使者が大坂への帰途に着くと、すぐに駿府と江戸との間で密接な連絡が交わされ始めます。
戦に向けての打ち合わせでしょう。
月が明けた4月1日には、大坂近辺の諸大名に大坂から脱出する牢人の捕縛が命じられ、信州松本城主小笠原秀政(おがさわら ひでまさ)が伏見城警備につくように命じられます。
そして家康本人は、慶長20年(1615年)4月4日、九男で尾張の徳川義直(とくがわ よしなお)の婚儀出席と称し、家臣団を引き連れて尾張へ向かいました。
翌日4月5日、駿府に程近い田中という場所で大野治長の使者が家康に面会します。
使者の口上は、なにとぞ秀頼と淀殿の国替えについては思いとどまってほしいというものでした。
この期に及んでの使者の口上に、家康はただ一言「もはやどうにもならん」という意味の言葉を伝えたとのことでした。
4月6日から7日にかけ、家康からの出陣準備と鳥羽・伏見への集結を命じる書状が諸大名に発せられます。
ついに大坂夏の陣の始まりでした。
4月9日、大坂城内では大野治長が刺客に襲われるという事件が起きました。
幸い治長は軽く負傷した程度でしたが、このことは大坂城内に相互の疑心暗鬼を育てるに充分だったといいます。
刺客を差し向けたのは家康とも言われますが定かではありません。
しかし、戦を前にして一枚岩とならなくてはならないはずの大坂城内は、とてもそのような状態にはなりえなくなりました。
4月10日、家康は尾張に到着。
同日江戸より将軍徳川秀忠が出発。
4月12日、家康は尾張において徳川義直の婚儀を滞りなく済ませます。
同日、大坂方は再度の開戦やむなしとの判断から、牢人衆に対して金銀を振る舞い戦準備に当たらせます。
もはや戦は誰の目にも明らかでした。
4月18日、家康は尾張から京都二条城に入ります。
このころ徳川秀忠は、藤堂高虎を通じて、開戦はなにとぞ自分の到着まで待って欲しいとの伝言を家康に届けています。
関ヶ原の遅参が身に沁みていたことを思わせます。
22、23日ごろには京都に到着すると伝えていた秀忠は、道中を急いだのか21日には京都二条城に入りました。
そして家康と秀忠による大坂攻めの軍議が開かれたのでした。
4月24日、家康は二条城に大坂の使者を呼びつけ、あらためて国替えと牢人衆の解雇を命じます。
いわば形を整えるための最後通牒であり、宣戦布告に等しいものでした。
当然大坂方にその条件を受け入れることはできず、正式に豊臣家は幕府と戦争状態に入ります。
幕府軍(徳川勢)はおよそ十五万の軍勢が25日ごろには京都に到着しており、家康は28日からの軍事行動を命じようとしたのに対して、秀忠が未着軍勢があることからその到着を待って攻撃開始としようとしたという話があります。
老いを感じていた家康が焦っていたことを示すものとも言われますが、おそらく間違いのないところでしょう。
先に動いたのは大坂方でした。
戦略的要地である大和郡山城攻略に動いたのです。
大和郡山城は、京都から大坂へ向かう大和口の拠点でした。
徳川勢を大坂に入れないようにするには、どうしても抑えておく必要があります。
そのため、大坂方は元大和郡山城主筒井順慶(つつい じゅんけい)の旧臣を中心に大野治房の手勢を加えた約二千の軍勢で大和郡山城に攻め込みました。
大和郡山城を守っていたのは、筒井正次(つつい まさつぐ)でした。
彼は筒井順慶の次子であり、大坂方は彼を取り込もうとして誘いをかけたのですが、家康に恩義のある彼は大坂方にはつきませんでした。
しかし、攻めてくるのは父の旧臣たちであり、しかも数も多いということで、筒井正次は大和郡山城を退去。
ここに大和郡山城は陥落します。
勢いに乗った大坂方は周辺を焼き討ちしたあと奈良に進出しようとしましたが、徳川勢が奈良に進出してきたとの風聞に奈良進出を断念。
結局大和郡山城を落としたことでよしとしたのでした。
4月28日には、徳川勢の兵站拠点堺の町が焼き討ちされます。
もともと大坂と距離的に近い堺の町は、大坂方と親交が厚い場所でした。
商業都市堺は前年の大坂冬の陣に対しても、大坂方に援助をする商人が大勢おりました。
しかし、11月に徳川勢に占領されると、今度は徳川勢の兵站拠点としての活動を開始します。
商業都市堺としてはやむを得ないことであったとはいえ、大坂方にとっては堺の裏切り行為に見えました。
しかも今井宗薫のような豪商が反大坂方として積極的に徳川に援助したりしたので、なおさら堺に対する憎しみが募ったとも言われます。
大野治胤(おおの はるたね)が率いた軍勢は、堺の町を徹底的に焼き尽くしました。
東洋のベニスとまでたたえられた商業都市堺は焼け野原となり、大坂の陣終結後もついにもとの威容を取り戻すことはできませんでした。
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- 2008/08/25(月) 20:29:11|
- 豊家滅亡
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