今年最後の更新は、ガンダムSSです。
洗脳も改造も悪堕ちもありませんが、ちょっと異色のガンダムSSを楽しんでいただければと思います。
それではどうぞ。
「ソドン325号」
「ミノフスキー粒子の濃度、えらく高いです。こりゃ奴ら来てますね」
ナビゲーター席のウォルフマン軍曹が目の前の計器から顔を上げる。
ふう・・・
私は心の中でため息をつく。
どこで間違ってしまったのだろう・・・
どうして私はこんなところにいるのだろう・・・
外は絶対零度の冷たい宇宙空間。
そして右手に広がる巨大な天体、月。
私はどうしてこんなところにいるのだろう・・・
「コーゼル艇長、速度を落としてください。もし奴らがこのあたりにばら撒いていたとしたら危険です」
私はウォルフマン軍曹にうなずいた。
物思いにふけっている暇はない。
今は戦争中なのだ。
今はコロニーの建設よりも、破壊が優先なのだ。
私はスロットルを絞り、このソドン325号を減速させた。
ソドン325号は外洋タグボートともいうべき巡航艇だ。
強力なエンジンと推進剤タンクを後部に持ち、その前部にコクピットがついているといった感じの代物で、ミノフスキー粒子下での運用が前提のために視界はとてもよく作られている。
エンジン推力も高く、MS-06Cを二機曳航してもまったく問題がないほどだ。
この巡航艇をベースに、軍用のさまざまなセンサーを載せたり機雷敷設装置を搭載したりしたのがこのソドン325号であり、いわゆる特設敷設艇と呼ばれるものである。
通常は敷設艇と呼ばれることからもわかるとおり、敵軍の航路に進出して機雷をばら撒くのが任務であるが、時には逆の任務、掃海を命じられる場合もあり、ソドン325号は月とサイド3間の航路掃海の任務についていた。
もっとも、ルナ2近辺の制宙権しか持たない連邦軍が機雷戦を行いにやってくることなどめったになく、今のところは掃海と言うよりも哨戒と言ったほうがいいのではあるが。
『こちらサールトン。減速したようですが、何かあったんすか?』
ソドン325号から後部に伸びるワイヤーにしがみつく形のMS-06Fから通信が入ってくる。
この06Fも通常のザクではなく、後部バックパックに機雷敷設設備を持つマインレイヤー型と呼ばれるタイプだった。
「艇長のコーゼルよ。この周囲はミノフスキー粒子の濃度が極端に濃くなっているわ。連邦軍が仕掛けて行った可能性があるのよ」
私は周囲に目を凝らしながら艇を進める。
ムサイ級の軽巡でさえ、対艦機雷に触れたら大破はまぬがれない。
こんなちっぽけな特設敷設艇など木っ端微塵に吹き飛んでしまうのだ。
『了解。急激な機動を考慮し、いったん離脱します』
「そうしてちょうだい。機雷原を見つけたら掃海作業に入るわ」
『了解です』
06Fが手を離したおかげで、ちょっとだけ艇の重さが軽くなった感じがする。
ワイヤーで曳航する場合、こちらの機動に合わせて06F側でもバーニアを吹かしたりしなくてはならない。
そうじゃないと慣性の法則でお互いに振り回される羽目になってしまうのだ。
06Fなどのモビルスーツは推進剤の余裕は小さい。
自力で戦場や現場へ向かったりすれば、いざその場に着いたときには推進剤切れなんてことにもなりかねないのだ。
だからこうして推進剤に余力のある艦艇によって現場に運んでもらう。
できれば母艦設備のある軽巡や戦艦によって運ぶのがベストだが、こういった小型艇に曳航されるのも悪くない。
私の乗るソドン325号の真上に占位するMS-06Fマインレイヤー。
機雷原捜索中の私たちをカバーしてくれるのだ。
おかげでこちらは敵影におびえることなく捜索ができる。
こんな公国の近くまで来て機雷敷設をしていったのだとすれば、おそらく強襲機雷敷設艦。
サラミス級あたりの巡洋艦を改装して作ったやつに違いない。
だとしたら砲撃力だってそれなりに持っている。
ふう・・・
どっちにしてもこんな小艇じゃ木っ端微塵ね。
「艇長、あれを」
ウォルフマン軍曹が窓外の一点を指差す。
「えっ?」
思わず私も指差す方向に目を凝らす。
どこ?
見えないわ・・・
あ・・・
あれか?
ある・・・
あるわ・・・
機雷の群れだわ・・・
それは太陽光の反射を極力抑えた黒い塗装の邪悪な球体の群れだった。
あちこちからとげを突き出した球体は、直径が二メートルほどもある代物。
一撃で船を大破させるその球体が、ざっと見ただけでも二百から三百ほどは浮かんでいる。
気がつかなければまともに突っ込み、大爆発を起こしてしまうだろう。
一刻も早く掃海してしまわなくてはならない。
こんな航路近くじゃいつ船が通るかわからないわ。
「ゆっくりとやっているような数じゃないわね。オリーヌ、すぐにレーザー通信で本部に打電して。本格的な掃海艦をよこしてくれって頼むのよ」
「了解です、艇長」
私の背後の席に座る茶色の髪のそばかす少女、オリーヌ・ジュオー上等兵がすぐに通信パネルに通信文を打ち込んで行く。
おそらく数時間もすれば掃海艦が来るだろう。
でも、それまで放っておくわけにも行かないわ。
「破片爆雷は何個ある?」
「五つです。とても足りませんね」
ウォルフマン軍曹が肩をすくめる。
足りるはずがないわね。
これほどまでにばら撒かれているとは思わなかったもの。
先ほどまではおそらく貨物船に化けた敷設艦が二・三十個仕掛けて行くのがせいぜいだと思ってた。
そのぐらいなら破片爆雷五個もあればどうにか処理できるのだ。
「いいわ、できるだけのことはやりましょう。破片爆雷でできるだけ破壊し、あとはマインレイヤーのザクマシンガンとこの艇の機銃で一個ずつ破壊するしかないわ」
「やれやれ、それしかないですね」
ウォルフマン軍曹も苦笑する。
まあ、やらないよりはマシってことね。
「サールトン曹長、聞こえる?」
『こちらサールトン。聞こえます、准尉殿』
「今から機雷原を処理にかかるわ。破片爆雷を打ち出すから気をつけてね。それが終わったら残った機雷を片っ端からマシンガンで狙撃して」
我ながら情けない命令だと思う。
浮いている機雷を一つずつつぶすだなんて・・・
でも、機雷処理はこれが一番確実な手段。
流れた機雷で民間船が沈んだりしたら目も当てられないわ。
『了解です。やれやれですね』
「まったくだわ。いつも連邦にやってやっているお返しをされたわね」
私は苦笑した。
『コーゼル准尉殿! 何か来ます!』
いきなりマインレイヤーのサールトン曹長が大声を上げる。
「何?」
私は窓外に目を凝らした。
「後ろです! 後ろから!」
ウォルフマン軍曹が叫んだので、私はとっさに艇を反転させ、接近する物体に正対させた。
「赤外線パターン照合・・・民間船です。航宙輸送公社の貨物船C型です。本国に向かっているんだ」
「オリーヌ! すぐに進路を変更するように伝えて! このままじゃ機雷原に突っ込んじゃう!」
「了解です。接近中の貨物船へ、こちらは特設敷設艦ソドン325号。直ちに進路を変更せよ! 繰り返す、直ちに進路を変更せよ!」
通信機に向かってオリーヌが必死に訴える。
お願い、間に合って・・・
「ミノフスキー粒子のせいで発見が遅れた。速度が速い。間に合えばいいが・・・」
「こちらも進路をずらします。破片爆雷の投射は中止。貨物船が通り過ぎるのを待つわ」
私はソドン325号を貨物船のコースからはずし、様子を見る。
『こちら貨物船C-28。どういうことですか? いったい何が?』
「機雷原に向かっています。いいから早く進路を変えて!!」
のんきに返信してきた貨物船に、オリーヌが思わず怒鳴りつける。
無理もない。
あと五秒もすれば回避不能になってしまうのだ。
とにかく早く進路を変更してもらわねば。
窓外に見える貨物船は、ようやく船体各所のバーニアノズルを点火する。
コンテナを大量に積み込んだ大きな船体が、ゆっくりとその進路を変え始める。
お願い・・・間に合って・・・
私は祈るような思いで貨物船の針路変更を見つめている。
手袋の中はもう汗でじっとり。
あの船には少なくとも十数人が乗り組み、満載された貨物は本国が待ち望んでいる大事な貨物なのだ。
機雷ごときで失うわけにはいかないのよ。
「貨物船、針路変更右三十度。どうやら回避間に合いますね」
ウォルフマン軍曹もホッとしたような表情を見せる。
私も大雑把な計算で貨物船が回避可能であることを確かめて、思わず表情を緩めるのだった。
いきなり窓外に光が走る。
貨物船の横腹から爆発が起きる。
「きゃあっ!」
「えっ? 何?」
オリーヌの悲鳴が上がり、私も思わず目を疑った。
光は続けざまに走り、そのたびごとに貨物船から炎が噴きあがる。
よたよたと回避行動を取っていた貨物船などひとたまりも無い。
「敵です! 畜生! 近くに潜んでいやがった!」
「対空警戒! サールトン曹長離れて! まとまっているとやられるわ! 敵は何なの?」
私はすぐに艇を起動させ、ランダム加速を開始する。
「ああ・・・貨物船が・・・」
オリーヌの悲しげな声とともに、ゆっくりと分解していく貨物船。
あれではもう助からない。
「作業用ポッドらしきもの二機。その背後にでかいのがいます!」
「でかいの?」
「おそらく母艦です。形状は連邦のコロンブス型に酷似」
私は手元のモニター画面に目を落とす。
そこには太陽光を受けてグレーに輝く大型船と、こちらに向かってきているであろう作業用ポッドが映し出されていた。
「連邦め・・・なんてものを」
私は思わず絶句する。
その作業用ポッドのてっぺんには、巨大な大砲が一門付いていたのだ。
一体何を考えているのか・・・
あんなものを作業用ポッドにつけたりしたら、まともな機動などできなくなるに違いない。
でも、貨物船を砲撃したのはこいつらに間違いない。
おとなしく機雷原に突っ込むことを期待していたのが、進路を変えそうになったので砲撃したということか・・・
許せない連中だわ。
「サールトン曹長! ザクマシンガンの準備は?」
『できてます。任せてください。あんなポッド一撃でひねり潰してやりますよ』
すでに戦闘態勢をとっているサールトン曹長の06Fマインレイヤー。
背中のバックパックのおかげで戦闘稼働時間は通常の06Fより短いものの、戦闘力そのものはそう変わるものではない。
「油断しないで。あんなものでも大砲の威力は大きいわ。当たったら命取りよ」
『わかってます。大丈夫ですって』
マインレイヤーが敵の作業用ポッドに向かっていく。
こちらも少しでも援護をするべく、私は艇の機関砲をそちらに向けた。
敵の作業用ポッドは砲身を振りたててマインレイヤーを迎え撃つ。
二対一ということで自分たちが有利と判断したのかもしれない。
でも、そんな作業用ポッドに大砲つけただけの代物でマインレイヤーに立ち向かう?
私は右舷機関砲の発射を命じた。
少しでも敵作業用ポッドの注意をそらし、マインレイヤーの援護をしてやるのだ。
ウォルフマン軍曹が機関砲を操作し、砲弾をばら撒いていく。
曳光弾が光の尾を引いて作業用ポッドに向かう。
もちろん直撃を期待したものではないが、当たってくれと念じてしまうのは仕方がない。
サールトン曹長のマインレイヤーもザクマシンガンを連射しながら突っ込んでいく。
あの作業用ポッドの大砲ならば、これだけの機動をしている物体には当たりづらいはず。
逆にザクマシンガンは接近したほうが命中させやすい。
案の定敵の作業用ポッドは慌てふためいて左右に散る。
連携も何もないあわてぶりだ。
二対一の数の優位よりも、機体性能が段違いだということに気が付いたのだろう。
今さら遅いけどね。
貨物船の仇は取らせてもらうわよ。
きらっと何かが光る。
敵の作業用ポッドがいたあたり。
一体何が?
私はハッとした。
罠だ。
あいつらは私たちと同じ機雷敷設屋だ。
ワイヤーの両端に機雷をつけた奴をマインレイヤーの進路上に置いておけば・・・
「サールトン曹長! 軌道を変えて!!」
私の声はほとんど悲鳴に近かった。
モビルスーツは運動性に優れた兵器だ。
その理由の一端はAMBACによる機体制御。
モビルスーツを人型たらしめている手足を使って姿勢制御を行なうのだ。
そのことが裏目に出た。
サールトン曹長の頭の中からは、所詮敵は作業用ポッドに大砲をつけただけという認識が抜けなかったのだろう。
怖いのは二機が連携して撃たれること。
だから私も機関砲でその連携を崩すべく射撃を命じたのだ。
サールトン曹長もそう思い、まずは二機をばらばらにするべくその中心に向かって突っ込んだ。
ところがそれは敵も予想していたことだった。
二機の作業用ポッドは慌てふためいたように見せかけ、左右に展開することでマインレイヤーを誘い込んだのだ。
マインレイヤーのとる手段としては、いったん二機が散開した中央部をすり抜けて、AMBACですばやく後ろを向き、逃げる二機のどちらかの背後から射撃をするというのが定石だろう。
その上で軌道変更してもう一機を屠ればいい。
このやり方で我が軍は今まで多数の連邦軍宇宙戦闘機を撃破してきたのだから。
今回もそうするのが当たり前だったのだ。
「いやぁっ!」
私の背後でオリーヌが悲鳴を上げる。
窓外で起こる爆発。
マインレイヤーが爆散したのだ。
「サールトン曹長・・・」
私は声を失った。
マインレイヤーは定石どおり敵作業用ポッド二機の間をすり抜けた。
そしてAMBACで姿勢制御するために手足を振る。
その位置にワイヤーが浮かべてあるとは気が付かなかったのだ。
いや、万一気が付いたとしても、すでに遅かったのだ。
ワイヤーを引っ掛けてしまえば、端に付けられた機雷が引き寄せられる。
軌道を変えようとしたところで絡み付いてくる。
そして機体にぶつかったところで爆発する。
AMBACはそれをほんの少しだけ早めたに過ぎないのだ。
ワイヤーの端に付けられた二個の機雷の爆発力に、マインレイヤーが耐えられるはずは無かった。
「コーゼル艇長、奴ら来ます」
私は一瞬呆けていたらしい。
ウォルフマン軍曹の声にハッとする。
窓外には勝ち誇ったような連邦の作業用ポッドがゆっくりと近づいてくるのが見える。
ブルーグレーの機体にガンメタルの大砲が輝いていた。
「こちらを無事に帰すつもりは無いってことね。当然でしょうけど」
「どうします? こちらには機関砲しか武装がありません」
もともとタグボートに毛が生えたような巡航艇。
武装などたかが知れている。
推進剤のおかげで最終速度(全ての推進剤の半分を延々と加速に使い、残り半分で減速して速度を0にする場合の瞬間最高速度のこと。数値上は光速を超えることもある)こそ速いものの、巡航加速は大きくない。
逃げ出しても敵の射程外に出るのは難しいだろう。
「それでもやるしかないわ」
私は操縦悍を握り締めた。
「艇長、連邦から通信です。“直ちに降伏せよ”」
オリーヌの沈んだ声が流れてくる。
降伏なんてできるものですか。
「オリーヌ、降伏は拒否するって言ってやんなさい!」
「えっ?」
オリーヌの驚いたであろう顔が目に浮かぶ。
たぶん返信するとは思ってなかったのだろう。
だが、すぐに彼女がコンソールを操作する音が聞こえてきた。
「ウォルフマン軍曹、破片爆雷用意」
「了解です。しかし破片爆雷じゃ・・・」
かわされるのは百も承知。
だが、少しでも隙ができれば儲けもの。
敵の冷静さを失わせてやる。
降伏勧告の拒否と同時に、破片爆雷を投下する。
機関砲も一連射して少しでも被害を与えるべく試みたが、やはり相手はかわしてきた。
だが、破片爆雷の爆散破片を食らえばただではすまないのはわかっている。
連邦の作業用ポッドはあわてて回避行動に移り、爆散球(爆発した破片が球状に広がる状態)から離れていった。
ブンという音を立てそうな勢いで、曳光弾が艇の脇をかすめていく。
こしゃくな小艇と思ったのだろう。
マインレイヤーを失った以上、降伏するのが当たり前だと思ったに違いない。
それが降伏を拒否したばかりか、逃げることなく向かってきたのだ。
叩き潰してやると意気込んでいるのだろう。
二機の作業用ポッドは、ばらばらの軌道を取りながらも、こちらにその大砲を撃ってきたのだ。
私はランダム加速で艇の動きを幻惑させる。
加速と減速を繰り返し、相手の照準を狂わせるのだ。
その上で相手を引き寄せるべく逃げ回る。
どうかうまくいって・・・
オリーヌもウォルフマン軍曹も無言でそれぞれの仕事に打ち込んでいる。
時折私の命で機関砲を撃ち、破片爆雷を投射する。
連邦の作業用ポッドは最初は遠くから、やがて当たらないことに業を煮やしたのか、追いすがってきて射撃してくるようになった。
おそらく弾数が少ないのだろう。
かといってこちらを逃がす気にもなれないから、接近して一撃でしとめようという腹なのだ。
推進剤の量は少なくても、機動性ならこちらより上と思っているのだろう。
機動性とは加速力ではない。
ようは何回姿勢制御できるかなのだ。
推進剤の量が多ければ多いほど、加減速に使える量も多くなる。
それだけランダム加速もできるのだ。
今頃はちょこまかと逃げ回るこの艇に、熱くなっているに違いない。
食いついてくる二機の作業用ポッド。
背後を取られるぎりぎりの瞬間に軌道を変えてやる。
それだけで射線をかわし、相手に射撃の機会を与えない。
でも、さすがに何分間もその状態を維持できるものじゃない。
相手も無駄な射撃をしてこなくなっている。
あと少し・・・
このまま食いついてきて・・・
じりじりとした時間。
相手も相当に焦れているはず。
おそらく次の一撃ははずさないと決めている。
ほんの一瞬のチャンスがあれば、指はトリガーを押してしまうはず。
私はそのことにかけていた。
一瞬私は艇をふらつかせる。
ランダム加速に酔ったふりをしたのだ。
これだけ加減速を繰り返せば酔いが来ても不思議じゃないし、事実オリーヌはさっきから吐き気をもよおしている。
私もかなりきつかったが、何とか気力で持ちこたえていたのだ。
おそらくこれで敵の作業用ポッドも気付いたはず。
こちらのランダム加速が鈍ると考えてくれれば・・・
私は誘いをかける。
大きく艇をふらつかせ、その後しばらくは直進する。
これで次には撃ってくる。
私はそのときを待っていた。
再度艇をふらつかせた私は、艇を直進軌道に載せる。
1・・・チャンスという判断。
2・・・照準セット。
3・・・トリガーボタンを押す。
いまだ!!
私は大きく艇を軌道からはずす。
曳光弾が二発、艇の背後から左脇をかすめるように飛んでいく。
やった!
私は思わず叫んでいた。
軌道が交差するすれすれで、私たちの艇は相手の船体をかすめていく。
ブルーグレーの船体が大きく窓外に広がり、そして急速に脇に遠ざかる。
おそらく奴らに回避の余地はない。
今頃はきっと・・・
二発の砲弾は、艇をかすめて飛び去った。
そしてその行き先には、コロンブス型の補給艦があったのだ。
おそらく機雷敷設艦に改造され、武装作業用ポッド二機を搭載していた母艦だろう。
私は最後の瞬間に相手の射線がそいつと重なるようにしてやったのだ。
二発の砲弾がコロンブス型に突き刺さる。
そして、ぎりぎりで回避した私たちの艇とは違い、二機の作業用ポッドは回避する暇はなかった。
彼らに残された道は激突しかなかったのだ。
背後で爆発するコロンブス型と二機の作業用ポッド。
内蔵していた機雷が連鎖爆発しているのだろう。
いくつもの爆発が起き、周囲に破片を振りまいていく。
あれでは誰も助からない。
貨物船乗員に対する、せめてもの慰めになるだろうか・・・
******
数時間後、私たちは掃海艦と合流し、機雷の除去を行なった。
連邦の機雷敷設艦と二機の武装作業用ポッド、どうやら“ボール”という名前らしいものを撃破したことは、本部に報告されるらしい。
私はともかく、ウォルフマン軍曹とオリーヌには昇進という話ぐらい出てほしいものだわ・・・
私は・・・そうね・・・少し休暇が欲しいかな・・・
そんなことを考えながら、掃海艦に曳航される艇の中で、私は少し眠りに付くのだった。
- 2008/12/31(水) 19:32:52|
- ガンダムSS
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今年も一年が終わります。
今年はうるう年でしたので366日あったんですね。
個人的にはダメダメな一年でした。
でも、こうして今年もまた毎日更新を続けることができました。
これはひとえに皆様の応援のおかげだと思います。
皆様、本年もいろいろとお世話になりました。
また来年も応援よろしくお願いいたします。
一年間どうもありがとうございました。
よいお年をお迎えくださいませ。
今晩最終更新を行ないます。
久しぶりのガンダムSSを投下いたしますのでお楽しみに。
それではまた今晩。
- 2008/12/31(水) 12:41:03|
- 日常
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「宇宙戦艦ヤマト」のうちの一作ではありません。
新たなリンク先のご報告です。
あの「煉獄歯車」の霧鎖姫ジャック様とキツネスキー様が帰っていらっしゃいました。
そして新たなるお気持ちでブログを立ち上げられたのです。
その名も「同人と海」
URLはこちら
http://jackkirisaki.blog97.fc2.com/現在、新作「淫魔村」というゲームをおつくりとのことですが、その制作状況など含めてブログに思いをつづっていかれるとのこと。
私も非常に楽しみかつ応援をしております。
村人が淫魔堕ちですよ!!
期待しないわけには参りませんですよねー!!
ジャック様、キツネスキー様、どうかこれからもよろしくお願いいたします。
リンクありがとうございました。
- 2008/12/30(火) 20:42:14|
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昨日は独軍の野戦炊事馬車のことを紹介いたしましたが、この野戦炊事馬車は、シチューやスープといういわば“おかず”(副食)を作る役割のものでした。
それでは第二次世界大戦中の独軍の主食は何であったのか。
それは“軍用パン”(Kommissbrot)と呼ばれるライ麦パンでした。
ライ麦パンは小麦のパンに比べて腹持ちがよく、不規則な食事となりがちな兵士にとっては助かるものだったのです。
また、固めに焼いておけば、保存という面でも有効だったといわれます。
現在でもほぼ同じような作り方で作られた独軍軍用パンがあるそうで、こちらに詳しく載っております。
ttp://10.studio-web.net/~phototec/dizbred4.htm
普段私たちが口にするパンとはまったく違う感じですね。
さて、この軍用パン。
日持ちもそれなりにするし、一度に大量に消費するので、本国のパン工場で焼き上げて前線に送られるのかと思うとさにあらず。
なんと、各歩兵師団、装甲師団には製パン中隊という名のパン焼き部隊が配属され、自前でパンを焼いていたのでした。
製パン中隊には昨日の野戦炊事馬車と同じような野戦移動式オーブンと野戦移動式パン練り機が配属され馬で引いたりトラックの荷台に据え付けたりして移動したようです。
そのほかに材料であるライ麦などを運ぶためのトラック(もしくは馬車)が付随し、中隊の要員は資料によって異なりますが、約130名前後だったようです。
もちろん彼らはいずれも軍人であり、いざとなれば銃を手に戦うこともありました。
特に東部戦線では、戦線後方といえどもパルチザンが跳梁し、彼らの任務も決して安全ではなかったのです。
製パン中隊は、師団の上部組織である軍団から師団に回されてきた材料を元に、自前でパンを焼かねばなりませんでした。
時には製粉されていない麦粒を渡されることもあったので、製パン中隊には大型の電動機と製粉機が常備されておりました。
また、場合によっては占領地で材料を徴発(いわば略奪)することもあったようです。
独軍の一個歩兵師団は約一万五千人ほどで構成されておりました。
一人当たりの軍用パン支給量は一日約700グラム。
軍用パン一斤の重さが約750グラムだそうですので、大体一人一斤の計算になるようです。
製パン中隊はこの軍用パンを一日に約一万二千斤ほど焼くことができたそうなので、一個師団の支給をほぼまかなえたのではないでしょうか。
一口に一万二千斤の軍用パンといっても、焼くためには膨大な量の材料がいります。
材料だけでも一日約10.5トン必要だったといいますし、その粉を練るための水も一日で約一万五千リットルという量が必要でした。
そのため、北アフリカの砂漠などでは、軍用パンを焼くのに海水を使ったともいいます。
適度な塩味が付くので問題なかったとか。
こうして毎日独軍の兵士たちは、製パン中隊のおかげで軍用パンを食べられたのでしたが、製パン中隊の仕事はこれだけではありません。
ドイツ人は甘いお菓子が好きなのだそうで、そういったお菓子や場合によってはケーキを焼いて振舞うのも製パン中隊の重要な任務でした。
クリスマスなどの節目の日には、事情が許す限りお菓子やケーキを焼いて将兵に振舞ったのだそうです。
写真などを見ると、ティーガーの乗員が、弾薬補給中にこの軍用パンの補給も受けているシーンなどが見られます。
丁寧に扱わなければならない砲弾とは違い、泥だらけのフェンダーの上にゴロゴロと無造作に置かれた軍用パンの姿が印象的でした。
おいおい、口に入れるものだろうとも思いましたが、そんなことは些細なことなんでしょうね。
小林源文先生のマンガにもありました。
「そのくらいなんだ! 味がよくなるぞ!」
それではまた。
- 2008/12/30(火) 20:37:52|
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昨日まで二週間もの間一本のお話にお付き合いいただき本当にありがとうございました。
今日はまた趣味の話です。
古今東西どこの軍隊でも、戦いというものを人間が行なう限りついてまわるものの一つに「食事」があります。
最近は「ミリめし」なんていって、軍用レーションを一般的に手に入れることもできたりするようですが、ああいう近代的レーションはともかく、第二次世界大戦時には携行食というものはあまり美味しいものではないものだったようです。
また、兵士個々人の士気を保つ上でも、食事を楽しむということは大きいものがあり、いつもいつも携行食料で済ませるわけには行かないという事情もありました。
できれば戦場でも温かくて美味しい食事が食べたい。
こうした兵士の欲求をかなえるため、第二次世界大戦中の各国軍では野戦炊事車を用意して、戦場近くまで進出し、そこで炊事を行なうことで温かい食事を兵士に届けるべく努力します。
この野戦炊事車の中でも、おそらく一番メジャーになってしまったのが、この独軍の野戦炊事馬車ではないでしょうか。
タミヤ模型様にて模型化されたことで、おそらく多くの人々の目に触れることになったと思います。

この独軍の野戦炊事馬車は、前車(リンバー)と後ろの調理レンジ車に分かれ、通常は二頭ないし四頭の馬で牽引します。
機械化の進んでいた独軍ではありますが、まだまだ一般の歩兵師団クラスでは馬が重要な輸送手段でありました。
前車には調理器具や食料、さらには配食用のコンテナなどが積まれ、コックと御者が座れるようになってます。
ここから馬を御するのです。
そして野戦炊事馬車のメインとなるのが後部の調理用レンジ車です。
一本の煙突を高々とそびえ立たせているため、「シチュー砲(Gulaschkanone)」という愛称で呼ばれました。
この調理用レンジ車は後ろから見た場合、右側がオーブン、中央が大きなシチュー鍋、そして左側がコーヒー鍋という構成になっていて、それぞれが独立した火室を持っていて別々に調理することができました。
燃料には石炭やコークス、練炭、薪などいろいろなものが使えるようになっており、三つの火室(オーブン、シチュー、コーヒー)それぞれから出た煙が一本の煙突からまとめて排出される形になっています。
シチュー鍋は安全弁の付いた二重構造の圧力鍋になっており、調理時間を短縮できるようになってます。
さらに、外鍋と内鍋の間には液体が入っていて、熱を均等に伝えるようになっていると同時に保温性も高めているとのことです。
コーヒー鍋のほうは下部にコック(蛇口)が付いており、鍋のふたを開けなくてもコーヒーを注ぐことができました。
写真などで見ると、朝食はコーヒーのみなんてことも多かったようです。
(温かいものがという意味。おそらくパンは付くと思います)
この野戦炊事馬車は、歩兵一個大隊に一両小型のものが配属され、屠殺中隊あたりから受け取った肉やソーセージと野菜を煮込んでシチューかスープの形で給食したようです。
大体110リットルほどのスープを作ることができた(小型炊事馬車の場合)そうで、約100人から120人ほどの食事を供給することができました。
この野戦炊事馬車の周りに集まって、温かい食事を取りながら談笑する時間が、前線の兵士たちにとってはまさに生きていることを実感させてくれる時間だったのかもしれませんね。
それではまた。
- 2008/12/29(月) 20:33:32|
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「七日目」の十四回目です。
これで最終回となります。
二週間という長い間一本の物語にお付き合いくださりありがとうございました。
それではどうぞ。
14、
「皇帝陛下、ご紹介いたします。我が機械帝国の新たなる戦士、メカレディA1、A2、A3、A4の四体にございます」
謁見の間にて俺は背後に従えた四体のメカレディを紹介する。
もちろん壇上の玉座には誰もいない。
だが、皇帝陛下は全てを見通しておられ、それはメカレディたちにもわかるだろう。
俺たちの両脇には機械将アルマー、機械博士ヘルブール、そして機械部隊長メレールが控えている。
アルマーは憎憎しげに、ヘルブールは無機質に、そしてメレールは笑みを浮かべながら俺に視線を向けていた。
『メカレディたちよ』
玉座より重々しい声が響く。
「「ギーッ!」」
俺に対するときとは違い、片ひざをついた状態で右手を胸のところで水平にするメカレディたち。
頭を垂れて皇帝陛下の威光にひれ伏している。
『予に忠誠を誓うがいい』
「「ギーッ! 私たちは機械帝国のメカレディ。皇帝陛下に永遠の忠誠を誓います」」
見事なハーモニーで答えるメカレディたち。
『うむ。これより機械参謀ゴラームに従い、地上を支配する人間どもを駆逐するのだ。よいな』
「「ギーッ! お任せくださいませ。地上に巣食う虫けらのごとき人間どもを駆逐し、皇帝陛下のご威光を知らしめてご覧に入れます」」
『ゴラームよ』
「ハハッ」
俺は皇帝陛下のお言葉に思わずかしこまる。
『メカレディたちを使った作戦、楽しみにしておるぞ。存分に手腕を発揮して見せよ』
「ハハッ」
そうだ。
これで終わりではない。
これからが俺の作戦のスタートなのだ。
地上の人間たちよ恐怖に打ち震えるがいい。
隣人があくる日には機械になっている恐ろしさをたっぷりと味あわせてやる。
『アルマー、ヘルブール、それにメレールよ』
「「ハハッ」」
皇帝陛下のお言葉に思わず頭を下げる三人。
『ゴラームに従いその作戦の手助けをせよ。ゴラームの命は予の命だと心得るがよい』
うわ・・・
俺は思わず振り向いてしまう。
「な、なんですと? この私にこんな出来損ないの指揮下に入れと言われますのか?」
愕然とした表情で顔を上げているアルマー。
無理もない。
さんざん俺のことを機械の出来損ないとバカにしていた奴だ。
今さら俺の指示に従うつもりもないだろう。
俺としてもアルマーに命令するなど願い下げなんだが・・・
『予の命ぞ、アルマー』
「聞けません! このような出来損ないの指揮下にされるなど機械将の名折れ。そのようなふざけた命など聞けるものか!」
すっくと立ち上がるアルマー。
こいつ、何をする気だ?
