昨日一昨日と二回にわたって、短編SS「白の帰還」をお楽しみいただきありがとうございました。
ところで、お読みいただいた皆様の中には、途中であらって思われた方もいらっしゃったのではないでしょうか?
実はこの「白の帰還」は、書いている途中でどうにも行き詰まり、途中から(具体的には二日目の分から)大幅に路線を変更して書き上げたものだったのです。
できるだけ違和感無いようにまとめたつもりではありましたが、おそらくなんか途中で変わったなって思われた方がいらっしゃるのではと思います。
それで、本来はこういう形にする予定だったという旧バージョンを公開いたします。
途中で切り上げて新バージョンへと移行したため、最後は尻切れトンボ的な終わりになっておりますが、昨日までの新バージョンと読み比べてみてくださいませ。
そして、今後の参考にもしたいので、どっちがよかったかのアンケートなど取らせていただければと思います。
なにとぞご協力のほどお願いいたします。
それでは旧バージョン、ご鑑賞くださいませ。
「白の帰還」旧バージョン
「う・・・ん・・・ここ・・・は?」
天井の蛍光灯が白々と輝く白い部屋で私は目を覚ます。
鉄パイプで作られたベッド。
白いカバーに包まれた毛布が上にかけられている。
「私は・・・いったい?」
先ほどからずきずきと痛む頭。
何があったのかよく思い出せない。
ここはどこ?
私はどうしてこんなところに?
私はとりあえず周囲の確認をする。
どうやらここはどこかの病院のよう。
白い壁に囲まれた静かな部屋。
ベッドの脇には点滴をぶら下げるスタンドや、心電図みたいなモニター装置がおいてある。
でも窓は一つもない。
外は一切見えない。
普通の病室とは思えない。
私はとにかく起き上がって・・・
ガチャ!
金属質の音が静かな部屋に響いた。
躰を起こそうとした私は、右手をぐいと引っ張られ、思わずベッドに引き戻される。
「えっ?」
私は右手に食い込んだものを見た。
「手錠?」
そこには私の右手首とパイプベッドをつなぎとめる金属製の手錠が鈍く光っていたのだ。
「ど、どうして・・・」
私はここに捕らわれたことに恐怖した。
******
『いやよあたしは!』
『そう言うなって・・・もう大丈夫だから』
『だがなぁ光一(こういち)、洗脳されていたとは言え、あいつは暗黒帝国の女幹部マリーだったんだぞ』
『だからそれは奴らに洗脳されていたからだって』
『でも、本当に洗脳が解けたのかな・・・何かの罠なんじゃ・・・』
『そんなこと・・・ないって』
『おいおい、いつまで騒いでいるんだ? もう麻梨(まり)の部屋の前だぞ』
防音のよくないドアの向こうから声がする。
懐かしい声。
それと同時に胸が苦しくなる声。
「麻梨、起きていたのか?」
ドアを開けて入ってくる青年男女五人。
パッと見ただけなら、どこかのバンドグループとでも見えるかもしれない。
でも、そうじゃない。
彼らこそがこの日本を、そして地球を邪悪な暗黒帝国の魔の手から守っているセーバーチーム。
その五人のメンバーなのだ。
「元気そう・・・ね・・・」
ふと目をそらす茜(あかね)。
セーバーイエローとして、かつては私とコンビを組んでいた。
でも、今の私は・・・
「は、初めまして・・・でしょうか」
おずおずと頭を下げる香奈美(かなみ)。
そうね・・・
こうして会うのは初めてだわ。
戦場では何度も会っているのにね。
私の替わりのセーバーホワイトとして・・・
「麻梨・・・本当に大丈夫なんだろうな。俺はまだお前を信じたわけじゃねえぞ」
セーバーブラックの晟(あきら)。
いつもと同じく人に対して距離をとる。
「晟! 麻梨はもう大丈夫だって。メディカルセンターの検査にも合格したんだし」
セーバーレッドの光一。
そう言いながらもちょっと笑顔がぎこちないわよ。
「けがはもう大丈夫なのか?」
体格のよい熊のような惣太(そうた)。
セーバーグリーンとして相変わらず皆を後ろでまとめているのね。
「みんな・・・私、今までみんなの敵になって・・・ごめんなさい」
かつての仲間たちを前にして、私は頭を下げるしかできなかった。
そう・・・
私は戦いの最中に暗黒帝国に捕らわれた。
そして、皇帝の闇の力を注ぎ込まれ、女幹部マリーとして生まれ変わってしまったのだ。
それからの私は暗黒帝国の尖兵として怪人どもを指揮し、地上に被害を与えてきた。
先日の戦いで頭に衝撃を受け、洗脳が解かれるその時点まで・・・
