当ブログと相互リンクしていただいております柏木様のブログ「妖艶なる吸血」様(
http://aoi18.blog37.fc2.com/)には皆様足をお運びいただいておりますでしょうか?
柏木様のつむぎだされる妖しくも美しい物語がたくさん掲載されておりますので、ぜひとも足をお運びいただければと思います。
今回、私のほうから個人的に「妖艶なる吸血」様に短編SSを寄贈させていただいたのですが、柏木様のご好意によりまして、こちらでも掲載してよいという許可をいただきましたので、今回ここに掲載させていただくことにしました。
吸血鬼と若夫婦の織り成す奇妙な世界をお楽しみいただければと思います。
それではどうぞ。
「黒と白と赤」
「ん・・・あ・・・ん・・・」
切なげな吐息が漏れる。
「うふふ・・・感じているのね? 可愛いわぁ」
少し厚地の真っ白なタイツの上をピンク色の舌が生き物のように這っていく。
舌先がつんつんと触れるたびに、相手の躰がぴくっと震える。
夫の愛撫とはまったく違う感覚に戸惑いを感じているのだろう。
可愛い人・・・
獲物にしておくにはもったいない。
口元に鈍く輝く牙をむき出しにして、柔らかい太ももに突き立てる。
「ん・・・」
吐息がさらに切なげになり、躰がじょじょに弛緩する。
つつつと真っ白なタイツが伝線し、一筋赤い血が垂れる。
流れ込む甘い血潮をたっぷりと味わうと、女はおもむろに顔を上げた。
美しくも妖艶な表情で口の周りについた血をぺろりと舌で舐め取っていく。
血こそ彼女の生きる糧。
美しい獲物から美味しい血を味わうことこそ最高の愉悦。
彼女はこの瞬間に満足していた。
くったりと壁に寄りかかり座り込んでいる美しい女性。
漆黒のレオタードと見事なコントラストをなす真っ白いタイツが片方だけ伝線し、少しだけ赤茶けた血がにじんでいる。
何が起こったのかすら理解できていないようなうっとりとした表情を浮かべ、目の前のもう一人の女性を見上げていた。
彼女を見下ろしているもう一人の女性も、彼女と同じように漆黒のレオタードを身に纏い、白いタイツを穿いている。
わずかな照明しかないうす暗いホールの中、周囲に設置されたバーとミラーがここがバレエの練習場であることを示していた。
「うふふ・・・どう? 気持ちよかったでしょ?」
かがみこみ、耳元でそうささやく美女一人。
彼女がこの練習場でバレエを教えているのはこの街では有名な事実。
海を渡った彼の地から来た彼女にとって、長いこと慣れ親しんだバレエを教えるのは造作もないこと。
この地では珍しい金色の髪も青い目も、バレエではとても素敵なアクセントになる。
お気に入りの黒いレオタードと白のタイツに身を包めば、そこは彼女の世界になった。
「は・・・い・・・」
まるで夢の中での出来事のようなうっとりとした表情で答える女性。
彼女の教室にバレエを教わりに来たときから、すでに彼女は目をつけられていた。
幼き日々にやっていたバレエを、再びやるようになったのは愛する夫のため。
大好きな夫に少しでも喜んでもらおうと、美しい躰をより美しくするためにこの教室にやってきたのだ。
そこがまさか人外の者の世界だとは露知らず。
「あなたのこと・・・すごく気に入ったの。私のものになりなさい」
優しく耳元で語り掛けるバレエの先生の言葉。
何も考えることなく彼女はこくんとうなずいていた。
それがどのような意味を持つのか、そんなことはどうでもいい。
とろけるような愛撫と太ももに感じた小さな痛み、それに続く甘美な感覚は彼女の思考をいとも簡単に奪ってしまう。
薄れ行く意識の中で、彼女は先生の姿がなぜか鏡に映っていないことがふしぎだった。
******
「ごめんなさい。疲れているの」
そう言って夫を拒むようになったのはここ数日のこと。
結婚してまだ一年ほどしか経っていない若い夫にとって、その返事はあまりにも残酷だろう。
でも、言いつけは守らなくてはならない。
そうしないとすべてを失ってしまうから。
失うのは耐えられない。
だから・・・
しばらくの間は耐えてもらうしかないの。
「ごめんなさい。疲れているの」
物憂げな表情でそう言った妻。
前から色白だった妻は、ここ最近さらに色が白くなったと夫は感じる。
それに比して口紅を塗られた唇がとても赤い。
ぬめるような赤い唇を、時折舌で舐めていることに妻は気がついているのだろうか?