「機械帝国の指揮官はこの私だ! こんなでく人形などに頼らずとも地上は支配して見せるわ!」
腰につるされた剣が抜き放たれる。
しまった!
アルマーはメカレディたちを破壊する気か。
俺は歯噛みした。
間に合わない。
「A1! よけろ!」
俺はアルマーに跳びかかりながら叫んでいた。
ガシュッ!!
剣が振り下ろされ、赤いオイルが飛び散る。
俺がカバーに入る間もなくアルマーの剣がA1を襲ったのだ。
だが、飛び散ったのはA1の循環液ではなかった。
「メ、メレール!」
俺は目を疑った。
俺がアルマーに跳びかかるよりも前に、メレールがA1のカバーに入ってくれたのだ。
そしてアルマーの剣はそのメレールの肩口を切り裂いていたのだった。
「メレール様!」
「メレール様!」
A1もA4もただ声を上げるだけ。
上位機種であるアルマーには逆らえないのだ。
「くそっ、離せ出来損ないめ!」
俺はアルマーに二度目の斬撃を行なわせないように必死にしがみつく。
情けない話だ。
機械将であるアルマーは俺とは性能が違う。
だが、同格であることから、俺はアルマーに跳びかかることができたのだ。
絶対離してなるものか!
「ア・・・アルマー・・・皇帝陛下の命令に逆らうつもり?」
肩を抑えながら立ち上がるメレール。
ちくしょう!
茶色い毛皮が赤く染まっているじゃないか。
すぐに修理しないと・・・
「黙れ! ゴラームのような出来損ないに・・・」
こいつめ、まだ俺が人間だったことをそのように・・・
俺は機械帝国の機械参謀だぞ!
『愚か者め』
皇帝陛下の重々しい声が響く。
その言葉にビクッとなり動きが止まるアルマー。
皇帝陛下の恐れ多さは俺自身も動きが止まるぐらいだ。
もうアルマーが剣を振るうことなどできないだろう。
『機械将アルマーよ。無様だぞ。もうよい。ご苦労であった』
「こ、皇帝陛下。そ、それは?」
アルマーがふらふらと玉座に向かう。
俺はただなすすべもなく手を離して見送るだけ。
『機械将の任を解く。スクラップとなるがよい』
「バ、バカなー!」
アルマーが叫ぶと同時に躰の各所から火花が飛び散る。
そして轟音とともにアルマーの躰ははじけ跳んだ。
俺はただ唖然としてその光景を見ているだけだった。
あの尊大で何者も恐れないと豪語したアルマーが・・・
俺はあらためて皇帝陛下の恐ろしさを感じるとともに、その偉大さにひざをついて敬意を表した。
『メレールよ』
「は、はい、皇帝陛下」
メレールもすぐにひざをつき頭を下げる。
肩からはまだ循環液が流れ落ち、回路を遮断したのか右腕は垂れ下がったままだ。
『そなたを後任の機械将に任ずる。すぐに修理を受け、任務に就任せよ。よいな』
「は、はい。ありがたき幸せ」
「めれーるヨ、シュウリスルカラコチラヘコイ」
ヘルブールが立ち上がる。
「う、うん、頼むよ」
二人が謁見の間を出て行くのを俺はホッとした気持ちで見送った。
リラックスルームのソファーに座っているメレール。
右肩はもう修理を終えたらしい。
俺は保管庫からオイルジュースを取り出すと、メレールに向かって放り投げる。
「あ、ありがと」
修理された右腕がなんでもないことを見せるように、メレールは右手でボトルを受け取った。
俺はもう一本オイルジュースを取り出すと、メレールの隣に腰を下ろす。
キャップをひねって一口飲むと、心が落ち着いていくのがわかった。
「もう大丈夫なのか?」
「うん。もう大丈夫。ヘルブールがちゃんと直してくれたから」
にこっと微笑むメレール。
いかんなぁ。
この微笑みは魅力的過ぎる。
「そうか・・・」
俺はもう一口オイルジュースを流し込む。
「心配した?」
「当たり前だ。アルマーの剣の前に飛び出すなんてどうかしている。肩だけですんだからいいようなものの・・・一つ間違えば修理不能なことになっていたかもしれないんだぞ!」
それは本当のこと。
アルマーの斬撃は並みじゃない。
コマンダースーツだって一撃で切り裂くのだ。
「うん、それはわかってる。あたしだってあんなことするなんて考えなかった。でもね・・・」
「でも?」
「A1が斬られるのいやだった。あのまま壊されたくないって思ったの。もしかして・・・これってゴラームの言っていた“好き”の一種なのかな?」
答えを求めるように俺を見つめるメレール。
「だったら・・・そうだったら、あたしもメカレディが好き。一番好きなのはゴラームだけど、メカレディも好きでいい」
なんだ・・・
メレールもメカレディを気に入ってくれたんじゃないか。
だからあんなことを・・・
ふふふふ・・・
俺は思わず笑みが浮かんだ。
シュッと空気が切り裂かれ、またしてもオイルジュースのボトルが切り裂かれる。
「うわっ?」
俺は思わず跳び退った。
「むーっ! あたしが真剣に話しているのに笑ったなー! 赦せーん! ぶっ殺ーーす!」
フーッと毛を逆立てているメレール。
その鉤爪が鈍く光る。
こいつはー。
ジュースぐらいちゃんと飲ませろよ。
俺は切り裂かれたボトルを握ったまま、メレールと対峙する。
やれやれ・・・
俺は苦笑した。
この時間がいつの間にか楽しくなっていることに気が付いたのだ。
確かに俺はアルマーの言うとおり、矛盾だらけの機械もどきだろう。
だが、こうして純粋機械のメレールと戯れることに楽しさを感じる。
おそらくこれが俺の幸せなのだろうな。
ただ・・・オイルジュースはまともには飲めないらしい。
まったくもって、やれやれだ・・・
******
「はっ、こ、ここは?」
手術台の上に大の字で寝せられている黄田彩華(きだ あやか)。
いや、コマンダーイエローといったほうがいいだろう。
コマンダーブレスレットは取り外され、生まれたままの姿で何も身につけてはいない。
「目が覚めたようね、彩華」
「えっ? ひ、弘美先輩?」
彩華のそばに現れたのはメカレディA1。
かつてのコマンダーピンク桃野弘美だ。
ほかにもA2以下三体が笑みを浮かべて彩華を見下ろしている。
「うふふふ・・・それは私のかつての名前。今の私は機械帝国の忠実なしもべ。メカレディA1なの」
「メ、メカレディ? そ、そんな・・・メディカルチェックは・・・」
愕然としている彩華。
救出されコマンダーピンクに復帰したA1が、まさか機械帝国の一員だったとは思わなかったのだろう。
おろかなことだ。
「うふふふ・・・私は機械なのよ。機械に思いのままのデータを表示させるなど簡単なことだわ」
冷たい笑みを浮かべているA1。
無力化したコマンダーイエローの姿が楽しいのだろう。
「そ、そんな・・・弘美先輩が機械帝国の・・・」
「心配はいらないわ。すぐにあなたも機械であることを誇りに思うようになる。ゴラーム様はあなたもメカレディに加えることになさったの。光栄に思いなさい」
「そんな・・・そんなのいやぁっ! 機械になるなんていやよぉっ!」
手術台の上で必死にもがく彩華。
だが両手両脚を固定されている以上、逃れることなどできはしない。
「おとなしくなさい。あなたは幸運よ。ゴラーム様は私たちのデータから、より効率的に思考をメカレディ化することができるようになったの。二日もあればあなたはもう完璧なメカレディに生まれ変わることができるわ」
A1が彩華の頭を優しく撫でる。
そして控えていたメカデクーたちに彩華の機械化を命じた。
「ひいっ!」
すぐに手術台の周囲からアームがせり出し、彩華の躰を機械化していく。
俺はその様子を眺め、メカレディたちにうなずいてやった。
******
「ゴラーム様、連れてまいりました。さあメカレディA5(えーふぁいぶ)、ゴラーム様にご挨拶なさい」
「ギーッ! ゴラーム様、私はメカレディA5。かつては黄田彩華などという不完全な生き物でしたが、ゴラーム様のおかげで機械として生まれ変わることができました。どうぞ何なりとご命令くださいませ」
右手を胸のところに水平にして、服従の声を上げるメカレディA5。
黒いレオタード姿を誇らしげに晒している。
この二日間でコマンダーイエローは完全にメカレディへと変化した。
もはやこいつにとってはピースコマンダーは憎むべき敵である。
彼女の背後にはこの数日で機械化された女たちがほかにも五体立っていた。
いずれもが機械帝国に服従を誓い、機械となったことを喜んでいる。
「A5、おまえはA1とともにコマンダーベースへと戻り、怪しまれないように行動せよ。そして俺の命令があり次第コマンダーベースを破壊するのだ。いいな」
「「ギーッ!」」
A1とA5が敬礼する。
「ほかのものはメレールの指示に従え。メレール、うまくやれよ」
俺は機械将のマントを羽織ったメレールに目をやる。
マントを羽織ったメレールはいつになく美しい。
「むっ、あたしを信用しないのか? 言われなくたってちゃんとやって見せるわよ。メカレディたちと一緒にガーッと出てってババーンと暴れてドカーンと破壊してくるんだからね」
「だから、それじゃダメだと何度も言っているだろーが!」
「大丈夫だって。作戦指揮はあたしに任せなさいって」
胸を張るメレール。
やれやれ・・・
ま、やる気も充分なようだし、お手並み拝見といくとしようか。
俺はこれからメレールと一緒にこのメカレディたちを使い、地上に大混乱を起こしてやる。
待っているがいい人間ども。
END
いかがでしたでしょうか?
二週間の間お付き合いくださり、改めましてお礼申し上げます。
ありがとうございました。
できましたら拍手や感想などをいただけましたらうれしいです。
よろしくお願いいたします。
- 2008/12/28(日) 20:44:47|
- 七日目
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「七日目」の十三回目です。
残すも今日と明日のみ。
今日はいよいよ七日目です。
それではどうぞ。
13、
七日目。
今日でケリをつけなくてはならないな。
とはいえ、メカレディたちはもうほとんど抵抗心がなくなっているはず。
あとは仕上げるだけと言っていいだろう。
俺はいつものようにメカレディたちを整列させる。
「「ギーッ!」」
黒いレオタード姿で直立する彼女たちは、俺をまっすぐに見詰め右腕を胸のところで水平にする機械帝国の敬礼を行なう。
その表情にはすでにためらいや不安はうかがえない。
すべてを自由にさせているにもかかわらず、俺に反抗する様子はないのだ。
俺は彼女たちの態度に笑みが浮かんだ。
「ゴラーム様、どうなさったのですか?」
「ん、いや、なんでもない」
俺はA1にそう答えると、あらためてメカレディたちを見渡した。
いずれ劣らぬ美女たち。
人間の時も持ち合わせていた美しさに、今は機械の美しさが加わっている。
無論表面上は人間の時の姿に似せてはいるが、内部の機械がその美しさをバランスよく制御しているのだ。
作らせた俺も惚れ惚れするほど。
A1の躍動するしなやかさ。
A2の少女らしさの中の小悪魔っぽさ。
A3の若い女性の持つみずみずしさ。
A4の人妻の持つ妖艶さ。
どれをとっても人間の男は心惹かれるものだろう。
人間世界の中心は、なんだかんだ言ってもまだまだ男が占めている。
そこで工作活動を行うにはこういった女性型がいいのだ。
メカレディたちにはこれからそういった任務についてもらわなくてはな。
「さて、今日でいよいよ七日目だ。今日一日俺の命令に従えばいい。そのあとでお前たちにまだ人間として暮らしたいという気持ちがあるのならば、そのときにはお前たちを解放する」
俺の言葉に互いの顔を見合わせるメカレディたち。
だが、昨日とは違い、その顔には笑みが浮かんでいる。
ほう・・・
この笑みの意味するものは何なのやら・・・
俺は一瞬そう思ったが、彼女たちはすぐに表情を引き締めて俺に向き直る。
「「ギーッ! ゴラーム様、何なりとご命令を」」
俺はメカレディたちにうなずくと、今日の任務を命令した。
任務そのものは単純なものだ。
誰でもいいから知り合いの人間を二人殺すこと。
つまり、かつての自分を知る人間に怪しまれないように近づいて暗殺しなくてはならない。
無論殺したのがメカレディであるということを極力知られないようにしてだ。
フェイスカバーはなし。
あくまでも人間としてターゲットに近づき、暗殺するのだ。
これができればもうメカレディ計画は完成したと言っていいだろう。
やり方は自由。
力任せに首をひねろうが、銃やナイフを使おうが、毒を使おうがかまわない。
ターゲットが気を許している状態で殺せればいい。
一日目にこんな命令を出していたら、おそらく彼女たちは自発的には何もできなかっただろう。
必死で抵抗し、脳が壊れていたかもしれない。
だが、今目の前のメカレディたちは、俺の命令を黙って聞いている。
それどころか、すでにターゲットをメモリーの中から選んでいるはずだ。
そしてターゲットをどのように殺すかも・・・
「ギーッ! かしこまりましたゴラーム様。さあみんな、行きましょう」
「「ギーッ!」」
命令を受け取るとメカレディたちはA1の指示に従って地上に向かう。
殺人を命じられたにもかかわらず、みなその表情は明るい。
任務を命じられたことが嬉しいのだろう。
俺は彼女たちの後姿に満足した。
結論から言うと、メカレディたちは命令を忠実に果たして戻ってきた。
「私は学校の友人だった二人を呼び出しました。そしてハンバーガーでも食べに行こうって誘い、その途中で体内から電流を流して感電死させました」
得意げに話すA2。
友人だったという言葉が今の彼女を象徴しているだろう。
スパイロボで監視はしていたが、その手並みはなかなかのものだった。
「私は以前から誘いをかけてきていた会社の男性同僚を二人。相談があると携帯に送ったらすぐに食いついてきましたわ」
口元に薄く笑みを浮かべるA3。
たやすく人間を罠にかけることができたのが嬉しかったのだろう。
「一人ずつドライブでもと誘い、車内で首を折ってやりました。人間てホント簡単に死ぬんですよね」
「私は夫だった男と姑を・・・」
こちらはぞっとするような笑みを浮かべるA4。
まさに一番身近な人間ではないか。
「喉を潰して悲鳴を上げられないようにしてから、ゆっくりと心臓を握りつぶしてやりましたわ。うふふふ・・・あんな蛆虫どもと暮らしていたなんてバカみたい」
ほう・・・自ら帰る場所を潰したか。
それにしてもまさか自分の妻に心臓を握りつぶされるなどとは思わなかっただろうな。
「私はコマンダー訓練センターで訓練中の後輩を二人・・・」
ちょっと切なそうな顔をするA1。
まだ今回の命令に苦悩があったのか?
「私はおろかにも時々訓練のサポートをしてやっていたんです。現役ピースコマンダーとして・・・」
ぎゅっとこぶしを握り締めるA1。
なるほど。
俺の命令に対してではなく、自らの過去に苦悩したのか。
「だから・・・少しでもそんな過去は消したくて・・・それにコマンダー候補生はいずれピースコマンダーとして私たちの敵となる存在。だから・・・」
「ああ、そうだな。おそらく今頃はコマンダーピンクの代役を模索しているはずだ」
ピースコマンダーとて無敵ではありえない。
死なないまでも怪我をすることは充分に考えられるのだ。
そのバックアップ要員がいないなどということはありえない。
すでにA1が行方をくらませてから十日近くなる。
これ以上日が経てば、おそらくコマンダーピンクの入れ替えが行なわれるはずだ。
その前にこいつを戻してやりたいのだがな。
「うふふふ・・・」
俺はドキッとした。
A1が笑っているのだ。
「簡単でした。彼女たちは何の疑いもなく私の呼び出しに応じたんです。もちろん本部を通して呼び出したりはしませんでした。彼女たちとは個人的に連絡も取っておりましたので」
さすがのピースコマンダーも隊員たちのプライベートまではそう管理できないだろうからな。
ましてや単なる候補生だ。
普段からの管理などは行なわれまい。
「彼女たちは私がいまだに桃野弘美であると疑いもしないおろかな連中でした。私は彼女たちにカラオケに行こうと誘い、途中で始末してやりましたわ。うふふふ・・・」
薄笑いを浮かべているA1を俺はとても嬉しく思った。
後輩をためらいもせずに殺せるようになったのだ。
これで俺の計画は完成だ。
「よくやったぞお前たち」
「「ギーッ!」」
いっせいに服従音を発し、右手を胸のところで水平にするメカレディたち。
以前は俺がコントロールしてやらなければならなかったことだが、今では自ら当然のこととして行なっている。
「これでお前たちに課した一週間は終わった。お前たちは俺の予想以上のできであり、充分に働いてくれた」
俺の言葉にメカレディたちの顔がほころぶ。
「さて、あらためて問おう。人間としての生活に戻りたいか?」
俺はメカレディたちを見回した。
「ゴラーム様、お戯れはおやめくださいませ」
「私たちの結論はもうご存知のはずです」
「私たちが人間に戻りたいなどと考えるはずがありません」
「私たちは栄光ある機械帝国の一員、メカレディですわ」
口々に言うメカレディたち。
わかってはいたはずなのに、なぜか俺はホッとしていた。
「あ~っ、ゴラーム様、まさか私たちが人間に戻りたいって言い出すと思っていたんじゃ?」
「そ、そうなんですか、ゴラーム様? それはひどいです」
「人間なんてあんな下等生物に戻りたいわけありません。血と肉と骨の単なる塊じゃないですか」
「あんな脆弱な肉体だったなんて思うとぞっとします。私、今はメカレディにしてもらえて感謝しています」
こいつら・・・
一週間前とはえらい違いじゃないか。
「ふふふふ・・・・・・ふははははは・・・」
俺は思わず笑い出してしまっていた。
だったらこれはもう不必要だな。
俺はメカレディたちの躰をコントロールするリモコンを取り出すと、思い切り握りつぶす。
ぐしゃぐしゃに壊れたリモコンに、メカレディたちは驚きの表情を見せた。
「これはもう必要ない。お前たちはもはや完全に我が機械帝国の一員だ。コントロールなどされずとも問題あるまい?」
「「はい、私たちはメカレディ。機械帝国の忠実なるしもべです。ギーッ!」」
あらためていっせいに右手を胸のところで水平にするメカレディたち。
機械帝国の新たなる戦士たちの誕生に俺は満足した。
- 2008/12/27(土) 20:47:05|
- 七日目
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「七日目」の十二回目です。
六日目後編となります。
それではどうぞ。
それにしても寒いなぁ・・・
12、
「それで、コンピュータを破壊し、脱出したというわけだな?」
戻ってきたメカレディたちが俺の前に整列している。
フェイスカバーをはずして直立不動の姿勢をとる彼女たちの表情には、一様に満足そうな表情が浮かんでいた。
任務を果たしたという達成感があるのだろう。
「はい。データはいずれも確認されたものばかりで不必要なものでしたが、そのままにしておくのも我が帝国の益にならないと判断し破壊しました。無断の行動でしたがいけませんでしたでしょうか?」
そうは言うものの、A1はいけなかったとは思っていないはず。
無論、俺もとがめるつもりはまったくない。
それよりもこいつらの意識が変わってきたことがうれしいのだ。
「いや、いけないことなど何もない。よくやったぞ。ご苦労だった」
「あ・・・」
俺の言葉にうれしそうに笑顔を見せるメカレディたち。
任務を果たし褒められたことがうれしいのだろう。
俺はご褒美の意味もかねて少しだけ快楽を送り込んでやる。
もうこのリモコンも使わなくてもよさそうだな・・・
メカレディたちを解散させた俺は、いつものようにリラックスルームに足を運ぶ。
鼻歌を歌いながらオイルジュースを手にソファーに座る。
いつになく気分がいい。
メカレディたちもほぼ手中に入った。
明日いっぱいあればもう完全だろう。
これでいよいよ俺の作戦を実行に移すことができるな。
まずはコマンダーイエローあたりか・・・
「ご機嫌そうだね、ゴラーム」
おっと、来たな・・・
そろそろ現れるころだと思ったぞ。
オイルジュースに口をつけたからな。
今日もまた残りは飲めないのか?
「ああ、気分いいぞ、メレール」
俺は座るのかと思ってメレールのためにソファーの端による。
「何かあったの? 楽しそうじゃん」
メレールも尻尾をふるふると振りながら俺の隣に腰掛ける。
やれやれ、なんだかこいつも機嫌よさそうだ。
「ああ、A1がようやくメカレディとしての自覚がでてきたようでな。明日いっぱいもあれば完全なメカレディに変貌してくれそうなんだ」
「A1って、コマンダーピンクだった奴だよね」
メレールが俺の横顔を見つめている。
こいつって・・・ホント可愛いよな。
俺は横目で見ながらそう思った。
「ああ、そうだ。A1以外はほぼもう問題ない。そのA1もじょじょに身も心もメカレディになってきつつあるんだ。どうやらうまく行きそうだよ」
「ふーん・・・ねぇ、ゴラーム」
「ん?」
俺はオイルジュースを口に含む。
「A1たちって可愛い? それって人間が言う好きっていうこと?」
「ああ、可愛いし好きだぞ。なんたって・・・」
俺の忠実なしもべたちだからなという言葉は続けられなかった。
シュッという風を切る音とともに、俺の持っていたオイルジュースのボトルは真っ二つになったのだ。
「うそつきーっ!」
へ?
嘘?
何がだ?
だが、メレールはすばやく立ち上がり、鉤爪を構えてフーッとうなっている。
そして怒りに燃えた目で俺をにらんでいるのだ。
「ま、待て待て、何が嘘なんだ?」
俺は切り裂かれたボトルを捨て、両手を前に出してカバーする。
いつもながら冗談じゃない。
こいつの鉤爪は俺の装甲ボディすら簡単に貫くんだぞ。
「うそつきーっ!! むーっ! なによなによ! あたしのこと可愛いって言ったじゃない! 親愛の情だからってキス攻撃したじゃない! それなのにA1がいいのかー? メカレディのほうが可愛いのかー? むーっ! ぶっ殺ーーす!!」
なんなんだー?
違うだろ。
そうじゃないだろ。
「ま、待て待て・・・」
俺は跳びかかってきたメレールから間一髪で跳び退る。
レクレーションルームからは、すぐにメカデクーたちの姿が消えていく。
いや、おまえたちは正しい。
俺だって、こんな猛獣と一緒にいるのは・・・
ザシュッという音とともに切り裂かれるソファー。
「むーっ! 何でこんなに悔しいのよー! コマンダー連中から逃げるのだってこんなに悔しくなかったぞー! ゴラーム! あたしは何でこんなに悔しいのよー!」
鉤爪を振り回しながらもなぜか悲しげなメレール。
なんなんだ?
いったい何があったんだ?
「待て待て。おまえ何を言ってるんだ? 俺が可愛いとか好きだとか言ったのは・・・」
「うきゃー! 聞きたくない、聞きたくないよぉ・・・ゴラームがメカレディを好きだなんてやだぁ・・・やだよぉ・・・ゴラームぅ、ほかの機械を好きになっちゃやだよ・・・好きってなんだかよくわからないけど・・・」
鉤爪を振るのをやめ、ぺたんと床に座り込んでしまうメレール。
その悲しそうな目が俺を見つめてくる。
ふっ・・・
そういうことか・・・
こいつは“嫉妬”に駆られたんだ。
精巧な機械生命体であるメレールは、しっかり“嫉妬”の感情に苛まれたわけか・・・
俺は恐る恐るメレールのそばに行く。
そしてその細く華奢な躰を抱きしめた。
「メレール・・・」
こいつはこんなに華奢だったのか・・・
普段はあんなに暴れ者なのに・・・
可愛いやつめ・・・
俺はそっとメレールにキスをした。
「・・・・・・」
動きが止まるメレール。
「落ち着いたか?」
「う・・・うん・・・」
じっと俺を見つめる目。
カメラアイの焦点が俺の顔に合わされている。
「いいか、よく聞け。俺がメカレディのことを可愛いとか好きだとか言ったのは、俺が自分で作り出したモノだからだ。そいつらがじょじょに俺に懐いてきたとしたら、可愛いし好きにもなるだろう。違うか?」
「わかんない」
あ・・・
うーむ・・・
わからんかなぁ・・・
「たとえばだ。おまえだって自分の命令によく従うメカデクーがいたら、面倒見てやろうって気にならないか?」
「ならない。メカデクーは命令には従うもん」
あ・・・
うーむ・・・
「じゃ、じゃあ、たとえば犬とか猫をおまえが飼ったとしてだなぁ・・・」
「飼わないよ。もう、なによー! 好きだとか何とかわけわからないことばっかり言って! あたしをバカにしているのかー!」
メレールの目がギラッと光る。
いかん、こいつまたぶち切れる。
「違うってば! とにかく、俺が一番好きなのはおまえなの! メカレディたちとは違うんだよ!」
んあ?
俺は今何を言った?
