またしても気の迷いが起きてしまいました。(笑)
装甲騎兵ボトムズの二次創作ネタです。
時々書いていこうと思いますので、お付き合いのほどを。
1、
「ハア・・・ハア・・・」
息が荒くなる。
手袋の中がじっとりと汗で湿る。
ふん・・・パープルベアか・・・
動きが早いだけの出来損ない。
軽くて動かしやすいから人気は高いけど、紙切れのような装甲は犬より劣る。
私はスコープの調節をして視界を広く取る。
動きの速さで来る相手には視界が広いに越したことは無い。
ターレットを回して確認する。
動きに問題は無い。
もちろん自分で確認はしたが、整備不良はたまらない。
『アルティア、わかっているな?』
チッ・・・
わかっているわよ。
ヘッドセットに入ってくるサゴンの声が私を苛立たせる。
だけどマッチメーカーには逆らえない。
癪だけど最初の数分は相手に花を持たせてあげるわ。
私はゆっくりとフィールドに歩みでた。
ギルガメスとバララントの休戦から数ヶ月。
ここク・ローウンの町でもあぶれ者はたくさんいる。
私と同様に腕を見込まれたのやそうでないのや・・・
AT同士のバトリングで日々明け暮れるというわけだ。
周囲を観客席に囲まれたフィールド。
ここで私は戦いをやる。
武器も何も無い裸のAT同士が戦うのだ。
今日の相手はボテイグ。
バララントの太っちょを三台も撃破したと大法螺吹いている奴だ。
あいつの腕で倒せるATなど、この世のどこにもありはしない。
せいぜい八百長で四・五回勝つのがやっとのこと。
私は無造作に進み出て、相手を誘う。
紫色のパープルベア。
カメラターレットを取り外し、ステレオカメラに取り替えているタイプだ。
遠近感が取りやすいのと、軽くて速いのがとりえなので、バトリングでは人気がある。
もっとも、装甲が薄いから実戦向きではないとも言えるが。
相手は黙って動かない。
まったく・・・
動かなきゃ速さもクソも無いだろうに・・・
「仕方ない」
対処しやすいようにこちらから動いてやるか。
私はローラーダッシュで一直線にパープルベアに向かっていった。
「ほらほら、まっすぐ向かって行ってやるんだ。どうにかしたらどう?」
私は腰を落として突っ込んで行く。
パープルベアはようやく私の突込みを回避するべく動き出す。
ボテイグ!
このボケがぁ!
回り込むぐらい考えろ!
私は思わず毒づいた。
ボテイグのパープルベアはあろうことかローラーダッシュで向かってきたのだ。
客の歓声がひときわ高くなる。
そりゃそうだろう。
正面切っての殴りあいだ。
客にすれば面白いはず。
仕方ない。
一撃はくれてやる。
ターレットは勘弁して欲しいけどね。
急速に接近するパープルベア。
私のスコープドッグと同じように低い姿勢だ。
狙うことは同じだろう。
ターレットを潰しに来るはず。
いやだなぁ。
ハッチ開けて戦いたくないのよね。
私は一番装甲の厚い胸部にパンチを当てさせるべく、一瞬動きを止めてやる。
これで私が一撃を食らえばボテイグの掛け率は跳ね上がり、サゴンの懐が潤うというわけだ。
パープルベアは予想通りアームパンチを繰り出してくる。
がくんと走る衝撃。
スーツのおかげでかなりの衝撃は吸収されるが、それでもショックは大きいのよね。
目の前が一瞬にして暗くなる。
あっ?
バカァッ!
私のスコープドッグはものの見事にターレットスコープを潰されてしまった。
ボテイグの野郎は腰が引けたのだ。
一撃必中のタイミングまで待たずに、遠くからパンチを繰り出した。
そのために胸部じゃなくてターレットに食らってしまった。
カス野郎!
花を持たせるのも一苦労だわ。
八百長無しでは一勝もできないわね。
私は数歩下がって体勢を整える。
ターレット部分のハッチを開けてスコープをはずす。
私の顔が晒される。
観客の歓声が高くなる。
やれやれ・・・
私が女だってのは知っているでしょうに。
パープルベアは嵩にかかったように走りこんでくる。
私はローラーダッシュでパープルベアの右側に回り込むように走った。
何の遮蔽物も無いフィールドは身を隠すなんてできはしない。
距離をとるか近づくか。
ヒットアンドアウェイを得意とするパープルベアなら、走り回ってかく乱してくるに違いない。
普通のパイロットならば・・・ね。
パープルベアは走りこむのをやめてローラーダッシュに切り替える。
こちらの回り込みを制するつもりだ。
私は客席の方を見る。
サゴンが手を上げているのが見えた。
どうやらボテイグへの掛け金がたまったらしい。
私は思わず苦笑すると、ターンピックを打ち込んだ。
急ターンする私のスコープドッグ。
パープルベアは私が大回りをすると踏んでいたのだろう。
いきなりの回転に驚いたようだが、それでもそのままローラーダッシュで突っ込んでくる。
私は腰を落とすと、そのままの姿勢で待ち構える。
パープルベアが加速のエネルギーをそのまま持ち込むなら、こちらはそれを逆手にとってやる。
向こうの狙いはバイザーを上げてむき出しになっている私の顔面。
腰を落として待ち構えた私をほくそえんでいるだろう。
そのまま腕を伸ばしてアームパンチを繰り出せば、ミンチになる運命が待っているのだから。
でもね。
そうは行かないのよ。
私はすごい勢いで迫ってきたパープルベアのすぐ前でしゃがみこむ。
パープルベアのアームパンチは、直前まで私の顔があった位置を綺麗に通過して薬莢を打ち出した。
当然どこにも当たらなかったアームパンチの勢いは、パープルベアそのものをも引き摺って行く。
私はそのままATの頭をパープルベアの下腹部に潜らせて跳ね上げる。
パープルベアの脚が浮き上がって、そのまま宙を飛んで行く。
立ち上がって振り返ったときには、パープルベアは地面にうつぶせに倒れていた。
私はすぐに近寄ると、背後からアームパンチを腰に叩き込む。
バキンと言う派手な音がして、腕の横から薬莢が排出される。
パープルベアは腰のあたりを強打され、身動きが取れなくなる。
あっけないものだけどこれでお終い。
潰れたパープルベアからボテイグが出てきて、真っ赤になって怒鳴っている。
ハッ・・・
お決まりのセリフね・・・
女のくせにとか、女が生意気だ、とか。
女がATに乗ってバトリングをしてはいけないの?
大体あなたの腕じゃ男とか女とか言う以前でしょ。
私は観客の歓声と怒号が飛び交う中、フィールドを後にした。
「よう、アルティア。どうやらまだ生きていたようだな」
控え室に引き上げた私をバトリングのパイロットたちが出迎える。
いずれも一癖も二癖もありそうな連中だ。
中には気のいい奴もいるが、えてして長持ちはしなかったりする。
「生きているわ。悪い?」
私はロッカーからタオルを取り出して汗を拭う。
周囲の目は暖かくは無い。
女であることを意識させるような好色な目か、自分のライバルであることを考えたく無い無関心な目かだ。
「悪かねえさ。おめえのような別嬪が死んじまっちゃ楽しみが減るからな」
なれなれしく肩を抱いてくるロイリー。
悪い奴じゃないんだけどね。
私は無言で手を払いのけ、スポーツドリンクに手を伸ばす。
「つれないなぁ。まあ、アイスブルーらしいがな」
手をひらひら振りながら下がって行くロイリー。
「ほっとけよロイリー。アイスブルーは俺たちになど興味は無いってさ」
「それもそうだ。アルティアは野郎には興味ないからな」
失礼な。
興味を引く相手がいないだけでしょ。
私はスポーツドリンクでのどを潤した。
「よーうアルティア。さっきのはよかったぞー!」
小男のサゴンが控え室に入ってくる。
右手で紙幣を握り締め、ご満悦のようだ。
「よう、サゴン。ずいぶん儲けたようじゃないか?」
「女の扱いが相変わらずうまいねぇ」
「ボテイグが怒っていたぜ。話が違うってな」
あちこちから冷やかしが入る。
「うるせー! 余計なお世話だ。こちとらだって商売だからな。諸々ひっくるめりゃぎりぎりだよ」
そう言いながらも顔はにやけている。
「アルティア。よくやった。ファイトマネーだ。受け取れ」
封筒に入って手渡される現金。
私は受け取って確認する。
バカな!
「ちょっとサゴン! これは一体どういうこと? 約束の半分も無いじゃない!」
私は思わずテーブルを叩きつける。
空になった酒瓶がゴロゴロと倒れた。
「おーっとっと、仕方ねえんだよ。ATの修理費だってバカにはならんし。お前、よりにもよってターレットを壊されるとはな」
ニヤニヤと笑っているサゴン。
こいつは・・・
「ボテイグにだっていくらかは払わんとならんだろが。相手がいなくなってもいいのか?」
クッ・・・
いつもそうだ。
この町のバトリングは馴れ合いだ。
適当に勝って適当に負ける。
客の目を楽しませてこっちは儲ける。
わかっていたはずなのに・・・
「心配するなよアイスブルー。お前さんの顔ならこれからいくらでも稼げるさ。お前を倒してお楽しみにありつきたいって奴が山のようにいるんだからな」
「ちげえねえ。あははははは」
笑い声が控え室に響く。
「ふん、言ってろ」
私は封筒をわしづかみにすると、部屋を飛び出した。
- 2006/09/30(土) 22:12:18|
- ボトムズSS
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先ほど四十万ヒットを達成いたしました。
四十万・・・すごいですよ。
本当に皆様のおかげです。
ありがとうございました。
四十万ヒットの記念作品というのは今のところ考えておりませんが、とりあえず「グァスの嵐」第十四回目です。
これでようやくミュー拾い上げが終了です。
長かったなぁ。
14、
「とにかく急ごう。マスターが心配だ」
エミリオとゴルドアンは、急ぎファヌーを走らせる。
おそらく間に合わないだろう。
この距離からでも赤々と燃えている船の炎が見えるのだ。
多分、到着までには船は沈む。
でも・・・
でももしかしたら・・・
そう願わずにはいられない。
あんな可愛い娘を悲しませたくない。
ただそれだけだが、かなうものなら願いをかなえてあげたいのだ。
気になるのは燃え盛る船のそばから動こうとしない軍のギャレー。
あの船を追ってきたということは、もしかしたら何か密輸をしていたのかもしれない。
だとしたら・・・どうする?
