今日明日の二日間で短編一本投下します。
いわゆるシチュのみ短編といっていいものですが、楽しんでいただければと思います。
「う・・・ん・・・ここ・・・は?」
天井の蛍光灯が白々と輝く白い部屋で私は目を覚ます。
鉄パイプで作られたベッド。
白いカバーに包まれた毛布が上にかけられている。
「私は・・・いったい?」
先ほどからずきずきと痛む頭。
何があったのかよく思い出せない。
ここはどこ?
私はどうしてこんなところに?
私はとりあえず周囲の確認をする。
どうやらここはどこかの病院のよう。
白い壁に囲まれた静かな部屋。
ベッドの脇には点滴をぶら下げるスタンドや、心電図みたいなモニター装置がおいてある。
でも窓は一つもない。
外は一切見えない。
普通の病室とは思えない。
私はとにかく起き上がって・・・
ガチャ!
金属質の音が静かな部屋に響いた。
躰を起こそうとした私は、右手をぐいと引っ張られ、思わずベッドに引き戻される。
「えっ?」
私は右手に食い込んだものを見た。
「手錠?」
そこには私の右手首とパイプベッドをつなぎとめる金属製の手錠が鈍く光っていたのだ。
「ど、どうして・・・」
私はここに捕らわれたことに恐怖した。
******
『いやよあたしは!』
『そう言うなって・・・もう大丈夫だから』
『だがなぁ光一(こういち)、洗脳されていたとは言え、あいつは暗黒帝国の女幹部マリーだったんだぞ』
『だからそれは奴らに洗脳されていたからだって』
『でも、本当に洗脳が解けたのかな・・・何かの罠なんじゃ・・・』
『そんなこと・・・ないって』
『おいおい、いつまで騒いでいるんだ? もう麻梨(まり)の部屋の前だぞ』
防音のよくないドアの向こうから声がする。
懐かしい声。
それと同時に胸が苦しくなる声。
「麻梨、起きていたのか?」
ドアを開けて入ってくる青年男女五人。
パッと見ただけなら、どこかのバンドグループとでも見えるかもしれない。
でも、そうじゃない。
彼らこそがこの日本を、そして地球を邪悪な暗黒帝国の魔の手から守っているセーバーチーム。
その五人のメンバーなのだ。
「元気そう・・・ね・・・」
ふと目をそらす茜(あかね)。
セーバーイエローとして、かつては私とコンビを組んでいた。
でも、今の私は・・・
「は、初めまして・・・でしょうか」
おずおずと頭を下げる香奈美(かなみ)。
そうね・・・
こうして会うのは初めてだわ。
戦場では何度も会っているのにね。
私の替わりのセーバーホワイトとして・・・
「麻梨・・・本当に大丈夫なんだろうな。俺はまだお前を信じたわけじゃねえぞ」
セーバーブラックの晟(あきら)。
いつもと同じく人に対して距離をとる。
「晟! 麻梨はもう大丈夫だって。メディカルセンターの検査にも合格したんだし」
セーバーレッドの光一。
そう言いながらもちょっと笑顔がぎこちないわよ。
「けがはもう大丈夫なのか?」
体格のよい熊のような惣太(そうた)。
セーバーグリーンとして相変わらず皆を後ろでまとめているのね。
「みんな・・・私、今までみんなの敵になって・・・ごめんなさい」
かつての仲間たちを前にして、私は頭を下げるしかできなかった。
そう・・・
私は戦いの最中に暗黒帝国に捕らわれた。
そして、皇帝の闇の力を注ぎ込まれ、女幹部マリーとして生まれ変わってしまったのだ。
それからの私は暗黒帝国の尖兵として怪人どもを指揮し、地上に被害を与えてきた。
先日の戦いで頭に衝撃を受け、洗脳が解かれるその時点まで・・・
「まあ、元気そうで何よりだ。躰の調子が戻ったらまた一緒に戦おうぜ」
光一はそう言ってくれたが、その瞬間に茜と香奈美の表情が曇ったことを私は見逃さない。
すでにセーバーチームに私の居場所はないんだわ・・・
「麻梨にはいろいろと聞きたいことがあるって司令も言ってたぜ」