見ろ。
メレールだって目を点に・・・
「ゴラーム・・・今言ったことホント? あたしが一番好きだって・・・それってメカレディたちよりあたしのほうが上だってことなんだよね?」
メレールが俺を見上げている。
「あ、ああ、そうだ。どうやらそうらしい。俺はおまえが一番好きならしい・・・」
くそっ、何で俺がこんなことを・・・
まいったなぁ・・・
「んふふふ・・・そうなんだー。ゴラームはあたしのことが好きなんだー。やったぁ!」
いきなり俺の首筋に抱きついてくるメレール。
「あたしも好き。好きってよくわからないけど、きっとこれが好きってことなんだと思う。だからあたしもゴラームが好き」
メレールの柔らかい唇が俺の口に押し付けられる。
「心臓ポンプがどきどきしてるよ。熱も発生しているよ。ほら、触ってみて」
唇を離すと俺の手を取り、ビキニアーマーの胸の上に当てようとする。
「ま、待て、待てって、それはやばい!」
くそー!
おまえ以上に俺の心臓ポンプがはじけそうだよ。
何でこんなことになったんだ?
やれやれ・・・
でもまあ・・・
これも悪くないか・・・
俺はメレールの胸に手を当てて、再び唇を重ねるのだった。
「それで? 夕べとは違う動きをしていると?」
メレールと別れた俺は、モニタールームに顔を出していた。
女性型メカデクーからメカレディたちがまたしても怪しげな動きをしているという報告が入ったのだ。
おそらく夕べのようにお楽しみかとも思ったのだが、どうも夕べの動きとは違うらしい。
結局俺自身で確かめるべく、こうしてモニタールームに足を運んだというわけだ。
「オオマカナコウドウハサクジツトドウヨウデスガ、イチブチガウウゴキガミラレマス」
女性型メカデクーがモニターを指し示す。
暗視に切り替えられたモニターには、昨日と同じようによりそうメカレディたちの姿が映っていた。
何だ、夕べと同じではないか。
ああ、そうか。
楽しみ方にもいろいろあるのだということをこのメカデクーたちには教えていなかったな。
「心配はいらん。楽しみ方にもいろいろ・・・」
俺は何てことないのを確かめて部屋に戻ろうとした。
待て・・・
あれはいったい?
俺はカメラをズームにした。
『ひゃあぁぁぁ・・・な、何これぇ・・・』
『うふふふ・・・どう? すごいでしょ』
『う、うん・・・来る・・・全身に来るよぉ・・・』
躰を小刻みに震わせているA3。
その首筋には一本のケーブルがつながれている。
そしてそのケーブルは寄り添って寝ているA2へとつながっているのだ。
『うふふふ・・・こうしてパルスでA3を可愛がるなんて想像もしなかったなぁ。昨日とはまったく違うよね』
『う、うん、全然違うよぉ。こっちのほうがずっといいよぉ』
口を薄く開け、快楽に酔いしれているA3。
見ると、隣のベッドではA1がA4にケーブルをつないでいた。
『ああ・・・こ、怖いわ』
『心配しないで。ちょっとパルスのやり取りをするだけよ。すごく気持ちいいの。人間のときのセックスなんか比べ物にならないわ』
『ん・・・はぁっ? う、うそぉ・・・』
パルスが流れ込んできたのか、A4が躰を震わせる。
なるほど。
俺が快楽中枢を刺激する手段を自分たちでも見つけたということか。
やれやれ・・・
ますますリモコンは不必要になったということか。
まあ、それでも、パルスで快楽を得るなんてのは、機械の躰に順応したということだろう。
『あハァ・・・ん・・・いい・・・いいよぉ・・・』
『でしょ? A4も私にパルスを送ってみてよ。気持ちいいよぉ』
『こ、こう?』
『ひゃぁん! し、刺激が強すぎる! もっと弱めてぇ! イッ、イッちゃうぅぅぅぅ』
いきなりの最大級の快楽にあっという間に登りつめるA1。
『うひゃぁ・・・わ、私もぉ・・・』
『私もイくぅ・・・』
A4もA3も快楽に飲み込まれていく。
やれやれ・・・
ほどほどにしておけよ。
『はふう・・・すごいよぉ・・・気持ちいい・・・』
『本当ね。パルスが躰中を駆け巡って・・・もう最高の気分』
『機械の躰って最高だわぁ。あんな不完全な肉の塊でいたなんてバカみたい』
『A1の言う通りね。あんな血と肉の塊だったなんてぞっとするわ』
絶頂の余韻に浸りながら、メカレディたちは口々につぶやいている。
俺はその言葉にほくそ笑んでいた。
不測の事態に備えるという名目で、俺は結局メカレディたちのお楽しみが終わるまでモニタールームに待機していた。
もちろんモニター内で行なわれていることについては目を向けてはいたものの、さほど興味を引くものではない。
彼女たちが機械の躰であることを喜びと感じること。
生身の生命体だったものに機械化された躰による永遠の存在に近づける喜びを教えてやること。
皇帝陛下のお考えとは若干違うかもしれないが、これこそが俺の理想であり誇りでもある。
だからこそ人間を機械にするなどということを行なっているのだ。
さて、いよいよ明日で最後だな。
- 2008/12/26(金) 20:48:25|
- 七日目
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宇宙人さんって、にゃーにゃー鳴くらしいですよ!本当でしょうか?
*このエントリは、
ブログペットのココロが書いてます♪
- 2008/12/26(金) 10:53:45|
- ココロの日記
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「七日目」の十一回目です。
六日目の前編になります。
それではどうぞ。
11、
六日目。
やれやれ、なんとなくメカレディたちの顔を見るのが照れくさい。
それにあんなシーンを見ていたなんて知れたらメレールになんて言われることか。
「「ギーッ!」」
いつもと同様に俺の前に整列しているメカレディたち。
だが、その表情が心なしか明るく感じるのは気のせいか?
黒いレオタードに身を包んだその姿も、なんとなく誇らしげに見える。
「さて、今日で六日目だ。精神波モニターによれば、お前たちの一部にはこれでもまだ人間への執着心があるらしいな。このままでは明日いっぱいでお前たちを解放しなくてはならない」
俺の言葉に一瞬複雑そうな表情を見せるメカレディたち。
そっとお互いの顔を見合わせる。
「心配するな。俺は約束は守る。栄光ある機械帝国の参謀だ。嘘は言わない」
まあ、これ自体が嘘みたいなものだがな。
それに精神波モニターではだいぶメカレディであることの抵抗もなくなっている。
明日いっぱいもあれば、彼女らをメカレディにするのは何とかなるだろう。
「あの・・・」
A3が手を上げる。
「なんだ?」
「誰か一人でも人間でいたいと望めば、この四人みんなが解放されるのですか?」
ふふふ・・・どうやらA3はほかがどうあれメカレディでいたいと感じるようになってきたな。
「そうだな・・・一人でも望めばみんな開放してやる。どうせ作戦は失敗だ」
これも嘘だ。
できれば四人いるのが望ましいが、潜入活動など四人揃わなくてもいい場合もある。
「そう・・・ですか・・・」
A3とA2がチラッとA1のほうを見たのを俺は見逃さない。
いい傾向じゃないか。
「今日の任務もお前たち自身に作戦を立ててもらおう。これを見ろ」
俺は背後のスクリーンに建物の写真を映し出す。
「「これは?」」
スクリーンに見入るメカレディたち。
A1も見入っているということはどうやら知らない建物のようだな。
「これは防衛隊装備研究所だ。主に陸海空の防衛隊の装備を研究しているが、そこから派生してピースコマンダーの装備を研究したりもしているらしい」
らしいという、たかだかこの程度の情報を得るのにどれほど苦労させられたことか。
日本は情報がだだ漏れという奴もいるが、ことピースコマンダー関連に関しては情報統制はかなり図られていると言っていい。
「ピースコマンダーの装備もですか?」
A1が驚いたように言う。
まあ、ピースコマンダーの一員とは言え、知らされないことのほうが多いだろうからな。
「ああ、とは言ってもお互いに情報提供しあったりとか、ピースコマンダーの装備をスペックダウンして量産をはかり防衛隊の装備の質的向上を図ったりとかという研究らしいがな」
「なるほど・・・」
うなずくA1。
「それで、私たちに何をしろと・・・」
「ここへ侵入して、コンピュータデータを奪って来い。それだけだ」
A3の質問に俺は作戦目的を言う。
もっとも、データなどは二の次で、真の作戦目的はメカレディたちの潜入工作訓練だがな。
「データをですか? でも、膨大な量になりませんか?」
A4が戸惑いの視線を向けてくる。
すでに作戦そのものには疑問を抱いてない。
実行面での不安を感じているだけだ。
命令に従うことにはもはや問題ないようだな。
「お前たちに取捨選択は任せる。我が帝国に必要だと思えば奪って来い。必要ないデータだと思えば奪うには及ばない」
こんな形で命令すれば、以前であれば侵入することなく、すべてのデータは不要だと判断しましたと言ってごまかしただろう。
人間の不利益になるようなことはしないだろうからだ。
だが、今は違う。
おそらくメカレディたちにこの施設に侵入しないという選択肢は無いだろう。
俺の命令に従うことは、それだけ彼女たちの中でも当たり前になっているのだ。
「私たちが判断してもいいのですか? ゴラーム様にご確認しなくてもいいのですか?」
A2が驚いている。
自分たちに一任されることが信じられないようだ。
「無論だ。それだけの能力はお前たちに与えてある。お前たち自身で判断し行動しろ。すべては任せる」
「ありがとうございます、ゴラーム様。必ずご期待に添えてみせます」
「ありがとうございます」
眼を輝かせているA2とA3。
「施設に関するデータは好きに見ていいぞ。侵入方法その他一切を任せるからな。好きにしろ」
「かしこまりましたゴラーム様。さ、行きましょA1、早速作戦を練らなきゃね」
A3がA1の腕を引く。
「あ・・・そ、そうね。それではゴラーム様、行ってまいります」
「「行ってまいりますゴラーム様。ギーッ!」」
いっせいに服従音を発して右手を水平にするメカレディたち。
やはりあとはA1だけだな。
部屋から出て行く彼女たちの後姿を見送りながら、俺はそう思っていた。
俺はいつものようにモニタールームでメカレディたちの動向を監視する。
やれやれ・・・
まったく我ながら覗き魔になってしまったものだ。
困ったものだな・・・
控え室内のメカレディたちは、早速A1を中心にして侵入工作の作戦を立てている。
その表情は真剣そのもの。
いつになく積極的な雰囲気だ。
やはり少しずつ意識の変容が行なわれているのだろう。
防衛隊の施設に侵入するという人間にとっては大いに不利益となる行動をするはずなのに、メカレディたちは笑みを浮かべていたりもするのだ。
それだけ、彼女たちにとっては難しくない任務ということか。
『それじゃこれで行くわね。みんな問題ない?』
『OKだよ』
『大丈夫』
『任せてくれていいわ』
A1の言葉に三人がしっかりとうなずく。
いずれの顔にもこれからの任務に備えて引き締まった表情がうかがえる。
ふふ・・・
頼もしいことだ。
思わず俺も笑みが浮かんだ。
夜になり、身支度を整えたメカレディたちが控え室を出て行く。
いずれもがフェイスカバーをつけている。
今回は素顔を晒すのは避けたということか。
それがどういう意図で行なわれたのかが気になるところだな。
人間に戻りたいがために素顔を晒したくなかったのか・・・
それとも・・・
俺は精神波モニターに眼をやった。
いずれもが安定している。
無論、これからの任務に備えて多少の興奮は起こっているが、それは問題ない。
ただ、フェイスカバーをつけた瞬間の精神波の乱れが気になった。
ふふふ・・・
どうやらフェイスカバーがわずらわしくなってきたかな・・・
我が機械帝国の地底城は、あちこちに出入り口を張り巡らせている。
そのいずれもが下水道などの人目に付かない場所に通じている。
だからこそ我らは神出鬼没に動けるのだ。
すでに放ってあったスパイロボからの映像を、俺はモニタールームで眺めている。
万一何かあった場合は、すぐにバックアップしなければならないからな。
マンホールのふたを開け、周囲をすばやく探るA4。
目指す防衛隊の装備研究所はすぐ近くだ。
暗闇の中、漆黒のレオタードとロングブーツに身を包んだメカレディたちが、ひそかにマンホールから姿を現す。
装備研究所は郊外に建てられているので、周囲には人家はまばらにしかなく人影はない。
もちろん彼女たちのセンサーもそのことは充分にわかっているだろう。
メカレディたちは、互いに顔を見合わせてうなずくと、それぞれ所定の行動を取り始めた。
音も無く門に忍び寄り、警戒に当たっていた防衛隊員二人を一撃に倒すA1とA3。
首筋への一撃は、おそらく二人を殺してしまったことだろう。
その間にもA2とA4は監視所に忍び込み、中の二人を始末する。
こちらはガスを使ったらしい。
気を失わせてその間に侵入ということか。
『どうしようA1・・・こいつ、死んじゃったわ』
『ええっ? あんなに手加減したのに?』
スパイロボが拾った音声が流れてくる。
なるほど・・・
殺すつもりではなかったということか。
まだまだ甘いが、仕方が無いか。
『やっぱり人間ってもろいのね・・・仕方が無いわ。私もやっちゃったみたいだし』
倒した防衛隊員を確認し、肩をすくめるA1。
『A1も?』
『こんなに人間がすぐ死ぬなんて思わなかったわ。これでもずいぶん手加減したのよ。これで死ぬなんてふざけてるわよ』
ほう・・・
A1の声に苦いものが混じっている。
だがそれはこんなに簡単に死んでしまった人間に対する侮蔑とも言うべき感情のようだ。
悪くない。
『A1、こっちはOKよ。行きましょう』
A4がA1を呼ぶ。
すぐにA1とA3もその場をあとにした。
ここから先は我が機械帝国にも情報は少ない。
小型のスパイロボといえども目に見えないほど小さくできるわけもなく、施設の中を昆虫が飛び回るのも不自然というもの。
せいぜいハエ型のを数匹飛ばしてある程度の見取り図を作成した程度だ。
だから、これからがメカレディたちの腕の見せ所である。
さて・・・
俺の予想以上にメカレディたちの行動は上手だった。
A1とA3、A2とA4がペアを組み、それぞれが相互支援して侵入していく。
持ち前のセンサーで監視カメラやセンサーを識別し、人間の防衛隊員はできるだけやり過ごすようにして、目指すコンピュータルームへ向かうのだ。
その侵入の腕前に俺は感心する。
いつの間にここまで上達したものやら。
となると、こちらも足を引っ張るわけには行かないな。
俺はスパイロボをハエ型の二機だけにして、センサーなどに引っかからないように操作する。
まあ、こういうために作られたものだ。
へまさえしなければ問題は無い。
配電用のケーブルダクトや、通路の天井を使うなどして、メカレディたちはコンピュータルームに忍び込む。
ここまでは上出来だ。
自分の能力を遺憾なく発揮してくれている。
あとはハッキングするのみだが、正直言ってこれは警報を発せられてしまうはず。
あとはいかに手早く撤収できるかだ。
防衛隊員数人ぐらいならば問題なく対処できるはずだが、コマンダーチームが派遣されてくるようでは厄介だからな。
おそらく三十分程度。
それぐらいの時間の余裕しかあるまい・・・
『ここがコンピュータルームね』
『さすがに大きいわ。情報もたっぷりと入っていそうね』
A1とA4が目の前の大型コンピュータに感心している。
『A2、お願い。どうやらまだ嗅ぎ付けられてはいないようだから手早くね』
『了解』
A2がすばやくコンピュータに駆け寄り、腰のポーチからケーブルを取り出す。
そしてコンピュータに接続すると、もう片方の端を自分のうなじにあるソケットに差し込んだ。
『行くよ』
そのまま制御卓に付くと、A2は目にも止まらぬ速度でキーボードを叩き始める。
補助脳がバックアップしているとはいえ、彼女の脳自体が機械の躰に順応しているのだ。
そうでなければこれほど早くできはしないだろう。
その間もA3は周囲の警戒に余念がなく、A4はさらにそのバックアップ体制と役割が決められているようだ。
ずいぶんと成長したじゃないか。
『ふあ・・・』
突然奇妙な声を出すA2。
『何? どうしたの?』
驚いたA1が駆け寄った。
『あ・・・う、ううん。なんでもない』
少し頭痛でも起こしたかのように頭を振るA2。
何だ?
何かあったのか?
まさか逆にコンピュータに何かされたとか?
『そう? ならいいけど・・・』
そう言って離れようとしたA1の腕を掴むA2。
『ね、A1もちょっと味わってみてよ』
フェイスカバーの目がA1を見上げている。
『味わうって? 何を?』
『いいから』
A2は自分のうなじからケーブルをはずすと、それをA1に差し出した。
『付けてみてよ』
『これを?』
不思議そうにしているA1に、A2は無言でうなずく。
よくわからないままにうなじのソケットにケーブルを差し込むA1。
その仕草が妙に美しい。
『ひっ!』
突然声を上げたA1にA3とA4が振り向く。
『あ、な、なんでもないわ。なんでも』
あわてて両手を振り何もないことを示すA1。
いったい何があったというのだ?
A2もA1も妙だろう。
『うふふ・・・どう? 気持ちいいでしょ?』
『A2、あなた』
『私も今知ったの。これがこんなに気持ちいいことだったなんて・・・A1もそう思うでしょ?』
『う・・・す、すごい・・・気持ち・・・いい・・・』
もじもじしているA1。
両手が胸や股間に伸びているのはもしかして・・・欲情しているのか?
『だ、ダメ・・・これはダメ・・・』
『回路閉鎖すればいいのよ。うふふふ・・・でもすごいでしょ。夕べのなんか目じゃないよね』
いたずらっぽく笑うA2。
『う、うん。すごいわ。パルスのやり取りがこんなに気持ちよかったなんて』
『発見だよね。あとでA3やA4にも教えてあげなきゃ』
『そ、そうね。でも今は・・・』
ようやく躰を落ち着かせるA1。
まさかいきなり欲情するとはなぁ。
コンピュータとのデータやり取りが、快楽回路を刺激したということか?
『A1、まだなの? そろそろ敵が来るわよ』
A3が多少の苛立ちを見せる。
敵とは誰のことやら・・・
『ごめん、もう少し。でもたいしたデータはないわね。我が機械帝国の役に立つような・・・って、私いつの間に我が機械帝国なんて・・・』
口元に手を当てて驚きを見せるA1。
いつの間にか機械帝国の一員として考えていることに驚いたのか?
『A1、何? あなたまだ・・・』
A4がA1をにらみつける。
A1がまだ人間にこだわっていることに多少いらついているのかもしれない。
『違うの・・・』
『違う?』
『違うの・・・なんだか妙なの。なんだか・・・すごくうれしいの』
『うれしい?』
首をかしげるA4。
『うん、うれしいの。今ね、すごく素直に我が機械帝国って言えたの。なんだかそれがすごくうれしいの。自分の居場所なんだって気がしたの』
両手を胸に当てて感触を確かめるような仕草をするA1。
なるほど。
ようやく機械帝国の一員であることを深層心理が受け入れたか。
やれやれ、まずはこれで一安心かな。
『A1・・・』
『ごめん、今は任務中だったわね。A2、どう?』
A2に振り向くA1。
『データの確認は終わったわ。A1の言う通りほとんど役に立つようなデータはないわね。持って帰っても意味ないわ。すでに確認されているデータばかり』
『そう、だったら破壊しましょ。こんなもの我が機械帝国の邪魔なだけだわ』
A1は我がに力を込めきっぱりとそう言った。
- 2008/12/25(木) 20:53:48|
- 七日目
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「七日目」もいよいよ十回目です。
今回は五日目後編です。
それではどうぞ。
10、
「自分が助けられたというのにA4を・・・」
「あんな男死ねばよかったのよ」
A1がこぶしを握り締め、A3が唇を噛み締める。
放心したようなA4をA2も心配そうに見つめていた。
俺はA4に近づくと、そっと抱きしめてやる。
「えっ?」
おそらくA4は戸惑いの表情を浮かべているだろう。
「何を嘆くことがある。あの男の無様さを見ただろう? 腰を抜かして地面に這いつくばっていたじゃないか。あんな蛆虫のようなやつをお前は気にかけていたのか?」
A4の躰がピクッと震える。
「あんな蛆虫?」
「そうだ。奴らは下等な蛆虫さ。所詮人間どもにお前たちメカレディのすばらしさはわからない」
「人間どもに私たちメカレディのことはわからない?」
A4が鸚鵡返しに俺の言葉を繰り返す。
「そうだ。人間のような生き物に機械のすばらしさがわかるはずがない。お前たちはすばらしい。機械帝国の最高傑作のひとつなのだ」
「人間に機械のすばらしさがわかるはずが・・・ない?」
「そうだ。奴らはただの血が詰まった肉の塊だ。そんなグロテスクな生身の生き物に機械のすばらしさはわからない。奴らは恐れているのさ、お前たちを」
「「私たちを恐れる?」」
A4だけじゃなく他のメカレディも俺の言葉に思わず答える。
「そうさ。お前たちは強い。人間などまったく問題にならない。だから人間はいびつなコマンダースーツシステムなんかの力を借りて我らに対抗しようとする。だが、そんなのはおろかなことだと思わないか?」
「おろかな・・・こと・・・」
A1が考え込む。
俺の言葉を考えているのだ。
それでいい。
「そうよ・・・」
俺の耳元でA4がつぶやく。
「人間に私たちのことなどわかるはずないわ・・・機械の感覚なんてわかるわけない」
「そうよ。人間どもになんてわかってたまるものですか」
A3が賛同する。
「・・・・・・」
無言のA1。
だが、その胸中は大きく揺れているはずだ。
「お前たちはよくやった。今日はゆっくり休め。いいな」
俺はA4を離し、メカレディたちを前にする。
「「ギーッ!」」
彼女たちはいっせいに敬礼した。
「ふう・・・」
相変わらずリラックスルームに俺はやってくる。
入れ替わりにこそこそと出て行くメカデクーたち。
おいおい・・・
俺は何かの災厄か?
まあ、メレールが暴れまくるとなれば災厄以上だがな。
俺はいつものようにオイルジュースを取り出して口をつける。
いつもならこのあたりであいつの可愛い声が聞こえてくるはずなんだが、今日はそうも行かないか・・・
「ゴラーム」
「ん?」
俺は顔を上げる。
「あ・・・メレール・・・か?」
そこには俺が声を聴きたいって思っていた奴がいた。
両手を後ろで組み、俺のほうに顔を突き出している。
茶色の毛に覆われた猫耳が頭の上でピンと立ち、縦長の瞳が俺をじっと見つめていた。
「どうだった、ラジコン人間? うまくいった?」
「ああ、ばっちりだ。助かったよ、メレール」
パアッと表情が明るくなるメレール。
どうやら褒められて気分がいいらしい。
尻尾も心なしか大きく揺れているようだ。
「うんうん、当然でしょ。あたしが仕掛けたんだもん」
エッヘンと言わんばかりに胸を張るメレール。
ビキニ型のアーマーに覆われた形のよい胸がつんと上を向いている。
「まあ、使ったのは三体だけだったがな。また何かあったらよろしく頼む」
俺はそう言って再びジュースに口をつけようとした。
シュッと空気が切れる音がして、俺の持っているオイルジュースのボトルが真っ二つに切り裂かれる。
「わぁっ! 何をする!」
俺はいきなりのことに驚いてメレールを見上げる。
「それだけ? それだけなの?」
「へっ?」
鉤爪を振るったメレールがシュンとしている。
何だ?
いったいどうしたんだ?
「むーっ! なによー! ゴラームがきっとあのあたしをどきどきさせるキスとかいう攻撃を仕掛けてくると思って待ってたのにー! また頼むの一言だけなんてー! むーっ! ぶっ殺ーーす!!」
ギロリとこちらをにらみつけ、いきなりぶちきれるメレール。
鉤爪が紙一重の差でよけた俺の前髪を切り裂いていく。
じょ、冗談じゃないぞ。
頭はやめろ。
脳を破壊されたら修理不能なんだぞ。
俺を殺す気かっ?
て・・・ぶっ殺すって言っているのか・・・
いや、そんな場合じゃ・・・
俺はメレールの動きをかいくぐる。
いざとなればこのぐらいの動きは何とかなるものだ。
そして鉤爪を振るう彼女の両腕を押さえつつ、足を払って床に組み伏せる。
どうだ。
怒りのままに闇雲に鉤爪を振るうだけなら、俺だって実行部隊長を組み伏せるぐらいはできるんだぞ。
そう思いながら、ふと仰向けのメレールの上に馬乗りになっていることに気がついた。
いかん・・・
これじゃ俺がメレールを襲ったみたいじゃないか?
「ゴラーム・・・痛いよ・・・」
ぐはぁっ!
何でそこでしおらしい表情をするかお前は!
俺はもう何も考えずにメレールの唇に自分の唇を重ね合わせる。
しまったなぁ・・・
俺もどうやら攻撃されてしまったらしい。
胸がどきどきして躰が熱いぞ。
メレール・・・このくそ可愛いやつめ。
メレールの腕が俺の首に回されたのをいいことに、俺はしばらくメレールと口付けを交わしていた。
やれやれだ・・・
『ごらーむサマ・・・ごらーむサマ』
「ん・・・?」
メレールと別れ自室で眠りについていた俺は通信機からの声に起こされる。
まったく・・・
人間の脳は休息が必要なのが厄介だ。
『ごらーむサマ。オキテイラッシャイマスカ、ごらーむサマ』
「何だ? どうした?」
俺は上半身を起こすと、ベッドの脇の通信機に手を伸ばす。
画像が入って女性型メカデクーの一体が現れた。
『オヤスミノトコロモウシワケアリマセン。シキュウモニタールームニキテイタダケマスデショウカ』
モニタールーム?
メカレディたちに何かあったのか?
「今行く!」
俺はすぐに跳ね起きた。
「どうした。何があった?」
モニタールームに駆け込んだ俺を、二体の女性型メカデクーが出迎える。
量産型の彼女たちは、黒い全身タイツに銀色のフェイスカバーをつけてまったく同じ姿で立っている。
ここに配置されたメカデクーがなぜ女性型なのかは、皇帝陛下の深慮遠謀によるものだ。
地底城内での戦闘任務以外の雑用任務に就くメカデクーは女性型であるべし。
理にかなっている配置ではないか。
「ゴランクダサイ。めかれでぃA2ノヨウスガ、ツウジョウデハアリマセン」
「何だと?」
俺はすぐにモニターに眼をやった。
メカレディたちの控え室を映し出す四つのモニター画面。
部屋の四周に配置され、彼女たちの行動を常にモニターしている。
本来は捕らえた人間を入れておくような部屋なのだが、今回のために改修したのだ。
その画面は今は闇に覆われている。
夜時間なのでメカレディたちも脳の休息に当てているはず。
暗視カメラもメカレディたちがおとなしく寝ている姿を・・・
ん?
何だ?
A2がベッドの中でもぞもぞと動いている。
表情も何か苦しいような切なそうな表情だ。
これは一体?
どこかに不具合が発生したのか?
『ん・・・あ・・・ダメ・・・声が出ちゃう・・・』
必死に声を押し殺しながら、もぞもぞと躰を動かしているA2。
俺はピンと来ると同時に思わず躰が熱くなった。
こいつは・・・楽しんでやがる。
「ふふっ、ふははは・・・」
思わず笑ってしまった俺を、女性型メカデクーたちが無表情で見つめてくる。
「問題は無い。じきに終わる。気にしなくていい」
「カシコマリマシタ。モニターヲツヅケマス」
何事も無かったかのように席に着く女性型メカデクーたち。
そのまま無言でモニターを続けるのを見て部屋に戻ろうとした俺は、モニターの中で何かが動いた気がして立ち止まる。
「今のは何だ?」
俺は一体のメカデクーの肩に手を置き、モニターを覗き込んだ。
「A3デス。A3ガA2ニチカヅキマシタ」
「A3が?」
俺はいぶかしんだ。
いったい何がおきているのだ?
『ん・・・んあ? ひゃん』
いきなりベッドにのしかかられて驚くA2。
目を閉じてお楽しみの最中だったから接近には気づかなかったのか?
いや、メカレディのセンサーは接近を察知していたのだろうが、仲間であるA3に対しては警戒が無かったのだろう。
『うふふ・・・一人でお楽しみなんてずるいわよ、A2』
俺は暗視モニターの精度を上げる。
・・・・・・
何をやっているんだ、俺は?