エミリオは考える。
「ああ・・・」
フィオレンティーナが口元に手を当てる。
「だめか・・・」
ゴルドアンも思わず目をそらす。
燃え盛る船から、一塊の大きな物体が、火だるまになりながら転落していったのだ。
おそらくは、自ら船を飛び降りた人間に間違いないだろう。
「マ、マスターーーーーー!」
ミューの叫びがあたりに響いた。
「ああ・・・」
最後の力を振り絞った老人が舷側を乗り越える。
副長を初めとするギャレーの乗員はただなすすべもなく見守っているしかできなかった。
鍵をはずされた自航船はじょじょに浮力を失って行く。
そんな中で老人は、確実な死を選んだのだ。
炎の塊となりながら、老人ははるか下方の密雲に飲み込まれる。
もはやあの老人を救うすべは無い。
終わったのだ。
何もかも。
「副長」
呼びかけられた副長はどきっとする。
今の提督には関わりたく無いが、呼びかけられたら無視はできない。
「何でしょう、提督」
「引き上げだ。帰還するぞ」
意気消沈した提督の姿に何となく哀れを感じる。
だが、副長のその思いはすぐに否定されることになる。
「そうだ、副長・・・確かまだ女のガキがいたな」
「は?」
「ほら、海に放り出された少女だよ。今頃は心細くて震えているのではないかな?」
よく言う・・・あなたが見捨てたのではないか。
副長は苦笑する。
「助けに行かねばならんな。何か知っているかも知れんしな」
そっちが重要なのだろうな。
「わかりました。反転だ。配置に付け!」
「ハハッ」
水兵たちが配置に飛びついて行く。
「後方より小型船が近づいてきます」
「何?」
水兵の報告に後方を見やる副長。
確かに一本マストの小型船が近づいてくる。
「副長、臨検しろ。もしかしたらガキを拾い上げているかも知れん」
「わかりました」
提督の言葉に副長ははっきりとうなずいた。
「ギャレーがこっちを向いたな・・・」
ゴルドアンが厳しい表情をする。
おそらくエミリオと同じことを考えているのだろう。
「フィオ、泣いている暇は無いぞ。どれでもいい、空いた樽を見つけてミューを中に隠すんだ」
ゴルドアンの言葉にえっという表情を浮かべるフィオレンティーナ。
一瞬彼女はエミリオの方を向くが、彼がうなずくのを見て彼女もまたうなずいた。
「ミュー、こっちに来て!」
「えっ? はい」
ミューは少し考え込むような感じを見せたが、すぐにフィオレンティーナに従った。
フィオレンティーナはファヌーの中央へ行き、少し考えた挙句に空になった飲料水の樽にミューを入れようとする。
「これがいいわ」
樽の蓋を開けるフィオレンティーナ。
飲料水用の樽も荷物用の樽と同じでその大きさは結構ある。
本来は空になった樽は、タガをはずして分解しておくものだが、いちいち分解するのも面倒だったので、エミリオはそのままにしておいたのだ。
それが役に立つとは。
フィオレンティーナがミューの躰を抱きかかえようとしたが、ミューは自分で隣の樽に登ってそこから入り込む。
ミューの小柄な躰が幸いし、何とか身をかがめて入れたようだ。
「ちょっと狭いです」
「いいからおとなしくして」
フィオレンティーナが上からふたを閉めてしまう。
「静かにしているんだぞ」
ゴルドアンもぴしゃりと言い放つ。
「わかりました」
ミューのくぐもった声が樽の中から聞こえてきた。
日光を避けるためのシートをかけ、他の樽と並べておく。
これでちょっと目にはわからないだろう。
一連の動作が終わった頃には、ギャレーが近づいてくるのがはっきりとわかるようになっていた。
「来たな・・・」
「やっぱりあの娘を狙ってきたんだろうか・・・」
「さあな・・・」
ゴルドアンが首を振る。
「あの娘・・・どうするんだ? 引き渡すつもりは・・・無いんだろ?」
「わからない・・・でも、軍に引き渡してもあの娘が幸せになるとは思えないよ」
「まあ、そりゃそうだが・・・困ったことにならなきゃいいがな」
苦笑するゴルドアン。
「おーい! そこのファヌー! 停船せよ! こちらはリューバ海軍である! 停船せよ!」
士官が声をかける。
ほんとに小さな小型船だ。
沿岸航行ぐらいが関の山だろう。
それでも荷をいっぱいに積んでいるのか、結構沈み込んでいる。
そのため少し上から声をかけるような体勢になっているのだ。
相手のファヌーは了解の印に手を振っている。
驚いたことにバグリー人がいる。
器用に四本の腕で帆を操っているのだ。
このあたりにはあまり見かけない種族であるので、水兵たちがものめずらしそうに覗き込む。
「船火事はどうなったんですか? 煙が見えたので助けが必要かと思ったんですが」
ファヌーの後部で舵柄を握っている青年が声をかけてくる。
「沈んだよ。燃え落ちた」
「沈んだんですか? なんてこった・・・」
青年の顔が曇る。
「おい、しゃべっている暇は無いぞ!」
そう言って舷側に顔を出す副長。
「おい、今から臨検する。いいな!」
「ええっ?」
驚く青年。
それはそうだろう。
救援にはせ参じたと思ったら臨検とは。
水兵の一人は苦笑した。
「やはり臨検か・・・」
「フィオも隠していたほうがよかったな・・・」
エミリオは急に心配になった。
まさかと思うが、ここは海の上だ。
何があっても誰も文句は言えない。
だが、いまさら逃げ出せもしないし、逃げても追いつかれるだけだ。
無事に済むのを祈るしかない。
「ようし、そっちへ移るからな」
そう声がかかり、数人の水兵によって鍵がかけられる。
こちらのほうが若干沈み込んでいるのだが、鍵をかけて引き寄せることで、オールを立てれば舷側に接舷することができる。
すぐに数人の兵士たちが乗り込んできた。
「あの女は?」
エスキベル提督が顎をしゃくる。
「乗組員の一人だそうです。あの少女とは違います」
フィオレンティーナのことを副長が説明する。
「あのガキは乗っておらんのか?」
「はい、どうやら拾い上げなかったようです。見てもいないとか」
「本当か? 隠しているのではないか?」
チッと舌打ちする提督。
すでにガキも沈んだのか・・・
「提督、中身は小麦です」
いくつかの樽を開けた水兵が中身を手にとって見せている。
「ふん」
そっけなく返事して、提督はエミリオをにらみつける。
「貴様が船長だと?」
「そうです」
「ふん、若造が・・・で、本当にガキは拾い上げなかったんだな?」
「ガキなんて拾いませんよ。船火事のようだったから急いで来たんですから」
エミリオもキッと提督を見据える。
「若造、名前は?」
「エミリオ・オルランディ」
「オルランディか・・・覚えておくぞ。おい、引き上げさせろ」
エスキベル提督が手を振って水兵たちを呼び戻す。
「ハッ、おい、引き上げろ!」
「ハハッ」
樽を蹴飛ばしたり、中身をぶちまけたりしていた水兵たちが上手にロープを伝ってギャレーに戻って行く。
「戻り次第出発だ。周囲をもう一度捜索するぞ」
「ハッ」
苦虫を噛み潰したような提督に敬礼し、副長はうんざりする思いだった。
- 2006/09/29(金) 21:57:38|
- グァスの嵐
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先日は綾波レイのネーミングの由来である駆逐艦綾波を紹介しましたので、今日は惣流・アスカ・ラングレーのネーミングの由来の片割れ、米空母ラングレーです。
給炭艦ジュピターとして活動中だったこの艦は、イギリス海軍が完成させた平甲板型航空母艦アーガスにならって航空母艦に改造されました。
航空母艦への改造完成は1922年。
日本海軍の空母鳳翔より一足先でした。
一般的な空母と違って、甲板は真平らで艦橋はありません。
速力も最大で15ノットほどであり、艦隊行動ができる空母ではありませんでした。
しかし、米海軍初の航空母艦として、艦載機の発着艦訓練や甲板設備の試験などに運用され、その結果、米海軍はすぐに艦隊型の大型空母レキシントン及びサラトガを完成させることになります。
米海軍に果たしたラングレーの功績は非常に大きいものといえるでしょう。
今に至る米海軍航空母艦はここから始まったのです。
役目を果たしたラングレーは1936年には空母から水上機母艦に再度改装されます。
飛行甲板の前部を切り取り、水上機揚収用のデリックを装備。
水上偵察機を搭載して艦隊の偵察活動に従事します。
太平洋戦争にはその状態で参加し、1942年2月、日本軍機の攻撃でジャワ沖に沈没。
その生涯を閉じました。
くしくもアスカのもう片方の名前の由来である、空母蒼龍も1942年6月のミッドウェー海戦で沈没。
日米二カ国の空母の名前が元となったキャラクターでした。
それではまた。
- 2006/09/28(木) 21:46:07|
- 趣味
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日本ハム勝ちましたー。
レギュラーシーズン一位確定。
よかったー。
これでプレーオフもセカンドステージのみですし、しかもすでに一勝したことになると言う大きなアドバンテージをもらいました。
プレーオフには今でも私は問題があるのではないかと考えていますが、今年はそういうルールであるのですから、プレーオフを勝ち抜かなくてはなりません。
しかし、去年までよりは格段に一位通過チームが有利になるように設定されていますから、日本ハムとしてはそのままの勢いで通過して欲しいですよねー。
これで相手が阪神なら言うこと無いんですが・・・
中日も負けないしなぁ。
とりあえず日本ハムの選手の皆さんおめでとうございます。
それにお疲れ様でした。
ゆっくりと疲れを取って、プレーオフに備えて下さいませ。
12球団あるんですから、4球団ずつの3リーグに分け、それぞれの一位球団と全ての二位球団から勝ち抜いた一球団の4チームで日本シリーズというのはどうなんでしょうね。
それではまた。
- 2006/09/27(水) 21:14:42|
- スポーツ
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ローネフェルトとともに歩んできたガンダムSSですが、一応これにて最終回です。
これまで応援していただき、本当にありがとうございました。
周囲ではすでに星々の光がきらめきを取り戻しつつあった。
それはとりもなおさず、戦闘が終息に向かっていることの証。
星々を隠していた爆発の光が無くなってきたということ。
でも、まだ戦いは終わってはいない。
目の前の黄色いジム。
ビームサーベルの赤い輝きがまぶしい。
妙な感じね。
まるで一騎打ち。
もうそんな必要はどこにも無いのでしょうけど。
『お姉さま、下がってください! こいつは私が!』
アヤメの声がヘッドフォンに入ってくる。
『お姉さま、ブリュメルが待っています。ここは私たちに任せてください!』
パットの声も入ってくる。
何を言っているの!
あなたたちこそ速くここから離脱しなさい。
「ミナヅキ少尉。ノイマン准尉を連れてここから離脱し、ブリュメルに帰投しなさい! これは命令です!」
『お、お姉さま・・・』
『い、いやです。お姉さま』
「命令だといったでしょ! 下がりなさい!」
まったく・・・この娘たちは。
私は思わず苦笑する。
戦いはこの一戦で終わりではないのよ。
ここで死んだら、誰がジオン本国を守るの?
「これは命令よ! 従いなさい!」
私は再度怒鳴りつけ、15の体勢を整える。
先ほどから敵もこちらの様子を窺っているようだ。
面白いものね。
力が伯仲するというのはこういうことなのかしら。
動いたほうが負ける・・・
そんな感じがして、うかつに飛び込めないのだ。
ヘルメットの中を汗が伝う。
手袋の中も汗が滲む。
私は一気に勝負をかけるべく飛び出した。
来たっ!
俺はとっさに引き金を引いてしまう。
戦場での無意識の反応だ。
さっきは射撃させなかったのに・・・
おとなしく降伏してくれればよかったんだが・・・
俺の射撃と同時にアナスタシアとミスティも射撃を開始する。
まるでスタートの号砲でもあったかのように全てが動き始めた。
「ちきしょう! まだやる気なのかよ!」
俺は怒鳴りつけていた。
ボールの射撃は正確すぎた。
砲身がピッタリこちらを向いていたのだ。
動き出せば当たるはずが無い。
私が飛び出すと同時にアヤメとパットも飛び出て行く。
まったく・・・
後退しなさいって言ったのに・・・
黄色のジムは一瞬躊躇したよう。
これなら!
私はビームサーベルをフェンシングのように突き出した。
「クッ」
これでも胴を貫けないのか?
私のビームサーベルはぐんと沈み込む黄色いジムの頭部を貫く。
それと同時に黄色いジムのサーベルは私の15の右足を刎ね飛ばしていた。
「ちきしょう! この期におよんで!」
俺は向かってくる二機のリックドム目掛けて砲撃を行なう。
『やだー』
ミスティのボールが狙われている。
「ミスティ、下がれ!」
ちくしょう・・・
なぜあの時俺は撃たせなかった!
ちくしょう!
俺は必死になってトリガーを引く。
『いやー!』
「ミスティ!」
俺はただ叫ぶだけだった。
「右足が・・・」
バランスが崩れたたらを踏むようにつんのめる。
すれ違いざまの一撃はお互いにダメージを与えたが、双方ともまだ戦闘は可能。
私はすぐさま振り返って、次の攻撃に備える。
『キャー!』
えっ?
パットの声?
「パット!」
私はモノアイを操作する。
「あれは・・・」
見るとパットの09Rがボールの一機と接触したような感じだった。
よかった・・・
あれなら・・・
「パット! 姿勢を直して軌道を変えなさい!」
私は叫んだ。
あのまま漂流しては軌道予測が容易になる。
それは死を意味するのだ。
「パット、早く!」
パットの09Rにアヤメが向かう。
アヤメ、お願い。
パットを助けて・・・
「一体何が?」
俺は一瞬何が起こったのかわからなかった。
ミスティの放った最後の一弾が、リックドムのヒートサーベルを弾き飛ばしたのだ。
そのためバランスを崩したリックドムの腕がミスティのボールの主砲に激突。
ミスティのボールは主砲を折り取られ、リックドムは妙なロールをしながら流れていったのだ。
「よかった・・・助かった・・・」
俺は安堵した。
『・・・全・・・告ぐ・・・』
聞き取りづらい通信が何か喚いている。
『・・・全軍の・・・兵・・・停止・・・・・・』
全周波通信だと?
その時、緑色の発光信号が戦場上空に打ち上げられた。
その時私の注意はパットに向けられていた。
パットの援護にアヤメが入ってくれた時、私はあらためて敵に向いた。
だが、それはすでに遅かった。
私の15はいきなりビームサーベルごと右腕を切り落とされたのだ。
「しまった~!」
私は急速に機体を後退させ、黄色いジムと距離をとる。
だが、敵はまっすぐにこちらへ来る。
だめだ・・・
逃げられない・・・
右腕右足を失ったのがバランスの悪さをもたらしている。
脚部バーニアが意味を成していないのだ。
やられる・・・
私はジムのビームサーベルが貫いてくるのを覚悟した。
「戦闘停止? どういうことだ?」
俺は母艦であるモンテビデオに確認を入れる。
『ア・バオア・クーより降伏の信号が入りました。さらにジオン国内で政変があったようです』
「ア・バオア・クーが降伏?」
そうか・・・
終わったのか・・・
よかった・・・
『はい。すでに一部の艦艇は陸戦隊とともにア・バオア・クーに入港中。両軍に即時戦闘停止命令が下りました。以後、自衛戦闘のみが許されます』
モンテビデオの可愛い女性通信士が状況を説明してくれる。
周囲の戦闘は急速に終結しつつあるようだった。
「了解した。わが小隊は一機が大破。収容を急ぎたい」
『了解です。すぐに艦長にお伝えいたします』
「頼む」
俺は通信を小隊内に切り替える。
「ミスティ、アナスタシア、戦闘は終了だ。自衛戦闘以外はするな。それにミスティ」
『はい』
「モンテビデオが来てくれる。後退しろ」
『了解。後退します』
青い顔をしたミスティがモニターの中で震えていた。
急速に遠ざかる黄色のジム。
どういうこと?
