかして確保しなくてはならないのだ。
それは容易なことではない。
「ねえ、アルファお姉さま・・・」
「えっ?」
美野里は一瞬とがめることを忘れてしまう。
それだけ彼女を見上げる雪菜の眼差しは真剣だったのだ。
「私たちではだめなんですか?」
「えっ?」
「私たちではだめなんですか? 私たちでは荒蒔紗希の代わりにはならないんですか?」
「ちょっ・・・雪・・・いえ、ベータ・・・」
真剣に問いかけてくる雪菜を、美野里はそっと物陰に連れて行く。
「アルファお姉さま・・・私たちではデスルリカ様の娘になれないんですか? 私はもう身も心も闇の女です。大いなる闇とデスルリカ様の忠実なしもべです。荒蒔紗希なんか必要ないって言ってくれないんですか?」
「ベータ・・・」
そっと雪菜を抱きしめる美野里。
レディベータのデスルリカ様への気持ちが痛いほど伝わってくる。
それは自分にとっても同じ思いがあるからだった。
「ベータ・・・」
「はい、アルファお姉さま」
ゆっくりと雪菜を放す美野里。
「あなたの気持ちはよくわかるわ。光の手駒などにされてしまった人間の娘など、私にとっても面白くない存在。でもね・・・」
美野里は自分にも言い聞かせるように言葉を区切る。
「決めるのはデスルリカ様なの。私たちはデスルリカ様の命令にただ従うのみ。それがデスルリカ様に闇の女にしていただいた私たちの使命なのよ。わかるわね」
雪菜はゆっくりとうなずいた。
「わかりました、アルファお姉さま。つまらないことを言いました。忘れてください」
美野里は黙って首を振る。
「つまらなく無いわ。私も同じ気持ちだもの。でも、これは二人だけのことにしておきましょうね」
美野里のウインクに、雪菜は思わず顔がほころんだ。
「おはよー」
「おはよー」
「おはよう、小鳥遊さん」
教室に入った雪菜をクラスメートが出迎える。
みんなにこやかな笑顔で、雪菜がどんな存在なのか気にもしていない。
以前の雪菜であれば楽しかったであろうこの世界も、今の雪菜にはわずらわしくくだらないだけの世界だ。
「おはよう。あれ? 紗希ちゃんと明日美ちゃんは?」
雪菜は二人の席が空いていることに気が付いた。
「知らなーい。来てないよ。お休みじゃない?」
「そう・・・」
クラスメートの返事にちょっと気がそがれる雪菜。
これから光の手駒と対峙しなくてはならないと考えていただけに、拍子抜けは仕方がない。
雪菜は空いた二つの席を横目に見ながら席に着いた。
結局、始業時間までに紗希も明日美も姿を見せはしなかった。
担任の縁根先生も、連絡がないことを気にしているようだった。
おそらく闇と接触したことで、手駒の動きを制限したのかもしれない。
だとすると、もう学校には来ない可能性がある。
探りを入れるべきね・・・
雪菜は教室を見渡し、手ごろな餌を探すのだった。
「ん・・・」
身じろぎするホーリードールサキ。
青いミニスカート型のコスチュームを身に着け、青いブーツと手袋を嵌めて空中に横たわっている。
その頭部には青くうっすらと光を放つヘルメットが目元まで隠すように覆い、ホーリードールサキを完成へと導いていく。
白い空間には他には何もなく、ただ、少し離れた一段高くなったところに椅子がしつらえられてあり、そこに白いゆったりとしたドレスをまとった女性が座っていた。
女性は物憂げな表情で浮かんでいるホーリードールサキを見つめ、その口元に笑みを浮かべている。
そして、誰に聞かせるでもなくこうつぶやくのだった。
「ようやく完成。これでこの世界は光のもの・・・」
「はい・・・電話では風邪をひいたのでお休みさせるとのことでした・・・」
うつろな表情で雪菜に答える縁根百合子。
そろそろ中年と言ってもいい年齢だが、メガネをかけた顔は知的美人と言ってもよく、生徒の人気も高かった。
「まあ、そんなところよね。いいわ。どうせカモフラージュしているでしょうし、光の拠点となっているでしょうから行ってみても無駄でしょうし・・・」
パチンと指を鳴らして百合子を解放する雪菜。
