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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

望美(3)

三年連続更新記念SS大会新作中編の三回目です。
それではどうぞ。


3、
次の日から望美は見繕ってもらった衣装に店長に教わったような美しいメイクをして出社するようになった。
見る者に妖艶さを感じさせるような衣装ではあるものの、これはあくまでも仕事着であり、突発的な接待などにも対応できる衣装だからと望美は納得していたし、何より自分に向けられる視線が心地よかった。
ただ、会社に行く途中に痴漢に遭ってしまった事があり、そのことを知った越久村がわざわざ朝迎えに来てくれるようになる。
そのことが部下を大事に思ってくれる越久村の思いやりに感じて望美はとてもうれしかった。

健太は望美がそんな妖艶さを漂わせる服装で出勤していることなどまったく気がついていなかった。
越久村の新規プロジェクトに伴う新規開発で企画開発部門はてんてこ舞いの忙しさだったのだ。
自然と夜も遅く帰ることが多く、夜十一時ごろになることもしょっちゅうとなっていた。
当然夕食を家で取ることも少なくなり、望美も夜を外食で済ませるようになっていた。
朝は望美の出勤前に健太は家を出てしまい、夜も望美の方が早いために、望美の服装の変化など判るはずもなかったのだ。

                    ******

「おはようございます」
いつものように越久村の車の助手席に乗り込む望美。
タイトスカートから伸びる脚が越久村の目を楽しませる。
黒のストッキングがなまめかしい。
越久村は望美が近所の人の好奇の目にさらされるのを案じて家までは迎えには来ない。
最寄の駅の近くで待ち合わせをしているのだ。
「おはよう望美君。いつも綺麗だよ」
「ありがとうございます。部長も素敵ですわ」
車を走らせる越久村の手が望美の太ももに伸びて行く。
「あはっ、もう・・・部長ったら」
最初は驚いていた望美だったが、特に太ももから股間に手が伸びてくるのでもなく、どちらかと言うと撫でてもらっているという感じが強かったので、最近はお尻タッチと同じくほとんど気にならなくなっていた。
むしろ自分の脚を褒めてもらっているようでうれしくさえあったのだ。
「おっといかんいかん。運転中だったな」
そう言って大げさに手を引っ込める越久村。
二人の笑い声が車内に広がった。

「えっ? 出張ですか?」
「そうだ。今週末に一泊で金沢へ行く。望美君も一緒だ」
「私もですか?」
望美は驚いた。
まさか出張に同行するなど考えたこともなかったのだ。
「当然だろう。君は俺の秘書なんだからな。手助けをしてもらわないと困る」
「で、でも・・・」
望美の脳裏に健太のことがよぎる。
このところゆっくり顔をあわせていないので、週末は映画でも行こうかと話していたところだったのだ。
「週末は・・・」
「重要な仕事だ。よろしく頼むよ」
越久村にそう言われては望美には断れない。
それに今は仕事が楽しかった。
健太との休日はまた今度も機会があるだろう。
そう思った望美は越久村にうなずいた。