『マリー、マリー、生きていたら返事をして!』
ブリュメルが呼んでいる。
「こちらローネフェルト。何が起こったの?」
私は回路をつないで通信を確保する。
『マリー、よかった。大変なことが起こったわ。戦争終結よ』
戦争終結?
戦闘終結ではなく?
『ギレン総帥もキシリア閣下も戦死なさったわ。ザビ家は失脚してダルシア首相が連邦と和平を結んだのよ』
連邦と和平?
ダルシア首相って・・・あの傀儡首相が?
戦争終結?
敵の謀略じゃないの?
「リーザ・・・それって本当なの?」
『秘匿回線で回ってきた情報よ。間違いないわ。ア・バオア・クーは降伏。グラナダでは和平条約が調印されたそうよ』
本当なんだ・・・
本当に戦争が終わったんだ・・・
「ふふ・・・あは・・・あははははは」
私は笑い出してしまった。
*******
やれやれ・・・
俺はタバコを取り出して火をつける。
よく生き残ったものだよ。
俺は苦笑する。
ボール隊の帰還率は50%を割っている。
そんな中で良くも・・・
煙を吐き出した俺の横顔をソフィアの青い目が眺めていた。
「何を考えていたの?」
「ん? よく生き残ったなってさ」
「あ、それは私もそう思うわ。よくも生き残ったものよね」
毛布の下の裸のソフィアがにこっと微笑む。
この顔を見られただけでも生き残った甲斐があるというものだ。
「あの時グレートデギンが投降してきたというんで、私たちは周辺の警戒に出撃したの。私は艦隊の外縁の警備だったわ」
ソフィアの手が俺の胸を撫でる。
俺は右手をソフィアの下にまわして、そっと抱き寄せた。
「そうだったのか・・・それで助かったのか・・・」
「ええ、そう」
俺の胸に顔をうずめてくるソフィア。
俺は苦笑する。
どうやらこいつとはもう離れられそうに無いな・・・
サイド3。
16バンチコロニー。
私は帰ってきた。
私は思い切り故郷の空気を胸に吸い込む。
この香り。
調節された空気だけど、やはり懐かしいことこの上ない。
軍艦ではなく、民間船を乗り継いでグラナダからここまで来たのだ。
ブリュメル以下各艦艇とモビルスーツは、ダルシア首相の下ジオン共和国軍としての保持を認められた分以外は連邦に引き渡される。
私はグラナダでブリュメルを降り、早々に除隊の手続きをとっていた。
もう戦争がなくなったのなら軍にいる理由も無い。
リーザは私に思い直して欲しかったようだけど、私は首を振った。
遅くなったけど、これからは操縦桿じゃなくパン生地を手にしようと思う。
父と母は元気だろうか。
私はレンタカーを借りて、ベイから市街へ向かっていった。
計画されて区画ごとにきちんと建物が並んでいるジオンの都市。
地球上の都市のように無様な姿を晒してはいない。
その街角の一角にそのお店があった。
小さな小さなパン屋さん。
以前はこんなお店でパン屋として過ごすなんて気が滅入ると思っていた。
でも、今は違う。
こんな小さなお店だけど、美味しいパンを作って行きたい。
もう遅いかもしれないけど、父と母にしごいてもらってパン職人になりたい。
私は店の脇にレンタカーを止めると、トランクからバッグを取り出して肩に担ぐ。
カラフルな看板が彩っている店の入り口を入る。
「いらっしゃいませ!」
店の奥からエプロン姿の母が出てくる。
「えっ?」
「ただいま、お母さん」
私はそういった。
「お帰り、マリー・・・」
そう言って母の言葉が詰まる。
ただ、黙って私のところに来て抱きしめてくれた。
「マリー、マリーなのか?」
奥から父も現れる。
二人とも年をとったような感じだわ。
一年ちょっとしか離れていないのにね・・・
「ただいま、お父さん」
「マリー・・・」
父は母ごと私を抱きしめる。
苦しい・・・
「よかった・・・何にしてもよかった。さあ、入りなさい」
父が放してくれる。
「あ、その前にお父さんとお母さんにお願いがあるんだけど・・・」
私はそう切り出す。
「ん? なんだい?」
私を放してくれた両親を前にして、私は店の入り口を振り返る。
「お入りなさい、アヤメ」
私はおずおずと入ってきたアヤメを両親に紹介し、お店の手伝いをしてもらうつもりであることを告げた。
- 2006/09/26(火) 22:50:55|
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今日はプロ野球のドラフト会議高校生編が行なわれましたね。
北海道の期待の星、駒沢苫小牧の田中投手がどこになるのか、また愛工大名電の堂上内野手がどこに行くのか、興味のあるドラフトでした。
結果はもう皆様ご存知だと思いますが、田中投手は楽天ゴールデンイーグルス。
堂上内野手はお父さんお兄さんと一緒に中日ドラゴンズが交渉権を獲得しました。
まあ、おそらく二人ともすんなりと入団ということになると思いますけど、頑張って欲しいものですねー。
田中投手の場合は、関西で生まれ、北海道の高校野球で育ち、東北でプロになると言う広範囲な人生ですね。
欲を言えば北海道日本ハムに取って欲しかったところですが、まあ、一昨年は東北のダルビッシュを北海道に連れてきましたからね。
北海道日本ハムは北照高校の植村投手を指名したようです。
将来性豊かな高校出身選手が活躍してくれることを願ってます。
今度は社会人&大学生編が待っていますね。
どんな方々が指名もしくは逆指名となるのか楽しみです。
それではまた。
- 2006/09/25(月) 21:34:29|
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巨人の桑田投手が球団のHP上で「巨人で投げるのは最後」と退団を示唆いたしましたね。
PL学園時代、甲子園とマスコミを沸かせたKKコンビの片割れとして、ことあるごとにいろいろな話題を振りまいてくれた桑田投手らしいといえばらしいかもしれません。
それにしてもいろいろとやってくれますね。
いきなり書き込まれた球団も驚いたようで、原監督にいたっては記者からの質問で知ったような状態だったようです。
一軍で使ってくれない球団に対し不満を持つのはわかりますが、やはり監督と話し合う機会なりは作れなかったのでしょうかね?
原監督は「順番が違う」と言っていたようで、私もそう思います。
桑田も清原も一時代を築いた功労者だとは思いますが、どうもわがままという感じのイメージが付きまとうような気がしますね。
来年、桑田がどこへ行くのか、行けるのかわかりませんが、楽天の野村監督が興味を示しているという話もありますから、パ・リーグでまたKK対決を見せてくれると面白いのではないでしょうか。
それではまた。
- 2006/09/24(日) 21:35:31|
- スポーツ
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今日はローネフェルトの話をお届けします。
ちょっとずつしか書けていないのが情けないですねー。
困ったものです。
「クッ」
私は思わず口にする。
黄色のジムはやはり通常では考えられない運動性を発揮して、私のビームサーベルをかわしたのだ。
「速い!」
私は15をぐんと沈み込ませて黄色のジムのビームサーベルをかわして行く。
狙いすませたようなビームサーベルの一撃が私の頭上を通り過ぎる。
やはり手強い。
そのままの位置にいたら片腕ぐらいは持って行かれたかもしれない。
だけど・・・
「冗談じゃない!」
やられてたまるか!
死んでたまるか!
私は死んでたまるものか!
私は一気にバーニアノズルを噴かして体当たりに近い状態に持って行く。
そしてそのままビームサーベルを繰り出すのだ。
相手が息を飲むのがわかる。
「イッケェー!」
私の掛け声とともにビームサーベルが繰り出され、黄色のジムの胴を貫く。
はずだった・・・
「ソフィア!」
思わず俺は叫んでしまう。
目の前で繰り広げられるモビルスーツ戦。
それはまるで剣の舞いを見ているかのようだ。
だが、その舞いは一つ間違えば命が無い。
今もソフィアのライトアーマーは一瞬の差で胴体を貫かれることを避けていた。
その差はわずかにコンマ何秒かといったところだろう。
俺も部下たちも、それにどうやらあの鎧型モビルスーツの部下たちと思われるリックドムも、思わず見入ってしまうような剣の舞い。
それはこの激戦の中に生まれた一瞬の空白。
「ミスティ、アナスタシア、油断するな!」
『はい!』
『了解です』
俺たちはいつでも撃てるようにリックドムに砲門を向けている。
向こうは幸いなことにバズーカは無い。
だが、いつでもヒートサーベルで切り込める位置を保っている。
それでもやはりあの鎧型モビルスーツが気になるのか、モノアイは左右を行き来して落ち着かない。
撃つべきなのか?
常識的に考えれば撃つべきだ・・・
だが、相手だってそうやすやすとは撃たしてくれない。
軌道だって常に微妙に変化させている。
こちらに向かうことも、あの鎧型を援護に行くこともできる位置だ。
慕われているな・・・
隊長としては望みえる最高のものかもしれない。
『中尉殿、撃たないんですか?』
かすれるような声でミスティが訊いてくる。
「まだ撃つな!」
なぜだろう・・・
俺は撃たせなかった。
周囲では激戦が続いている。
だけど・・・
ほぼ大勢は決まった。
ジオンはこのア・バオア・クーでも負けたのだ。
『マリー、マリー! 聞こえる? 聞こえたら返事をして!』
この忙しい時に・・・
私は入ってくる通信を無視し、目の前の敵に集中する。
この敵を倒さねば・・・
『グワデンが撤収するわ。デラーズ大佐が戦場を離脱するのよ! あなたはどうするの?』
どうするって言われても・・・
モニターの片隅で一団の艦船が深宇宙へ向かい離脱するのが見える。
モビルスーツも続々と向かっているようだ。
「あれは・・・」
私は思わず笑みを浮かべた。
片腕の14がグワデンへ向かっている。
どうやら生き残っているようね・・・
私は牽制でビームサーベルを振り回し、いったん距離をとる。
「撤退命令は出ているの?」
『でていないわ。というより大混乱中よ。司令部はヒステリーだし、シャア大佐は落とされるし・・・』
あのシャア大佐も落とされたのか・・・
『もうお終いよ。部隊はてんでに逃走中。デラーズ大佐の部隊を含めれば三割が戦場を離脱中よ』
もうお終いか・・・
その通りだわね。
でも、撤退命令の無いうちに戦場を離脱するのは・・・
それに・・・
あのジムが逃がしてくれるかな・・・
私はモニターに映る黄色いジムを見つめる。
どんな男が乗っているのかしらね・・・
私はゆっくりとビームサーベルを構え直した。
「ガンダムが沈んだ?」
俺は耳を疑った。
アムロ・レイがやられたのか?
『識別信号の反応が無くなったとのことです』
アナスタシアの冷静な声が現実であることをうかがわせた。
『中尉殿、あれを!』
なんだ?
出港する軍艦?
こんな混戦状態で発進してくるというのか?