「まあ、元気そうで何よりだ。躰の調子が戻ったらまた一緒に戦おうぜ」
光一はそう言ってくれたが、その瞬間に茜と香奈美の表情が曇ったことを私は見逃さない。
すでにセーバーチームに私の居場所はないんだわ・・・
「麻梨にはいろいろと聞きたいことがあるって司令も言ってたぜ」
「しばらくは監視体制に置かれるけど、悪く思わないでね、麻梨」
「ええ、それは当然のことよ。なんてったって、私は暗黒帝国の女幹部マリーなんですもの」
ずっと視線をそらしたままの茜に私はおどけて見せる。
「なに言ってる! 麻梨はマリーなんかじゃない! セーバーホワイトの麻梨なんだ!」
「そ、そうですね。麻梨さん、復帰したらいつでもセーバーホワイトはお返ししますから言ってくださいね」
複雑そうな表情を浮かべる香奈美。
「香奈美、それを決めるのは司令部だ。俺たちがどうこうって話じゃない」
晟が香奈美の肩に手を置いた。
「そ、そうよ。今は香奈美さんがセーバーホワイトなんだから、私のことは気にしないで暗黒帝国の野望を打ち砕いてね」
私・・・いやな女だ。
心にもないことを言っている。
セーバーホワイトを返してって叫びたいぐらいなのに。
「そろそろ引き上げよう。待機任務の途中だし、麻梨だって病み上がりだから」
「そうだな、そうするか」
惣太の言葉になんとなくホッとしたような表情を浮かべるみんな。
「それじゃな、麻梨。またくるよ」
「早く元気になってくださいね、麻梨さん」
「またね、麻梨」
ぞろぞろと病室を出て行ってしまう五人。
張り詰めていた空気が解き放たれる。
五人が去ったことで、私自身も安堵していることに気がついていた。
******
手錠こそはずされたものの、私の周りにはいつも幾人かの監視の目があった。
病室を出て一室をあてがわれたものの、いわば体のよい軟禁状態。
外出は許可制で、散歩もショッピングも思うに任せない。
ベースの一角の一番無害な地区に閉じ込められているのだ。
仕方がない・・・
私は先日まで暗黒帝国の女幹部だったのだ。
私がセーバーチームの司令官でも、こういった処置を講じるだろう。
仕方がない・・・
でも・・・
でも・・・
心が乾いていく。
意外にも、時々顔を出してくれたのはセーバーホワイトの香奈美ちゃんだった。
高校を卒業したばかりといった感じの香奈美ちゃんは、多少のぎこちなさはあったものの、私の部屋に遊びに来てくれるようになったのだ。
姉妹のいない私にとって、まるで妹のような香奈美ちゃんとの会話は、私の心を癒してくれる唯一の時間だった。
香奈美ちゃんと一緒にいる限りにおいては、私を監視する連中も姿を現さない。
このことがどれほど私にとってありがたいことだったか・・・
******
「麻梨さん、今日はショッピングに行きませんか?」
清楚な白いワンピースに身を包んだ香奈美ちゃんが姿を見せてくれる。
私はそれだけで心が弾むのを感じていた。
少しラフにジーンズとシャツを着込んで、私は香奈美ちゃんと出かけていく。
もっとも、出かけるといってもセーバーベース内のショッピングモールだ。
セーバーベースはそれ自体が独立した一都市と言ってもいい。
チームにかかわるさまざまな人々とその家族が暮らしている拠点なのだ。
無論、私がマリーにされてしまったあとはかつての場所からは移転したので、現在のベースの正確な位置は私にはわからない。
ベース内の一部だけのみ歩くことを許されているのだ。
仕方がない・・・
もう二度とマリーに戻ることなんてないけれど、それを信じてもらうには時間がかかる。
だから・・・
仕方がないのだ。
「これなんかどうですか? 麻梨さんはスタイルいいからきっと似合いますよ」
「ダメダメ、似合わないってば。それよりもこっち着てごらんよ。香奈美ちゃん似合うと思うよ」
二人で笑い合う他愛ない時間。
お互いに服を選びあう楽しい時間。
私がこれまでしてきたことは許されないことかもしれないけど、こんな時間がいつまでも続いて欲しい・・・
******
私はどうしてこんなところにいるのだろう・・・
毎日のように行なわれる尋問。
暗黒帝国のことを探るためといいながら、いまだ私が洗脳されているのではないかと疑っている。
繰り返される同じような質問。
どこかに矛盾点があれば、すぐにそこをついてくる。
私だって人間よ。
洗脳されていたときの記憶なんてあやふやに決まっているじゃない。
きちんとしたことなんて覚えているはずがないじゃない!