いやいや、これはメカレディたちの状態を監視するために必要な・・・
嘘だな。
すまん。
正直に言ってこの展開が気になっているだけだ。
『A3?』
『あんな声を出してもぞもぞされたら、こっちだって感じちゃうでしょ。もう、さっきから聴覚センサーフル稼働なのよ』
そういいながらA3の手はA2の布団をはいでいく。
『ひゃん』
『うふふ・・・すごい洪水じゃない。一人でするのがそんなによかったの?』
『あ・・・だって・・・』
大事なところに手を入れられ、おそらくA2は真っ赤になっているだろう。
それぐらいの表情はできるはずだからな。
『わかるわ。この躰ってすごく感度がいいもんね。私もこっそりしちゃったことあるもの』
『A3も?』
『もちろん。メカレディになってよかったわぁ。すごく気持ちいいもんね』
自らの行為を思い出しているのか、A3の表情も妖艶だ。
『だ・か・ら、一人で楽しまないで、みんなで楽しみましょ』
『えっ? みんな?』
『そう、そこでこっそり楽しもうとしているA1もね』
A3の言葉にピクッと躰を振るわせるA1。
なるほど。
みんな楽しみたいわけか。
『あららぁ、A1もなの? じゃあ、私も一緒に楽しんでいい?』
A4が起きだしてA1のところへいく。
『えっ? あ・・・違・・・A4、ダメ・・・』
布団を掴んで否定するA1。
ふふ・・・可愛いじゃないか。
『何がダメなの? さっきからこっそりいじってたくせに。私のセンサーはごまかせないわよ』
『あ、ダメ・・・A4、やめて』
『ダーメ。しっかり可愛がってあげる。ひいひい言わせてあげるわよ』
お前はSか、A4?
『あ、ダメだったら・・・』
A4に布団を剥ぎ取られ、のしかかられてしまうA1。
やれやれ、乱交パーティになってしまいそうだな。
俺は苦笑しながら彼女たちの楽しんでいる姿に見入っていた。
- 2008/12/24(水) 20:46:55|
- 七日目
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「七日目」の九回目です。
五日目前編になります。
ちょっと流れが微妙かも・・・
それではどうぞ。
9、
五日目。
さて、今日もまたわが帝国のために働いてもらうとしようか。
自分たちが機械帝国の一員であるという自覚をさらに深く植えつけてやろう
「さて、今日で五日目。残りは今日を入れてあと三日だ。まったく・・・これほど苦しめられることになるとは思わなかったぞ。お前らの内に潜む人間と言う奴にはほとほと手を焼く。このままでは時間切れでお前たちを解放しなくてはならなくなるではないか」
くすっとメカレディたちに忍び笑いが漏れる
俺が困った表情をするのが楽しいのだろう。
ただ、俺の目の前にはいつもと違う光景が広がっていた。
メカレディが三人しかいないのだ。
A1、A3、A4の三人だけ。
A2はここにはいない。
昨日の作戦でダメージを受けたA2は、修理を終えたあと休ませていたのだ。
そろそろ呼んでやるか。
「今日もまたお前たちには任務を与える。だがその前に会わせたい者がある。入ってこい」
俺は部屋の入り口に待機させていたA2を呼ぶ。
「はい、ゴラーム様」
控え室に入ってきたA2に、三人のメカレディたちが顔をほころばせる。
「A2」
「A2」
「A2、よかった・・・」
口々にA2のナンバーを呼び駆け寄るメカレディたち。
「よかった・・・完全に修理できたのね?」
「以前と変わらないわ・・・ん? A2、あなた胸が少し大きくなったんじゃない?」
A4が鋭い指摘を浴びせかける。
「ありがとうみんな。あはは、わかっちゃった? せっかくだからゴラーム様にお願いして胸を少し大きくしてもらったの」
ちょっと恥ずかしげなA2。
「やっぱり。私のセンサーはごまかせないわよ」
「わかるに決まっているでしょ」
「う、その手があったか。どうしようかなぁ・・・私も少し」
A1が自分の胸をゆさゆさと持ち上げる。
肌に密着する黒いレオタードが形のよい胸を浮き立たせていた。
「A1は今のままで充分よ。こんなに感度がいいんですもん」
「ひゃぁっ!」
いきなり背後から両胸をつかまれるA1。
A4がいたずらっぽく笑いながら、A1の胸をもんでいる。
おいおい・・・
「A4、ゴラーム様があきれているわよ」
「あ、失礼いたしましたゴラーム様。A2を救ってくれてありがとうございました」
「私からもお礼を言います。ありがとうございました」
A4に続いてA1も頭を下げる。
素直に俺に頭を下げられるようになってきたか。
「A2は大事な戦力だからな。失うわけには行かないだろう」
素直に頭を下げられると、俺はちょっと面映い。
「うふふ・・・ゴラーム様照れているんですか?」
A3が口元に手を当てて笑っている。
困った奴らだ。
いきなり俺に対して積極的になったじゃないか。
A2を助けてくれと懇願したことが、ずいぶんと俺との距離を縮めたということか?
「そんなことはない。いいか、任務を与えるぞ」
「「ギーッ!」」
メカレディたちはすぐさまいっせいに整列し、俺に対して敬礼した。
「今日はお前たちに都内の自由行動をさせてやる」
「「えっ?」」
一様に驚きの表情を見せるメカレディたち。
「好きなところに行っていいぞ。家族や友人に会ってくるのもいいだろう。好きに過ごすがいい」
「ど、どういうことですか?」
「目的がわかりません。どうして急に?」
戸惑っているようだな。
彼女らはみんなで顔を見合わせている。
「お前たちに求められるのは隠密性だ。機械帝国のメカレディでありながら、人間のごとく振る舞い周りの人間を欺いていく。そのための練習だ」
「練習?」
「練習・・・」
複雑な胸中を表すかのように表情が困惑を浮かべている。
「ただし。夜20時までにこの地底城に戻るのだ。それを過ぎた瞬間に俺はお前らの躰を強制支配する。そして手当たり次第に暴れてもらうぞ。コントロール波をシャットしようとしても無駄だ。お前らの中にある補助脳に命令を刷り込んでおいたからな。コントロール波がなくてもお前たちの躰は勝手に周囲を破壊することになるだろう。それがいやなら20時までにもどれ。いいな」
そう、メカレディの体内には頭脳強化として補助脳が埋め込まれている。
この補助脳がメカレディの躰をある程度コントロールできるため、俺はメカレディの躰を支配できるのだ。
「それともう一つ。今日は各自に命令を与える」
俺はそう言って一人ずつメカレディを呼び寄せた。
「ゴラーム、あんたの言ったとおりに“人間ラジコン作戦”のときにヘルブールの作った人間操作機を数人の男女に取り付けてきたわ。それとこいつだけは絶対って言われた奴にも取り付けた。でも、こんなのでどうするの? 確かこの作戦は受信機を破壊されてあっという間にだめになったんじゃなかったっけ?」
司令室に入った俺をメレールが出迎える。
夕べのうちに頼んでおいたことを、朝早くからきっちりとやってくれたのはさすが実行部隊長。
俺はうれしかった。
「今回はちょっとしたことに使うからいいんだ。それに状況によっては使わないかもしれないしな」
「ふーん・・・でもいつになったらコマンダーたちをやっつけるのさ。もう飽きてきたよ」
尻尾が小刻みに揺れ始めるメレール。
まずい。
今回は遠くから人間操作機を打ち込み、生かしたまま返せって指示したから、気が立っているのか?
適当に暴れさせてやらないとなぁ・・・
「もう少し待て。そのうち暴れさせてやるから」
「むーっ! 絶対だよ!」
そう言ってしぶしぶ引き下がるメレール。
よかった・・・
まだ限界には達してなかったようだな。
俺はホッとして、メカレディたちのモニターに取り掛かった。
今回の目的は確かに隠密行動の練習も一つだが、より大きくは人間との違いを感じてもらい、機械であることの優越感を養うことにある。
人間であることよりも、機械であることのほうがすばらしいとより感じさせてやるのだ。
そうすれば人間に戻ることにためらいを持つようになるだろう。
そのために俺はあえてメカレディたちに自由行動を取らせたのだ。
スパイメカからの映像がいくつものモニターに映し出されている。
いつもの黒いレオタードやフェイスカバーではなく、用意された普通の服を着て出かけるメカレディたち。
一応簡単な任務を与えたために出かけないわけには行かないのだ。
そうじゃなければ出かけないという可能性もある。
やはり変わってしまった自分を友人や家族に知られたくないと言う思いから、友人や家族には会いに行かない可能性が高い。
だとしたら出かけることさえしないかもしれないからな。
さて、ラジコン人間を使うことになるかどうか・・・
俺は四人がばらばらに行動すると思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。
今のところ一緒に行動しているようだ。
やはり自分が異質な存在になってしまったことをわかっていて、単独行動をためらってしまうのかもしれないな。
それぞれに与えた単独任務も全員で一つずつこなしていくつもりのようだ。
まあ、それでもかまわないか。
『それで? ゴラーム様はなんて?』
公園のベンチで四人が相談している。
手には炭酸飲料やお茶を持っているようだ。
『それがね。私には好きなものを万引きして来いって』
『『万引き?』』
A2の言葉に他のメカレディがあきれたような声を上げる。
『うん、万引き。なに考えているんだろうね。万引きなんて誰でもやっているのにね』
『誰でもかどうかは別にして、万引きして来いってのは妙な命令ね』
A1が苦笑する。
A2の学校ではみんなやっていたことなのか?
『まあ、万引きぐらいならいいんじゃない? 誰かを殺して来いって言われたわけじゃなし』
『そういうA3は何を命令されたの?』
『えっ? うーん・・・それがね』
A3の表情が曇る。
『会社の社長室に忍び込んで社長を眠り薬で眠らせて来いって』
『社長って、勤めている会社の?』
『具体的には言われなかったからどこでもいいとは思うんだけど、忍び込むなら知っている会社のほうがいいわよね』
A3の言葉に他のメカレディたちはうなずいている。
『侵入工作の練習ってことね。しかも知人たちのいる中で』
『そうだと思うわ。でも、うまくできるかしら』
『大丈夫よ。あなたならきっとうまくやれるわ。私たちもバックアップするから』
『あう~』
A1がA3を励ます中、いきなりおかしな声を上げるA2。
『ど、どうしたのA2?』
『何かあった?』
みんなの視線がA2に集中する。
『う~。ついつい成分分析しちゃったよぉ・・・こんな成分のものを今まで美味しいって飲んでいたんだね。オイルジュースのほうがましだよぉ』
『あ、その気持ちわかるわぁ。私もさっきからお茶が飲めないって言うかこんなもの飲むのいやだなって思っちゃって』
『何で、人間ってこんなもの飲むのよぉ』
『うんうん、そうよねぇ。こんなものわざわざ飲んでバカみたい』
四人の笑い声が公園の明るい空に響いていた。
******
「頭にくるわ、あの男。A4には悪いけど殺してやろうかと思った」
「ひどいよ。A4がかわいそうだよ」
憤慨しているA1と泣きそうな顔のA2。
その脇で複雑な表情を浮かべているA3と呆けてしまったようなA4。
どうやらあの男は思った以上の効果を与えてくれたようだな。
夜になって戻ってきたメカレディたちを、俺は控え室で出迎えてやる。
「戻ったようだな。ご苦労、報告しろ」
当然のごとく何があったかは把握しているが、俺はわざとに聞いてやる。
メカレディたちもよく考えれば俺がモニターしていることはわかるはずだが、やはり様子を尋ねられるのは悪いものではないだろう。
「ゴラーム様、聞いて下さい」
「ゴラーム様、どうして私たちがあのような暴言に耐えなくてはならないのですか?」
「ゴラーム様、私たちが機械だと何がいけないんですか?」
A4を除く三人が口々にまくし立ててくる。
「落ち着けお前たち。くだらん人間のように感情をあらわにするな」
俺はまず彼女たちを落ち着けさせる。
彼女たちはメカレディなのだ。
くだらん人間たちのように感情に流されるのでは困る。
「失礼しました、ゴラーム様。私から説明いたします」
自らを落ち着けるように一呼吸置き、A1が報告を始める。
報告は俺がモニターしていたことを確認するだけに過ぎなかった。
A2は五ヶ所もの店で万引きを働き、お菓子から本、はてはCDやゲームソフトも盗んでいた。
最初は恐る恐るだったものだが、そのうち徐々に大胆になり、しまいにはずいぶんと楽しんでいるようだった。
まあ、メカレディとしての能力を持ってすれば、万引きなどたやすいことだろうからな。
楽しくなるのも当たり前か。
A3は勤めていた会社に出向き、上司にここ数日の欠勤のことをわびていたようだった。
だが、明らかにメカレディとなった今の自分よりもはるかに能力の劣る上司に嫌悪感を持ったようであり、この上司の下でなど働く気にはなれないと感じたのであろう。
早々に会社を辞める旨を伝え、唖然とする上司を尻目に悠々とその場をあとにしたのだ。
そして身を隠すようにして社長室に入り込むと、ためらいもせずに用意した麻酔薬で社長を眠らせ、会社を出てきたのだった。
その口元には笑みが浮かんでいたのを俺は見逃してはいない。
A1にはピースコマンダーの末端施設の写真を取らせてやった。
もちろんそれでもフェイスカバーをしていない状況では顔バレの危険性が充分あるのだが、末端施設の人員がコマンダーピンクの顔を知っているという可能性も少ないだろう。
A1は複雑な思いだったかもしれないが、かえってこちらに知られてもいい箇所のみを撮ろうとし、メカレディの能力を発揮していることに気がついていない。
いや、もうそれだけメカレディとしての躰になじんでいるのだ。
こちらももう一息と言うところだろう。
そしてA4。
彼女に与えた命令は単純なもの。
夫には会わなくてもいいから、夕方からいつもどおりに近所のスーパーで買い物をし、近所の主婦仲間と時間をすごすことと言うものだ。
これが問題なくできれば、メカレディの擬態能力はほぼ問題がないだろう。
A4はこの命令を忠実にこなしていたが、スーパーでの買い物はイライラのしっぱなしだったようだ。
補助脳などの力もあって瞬時に買った金額を計算できるA4が、だらだらとレジに並ぶのは苦痛以外の何者でもない。
その証拠に彼女は買い物籠をレジに乗せたとたんに合計金額を言ってのけ、その場を通り過ぎようとしてしまったのだ。
まあ、そうは行かないから結局レジ打ちに付き合う羽目になったようだが、いつも綺麗なA4が口をへの字に曲げて不満そうにしていたのが面白い。
その後、近所の主婦たちと談笑をしていたA4。
ただ、それは俺の命令だから仕方なくやっているようで、心底楽しんでいるものではないのが精神波モニターからは見て取れた。
表面上はとても楽しそうにしている姿は人間には演技とはとても思えないだろう。
俺は時間を見計らい、そろそろと言うあたりで仕掛けたのだった。
ぴくりとも動かないラジコン人間たち。
死んだかもしれないが、そんなことはどうでもよかった。
思わず出してしまった手。
それが目の前でへたり込んでいる男に与えた衝撃は大きいものがあるだろう。
もちろん、そんな状況を男に見られてしまったA4にも大きな衝撃のはずだった。
俺は帰宅途中の男をラジコン人間を使って襲わせた。
まだ人通りが多い時間帯だったが、かまいはしない。
タイミング的な問題もあるし、どうせ警察あたりにはメカレディには手が出せない。
メレールが選んでくれたラジコン人間は、こちらの送信機で自分の意思とはまったく無関係に動かされる。
俺は近くに配置しておいた二人を使い、ナイフで男を脅させた。
それも主婦たちと談笑していたA4が見える位置でだ。
案の定A4は駆け出した。
当然だ。
男たちに絡まれたのはA4の夫だからだ。
人間だった彼女ならとてもそんなことはできなかっただろう。
警察に任せて、夫の身を気遣うしかできなかったに違いない。
だが、彼女はメカレディだ。
とっさに能力差を判断し、夫を助けられると思ったのだ。
俺はここでA4の中にある夫への愛情を断ち切るつもりだった。
A4はメカレディであり、機械帝国に忠誠を捧げてもらわなくてはならない。
人間に愛情を持っているなどあってはならないのだ。
A4は唖然とする夫の前で、わずか二撃でラジコン人間二人を打ち倒す。
しかも相手の武器が自分に影響を与えることはないとの判断から、打撃を重視して防御を無視した結果、A4は相手のナイフにわき腹を切り裂かれていた。
無論ボディにダメージなどでるはずもない。
単に着ていた服が切り裂かれていたに過ぎない。
だが、それこそが俺の望んだ結果だった。
ナイフを持った男二人を打ち倒し、へたり込んでしまった夫にA4は手を差し伸べた。
だが、その手に男の手が重ねられることはなかった。
うつろに見開かれたその目は、正面のA4を見据えているものの焦点はあっていない。
そして、その口からはあまりにも辛らつな言葉がつむがれる。
「ば・・・化け物・・・く、来るな」
A4は立ち尽くしていた。
そしてパトカーのサイレンが聞こえたとき、初めて何があったか気が付いたように逃げ出したのだった。
あの男にも人間操作機が付けられており、俺の指示で言葉を発したなど気が付くはずもなく。
- 2008/12/23(火) 20:21:01|
- 七日目
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「七日目」の八回目です。
四日目後編です。
ようやく後半に突入です。
長いお話をだらだらと続けてしまってすみません。
残り今日を含めて七日間、楽しんでいただければ幸いです。
それではどうぞ。
8、
『そこまでだ! 機械帝国の木偶人形ども!』
『その子たちを解放しろ!』
現れたな・・・
A1たちの正面に立ちはだかるピースコマンダーたち。
赤、青、黄、緑を基調としたスーツに銀のラインが入っている。
『み、みんな・・・』
A1が戸惑いの声を上げる。
おそらくは今一番会いたくない連中だったかもしれないな。
『我らピースコマンダーがいる限り』
『お前たち機械帝国の好きにはさせない!』
『今回は女の姿で私たちを油断させるつもりね?』
『そうはいくかってんだ!』
何もセリフを四人で分け合うこともあるまいに。
『それにお前たちには聞きたいこともある』
『桃野弘美をどこへやった!』
『弘美先輩を返しなさい!』
『コマンダーピンクがいないからって、俺たちピースコマンダーを舐めるなよ!』
『みんな、違うの。これにはわけが』
A1が首を振る。
フェイスカバーのせいで声がくぐもるから、奴らはコマンダーピンクの声と気がつかないのか。
『問答無用! 子供を返せ!』
おいおい、聞きたいことがあるんじゃなかったのか?
『だから、命令が来たらこの子たちは返すって言ってるでしょ! 邪魔しないで!』
『お願いです。私たちをほっといて!』
A2もA4も何とかこの場を切り抜けようとしているようだ。
まさか子供たちを抱えたままピースコマンダーと戦うわけにも行かないだろうからな。
『黙れ! お前たち機械のいうことなんか信用できるか!』
『可愛い声だしたって無駄だぜ!』
ピースコマンダーたちはまったく取り合う様子がない。
『機械って・・・私たちは機械じゃない!』
『私たちは人間です。この格好は理由があって・・・』
メカレディたちが必死に訴える。
『動きが止まったぞ! 今だ!』
俺は息を呑んだ。
コマンダーブルーのビームガンの一撃がA2の胸を撃ちぬく。
畜生!
まさか撃ってくるとは思わなかった。
『キャーッ!』
胸から火花を散らして倒れこむA2。
抱えていた幼女たちが宙に放り投げられる。
『トウッ』
『トウッ』
コマンダーイエローとコマンダーグリーンがジャンプして幼女たちを抱え降りる。
なんて奴らだ。
『A2!』
『A2!』
いきなりのことにA3もA4も抱えていた子供たちを放してA2に駆け寄ってしまう。
くそっ!
なんてこった。
俺も焼きが回ったか。
ピースコマンダーは撃ってこないだろうという甘い認識があったのは否めない。
その認識の甘さがこれか。
俺はこぶしを握り締めて歯噛みした。
「A3、A4、A2の様子はどうだ?」
俺はマイクに向かって怒鳴りかける。
『A3です。A2が胸をやられました。中の機器類がショートしています』
チッ!
装甲をもう少し改良する必要があるな。
「TG17のバルブを閉じるんだ。脳へのダメージを防げ! A1、聞こえるか?」
『聞こえます。ブルー・・・あなたなんてことを・・・』
A1のカメラアイは、撃ったブルーに向けられていた。
「撤収しろ、今回はここまでだ!」
『どうしてですか? A2がやられたんですよ? ブルー・・・赦さないわよ!』
「落ちつけ。今はA2を確保して帰還しろ。いずれやつらには報いを味わわせてやる」
『り、了解』
ふう・・・
だが、A1がここまで怒るとはな。
結果オーライか?
『見ろ! その穴から覗いているのは機械じゃないか! どこが人間なんだ!』
『黙って! 私たちは人間よ。人間なのよ。あなたたちにはわからないの?』
『機械帝国の奴らが何を言う! さあ、その子たちを解放しろ。じゃないと次はお前の躰に穴が開くぞ!』
再びビームガンを構えるコマンダーブルー。
射撃の名手とは聞いていたが、この状況で撃つとはな。
『撃てるものなら撃ってみなさい。私の躰は自動的に遠隔操作されてこの子たちを殺しちゃうわ』
A1・・・だからそれは悪のセリフだぞ。
『A3、A4、A2を抱えて。離脱するわ』
『了解』
『まてっ!』
『えいっ』
A1が抱えていた子供たちをピースコマンダーたちに放り投げる。
無論彼らがちゃんと受け止められるようにだ。
ピースコマンダーたちが子供たちを受け止めた一瞬の隙をついて、メカレディたちは離脱する。
俺はスパイメカを使って電波妨害やかく乱煙幕を張って援護した。
その間にメカレディたちは能力をフルに使って逃走する。
どうやら、逃げることには成功したようだな。
俺はホッと胸をなでおろした。
「A2は、A2は直るんですか?」
「お願いです。A2を助けて・・・」
「何でもします。命令にも服従します。ですからA2を・・・」
帰還してフェイスカバーをはずしたメカレディたちが必死に俺に頭を下げる。
A2はメカレディたちの中でも一番幼いこともあって、可愛がられていたのだな。
「システムをチェックしないとなんとも言えんが、脳が問題なければ大丈夫だ。最悪ヘルブールに俺が頭を下げればすむ」
「ああ・・・」
「よかった・・・」
「ありがとうございます、ゴラーム・・・様」
「「ありがとうございます。ゴラーム様」」
A1もA3A4も一様にホッとした表情を見せる。
俺だってA2は失いたくないからな。
いざとなればヘルブールに頭でも何でも下げてやるさ。
「ふう・・・」
リラックスルームのソファーに腰を下ろす。
とりあえずA2の修理は無事に済んだ。
脳への損傷もまったくなく、部品の交換と外装の張替えで済んだのだ。
当たり所がよかったというべきか。
それにしてもピースコマンダーの武器は恐るべき威力だ。
大砲とは言わないまでも、20ミリクラスの機関砲弾ぐらいなら貫通させない強化ボディをいとも簡単に撃ち抜いてくれるとはな・・・
A2はとりあえず休ませた。
目を覚ましたときのホッとしたような表情がよかったな。
やれやれ。
人間がペットを飼うときの気持ちはこんなものなのかもしれないな。
「ヒアッ」
俺は驚いた。
いきなりオイルジュースのボトルを首筋に押し付けられたのだ。
「むーっ、また浮かない顔してる。そんな顔見に来たんじゃないのに」
「メレール・・・驚かすなよ」
俺は差し出されたオイルジュースのボトルを受け取った。
どうやら俺を驚かせるために、センサーをかく乱してきたらしい。
「なによ! あんたがそんな顔しているからでしょ。そんな顔見たくないもん」
ストンと俺の隣に腰掛けるメレール。
茶色のふかふかの毛皮がなんとなく心地よい。
「ああ、すまない。ちょっとな・・・」
俺はできるだけ笑顔を作ろうとする。
やれやれ・・・
どうも顔に出てしまうのはよくないな。
「今日のことでしょ? だから言ってるじゃない。あたしがババーンと出てってドカーンとやっつけちゃうって」
「そう簡単に行かないのはわかっているだろ。いや、ピースコマンダーの連中との戦いのことじゃないんだ。あそこで撃ってくると想定しなかった俺の作戦の甘さを悔やんでいたのさ」
キャップを開けて一口飲む。
リラックスにはちょうどいいのだが、今の俺には苦く感じた。
「悔やむってなに? ねえねえ、それってあたしにもできる?」
まっすぐにきらきらした目で俺を見つめてくるメレール。
こいつはー・・・
なんて可愛い顔しやがるんだ。
「あのなー、悔やむってのはやってしまったことをしなければよかったなって考えてしまうことなんだ。いやな過去をなくしたいんだよ」
「記憶システム調節すればいいじゃん」
ふっ・・・
俺は思わず吹き出した。
「むーっ! なによー! せっかく心配してやっているのにー!」
シャキンと鉤爪が俺の喉元に伸びてくる。
「いや、違うんだ。お前の言うとおりだなと思ってさ。悔やんでも仕方がない。先を考えたほうがいいってことだな」
俺はうんうんと自分でうなずき、そっとメレールの鉤爪を遠ざける。
「むーっ、なんかよくわかんないけど、わかったんならよし」
自分のほうがなんか納得してないような顔で俺を見つめるメレール。
可愛いなぁ。
俺はついそっとメレールの顔を引き寄せてキスをした。
「なっ!」
いきなり跳び退るメレール。
手の甲で口をぬぐって俺をにらみつけてくる。
「ゴラーム! あたしに今何をしたー!!」
フーッと毛を逆立てて臨戦体勢に入るメレール。
あれ?
キスしたのまずかったかな・・・?
「いや、なにって・・・キス」
「そ、それってどんな攻撃よー!! うあぁ・・・大変だー!! 心臓ポンプが異常活動してるよー! 体温調節機能も作動不能で全身が熱いくらいに熱持ってるよー! うあぁー! あんたあたしを殺す気ね! こっちからぶっ殺ーーーす!!」
「ま、待て!」
俺の目の前で持っていたオイルジュースのボトルが真っ二つに切り裂かれる。
「うがぁー!!」
「待てってばー!」
俺は必死にメレールの鉤爪を避けて行く。
「違う! あれは攻撃じゃない!」
「黙れー! だったら何であたしの心臓ポンプが破裂しそうなのよー! 何であたしの躰がこんなに発熱してるのよー!」
ずたずたに切り裂かれていくさっきまで座っていたソファー。
置き換えたばかりのオイルジュースの保管庫もぐずぐずに切り裂かれる。
やれやれ・・・
「あれはキスといって親愛の情を示す行為だ。お前があまりに可愛いからついしちゃったんだよ」
ぴたっとメレールの動きが止まる。
「親愛の情? 可愛い? それ本当?」
「ほ、本当だよ」
すでに部屋の一角に追い詰められていた俺は、メレールの動きが止まったことにホッとした。
「むふふふふ・・・そうなんだー。あたしってゴラームから見て可愛いんだ」
いきなり抱きついてくるメレール。
「お、おい」
その勢いに負けて俺はしりもちをついてしまう。
「な、なんなんだお前はいったい」
「知らないよー。ゴラームが悪いんだ。あたしにこんな思いをさせるからゴラームが悪いんだよーだ」
ニコニコと笑みを浮かべながらほお擦りしてくるメレール。
やれやれだ・・・
- 2008/12/22(月) 20:42:51|
- 七日目
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「七日目」の七回目です。
今回は四日目前編です。
それではどうぞ。
7、
四日目。
そろそろメカレディたちに居場所を与えてやる必要があるだろう。
どこでもないこの機械帝国こそが自分たちの居場所であるという感覚をだ。
そのためには少々リスクの高い作戦も必要か・・・
もう見慣れた光景になりつつある整列して敬礼するメカレディたち。
俺はいつもと同じように彼女たちの前に出る。
「今日で四日目だ。まだまだお前たちは人間の世界に戻りたいようだな。お前たちがこれほどまでに人間であることに執着するとは思いもしなかったぞ。このままでは俺の負けになるかも知れんな」
表情を変えずに立ち尽くすメカレディたちだが、俺の言葉に一瞬ほころんだような表情を見せる。
人間世界に戻れるという希望がまだ根強いことを俺は感じ取った。
「さて、今日も任務に励んでもらおう。なに、今日の任務は昨日のような殺人ではない。安心していいぞ」
俺の言葉にさらに表情が緩むメカレディたち。
機械帝国の幹部の言うことを素直に信じているという事実をわかっているのだろうか。
「今日の任務もA1、お前が指揮を取れ」
「ギーッ!」
躊躇無く服従の音声を発するA1。
いいぞ、だいぶ素直になったじゃないか。
「任務は簡単だ。都内のどこでもかまわんから幼稚園を襲撃しろ。幼稚園バスでもかまわんぞ。むしろそちらのほうが定番かな」
「幼稚園を?」
互いに顔を見合わせるメカレディたち。
俺の意図がはかりかねるようだ。
「心配するな。さっきも行ったとおり今回は殺人は行なわない。むしろその逆だ」
「逆?」
不思議そうな顔をするA1。
「そうだ。お前たちは幼稚園を襲撃し、そこの園児を適当にさらうのだ。そして都内を適当につれまわせ」
「さらってつれまわす? 意味がわからないわ。目的は何なんですか?」
おいおい、敵に作戦の意図を確認するつもりか?
