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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

雛華と月子

今日は「帝都奇譚」をお送りします。

少しだけですみませんが、楽しんでいただければと思います。

16、
「あ・・・」
どこかもわからぬ暗闇の中で誰かもわからぬ外国人の男の手に胸をつかまれる。
本来なら悲鳴を上げて助けを求めるところだろうが、彼女の口から漏れたのは甘くせつない吐息だった。
「ククク・・・お前のエキスをいただくとしよう」
男の声が頭の中に響いてくる。
大きな口が開き、ピンク色の舌がヘビのようにのたくりながら伸びてくる。
「あ・・・ん・・・」
彼女は迎え入れるかのように口を開け、男の舌がもぐりこんでくるのを受け入れた。
あ・・・
冷たい・・・
のどの奥にひんやりしたものを感じる。
それは急速に広がっていき、躰の芯から凍えていく。
寒・・・い・・・
熱が無くなっていく。
躰だけでなく、心の中まで冷えていく。
「む?」
外国人の男が声を上げる。
「ほう・・・いい女だ。クククク・・・」
舌を使わずに声を出しているのが不思議だったが、この外国人なら不思議は無いのかもしれない。
しゅるり・・・
舌が抜き取られる。
力が抜けたようにがっくりと崩れ落ちる女性。
だが。
「ククク・・・立て」
男の言葉にゆらりと彼女は立ち上がる。
「お前は役立たずとは違うようだ。来るがいい」
「は・・・い・・・」
何も映してはいない虚ろな目を外国人に向けた彼女は、ゆっくりとうなずいた。
それはマネキンガールだった過去との決別だった。

「あ・・・れ・・・?」
雛華は短剣の埋まった自分の胸を見る。
先端から根元の近くまでそれは間違いなく埋まっていた。
にも関わらず、血の一滴も出ていないし、痛みを感じたのも一瞬だ。
今はかえって何かから解放されたかのような心地よささえ感じている。
「いっ・・・たい・・・」
「ふう・・・」
緊張を解き肩の力を抜く目の前の女性。
雛華の胸から短剣を抜き取り、その下にあった黒く染まった紙切れを取り去ると、雛華の胸には傷一つ無かった。
「ええっ?」
雛華は慌てて胸を押さえる。
手に平には血も付かないし、痛みはまったく無い。
ボウッ!
「ヒッ!」
目の前の女性が手にした黒く染まった紙切れが一瞬にして燃え上がる。
「これでいいわ。気分はどう?」
燃え尽きた紙切れを地面に落とし、踏みつけるようにして灰を粉々にする。
「あ・・・あなたは・・・いったい?」
「うふふ・・・先ほど自己紹介は済ませたはずですが。破妖月子。宮内省で退魔師を勤めております」
すごく魅力的な微笑みを目の前の女性は見せる。
思わず雛華も笑みを浮かべてしまった。
「退魔師・・・ですか」
聞いたことの無い職業をつぶやいてみる。
「ええ、退魔師です」
「わ、私は白鳳女学院で教師を勤めております白鳳雛華と申します」
雛華はぺこりと頭を下げた。
憑き物が落ちたような爽快さは、やはり彼女が何かしてくれたのだろう。
「私は・・・どうなっていたのですか?」
恐る恐る訊いてみる。
「あなたは魔に落ちようとしていたのです」
「魔に?」
ゆっくりとうなずく長い黒髪を束ねた女性。
「ええ。あなたは魔物に魅入られ、その体内に魔を植えつけられたのですわ。そのままにしていれば、やがて身も心も魔に侵され、魔物となっていたでしょう」
「魔物に?」
思わず口元に手を当ててしまう雛華。
「そうです。吸血鬼と化し、夜歩き回る魔物となるのです」
「ああ・・・そ、そんな・・・」
信じられないことだったが、雛華にはそれが事実とわかっていた。
そうでもなければ夕べからの躰の疼きが説明できない。
「落ち着いてください。今はあなたの魔は祓いました。もう大丈夫です」
「っはあ・・・」
胸をなでおろす雛華。

「あなたが魔に取り憑かれたのはどうしてか覚えているかしら?」
月子は半ば期待せずにそう訊いた。
おそらくはこの女性はどうして魔に取り憑かれたのかを覚えてはいないだろう。
そう思っていたので、彼女の次の言葉には驚いたのだった。
「おそらく・・・特高の刑事のせい・・・」
「特高の刑事?」
気が付いた時には思わず聞き返していた。
「はい。特高の三倉警部補。彼と会ってから私は・・・」
目をそらす雛華。
「三倉警部補? その警部補があなたに魔を植えつけたというの?」
「おそらくは・・・彼に無理やり口付けを・・・あっ」
赤くなり口元を押さえる雛華。
「なるほど・・・おそらくは間違いないわね。その時に植えつけられた可能性が高いわ。その三倉って警部補を探さなければ・・・」
月子はそう言って恥ずかしそうにしてうつむいている雛華の肩に手を置いた。
「恥ずかしいことをお聞きしてすみません。今日はもうお帰りなさい。魔物に付け狙われないようにね」
「あ、の・・・」
雛華が顔を上げる。
「何か?」
「私・・・私・・・これからその三倉に会うつもりでした」
「三倉警部補に?」
月子は驚いた。
魔を植えつけたあとに会うつもりだったとは。
「はい・・・その・・・その・・・ふしだらなこととは思いますが・・・私・・・彼に抱いて・・・欲しくて・・・」
再び顔をそむけ真っ赤になる雛華。
「ごめんなさい。もういいですから。恥ずかしいことを話させてごめんなさい」
月子がそっと彼女を抱きしめる。
年上であろうメガネをかけた女性教師の肩は震え、月子にとっては幼子を抱きしめているような気持ちになっていた。
「白鳳さん。どこで会うのか教えてくれませんか? その警部補に私は会ってこなければ・・・」
「ご案内します」
「いいえ、その必要は無いわ。あなたはこれ以上魔に近づく必要は無いの。これは私の仕事だから」
月子はキッパリと首を振る。
「・・・・・・銀座のカフェー『フジ』です」
「ありがとう。あなたに魔を植え付けた奴は私が必ず」
月子は雛華に力強くうなずいて見せた。
  1. 2006/11/29(水) 22:09:06|
  2. 帝都奇譚
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舞方雅人

Author:舞方雅人
(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
どうぞ楽しんでいって下さいませ。

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