「しばらくは監視体制に置かれるけど、悪く思わないでね、麻梨」
「ええ、それは当然のことよ。なんてったって、私は暗黒帝国の女幹部マリーなんですもの」
ずっと視線をそらしたままの茜に私はおどけて見せる。
「なに言ってる! 麻梨はマリーなんかじゃない! セーバーホワイトの麻梨なんだ!」
「そ、そうですね。麻梨さん、復帰したらいつでもセーバーホワイトはお返ししますから言ってくださいね」
複雑そうな表情を浮かべる香奈美。
「香奈美、それを決めるのは司令部だ。俺たちがどうこうって話じゃない」
晟が香奈美の肩に手を置いた。
「そ、そうよ。今は香奈美さんがセーバーホワイトなんだから、私のことは気にしないで暗黒帝国の野望を打ち砕いてね」
私・・・いやな女だ。
心にもないことを言っている。
セーバーホワイトを返してって叫びたいぐらいなのに。
「そろそろ引き上げよう。待機任務の途中だし、麻梨だって病み上がりだから」
「そうだな、そうするか」
惣太の言葉になんとなくホッとしたような表情を浮かべるみんな。
「それじゃな、麻梨。またくるよ」
「早く元気になってくださいね、麻梨さん」
「またね、麻梨」
ぞろぞろと病室を出て行ってしまう五人。
張り詰めていた空気が解き放たれる。
五人が去ったことで、私自身も安堵していることに気がついていた。
******
手錠こそはずされたものの、私の周りにはいつも幾人かの監視の目があった。
病室を出て一室をあてがわれたものの、いわば体のよい軟禁状態。
外出は許可制で、散歩もショッピングも思うに任せない。
ベースの一角の一番無害な地区に閉じ込められているのだ。
仕方がない・・・
私は先日まで暗黒帝国の女幹部だったのだ。
私がセーバーチームの司令官でも、こういった処置を講じるだろう。
仕方がない・・・
でも・・・
でも・・・
心が乾いていく。
意外にも、時々顔を出してくれたのはセーバーホワイトの香奈美ちゃんだった。
高校を卒業したばかりといった感じの香奈美ちゃんは、多少のぎこちなさはあったものの、私の部屋に遊びに来てくれるようになったのだ。
姉妹のいない私にとって、まるで妹のような香奈美ちゃんとの会話は、私の心を癒してくれる唯一の時間だった。
香奈美ちゃんと一緒にいる限りにおいては、私を監視する連中も姿を現さない。
このことがどれほど私にとってありがたいことだったか・・・
******
「麻梨さん、今日はショッピングに行きませんか?」
清楚な白いワンピースに身を包んだ香奈美ちゃんが姿を見せてくれる。
私はそれだけで心が弾むのを感じていた。
少しラフにジーンズとシャツを着込んで、私は香奈美ちゃんと出かけていく。
もっとも、出かけるといってもセーバーベース内のショッピングモールだ。
セーバーベースはそれ自体が独立した一都市と言ってもいい。
チームにかかわるさまざまな人々とその家族が暮らしている拠点なのだ。
無論、私がマリーにされてしまったあとはかつての場所からは移転したので、現在のベースの正確な位置は私にはわからない。
ベース内の一部だけのみ歩くことを許されているのだ。
仕方がない・・・
もう二度とマリーに戻ることなんてないけれど、それを信じてもらうには時間がかかる。
だから・・・
仕方がないのだ。
「これなんかどうですか? 麻梨さんはスタイルいいからきっと似合いますよ」
「ダメダメ、似合わないってば。それよりもこっち着てごらんよ。香奈美ちゃん似合うと思うよ」
二人で笑い合う他愛ない時間。
お互いに服を選びあう楽しい時間。
私がこれまでしてきたことは許されないことかもしれないけど、こんな時間がいつまでも続いて欲しい・・・
- 2008/08/14(木) 20:22:20|
- 女幹部・戦闘員化系SS
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