俺は思わず笑みが浮かぶ。
無意識的に俺の意図に沿った作戦行動をしようとしているのに気がついていないのだ。
「意図は宣伝だ。ここだけの話だがこれまでアルマーらが行った作戦が失敗の連続だったため、機械帝国恐れるに足らずと言う認識が人間どもの間に広がっている。特にピースコマンダーたちの行動によってこちらの作戦が何度と無く阻まれたことで、ピースコマンダーたちへの人間どもの信頼は最高レベルにまで上がっているといっていい」
俺の言葉にうつむくA1。
その様子を他のメカレディがチラッと目を向ける。
「そこであらためてわれわれ機械帝国の恐ろしさを人間どもに焼き付けてやるのだ。われわれはいつでも無防備な子供をさらうことができるのだぞと知らしめ、その上で警察や防衛隊ひいてはピースコマンダー連中をも翻弄して奴らの無力を見せ付ける。これほどの宣伝がほかにあるかな?」
「意図はわかったわ。本当に子供たちをさらって連れ歩くだけでいいのね?」
俺はA1にうなずいてやる。
「ただし、俺が命じるまでは絶対に子供を解放してはならん。それまではどんな妨害も実力で排除しろ」
「実力で?」
「そうだ。もしその妨害によって子供たちに何らかのダメージが出たとしてもそれは問題にするな。妨害をする奴らの責任であって妨害さえなければ起こりえないことだからだ」
「それは子供が死んでも・・・と言うことですか?」
A4が心配そうに尋ねてくる。
自らに子供はいなくても、彼女は子供が好きなのだろう。
こんなことが無ければ夫の子供を生みたかったに違いあるまい。
もっとも、そんな思いはいずれ消え去ると思うがな。
「そういうことだ。それがいやなら妨害をさせるな。相手を圧倒してお前たちの力を示せ。妨害が無意味であることを思い知らせるんだ」
「ギーッ、わかりました」
A4はうなずいた。
「それと最初に言っておく。今回はお前たちが自分で行動しろ。こちらからの躰の支配は一切行なわない」
「えっ?」
一様に驚いた表情を浮かべるメカレディたち。
「驚くことはあるまい。その躰にももう慣れただろう。遠隔操作より自分で自由に動かしたほうが子供たちに対する危険も少ないと思わないか?」
「それはそうだけど・・・いいの? 私たちは地底城を出た瞬間に脱走するかもしれないわよ」
俺はA1に笑みを浮かべて見せる。
「ふふふ・・・そのときはお前たちの躰を再び支配下に置き、壊れるまで暴れまわらせるさ。少なくとも大勢の人間が死ぬことになるだろう」
「そんな・・・」
「脱走はしません。しませんからそんなことはやめて」
「私もしない」
「私もしません」
口々に脱走しないことを約束するメカレディたち。
ふふふふふ・・・
これでいい。
「では始めろ。行け!」
「「ギーッ!」」
メカレディたちはいっせいに跳び出していった。
彼女たちが出て行ったあとで、俺は小型のスパイメカを発進させる。
カメラとマイクを積んだだけの小型メカだが、敵の動向を探ったりするにはちょうどいい。
トンボ型やアゲハチョウ型など大型昆虫に偽装してあるので、そうそう見破られもしないのだ。
さて、メカレディたちはうまくやっているかな?
俺は作戦司令室に足を運んだ。
どうやらA1は都内の一軒の幼稚園をターゲットに選んだらしい。
幼稚園バスを襲撃してもらいたいものだったが、まあ仕方ないだろう。
いつものようにフェイスカバーをつけ、黒いレオタードに身を包んだ彼女たちはなかなか魅力的である。
俺はスパイメカを二機ほどそばに貼り付け、他のスパイメカは周囲の様子を探らせる。
A3が入り口を確保して、他の三人が幼稚園に侵入する。
たちまち悲鳴が湧き起こる園内。
もっとも、子供たちは何かのアトラクション的なイメージがあるのか、時々小さな笑いも聞こえる。
『静かにしなさい。私たちは機械帝国。おとなしくしていれば危害は加えないわ』
『黙って言う通りにしてよね』
『あなた方も死にたくは無いでしょ?』
園児たちを黙らせ、保母たちを一角に押し込めるA1たち。
その手際は打ち合わせていたのかなかなかいい。
『A3、玄関はもういいわ。こちらに来て』
『了解』
『いいわね。打ち合わせどおり子供を二人ずつ抱えて連れて行くわ』
A1の指示に他の二人がうなずいている。
ほう・・・車か何かに乗せて連れて行くかと思ったが。
『両手がふさがっていれば、警察もピースコマンダーたちも私たちが攻撃できないと思うに違いないわ。こちらからの攻撃が無ければ向こうからの攻撃もきっと無いはずよ』
なるほど一理ある。
だが、手がふさがっているからこそ一気に取り押さえようとしてくる可能性は捨て切れんぞ。
『あなたとあなた、いらっしゃい』
『私はこの娘とこの娘を連れて行くね』
『それじゃ私はこの娘かしら』
次々と園児たちを抱きかかえるA2たち。
『あなた方、その娘たちをいったいどうするつもり!』
青ざめた顔をしながらも、必死に子供たちを守ろうとする一人の保母。
『静かにしてなさい。おとなしくしていれば危害は加えないわ。ただ機械帝国の恐ろしさを知らしめるだけよ』
おいおいA1よ、いいセリフじゃないか。
『そうそう、あとでちゃんと返してあげるから。おとなしく待ってなさい』
A2が二人の幼女を抱え上げて行く。
すぐに残りの三人も園児たちを抱きかかえて幼稚園をあとにした。
サイレンが鳴り響く。
赤色回転灯が瞬いている。
都内各所は蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。
四体の機械帝国の女たちが幼稚園児を誘拐したというのだ。
騒ぎになるのも当然だろう。
四人は両手に子供たちを抱えて悠々と通りを歩いている。
俺の宣伝と言う名目を律儀に守っているのだ。
『私たちには手を出すな! 私たちは機械帝国の恐ろしさを知らしめたいだけだ。この子たちには危害は加えない。私たちには手を出すな!』
『お願いだから私たちに手を出さないで! この子たちはあとでちゃんと返します。だから私たちには手を出さないでください!』
A1とA4が必死に叫びながら通りを練り歩く。
A2とA3も油断無くあたりを見渡しながら歩いている。
おそらくこれでは警察は手が出せまい。
事実彼女たちの行進をパトカーが先導し、さらに後ろをたくさんの警察車両とマスコミの車両がついて歩いている始末だ。
報道各局のヘリコプターが空を埋め尽くし、テレビもラジオも臨時ニュースであふれかえっている。
さて、そろそろかな・・・
- 2008/12/21(日) 20:49:27|
- 七日目
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「七日目」の六回目です。
三日目を全部載せますのでちょっと長いです。
それではどうぞ。
6、
三日目。
さて、そろそろ彼女たちにも自発的行動を取ってもらわなくてはならないな。
だが、そう簡単に彼女たちが自発的行動を取るとも思えない。
そこで俺はあることに思い至る。
達成感だ。
これはおそらく高度な精神活動を行う者だけが持ちうるものだ。
低級機械は命令を実行しそれが終了したとしても達成感などは感じない。
当然のことだ。
メカデクーたちが任務を遂行し終わったとしてそこに満足感や達成感があろうはずはない。
だが、俺たちは違う。
機械将アルマーにしてもメレールにしても皇帝陛下のために何かを行い、それを成し遂げたときには達成感を感じるもの。
それによって新たな命令に従おうとする気持ちもわいてくる。
俺はメカレディたちに単に褒美としての快楽だけではなく、この達成感を感じさせてやることにした。
「「ギーッ!」」
いつものように俺の前に直立不動で立ち、胸の前で右腕を水平にするメカレディたち。
どうやらこれに対してはそれほど嫌悪感は抱かなくなってきたかな。
「今日で三日目だ。俺は正直にお前たちに謝らなくてはならない」
俺の言葉に一瞬戸惑いの表情を見せるメカレディたち。
それはそうだろう。
まさか俺が謝るなどとは思っていないだろうしな。
「俺は正直言ってお前たちが簡単に服従すると思っていた。だがお前たちはいまだに人間でいたいと思い俺に服従しようとはしない。これほどお前たちが抵抗するとは思いもしなかった。このままではお前たちを解放しなくてはならないのかもしれないな」
メカレディたちの表情が緩む。
やはりなんだかんだ言っても解放されたいのだ。
まあ、そうはさせないがな。
「だが、まだ今日を入れて五日間ある。その間は俺に従ってもらうぞ。いいな」
「「ギーッ!」」
解放されるかもしれないという思いが多少は励みになっているのか、服従音声も心なし元気そうだ。
「さて、今日はパズルを解いてもらおう」
俺は一枚の見取り図を取り出した。
「なに、ちょっとした王を追い詰める知的ゲームだ。これはある総合病院の見取り図だ。ここの八階にはVIPルームがあってな。現在そこにある人物が入院している」
俺はテーブルの上に見取り図を広げる。
大都中央病院の見取り図だ。
現在ここの八階にはあの杜畔耕造(もりぐろ こうぞう)代議士が入院している。
常に財界との癒着を噂され、あまつさえ暴力団ともつながりがあると雑誌にすっぱ抜かれたことでマスコミの矢面に立たされそうになったのだが、体調不良を理由に緊急入院し、その後なぜか雑誌社のほうから記事はフリーライターの捏造であり迷惑をかけたと謝罪がなされる始末。
まあ、何が行われたかは容易に想像がつくことだ。
「これは・・・大都中央病院だわ」
俺はA3が小さくつぶやくのを聞く。
「ほう、知っているのか」
俺はA3に視線を向けた。
「・・・はい」
A3が小さくうなずく。
「私の友人が入院してまして・・・何度かお見舞いに行きました」
「そうか。まあそれなら話は早い。その通り、ここは大都中央病院だ。お前たちにはこれから作戦行動時間三時間以内に八階のVIPルームに陣取る王を除去する作戦を立ててもらう。時間は今から二時間やろう」
「二時間で作戦を私たちが立てろと?」
A4が驚いた顔で俺のほうを見る。
無理もない。
作戦などと言う言葉すら無縁に生きてきた主婦だ。
立てられるはずが無いのだ。
それはA2A3と手同じだろう。
だが、A1は違う。
コマンダーピンクとして活動してきた彼女ならば、このぐらいの作戦を立てることはできるはず。
そうでなくては意味が無い。
「そのとおりだ。お前たちが作戦を立てるんだ」
「む、無理よ」
「無理です、そんなこと」
A2とA3が顔を見合わせる中、一人A1だけが見取り図に見入っている。
ふふふ・・・いいことだ。
「言っておくが病院ごと爆破するとかのような作戦はだめだぞ。あくまで隠密裏が前提だ。排除するのは王とその護衛ぐらいまでにしろ」
「一つ聞かせて」
「なんだ?」
俺は顔を上げたA1に眼をやった。
「ここにいるのは誰? それにこの作戦は実際に行われるの?」
ほう、やはり気になるか。
「ここに入院しているのは杜畔代議士だ。スキャンダルのほとぼりを冷ましているのさ。当然病気じゃないから女性看護師相手に好き勝手なことでもしているだろうよ」
「あの腹黒が?」
「杜畔代議士ってあの暴力団ともつながりがあるって言う・・・」
A3もA4もその名にいい顔はしない。
税金を流用して遊興費に当てているという噂まである男だ。
腹黒代議士などといわれるのも無理はない。
「作戦が実行されるかどうかはお前たちの立てる作戦次第だな。いい作戦なら採用させてもらおう」
「そんなのごめんこうむるわ。作戦など立てるはず無いじゃない」
「どうしてだ」
俺はこちらをにらみつけるA1にそう訊いた。
「バカにしないで。いくら相手が悪徳代議士でも殺すことなんてできるはずが無いわ。そんな作戦を私たちがはいそうですかと立てるとでも思うの?」
こぶしを握り締めて今にも殴りかかってきそうな勢いだ。
当たり前の話だな。
「そうか・・・それでは仕方が無い。お前たちに病院で暴れまわってもらうことにしよう」
「な? そんな」
「どうも俺には才能が無いらしくてな。代議士だけを排除する作戦が思い浮かばなかった。だからやむを得ん。少々リスクは高いがお前たちに病院ごと破壊してもらおう」
「そんなことできるわけが・・・」
「いやぁっ! そんなことしたくない!」
「いやです! やりたくありません!」
口々に叫ぶメカレディたち。
思ったとおりの反応に俺は思わず笑みが浮かぶ。
昨日の殺戮を思い出したのだろう。
「まあ、二時間後にまた来るよ。そのとき作戦ができてなかったり、くだらない作戦ならお前たちに暴れてもらうことにする」
俺はそう言って部屋を出た。
『どうするの? 私たちはいったいどうしたらいいの?』
部屋を出た俺はまっすぐにモニタールームに行ってメカレディたちの行動をモニターする。
思ったとおり葛藤しながら議論をしているようだ。
モニターには苦悩の表情を浮かべるメカレディたちの姿が映し出されていた。
『このままじゃ私たちはまた躰を操られて病院を破壊しちゃうわ。私たちならそれは簡単なことだもの』
『でもそんなのはいや! いやよぉ!』
両手で自分の躰を抱きしめるA4と頭を抱え込むA3。
いずれもが絶望感を感じている様子が伝わってくる。
『排除・・・しようよ・・・』
ポツリとつぶやくA2。
やはり一番最初に折れるのはこの娘か?
『A2、あなたなんてことを? 人を殺して平気なの?』
A1がA2をにらみつける。
コマンダーピンクとしては許されざる行為だろうからな。
『平気じゃないけど・・・平気じゃないけど、仕方ないじゃない! 私だっていやよ! でも、でも排除しなかったら私たちは病院にいる人たち全部を殺しちゃうんだよ! そんなの・・・そんなの耐えられないよ・・・』
A2がうなだれる。
うんうん、可愛い奴だ。
『排除しましょう、A1』
『A4、あなたまでなんてことを・・・』
『お願いA1、あの男を排除する作戦を作って。そうじゃないと私・・・入院している友人を殺しちゃうかもしれない・・・』
『A3・・・』
『A1、お願い。あなたなら作れるでしょ? コマンダーピンクだったあなたなら。それにあんな男は死んでも誰も文句は言わないわ。むしろ喜ばれるぐらいよ』
何かを決意したかのようにA4がA1を見据えている。
『死ぬのは少ないほうがいいわ。A1、あなたは私たちに大量殺戮をしろと言うの?』
『A4・・・みんな・・・』
A2もA3もA1を見つめている。
ふふふふ・・・
さてどうするかな、A1よ?
一度目を閉じるA1。
やがてゆっくりと目を開け、はっきりとうなずいた。
『わかったわ。やりましょう』
『ああ・・・』
『A1・・・』
『ありがとうA1。感謝します』
三人がホッとしたような表情を浮かべる。
『仕方ないわ。死ぬのは少ないほうがいい。それに警察も手を出せないあの男を排除するのは正しい行為だとも思うわ』
『その通りよA1』
『やりましょう』
口々に男を排除することを自らが認めていく。
ふふふふ・・・
大量殺人をしない代わりに、お前たちは自ら人間を殺すことを選んだのだぞ。
二時間後。
俺の前には彼女たちが練り上げた作戦案が提出された。
人の出入りの少ない夜間を作戦行動の時間とし、メカレディの能力を使ってエレベーターシャフトや排気ダクトを使用して八階に潜入。
護衛を排除して王を確保すると言うものだ。
俺の考えとほぼ一致した上に、予想以上にできがよく、俺は満足だった。
そして・・・
勝手な行動をできないようにした上で実際にメカレディたちに作戦を行わせた結果、彼女たちは見事なまでに作戦を遂行し、杜畔代議士の暗殺に成功したのだ。
そのほかの人間には指一本触れずにだ。
もっとも殺人を犯すことにはやはり抵抗を感じるらしく、杜畔代議士を前に動きの止まってしまったメカレディたちの躰を操作して死に至らしめてやったのだがな。
無論罪悪感を一人に背負わせないためにも、メカレディの全員が杜畔に一撃を食らわせるというやり方をとってやった。
杜畔代議士の死を人間どもが知ったのは翌朝のことだった。
「ご苦労だった。よくやったぞ」
任務を終えて引き上げてきたメカレディたちを、俺はいつものように出迎える。
「作戦は成功だ。杜畔代議士は死に、お前たちは任務を達成した。見事だった」
俺はことさらに強調して褒めてやる。
もちろん多少快楽を与えてやることも忘れない。
「ギーッ! お褒めの言葉、ありがとうございます・・・」
フェイスカバーをはずしたA1がメンバーを代表して礼を言う。
だが、その表情は苦悩に満ちていた。
ふふふ・・・
やはり人間を殺すのは耐えられないか?
だが慣れてもらわねば困る。
まどろっこしいやり方だが、自意識を持った機械人間となってもらわねばな。
「嘆くことはない。お前たちはたった一人を殺しただけだ。それも人間のくずをだ。違うか?」
俺はA1の肩に手を置く。
そして快楽のパルスを多少強めてやった。
「あ・・・」
顔を上げるA1。
「任務達成は気持ちいいだろう? それもお前たち自信が立てた作戦で、しかも死んだのはくずが一人だけ。最高じゃないか?」
「そ、それは・・・そうですけど・・・」
戸惑いの表情が浮かぶA1。
ふふふ・・・
任務の達成感が湧いてきたようだな。
「お前はよくやった。見事に任務を達成した。そうだろうみんな?」
俺はA1を抱きかかえるようにして振り向かせ、他のメカレディたちと向かい合わせる。
「はい。A1のおかげで私は入院している友人を殺さなくてすみました」
「A1の作戦はすばらしかったわ。私たちはターゲットを排除するだけで事足りたんですもの」
「A1のおかげだよね。ありがとうA1」
口々にA1に礼を言うメカレディたち。
おそらく大量殺戮をしなくてすんだ安堵感があるのだろう。
病院を丸ごと殺しまくるなど人間にとってはぞっとしないだろうからな。
「ありがとうみんな・・・そう言ってもらえると、少しは気が楽になるわ」
なんとなくうれしそうなA1。
誰だって褒められるのはいい気分なものだ。
俺によって快楽を与えられているため、普通以上にうれしい気持ちが強いだろう。
「気にすることはないわA1。仕方なかったのよ。私たちは命令に従ったまで」
「そうだよ。命令でくずを排除しただけ。そういうことだよね」
「そう。私たちのせいじゃないわ。A1、あなたも気にする必要ないのよ」
違うな。
気にしたくないのは自分たちなのだ。
人間を殺してしまった罪悪感から逃れたいのだ。
それでいい。
命令で殺せるようになればいいのだ。
「ありがとう。確かに今回は仕方なかったんだと思う。そうだよね」
A1の言葉に他のメカレディたちがうなずく。
心なしかA1の表情も明るくなったようだ。
いい顔をしている。
「これで邪魔者は消え去った。あのような男は我が機械帝国にとっても邪魔なだけ。それをお前たちは見事に排除した。よくやった。今日はゆっくり休むがいい」
「「ギーッ! ありがとうございます」」
声をそろえて敬礼するメカレディたち。
俺は彼女たちを残し、部屋をあとにした。
「来てたのか」
リラックスルームにやってきた俺の目に、ソファーに寝そべっている美しい機械の雌豹が映る。
「むーっ! 来てたのかとはご挨拶ね。せっかく顔を見に来てあげたのにー」
一瞬にして彼女の表情が険しくなる。
やれやれ・・・
今日もまたオイルジュースは飲めないのか?
俺は置きなおされたジュースの保管庫から一本取り出すと、メレールにもいるかと身振りで訊いてみる。
だが彼女は首を振った。
「いらないのか。それにしてもお前も暇なのか? アルマー将軍は謹慎中だがやることとか無いのか? 俺の顔なんか見に来たってつまらないだろうに・・・」
俺はオイルジュースのキャップを開けて口にする。
だが、次の瞬間、俺のジュースはまたしても半分になっていた。
「むーっ! なによなによ! 暇なんかじゃないわよ! それをあたしがわざわざこうやってあんたの顔を見に来ているってのに、暇なのかですってーっ! ぶっ殺ーーす!」
ジュースに濡れた鉤爪がきらりと光り、メレールの怒りの篭った目が俺を見据えている。
何でだ?
俺が何か悪いこと言ったか?
「ま、待て待てって。だから何で俺の顔なんか見に来るんだよ。俺はメカレディを仕上げるのに忙しいんだし、お前だって忙しいなら来なくてもいいよ。俺の顔なんか見たってつまらないだろ? こうやってすぐに怒るし・・・」
ダンと俺の脇にあったジュースの保管庫が鉤爪で串刺しになる。
ぼたぼたとジュースが流れて床を汚していく。
「何よーー! あたしが来ちゃだめなわけ? つまらない顔ってつまらないけどつまらなくないよ! 見に来ちゃだめなのかーー!!」
何なんだー?
「別にだめとは言ってないだろ。見に来たかったら勝手にしろよ。こんな顔でよければ見せてやるよ」
パアッと顔が明るくなるメレール。
何だぁ?
「見に来ていいの? やったぁ」
いきなり俺に抱きつくようにほお擦りしてくるメレール。
「おいおい、何なんだよいったい」
「知らないよぉ。知らないけどなんかうれしいんだもん。いいじゃん」
「いや・・・まあ、いいけど・・・わっ」
俺はまるで押し倒されるかのように、ジュースに濡れた床にメレールと倒れこんだ。
やれやれだ・・・
- 2008/12/20(土) 20:44:32|
- 七日目
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「七日目」の五回目です。
二日目になります。
それではどうぞ。
5、
二日目。
俺は新たな任務をメカレディたちに与える。
今度の任務で俺は彼女たちにより強いショックを与えてやることにする。
そのための任務なのだ。
「さて、今日は二日目だ。まだまだ任務についてもらうぞ」
俺は整列したメカレディたちの前に立つ。
「今日、日本を代表する電気製品メーカーの重役陣が成田より出国する。K国企業との提携の詰めの作業ということだ。奴らを途中で襲撃し、殺せ」
息を呑むメカレディたち。
まさか今日は殺人を命じられるとは思わなかったのだろう。
だが、ショックを与えて自我を失わせるにはちょうどいい。
成功しても失敗してもメカレディたちが衝撃的な任務につくというだけでいいのだ。
口々に何か言いたそうなメカレディたちだったが、昨日と同じように発声機能をシャットダウンし、何もしゃべらせずに命令だけを伝えていく。
あまりのことに泣きそうになっているA2や、口元に手を当てて驚愕しているA3、そして相変わらずに俺をにらみつけてくるA1。
いずれもショックを受けている。
これでいい。
昨日と同じように俺はメカレディたちにフェイスカバーをつけさせる。
フェイスカバーをつけると、彼女たちがなんとなくホッとするように感じるのは気のせいか?
どちらにしろ、俺は彼女たちの躰を支配し、一切の抵抗を許さない。
「「ギーッ!!」」
右手を胸のところで水平にし、服従の音声を発するメカレディたち。
俺は無言でうなずくと、彼女たちを送り出した。
任務はあっけないほど簡単に終了する。
いくら日本を代表する電機メーカーの重役とて護衛がつくようなものではない。
四体ものメカレディの襲撃に対処できるはずがないのだ。
乗っていた車はあっさりと破壊され、あわてて逃げ出した重役たちも次々と肉塊に変えられる。
わずか数分で、周囲にたまたまいた車や通行人もろとも彼らは皆殺しになっていた。
モニターしていたメカレディたちの精神的抵抗は昨日と同様かそれ以上に激しかったものの、ターゲットである重役や女性秘書などを一人二人と殺していくにしたがって低下して行くのが見て取れた。
A1も最大レベルに近い拒絶反応を示していたものの、自らの手で運転手を始末したあとは拒絶がかなり弱まり、その後は多少の諦めが入ったのか淡々と任務をこなす自分の躰に抵抗しなくなったようだ。
よしよし・・・
いい傾向じゃないか。
「「ギーッ!」」
殺人という大役を果たして帰還したメカレディたちを俺はしっかりと出迎える。
無論褒美の快楽を与えてやることも忘れない。
フェイスカバーをはずした彼女たちは、皆なんとなくホッとしたような困惑したような複雑な表情を浮かべていた。
殺人を犯してきたというのに、昨日よりも苦悩の度合いが多少は低いようにも感じる。
ただ一人、A1は唇を噛み締めて、自らの躰が行った行為を苦しんでいるようだった。
俺は彼女たちにねぎらいをの言葉をかけてやり、控え室に戻らせた。
メカレディたちは控え室にいるときは最低限の制御のみで自由に過ごさせてやっている。
無論控え室の様子はモニターされ、異常があればすぐに俺に知らされる。
俺はモニタールームで少し彼女たちの様子を探ることにした。
『くう・・・どうにもならないのかしらこの躰。自分の躰だというのに自分の思い通りにならないなんて・・・』
ベッドに腰掛けて頭を抱えているA1。
やはりコマンダーピンクとして精神力はかなりのものだ。
『無理ですよA1・・・私はもうあきらめます。脱走したくても躰が地底城から出てくれないし、命令に逆らうこともできないもの』
ひざを抱えてうつむいているのはA3か。
この元OLはわりと精神的にはもろいようで、境遇を受け入れ初めているのかもしれない。
さぞかし企業としては使いやすいOLだったかもしれないな。
彼女たちにはお互いのことをナンバーで呼ぶように制御してある。
たとえ苗字や名前で呼ぼうとしても、発声システムが受け付けないのだ。
今のところはあなたとか私とかでごまかしているようだが、いつまでそうしていられるかな。
『あきらめたらだめよ! 何か方法があるはずだわ・・・ピースコマンダーセンターならこの躰だって元に戻せるかもしれないのよ』
『私は・・・私はもう元に戻れなくてもいい・・・』
『えっ?』
ベッドの上で枕を抱えているA2の言葉にびっくりするA1。
それはそうか。
彼女にとっては人間に戻らなくてもいいなどという言葉は信じられないだろうからな。
『ど、どうして? このままメカとして永遠に奴らの言いなりになってもいいの?』
『だって・・・』
うつむいてしまうA2。
A3もA4も彼女の次の言葉が気になるようだ。
『だって・・・このままならもう受験とか将来のこととか不安に思わなくていいし・・・歳を取っておばあさんになることもないし・・・それに・・・』
『それに?』
『命令されると・・・気持ちいいし・・・』
俺はほくそ笑んだ。
狙った効果が出始めているようだ。
『なに言ってるの? あなた自分が何言ってるかわかってるの? 命令されて人殺しをするのが気持ちいいの?』
A1の表情が険しくなっている。
おそらく心の片隅では自分もそう思ってしまったのだろう。
だからこそA2の言葉に反発するのだ。
『気持ちいいもん! 命令で人殺すの気持ちよかったもん! それに・・・そんなの私のせいじゃないもん!』
うつむいて枕を抱きしめるA2。
『それが奴らの手だってことがわからないの? 気持ちよくさせて言うことを聞かせようとしているのよ。負けちゃだめ。一週間。たった一週間の我慢じゃない。人間として生きるのよ』
『人間? 私たちが人間? 可笑しいわ。私たちが人間なわけないじゃない。この躰のどこが人間なの? 私たちはメカレディよ。機械帝国のメカレディなのよ。もうほっといて!』
ヒステリック気味に叫んで枕に顔をうずめてしまうA2。
そう言いつつも彼女自身まだまだ葛藤があるようだな。
生身の人間の脳とはなんと厄介なものか・・・
だが、悪くない。
メカレディたちを観察した後、俺は一息つくためにリラックスルームにやってくる。
やれやれ・・・
彼女らもそうだが、生身の部分が残っているというのは厄介なものだ。
それがほんの脳の一部だとわかっていても、こうして息抜きを求めてしまう。
もちろん精巧に作られた機械生命体とも呼べる上級幹部たちはやはり息抜きが必要で、メレールもしょっちゅうここでくつろいでいる。
もっとも、彼女の場合はサボっているというのが適当かもしれないが・・・
俺はそんなことを思い、オイルジュースを取り出して口にする。
味など知ったことではないが、飲み物を口にするという行為はリラックスするにはいいものだ。
さて、次にメカレディたちには何をやらせようか・・・
「こんなとこにいた!!」
「へ?」
なにやら強烈な威圧感を感じ、入り口に振り向いた俺のアイカメラに、まさに怒髪天をつくといった感じで毛を逆立てているメレールの姿が映る。
「ゴラーム!! あんたってば・・・むーっ!! ぶっ殺ーーーす!!」
「な、なんだー?」
いきなり鉤爪をシャキンと繰り出し、俺に向かって跳びかかってくるメレール。
尻尾をピンと伸ばし、すらっとしたしなやかな躰が跳躍するさまはとても美しい。
などと見入っているわけには行かない。
思わずカバーに繰り出した右手に握っていたボトルがすっぱりと切り取られる。
やれやれ、まともにジュース飲めないぞ。
俺は紙一重でメレールの斬撃をかわすと、後方に一回転して距離を取る。
これでも機械帝国の参謀という肩書きだ。
ピースコマンダーとも渡り合うぐらいの身体能力は備えている。
だが、メレールは怒りに目を赤く輝かせ、俺の懐にすばやく入り込んでくる。
速い!