私はそう叫びだしたいのをこらえて、できる限りの協力を行なう。
それが私の罪滅ぼしなのよ。
暗黒帝国の女幹部マリーだったとき、私は漆黒の衣装に裏地の赤いマント、それにひざ上までのブーツを履いてとげのついたサークレットを嵌めていた。
つまり、私の素顔はさらされていたのだ。
残虐な女幹部マリーの姿は日本中の人間が知っている。
そう・・・
私の顔を見れば、マリーであることは一目瞭然なのだ。
そのことを思い知ったのは先日のこと・・・
メディカルセンターでの検査にやってきた私を、医者も看護師たちもよけていく。
私の後ろには監視役の男たちがつき従い、何か異変はないかと常に私を見張っている。
ここへ来て以来の見慣れた光景。
慣れたとはいえ、心が乾いていくのはどうしようもない。
「きゃっ」
突然、私の足に少女がぶつかってくる。
子供たち同士で遊んでいたのか、私に気が付かなかったらしい。
このメディカルセンターには小児科もあるから、きっとそこに来ていた娘だろう。
とてんという擬音が似合いそうな感じでしりもちをついた少女に、私はそっと手を差し出す。
「ごめんなさい」
そう言って手を伸ばし、私を見上げた少女の顔が、みるみる恐怖に青ざめた。
「いやぁぁぁぁぁぁ」
悲鳴を上げて必死にあとずさる少女。
すぐに看護師の一人が彼女を抱きかかえて走り去る。
私が差し伸べた手は、むなしく宙に浮いたままだった。
私は逃げ出していた。
もうこんな場所にはいたくない。
ここは私のいる場所じゃない。
ここは別の世界なんだわ。
泣きながら走ってきた私は、細い路地のようなところに行き着いていた。
ここは?
突然のことだったせいか、監視役の男たちも私を見失ってしまったらしい。
通路のつくりからして居住セクションではなく基地セクションのよう。
迷い込んでしまったんだわ。
カツコツと響く足音。
誰かが来る。
しかも足音は二つ。
こんなところで見つかったら、また疑われてしまう。
私はとっさに置いてあったコンテナの陰に身を隠す。
身を隠せるところがあってラッキーだったわ。
「麻梨の姿を見失ったって?」
「ああ、突然逃げ出したらしい・・・警備の奴らが今探している所だそうだ」
二人の会話が聞こえてくる。
聞きおぼえのある声。
晟と惣太だわ。
「言わないことじゃない。最初からここへ侵入するための手だったんだ」
「うむ・・・その可能性は高くなったな」
ああ・・・
晟も惣太も結局は私を信じてはくれなかったんだ・・・
私がまだマリーだと思っているんだ・・・
そんなことって・・・
「香奈美にも言い含めておいたんだけどな。麻梨に怪しい動きがないか見張れって。上手いこと麻梨と仲良く見せかけることに成功したようだから、そのうちボロを出すだろうとは思っていたが・・・」
「香奈美の報告では怪しいところは感じられなかったっていうことだったが」
「あまいぜ惣太。あいつはもう俺たちの知っている麻梨じゃない。暗黒帝国の女幹部マリーだ。あくどい手を使ってくることには長けている」
「うむ・・・確かにな」
私の足元に涙が落ちる。
香奈美ちゃんも・・・
香奈美ちゃんまでもが演技だったなんて・・・
私は死んだ。
セーバーホワイトだった麻梨はたった今死んだ。
******
セーバーベースに警報が鳴り響く。
暗黒帝国の攻撃がどこかにあったのだろう。
私は思わず笑みを浮かべた。
今がチャンスだわ。
もう、こんなところにはいられない。
帰ろう・・・
あの懐かしい世界へ・・・
どうして忘れていたんだろう・・・
人間の愚かしさに。
人間のくだらなさに。
平気で他者を踏みつけにするそのおぞましさに・・・
そうよ・・・
私はもうこんなところにいるのはいや。
もう一度戻りたい。
もう一度私のいるべき場所に戻りたい
もう一度暗黒帝国の女幹部マリーに戻りたい!
私はすぐに部屋を出て脱出に取り掛かる。
しばらくおとなしくしていたから、監視の連中も油断していたのか、あっけないほどたやすく始末することができた。
ちょっと逃げ出すようなそぶりを見せて物陰に誘い込んだら、他愛なく追いかけてきたわ。
腹部と首筋に一撃であっけなく伸びてしまう。
こんな連中じゃ監視の役に立たないでしょうにね。
私は過去の記憶を頼りにセーバーベースの出口を探す。
以前とは違う配置にしているようだけど、基地なんてのはどこか似通ってくるもの。
いくつか目星をつけておいた中から、簡単に外部につながっているゲートを見つけることができた。
さようならセーバーベース。
正義という名の牢獄から私は脱出した。
******
「おう、それでこそ暗黒帝国の黒き花マリー。美しいですぞ」
「うふふ・・・ありがとうゴズム。あなたの頭脳もしわが深くてとても素敵よ」
漆黒のボンデージとも言うべき衣装を身に付け、マントを羽織った私を暗黒帝国の参謀ゴズムが出迎えてくれる。
こうして二人で皇帝陛下にまたお仕えできるのはうれしいものね。
私は暗黒帝国の女幹部マリー。
セーバーチーム、次に会うときが楽しみだわ。
END
以上です。
よければ拍手コメントなどいただければと思います。
あと、アンケートにご協力お願いいたします。m(__)m
- 2008/08/16(土) 20:42:13|
- 女幹部・戦闘員化系SS
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