「ただいま。ふう・・・」
この日も健太の帰宅は夜十一時を過ぎていた。
「お帰りなさい、健太さん」
パジャマに着替えていた望美がちょっとかげりを浮かべた表情で出迎える。
「ただいま」
疲れているのだろうが、それでも健太は笑みを浮かべた。
愛する望美の顔が見られれば、疲れなどは吹き飛んでしまう。
望美は健太のカバンを受け取り、リビングに入る健太のあとに続く。
「お食事は?」
「いらない。会社で食べてきた」
ソファーに腰を下ろす健太。
このところの企画開発部門の忙しさは社内でもバックアップ体制がとられており、残業にはちゃんと夕食が用意されるようになっている。
だから健太も夕食は会社で取っているのだ。
「そう・・・」
何か言い出そうとしているようで言い出せないでいる望美に気がつく健太。
「どうしたんだい? 日曜日のことなら大丈夫だよ。明後日までに一区切りつければ明後日は休めるから」
「そのことなんだけど・・・ごめんなさい」
望美が頭を下げる。
「ど、どうしたんだい?」
「土曜日に出張が入っちゃったの。土日で金沢に行かなくちゃならないの。だから映画はまた今度・・・」
望美の思いもかけない言葉に絶句する健太。
どうにかがんばれば日曜日は休めるということを励みにして仕事してきたのだったが、それが無駄になってしまったのだ。
「どうして望美が出張しなくちゃならないんだ? 望美は単なる雑務を処理するための採用だろ?」
「私も今では越久村部長の秘書みたいなものなのよ。だから部長の仕事の手伝いをしなくちゃならないの。ごめんなさい。来週は大丈夫だと思うから・・・」
すまなそうにしている望美だが、健太はどうにも心が収まらない。
「いいよ。どこへでも行ってこいよ」
ふてくされてはずしたネクタイを放り投げる健太。
おもむろに立ち上がると、冷蔵庫からビールを取り出す。
「ごめんなさい。仕事だから・・・」
健太が怒るのももっともだと思う望美はひたすら頭を下げるしかない。
「いいって言ってるだろ。二言目には仕事仕事って、そんなに仕事が大事なのか?」
「だからごめんなさいって言ってるでしょ。仕方ないじゃない。健太さんだって仕事で休めないときぐらいあるでしょ」
健太の態度につい口調が荒くなってしまう望美。
謝っているのに、受け入れてもらえないのはつらくなる。
「ああ、だからいいっていってるだろ。もういいって! あーーあ、つまんねえなぁ」
缶ビールの口を開け、ごくごくと飲み干して行く健太。
言っちゃだめだとは思うものの、どうにも収まりがつかないのだ。
今は何を言っても無駄だと思った望美はそっと部屋を出る。
「望美、なんだかタバコくさいぞ。シャワー浴びてんのか?」
「なっ?」
望美は驚いた。
健太の帰りがいつになってもすぐ出迎えられるようにシャワーを浴びずに待っていたというのに、その言いようはあんまりだった。
望美は半泣きになりながらシャワーを浴びる。
出てきたときにはすでに健太は寝室に行ったあとだった。
望美は結局寝室には行かずに、自分の部屋のベッドで眠るのだった。

翌朝は健太も望美も無言のままだった。
健太も悪かったとは思っているものの、やはり素直には謝れない。
だいたい仕事仕事と男性社員じゃあるまいしとも思ってしまうのだ。
結局健太は無言で朝食を済ませ、身支度を整えて出かけてしまう。

望美は健太が出かけたことでホッとしていた。
息詰まるような雰囲気がどうにもいやだった。
確かに仕事が入ってしまったことで約束を破ってしまったことは申し訳ない。
でも、それをいつまでも子供みたいに拗ね、その上タバコくさいなんて言われるとは思わなかった。
部長ならあんなことは言わないに違いないわ・・・
タバコなんて一本も吸ってないのに・・・
それにタバコのにおいってそんなに気になるものかしら・・・
望美は首を振っていやな思いを振り払う。
これから仕事に出かけるというのに、暗い思いを引きずっていてはいられない。
望美はいつものように少し淫靡さを感じさせる下着を身につける。
家では決して着けない下着で、これを身に着けるだけでなんだか気分が引き締まる。
そして、あの日以来時折寄るようになったブティックで手に入れた衣装を身に付ける。
多少扇情的ではあるものの、躰のラインを綺麗に見せ望美の美しさを見事に引き出す衣装だ。
最後は最近手馴れてきたメイクで表情を引き締める。
メイクが終わるころには望美はもう健太とのいさかいなど忘れていた。
これから越久村と仕事をするのだ。
そう思うと自然と気持ちが浮き立った。

「おはようございます」
「おはよう、望美君」
越久村の車に乗り込むころには、望美はもう普段の望美に戻っていた。
タバコの煙が充満する車内だったが、なぜか望美はホッとしたものを感じていた。
ここにはいつもの空間がある。
仕事に向かうときのちょっと高揚するような気持ち。
やりがいを感じる充実した毎日の始まりなのだ。
その象徴ともいうべきタバコの煙を、望美は好きになっていた。

