ローネフェルトとともに歩んできたガンダムSSですが、一応これにて最終回です。
これまで応援していただき、本当にありがとうございました。
周囲ではすでに星々の光がきらめきを取り戻しつつあった。
それはとりもなおさず、戦闘が終息に向かっていることの証。
星々を隠していた爆発の光が無くなってきたということ。
でも、まだ戦いは終わってはいない。
目の前の黄色いジム。
ビームサーベルの赤い輝きがまぶしい。
妙な感じね。
まるで一騎打ち。
もうそんな必要はどこにも無いのでしょうけど。
『お姉さま、下がってください! こいつは私が!』
アヤメの声がヘッドフォンに入ってくる。
『お姉さま、ブリュメルが待っています。ここは私たちに任せてください!』
パットの声も入ってくる。
何を言っているの!
あなたたちこそ速くここから離脱しなさい。
「ミナヅキ少尉。ノイマン准尉を連れてここから離脱し、ブリュメルに帰投しなさい! これは命令です!」
『お、お姉さま・・・』
『い、いやです。お姉さま』
「命令だといったでしょ! 下がりなさい!」
まったく・・・この娘たちは。
私は思わず苦笑する。
戦いはこの一戦で終わりではないのよ。
ここで死んだら、誰がジオン本国を守るの?
「これは命令よ! 従いなさい!」
私は再度怒鳴りつけ、15の体勢を整える。
先ほどから敵もこちらの様子を窺っているようだ。
面白いものね。
力が伯仲するというのはこういうことなのかしら。
動いたほうが負ける・・・
そんな感じがして、うかつに飛び込めないのだ。
ヘルメットの中を汗が伝う。
手袋の中も汗が滲む。
私は一気に勝負をかけるべく飛び出した。
来たっ!
俺はとっさに引き金を引いてしまう。
戦場での無意識の反応だ。
さっきは射撃させなかったのに・・・
おとなしく降伏してくれればよかったんだが・・・
俺の射撃と同時にアナスタシアとミスティも射撃を開始する。
まるでスタートの号砲でもあったかのように全てが動き始めた。
「ちきしょう! まだやる気なのかよ!」
俺は怒鳴りつけていた。
ボールの射撃は正確すぎた。
砲身がピッタリこちらを向いていたのだ。
動き出せば当たるはずが無い。
私が飛び出すと同時にアヤメとパットも飛び出て行く。
まったく・・・
後退しなさいって言ったのに・・・
黄色のジムは一瞬躊躇したよう。
これなら!
私はビームサーベルをフェンシングのように突き出した。
「クッ」
これでも胴を貫けないのか?
私のビームサーベルはぐんと沈み込む黄色いジムの頭部を貫く。
それと同時に黄色いジムのサーベルは私の15の右足を刎ね飛ばしていた。
「ちきしょう! この期におよんで!」
俺は向かってくる二機のリックドム目掛けて砲撃を行なう。
『やだー』
ミスティのボールが狙われている。
「ミスティ、下がれ!」
ちくしょう・・・
なぜあの時俺は撃たせなかった!
ちくしょう!
俺は必死になってトリガーを引く。
『いやー!』
「ミスティ!」
俺はただ叫ぶだけだった。
「右足が・・・」
バランスが崩れたたらを踏むようにつんのめる。
すれ違いざまの一撃はお互いにダメージを与えたが、双方ともまだ戦闘は可能。
私はすぐさま振り返って、次の攻撃に備える。
『キャー!』
えっ?
パットの声?
「パット!」
私はモノアイを操作する。
「あれは・・・」
見るとパットの09Rがボールの一機と接触したような感じだった。
よかった・・・
あれなら・・・
「パット! 姿勢を直して軌道を変えなさい!」
私は叫んだ。
あのまま漂流しては軌道予測が容易になる。
それは死を意味するのだ。
「パット、早く!」
パットの09Rにアヤメが向かう。
アヤメ、お願い。
パットを助けて・・・
「一体何が?」
俺は一瞬何が起こったのかわからなかった。
ミスティの放った最後の一弾が、リックドムのヒートサーベルを弾き飛ばしたのだ。
そのためバランスを崩したリックドムの腕がミスティのボールの主砲に激突。
ミスティのボールは主砲を折り取られ、リックドムは妙なロールをしながら流れていったのだ。
「よかった・・・助かった・・・」
俺は安堵した。
『・・・全・・・告ぐ・・・』
聞き取りづらい通信が何か喚いている。
『・・・全軍の・・・兵・・・停止・・・・・・』
全周波通信だと?