そして、それを見るたびに夫は心がかき乱され、あそこを硬く勃起させてしまうことに気がついているのだろうか・・・
「あなたのために美しくなるからね」
そう言ってバレエを習い始めた妻。
金髪の美しい外国の女性が開いているバレエ教室。
妻以外にも中学生や高校生の少女たち、場合によっては熟年女性も健康のためと称して習いに行っているという。
夫が気になったのはちょっとした噂。
バレエを習っている女性のうちの幾人かが時折貧血を起こすという。
バレエは見た目よりハードな運動だ。
だから熱心に練習すればそんなこともあるのだろう。
だが、健康で一度も貧血を起こさなかった少女でさえ、頻繁に貧血を起こすようになるというのはちょっと異常ではないのだろうか?
妻は言葉どおり美しくなった。
適度に引き締まったプロポーションは美の芸術の域にまで達しようかというぐらい。
一緒に街を歩けば道行く男たちが振り返る。
それはとても誇らしいことではあるものの、どこか男を不安にさせるものでもあった。
仕事から帰ってくると、カーテンを引いた薄暗い部屋で横になっている妻。
夫が訊くと、このところ多少貧血気味だという。
太陽がまぶしいので外には出たくないらしい。
でも、バレエの練習のある日はうきうきとして出かけていく。
練習は夜だし、夜になると心が浮き立つのだそうだ。
だが、本当にバレエに行っているのだろうかと夫は思う
誰かと浮気をしているのではないだろうか・・・
だから拒否をするのではないだろうか・・・
いそいそと出かける支度をしている妻。
新しい白いタイツをパッケージから出している。
最近は毎回のように新しいタイツを用意しているらしい。
そんなにすぐにだめになってしまうものなのだろうか。
今晩こそは・・・
夫は妻の行動を確かめるべく後を追う。
バレエに行っている妻を確認して安心したいため。
それだけのために夫は妻の後を追う。
以前も美しかった妻は、今ではもっと美しい。
その後姿を見ているだけでも、夫の胸はざわめくのだ。
お預けを食らっていた仕返しに、今ここで襲ってやろうか。
そんなことすら考えさせられる。
妻がやってきたのは一軒の住宅。
入り口にはバレエ教室の看板が立っている。
この家の地下室がホールになっているとのこと。
同じ時間帯の生徒たちなのか、若い女性たちが何人か入っていく。
その中に妻の姿も混じっていた。
夫はホッとする。
妻はちゃんとバレエを習いに来ていたのだ。
このまま家に帰って夕食を取ればいい。
だが、夫の足は動かなかった。
妻の帰りは22時ごろ。
以前は21時過ぎには帰ってきていた。
近々バレエの発表会があるという。
そのために居残り練習しているのよと笑っていた妻。
だが、本当にそうなのか?
疑念を抱いてしまうと確かめずにはいられない。
夫はその場を立ち去れなかった。
レッスンが終わったらしい。
三々五々と入り口から女性たちが出て行く。
思い思いの方向に足を向けながら、友人たちに名残惜しそうに手を振っている。
夫は待った。
妻が出てくるのを待った。
だが、妻は出てこない。
五分が経ち、十分が経っても妻は出てはこなかった。
夫はいても立ってもいられない。
足がついその家に向かう。
もしかしたら妻は別の出口から出て行ってしまったのではないか?
もうあの家にはいなくて、どこかで男と会っているのでは?
そう思うと止められない。
確認だけ。
いるかどうかの確認だけ。
それだけできればいい。
夫はついに家の前まで進み出た。
呼び鈴が鳴る。
思わず笑みが浮かんでしまう。
やっと来たようね・・・
彼女の牙のために伝線してしまった白いタイツから顔を上げ、うっとりとしている女の耳元にささやいた。
「あなたのご主人が来たようよ」
その言葉に、女の顔にも笑みが浮かんだ。
誰も出てこない。
家の中は電気も消えている。
やはり妻はもういないのか?