「何かあったのかな?」
望美は驚いた。
普段と変わらないつもりでいたのに、どうして越久村にはわかったのだろう?
「どうしてわかるんですか?」
「俺が鈍い男に見えるかい? 毎日君の顔を見ているんだよ。何かあったかぐらいはすぐにわかる」
「あ・・・」
越久村に見守られているようで望美はすごくうれしくなる。
心に温かいものが広がって行く。
「健太さんとちょっと言いあいをしちゃったんです」
越久村には素直に夕べのことが言えてしまう。
「塩原君と? いったいどうしたんだい?」
心から心配してくれているような越久村の言葉が、望美はすごくうれしかった。
「実は・・・週末の出張のことを言ったら健太さんが機嫌を悪くしちゃって・・・」
「どうしてだい? 仕事だから仕方が無いだろう」
「ええ、私もそう言ったんですけど、健太さんたら納得してくれなくて・・・」
夕べの健太のことを思い出すと、約束を守れなかった自分が悪いというよりも、健太がわがままな子供に感じてしまう望美。
「それは塩原君も大人気ないな。いい大人なんだから妻の仕事を理解してやらなくちゃ」
「ええ、そうですよね。私が我慢してって言ったのに聞いてくれないし。それにすごく失礼なこと言うんですよ」
「失礼なこと?」
越久村が眉をひそめた。
「あ、これは部長が悪いとか言うんじゃないんですから誤解しないでくださいね。健太さんたら私のことタバコくさいって言ったんです」
タバコのにおいなんてそんなに気になるものかしらと望美は思うのだ。
「それはひどいな。こんなに美しい君を捕まえて」
「まあ、部長ったら。お世辞でもうれしいです」
微笑を浮かべる望美。
「世辞ではないよ。しかし塩原君もちょっと神経質すぎるんじゃないかな。望美君はタバコのにおいは気になるかい?」
「いいえ。最初はちょっとむせるような感じでしたけど、今は気になりません。部長のおっしゃるとおり健太さんは気にしすぎるんだと思います」
「そうだな。ちょっと塩原君は周囲に甘えているところがあるからな。わがままで神経質なところがあるんだろう」
「そうなのかもしれません・・・ふう・・・あんな人だったかしら・・・」
なんとなく健太への思いに幻滅を感じてしまう望美。
それに反比例するように、越久村の男らしさやたくましさに憧れを感じてしまうのだ。
望美は知らず知らずのうちに、タバコを吸う越久村の横顔に見惚れていた。

「望美君ご苦労さん」
終業時間が近づいた望美に越久村が声をかける。
「あ、部長もお疲れ様です。明日は出張ですね。私で勤まるでしょうか・・・」
「心配は要らないさ、出張といっても顔つなぎのようなものだから難しいことは無いよ。いつもどおりでいればいい」
「はい。ありがとうございます」
越久村の言葉は本当に心強い。
少しでも越久村の役に立てるならこんなうれしいことは無いとも望美は思う。
「塩原君は今日も遅いんだろう?」
「ハイ、そう思います。このところ忙しそうですから・・・」
「だったら帰りに食事でもどうかな? 望美君も一人で食事は味気ないだろう」
「えっ?」
望美は驚くと同時にうれしくなった。
越久村が食事に誘ってくれたのがうれしかったのだ。
部長は私を気にかけてくれている。
そう思うと、望美の返事は決まっていた。
「はい。喜んで」
望美は大きくうなずいていた。

食事は楽しかった。
雰囲気のいいレストランでワインを飲みながらの食事。
越久村との会話は仕事の話題が中心ではあったものの、ワインの酔いも手伝って望美にはすばらしい時間となったのだった。
越久村の車で送ってもらうとき、越久村の手がいつものように太ももに伸びてきたが、望美はそれがすごくうれしかった。
伸びてきていた越久村の手を握り締め、その温かさに酔いしれる。
このまま越久村と別れるのは寂しかった。
家の近くまで来て車が止まったとき、望美は越久村の手を強く握り締めてしまう。
「望美君」
「部長・・・」
望美は黙って目を閉じた。
やがて望美の唇には、越久村の唇が重ねられるのだった。

「ただいま」
今日も帰りは夜の十二時近かった。
「ふう・・・」
「お帰りなさい」
玄関まで健太を迎えに出る望美。
疲れ果てた表情の健太がカバンを差し出してくる。
望美はそれを受け取り、健太がリビングに向かうのについていった。

健太は言葉を捜していた。
いや、探す必要はなかったはずだった。
ただ一言ごめんといえば済むのだ。
仕事に振り回されるのは会社員なら当たり前のことだ。
望美が自ら予定を入れたわけじゃないのだから、仕方ないと割り切ればいいだけだったのだ。
だが、どうしても言葉が出ない。
結局健太は無言でリビングに入っていく。

「ふう・・・」
いつしか望美もため息をついていた。
無言でリビングに入っていく健太の後姿は、どう見てもさえない感じだったし、部長のような男らしさを微塵も感じさせないのだ。
部長ならもっとシャキッとしているのに・・・
そう思うと健太に多少の幻滅を感じてしまう。
こんなに彼って覇気のない人だったかしら・・・
望美は無言の健太をリビングに置き去りにしてカバンを健太の部屋に置きにいく。
二人の住むマンションはそれなりの広さを持っており、健太も望美も一部屋ずつを持っていた。
カバンを置いた望美はリビングに戻る。
うつむいた健太の疲れきった様子に望美はますます幻滅するのを感じていた。