『ザンジバル級です!』
「わかってる。だけど、いまさらどうするつもりだ?」
『ああっ』
「なにっ!」
俺は驚いた。
発進してきたザンジバル級は、発進直後にブリッジを直撃されたのだ。
あれではブリッジの要員は助かるまい。
次々と砲撃がザンジバルに集中する。
すでにア・バオア・クーの周辺には敵艦艇はほとんどいない。
モビルスーツの脅威も去りつつある今、艦艇の主砲は獲物を探してうずうずしていたのだ。
そこへ飛び出すなど自殺行為もいいところだ。
俺は炎上するザンジバルを黙って見ているだけだった。
- 2006/09/23(土) 22:39:01|
- ガンダムSS
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アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」に出てくるキャラクターの大半が、第二次世界大戦中に実在した軍艦などから付けられているのは周知の事実だと思います。
中でも主人公のそばにいるヒロインの一人であり、儚げな感じのする「綾波レイ」は人気がありますよね。
で、名前のもとになったのが大日本帝国海軍駆逐艦「綾波」。
「吹雪」型駆逐艦の一隻として昭和5年4月に竣工しました。
吹雪型は特型とも呼ばれ、航洋性と重武装で世界の注目を集めた革新的な駆逐艦でした。
世界の海軍は以後吹雪型を超える駆逐艦を作ろうと血道を上げることになりました。
駆逐艦綾波は太平洋戦争に参加、第三次ソロモン海戦を迎えます。
ガダルカナル島に飛行場を作ろうとした日本軍に対し、米軍は反攻作戦の一環として日本軍の飛行場を奪取すべく海兵隊他を送り込みました。
米軍の攻撃を若干の戦力によるものとみなした日本軍は、一番してはいけないと言われる戦力の逐次投入に陥り、ずるずると消耗戦に引きずりこまれました。
米軍は奪取した飛行場を使って制空権を確保。
日本軍は遠くラバウルから戦闘機を飛ばしますが、制空権は取れず、増援も送れなくなりました。
飛行場があると制空権が取れない。
飛行場奪取のためには陸軍を送らねばならない。
陸軍を送るには飛行場を奪取せねばならない。
悪循環となってしまいます。
結局日本軍は飛行場を戦艦で砲撃して使用不能にし、その隙に陸軍を送り込むという作戦に出ました。
その作戦は一度はうまくいきました。
日本軍は再度飛行場砲撃のために出発します。
その艦隊に綾波は所属していました。
前路掃討の駆逐隊の一隻としてソロモン海に向かった綾波の前には、リー少々率いる米軍艦隊が待ち構えておりました。
掃討隊の一艦「敷波」が敵艦隊を発見、綾波は一隻だけサボ島の西側を回り込み、敵艦隊に向かいます。
夜間の遭遇戦であり、日本軍の目視索敵対米軍のレーダーという図式でしたが、米軍はレーダー射撃で正確に日本軍を狙ってきました。
綾波以外の掃討隊はサボ島の東側を回りましたが、米軍のレーダー射撃で混乱し、早々に避退。
綾波一隻だけが米艦隊に対し攻撃を仕掛けました。
綾波の砲雷撃は米駆逐艦「ウォーク」と「ベンハム」に損傷を与え、それぞれ後に沈没させています。
しかし、綾波も集中砲火を受け航行不能。
翌日まで浮いていましたが、ついに沈没。
最後を迎えました。
昭和17年11月15日でした。
猛訓練で昼でも星が見えるほどの日本軍の見張り員の能力でしたが、やはりレーダーとの勝負は不利は否めませんでした。
日本軍はこの後もソロモン海で激戦を繰り広げますが、昭和18年2月にガダルカナルより撤退します。
ソロモン海はその沈没した軍艦の多さから鉄底海峡と呼ばれるようになります
失われた駆逐艦は14隻。
綾波もそのうちの一隻でした。
それではまた。
- 2006/09/22(金) 22:09:29|
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「グァスの嵐」第十三回目です。
今日もあまり書けなかったのですが、公開しますねー。
よろしくお願いいたします。
13、
「そうれ!」
破壊されつつあるボイラーになおも一撃を加えて行く老人。
その周囲はすでに炎が取り囲み、老人の衣服にすら火が燃え移っている。
しかし老人は斧を振り下ろすのをやめない。
ギャレーからは引っ掛け鍵が引っ掛けられ、引き寄せられようとしていたが、燃え盛る船上の火勢に飛び移るのは躊躇されていた。
「何をしている! さっさと飛び移れ! 火を消すんだ!」
「む、無理です。すでに火勢は強く、このままではこちらにも燃え移る可能性が・・・」
提督の怒鳴り声に精いっぱいの抵抗を試みる副長。
「黙れ! まずは貴様が行くんだ! さもないと縛り首にするぞ!」
「ええっ?」
怒気強く言いつけるエスキベル提督。
その剣幕はまわりにいるものの肩をすくませる。
「おい、そこの貴様! すぐにやめるんだ! 死にたいのか?」
提督は老人を怒鳴りつけ、何とか破壊をやめさせようとするが、老人は聞き入れない。
「貴様ぁ! 聞こえないのか! やめるんだ!」
「提督、無駄です。覚悟の行動です。聞き入れるわけが・・・」
副長が何とかなだめようと、提督に進言する。
自航船を覆う炎は音を立てて燃え盛り、その火の粉はギャレーにまで舞い降りつつある状況の今、すぐにでも鍵を離して退避しなくてはならないのだ。
「うるさい、黙れ! 目の前に自航船があるんだぞ! それを失ってみろ・・・ワシは・・・ワシは・・・」
「提督・・・もう無理です。奴は覚悟の上ですこれ以上そばにいてはこちらも燃えてしまいます」
副長が必死になって説得する。
「お、おのれ・・・」
炎上する自航船に提督は歯噛みした。
「よし、もうチョイだ、頑張れ!」
ゴルドアンが四本の腕を使いロープを手繰り寄せる。
手繰るごとに少女の躰は引き寄せられていく。
「もう大丈夫だからね。もう大丈夫だから」
エミリオは思わず笑みを浮かべてしまう。
フィオレンティーナは、まるで自分が少女の立場であるかのように手を握り締めてじっとゴルドアンの動きと少女を交互に見つめているのだ。
ロープがしっかり彼女の躰に巻かれているから、多分もう大丈夫だろう。
もし少女の体を浮かせている木片が外れたとしても、ロープが切れなければ引き上げられる。
だが、できるだけ早く引き上げた方がいいのは変わらない。
「ようし、もう少しだぞ」
じょじょに近づく少女を受け取るために、エミリオも舵を固定して船首側へ行き、舷側から手を伸ばす。
少女はその可愛らしい手をいっぱいに伸ばしてくる。
ゴルドアンによって近づいてきた少女の手がエミリオに触れる。
「届いた!」
エミリオは少女の手をがっちりと掴み、思い切り引いた。
その途端にエミリオの躰が逆に外側へと引き寄せられる。
え?・・・
エミリオは一瞬驚いたものの、少女の躰を受け取るように船内に収容した。
「うわー、よかったー」
すぐにフィオレンティーナは少女のそばへ行って抱きかかえる。
見たところは幼い妹を抱きしめるお姉さんといったところか。
5フィート2インチほどのフィオレンティーナよりもさらに低い。
5フィートあるかないかだろう。
背中まである金色の髪の毛が風になびいている。
「もう大丈夫。もう大丈夫だからね。かわいそうに・・・こんな小さい娘が・・・」
フィオレンティーナは今にも泣き出しそうだ。
この海に放り出された少女の心細さを感じたのだろう。
「はい。ミューはもう大丈夫です。ありがとうございます」
抱きしめられたまま少女は言う。
ミューというのは彼女の名前なのだろう。
「無事でよかった。でも、どうして? 海に落ちたのかい?」
エミリオがひざを折る。
目線を合わせるのだ。
少女は一瞬考え込んだ。
「ミューはマスターであった人によって船を降ろされました。それはマスターにとってもやむを得ないことだった可能性が90%以上であるとミューは考えます」
「マスター? 君はまさか奴隷なのか?」
ロープを巻き取りながらゴルドアンが驚いたようにミューを見る。
「ミューは奴隷ではありません。ミューは自らの判断でマスターを選びました」
「どういうことだ?」
いぶかしがるゴルドアンとエミリオ。
「もう、いいじゃないそんなこと。助かったんだから良しとしましょ。ね、ミューちゃん、お腹空いていない?」
フィオレンティーナは少女の躰に結び付けられたフローティの木片をはずして行く。
木片がはずれた途端、ファヌーの船体がずんと沈む。
まるで重い積荷を載せたようだ。
「お腹は空いていません。それよりもお願いがあります。マスターを・・・マスターだった人を助けてください」
ミューはエミリオとゴルドアンのほうを向いてぺこりと頭を下げる。
二人は顔を見合わせた。
煙は天高く上り、炎は赤い手で全てを飲み込んで行く。
その熱気はもう近づくことさえ許さない。
もう老人の手は動いていない。
斧はもはやどこへ行ったかわからず、老人の姿もおぼろげに見えるだけである。
「あちち・・・これ以上は無理だ。鍵をはずせ!」
副長の命令に水兵たちはすぐさま鍵をはずし、突き棒で引き離す。
「う・・・むむ・・・」
その様子にエスキベル提督は歯噛みする。
炎上する自航船はもはや手が出せない。
たとえ火が消えたとしても、その焼け跡からでは自航船の秘密はわかるまい。
してやられたのだ・・・
まさか死を賭してまで船を焼くとは・・・
何が悪かったのか・・・
ワシの指揮に問題が?
いや、そんな事は無い。
ワシの指揮に問題はなかったはずだ。
ではなぜ・・・
艦長だ・・・
奴が事あるごとに邪魔をしたのだ。
そうでなければワシは今頃は・・・
パチパチと木がはぜる音がする。
火の粉が天に上って行く。
ゆっくりと浮力を失い降下し始める自航船。
「軍艦に追われて?」
「あれだ・・・こりゃあ・・・」
ミューの必死な懇願に、とりあえずエミリオはファヌーを走らせた。
行き先にはぽつんと船影が小さく見えていたが、そこからはもうもうと煙が天に上っていた。
「ミュー、ありゃあかなりの船火事だ。無理かも知れんぞ・・・」
「ゴル! 行ってみないとわからないでしょ! ミューちゃん、そのマスターって大事な人なんでしょ?」
フィオレンティーナが悲観的な意見を突っぱねた。
まあ、確かに行って見ないとわからない。
場合によってはミューと同じように木片にでもつかまっているかもしれないし、軍艦が救助しているかもしれないのだ。
「マスターはミューの大事な人です。ギャレーの軍人たちから守ってくれたんです」
「ミュー。なぜ軍艦がミューとそのマスターを追って来たんだい?」
エミリオはそれが聞きたかった。
こんな少女が軍に必要とは思えない。
おそらくそのマスターが彼女を巻き込みたくなかったんだろう。
しかしそれにしても放り出すなんてどうかしている。
「それは・・・申し訳ありません。現時点ではお教えできません」
ミューは首を振る。
「それにしても、あの火災はどういうわけだ」
帆を操りながらゴルドアンが前方を注視している。
「マスターが火をつけたんです」
「何だって?」
エミリオもゴルドアンも驚いた。
それじゃ自殺じゃないか。
「マスターが・・・軍には渡さないという考えで火をつけたんです」
ミューがはっきりという。
「一体、君のマスターは何を運んでいたんだ?」
「ごめんなさい。言えません」
エミリオの問いに首を振るミュー。
「もう、何だっていいじゃない。大事なのはミューちゃんのマスターでしょ」
フィオレンティーナが怒ったようにエミリオをにらんでミューを抱きしめた。
「あ、ミューでいいですよ」
ミューは抱かれるままに立っている。
その様子にエミリオは思わず微笑んだ。
- 2006/09/21(木) 21:30:48|
- グァスの嵐
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安倍新総裁が誕生しましたね。
703票中464票もの大量得票。
戦後生まれの新総理となるわけですね。
小泉首相の路線を継承するとのことですが、暮らしやすい世の中にして欲しいと思います。
決まったからには頑張ってー。
えーと、遅まきながらスタジオ邪恋さんの「操心術2」をやっております。
まだ始めたばかりで、数エンドしか迎えていないんですが、いやー、操りっていいですねー。
誤認系MCでパンティの臭いをかぐのが当たり前のことに感じたり、淫語しかしゃべられなくなったり、カラオケの曲名が書かれた冊子を重要書類のように感じたりといろいろコントロールされてくれます。
私が結構気に入ったのは、正義の魔法少女であると認識させられた弁護士の女性が、主人公のセックスによって悪の魔力を注入され、悪の魔法少女になってしまうと認識させられるシチュでした。
悪の魔法少女となったと思って主人公に忠誠を誓う場面などは、そういったヒロイン系ゲームを思わせる感じで、結構よかったです。
まだまだ半分にも達していないので、これからどんなシチュが出てくるのか楽しみです。
よさげなシチュがありましたら、また書かせていただきますね。
それではまた。
- 2006/09/20(水) 21:18:06|
- PCゲームその他
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学研からこのたび出た「中国武器集成」を手に入れました。
中国の武器ばかりか、中国武術も写真で解説されていて、すごくいいですね。
中国武術の指導者でもある陳静(ちん せい)【日本語読みです】さんという美しい女性が、武術の型や武器の使い方を写真で見せてくれるので、使い方もよくわかります。
何より、イラストと実物写真で武器そのものをビジュアルで見せてくれるのは助かりますよね。
蛇矛や青龍刀といったものから、狼牙棒や金瓜錘といった武器が読み物だけではよくわからなかったものですけど、まさに目の当たりにすることができました。
三国志の英雄たちが使った武器も、こんなものだったのかと理解できますし、また小説を読むときにも想像しやすくなりました。
それなりの値段ですが、結構いいものではないかと思います。
以前買った「日本武器集成」もよかったですよー。
それではまた。
- 2006/09/19(火) 22:09:06|
- 本&マンガなど
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北欧の福祉大国「スウェーデン」
今でこそ、福祉国家としてその名を馳せているわけですが、十五・六世紀ごろはヨーロッパの大国として、ロシアや神聖ローマなどと戦乱に明け暮れていた国でもありました。
工業も発達しており、特に自動車は世界的にも市場を確保しており、「サーブ」社や「ボルボ」社などの乗用車は日本でも知られているところです。
(現在ボルボの自動車はフォード傘下であり、ボルボグループとは分離)
新聞などでサーブの自動車の広告などは目にされたこともあるのではないでしょうか。
サーブ社は、自社の自動車広告によくジェット戦闘機を一緒に出してきたりします。
以前私はどこかで、「なぜサーブ社の自動車の広告にジェット戦闘機が使われているのか?」と言う質問があったのを目にしました。
今ではスイスと同じく中立国として知られておりますが、スウェーデンは武力もかなりのものを保持しており、「武装中立」といった意味合いが強くなっているようです。
(もちろんスイスも軍備は持っています)
そのスウェーデン空軍の保持するジェット戦闘機はサーブ社が製造しているんですよね。
あの「エリア88」の主人公シン・カザマも一時期サーブ社の戦闘機「ドラケン」に乗っていましたし、その後継機の「ビゲン」、最新鋭の「グリペン」と優秀な戦闘機を次々と世に送り出しているサーブ社は高い能力を持った軍需会社なのです。
おそらく、サーブ社は高い能力を持つ航空機製造能力が皆さんのお手元に渡る自動車にも生かされているのですよということを言いたいがために、自動車の広告にも自社のジェット戦闘機を入れているんだと思います。
(違っていたりしてww)
日本では軍事産業はあまりいい目で見られませんから、三菱や小松が90式戦車や装甲車を引き合いに出して自社の能力の高さをアピールするということは無いですね。
三菱パジェロのCMもパリダカの勇姿は使いますけど、73式小型トラック(新)として防衛庁も使用していますなんてのはありませんですもんね。
結構身の回りの身近な企業が防衛産業として関わっていることも多いんですけどね。
もっとそのあたりも知りたいものだと思います。
それではまた。
- 2006/09/18(月) 21:57:41|
- 趣味
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眠い・・・
むちゃくちゃ眠いです・・・
TRPGやって完徹なんぞするから。(笑)
まあ、それはさておき、北海道日本ハムが強いですねー。
今週末は対ロッテ戦三連勝ですよ。
札幌ドームも連日満員だったそうで、営業的にも万々歳ではないでしょうか。
地元民としては嬉しい限りです。
もともとパリーグでは日本ハムが結構好きでしたので、北海道に来るのは大賛成だったし、こうやって上位にいてくれるのは嬉しいですよね。
残念なのが阪神ですが。
中日相手の三連戦で負け越し。
中日との直接対決に分が悪いだけに、このゲーム差が出ているということでしょう。
それにしても中日の山本昌投手はすごいですね。
最年長のノーヒットノーラン。
脱帽です。
ピッチングは丁寧さと技術であるということのまさに証明ですよね。
おめでとうございます。
今日は勝たせていただきましたが、中日の優位は変わらないですねー。
後は個人記録の争いかな。
赤星の連続盗塁王も難しそう。
がんばれー
今日は頭が死んでいますなぁ。
それではまたー。
- 2006/09/17(日) 19:55:49|
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モロトフのカクテルと呼ばれるものをご存知でしょうか?