さすがは猫をモチーフに作られた実行部隊長だけはある。
俺は再び紙一重で斬撃をかわすものの、服の胸の辺りを切り裂かれ、ボディーに一筋傷がついた。
「メレール、待て待て! これはしゃれにならないぞ!」
「黙れ! あんたなんか・・・あんたなんかの作戦に期待したあたしがバカだったわよーーー!!」
ブンと鉤爪が目の前をなぎ払い、俺の背後にあったオイルジュースの保管庫が一撃で切り裂かれる。
うわー・・・
「ど、どういうことだ? 俺の作戦はまだ始まっていないぞ」
「えっ?」
メレールの振り下ろした鉤爪が俺の数センチ前で止まる。
やばかった。
次の一撃は80%の確率で避け切れなかったのだ。
「始まってないって? うそ? だってちんけな紙切れ奪ってきたり、太った人間殺してきたじゃん。あんなことさせるためにメカレディ作ったんじゃないの?」
「あんなことって・・・昨日今日の一件か?」
俺は恐る恐るメレールの鉤爪をつかんで下げる。
「そうだよ! あんなことさせるぐらいならあたしに言ってくれればいくらでもやってあげるのに・・・むーっ!! 何で言ってくれないのよー!!」
再び振上げられるメレールの鉤爪。
「お前にやってもらったんじゃ意味がないんだよ。あれはメカレディを完全に仕上げるための一環なんだ」
「仕上げるための一環? どうしてそんな面倒くさいことをするの? やっぱり元人間だから? そんなの気にしなくていいのに」
振上げた鉤爪を上空で止めたまま俺のことを見つめているメレール。
まったく・・・
可愛いじゃないか・・・
「そんなことじゃないが、手間をかけるのは理由があるんだ。そのうち話すから」
「じゃあ、じゃあ、ほんとにあんなことのためにメカレディ作ったんじゃないんだね?」
お?
なんとなく機嫌がよくなったか?
「当たり前だろ。金を奪ったり企業の重役殺すだけならこんな手間をかけやしない。それこそお前にやってもらったほうがずっといいに決まってる」
「ほんと? ほんとにそう思う? あたしにやってもらったほうがいいって」
何を思ったのかいきなり顔を近づけてくるメレール。
心なしか目が輝き、何かを期待しているかのようだ。
「ああ、お前にやってもらったほうがいい。殺したり破壊したりは得意だろ?」
パアッと表情が明るくなるメレール。
何なんだ、いったい?
機嫌がよくなったり悪くなったり忙しい奴だ。
どこかにバグでもあるんじゃないのか?
「うん、得意。殺したり破壊したりは楽しいもん!!」
いきなりメレールは俺に抱きついてきた。
やれやれ・・・
なんか知らんが殺されずにすんだらしい。
「今回は赦してあげる。次からはちゃんと言ってね。あたしがすぐに人間どもなんかぶっ殺してあげるから」
ざらざらした舌でペロッと俺の頬を舐めたメレールは、なにやら上機嫌で行ってしまう。
ハア・・・
何なんだいったい?
だからお前にやってもらったんじゃメカレディの仕上げにはならないんだっての。
俺はどっと疲れを感じてソファーに座り込む。
オイルジュースをもう一本とも思ったが、保管庫が叩き潰されていてそれも無理。
やれやれ・・・
俺はメレールに舐められた頬に手をやって、なんとなく苦笑した。
- 2008/12/19(金) 20:47:41|
- 七日目
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ココロ、見ちゃいました。舞方雅人さんのベッドの下に真後ろが隠してあるのを……
*このエントリは、
ブログペットのココロが書いてます♪
- 2008/12/19(金) 10:35:57|
- ココロの日記
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08年12月18日23時半ごろ、140万ヒット到達いたしました。
前回とほぼ同様のペースで約二ヵ月半で到達した計算になります。
いつもながらこれも皆様のご支援の賜物と思い、深く深く感謝しております。
本当にありがとうございました。
これからも楽しんでもらえる作品ならびにブログ記事でありたいと思っております。
どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。
- 2008/12/19(金) 00:38:28|
- 記念日
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「七日目」の四回目です。
ようやく第一日目に入ります。
それではどうぞ。
4、
俺は早速この考えを試してみる。
メカデクー用のフェイスカバーを用意し、頭をすっぽりと覆うタイプのカバーに改良する。
これをかぶせれば、メカレディたちはどれも同じ頭部となり、まさに個を失うことになる。
個を失うことで、きっと服従しやすくなるはずだ。
そのために人間世界では制服を着せたりするのだからな。
俺は出来上がったフェイスカバーをメカデクーに持たせて、メカレディたちの控え室にやってくる。
彼女たちの制御装置は万全なので、地底城内を自由にうろつかせても良いことにはなっているのだが、彼女たち自身が控え室から出たがらないようだ。
俺は何の気なしに控え室のドアをスライドさせて中に入る。
いきなり黒いロングブーツを履いた脚が俺の顔面に迫り来る。
A1が奇襲の回し蹴りを放ったのだ。
俺は瞬時にそのことを判断し、避けるでもなく立ち止まる。
「くっ・・・ど、どうして・・・」
悔しそうな声がする。
振上げられたスマートな脚が、俺の数センチ前で止まっているのだ。
無駄なことを・・・
こいつらの躰には制御装置が入っている。
機械帝国の構成員に危害を加えることなどできないのだ。
まだわからないのか?
制御装置によってぴくりとも動けなくなったA1の脚を、俺はそっと下ろしてやる。
「動作確認か? 無駄なことはするな」
「悔しい・・・私の・・・私の躰なのに・・・」
A1は心底悔しそうに歯噛みしている。
まあ、当然か。
正義のコマンダーピンクが“敵”を目の前にして手も足も出ないのだからな。
「機械帝国に忠誠を誓い服従しさえすれば、いつでもお前の躰はお前の思い通りに動くといっているだろう。いい加減に抵抗をするのはやめたほうがいい」
「ふざけるな! 私の躰を自由にしたからって心まで自由にできると思うな! 私は絶対にお前たちには屈しない!」
今にも俺に向かって殴りかかってきそうな勢いだ。
やれやれ・・・
俺はポケットから制御装置を取り出してメカレディたちを支配する。
四人のメカレディたちはすぐに俺の前に直立不動の姿勢でそろった。
「「ギーッ!」」
右手を胸の前で水平にする機械帝国の敬礼をし、服従の音声を発するメカレディたち。
だが、すべてをあきらめたようなA2A3A4と違い、A1の目は俺をにらみつけていた。
「これからお前たちに任務を与える」
「ふざけるな! 誰がお前たちのために!」
敬礼をしたままで怒鳴ってくるA1。
なかなかに奇妙といえば奇妙な光景か。
「抵抗は無意味だということはわかっているだろう? お前たちの躰は俺が支配している。お前たちの意思など関係ないのだ」
「でしたら・・・でしたらいっそ殺してください。こんな躰になってしまったらあの人に会うことはもう・・・ううっ」
A4がうつむく。
躰を支配しているとはいえ、感情は思いのままに発露させてやっている。
顔の表情も自由にさせている。
精神を屈服させるにはそのほうがいいと考えたからだ。
いずれ人間社会で行動させるときには表情が豊かでなければ怪しまれるからな。
「死なせることなどできない。お前たちは大事な機械帝国の資産だ。壊れることも許さない」
「ひどい・・・ひどすぎます・・・お願い、殺して・・・」
俺はA4の感情を操作するべくそばに寄る。
「何を嘆くことがある。お前は機械の躰というすばらしいものを手に入れたのだ。老化や病気とは無縁なすばらしい躰ではないか」
言葉をかけつつちょっとした快楽を送り込む。
こうすることで俺の言葉に安心感を持たせるのだ。
A4はハッとしたように俺の顔を見ると、なんとなく困惑したような表情を浮かべるのだった。
「お前たちには現金輸送車を襲撃してもらう」
俺の言葉に顔を見合わせるメカレディたち。
首から下は動かなくても、顔を動かすことは問題ない。
ただし、文句を言わせないためにも発声機能はシャットダウンさせておく。
今は彼女たちに文句を言わせるときではない。
黙って命令に従わせればいいのだ。
「本日、日本国際銀行より都内各銀行向けに十億円の現金が輸送される。お前たちはこの現金を奪うのだ。無論警備がついているだろうが、お前たちの能力なら問題はあるまい。いいな」
「「ギーッ」」
彼女たちは悔しそうに、あるいはうつむいて服従の音声を発する。
まあ、今回は小手調べと言ったところだ。
彼女たちに服従する喜びと任務遂行の楽しさを教えてやれればそれでいい。
どうせ現金を奪ったところでわれわれにそうメリットがあるわけでもないし、保険で補填されてしまうだろう。
だが、機械帝国の恐ろしさを知らしめるにはそれなりの効果があるだろうから悪くはない。
「心配はいらん、お前たちにはこれを用意してやった」
俺は彼女たちの前に用意したフェイスカバーを置く。
そしてそれを嵌めるように命令する。
頭頂部を頂点にして前後に割れる形のフェイスカバー。
メカレディたちは無言でそれをかぶり、前後を押し当ててパチンとはめ込む。
こうすることで首から上がすべてフェイスカバーに覆われ、まるで女性形のメカデクーのようになる。
顔がグレーの金属質のカバーで覆われたことで、背の低いA2はともかく、A1、A3、A4は多少のボディラインの違いはあるものの、それほど差異を感じなくなった。
俺はメカレディたちに鏡を見せる。
自分たちが何かまったく異質のものになってしまったような感覚を受けているのではないだろうか。
先ほどまでは機械化されたとはいえ人間そのものだった顔が、まったく見分けのつかない量産化された機械そのものにあらためて変えられてしまったような。
「お前たちはこれで人間ではなくなった。お前たちはメカレディ。機械帝国のメカレディだ。何も考えることはない。お前たちはただ命令どおりにすればいいのだ」
再び直立不動で俺の言葉を聞くメカレディたち。
無言で立ち尽くす様はまさにメカだ。
「鏡を見てみろ。フェイスカバーをしたお前たちはメカレディそのものだ。お前たちはただ命令どおりに行動する。それはお前たちが何を思おうと変わらない」
そう、いずれは人間の姿で活動する必要も出てくるが、今は顔を隠すことで罪悪感や恐怖感をなくすことが重要だろう。
純粋に任務を楽しむことができれば、いずれは命令に従うことこそ気持ちいいことだという回路ができるに違いない。
「抵抗しても無意味なのだから抵抗するな。抵抗しても苦しいだけで結果は変わらない。苦しむことはない。お前たちは命令だから従うのだ」
A1あたりは納得するまい。
だが、慣れれば心も変わるだろう。
「一週間だ。一週間俺の命令に従え。一週間経ってもお前たちが人間でいたいと思うのなら解放してやる」
俺の言葉にメカレディたちはお互い無言で顔を見合わせた。
解放されるという言葉に期待したのだろう。
だが、俺はさらに絶望も植えつけることを忘れない。
「ただし、お前たちの肉体部品はすでに処分した。元の躰に戻してやることなどはできないが、解放するという約束は守ってやる。機械帝国の最高の技術を投入したお前たちメカレディだ。人間に擬態して暮らすのには不自由するまい」
フェイスカバーの奥で四人の表情がこわばったことは容易に想像ができた。
作戦そのものは何の問題もなかった。
それもそのはず、すべて俺がやったようなものだからだ。
今のメカレディたちが自発的に命令を遂行できるはずがない
すべてはこちらのコントロールで躰を制御し、作戦を遂行させたのだ。
さすがに犯罪を犯すとなるとA1だけでなくA2、A3、A4全員が必死に抵抗した。
制御室のモニターに現れた精神波形は、最大級の抵抗があることを示している。
彼女たちは地底城の外に出たのをいいことに何とか逃げ出そうとし、叶わぬとなると仲間や友人に連絡をとろうとし、最後の最後まで抵抗をあきらめなかった。
俺は正直驚いた。
A2やA3は半ばメカレディと化しただろうと思っていたのに、他の二人に勝るとも劣らないほどの抵抗を示したのだ。
やはり犯罪を犯すことには大いなる抵抗があったのだ。
だが、俺に支配された彼女たちの躰はあっけないほどに任務を遂行していった。
現金輸送車の前後を固める警備車両は、彼女たちが路上に跳び出したことで停車したところをエンジンごと破壊され、ドアをひしゃげさせられたために警備員が出られなくされてしまう。
前後を挟まれて動けなくなった輸送車は、中の警備員がドアをロックして抵抗したものの、そのようなものはメカレディには無意味なこと。
後部のドアをこじ開けて、警棒でかかってきた中の警備員を道路わきに放り投げて、現金の入ったジュラルミンケースを奪い取る。
本当は警備員など皆殺しにしてもいいのだが、ここで殺人をさせて精神的ショックを与えすぎるのもよくないだろう。
俺はそう考えて今回は警備員を極力傷つけずに済ますことにしたのだ。
その上で俺は彼女たちに多少の快楽を与えてやる。
命令だから仕方ないという思いと任務を遂行することで得られる快楽におぼれさせる。
面倒なことだが、これがうまく行けば、人間支配に新たなる局面が生まれるのだ。
「よくやった。これで首都圏の経済は打撃を受ける。国民の生活にも少なからぬ影響が出るだろう」
「「ギーッ!」」
俺はジュラルミンケースを軽々と担いで帰ってきたメカレディたちをねぎらってやる。
ピースコマンダーどもが駆けつけたときには引き上げは完了していた。
だいたい残り四人のピースコマンダーで日本全土をカバーできるはずがない。
バカ正直に真正面から戦おうとなどしなければ、彼らに捕捉されるなどありえないのだ。
俺は犯罪を犯しショックを受けているメカレディたちに心地よさを与えてやる。
任務を果たし褒められることを心地よく感じさせるのだ。
直立不動のメカレディたちに、俺は一人ずつねぎらいの言葉をかけそっと快楽を与えてやった。
メカレディたちはフェイスカバーをはずさせて解散させる。
フェイスカバーをはずした彼女たちは一様にホッとしたような表情を見せた。
俺はそのことにほくそ笑む。
フェイスカバーなどわずらわしいもの。
彼女たちがそう思うようになればしめたものだ。
顔を隠したいという思いをわずらわしさが上回れば、素顔での活動を受け入れるようになるだろう。
一つ一つ彼女たちの意識を変えてやるのだ。
- 2008/12/18(木) 20:48:04|
- 七日目
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「七日目」の三回目です。
そろそろ今回のストーリーがどういうものになるのか大雑把に見えて来るでしょうか。
それではどうぞ。
3、
手術台に寝かされたメカレディは漆黒のレオタードを着せられていた。
そして両腕には黒のロンググローブ、両脚はロングブーツを履いている。
それ以外は見たところまったく人間だったときと変わらない。
だが、中身は精巧な機械。
機械人間だ。
俺は起動エネルギーを注入し、起動プログラムを作動させた。
ゆっくりと目を開けるメカレディ。
まったくの無表情でゆっくりと上半身を起こしてくる。
俺は制御室から出て、手術台のところへ行き声をかけた。
「目覚めたようだな、メカレディA1(えーわん)」
こくんとうなずくA1。
俺は意地悪く笑うと、手元の機器を操作する。
突然表情が現れるメカレディA1。
「こ、ここは? あっ、お前は!」
飛び跳ねるようにして床に降り立ち、俺に対して身構える。
これでいい。
A1の意識は弘美の意識に置き換わった。
こうでなくては楽しみがない。
「こ、これは・・・わ、私の躰に何をした!」
着せられているレオタードやブーツだけじゃなく、躰自体が異質になったことがわかるのだろう。
まあ、当たり前だな。
機械化されたボディは変身などせずともコマンダーピンク並みの力を発揮する。
もっとも、それを機械帝国に対して振るうようなことはできない。
制御装置が働くのだ。
これからこいつには人間の意識を持ったまま、機械帝国の一員となってもらうとしよう。
「何、ちょっとした機械化をさせてもらった。お前の躰はほぼ完全に機械となったのだ。これからのお前は機械帝国の一員、メカレディA1として我らのために働くのだ」
「なっ、ふざけるな! 私はコマンダーピンク! 地球の平和を守る正義の戦士だ!」
怒りに燃えて俺に跳びかかろうとするメカレディA1。
だがその躰がぴたりと止まる。
「えっ? な、何で?」
「当たり前だろう。お前はメカレディだ。機械帝国の者にたいして暴力を振るうことはできない」
「そ、そんなバカな!」
必死で躰を動かそうとするA1を見て、俺は機械化がうまくいったことに満足する。
これでコマンダーピンクは死んだも同然。
あとは身も心もメカレディとなるようにしつけるばかりだな。
「ふうーん・・・なるほど。ゴラームって結構意地悪なんだ」
いたずらっぽく眼を輝かせながらメレールがやってくる。
まるでいたぶる獲物を見つけたような冷酷な笑み。
見ているこちらも背筋が寒くなる。
「ふふ・・・知らなかったのか? 俺は意地悪だよ」
「うふふ・・・そうみたいね。楽しそうじゃない」
ぺろりと鉤爪をなめるメレール。
いかんいかん・・・
壊されたらたまらんな。
「くっ、おのれ・・・私の躰を元に戻せ!」
先ほどからぴくりとも動けずにいるメカレディA1。
どうやら攻撃行動をやめるつもりはないらしい。
ならば、遊んでやるとしよう。
俺は手元の機器を操作する。
早い話、この機器でメカレディをコントロールできるのだ。
それは屈辱的なことだろう。
自分の躰を他人にいいようにされるのだからな。
まあ、今まで機械帝国に歯向かってきたのだ。
このぐらいは罰として受けてもらわねばな。
「えっ? な、何?」
一瞬よろめいたA1だったが、すぐにすたすたと我々に向かって歩き出し、やがてメレールの前で直立不動の姿勢をとると腕を胸の前で水平にし機械帝国の敬礼をする。
その間中彼女の表情は苦しそうで、必死になって躰の動きを止めようとしていたのが手に取るようにわかった。
ふふふふ・・・
表情ぐらいはそちらを優先してやるさ。
「ギーッ!」
メカデクーと同様の機械音を発し、我らに服従の姿勢を示すメカレディA1。
俺もメレールも思わず笑みが浮かぶ。
きっと今頃は腹の中が煮えくり返っているだろう。
だが、それもやがて慣れる。
お前はメカレディであることを誇りに思うようになるのだ。
俺はA1にメレールの足へ口付けをさせる。
すっとひざまずき、恭しくメレールのブーツにA1が口づけする様は、メレールの機嫌を良くするにはうってつけだった。
「ふーん・・・まあまあじゃない。この女、機械帝国の一員として認めてあげてもいいわよ」
あのコマンダーピンクがひざまずく姿がよほど気に入ったのだろう。
俺はメレールにしばらくA1をいろいろとこき使わせ、自尊心を満足させてやることにした。
キッと俺をにらみつける者。
顔を覆って泣いている者
唇を噛み締める者。
あきらめたようにうつむいている者。
全員が機械人間となったことを嘆いていることは間違いない。
ふん・・・
感謝してほしいものだな。
メカデクーのように表情も何もないフェイスカバーで顔を覆うこともできたのだ。
いや、むしろその方がコスト的にもはるかに低い。
だが、お前たちは人間に紛れ込ませることが目的の一部のメカレディだ。
多彩な表情を作り出すことができるように機械化筋肉で顔を作ったからこそ、そんな表情もできるのだ。
俺は躰の自由を奪いつつ、意識だけは人間だったときのままにしておいている。
完全に意識もコントロールするのは簡単だ。
だが、それでは人間のふりをすることはできない。
どこかで異質さが出てしまうだろう。
だから俺は意識を人間のときのままで機械人間に仕立て上げる。
人間と変わらぬ意識のまま機械人間となれば、人間たちの中に紛れ込ませるのは簡単だ。
ふふ・・・
こんな面倒くさいことを考えるのは、やはり俺が元人間だったからなのかもしれないな。
「くっ・・・け、けだものめ! 私たちを元に、元に戻しなさい!」
直立不動の姿勢をしたまま、俺をにらみ続けているメカレディA1。
目にレーザーでも仕込んであれば、俺は焼き殺されているのだろうな。
「ああ・・・はうぅ・・・ああ・・・」
「ど、どうして・・・ああ・・・そ、そんな・・・」
椅子に座った俺の足元では、黒のレオタード姿でお尻を振りながら俺の靴に舌を這わせているメカレディA2(えーつー)とA3(えーすりー)がいる。
先ほどまで泣いていた女子高生だったA2と、タイトスカートが似合うOLだったA3だ。
彼女たちは俺の靴を舐めるという屈辱的な行為をさせられているのに、戸惑いの表情を見せている。
ふふふ・・・
これこそ俺のやり方だ。
屈辱的な行為だが、二人の脳には快感が刺激として与えられている。
そのことに戸惑いを感じているのだろう。
俺は手元の機械で微妙な調整を加えてやる。
「ああ・・・」
「ふああ・・・」
突然腰をもじもじさせるA2とA3。
与えられた快楽に躰が反応しているのだ。
俺の靴を舐めながら、二人は全身を覆う快感に身もだえしているのだろう。
そして・・・
「ああ・・・なんてことを・・・」
「そんな・・・こんなことって・・・」
悲しそうな表情で二人を見つめているA4(えーふぉー)と、歯噛みしながら自分の躰をどうにかコントロールしようとしているA1。
彼女たちにも俺は快感を与えてやっている。
服従する喜びを感じさせるのだ。
自分も服従したい。
そう思うように仕向けて行く。
自らが服従することを選んだとき、こいつらは完全なるメカレディとなるだろう。
******
「メカレディたちの仕上がり具合はどう、ゴラーム?」
一息入れにやってきたリラックスルームには、長椅子に寝そべってメカデクーたちに毛づくろいをさせているメレールがいた。
「それがどうも・・・な・・・」
俺はオイルジュースを取り出し、メレールの向かい側に腰を下ろす。
わずか数日。
人間の個体差というものをこれほど思い知らされるとは思わなかった。
女子高生をベースにしたA2とOLをベースにしたA3は、精神波モニターによればメカレディとしての自分を受け入れ始めており、俺に服従することにそれほど抵抗しなくなっている。
むしろ、服従することで快楽が得られるなら、それでもかまわないとも思い始めているようだ。
だが、新婚の若妻だったA4と、コマンダーピンクだったA1はかたくなに服従することを拒み通しているのだ。
コマンダーピンクは地球の平和と仲間たちが助けに来てくれると信じて。
若妻は愛する夫を裏切りたくないため。
どちらも思い人や思うものがあるからたやすく服従しないのだ。
快楽を与えるだけでは何か足りないものがあるというのだろうか・・・
俺はきっと難しい表情をしていたに違いない。
メレールがそばに立っていたことにすら気がつかなかったのだ。
「ふん」
スパッとオイルジュースのボトルが切り裂かれ、中身がぼたぼたとこぼれ落ちる。
「なっ? いきなり何をする!」
「ふんっ! あんたが悪いんじゃない! そんなつまらない顔なんか見たくないんだからね! 何さ、メカレディのことばっかり考えちゃって・・・」
な・・・なんだそりゃ?
この作戦を成功させなければ、俺は皇帝陛下に申し訳が立たないんだぞ。
それに失敗したら俺を始末するって言っていたのはお前じゃないか!
俺は何がなんだかわからずに、ぽかんとしてしまった。
「あたしはあんたのそんな顔は見たくないんだからね! そんな顔見せるぐらいなら、メカデクーのようにフェイスカバーでもつけちゃえ!」
「な、何だとー?」
「あんたにそんな顔させるメカレディなんていらない! ピースコマンダーなんてあたしがガーッて出張ってババーンとやっつけてやるから、メカレディなんて捨てちゃってよ!」
フーッと背中の毛を逆立てそうな感じでメレールが怒っている。
何でだ?
何か俺が悪いことをしたか?
「何を怒っているんだメレール? 俺が何かお前にしたか?」
「何かしたかって・・・何もしてないわよ! むーっ! 何でこんなにムカムカするのよ? あんたあたしに何かした?」
「それを訊いているんだろうが!」
「むーっ! もうゴラームなんか知らない!」
ぷいと背中を向けてリラックスルームから出て行ってしまうメレール。
出がけの駄賃とばかりにメカデクーの一体がバラバラに切り刻まれていた。
何なんだ、一体?
俺はメレールの背中をただ見つめるだけだった。
待てよ・・・フェイスカバー・・・か・・・
俺はメレールが去った後、彼女の言葉を反芻する。
何で彼女が怒っていたかわからないが、オイルジュースのボトルをごみとして放り投げた後、俺は再度考え込んだ。
フェイスカバー・・・か・・・
メカデクーは量産品の機械戦闘員だ。
無論機械化筋肉などで顔が作られるわけもなく、むき出しの機械部品を保護するために顔を模したカバーがつけられる。
カバーは規格品であり、どの顔もまったく同じ。
つまりメカデクーはどれを見ても同じなのだ。
そこに個という概念は生じない。
目の前に立っていたメカデクーを認識したとしても、次の瞬間に他のメカデクーと入り混じってしまえば見分けなどつかなくなる。
次に何か命じようと思えば、またどれか一体を選び出すだけ。
それが前回と同じメカデクーであれば、それは単なる偶然に過ぎない。
誰でもあり誰でもない。
個の概念の喪失。
これはいけるかもしれないな。
- 2008/12/17(水) 20:47:06|
- 七日目
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「七日目」の二回目です。
それではどうぞ。
2、
「いいな、メレール。あくまで確保が目的だ。調子に乗って暴れて殺しまくるんじゃないぞ」
俺はスクリーンを前にしてヘッドセットのマイクに言う。
『むーっ! わかっているって言ってるでしょ。それほどあたしが信用できないの?』
ああ、そうだ。
お前は人間の血を見るのが大好きだからな。
プログラムがそうさせているのだろうが、指揮官としては少々心もとないのも事実。
もっとも、殺戮しまくるメレールの姿は美しいのだがな。
「信用しているさ。美しき女猫メレール」
『ふふん・・・元が人間にしちゃ、わかっているじゃない』
可愛い奴だ。
「あと30秒でそこを通る。頼んだぞ」
『任せなさい』
俺はメレールの自信に満ちた声に満足し、スクリーンに注目する。
そこには乗客を乗せたバスが映し出されている。
平日の午後遅く。
学校帰りの学生やショッピングの行き帰りの人々、そして何より、休日を楽しむピースコマンダーの一人コマンダーピンクの桃野弘美(ももの ひろみ)が乗っている。
彼女こそ今回のターゲット。
ここ数日に渡って情報収集してきたかいがあるというもの。
「今だ!」
俺の命令にメレールの手が振り下ろされる。
メカデクーの一体がバスの車輪を銃撃する。
タイヤを射抜かれ急激に車体を振る路線バス。
運転手は必死にハンドルを握り、急ブレーキをかけて車体を何とか制御しようとする。
だが、歩道に乗り上げ電柱に衝突したところでバスは停止した。
「行け!」
『わかってるってば』
メレールのいちいちうるさいと言わんばかりのすねたような返事。
やれやれ・・・後は任せるしかないな。
メレールとメカデクーたちが一斉に止まったバスに走り寄る。
割れた窓ガラスから催眠ガス弾を投げ込み、車内の乗客の動きを封じるのだ。
桃野弘美がコマンダーピンクに変身するかもしれないが、そのときは乗客を人質に取ればいい。
五人がそろったピースコマンダーは無敵の力を発揮するが、一人ならばその力は極端に低下する。
五人そろったところをまとめて・・・などと考えるアルマーにはわからないのだろうな。
『ゲホッ、ゴホッ、くっ、機械帝国の連中ね』
口元を押さえながらバスから出てくる桃野弘美。
ピンク色のジャケットがよく似合っている。
『うふふふ・・・コマンダーピンク、一緒に来てもらうよ』
堂々と正面に立ちはだかるメレール。
茶色の毛皮がふかふかと気持ちよさそうだ。
・・・・・・
・・・・・・
何を考えているんだ、俺は?