「お疲れ様・・・ビールでも飲む?」
「いや、いらない。ふう・・・疲れたよ」
そんなのは見ればわかる。
でも、せめてもう少し男なら格好付けでいいから疲れた表情など見せないで欲しい。
部長なら絶対にこんな顔は見せないわ。
別れる間際の口付けが思い出される。
ほんの少し健太に対して心が痛んだが、疲れた表情の健太にはただ哀れさを感じるだけだった。

「なあ・・・望美・・・」
「ねえ、健太さん」
二人はほぼ同時に声をかける。
「う、望美からどうぞ」
健太が一歩譲る。
彼はただ夕べのことを誤ろうと思ったのだ。
その上で仲直りをして来週にでも映画に行けばいい。
だが、それを自分から言うのはどうも気が引けた。
望美が何をいうのか確かめてからでもいいと思ったのだ。
「えとね、ほら、私最近越久村部長のタバコにさらされててタバコくさいって言ってたでしょ? 今日からちょっと寝室分けようかなって思うの」
「えっ?」
「シャワー浴びたりもするけど、健太さんの気に触ったりしたらいやだから、私の部屋で寝るわ。それならタバコのにおいは気にならないでしょ?」
望美の言葉に健太は唖然とした。
そんなつもりじゃなかったのに・・・
「いや、だ、大丈夫だよ。望美がタバコくさいなんてことないから。寝室分けることないよ」
「ううん。私がもっとちゃんと気がついていればよかったのよ。健太さんタバコ嫌いだもんね。ごめんね。越久村部長ったらヘビースモーカーだから私もそれに慣れちゃっていたところあるし。だから別にしましょ。そのほうがいいわ」
望美にとっても寝室を別にして少し健太と距離を置きたかったのだ。
部長の言うとおり、少し距離を置くことでお互いに見えてくるものもあるかもしれない。
そう思ったのだ。

健太はもう何もいえなかった。
望美はまだ怒っていると感じたのだ。
だったらもう勝手にしろと言う気がわいてくる。
「わかったよ。好きにしろよ」
健太はそう言って望美から顔を背けた。
「そう・・・それじゃおやすみなさい」
望美はふうと一つため息をつき、自分の部屋に入っていった。
  1. 2008/07/18(金) 21:13:15|
  2. 望美
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:4

かりそめの・・・

三年連続更新記念SS大会三日目は、お待たせしました「ホーリードール」です。
ここまで間があいてしまって申し訳ありません。
何とか完結まで続けていくつもりですので、応援よろしくお願いいたします。


27、
明日美ちゃん・・・
紗希は思い切って明日美を抱きしめる。
元に戻って欲しい。
いつもの明日美ちゃんに戻って欲しい。
ただその一心から紗希は明日美を抱きしめた。
違う明日美ちゃんなんていやだよ。
知らない明日美ちゃんになっちゃうなんていやだよ。
紗希の目から涙があふれる。
なぜ明日美ちゃんがこうなったのかはわからないけど、お願いだから元に戻って!

「なぜ泣いているのですか、サキちゃん?」
ぞっとするような冷たい明日美の声。
そこには何の感情も含まれてはいない。
「明日美・・・ちゃん・・・」
紗希は抱きしめていた明日美の両肩を持ち、両手を伸ばして引き離す。
冷たく平板な笑みを浮かべている明日美。
紗希を見つめているはずのその目には、何も映し出されてはいないようだ。
「お食事の用意ができていますわ。一緒に食べましょう」
「い・・・や・・・いや・・・だ・・・」
紗希はふるふると首を振る。
明日美ちゃんじゃない。
こんなの明日美ちゃんじゃないよ・・・
「いやだあぁぁぁぁぁ!!」
恐怖のあまり紗希は明日美を突き飛ばす。
こんなのはいやだ。
こんな明日美ちゃんはいやだぁっ!