名前からはいかにもロシアのウォッカベースのカクテルかなと思っちゃいそうですよね。(笑)
これ、いわゆる対戦車用火炎瓶のことをそう呼んでいたのです。
旧ソ連は第二次世界大戦初期にフィンランドと戦争を行ないました。
いわゆる冬戦争です。
ろくな対戦車兵器を持たないフィンランド軍は、簡易な対戦車兵器として火炎瓶を使用しました。
エンジン部分に投げつければ、割れたビンからもれた液剤に火が付き、エンジン部分にしみこんでエンジンを焼いてしまい、戦車は行動不能になるというものです。
液剤はガソリンや灯油などらしいですが、粘性を高めるために砂糖なども混ぜられたそうですね。
この火炎瓶は当時ガソリンエンジンが主流だったソ連戦車にはかなりの効果を上げ、ノモンハンで日本軍も同様に火炎瓶で戦果を上げております。
この火炎瓶がなぜモロトフのカクテルと呼ばれたのか・・・
それは当時のソ連の外務大臣モロトフに由来するそうです。
「ソ連軍の爆撃機が我が国の都市を爆撃している」と言うフィンランド政府の発表に対し、ソ連外相モロトフは「あれは爆弾ではなく、フィンランド人民に対してわが政府がパンを投下しているのだ」と豪語したというのです。
以来、フィンランドはソ連の爆撃機を「モロトフのパン籠」と呼び、戦車にぶつける火炎瓶も「モロトフに捧げる特別製のカクテル」ということで、「モロトフのカクテル」と呼ぶようになったとのことです。
ソ連はこの攻撃によってかなりの戦車戦力を失い、大きなダメージを受けました。
そのため、以後のソ連軍戦車は基本的には燃えづらいディーゼルエンジンに変更されました。
さらに、ドイツ軍が進行してきたときには、逆にモロトフのカクテルでドイツ軍の戦車を炎上させることもしばしばあったようです。
フィンランドとの冬戦争は当時のソ連にとってはよい教訓となったようですね。
ドイツ軍にとってはたまりませんが。
ちなみに、火炎瓶は所持しているだけでも法律違反で捕まるそうですので、くれぐれもご注意を。
それではまた。
(参考・・・サイト「王立図書館」様。ありがとうございました)
- 2006/09/16(土) 19:36:31|
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オウム真理教の代表、麻原彰晃こと松本智津夫被告の死刑判決が確定いたしましたね。
二審が行なわれないという異常事態での結審は、この事件の異常さにある意味相応しい結末になったのかもしれません。
住宅街及び運行中の地下鉄に毒ガスを散布するという非道な行為は、世界の混沌を如実に現したものかもしれないですね。
こういったことを人間はやれるんだ。
そういう意識を皆に知らしめてしまったことが、9・11とともにこの事件を印象深くしていると思います。
人間の心の闇というものは恐ろしいということをはっきりと見せ付けた事件だったかもしれませんね。
さて、久々の「帝都奇譚」です。
お楽しみいただければ幸いです。
13、
いそいそと帰り支度を終える雛華。
時間こそ書いていなかったものの、昨日と同じぐらいの時間であることは間違いないだろう。
それともフジへ行くより、警視庁へ出向いたほうがいいかしら・・・
かつては夫との待ち合わせをそのように浮かれた気分で楽しんだであろう雛華だったが、今の雛華には夫のことは頭をよぎりもしない。
あれほど嫌がっていた三倉のことが、今は待ち遠しい存在に思えるのだ。
そのことが雛華にはおかしいこととさえ思わない。
「白鳳先生、今日はもうお帰りですか?」
いつもならこんなに早く学校を出て行くことは無い雛華に同僚教師も不思議に思う。
「ええ、お先に失礼します」
雛華はにこやかに頭を下げる。
そのまま雛華は職員室を後にした。
さて・・・来るかどうか・・・
タバコに火をつけながら小脇に抱えた帽子を被りなおす三倉。
昨日の今日だ。
普通なら来ないだろう。
だが、特高警察の刑事としての勘・・・なのか、それとも“新たな世界に生きる者”としての能力なのか・・・、三倉は白鳳雛華が来るだろうと感じていた。
ちょっとエキスを吸ってやっただけだが、あの快感から逃れることはできないのだ。
現に幾人もの女のエキスを、途中で吸うのをとめたことがあるが、みな一様に吸って吸ってとせがむのだ。
それが命を失うことになろうとも。
「くくく・・・」
タバコの煙を吐き出す三倉。
さて、フジに向かうとするか・・・
彼はゆっくりと警視庁の建物を後にした。
ゆっくりと立ち上がるニコライ・ヴォルコフ。
足りぬ・・・
失ったものが多すぎる。
黒き血の持ち主を見つけたというのに・・・
「あの女・・・赦さん」
ぎりっと歯軋りするヴォルコフ。
まだ夕暮れには早いが出かけるとしよう。
また獲物が必要だ。
心臓がドキドキする。
ああ・・・どうしちゃったのかしら・・・
まるで恋をしているよう・・・
恋?
雛華は愕然とする。
私・・・恋をしているの?
あの・・・あの三倉さんに恋を?
そんな・・・
だが否定できない。
否定しようと思えば思うほど頭の中には三倉のにやついた顔が思い出される。
私には・・・私にはあの人が・・・
雛華は夫の顔を思い出そうとする。
だが、思い出そうと思えば思うほど、その顔はいやらしく笑った三倉の顔になるのだった。
ああ・・・だめ、だめよ・・・
だが、雛華の足取りは止まらない。
彼女はまるで夢遊病のように三倉に引き寄せられていく。
もうすぐフジが見えてくる。
時間はまだ2時間近くも早い。
だが、雛華はフジで三倉を待つことしか考えられなかった。
「ただいま・・・」
どこをどう歩いてきたのかわからない。
多分、いつもの通学路を歩いてきたに過ぎないのだろう。
喉が渇く・・・
何かが変だ・・・
一体何が・・・
私はどうしちゃったのだろう・・・
摩耶子は自問する。
だけど答えがでるはずも無い。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
和服姿の使用人たちが出迎える。
「ただいま」
摩耶子は努めて笑顔で振舞おうとする。
「破妖さんはいらっしゃる?」
摩耶子は月子に聞いてみようと思っていた。
もしかしたら、これこそが呪いなのかもしれないのだ。
そう思えば今日自分がちょっと変なのも理由が付く。
私は呪われたのかもしれないわ。
「いいえ、お出かけになられておりますが」
使用人の一人が不在を告げる。
「そう・・・」
摩耶子はちょっとがっかりした。
守ってくれると言っておいて、肝心な時にいないなんて・・・
摩耶子は使用人の一人にカバンを渡して部屋に向かう。
これから着替えをして、少し授業の復讐でもしなくては。
このお守り・・・役に立っているのかしら・・・
摩耶子はポケットの中のお守りに手を伸ばす。
「痛っ!」
指先に痛みが走る。
お守りに触れたとたんにまたしても電気のようなものが走って、摩耶子は指を引っ込めた。
「お嬢様?」
カバンを受け取った使用人が驚いて摩耶子に声をかける。
「何よこれ!」
何か無性に腹が立って、摩耶子はお守りの紐を引いて取り出すと床に投げ捨てる。
「お嬢様?」
床に放り出されたお守りは、なぜか摩耶子の神経を苛立たせる。
「ふん」
摩耶子はスリッパを履いた足で、お守りを蹴り飛ばした。
「捨てといて」
「あ、は、はい」
摩耶子はそう言い捨てると踵を返して自室へ向かう。
使用人もただ黙って付いていくしか出来なかった。
かつかつと夕暮れの通りに硬質な靴音が響く。
まだまだ踵の高い靴など履く女性は少ないが、月子はわりと好んでいた。
和服はいざという時の動きが制限される。
その点スカートもさほど違いは無いのだが、まだしもスカートの方が動きやすい感じがした。
「遅くなったわ・・・賀茂家の人々ももう少し物分かりが良ければいいものを・・・」
まだまだ人通りの多い時間であるが、そろそろ女性の姿は少なくなる。
そんな中、破妖月子は鷹司家へ向かって足取りを速めていた。
月子は・・・
1、「何か気配が・・・?」
ただならぬ気配を感じ、その出所を探る。
2、「お腹空いたわね・・・」
ただならぬ空腹感を感じて、近くの食堂を探す。
3、「あれは?」
ただならぬ人物を見かけ、後をつけてみる。
4、「何も無いわね」
ただならぬことは何も無く、まっすぐに鷹司の家に戻る。
- 2006/09/15(金) 21:26:48|
- 帝都奇譚
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USS「サスケハナ」
皆様ご存知の、マシュー・カルブレイズ・ペリー提督が浦賀にやってきた時の旗艦ですね。
正式には蒸気フリゲートという艦種に区分される「サスケハナ」は、1850年に完成した軍艦で、排水量三千トンにもなる外輪型の蒸気船でした。
ペリーの浦賀来航が1853年のことですから、まだまだできたばかりと言っていい軍艦です。
日本で大型の船といえば千石船ですが、千石船は排水量で言えば200トンほど。
まさに大人と子供以上の体格差があったわけです。
その大型の軍艦が、煙をモクモクと吐き出しながら、外輪をゴロゴロと回して帆をたたんだまま航行する姿は、まさに驚天動地の驚きを江戸の人々に与えたでしょう。
「太平の眠りを覚ます上喜撰 たった四杯で夜も寝られず」
これはどうも明治時代の創作で、幕府を貶めるためのものらしいのですが、この歌は結構有名であり、浦賀に来たのが四隻の蒸気船と思っておられる方が多いと思います。
実際来航したのは確かに四隻でしたが、そのうち蒸気船と呼べるのはこの「サスケハナ」と「ミシシッピ」の二隻だけであり、「プリマス」と「サラトガ」の二隻は純粋な帆船だったんですね。
江戸湾に入ってきたときには、「サスケハナ」と「ミシシッピ」が他の帆船をロープで引っ張っていたんですね。
まだ、できて三年ほどの「サスケハナ」でしたが、外輪式の蒸気船というのは、すでに時代遅れとなりつつあったものでした。
事実同時期のクリミア戦争では、外輪船は外輪を破壊されて身動きが取れなくなるという弱点を晒しており、軍艦としては致命的だったんですね。
ペリーの率いていた四隻の艦隊は、当時としてはすでに二線級の艦隊だったんです。
ただ、やはり当時の江戸幕府にとっては脅威そのもの。
何しろ積んでいる大砲が強力でした。
外輪船であっても、風がなくても自由に航行でき、強力な大砲の破壊力を持ってすれば、江戸湾を封鎖し江戸幕府を脅威に陥れることなど簡単だったのです。
幕府はこの脅威には対抗できませんでした。
結局開国を決定せざるを得なかったのです。
対抗手段がなければ、二線級だろうが三線級だろうが同じということですね。
その後「サスケハナ」は日本を出発。
翌年再び日本へ来たあと太平洋を横断し、ホーン岬経由でフィラデルフィアに戻ったため、世界一周をした初の蒸気船となりました。
(日本へ来る時は大西洋岸から喜望峰を回ってインド洋経由)
その後1883年に解体処分となります。
四周を全て海で囲まれた日本は、海軍力が何よりも必要だと痛感したことでしょうね。
その後幕府は海軍力を整備し、「開陽」を旗艦とする旧幕府艦隊は新政府軍をまったく寄せ付けませんでした。
そして、日本は最終的に「大和」に行き着くこととなります。
それではまた。
- 2006/09/14(木) 22:29:33|
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「グァスの嵐」十二回目です。
短いですけどどうぞ。
12、
「マスターーー!」
ミューは声を限りに叫んでいた。
音声伝達は距離に反比例する。
距離が遠くなれば伝わらなくなってしまうのだ。
おそらくもうぎりぎりの距離だろう。
ミューは自己の能力をいっぱいに使って視覚を望遠にする。
遠ざかる蒸気船はギャレーに今まさに追い付かれそうになっていた。
「マスターーー!」