浅葉家に電話をさせてみたのだが、マニュアルのような回答しか得られなかったというわけだ。
「えっ? あら? 小鳥遊さん? 私はいったい?」
突然のことにきょろきょろとしてしまう百合子。
今まで雪菜の支配下に置かれていたことなどわかっていない。
「餌はやっぱり暴れさせるのが一番よね」
冷たく笑みを浮かべる雪菜。
「えっ? 暴れる?」
「ねえ、先生」
目の前の少女がささやくように語り掛けてくる。
いつも教室で見ている小鳥遊雪菜の雰囲気とはとても似つかわしくない妖艶な笑みが浮かんでいる。
百合子は背筋がぞっとした。
この娘は何か違う。
本能が恐怖と危険を伝えてくる。
思わずあとずさる百合子だったが、すぐに壁に阻まれる。
「えっ? ここは?」
「体育用具室よ。結界を張ったから誰も入ってこられないわ」
笑みを浮かべながら近づいてくる雪菜に、百合子は思わず悲鳴を上げる。
「うふふ・・・いいわよ、その恐怖の表情。でもすぐに気持ちよくなるわ。ビーストに生まれ変わればね」
「いやぁっ!! こないで、こないでぇ!! 誰かぁ!!」
脇をすり抜けるようにして入り口へ向かう百合子。
雪菜はそれを邪魔する様子もなかったが、扉がかたく閉ざされていることを知って百合子は絶望した。
「開けてぇ!! 誰かぁ!! ここから出してぇ!!」
「無駄だって言ったでしょ。先生の声は誰にも聞こえないわ。うふふふ・・・先生の闇はどんなものかしらね」
雪菜の周囲に闇が湧き起こる。
そして闇が雪菜の躰を覆いつくし、やがて闇は晴れていく。
そこにはつややかな漆黒のレオタードを身にまとい、黒い長手袋と同じく黒いニーハイブーツを履き、肩口までの髪を漆黒のカチューシャで留めた少女が立っていた。
そして、ぬめるような漆黒に塗られた唇を、真っ赤な舌がペロッと舐めまわす。
「あ、あ、あなたはいったい・・・」
入り口を背にして恐怖におびえながら少女を見つめる百合子。
「うふふふ・・・私はレディベータ。大いなる闇にお仕えする闇の女。さあ、あなたの闇を広げてあげる」
百合子の頭を両手で掴み、グッと引き寄せるレディベータ。
そのまま百合子の唇に自らの唇を重ねていった。
- 2009/07/08(水) 21:54:45|
- ホーリードール
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本日7月8日のどうやら午前中あたりに、当ブログはめでたく170万ヒットに到達いたしました。
いつもいつも申し述べていることではございますが、これもひとえに皆様のご訪問くださいますおかげです。
これからも200万ヒット300万ヒットとこの数字を伸ばせるように、更新を続けていきたいと思います。
どうかこれからも応援よろしくお願いいたします。
本来であれば、いつものように記念SSを投下するところなのですが、今回はちょっとタイミングを見誤ってしまいまして、記念作品の投下は先送りとさせていただきます。
短めのものではありますが、近々やってくる4周年記念のおりに記念作品は公開させていただこうと思いますのでご了承くださいませ。
その代わりといってはなんですが、超久しぶりの作品を少し書き加えましたので、そちらをお楽しみいただければと思います。
公開はこのあと22時ごろになる予定ですのでお楽しみに。
それでは今後とも「舞方雅人の趣味の世界」をよろしくお願いいたします。
- 2009/07/08(水) 20:45:05|
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「植木の戦い」「木葉の戦い」で相次いで官軍乃木隊に勝利した薩軍でしたが、戦果を拡張することには失敗しました。
敗走する乃木隊を追撃し、部隊を北上させて南関まで制圧下に納めようという意見も出ましたが、なぜかその意見は採用されず、むざむざと植木方面まで後退し、防御陣を張りました。
これは一説によれば、薩軍本営からの指示であったとも言われますが、指示そのものがなかったという説もあり、はっきりとはいたしません。