思わずこの場を逃げ出そうとする紗希。
だが、部屋のドアをくぐったとき、いきなり廊下で誰かとぶつかってしまう。
「うあっ」
「あらあら大丈夫? サキちゃん」
しりもちをついてしまった紗希は思わずお尻をさすりながらも、声の主が明日美の母である麻美おばさんであることに気がついた。
「あ、だ、大丈夫です。それよりおばさん、明日美ちゃんが・・・」
紗希はそこまで言って言葉を失った。
見下ろしている麻美の目が明日美同様無表情であり、口元に浮かんだ笑みも冷たいものだったのだ。
「どうしたの? 何を怖がっているの? あなたは明日美のお友達でしょ?」
「う・・・あ・・・あ・・・」
思わず床に座り込んだまま紗希は後ずさりする。
「サキちゃん落ち着いて。あなたは今かりそめの意識に引きずられている」
紗希の背後にやってくる明日美。
「明日美ちゃん・・・」
紗希は振り返って明日美を見上げる。
「えっ?」
そこにはさっきまでの明日美はいなかった。

そこに立っていたのは赤いミニスカート型のコスチュームを纏い、赤の手袋とブーツを身に付け、長いつえを持った明日美だったのだ。
「明日美・・・ちゃん・・・」
「かりそめの意識を手放すの。サキちゃん、一緒に行きましょう」
手を差し伸べてくる明日美。
「私の目を見て」
「あ・・・あ・・・」
明日美の目を見た紗希の目からじょじょに光が失われ始める。
恐怖は消え、紗希の表情も明日美同様無機質なものになっていく。
「ドール覚醒開始。かりそめの意識の沈静化に成功」
すっと立ち上がる紗希。
その顔には無機質な笑みが浮かび、透明な目は何も映し出していないかのように澄んでいた。

「おはようございます。デスルリカ様」
リビングに入ってくる一人の少女。
漆黒のレオタードに黒の長手袋とロングブーツ。
禍々しいカチューシャにまとめられた肩までの髪。
大人びた黒く塗られた唇が笑みを浮かべる。
「おはようベータ。気分はどう?」
ソファーに腰掛けてコーヒーを飲んでいるデスルリカ。
脚を組んだその姿はまさに闇の魔女。
朝だというのに室内は暗く、闇が覆っている。
「はい、もう大丈夫です。ありがとうございます」
ぺこっと頭を下げるレディベータ。
それを見てデスルリカの口元にも笑みが浮かぶ。
「よかったわ。これで一安心ね」
「ベータ、もう起きて大丈夫なの?」
キッチンから姿を現すレディアルファ。
全身を覆う漆黒の衣装に白いエプロンをつけている。
そのアンバランスさに思わずレディベータは微笑んだ。
「アルファお姉さま、ご心配をおかけしました。もう大丈夫です」
「よかったわ。本当によかった」
レディアルファは思わず駆け寄ってレディベータを抱きしめる。
それは妹を心配する姉の姿となんら変わるところはない。
「トーストが焼けているわ。食べるでしょ? それともどこかに狩りに行こうか?」
レディベータをテーブルに着かせ、キッチンに戻るレディアルファ。
レディベータの復活が本当にうれしそうだ。
「だめよ。今はまだだめ」
いつになくきつい調子のデスルリカに、レディアルファもレディベータも思わずそちらを見た。

「ベータ、あなた以前に光の手駒が紗希に似ていると言っていたわね」
「はい。言いました」
「そのとおりだったわ・・・」
ぎゅっとコーヒーカップを握り締めるデスルリカ。
「紗希は光によって犯された。光の手駒にされていたわ。おそらく明日美ちゃんも・・・」
「デスルリカ様・・・」
顔を見合わせるレディベータとレディアルファ。
「私は紗希を取り戻すわ。二人とも手伝ってくれるわね?」
「デスルリカ様」
「無論ですデスルリカ様」
二人の闇の女はすぐにうなずく。
レディベータにとっても紗希は大事な友人だ。
光に囚われているなら開放してやらなければと思う。
でも・・・
デスルリカ様の思いを独り占めしているようで、ちょっとだけ紗希のことがうらやましかった。
  1. 2008/07/18(金) 20:26:36|
  2. ホーリードール
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:3

120万ヒット到達です

5月4日に110万ヒット到達して以来、二ヶ月ちょっとで10万増えました。
本当にすごいヒット数だと感謝感激です。

丸三年連続更新達成とほぼ同時に120万ヒット到達を迎えられたのも、何かの縁なのかもしれませんですね。
毎日のようにご訪問くださる皆様、本当にありがとうございました。
これからもまだまだがんばりますので、応援よろしくお願いいたします。

ブログ拍手のほうはどうやら復調したようです。
よろしければ拍手やコメントをお寄せいただけるとうれしいです。
ただ、まだ原因調査中とのことですので、不安定さは残るようですね。
FC2のブログサービスは結構気に入っているので、こういったところは改善していってほしいものです。
  1. 2008/07/18(金) 19:12:04|
  2. 記念日
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:5

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舞方雅人

Author:舞方雅人
(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
どうぞ楽しんでいって下さいませ。

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