ミューの叫びは届かない。
接近してくるファヌーがあるのを認めたが、ミューは意識的に無視をした。
どの道ミューには身動きの取りようがなかったし、どうやら悪意があって近づいてくるとは思えなかったからである。
おそらくは彼女を人間と誤認識した者たちが、急いで救出しようと思って近づいてくる可能性が80%以上だろう。
ミューももちろんだが、人間は海に浮いていられはしない。
船から放り出されるということは生命活動に重大な危険を及ぼすことなのだ。
だから人間はできる限り救助しようとする。
近づいてくるファヌーも救助活動に当たる可能性が大だった。
「マスターーー!」
ミューは叫ぶ。
すでにマスターではないと命じられはしたものの、ミューのシナプス回路は納得をしていない。
自己に及ぶ危険を考慮した場合、ミューをこのように放り出すという行動自体が通常の行動ではない。
自己保存を優先する場合はミューと蒸気船を軍隊に差し出すのが一番確率的に有利である。
軍隊はミューと蒸気船を手に入れることで、マスターへ危害を加えない可能性が一気に上昇するからだ。
しかし、マスターはミューを放り出した。
ミューを破壊したいという行動ではない。
それならばフローティの木片をくくりつける必要は無い。
そのまま放り出すか、ミューに船から飛び降りるように命じればよい。
そうすればミューの躰は密雲に飲み込まれ、おそらくは二度と浮かび上がることなく永遠に雲の下の強大な圧力に閉じ込められたままだろう。
と、なると考えられることはマスターは自己保存の確率が低くなることを承知の上で、ミューを放り出したということになる。
「マスター・・・どうして・・・」
ミューの胸にはいい知れない感情が湧き上がっていた。
「そこの船! 帆を降ろして停船せよ! こちらはリューバ王国海軍艦シファリオンである! 繰り返す! 停船せよ!」
ギャレーの船首で大声を上げている士官。
「ふん・・・何が停船じゃい」
まったく意に介した様子もなく老人はワインをラッパ飲みしている。
美味い・・・
「停船せよ! 止まらなければ攻撃する!」
すでにギャレーは蒸気船の右側に並ぶほどになっている。
だが、老人はただ一瞥するとゆっくりと立ち上がった。
「さて、始めるとするか・・・」
老人はそうつぶやいた。
「だめです、提督。まったく停船する気配がありません」
「何をしておる! 鍵を引っ掛けて乗り移るんだ。自航船を手に入れるんだ!」
副長の報告に怒鳴りつけるエスキベル提督。
もう指呼の距離にあるというのに何をやっているというのか。
「は、ハハッ! おい、引っ掛け鍵を用意しろ! 乗り込み用意!」
慌てて指示を下す副長。
どうも対応が遅い。
エスキベル提督は苛立ちを隠せない。
ことここにおよんで逃がしでもしたら・・・
そう思ったその時。
「う、うわ。あいつ、火を・・・」
「うおっ、火をつけやがった!」
なんだと?
水兵たちのどよめきに提督は驚いた。
火を・・・つけただと?
「い、いかん! 火を消せ! 火を消すんだ!」
我知らず提督は大声で叫んでいた。
老人の周囲で燃え上がる炎。
予備の帆や薪を燃やしたのだ。
ボイラーに残っていた燠火を撒き、さらに帆や燃えやすい物をそこに広げる。
燠火はしばらく燻ぶったあとに燃え広がり、木造の船体をその炎が舐め始めていた。
「これでいいわい。あとは・・・」
斧を取り出す老人。
彼はその斧を思い切りボイラーに向かって振り下ろす。
ガシーンという金属音が響いてボイラーに裂け目が入った。
「もう一丁」
老人は再び振り下ろす。
ボイラーは悲鳴を上げるかのように金属音を上げ、斧によって壊されていった。
「ようし、もうチョイ舵を右に切ってくれ」
「わかった」
エミリオはゴルドアンの指示通りに舵を切る。
ファヌーは徐々に人影の方へと近づいていた。
「女の子だわ」
はらはらしながら浮いている人影を見ていたフィオレンティーナが、その人影を少女と認める。
「ああ、なんてこったい。こんなところで何があったんだ?」
ゴルドアンの四本の腕が激しく動き、帆を微妙な角度で捌いていく。
「フィオ! ロープの先にフローティの木片をつけて!」
「え?」
とっさのことにエミリオの言ったことがフィオレンティーナには理解できない。
「投げてやるんだ。早く!」
「あ、わ、わかったわ」
すぐにフィオレンティーナも理解して作業にかかる。
ここは空間である以上、ロープを投げてもすぐに垂れ下がってしまって、相手には届かないのだ。
そのために木片を取り付けて先端を浮かせなくてはならないのだ。
「できたよ」
先端に手ごろな大きさの木片を付けたロープがエミリオに向けられる。
「よし、ゴルに渡してくれ」
「わかったわ」
フィオレンティーナはうなずくと、すぐにそれをゴルドアンに手渡しに行った。
「ゴル、これ」
「よしきた!」
ゴルドアンはロープを受け取るとすぐさまそれを放り投げる体勢に入る。
腕が四本あるというのはこういう時にはなんと便利なのだろうか。
「おーい、聞こえるか~! 今からロープを投げる。しっかり受け取れー!」
ゴルドアンは浮かんでいる少女に対してそう叫んだ。
ミューのそばまでやってきたファヌーから声が聞こえる。
なまりの無いセリバーン海の地方言語だ。
ロープを投げるから受け取れと言っている。
「わかりましたー」
ミューは両手を頭上で振って了解の合図をする。
すぐにファヌーからロープが投げられ、ミューの手元に流れてくる。
上手い。
ミューは感心した。
この海という空間で、ロープをきちんと流すのはコツがいる。
それをいともたやすく流すなんて熟練の船乗りなのだろう。
バグリー人だわ。
ミューはファヌーの船上に、このあたりではあまり見かけない異星人を発見する。
四本の腕が特徴の直立したオオトカゲのような恒星間種族。
それがこの星に居るのはミューもデータ上から知ってはいた。
だが、こんなところで会うのは確率上からも少なかったのだ。
ミューは流れてきたロープをしっかりと手に取ると、躰にくるりと巻きつけた。
- 2006/09/13(水) 21:50:26|
- グァスの嵐
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当ブログにいつもコメントをいただき、リンクもさせていただいております「沙弥香の脳内妄想」の沙弥香様から、またまた非常に素晴らしいSSをいただきました。
2006年8月15日に当ブログで公開いたしました「蜘蛛女仁美」を楽しんでいただいたそうで、後半部分をよりエロく、よりモエモエに変更したバージョンを書かれたとのことでした。
早速送っていただいたのですが、まさにエロエロな展開で私もすごく楽しませていただきました。
今回当ブログでの公開も許可いただきましたので、皆様にもご覧いただきたいと思います。
なお、ヒロインである仁美が捕らえられるあたりまでのくだりは、8月15日の拙作をご参考いただければと思います。
ぜひぜひお楽しみ下さいませ。
沙弥香さん、ありがとうございました。m(__)m
「ケケケケケ・・・」
鉄格子の向こうに姿を現したものを見て、仁美は息を飲んだ。
そこに現れたのは全身がうっすらと毛に覆われ、頭の左右からは角のような触角が伸び、顔の中央には大きな六角形の複眼状の目が三つ重なり、口元には大きな牙が生えている蜘蛛の化け物だった。
「ひぃっ」
「ケケケケケ・・・桜居仁美、俺を覚えているか?」
蜘蛛の化け物はそう話しかけてくる。
仁美は恐怖におののきながらも首を振った。
「ケケケケ・・・俺様はショッカーの改造人間蜘蛛男。元は猪坂広志といったが、そんな名前はもう意味が無い」
仁美は驚いた。
この蜘蛛の化け物があの猪坂だというのか?
「ま、まさか・・・」
「ケケケケ・・・待たせたな、仁美。俺は改造され、蜘蛛男として生まれ変わった。そして俺はショッカーに歯向かうものを殺し、必要な人材をさらってきてショッカーのために働いたのだ」
仁美はあとずさった。
この男はレリーフの声との取引を成立させたのだ。
「首領は俺の働きを評価してくれた。お前を俺のモノにすることを許可してくれたのだ」
「いやぁっ!」
仁美は首を振る。
こんな化け物のものになるなんていやだ。
死んでもいやだった。
「ケケケケ・・・さぁ、オマエの家へ帰るがいい」
え?・・・な、なに?・・・どういうこと?
「今、なんて・・・?」
「ケケケケ・・・ウチへ帰してやるといったのだ。いやなのか?」
仁美には何がどうなったのか全くわからなかった。
しかし、家へ帰ることが出来るのなら理由などどうでもよかった。
******
「パパー」
保母さんの手に引かれて亮太が門の所までやってくる。
「亮太。お待たせ。さあ、帰ろうな」
可愛い息子を抱きしめ、車の後席に座らせる。
「ママは?」
幼い亮太はやはり母親がいないことが納得できない。
「ん? ママはもうすぐ帰ってくるよ。きっと帰ってくるさ・・・」
運転席について車を走らせる桜居幸太。
あの日から仁美は帰ってきていない。
彼女を含む六人が居なくなったというのに、警察はまったく手掛かりをつかめていなかった。
どこへ行ったのか・・・
幸太には信じて待つしかなかったのだ。
誰もいない我が家に帰ってくる。
灯の点いていない我が家。
だが、今日は違った。
幸太と亮太が帰ってきたとき、家には灯が点いていたのだ。
「まさか・・・」
幸太ははやる気持ちを抑えて、亮太を連れて自宅の玄関を開ける。
鍵は掛かっていない。
合鍵を持っているのは仁美だけ。
仁美が帰ってきたのだ。
幸太は居ても立ってもいられず、玄関をくぐるとすぐに居間に駆け込んだ。
「・・・あ、あなた・・・亮太!!!」
はたして、仁美はたしかにそこにいた。
「うわぁーん、ママァ!!!」
亮太が、喜びのあまり仁美に抱きつく。
仁美もそれまでの緊張感が一気に緩んだのか、涙をぽろぽろとこぼして泣いた。
「大丈夫・・・もう、大丈夫よ・・・」
仁美は愛しい我が子を抱きしめ頭をなでさする。
「よ、よかった・・・本当に、無事で・・・」
幸太も思わず涙腺が緩みそうになった。
「ケケケケ・・・お別れの挨拶は済んだかな?」
突然、この世のものとも思えない不気味な声とともに、背後の扉を開けて人影が入ってくる。
「うわぁ、ば、ば、化け物」
入ってきたのは蜘蛛の化け物だった。
幸太は驚きのあまり腰が抜けそうになった。
「・・・ど、どうして・・・」
仁美はこの化け物のことを良く知っている。
二度と会いたくない相手 ― 猪坂が改造された蜘蛛男 ― だった。
亮太を抱きしめる仁美の両腕に思わず力がこもる。
「ケケケケ・・・言っただろう、仁美。お前は俺のものになるのさ」
大きな牙をむき出し、口元を邪悪に歪ませながら蜘蛛男は笑う。
「き、貴様か!仁美をさらったのは!このっ!」
幸太は震える手で傍らのゴルフクラブを握り締め、蜘蛛男に殴りかかった。
「ケケケケ・・・なかなか威勢のいいヤツだ・・・ほれっ!」
蜘蛛男の口から一条の糸が吐き出される。
たちまちのうちに糸に絡めとられ、いっさいの身動きが出来なくなる幸太。
「う・・・うぐぅ!!!」
「ケケケケ・・・さて、首でもちょん切ってやるかな・・・」
蜘蛛男が糸を引っ張ると、ギリリという音をたてて、幸太の首に力がかかる。
このまま続けたら幸太の首は簡単に胴体とおサラバだろう。
「ぐ、ぐわぁ!!」
「いやぁ!あなたぁ!」
幸田の身を案じる仁美。
「ケケケケ・・・そんなにあいつのことが心配か」
蜘蛛男は力を緩め、仁美に向かって問いかける。
「あ、あたりまえでしょう!私はあの人の妻なのよ!」
「ケケケケ・・・そうか・・・よし、気が変わった、お前のその気持ちに免じて許してやろう・・・」
「え?・・・ほ、ホントなの?」
「ケケケケ・・・本当だ、俺は嘘はつかん。ただし条件がある。」
条件?この男、またそんなことを・・・
今度はいったいなに?