その時、緑色の発光信号が戦場上空に打ち上げられた。
その時私の注意はパットに向けられていた。
パットの援護にアヤメが入ってくれた時、私はあらためて敵に向いた。
だが、それはすでに遅かった。
私の15はいきなりビームサーベルごと右腕を切り落とされたのだ。
「しまった~!」
私は急速に機体を後退させ、黄色いジムと距離をとる。
だが、敵はまっすぐにこちらへ来る。
だめだ・・・
逃げられない・・・
右腕右足を失ったのがバランスの悪さをもたらしている。
脚部バーニアが意味を成していないのだ。
やられる・・・
私はジムのビームサーベルが貫いてくるのを覚悟した。
「戦闘停止? どういうことだ?」
俺は母艦であるモンテビデオに確認を入れる。
『ア・バオア・クーより降伏の信号が入りました。さらにジオン国内で政変があったようです』
「ア・バオア・クーが降伏?」
そうか・・・
終わったのか・・・
よかった・・・
『はい。すでに一部の艦艇は陸戦隊とともにア・バオア・クーに入港中。両軍に即時戦闘停止命令が下りました。以後、自衛戦闘のみが許されます』
モンテビデオの可愛い女性通信士が状況を説明してくれる。
周囲の戦闘は急速に終結しつつあるようだった。
「了解した。わが小隊は一機が大破。収容を急ぎたい」
『了解です。すぐに艦長にお伝えいたします』
「頼む」
俺は通信を小隊内に切り替える。
「ミスティ、アナスタシア、戦闘は終了だ。自衛戦闘以外はするな。それにミスティ」
『はい』
「モンテビデオが来てくれる。後退しろ」
『了解。後退します』
青い顔をしたミスティがモニターの中で震えていた。
急速に遠ざかる黄色のジム。
どういうこと?
『マリー、マリー、生きていたら返事をして!』
ブリュメルが呼んでいる。
「こちらローネフェルト。何が起こったの?」
私は回路をつないで通信を確保する。
『マリー、よかった。大変なことが起こったわ。戦争終結よ』
戦争終結?
戦闘終結ではなく?
『ギレン総帥もキシリア閣下も戦死なさったわ。ザビ家は失脚してダルシア首相が連邦と和平を結んだのよ』
連邦と和平?
ダルシア首相って・・・あの傀儡首相が?
戦争終結?
敵の謀略じゃないの?
「リーザ・・・それって本当なの?」
『秘匿回線で回ってきた情報よ。間違いないわ。ア・バオア・クーは降伏。グラナダでは和平条約が調印されたそうよ』
本当なんだ・・・
本当に戦争が終わったんだ・・・
「ふふ・・・あは・・・あははははは」
私は笑い出してしまった。
*******
やれやれ・・・
俺はタバコを取り出して火をつける。
よく生き残ったものだよ。
俺は苦笑する。
ボール隊の帰還率は50%を割っている。
そんな中で良くも・・・
煙を吐き出した俺の横顔をソフィアの青い目が眺めていた。
「何を考えていたの?」
「ん? よく生き残ったなってさ」
「あ、それは私もそう思うわ。よくも生き残ったものよね」
毛布の下の裸のソフィアがにこっと微笑む。
この顔を見られただけでも生き残った甲斐があるというものだ。
「あの時グレートデギンが投降してきたというんで、私たちは周辺の警戒に出撃したの。私は艦隊の外縁の警備だったわ」
ソフィアの手が俺の胸を撫でる。
俺は右手をソフィアの下にまわして、そっと抱き寄せた。
「そうだったのか・・・それで助かったのか・・・」
「ええ、そう」
俺の胸に顔をうずめてくるソフィア。
俺は苦笑する。
どうやらこいつとはもう離れられそうに無いな・・・
サイド3。
16バンチコロニー。
私は帰ってきた。
私は思い切り故郷の空気を胸に吸い込む。
この香り。
調節された空気だけど、やはり懐かしいことこの上ない。
軍艦ではなく、民間船を乗り継いでグラナダからここまで来たのだ。
ブリュメル以下各艦艇とモビルスーツは、ダルシア首相の下ジオン共和国軍としての保持を認められた分以外は連邦に引き渡される。
私はグラナダでブリュメルを降り、早々に除隊の手続きをとっていた。
もう戦争がなくなったのなら軍にいる理由も無い。
リーザは私に思い直して欲しかったようだけど、私は首を振った。
遅くなったけど、これからは操縦桿じゃなくパン生地を手にしようと思う。
父と母は元気だろうか。
私はレンタカーを借りて、ベイから市街へ向かっていった。
計画されて区画ごとにきちんと建物が並んでいるジオンの都市。
地球上の都市のように無様な姿を晒してはいない。
その街角の一角にそのお店があった。
小さな小さなパン屋さん。
以前はこんなお店でパン屋として過ごすなんて気が滅入ると思っていた。
でも、今は違う。
こんな小さなお店だけど、美味しいパンを作って行きたい。
もう遅いかもしれないけど、父と母にしごいてもらってパン職人になりたい。
私は店の脇にレンタカーを止めると、トランクからバッグを取り出して肩に担ぐ。
カラフルな看板が彩っている店の入り口を入る。
「いらっしゃいませ!」
店の奥からエプロン姿の母が出てくる。
「えっ?」
「ただいま、お母さん」
私はそういった。
「お帰り、マリー・・・」
そう言って母の言葉が詰まる。
ただ、黙って私のところに来て抱きしめてくれた。
「マリー、マリーなのか?」
奥から父も現れる。
二人とも年をとったような感じだわ。
一年ちょっとしか離れていないのにね・・・
「ただいま、お父さん」
「マリー・・・」
父は母ごと私を抱きしめる。
苦しい・・・
「よかった・・・何にしてもよかった。さあ、入りなさい」
父が放してくれる。
「あ、その前にお父さんとお母さんにお願いがあるんだけど・・・」
私はそう切り出す。
「ん? なんだい?」
私を放してくれた両親を前にして、私は店の入り口を振り返る。
「お入りなさい、アヤメ」
私はおずおずと入ってきたアヤメを両親に紹介し、お店の手伝いをしてもらうつもりであることを告げた。
- 2006/09/26(火) 22:50:55|
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