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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

焼却

130万ヒット記念SS第三弾は「グァスの嵐」の22回目です。
ホントこんなときしか更新しなくてすみません。
今回もちょっとだけしか書いてませんが、お読みいただければ幸いです。

22、
「うわ、降ってきた・・・」
ぽつぽつと降り出した雨にエミリオは思わず天を仰ぐ。
幸いなことに風はまだ激しくなく、ミストス島はもう目の前だ。
四本腕で器用に帆を操るゴルドアンと舵を握るエミリオが息をピッタリ合わせて、巧みにファヌー『エレーア』をミストス島に寄せていく。
「あそこの岩陰にちょうどいい停泊場所がありますから」
ミューの指差す先には、樹木が切れ込んでくぼみになっている箇所がある。
確かにあれならいい停泊場所には違いない。
「よし、あそこに寄せよう」
「わかった」
ゴルドアンもエミリオもすぐに理解すると、『エレーア』は静々とそちらに寄っていく。
驚いたことに、くぼみとなっている岩陰には木で作られた桟橋が設置されていた。
「桟橋?」
てっきり無人島だとばかり思っていたミストス島だったので、桟橋があったことにエミリオは驚いたのだ。
もっとも、ミューが寄ってくれと言ったのだ。
人がいても何の不思議もないのではあるが。

『エレーア』は数分後には桟橋に停泊することに成功していた。
ロープでがっちりと桟橋に固定して流されないようにする。
これで少々の嵐でも大丈夫だろう。
エミリオはホッと一安心することができた。

「ここで少し待っていてもらえますでしょうか?」
ミューはそう言って一人で桟橋に降りようとする。
バランスのとりづらいファヌーから桟橋へ飛び移るのは慣れが必要だ。
それなのにミューはこともなげに飛び移る。
「ミュー、待ってよ」
エミリオが呼び止める。
「はい?」
その声に振り向くミュー。
きらきらした瞳がとても可愛らしい。
「ここへは何をしにきたのか言ってくれないか? 手伝えることがあれば手伝いたい」
またしてもミューの表情が曇る。
そのことがエミリオはすごく気になるのだ。
きっと何かを抱えているに違いない。
少しでもそれを軽くしてやりたいのだ。
おせっかいと言われるだろうけど、エミリオはそういう男だった。

「・・・・・・」
しばらく無言でうつむいたままのミュー。
「ごめんなさい」
やがて絞り出すような声がミューの口から発せられる。
「エミリオ様にはまだ今は言えません。ここで待っていてください。すぐ戻ります」
「ミュー・・・」
くるりと背を向けて島の奥へ駆け出して行くミュー。
エミリオはその後姿を見て肩を落とす。
「仕方ないわよエミリオ。ミューちゃんにはミューちゃんの事情があるんだろうから」
ふと気が付くと、フィオレンティーナがそばに寄り添ってくれている。
そのことがエミリオにとってはすごくうれしかった。

桟橋から少し離れたところにある一軒の家。
木で作られたその家の前に来たとき、ミューは言いようのないパルスがシナプス回路を駆け巡るのを感じていた。
それは今まで感じたことない感覚。
何か胸部が締め付けられるような感覚が走ったのだ。

「マスター・・・いいえ、チアーノ様。ミューは壊れてしまったのでしょうか? こんな感覚は初めてです。胸が苦しい」
少女を模して作られた少し膨らんだ胸をミューは両手で押さえる。
きっと私、Μ-Τ6は壊れてしまったのだ。
そうじゃなければこんなに苦しいはずがない。
造られてから二年と八ヶ月。
そのうち十一ヶ月と二十四日をチアーノ様をマスターと呼んで過ごしてきた。
星系探査用の補助ロボットとして造られたはずなのに、料理をしたりおしゃべりしたりしてばかりいたから壊れてしまったんだ。
「チアーノ様・・・ミューは寂しいです」
眼をつぶり、しばしたたずむミュー。
メモリーの中のチアーノ老人に思いを馳せるのだった。

だが、ミューにはやらなければならないことがある。
チアーノ老人が自航船を破壊した今、それに関する資料も破棄してしまわなくてはならない。
技術的なレベルとしてはこの星に広まってもかまわないレベルのものではあるが、やはりチアーノ老人が自航船を破棄した以上は資料も破棄するのが正しいだろう。
ミューはそう思ってわざわざこの島に立ち寄ってもらったのだった。

くっと顔を上げるミュー。
そこに先ほどのような表情はない。
かくんと左手首を折り曲げ、内部に仕込まれたレーザートーチをむき出しにする。
そして、思い出の詰まった家に対して照射した。

家がぱちぱちと音を立てて燃え上がる。
そこにあったすべてのものを炎が飲み込んで行く。
チアーノ老人の暮らしぶりも、ミューがそこにいたことも。
すべてが炎の中に消えて行く。

ミューは物置小屋にもレーザーを放つ。
そこには水素発生のための電気分解器が置かれている。
ミューにとっての活動源である水素は、水からの電気分解で得ていたのだ。
その電気分解器がなくなれば、タンクの中の残量だけがミューを稼働させることになる。
残量はあと70パーセントほど。
六十五日ほどで機能停止に追い込まれる。
おそらくミューの一生はそこで尽きることになるのだろう。
だが、ミューはそれでかまわなかった。
  1. 2008/10/02(木) 20:23:46|
  2. グァスの嵐
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10月02日のココロ日記(BlogPet)

舞方雅人さんのことを考えていたら、胸がきゅぅっとなりました。

*このエントリは、ブログペットのココロが書いてます♪
  1. 2008/10/02(木) 10:31:42|
  2. ココロの日記
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舞方雅人

Author:舞方雅人
(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
どうぞ楽しんでいって下さいませ。

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