いぶかしがる仁美。
「ケケケケ・・・せっかく改造人間になったのにお前と一度もやれないのはさすがに悔しいからな。
一度だけやらせてもらおうか」
「そ、そんな・・・」
「ケケケケ・・・そうか、なら仕方がない、力づくだ」
「ぐうぅつ!!!!」
「や、やめてっ!!!・・・わ、わかったわ・・・」
「ケケケケ・・・なら俺と一発やるんだな?言うことをきけばこいつの命は助けてやる。さぁ、早く服を脱げ」
「し、仕方がないわ・・・い、一度だけよ・・・そうすればもう私たちには手を出さないのね?」
念を押すように仁美は尋ねる。
「ケケケケ・・・ああ、約束だ。俺はお前たちにはいっさい手出しはしない」
「ぜ、絶対よ・・・」
仁美は観念し、亮太を床に立たせると、自分も力なく立ち上がる。
「な・・・、仁美、やめろ!俺はどうなってもいい!」
「そうはいかないわ・・・あなたに死なれたら、あたし・・・
だ、大丈夫よ、あなた・・・私は・・・どんなことになっても・・・」
「マ、ママー!何なの?何が起こるの?いやだよ、こいつ気持ち悪い!」
亮太は仁美の陰でおびえながら蜘蛛男をにらみつける。
何がなんだかワケが判らないが、こいつは自分のパパとママに悪いことをするヤツのようだ。
「・・・亮太・・・、ママは大丈夫だから、あなたは自分のお部屋に行きなさい。
パパはきっとママが助けるから・・・」
「き、きっとだよ!ママ!」
「大丈夫よ約束するわ・・・」
仁美は屈辱と恐怖に打ち震えながら、気丈にも亮太を部屋の外へ送り出した。
そしてうつむいたままブラウスのボタンに手をかける。
「や、やめるんだ仁美!やめてくれ!」
「ごめんなさい・・・こうするよりほかにあなたを・・・あなたを助ける方法はないの・・・」
蜘蛛男の恐ろしさはよくわかっている。
幸太がいくら頼りになると言ってもしょせんは生身の人間。
あの恐ろしい技術を持ったショッカーとやらの改造人間に敵うわけはないのだ。
あ、あたしさえ我慢すれば・・・
体中から火が出る様な羞恥に襲われながら、仁美は憎むべき蜘蛛男の前で全裸になる。
「ケケケケ・・・思った通りだ、まったくいい体をしてやがる・・・」
下卑た言葉を仁美に浴びせかける蜘蛛男。
それが仁美の羞恥心をますます責め立てる。
「・・・裸になったわ・・・ど、どうすればいいの?」
精一杯の虚勢を張る仁美。
しかし、その膝はガクガクと震えている。
顔は真っ赤で全身にうっすらと汗がにじみ出ていた。
「ケケケケ・・・たまらんな・・・ホレ、こんなになってしまったよ・・・」
「え?・・・ひっ・・・!」
仁美は思わず声をあげ、わが目を疑った。
蜘蛛男の股間には、いつの間にか醜悪なフォルムの禍々しい屹立が存在していたのだった。
それは子供の腕ほどの太さと長さをもち、先端の亀頭部分は大きく膨れ上がり、まるで傘が開いたようなカリ首を晒している。
幹の部分にはところどころ真珠を埋め込んだような突起が見える。
「な、なんなの・・・こ、これ・・・あああ・・・」
なんとか平常心を保っていた仁美も、この醜怪な凶器を目の前にしてさすがに恐ろしくなってきたようだ。
夫以外の男性を知らない仁美にとって、蜘蛛男のそれはあまりに衝撃が大きかった。
「ケケケケ・・・ほれ、どうした、この上にまたがるんだ、仁美」
蜘蛛男は鋭くカギ爪の伸びた右手で屹立を扱きながら、左手で仁美を手招きする。
「そ・・・そんな、こわいわ・・・」
仁美は少女のように震えている。」
「ケケケケ・・・怖がることはない、すぐに気持ちよくなる・・・ほれっ!」
ズピュッ!!!
・・・・・・・・・・・・・・
ビチャッ!
突然、蜘蛛男のそれの先端から白濁が噴出し、その一部が仁美の顔にかかった。
「きゃぁ!」
白濁は頬を伝わり、思わず声を上げた仁美の口の中に浸み込んでゆく。
「ケケケケ・・・ほぉれ、どうだ?少しは落ち着いたか?」
「あ・・・ああ・・・」
ホント・・・どうしたのかしら?さっきまでの震えが・・・
不思議なことに、蜘蛛男の白濁を飲み込んでしまった仁美は、先ほどまでの震えがウソのように治まったのだった。
「ケケケケ・・・さぁて、そろそろ楽しませてもらうか」
いきなり仁美の腕をつかみ引き寄せる蜘蛛男。
脇から伸びる4本の脚で仁美の太股を、そして腰を抱え込み、女唇めがけて自らの腰をグイッとばかりに突き上げる。
「な、そんな・・・だ、だめっ!いきなりなんて・・・濡れてもいないのに・・・!!」
ジュピュッ・・・!
「!!!!」
・・・え?・・・な・・・なにが・・・?
ど、どうして・・・?
すでに仁美の女肉はしとどに濡れそぼり、驚くべき柔軟さをもって蜘蛛男の「凶器」を易々と受け入れたのだった。
仁美の最奥が瞬く間に埋め尽くされる。
「ケケケケ・・・安心しろ、仁美。
俺の精液は強烈な催淫剤、たった一滴でも口にすりゃ女は誰でも発情牝と化す、お前とて例外ではない、ケケケケ」
いい終わるより早く、激しく腰を突き上げてくる蜘蛛男。
4本の腕で抱え込んだ仁美の下半身を存分に蹂躙する。
「い、いやぁ・・・だめ!・・・う、動かないでっ!」
しかし、すでに洪水となっている仁美の肉壺は、肉棒の動きに合わせるようにでグチョグチョという卑猥なハーモニーを奏でている。
「ひぃ・・・ひぐぅっ・・・!」
たちまちのうちに官能の炎に包み込まれる仁美。
こんなにすさまじいセックスは、夫・幸太との営みでは考えられなかったことだ
未曾有の快楽に押し流されて、仁美は我を忘れそうになる。
「ひ、仁美!・・・やめろ!もうやめてくれ!」
悔し涙を浮かべながら訴える幸太。
ぎりぎりと音をたてて絡みついた糸がきしむ。
その音の大きさが、幸太の無念さを物語っていた。
「あ・・・あなた・・・仁美は・・・仁美は大丈夫です・・・う、うぐっ!!」
幸太の声にはっと我に還る仁美。
蜘蛛男に翻弄されて虚ろに宙を漂っていた視線にもしばし光が戻る。
愛する夫のため・・・耐えなければ・・・
「ケケケケ・・・妬けるねぇ・・・愛するダンナのために陵辱に耐えしのぶ人妻ってところか・・・
しかし、いつまでもつかな・・・ケケケケケ!」
蜘蛛男の腰のグラインドが激しさを増す。
改造人間の強靭な足腰は人間のセックスなどとは比べものにならないほどの快美の炎を呼び起こすのだ。
「ああっ!・・・ま、また!・・・は、はやくイって頂戴!おねがい!早く終わって!」
仁美は、気も狂わんばかりの快楽に襲われる。
飲み込まれまいと必死で声をあげるのが精一杯だった。
「ケケケケ・・・ほうれ!いくぜ!よぉく、味わえよ!仁美!」
「あ!だめ!中に・・・中に出しちゃ・・・ああっ!」
思わずずり上がり逃げようとする仁美の腰を鷲づかみにし、屹立をいっそう深くねじ込む蜘蛛男。
「ああっ!!!」
仁美のあえぎ声が大きく響き渡り、二人の結合がさらに深まる。
ズピュッ!
「ひぐぅっ!・・・あ、熱いッ!!!」
子宮口まで迫った肉塊の先端から、仁美の最奥めがけて蜘蛛男の精が爆ぜる。
それは糸を引くほどに粘度の高い濃厚な精液だ。
「ケケケケ・・・全部受け止めてくれよ、仁美ぃ・・・ケケ」
蜘蛛男の精は、ドクンドクンと音を立て、仁美の子宮口に注ぎ込まれてゆく。
「い、いやぁ・・・もう離れてぇ・・・もう出さないでぇ・・・」
いったいいつまで続くのか ―
蜘蛛男の射精は途切れる気配がない。
突然 ―
「あ・・・ああああ・・・・??」
蜘蛛男の精液を最奥に飲まされ続けていた仁美の体に変化が現れた。
「ケケケケ・・・どうやら始まったようだな」
「な・・・なんなの・・・いやぁ・・なにこれぇ・・・?」
気がつくと仁美の美しい裸身全体に緑と赤の縞模様が現れていたのだ。
そして全身を覆うようにざわざわと生えてくる、うっすらとした毛 ―
「ひ、仁美・・・」
幸太も、悔しさに泣きはらした顔を思わず硬直させ、仁美の変化に目を瞠った。
「ケケケケ・・・これが俺に授けられた新しい力 ― 改造能力だ。
仁美、お前は俺と同じ、ショッカーの改造人間になるのだ」
「か、かいぞう・・・にんげん・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
い、いやぁぁぁぁぁ!!!」
やっぱり・・・あのときのレリーフの声との契約を、この蜘蛛男は・・・
「ケケケケ・・・もう遅い。お前は生まれ変わり、俺のパートナーとなるのだ」
仁美の両手の爪は次第に鋭く伸びてゆきカギ形となり、両脚は指が無くなりハイヒールの様に変化していった。
「ひ・・・ひぃぃ!!・・・」
体の紋様に加え、仁美は自分の変貌を目の当たりにし、驚愕する。
そのショックからか、狂ったようにひときわ大きく声を上げると、仁美はそのまま気を失ってしまったかのようにがっくりと頭を垂れた。
蜘蛛男は相変わらず小刻みに腰をグラインドさせ、濃厚な精を送り込んでくる。
「仁美!し、しっかりしろ!だいじょうぶかっ!」
幸太が叫んだ。
蜘蛛男の腰の上でピクリとも動かなくなってしまった仁美を案じているのだ。
「ケケケケ・・・どうした仁美?愛するダンナがお呼びだぞ?顔を上げてやらないか?」
仁美は、蜘蛛男に促され力なく顔を上げる。
纏め上げていた髪の毛が、蜘蛛男が送り込む律動でほどけ、ハラリと仁美の横顔を覆っている、
そのため、幸太の位置からでは仁美の表情が読み取れない。
しかし蜘蛛男には仁美の顔が見えるのか、彼女を見下ろしながらニヤニヤと笑っている。
「ケケケケ・・・ほれ、ダンナにお前のその美しい顔を見せてやれ」
蜘蛛男が仁美のアゴを掴み、幸太のほうへ向けさせる。
「ひ、仁美・・・あああ」
驚愕する幸太。
虚ろな表情でこちらを見ている仁美の口元には、左右から大きな牙が伸びていたのだった。
「ああ・・・あなた・・・あ、あたし・・・」
仁美が言葉を発するたびに、鋭く大きな牙はニョキニョキと口元で踊りだす。
上品だった仁美の唇は、牙の生え際でめくりあがり、信じられないような淫猥な表情を作り出している。
「ケケケケ・・・ほうれ、これで仕上げだ」
ドッ・・・クン・・・!!!
蜘蛛男の肉棒から、今までにないくらいの濃厚な精が放たれた。
それは仁美の体を駆け上り、血液脳関門を易々と通り抜け、仁美の脳髄に直接染み渡るのだ。
「あ!・・・あがぁぁっ・・・!」
仁美は大脳に直接突き刺さる未曾有の快楽に思わず大きく仰け反った。
その視線は虚ろに宙を舞っている。
「あ、ああ・・・」
仁美の口から絶え間なくうめき声が漏れ、そしてそれは、次第に妖しい響きを湛え始めるのだった。
「・・・ケ・・・ケケ・・・」
「ひ、仁美・・・?」
仁美の口から漏れる不気味な笑い声に幸太は耳を疑った。
まるで目の前の蜘蛛の化け物のようなうめき声だ。
しかし、その声はたしかに仁美から聞こえてくるのだった。
「ケケ・・・ケケケケケ!!!」
ひときわ大きく、蜘蛛男と同じような笑い声を響かせたかと思うと、仁美は大きな牙の生えた口元をにやりと歪ませた。
ギュ・・・イィィィィ・・・・・ン・・・!