どうしよう・・・
ためらったのは一瞬だけ。
夫はドアノブを回してみる。
鍵がかかっていればあきらめただろう。
だが、ドアノブはするりとまわり、音もなく開いていく。
まるで家の中に入って来いとでも言うかのように。
夫は自分の躰をするりと入り込ませ、背後でドアを閉じる。
暗がりに目が慣れると、広い玄関からは廊下がつながり、地下への階段がわきにある。
「すみません。誰か居ませんか?」
呼びかけてみても返事はない。
悪いこととは知りつつも、夫は靴を脱ぎ、一歩を中に踏み入れた。
「あ・・・ん・・・」
いつもとは違う感触。
自分の躰が冷えていく。
しばらくぶりに味わう感触だ。
気持ちいい・・・
いつもはこの感触を与えている。
でも今日は受け取っているのだ。
さあ、早くいらっしゃい。
あなたの奥さんがどうなったのかを教えてあげる。
とても素敵な吸いっぷりよ。
唇に指を這わせ、舌先で指先を舐めていく。
しばらくぶりの感触に、彼女自身も酔いしれていた。
一段一段恐る恐る足を進める。
自分は何をやっているのだろうという疑問がないわけじゃない。
だけど彼自身もうどうにもならないのだ。
目に見えぬ力が彼を呼んでいる。
そうとでも考えないとおかしいぐらい。
ふかふかの絨毯に包まれた階段。
足音はしない。
それにしても、本当に誰もいないのだろうか・・・
地下にあったのは二つのとびら。
一つは更衣室とプレートがついている。
そしてもう一つは・・・
夫はそちらのドアの取っ手をグッと握り締めた。
夫は思わず声を上げそうになる。
ドアの隙間から覗き込んだ彼の目に、ホールの中の二人の女性の姿が映ったのだ。
片方は金髪で肩までの髪の少し背の高い女性。
もう片方は背中までの黒いつややかな髪の女性。
後姿だけど間違いない。
あれは妻だ。
夫はそう確信した。
二人の女性はともに黒いレオタードと白いタイツを穿いている。
薄暗い中で妻は先生であるはずの金髪女性の前にひざまずき、何かをしているようだった。
何をしているのだろう。
夫は目を凝らす。
そして息を飲んだ。
妻の舌が先生の白いタイツの上を這っている。
両手でいとしそうに抱きしめた太ももに、ピンク色の舌をぬめぬめと這わせている。
白いタイツはところどころ伝線し、一部が赤く染まっていた。
まるで夫が見ているのを知っているかのように、妻は少し角度を変え、先生の白いタイツを愛撫する。
唾液で湿った白いタイツに、いとしそうに指を這わす。
そしてそっと口付けまでしてるのだ。
「うふふふ・・・どうかしら、私の血の味は?」
妖しい笑みを浮かべ、先生が妻に問う。
「はい。とっても美味しいです」
妻が白いタイツから口を離すと、新たに伝線した白いタイツに血がにじむ。
妻が先生の血を吸っている。
そんな衝撃的な事実を目の当たりにしながら、夫は股間をたぎらせていた。
普段の妻とはまったく違う妖艶な妻の姿に、欲情を禁じえなかったのだ。
「ほら、あなたのご主人が来ているわ。あなたを見て興奮しているわよ」
「はい、知ってました」
二人が入り口の方を向く。
そこから覗いている夫に妻がふっと笑みを漏らす。
「あなた。今はまだ入っちゃダメよ。そこで覗いているだけにしてね」
夫は何かを言いかける。
ドアを開けて中へ入りたい衝動に駆られてしまう。
だがそれは叶わない。
なぜなら彼の躰はもう彼の自由にはならなかったから。
妻の目が赤く輝き、夫の自由を奪ってしまったのだ。
「ごめんなさい。でも安心して。今晩一晩だけの辛抱よ。私は明日には生まれ変わる」
見たこともない妖艶な笑みで唇に指を這わせる妻。
真っ赤な唇が濡れたように光っていた。
「見て、あなた。もうほとんど鏡に映らなくなったわ。私も先生の仲間になったの」
妻の言葉に夫は驚いた。
ホールの壁に広がっている鏡に二人の姿が映ってないのだ。
「今までごめんなさい。変化し終わるまでダメって言われてたの。ねえ、あなた知ってた? 血ってすごく美味しいのよ。それに一人一人味が違うの。あなたの血の味はどんなかしら」
そう言った妻の目は欲望に濡れていた。
「うふふ・・・よかったわねご主人」
金髪の先生が髪をかき上げる。
「彼女、とってもあなたを愛しているんですって。だからあなたが死ぬまでは一緒にいるそうよ」
くすりと笑う先生。
「血を吸われながらのセックスは最高よ。一度味わったらもうやめられないわ」
「うふふ・・・今日はダメだけど、明日になったらしてあげるね。あなた」
夫は言葉も出ない。
だが、すでにその言葉どおりであろうことは肌で感じ取っていた。
「うふふ・・・でも時々は外で血を吸うのは許してね。あなたの血はきっと美味しいと思うけど、いつも同じ味じゃ飽きちゃうでしょ」
「心配はいらないわ。あなたの思うとおりにしなさい。彼はもうあなたの虜。あなたの言うがままに生きるしかないわ」
ああ、そのとおりだと夫は思う。
黒いレオタードと白いタイツ姿で笑みを浮かべている妻に、彼は心の底から惚れ直していたのだ。
これからも妻のためだけに生きるのだ。
彼の血がすべてなくなり、妻が別の男を虜にするまでは。
夫はそれで満足だった。
END
以上です。
よろしければ拍手、コメントなどいただければと思います。
よろしくお願いいたします。
- 2008/08/24(日) 20:15:54|
- 異形・魔物化系SS
-
| トラックバック:0
-
| コメント:6