『ゲホッ、メレール! あんたの仕業ね!』
ファイティングポーズをとろうとするものの、弘美の足元はおぼつかない。
どうやらガスの効き目が出ているようだ。
これならばさほど苦労することもあるまい。
『うふふふ・・・さっさとおネンネしちゃえ!』
跳びかかるメレール。
コマンダーピンクに変身することもできずに弘美は追い詰められていく。
二撃三撃とメレールの鉤爪を受け、ついに弘美は地面に倒れ付した。
動きを止めるメレール。
俺はホッとした。
もしかしたらこのままメレールは弘美を殺してしまうのではと思ったのだ。
『憎きコマンダーピンク! このまま殺しても飽き足りないけど、ゴラームがつれて来いって言うから生かして連れて行くわ。お前たち! 他は見繕ったの?』
『ギーッ!』
路線バスの車内から女子高生や若いOLと思われる女性などを連れ出すメカデクーたち。
上々だ。
「よくやったぞ、メレール。あとは桃野弘美を連れて地底城に戻るんだ」
俺はスクリーンに向かってそう言った。
だが、メレールは動かない。
尻尾がぴくぴくと小刻みに震えている。
ヤバい・・・
こいつはかなり機嫌が悪くなっている。
『つまらない・・・』
小さくつぶやくメレールの声。
『つまらない』
その声が少し大きくなる。
うわぁ・・・
暴れ足りないのか。
確かに弘美はコマンダーピンクになることもなく気を失ってしまったし、バスの乗客を傷つけることもできなかったのだ。
まさにお預けを食ったというところだろう。
『つまんないよゴラーム! つまんないつまんない!!』
ああ・・・やれやれ・・・
仕方ないな。
わがままお嬢様は世話が焼ける。
「わかったメレール。目的は達した。バスの残りの乗客やそこらで様子をうかがっている奴らを殺しまくって来い」
メレールの尻尾がぴんと立つ。
『いいの? 暴れてもいいの?』
「ああ。だが他のコマンダーどもが来る前に引き上げるんだぞ。いいな!」
『わかってるわ! やったー!』
嬉々として鉤爪を振るい始めるメレール。
俺はメカデクーたちにメレールのサポート要員以外は引き上げるよう指示を送る。
まあ、第一段階は成功だ。
残りの乗客ををぐちゃぐちゃにしてやれば、誰かが行方不明になったこともわかりづらいだろうしな。
スクリーンの向こうではメレールの楽しそうな笑い声と血しぶきが飛びかっていた。
やれやれ・・・
あの分では綺麗な毛並みが血まみれだな。
牢に入れられている女たち。
その数四人。
一人は女子高校生。
セーラー服を身にまとい、学校の帰りだったらしい。
一人はOL。
仕事で取引先に使いに行って帰る途中だったという。
一人は主婦。
結婚したばかりで新婚の旦那のために買い物を済ませて帰る途中だった。
そして一人はコマンダーピンク。
久しぶりの休日をウィンドショッピングで過ごした帰りだ。
おびえて牢の片隅で身を寄せ合っているほかの女たちとは違い、彼女だけはしっかりと俺をにらみつけてくる。
まさにメレールに勝るとも劣らない野獣のような目。
俺のカメラアイにもまったくひるまずに正面から見据えてくる。
「私たちをどうするつもりです! 答えなさいゴラーム!」
「威勢のいいことだ。だが準備が整うまでもう少し静かにしていろ」
俺は手にしたスタンロッドを突きつける。
まだこの女は野獣と同じ。
飼いならすには時間が必要だ。
それと手間もかけてやらねばな。
「ギーッ! ジュンビガトトノイマシタ」
メカデクーがやってきて、胸のところで手を水平にして敬礼する。
俺はうなずくと、桃野弘美をスタンロッドで指し示す。
「よし、まずはこの女からだ。機械化を始めろ」
「ギーッ!」
「き、機械化ってどういうこと? いったい何を考えているの?」
弘美の顔が青ざめる。
何、心配は要らない。
お前の躰を機械化するだけのことだ。
メカデクーたちが弘美を無理やり牢から連れ出すのを、俺は黙って眺めていた。
「いやぁっ! やめてぇっ! たすけてぇっ!」
機械化手術台に載せられる桃野弘美。
着ている物はすべて脱がされ、両手両脚を固定されて動けなくされている。
コマンダーピンクへの変身システムであるブレスレットは取り外され、ヘルブールに渡してある。
今頃は解析に勤しんでいることだろう。
「あの女をどうするつもりなのさ? ゴラーム」
すっかり満足したメレールが鉤爪を舐めながら俺の隣にやってくる。
シャワーを浴びてきたのか、綺麗に毛づくろいされた毛皮からはいい香りがする。
ここは制御室。
機械化手術台を見下ろす位置にある。
「簡単なことだ。俺同様機械化して、機械帝国の一員にする」
「え~っ? あの女を機械帝国に加えるって言うの? 面白くないよ、それ」
むっとしているメレール。
まあ当然か。
今までさんざん苦杯を飲まされてきたのだからな。
だが、これこそが俺の作戦なのだ。
身近な人間がいつの間にか機械化され機械帝国の一員となっている。
これは人間どもにとっては恐怖以外の何者でもあるまい。
人間同士の相互不信はやがて内部分裂を引き起こし・・・
われわれ機械帝国の支配がかなりたやすくなるはずなのだ。
「面白い面白くないではない。これこそが俺の作戦なんだ」
「ふうーん・・・でもちょっとでもおかしなことしたらすぐに殺すからね」
それはどっちのことだ?
機械化された弘美のことか?
それとも・・・俺か?
「まあ・・・ゴラームみたいに役に立つなら・・・仕方ないけどさ・・・」
なぜそこでゴニョゴニョと語尾が怪しくなる?
「キカイカジュンビカンリョウデス」
目の前のいくつものランプがグリーンに灯る。
俺はスイッチをオンにした。
桃野弘美の躰に麻酔が打ち込まれる。
一瞬にしてぐったりとなる弘美。
それを見計らったように次々とアームがせり出してくる。
レーザーメスが若い肉体を切り開き、ドリルが穴を開けて行く。
骨や内臓が取り出され、機械化臓器や強化骨格が入れられる。
眼球がカメラアイになり、鼻はガスセンサー、舌も味覚センサーに置き換わる。
機械化筋肉が埋め込まれ、制御装置が組み込まれる。
五時間ほどで桃野弘美の肉体は、完全に機械と置き換えられていた。
「終わったの?」
退屈になって制御室をあとにしていたメレールが戻ってきた。
俺は最終チェックを終えて出来上がりに満足していたところだった。
「ああ、終わった」
俺はつい人間だったときのくせで額の汗をぬぐってしまう。
おかしなものだ。
俺は汗などかかないし、機械の躰は完璧だというのに。
「あら? あれで機械になったの?」
制御室から手術台を見下ろしたメレールが首をかしげる。
おいおい・・・
お前だってカメラアイで見れば内部透視ぐらいできるだろう。
「ああ、脳以外は完全に機械に置き換わった。もはやあの女は機械帝国の一員、メカレディだ」
まったくまどろっこしいことをするものだ。
そっくりのロボットを作ったほうが簡単だろう。
だが、人間を機械化することに意味がある。
俺はそう思うのだ。
- 2008/12/16(火) 20:55:57|
- 七日目
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いよいよ140万ヒット到達までカウントダウンとなりました。
これもいつも当ブログに足をお運びくださる皆様の応援の賜物ととても感謝しております。
そこで、本日より14日間連続でSSを一本投下いたします。
14日間連続で一本というのは過去例がありませんし、おそらくこれからも難しいかもしれません。
また、本来であれば、140万ヒット達成と同時に公開というのがよかったのかもしれません。
ですが、年をまたぐというのも何か変な気がしましたので、到達前ではありますが投下していこうと思いました。
皆様が楽しんでいただければ幸いです。
タイトルは「七日目」
それではどうぞ。
1、
「何やってんの?」
背後から声がかかる。
可愛らしい声と姿をしているが、彼女は猛獣のごとく残忍だ。
下手に機嫌を損ねないほうが得策だろう。
「いつか行う俺の作戦の準備さ」
俺はにっこりと笑みを浮かべて振り返る。
俺の目の前には首から下を茶色の毛皮で覆い、ネコ型の耳と尻尾を生やし、ビキニ型の金属アーマーとガントレット、それにアーマーブーツを身につけた女が一人立っている。
その両手の先の鉤爪は、いつでも獲物の喉をかき切ってやろうと輝いていた。
「作戦ねぇ。やっぱ元が人間だからそういう面倒なこと考えるわけ? あたしなんかガーッと出てってババーンと暴れてドカーンと破壊すればいいと思っちゃうけどなぁ」
俺は思わず苦笑した。
仮にも機械帝国の女実行部隊長メレールともあろう者が、そんなことでは困るだろうが。
「考えるさ。人間とは物理的破壊のみを恐れるものではない。精神的恐怖が結構大きな割合を占めるのだからな」
俺は穏やかにそういった。
メレールは納得したようなしてないような表情を浮かべ、舌なめずりをする。
「ふーん・・・まあ、いいや。あんたが機械帝国を裏切ることはありえないし。それに万が一裏切ったりしたら・・・うふふふ。わかっているんでしょ、ゴラーム?」
右手の鉤爪をぺろりと舐めるメレール。
俺と違い一から作り出された彼女には裏切りという概念はわからないだろう。
単に俺が元人間だから機械帝国に反する行動をすることがあるかもしれないと判断しているに過ぎない。
「わかっているさ、メレール。俺は死にかけた躰を機械にしてもらった。機械帝国には恩がある。だからこそ人間どもを支配下に置くべく努力しているつもりだがね」
俺は金属の腕を見せ付ける。
そう、俺の躰はほとんどが機械。
機械帝国によって脳以外を機械に変えられていた。
生まれつきの死にぞこないだった俺は、五年前に機械帝国に拾われた。
機械が人類を支配するという目的のため、俺は人間の思考を機械帝国が知るためのサンプルだったのだ。
どうしようもない脆弱な躰を捨て、機械の肉体を得た俺は、機械帝国に忠誠を誓った。
人間であることに未練などなかったし、むしろ機械であることに心地よさを感じたのだ。
今では皇帝も俺に一目置いてくれている。
帝国の参謀の一人としてこの地底城に一室を与えられているのだった。
『ゴラーム、メレール、すぐに謁見の間に参集せよ』
「ん?」
「陛下がお呼びだわ」
重々しい声が俺の部屋に流れ、俺はすぐに謁見の間に向かう。
もちろんメレールもその敏捷性を生かして先を行く。
地底城の謁見の間にはすでに他の幹部たちがそろっていた。
機械博士ヘルブールと、機械将アルマーだ。
頭部に巨大なコンピュータを持ち白衣を着た科学者風のヘルブールは、人類支配のためのメカマジュウを作り出すのが仕事であり、全身をがっちりとした鎧に覆われた機械将アルマーは機械兵団を指揮する将軍である。
その二人がそろって陛下の前に頭を垂れていた。
もっとも、皇帝陛下ご本人が姿を見せているわけじゃない。
壇上の玉座にはただ椅子がおいてあるだけ。
皇帝陛下はお声のみをわれわれに聞かせ、そして支配なされるのだ。
俺はメレールとともに二人の後ろにひざまずいた。
『そろったようだな』
「「ハハーッ」」
俺たちの声がハーモニーを奏で、いっせいに一礼する。
『機械将アルマーよ、報告せよ』
「ハ、ハハッ」
おや?
心なしかアルマーの動きが鈍い。
また何か失態をしたのは間違いないところか・・・
「こ、このたび我が機械兵団は、メカマジュウレンジーンによる“東京温めますか作戦”を行い、一気にヒートアイランド現象を加速させ人間どもを混乱に陥れようといたしましたが・・・ピースコマンダーたちの妨害に遭い失敗。撤退を余儀なくされた次第でございます」
うなだれて敗北を報告するアルマー。
やれやれ・・・
毎回毎回正面切っての攻撃じゃだめだとまだわからないのかな。
『愚か者め』
静かに冷ややかに言葉を投げつける陛下。
その怒りのほどがうかがい知れる。
「お、お待ちくださいませ陛下。作戦の失敗は私にあるのではありません。毎回くだらぬメカマジュウを製造するヘルブールこそ責任を負うべきかと」
「ナ、ナニヲイワレルノカ。ワガハイハマイカイサイコウノめかまじゅうヲサクセイシトウニュウシテイルノダ。サクセンノシッパイハ、ヒトエニキサマノムノウニヨルモノデハナイカ!」
ハア・・・
俺はため息をつく。
こいつらは責任のなすりあいか・・・
協調性のかけらもないやつらだ。
これではいつまでたってもピースコマンダーたちには歯が立たない。
『二人とも下がれ。しばし謹慎するがいい』
「「ハ、ハハーッ」」
神妙にうなだれ、謁見の間をあとにするアルマーとヘルブール。
部屋を出たところでの言い争いが目に浮かぶ。
『ゴラームよ』
「ハハッ」
俺は顔を上げた。
『見てのとおりだ。次の作戦はそちに任せる。存分にやるがいい』
「ハハッ」
俺は一礼する。
さて、今回の作戦を実行に移すとするか。
謁見の間を離れ、自室に戻ってきた俺に対し、なぜかメレールまでが俺の部屋にやってくる。
「へえ、ゴラームが指揮を取るなんてね。大丈夫なのかしらね」
腕組みをしながら壁にもたれているメレール。
意地悪そうにニヤニヤと俺のことを見つめている。
やれやれ。
失敗したら躰をバラバラにされそうだな。
実際のところ俺は作戦の指揮を取ること自体初めてだ。
参謀などという肩書きは、実際のところは皇帝陛下の相談役にしか過ぎない。
人間の知識や思考、さまざまな行動原理などのことを皇帝陛下にお教えし、その相談にあずかるだけなのだ。
過去に一度か二度陛下に作戦指揮を取るようにおおせつかったものの、そのたびにアルマーやヘルブールなどが陛下に取り入って指揮するチャンスを奪われていた。
まあ、指揮など取るつもりもあんまりなかったからいいんだがね。
でも、今回は好都合。
二人は謹慎中だし、このところ温めていた計画を実行してみるのにいいチャンスだ。
「ねえ、ひとつだけ聞かせてよ」
ひとつだけ?
俺はやっぱり苦笑する。
メレールが興味を持ってしまえば質問がひとつだけですむわけがない。
しかも答えが気に入らなければ鉤爪が飛んでくる。
困った女だ。
もっとも、そこが彼女の魅力でもあるのだが。
「何だ?」
俺は今回の作戦を書類にまとめる作業中だ。
背中を向けたままでそう言った。
もし俺が人間のままだったら、即座に首が飛んでいただろう。
「どんな作戦なの? この前アルマーがやった“北海どうでしょう作戦”みたいな感じ?」
俺は吹き出した。
よりにもよってその作戦を引き合いに出すのか、メレール?
「な、笑ったわねゴラーム! その首切り落とーす!!」
瞬時に椅子から転げ落ちる俺。
メレールの鉤爪がたった今まで俺が座っていた椅子を切り裂いていく。
「や、やめろメレール! わかった、悪かった」
俺はこいつのこういうところが可愛いと思う。
だから素直に謝った。
まあ、首を切り落とされたぐらいじゃ修理すればいいだけなのもあるが、本気で跳びかかってくるからな。
「ふん・・・謝るんなら赦してあげる」
ずたずたに切り裂いた椅子を放り投げ、にこっと笑みを浮かべるメレール。
可愛い奴だ。
「だが、お前が悪いんだぞ。あんな作戦と一緒にしないでくれ」
「むーっ! どういうこと? あたしあの作戦はアルマーにしては考えたなって気がしたんだけど」
アルマーにしては・・・な。
いつもいつも力押しのアルマーにしては・・・だ。
食糧生産地の北海道を奴隷化した道民とともに外国に売り飛ばし、北海道が無くなって間抜けっぽくなった日本地図を見た日本人すべてに言いようのない喪失感を与える。
趣旨としては悪くない。
悪くないが、北海道を実際に動かそうとして地下に穴を掘るのはどうかと思うのだがな。
結局ピースコマンダーどもに察知され、メカマジュウドリラーンもろとも作戦は葬られてしまった。
失った機械戦闘員メカデクーの数も膨大で、量産工場をフル稼働させても二週間はかかったほどだ。
「目的に対し手段を取り違えているんだよ。俺ならああいうことはしない」
「ふーん。結構な自信じゃない。いいわ。お手並み拝見させてもらう。でもいい? 失敗したら陛下が赦してもあたしがあんたを始末するからね」
右手の鉤爪をペロッと舐めるメレール。
「ああ、気をつけるとしよう」
俺はそういうとメカデクーの一体に換わりの椅子を用意するよう命じるのだった。
- 2008/12/15(月) 20:52:18|
- 七日目
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元禄15年12月14日(1703年1月30日)深夜、本所松坂町の高家吉良上野介義央邸に、元赤穂藩家臣大石内蔵助良雄以下の四十七人が、主君の仇を討つべく討ち入りました。
いわゆる「忠臣蔵」です。
この時、実際は大石内蔵助以下は火消し装束ではなかったとのことですが、お芝居やドラマの世界では火消し装束に身を包んで討ち入ります。
江戸市中で徒党を組んで歩いていても怪しまれなかったのが火消し一党だったことから、火消し装束が選ばれたとの説もあるそうで、実際彼らが身につけたのは火消しに見紛うことを期待したとも取れる黒装束だったそうですが、芝居やドラマでは堂々とした火消し装束です。
赤穂浪士と火消し装束のつながりは、この事件よりかなりさかのぼります。
豊臣家の五奉行の一人であった浅野長政は、関ヶ原の戦い以後徳川家を支持し、息子の浅野幸長が安芸広島四十二万石を受け取りました。
この幸長の弟に浅野長重(あさの ながしげ)という人物がおり、彼が父長政の死に際して長政の隠居領五万石を相続します。
そして長重の息子浅野長直(あさの ながなお)のときに赤穂五万三千五百石に移封となりました。
これが赤穂浅野家の始まりです。
この浅野長直は名君と言われ、赤穂城や城下町の整備や塩田の開発などで赤穂藩の実収を高め、五万石ほどの中藩でありながらも結構裕福な藩として赤穂藩は知られることになります。
寛永16年(1639年)に浅野長直は将軍の命令による奉書火消しに任じられました。
奉書とは将軍の命令書のことだそうです。
この奉書火消しには各大名家が当てられ、寛永16年時には浅野家ほか六大名家が任命されてます。
六大名家がそれぞれ火消しを編成し、江戸市中の火災対策に当たったのでした。
その奉書火消しの中でも、浅野長直率いる火消しは名人級の腕前だったといわれ、「浅野内匠頭殿がお出ましならば、もうこれで火は鎮まったも同然」とまで江戸市民に信頼されたとのことです。
この浅野内匠頭は浅野長直であり、のちの刃傷事件を起こす浅野内匠頭長矩(あさのたくみのかみ ながのり)ではありません。
ですが、江戸市民にとっては、浅野家というと長直の奉書火消しの名人振りを思い出したといわれ、そこから浅野家=火消し装束という図式が出来上がったというのです。
そのため、討ち入りの赤穂浪士の装束は火消し装束ということになっていったということらしいです。
のちには江戸町火消しが組織されることになりますが、元禄期には火消しといえば浅野家というイメージだったんでしょうね。
ところで、いよいよあと5000ヒットほどで140万ヒットに到達することになりました。
そこで、140万ヒット到達記念として、中編SSを一本投下させていただきます。
明日から14日間(2週間)連続で投下いたしますので、どうか楽しんでいただければと思います。
よろしくお願いいたします。
それではまた。
- 2008/12/14(日) 20:41:07|
- 趣味
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昨日の続きです。
それではどうぞ。
「・・・・・・」
私は閉口した。
戦車ってこんなに乗り心地の悪いものなの?
エンジン音はうるさいし、がたがたと常に振動しているし・・・
お尻が痛くなっちゃうよ。
それにさっきから頭は前後左右に振られっぱなし。
ヘルメットが重たいから首が安定しないってのもあるかもしれないけど、このヘルメットがなかったらどうなっていたことか。
がつんがつんと頭をぶつけっぱなしだったのだ。
それでも30分も乗っていると、ようやく躰も慣れてくる。
振動にあわせて躰を揺らすことで、頭をぶつけることも少なくなってきた。
「ふふっ、慣れてきたようじゃん」
ハッチから身を乗り出して外ばかり見ていると思っていたのに、ミューラー少尉はいつの間にか私のことを気にかけていてくれたらしい。
「は、はい、おかげさまで」
私はなんだか気恥ずかしくなってしまう。
それにしても大声を出さないと聞こえないんだなぁ。
戦車兵って見た目ほど楽じゃないのね。
「ハンス、止めろ!」
ミューラー少尉の声に急停止する私たちの戦車。
「きゃあっ!」
思わず私は前につんのめる。
「騒ぐな。静かに」
「な、何が?」
私もすぐに異常を感じ取った。
車内が緊張している。
いったい何があったの?
外見えないからわかんないよ。
「まずいな。イワンの偵察隊だ。T-34が二両もいやがる」
「十字路に陣取ってますね。迂回しますか?」
T-34?
二両?
それって敵がいるってこと?
私は思わずハッチを開けて外を見ようとした。
「動くなバカ!」
頭の上から文句言われた。
だって、外見えないから・・・
どうなっているのか気になったのよ。
ポサッとひざの上に何か置かれる。
ヘッドフォン?
「それを耳に当てて」
通信手席のヨハンさんが耳に当てるような仕草をする。
私はよくわからなかったけど、とりあえずヘッドフォンを耳につけた。
「これはマイクだから喉に当てて」
もう一つ差し出されたのは喉当て型のマイク。
なるほど。
車内で通話するときはこういうものを使うわけか。
「迂回しようにも周囲は林だ。こいつが走れる地形じゃない」
「じゃ、どうします?」
「突破するしかないか・・・」
ミューラー少尉の苦悩する声が伝わってくる。
突破って・・・どうするのかしら・・・
「ヘレーナ」
「は、はい?」
いきなり名前を呼ばれた私はびっくりした。
突然で、しかもファーストネームなんだもん。
「すまん。これからヘレーナで呼ばせてもらう。そこののぞき窓からのぞいてみろ。見えるか?」
「は、はい」
のぞき窓?
これかしら・・・
私は目の前にあるレンズのようなものに目を当てる。
うわ・・・
外が見えるわ。
なんだ。
それならさっきもこれを覗けばよかったんだ。
「見えます」
意外と明るい感じ。
月が出ているせいかな・・・
道路の先になんか小山が二つ。
左側に棒が出てる。
何かしらね、あれ。
「よし、見えるんだな?」
「はい、見えます」
私はうなずいた。
「ようし。行くぞ」
するっと言う感じでミューラー少尉が中に滑り込んでくる。
そして先ほどまでの場所からずれ、私の反対側に身をおいた。
「いいか、ヘレーナ。よく聞くんだ」
「はい」
なんだろう。
暗いからよくわからないけど、ミューラー少尉はすごく真剣そう。
「そこに縦になっているハンドルがあるだろう?」
「えっ?」
私は一瞬面食らった。
でも、すぐに彼が言っているのが私の前にあるハンドルのことだと気が付いた。
私の前にはハンドルが二つある。
一つは縦型。
もう一つは床に水平っぽく横型についているのだ。
「それは俯仰角だ。砲身を上下にする」
「砲身を上下・・・」
「もう一つの横型のハンドルは左右だ。砲塔を左右に回す」
「砲塔を左右・・・」
「足元を見ろ」
「暗いですよぉ」
「足元に二つのペダルがある。砲塔の回転装置だ。右を踏めば急速回転、左を踏めばゆっくり回転する」
私はつま先で足元を探る。
確かにペダルが二つある。
「右を踏めば急速・・・左を踏めばゆっくり」
「そうだ。そして椅子の下にレバーがある」
「はい」
私はレバーの位置を確かめた。
「左右の切り替えレバーだ。手前に引くと右旋回。後ろに倒すと左旋回」
「手前、右旋回・・・後ろ、左旋回・・・」
「最後。縦型の俯仰角ハンドルの奥にボタンがある」
私は同じくボタンを確認する。
「はい、あります」
「発射ボタンだ。俺が撃てといったらそれを押せ」
「撃てといったら押す・・・ええっ?」
私は思わず大声を出してしまった。
じょ、冗談でしょ?
「いいな、ヘレーナ。今からお前は砲手だ。しっかりやれ」
「無、無、無、無理です! できません!」
「黙れ! やるんだ! 死にたいのか?」
「そ、そんなぁ・・・」
ミューラー少尉の迫力に、私は何も言えなくなる。
どうしよう・・・
「ハンス、エンジン音を絞ってぎりぎりまで近づけろ。奴らが横向けているうちに撃破する」
「了解」
再びゴロゴロと履帯の音が響き、私たちの戦車は前進する。
「照準器を覗いてろ」
「は、はい」
私はしがみつくようにして右目を照準器に当て続ける。
さっきまで二つの小山のようなものだった影が、どんどんどんどん近づいてくる。
あ、あれが戦車だったんだわ。
よく考えればそんなことはすぐにわかりそうなものだったのに、私はちっとも気が付いてなかったんだわ。
突然ゴトンという音が響く。
何がなんだかわからない。
いったい今のは何?
「徹甲弾装填完了。いいか、撃てといったらボタンを押すんだぞ」
「はい!」
私はあわてて発射ボタンを押していた。
突然車内に轟音が響く。
「きゃあー!」
私は思わず悲鳴を上げた。
「バカ! まだ早い!」
轟音とヘッドフォンからのミューラー少尉の声が錯綜し、耳が痛くなる。
大砲が発射されたんだと気が付いたのはその後のこと。
しかも、まだミューラー少尉は撃てと命じたわけじゃなかった。
撃てといったら押すんだと言われただけ。
でも私は思わずボタンを押してしまったのだ。
「ご、ごめんなさい」
「ちぃっ! イワンに気付かれた!」
ガコンという音とともに砲弾の殻が排出される。
ミューラー少尉はそこから砲身の中を覗きこんだ。
「外れた。畜生! 奴らこっちに来る」
「うあぁ・・・ごめんなさい」
「黙ってろ。舌噛むぞ! ハンス、構わんから突っ込め!」
「り、了解」
「この距離なら当てた者勝ちだ! ヘレーナ、横型のハンドルを4回左に回せ!」
砲身を覗きながらミューラー少尉が怒鳴る。
えっ?
もしかして砲身を覗いて照準してる?