しかし、後知恵的視点に立てば、この時南関まで薩軍が支配下においていれば、福岡から南下して来た官軍はさらに時間を取られることになったのは明白であり、以後の局面に大いに影響を与えたのではないかといわれます。
薩軍は好機を逸したのでした。
熊本城の強襲をあきらめ、包囲だけにとどめることに決した薩軍でしたが、2月24日になってもなぜか強襲が続けられておりました。
22日夜に決したはずの決定がずるずると引き延ばされていたのです。
ですが、さすがに無謀な歩兵突撃は鳴りを潜め、ほぼ砲撃による攻撃に終始してきておりました。
ここにいたり、ようやく薩軍も熊本城強襲をあきらめたと言えるでしょう。
薩軍はじょじょに部隊の再配置を始めておりました。
福岡から南下してくる官軍を迎え撃つために、桐野隊は山鹿方面へ、篠原隊は田原方面へ、村田隊と別府隊は木留方面へと分派され、熊本城の包囲には約三千の兵力を残し、池上四郎が包囲部隊の指揮を取ることになります。
ほかに永山弥一郎の三番大隊が、海岸線の守備に就くために展開。
薩軍は熊本北部に広がることになりました。
二度にわたる敗退で、軍旗や兵を失った乃木少佐率いる小倉第十四連隊でしたが、このままおめおめと引き下がるつもりはありませんでした。
一度は寺田山まで後退したものの、そこで兵力を再集結し、高瀬方面に向かいます。
高瀬は菊池川西岸にある集落で、菊池川にかかる橋もあり、交通の要衝でした。
官軍にとって、ここを押さえることは絶対必要なことであり、薩軍の進出をなんとしても阻止しなくてはならない場所だったのです。
乃木は一個中隊を菊池川左岸の江田に派遣。
本隊の左翼を援護させ、本隊そのものは2月25日の夜明けごろに高瀬に無事に到達いたしました。
高瀬に入った乃木隊は、菊池川の堤防沿いに陣を構築。
ここで薩軍を迎え撃つ態勢を取ります。
一方、官軍主力である第一旅団と第二旅団からなる征討軍本隊は、24日には久留米を出発し、翌25日に南関に到着します。
正勝寺に本営を置いた征討軍本隊は、ここで小倉第十四連隊の戦闘報告を聞き、現在高瀬にて布陣中という情報を手に入れました。
そこで第一旅団長である野津少将は、乃木隊に応援を送るべく一個中隊を高瀬へ急行させます。
この一個中隊は、なんと全員を人力車で移動させるという手段をとり、移動の時間を短縮することに成功しました。
さらに第一連隊と第八連隊から二個中隊ずつ引き抜き、長谷川好道中佐に指揮を取らせて高瀬に向かわせます。
ようやく乃木の小倉第十四連隊は孤軍奮闘の立場から解放されることになるのでした。
高瀬での戦いは、2月25日の午後4時ごろから始まりました。
薩軍の三番中隊の三個小隊を率いた岩切喜次郎が、高瀬大橋を渡って正面の乃木隊に攻撃を仕掛けます。
さらに熊本の不平士族で編成された熊本隊が下流側で菊池川を渡河。
岩切隊とともに乃木隊に圧力をかけました。
両翼からの攻撃に、乃木隊はまたしても後退を余儀なくされましたが、ここで第一旅団の長谷川中佐の四個中隊が戦場に到着。
すぐさま乃木隊を支援して薩軍と交戦に入りました。
長谷川中佐の四個中隊は、第一連隊の二個中隊が岩切隊に対応し、第八連隊の二個中隊は第二線を形成します。
乃木隊を押し込んでいた薩軍でしたが、ここで戦線は膠着。
そこで熊本隊の一部が側面を迂回しようとしましたが、これも察知されて撃退されてしまいます。
戦闘は膠着のまま二時間ほど続きましたが、日没となり自然終決いたします。
薩軍は後退し、官軍はそのまま高瀬を保持したままで夜営に入りました。
第一次高瀬会戦はこうして幕を下ろします。
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- 2009/07/07(火) 21:29:21|
- 西南戦争
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