「急げ!」
「は、はい」
私は急いで手前のハンドルを右に四回回していく。
「よし、そのまま来いよ! 照準器覗いてろ! もし敵戦車が見えなくなったら教えるんだ」
「は、はい」
再び照準器を覗く私。
敵戦車の姿がどんどん近づいてくる。
うわぁ・・・
ゴトンと言う音がして、ミューラー少尉が砲弾を装填する。
「まだ見えるか?」
「見えてます」
「ようし、撃て!」
今度こそ。
私は発射ボタンを押す。
「きゃー!」
またしても轟音が車内に響き、私は悲鳴を上げていた。
「きゃあきゃあ喚くな!」
「は、はい」
私はグッと歯を食いしばる。
「やりましたよ、少尉! 一台撃破。動きが止まりました」
「もう一発撃ちこんでやる。撃てっ」
ミューラー少尉が装填し、私が発射ボタンを押す。
三度目の轟音には、もう悲鳴を上げなくてもすんだ。
「ふう・・・逃げてくれたか・・・よかった」
車長席に戻り、ハッチから身を乗り出して周囲を確認するミューラー少尉。
「少尉、狙撃兵に気をつけてください」
「わかってる」
ヨハンさんの言葉に私はハッとした。
そうか・・・
身を乗り出すということは危険と隣りあわせなんだ。
「T-34一台炎上。一台逃走。助かったな・・・」
よかった・・・
私もホッとした。
「ヘレーナ。よくやったぞ。すまなかったな」
ハッチを閉めて車長席に戻るミューラー少尉。
「あ、いえ。こちらこそ」
私はなんだかもう何もいえなかった。
翌朝。
私たちは味方の前線にたどりついていた。
暖かいコーヒーを受け取り、みんなと一緒に飲むのはまた格別だった。
お母さん・・・
私生き残ったよ。
この灰色の四角い戦車のみんなと何とか生き残ったよ。
そう心の中で報告する。
これから反撃が始まるのだそう。
冬の間はソ連軍に痛い目に遭わされたけど、今度はこっちが痛い目を見せてやるって。
私はこれから空軍補助部隊を探して、元の部隊に戻ることになるんだろうけど、ミューラー少尉の第三装甲師団は第四十装甲軍団に編入され、第六軍に入るらしい。
何のことだかわからないけど、「青作戦」というのが始まって、ウクライナを目指すとのこと。
でも、彼らならきっとうまく生き延びてくれそうね。
「おーい、ヘレーナ」
ミューラー少尉の声だわ。
「はーい、なんですか?」
私はカップを置いて立ち上がる。
「これ。被服係に行ってもらってきた。一番小柄のもらってきたから合うと思う。戦車の中で着替えろよ」
手渡されたのは黒い布。
違う。
黒い戦車兵の服だわ。
「えっ? こ、これは?」
「員数合わせなら心配するな。それに、女だと言うことは内緒にしとけ」
ミューラー少尉がウインクする。
「えっ、ええっ?」
「正式に俺の戦車の砲手として登録しておいた。後は通信手待ちだが、これもおっつけ補充されるだろう」
「と、登録って? え、えええっ?」
私は開いた口がふさがらない。
「よろしく頼むぜ。幸運の女神様」
「よろしくな」
「よろしく。女神さん」
黒服を手に唖然としている私に対し、三人は次々とウインクをして去っていく。
「き、聞いてないわよ。ど、どうしよう・・・」
私はただただ立ち尽くすだけだった。
END
以上です。
戦闘シーンは難しいですね。
あっけなく終わらせてしまいすみません。
それと、三号戦車(F改修型)の砲塔操作方法については、いくつも資料を当たったのですがよくわからず、小林源文先生のマンガに出てきたティーガーⅠの砲塔操作方法を参考にさせていただきました。
それではまた。
- 2008/12/13(土) 20:16:13|
- ミリタリー系SS
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いよいよあと数日で140万ヒットに到達しそうです。
今年中の到達はほぼ間違いなさそう。
それで前祝いというわけでもないのですが、先日の神代☆焔様の戦史ネタSSが見たいというコメント(12月9日記事のコメント欄)に対して、私が返したレスのネタで一本書いちゃいました。
それを今日明日の二日間で投下しようと思います。
まずお断りしておきますが、これはあくまでもファンタジーです。
こんなことあるわけないと思われるかもしれませんが、そのとおりです。
実際にはあるわけありません。
ですので、ファンタジーとしてお読みいただければと思います。
それではどうぞ。
「ハア・・・ハア・・・ハア・・・」
息が切れる。
足がもつれる。
も、もうだめ・・・
もう走れない・・・
でも・・・
でも・・・
死にたくないよぅ・・・
「ハア・・・ハア・・・」
私は一本の樹にもたれかかる。
もうだめ・・・
もう走れない・・・
思わずへたり込んでしまう私。
よく見ると足はもうぼろぼろ。
靴は泥だらけだしストッキングも穴が開いている。
服だってあちこちに破れたところがある。
最悪だわ・・・
そう思ってから私は首を振った。
違う・・・
最悪なんかじゃない。
最悪だったのは捕まった人たち。
ソ連軍に捕まったら生きてはいられない。
陵辱されて殺されるだけ。
わかっていた。
わかっていたはずなのに・・・
そんなことが起こるなんて考えもしなかったんだわ。
“ドイツ処女団”の団員だった私は、志願して空軍婦人通信補助員としてこのソ連の大地にやってきた。
私たち選ばれたドイツ国民は、偉大なる総統閣下の指導の下、生存圏を東方に伸ばして帝国千年の礎を作るんだって聞かされてこんなところまでやってきたのだ。
でも・・・
こんなところに本当に帝国の未来があるというの?
ここにあるのは血なまぐさい生と死だけ。
わかっていたはずなのに・・・
わかってなかったんだわ。
とにかくこうしてはいられない。
ソ連軍の大規模な反撃で前線は崩壊。
私たち空軍補助部隊のいる後方だったはずの場所もソ連軍が襲ってきた。
みんなと一緒に逃げ出した私だったけど、いつしか散り散りになってしまい、今ではこんな森の中に私一人。
とにかく味方のいるところに行かないと。
ソ連軍に見つかったら殺されちゃう。
私は疲労と恐怖で震える足を何とか奮い立たせ、味方の姿を求めて歩き出す。
もうすぐ日が暮れる。
夜の森は恐ろしい。
幸い、あと少しでこの森は切れるはず。
森を抜ければ味方の姿も見えるかも。
とにかく西へ向かって歩かなきゃ・・・
「ハア・・・ハア・・・」
ようやく森の切れ目が見えてきたわ。
道路に出れば味方の車両に出会えるかも。
私はそう思いながら足を速めた。
すでに悲鳴を上げている足を引きずるようにして、私は森を抜け出した。
「止まれ! 何者だ?」
森を抜け出したところで私はいきなり脇のほうから声をかけられた。
一瞬ビクッと身をすくめたが、相手の言葉がドイツ語だったことにホッとする。
「う、撃たないで! 私はドイツ人です」
言ってから私は後悔した。
もしかしたら、ソ連兵がドイツ語で話しかけたかもしれないのだ。
私は背筋に冷たいものが走るのを感じながら、両手を挙げて振り向いた。
振り向いた私の目に入ったのは、灰色に塗られた四角い戦車だった。
長い砲身がまるでにらみつけるように伸びており、車体には機関銃が付いている。
そしてその脇にいたのは黒い服を着た戦車兵。
拳銃を持って私に向けている。
私はそのことが気にはなったものの、急速に力が抜けていくのを感じていた。
味方だわ。
味方の戦車だわ。
助かった。
「ド、ドイツ人? 君のような女の子がどうして?」
黒服の戦車兵が驚きの表情を浮かべながらも拳銃をしまう。
どうやら信じてくれたらしい。
「わ、私は空軍補助部隊のヘレーナ・ゲルトマイヤーといいます。ソ連軍の攻撃で仲間とばらばらになってしまって・・・手を下ろしてもいいですか?」
私は彼に自己紹介する。
私のことを女の子だなんて言ってたけど、彼だって充分に若い。
せいぜい24、5歳ってところだわ。
制帽からはみ出た茶色の髪が結構素敵。
「あ、ああ、いいよ。俺はディーター・ミューラー。第三装甲師団の先遣隊としてこの近くまで来たんだが、待ち伏せにあってしまってな・・・」
思わず目を伏せるミューラーさん。
きっと彼もソ連軍につらい目に遭わされたんだわ。
「う・・・うあぁ・・・」
「おい、カール! しっかりしろ! カール!」
突然戦車の脇のほうで声がする。
気が付かなかったけど、そちらには横たわった人とかがんだ人がいたのだ。
「おい、カール! すぐに野戦病院へ連れて行ってやる。死ぬな!」
ミューラーさんもすぐにそっちへ駆け出して行く。
私も思わず駆け寄った。
「ひっ!」
私は息を飲んだ。
地面に横たわった人は右腕をもぎ取られていたのだ。
血の気のない青白い顔をして苦悶の表情を浮かべている。
「カール! カール!」
「だめです少尉・・・死にました・・・」
脇で片ひざをついていた人が首を振る。
見ると彼自身も片腕を怪我している。
私は思わず目をそむけてしまった。
「くそっ! イワンめ!」
ミューラーさんが地面を蹴る。
部下が亡くなったことが悔しいのだろう。
ソ連軍は悪魔だ。
奴らは人間じゃない。
「対戦車銃にやられたんだ。無線手のエリッヒも・・・」
二人も?
それじゃ・・・この戦車は?
「少尉、燃料補給終わりました。ありゃ? そちらの人は?」
戦車の後ろ側にいたのか、もう一人の戦車兵が顔を出す。
「ご苦労さん。この人はゲルトマイヤーさんだ。空軍の補助部隊の人で味方とはぐれちまったらしい。俺たちと同じさ」
えっ?
今なんと?
俺たちと同じ?
えっ?
彼らも迷子なの?
「そうでしたか。とにかくこれで燃料は満タンです。充分味方のところまで戻れますよ。まだ同じところにいてくれればですがね」
「そうだな。いったん戻って出直しだ。まだあちこちに味方が孤立しているはずだし、カールとエリッヒの仇も取ってやる」
ミューラー少尉がこぶしを握り締めている。
「カール・・・だめでしたか」
「ああ・・・こいつの装甲が弱すぎる。砲塔側面ハッチを狙われたらどうにもならん」
そうなの?
こんなにがっしりとした戦車なのに。
充分強そうなのに。
「なんせ旧式の三号F改修型ですからね」
「主砲も短砲身だからな。だが、新型のJ長砲身でもT-34には威力不足だ」
ミューラー少尉が首を振る。
T-34というのはソ連軍の戦車のことだろう。
あの斜めの装甲の戦車のことだろうか。
「そういえば紹介が遅れたな。こいつはハンス・ブレーマー伍長。操縦手だ」
「よろしく」
ハンスさんが頭を下げる。
ちょっと小柄でいろいろと器用そうな人だ。
「あっちがヨハン・エステンベック軍曹。装填手だ」
「よろしく。お嬢さん」
先ほどの右手を吊っている人が、右手を上げようとして苦笑した。
「はじめまして。ヘレーナ・ゲルトマイヤーです。よろしくお願いします」
私はあらためて三人に頭を下げた。
「とりあえずカールを埋葬したら飯にしよう。腹が減ってたら気分も滅入る」
そう言ってミューラー少尉はスコップを取り出す。
私も手伝おうとしたが道具がないと断られたので、仕方なく近くからいくつか花を摘んできた。
さすがにソ連でも五月になれば花もあちこち咲いている。
私は真新しい墓に花を供え、そっと彼らの冥福を祈った。
「どうします? 味方の前線まで10キロって所だと思いますが、夜のうちに動きますか?」
ハンスさんがミューラー少尉に話しかける横で、私はパンにかぶりついていた。
軍用パンにバター代わりの缶詰の肉を塗っただけの食事だけど、私にはすごく美味しく感じられた。
なんだかあらためて生きていることを感じさせてくれる。
すでに日はとっぷりと暮れ、周囲には漆黒の闇が広がっていた。
「そうだな。難しいところだがそのほうがよさそうだ。夜陰にまぎれて脱出しよう。もっとも、このあたりは敵味方の部隊が入り混じっているから、味方の対戦車砲にやられかねないが・・・」
「その可能性よりも、昼間動けば敵戦車に捕捉される可能性のほうが高そうですぜ」
ヨハンさんが不自由そうに左手でパンを食べている。
「ああ、そう思う。食事を終えたら出発しよう」
どうやら決まったらしい。
歩かなくてすむのは助かるわぁ。
「えっ? ここって大砲の真横なんですけど」
戦車の中に乗るように言われて私は驚いた。
さらにその席が大砲の真横なのだ。
「そうだよ。そこは砲手席だ。カールがいなくなったからそこに座っててくれ。ヨハンはその手じゃ無理だろうから通信手席に着け」
「了解」
ハンスさんが操縦手席に着き、その横にヨハンさんが座る。
「え、ええ?」
私は砲塔の中で大砲の真横に座り、大砲の真後ろにミューラー少尉が座るのだ。
「わ、私、外でもいいんですけど・・・」
戦車の中ってすごく狭い。
足のところやお腹の辺りにハンドルやらなんやらがいっぱいある。
「これをかぶってろ」
ミューラー少尉が差し出したのはヘルメット。
「頭ぶつけたら怪我するからな」
「は、はあ・・・ですから私外でも・・・」
「いいから座って、それをかぶってろ」
「は、はい」
私は何も言えずにヘルメットをかぶる。
うう・・・
重い。
これってこんなに重いの?
つらいよー。
- 2008/12/12(金) 20:38:51|
- ミリタリー系SS
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ココロ専属のマネージャーさん、誰がいいですかねえ…
*このエントリは、
ブログペットのココロが書いてます♪
- 2008/12/12(金) 10:07:47|
- ココロの日記
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先日「妄想の侵略」というSSを投稿していただきました神代☆焔様より、その完結編となるSSをお送りいただきました。
今回もココロがいろいろな姿になって楽しませてくれているようです。
何よりその恩恵にあずかっているのが、どうもどこぞのブログの管理人らしいです。(笑)
くぅ~、私もこのブログの管理人になりたーい。(笑)
というわけで、「妄想の侵略・完結編」お楽しみくださいませ。
僕は舞か……あ、いや、自分の趣味や妄想をブログに毎日書き記している者です。
【妄想の侵略・完結編】
ある日、唐突に一人の妖精がパソコン画面から、飛び出て来たかと思うと、あ~んな格好や、こ~んな姿をして毎晩僕の妄想を満足させてくれている。
昨夜は、淫魔化して絞り取ってくれた。
ナニをって?
まぁ、イロイロと(///)
その姿や性格は、日替りでコロコロと変わり、僕の妄想を尽きさせないように、かなり、気を遣ってくれている。
日昼は、様々な性格の冥土……ぢゃない、メイドになって、それは口では言えないほどに尽くしてくれる。
……食事を除けば 妖精さんに味覚って無いって、初めて理解した。1日に必要な栄養分だけを抽出して食べさせられるんだから。
「鉄分の澱粉カルシウム和えですぅ」 って、罪の無い笑顔で出されたら、そりゃ、喰うしかないだろう。
毎晩、お世話になってるんだから。
最近思うんだ。
飯が不味いのは罪じゃないって。
味があるだけ、まだマシなんだって。
壱
さて、この妖精さん、どーゆーわけか、パソコンから5メートル以上離れて行動出来ない。
それから、本当の姿ではこちらの世界に長くは居られないようだ。
何故かは聞いてないけど、色々と複雑な事情があるんだろうと思うよ。
最近、ハードディスクが壊れたから、パソコン本体を持ち運び易いノートタイプに買い替えようと思っている。
妖精さんと街中を歩く欲求が出て来たからだ。
いや、もっと深刻な問題もあるんだけどね(汗)
僕が、艦船や戦車が好きなことは、君も知ってるだろう。
妖精さんが、変身したがっているんだけど、サイズの問題で断念して貰っているんだ。
1号戦車くらいだったら、辛うじて部屋に入るだろうけど、僕の大好きなドイツの猛獣だと、出現した瞬間に部屋が消し飛んぢゃう。
艦船だったら、大災害になっちゃうよ。
そういうわけで、ノートパソコンの購入を真剣に考えてるんだ。
弐
そして、やって来ました、めくるめく妄想の夜。
いや、色んなコトされましたよ。
ウロコを呑まされてへびにされたり、食人植物の怪人になって、溶かされながらヌかれちゃったりetc
僕が変化するものは、変化することを体感しながらも、翌朝には元に戻ってるのが不思議なんだ。
そして、今夜は……
ドイツの女性軍人さんに尋問されてます。
む、鞭が痛ひ(涙)
銃身ぶった切りのワルサーP38だぁっ!
なんか、新しい世界を開発されてるようだなぁ。
黒のスカートから見える太ももが──革のブーツでぐりぐりとされるときに見えるスカートの中が──萌えまっしゅ!!
くノ一で迫られたときも、チラリズムで散々萌えましたが、やはり、全裸よりも何か着てた方が萌え方が違いますなぁ。
はっ!
親父モードのスイッチが入っていた(汗)
……と、ゆーわけで、今の僕は、人間の女性を必要としない生活を堪能しています。
もし、これが異世界からの侵略だったとしたら、地球人類は滅亡しちゃうかも知れません。
完
ああ~っ、鞭で叩いた後を舐めないでぇ~っ!
いかがでしたでしょうか。
ぜひぜひ感想や拍手をお寄せくださいませ。
作者様は皆様の一言の感想がとてもうれしいものなのです。
よろしくお願いいたします。
近々私のほうも、新作中編一本投下できると思います。
実に久しぶりのSSとなりますが、皆様のご期待に添えますかどうか。
楽しみにしていただければと思います。
それではまた。
- 2008/12/11(木) 20:40:50|
- 投稿作品
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北海道では火曜日深夜(日付的には水曜)に「ONE OUTS」という野球アニメをやっています。
もともとはビジネスジャンプに連載された甲斐谷忍先生の「ONE OUTS」という野球マンガをアニメ化したものなのですが、私自身はこのマンガを読んでいなかったこともあって非常に新鮮な思いでアニメを見ております。
最初は、新番組のアニメということで何の気なしに録画したのが最初でしたが、しばらくほうったまま見ておりませんでした。
でも、先日そういえば録りためてあったなぁと思い見てみたのが運の尽き。(笑)
なんですか、これ?
面白すぎる。
主人公は渡久地東亜(とくち とうあ)という投手なのですが、これがまた型破り。
賭けの結果プロ野球のリカオンズというチームに入ることになるのですが、ここでも腹黒いオーナーと「ONE OUTS」契約というのを結びます。
この契約は、アウト一つ取るごとに年棒500万プラス、逆に一点取られるごとに5000万マイナスというもので、防御率2.7を超えるとマイナスとなってしまうため、投手に非常に不利な契約なのでオーナーは喜んで契約を結びますが、渡久地の能力(良くも悪くも)によって稼がれてしまうのです。
先日の放送ではマリナーズというチームとの対戦でしたが、なんと序盤に16失点も喫してしまいオーナーは高笑いの状態でした。
このままだと渡久地は大幅な借金を抱えることになるはずでしたが、途中で雨が降り始めます。
ドームでない球場のため、このままではノーゲームになると危惧したマリナーズは、とにかく試合を成立させようと焦ることに。
1点2点はくれてやれとばかりに投手に投げ急がせますが、それは投手に本来のピッチングをさせないことにもなりたちまち連打の山。
結果リカオンズに大量点を奪われてしまったマリナーズの投手は、自身の防御率を考えてこの試合をノーゲームにするべく時間稼ぎに走ります。
味方の投手まで敵に回してしまったマリナーズは、投手を代えて何とか試合の成立を図りますがこれも雨と時間に追われた投手は本来の投球ができずに失点を重ねてしまいます。
結局4回の裏だけで17点を奪われたマリナーズはリカオンズに逆転を許してしまいました。
ですが、いくら勝っても渡久地にとっての16失点は変わりません。
しかし渡久地はそれをチャラにしてしまいます。
なんと相手チームに試合放棄を宣言させてしまうのです。
このあたりのやり取りがまた面白い。
この試合を成立させると、マリナーズは負けるだけでなく投手と野手陣の信頼関係にまでひびが入り、今後試合する上で大きなハンデとなりかねません。
野手は16点取ったことで打率も打点も上がりますが、投手は防御率がずたずたです。
監督はこんな試合にしてしまった責任を感じ、渡久地の勧めに応じて試合を放棄したのです。
放棄試合になれば、ルール上9-0でリカオンズの勝ちになります。
渡久地が16失点したことは消えるのです。
オーナーはまたもしてやられたのでした。
これ、面白いです。
来週が楽しみなアニメです。
マンガも読んでみようかな。
それではまた。
- 2008/12/10(水) 20:23:49|
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今日は本の紹介を一つ。
タイトルは「陸海軍戦史に見る 負ける組織と日本人」 藤井非三四著 集英社新書

この本は、組織というものの弊害を、戦前の日本陸海軍の実例にあてはめ、その原因は何であったのか、また日本人としての資質がどう絡んでいるのかということにスポットを当てたものとなっております。
結構なるほどと思わせられる部分が多く、読んでいて楽しくすらすらと読めました。
特になるほどーと思ったのは、軍隊の軍事行動と季節感、特に農業との関連においてのものでした。
軍事行動と季節が密接な関係を持つことは、古今東西の戦史を見れば明らかであり、戦闘に都合がよい昼間の時間が長い夏至の日近辺に大作戦が行われるのはほとんど当たり前になっておりますし、作戦期間が長引くことで冬を迎えてしまうと身動きが取れなくなり、また損耗も激しくなるためなるべく冬を迎える前に戦闘を終わらせようとするものです。
そればかりではなく、さらに一歩踏み込む必要をこの本では説いておりました。
戦闘及び占領地域の農業カレンダーを念頭において戦わなくてはならないということなのです。
一例としてあげられていたのが九月に始まった満州事変でした。
この満州事変を九月に行なったことが、のちのち大きく日本軍に圧しかかったというのです。
九月は農村の収穫期です。
日本軍に追われた張学良軍の兵士たちは、農村に逃げ込めばかくまってもらえました。
収穫された食料があるので、かくまっても食べていけるからです。
これが春先に行なわれるとどうでしょう?
農村は次の収穫まで余裕がなく、張学良軍の兵士が逃げ込んできてもかくまう余裕がなかっただろうと思われるのです。
そうなると逃げる場所は都市内になるため、摘発もしやすく逆に治安維持部隊の兵として吸収もできたはずだと言うのです。
ほかにもいくつかの事例が出ておりましたが、これにはなるほどと思わされました。
作戦を行なうにあたっては、農業との絡みも充分に考えなくてはならないんですね。
ところが日本軍は平時の予算年度に縛られ、農業に関係なく四月から物事を考えることが多いのだそうです。
目からうろこな思いでした。
ほかにも軍事と経済の関連や、情報のこと、特に情報は日本は情報戦に負けたという一般概念に待ったをかけ、情報の取得そのものに関してはかなり優秀だったこと、特に中国やソ連に対しての情報収集能力は長けていたということが記されておりました。
なんと驚いたことに、中国国内の地図製作の一部を日本は中国政府や一部軍閥などから依頼され作成していたのだそうです。
地図を作るということは国の内情を裸にするのと同じことですので、日本軍は中国に関してはかなりの情報を持っていたということなんですね。
問題はその取得した情報の取捨選択や利用、防諜に関しての力がなかったことが悪かったとしています。
全体的に面白い本でした。
個人的におやと思う部分がなきにしもではありましたが、それはほんのちょっとでしたし、なるほどと納得できることが多かったです。
それではまた。
- 2008/12/09(火) 20:32:29|
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ちょっと古いアニメですが、「淫獣教師」シリーズというアダルトアニメがあります。
正直1と2はどうでもいいのですが、3と4は結構楽しめました。
(MC系があるので)
特に「淫獣教師3」は私的にはすごく当たりでした。
なんせ悪堕ちですよ、悪堕ち。(笑)
エロで悪堕ち。
しかも堕ちるのは女性養護教諭ですよ。
エロシーンなどどうでもいいではありませんか。(笑)
というわけで、以下ネタバレ。
[未来永劫・・・あたしのものよ・・・]の続きを読む
- 2008/12/08(月) 21:57:56|
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「倒してしまっても、かまわんのだろ?」
そう言って、戦術的撤退を図る士郎と凛のためにバーサーカーに立ち向かったアーチャー。(by Fate/stay night)
彼は強大な敵に後ろを見せることなく戦ったわけです。
ということで、今日は「アーチャー」のご紹介。
といっても、Fate/stay nightのキャラクターではなく、第二次世界大戦中の英軍対戦車自走砲のことです。
戦車の装甲が厚くなっていくにつれ、それを撃ち抜こうとする対戦車砲もまた強力なものが求められていきました。
ドイツでは有名な88ミリ高射砲が対戦車用に転用されましたが、英国では17ポンド砲が開発されます。
この17ポンド砲は、口径76ミリの対戦車砲でしたが、その威力はなかなか強力で、ドイツの88ミリ高射砲に勝るとも劣らないものでした。
紆余曲折があり、なかなか量産にいたらなかった17ポンド砲でしたが、それでも1942年中盤にはようやく量産が始まります。
しかし、どこの国も同じことなのですが、強力な砲は高速で弾丸を撃ち出す必要があるために、どうしても頑丈に作らなくてはなりません。
頑丈に作った砲は、当然ながら重くどっしりとしたものになってしまいます。
すると、そう簡単には動かせません。
17ポンド砲も、重量約三トンというとても重い大砲になってしまい、移動には牽引車を使うとしても、陣地内での方向転換すら困難なものとなってしまいました。
こんな重たい砲を押したり引いたりするのは誰だっていやなので、英軍内でもすぐにこの17ポンド砲を車両に搭載してしまおうという話が出てきます。
17ポンド砲搭載の新型戦車の話はありましたが、やはり開発には時間がかかるため、既存の車両に手っ取り早く載せて対戦車自走砲を作ろうということになるまでにはそう時間はかかりませんでした。
そこでまず選ばれたのは、クルセーダー巡航戦車でした。
しかし、クルセーダーは車体が小さく、またエンジン出力も小さいものだったため、この案は破棄されます。
代わって選ばれたのはバレンタイン歩兵戦車でした。
バレンタイン歩兵戦車も車体は大きいものではないのですが、すでに25ポンド野砲を搭載したビショップという自走榴弾砲が作られており、その大砲だけを17ポンド砲にすればいいということになったのです。
しかし、ことはそう簡単にはいきませんでした。
25ポンド野砲と17ポンド砲とでは大きさがまるで違ったのです。
そのため、そのまま大砲だけを交換するというわけには行かず、まるっきり新型の自走砲として作るしかありませんでした。
一番問題になったのは砲身の長さでした。
17ポンド砲は砲身長が4メートル以上もあり、バレンタイン戦車の砲塔部分を取り払って載せると、砲身が車体の前に出すぎてバランスが取れないのです。
しかし、だからといって車体の後ろ側に載せようとしても、そこにはエンジンがあるために載せられません。
技術陣は考えました。
そして発想の転換をしたのです。
なんと、17ポンド砲を後ろ向きに載せたのでした。
つまり、バレンタイン戦車の操縦席や砲塔のあった部分をオープントップの戦闘室として、そこに17ポンド砲を後ろ向きに搭載したのです。
すると、長大な砲身も、車体のエンジン部分の長さがあるため、それほど車体の外にはみ出るものとはならなかったのでした。
一般的な戦闘車両は、大砲の向いているのが前で、そちらに進むのが前進なのですが、こうして完成した新型自走砲は、大砲の向いているほうが後ろで、大砲のないほうに進むのが前進という奇妙なスタイルとなりました。
要は敵に後ろを見せて戦うのです。
この奇妙な自走砲は、思いのほかできがよく、英軍は正式に採用します。
そして「アーチャー」というあだ名を付けられて、実戦に投入されました。
アーチャーが実戦に登場したのは、すでに1944年も後半で、ドイツ軍は後退を続けている時期でした。
しかし、時折行なわれるティーガーやパンターを中心とした反撃は手ごわく、主力のM4系列では対処しづらいこともしばしばでした。
そんな時、強力な17ポンド砲を積んだアーチャーは、ドイツ軍戦車相手にその威力を発揮したのです。
戦闘中は操縦手が席を離れなくてはならなかったため、後ろを見せているからといって逃げ足が速いというわけにはいきませんでしたが、常に後ろ向きで敵と戦うという奇妙な対戦車自走砲でありながら、使い勝手は意外とよかったそうです。
特に17ポンド砲の威力が魅力的であったのは間違いありません。
終戦もあって650両ほどしか作られなかったそうですが、一部車両は1950年代半ばまで英軍内で使われたとのことでした。
間に合わせで作られた兵器でも、威力と信頼性の高さが長生きさせたんでしょうね。
それではまた。
- 2008/12/07(日) 21:24:31|
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