そして、それまで虚ろに宙を見つめていた仁美の目は、細胞配列が激変する音とともに形を変え、たちまちのうちに三つの六角形の複眼と化したのだった
気がつくと、すでに頭の両脇からは二本の触角が伸びており、しなやかにくびれたボディからは左右に2本ずつの節くれだった禍々しい脚が生えている。
まさに仁美は、自分を陵辱している蜘蛛の化け物の女性版に変貌したのだった。
「あ・・あああ・・・ひ、仁美・・・くっ!くそぉぉ!きさまっ!仁美を!仁美をもとに戻せ!」
怒りに我を忘れ、声を限りにもがく幸太。
ぎりぎりと、幸太を拘束している蜘蛛の糸が軋んでいる。
「ケケケケ・・・どうやら完成したようだな、これでお前は俺のもの。仁美、気分はどうだ?」
目の前で蜘蛛女と化した仁美を嬉しそうに見つめる蜘蛛男。
「ケケケケ・・・最高の気分よ・・・さっきからおマンコが疼いちゃってたまらないの・・・
”あなた”のミルクをもっともっと飲んでいたいわ・・・ケケケケ」
信じられないような卑猥な言葉を吐く仁美。
蜘蛛男の巨根を味わいつくそうと、すでに自ら腰を動かし始めている。
「ケケケケ・・・たまらんセリフだな・・・いいだろう、たっぷりと俺の精を味わうがいい」
蜘蛛男の腰にも一段と力がこもる。
「ケケケケ・・・アタシが搾り出してあげるわよ」
仁美は美しいボディラインの両脇から生える4本の脚で蜘蛛男の体を抱きかかえると、今度は自分のほうからいやらしく腰をグラインドし、蜘蛛男を攻め立てる。
ワチュワチュと卑猥な音を響かせながら、仁美の女唇は蜘蛛男の屹立を飲み込み、吐き出し、また飲み込む。
淫猥な抽送を繰り返した。
仁美の魅惑的なヒップが淫らに上下する。
「ケケケケ・・・たまらんぞ、仁美、お前のおマンコは最高だな・・・ケケケケ」
「ケケケケ・・・そうでしょう?あなたは幸せモノよ、蜘蛛男・・・ケケケ」
まるでずっと昔から恋人同士だったかのようなセリフを交わす二人、いや、二匹だ。
「や、やめろ!やめてくれ!仁美ッ!」
すでに異形の生き物と化し、蜘蛛の化け物と淫猥な交わりを演じる仁美に、頭を振り乱しながら懇願する幸太。
「ケケケケ・・・そういえばあそこの男がお前を元にもどしてくれとか言っていたな。人間に戻りたいか?仁美」
「ケケケケ・・・冗談じゃないわ、私はもう仁美なんて女じゃないの。
ショッカーの蜘蛛女なのよ。人間に戻るなんて考えたくも無いわ」
腰を振りながら快楽をむさぼる仁美。
その姿は幸太に絶望を与えるのに充分だった。
「ああ・・・仁美・・・仁美ぃ」
「ケケケケ・・・うるさい男ね・・・」
仁美は、ゾッとするような一瞥を幸太にくれながらつぶやく。
そして蜘蛛男には甘えるようなまなざしを投げかける。
「ケケケケ・・・ねぇ、”あなた”?」
愛しい者へ語りかけるような甘美な響きを含んだ艶っぽい声だ。
「ケケケケ・・・なんだ蜘蛛女?」
「ケケケケ・・・あそこの鬱陶しい下等な生き物、始末しちゃってもいいかしら?」
仁美は口元の牙を一層鋭くむき出しにしながら蜘蛛男に訊ねた。
「ケケケケ・・・言ったろう?約束通り俺はいっさい手出しをせん。あの男はお前の自由にするがいい。」
蜘蛛男も牙をむき出しにしながらニヤニヤと仁美に答えた。
「ケケケケ・・・ええ、そうしますわ、“あなた”」
ジュプルッ・・・
グチョグチョに濡れそぼった女唇から、卑猥な音ととも蜘蛛男の屹立を抜き取ると、仁美は名残惜しそうに蜘蛛男の体からはなれた。
そうして、ゆっくりと幸太に近づいてゆく。
蜘蛛男の糸に絡みとられ身動きのできない幸太を冷徹な目で見下ろすその姿は、もはやさきほどまでの仁美ではない。
「ケケケケ・・・どう?生まれ変わった私の姿。私は蜘蛛女。愛する蜘蛛男のパートナーよ」
「ひ、仁美・・・お、おまえ・・・」
幸太には何がなんだかわからない。
「ケケケケ・・・もはやお前には用は無いわ・・・」
仁美の口から糸が伸びる。
「ウグッ」
糸はすぐに幸太の首に巻きつく。
「ケケケケ・・・お前のようなクズは生きている資格などないのよ・・・死ねッ!!」
蜘蛛女は糸をクイッと引いた。
「アガッ」
糸はあっけなく幸太の首を切り落とす。
血が飛び散って幸太の躰は床に転がった。
「ケケケケ・・・あーあ、やっちまったか・・・残酷なヤツだな、蜘蛛女・・・ケケケケ」
そんな戯れを言いながら、蜘蛛男は彼女の肩を抱き寄せる。
「ケケケケ・・・あら、だってこの男は私の好きにしろって言ったじゃない、蜘蛛男ったら意地悪ね、ケケケケ」
蜘蛛男に甘えるように蜘蛛女はもたれかかる。
「ケケケケ・・・そうだったな・・・
ところで、おまえがさっき部屋の外へ出したガキはどうする?すでに戦闘員が確保しているが」
「ケケケケ・・・どうでもいいわ。下等な生き物のガキになんか興味ないもの。
でも、アジトに連れて行けば我がショッカーの実験材料ぐらいにはなるんじゃない?」
足元に転がる幸太の死体を踏みつける蜘蛛女。
「ケケケケ・・・こんな役立たずの男の妻だったなんてぞっとするわ。あなたに蜘蛛女にしていただいてよかったわ」
蜘蛛女と化した仁美は心の底からそう思った。
「ケケケケ・・・これからは俺とともにショッカーに尽くし、邪魔な人間どもを片っ端から始末するのだ。いいな」
「ケケケケ・・・ええ、喜んで。私はショッカーの蜘蛛女。そして愛するあなたのパートナーだからね、ケケケケ」
こうして身も心もすっかり蜘蛛女と化した仁美は、口元から鋭い牙をむき出しにして、幸せそうに笑った。
完
- 2006/09/12(火) 21:07:04|
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ローネフェルトの続きですー。
ドゾー
「ギレン総帥が戦死?」
私は耳を疑った。
それじゃ戦いは終わりなの?
しかし、私の周囲では変わらない殺戮が繰り広げられている。
見たことの無い角ばったスタイルで動力パイプがむき出しになった09Rがヒートサーベルを振るっている。
どうやら改良型のリックドムみたいだ。
『詳しいことはわからないわ。ただ、艦隊司令部はキシリア閣下の指揮下に入ったわ。ただ困ったことが・・・』
この乱戦の中でしっかりとレーザー通信を確保してくれている。
いまさらながらブリュメルの要員の腕の良さを思わせるわね。
「困ったこと?」
『ええ・・・グワデン座乗のデラーズ大佐が艦隊の再編成を行っているわ。ブリュメルも麾下に入るように呼びかけてきているの』
こんな時点で再編成?
混乱に拍車をかけるだけではないの?
「どういうこと?」
『わからないわ。ギレン総帥の志を継ぐものは参集せよって言ってるわ』
リーザが肩をすくめている。
『お姉様、来ます!』
パットが私の肩を掴んでくる。
見ると部隊を集結させた小規模な連邦の戦隊が向かってくるところだ。
『こちらも支援に徹するけど、そちらも頑張って。何かあったらまた連絡するわ』
「了解」
私は画面の向こうのリーザにうなずいた。
背後の要塞はすでに各所で陸戦が始まっている。
表面からはあちこちで火を噴いているのだ。
私は集めたモビルスーツを臨時に指揮を取る。
最後の一暴れ・・・ね。
ビームサーベルが巡洋艦の横腹を切り裂いていく。
ノーマルスーツを着た乗組員たちが空間に吸い出されていく。
私はそのままエンジン部にサーベルを突き立てた。
爆発が広がって行く。
私はその船体を蹴って離れ、爆発を避けて行く。
『大尉!』
『うおっ!』
私は一瞬自分が呼ばれたのかと振り返る。
一機の14が右腕を吹き飛ばされる。
青と緑のゲルググか・・・
どうも14に乗るパイロットは腕を吹き飛ばされるのかしらね。
私は苦笑した。
『大丈夫ですか? 大尉!』
『む、不覚。流れ弾を食らうとは・・・カリウス、私はいったんドロワに戻る』
『ドロワは応答しません。この位置ではグワデンの方がよろしいかと』
『わかった。グワデンに後退する。連邦の雑魚どもめ、待っているがいい!』
後退して行く青と緑の14を私は何となく見送った。
!
とっさにレバーを引き私は15の位置を変える。
砲弾が集中して脇をかすめて行く。
「どこから?」
私は周囲を操作する。
あれか。
ボールの集中射。
私は一団となって撃ってくるボールの編隊を見つけていた。
「はずしたか。ミスティ、アナスタシア、来るぞ!」
俺は二人の部下に注意を促す。
ジムに気を取られている敵モビルスーツを、遠くから集中射で撃ち落すという戦法はなかなか効果を上げていたが、こちらに気が付かれては難しくなる。
混戦となってしまった今ではジムも分散してしまっていて、このあたりに駆けつけてくれそうな機体は無い。
『中尉殿・・・ホワイトベースが・・・』
ミスティの泣きそうな声が入る。
「ミスティ、余計なことに気を取られるな!」
俺はそう言いつつも画面の一部を切り替える。
あれは・・・
ホワイトベースが・・・強行上陸?
画面に映るア・バオア・クーにのし上げるホワイトベース。
なんてこったい・・・
『中尉殿!』
アナスタシアの声にわれに帰る。
紫の鎧騎士・・・
いつか出会った奴か?
手強いぞ、これは・・・
私の周囲に二機の09Rが寄ってくる。
すでに二人ともヒートサーベルを構え、バズーカは手放している。
おそらくは数機を屠ってきたことだろう。
心強い二人をバックに私はボールに突っ込んで行く。
直撃さえしなければボールなどは・・・
砲弾がすり抜けて行く。
軌道を読まれさえしなければこっちの・・・
私はとっさにシールドを構えた。
マシンガンの弾がシールドで炸裂する。
コクピットに衝撃が走る。
正確な射撃だわ。
シールドで受けてよかった。
私は機体をひねって軌道をずらす。
あれか・・・
黄色いジム?
いつぞやの?
「アヤメ、パット、ボールは任せるわ」
私は現れた強敵目掛けて15を駆った。
「嘘だろ・・・」
俺は目にしたものが信じられなかった。
黄色いジム・ライトアーマー。
肩口に付けられた機体番号12は間違いなく彼女のものだ・・・
ソフィア・・・なのか?
『お待たせ』
スピーカーから声が入る。
畜生・・・
生きていたのかよ・・・
接近する黄色のジム。
運動性は通常のジムとは違う。
これはただの敵ではない。
強敵だ。
私は懐に潜るべく15を接近させる。
マシンガンを構える黄色のジム。
私はシールドを構えて突入した。
マシンガンの弾ごときではこのシールドは破壊できない。
無論、ロケット弾が入っていればただではすまないんだけどね。
私はそのままビームサーベルを突き出した。
- 2006/09/11(月) 20:43:16|
- ガンダムSS
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北海道日本ハムファイターズがプレーオフの進出を決めました。
このまま優勝まで突っ走って欲しいですね。
その相手が阪神タイガースなら言うこと無いんですが・・・
どちらにしても新庄のラストイヤーですから、優勝で締めさせてあげたいものです。
もしかしてまだ新庄って優勝未経験・・・ですよね?
さて、ここ数日なんだかんだとボケボケでSSがまったく書けておりません。
グァスも手付かずだし、ローネフェルトも止まっているし・・・
困ったものですー。
書きたいものだけは増えて行くのになぁ。
ということでマンガの紹介を。
池田理代子作「エロイカ」(婦人公論連載時。文庫名は「栄光のナポレオン-エロイカ」)
私は婦人公論連載当時からのこの作品のファンであり、中公コミックスーリのコミックス版を揃えているのですが、あの「ベルサイユのバラ」の流れをそのまま汲んだナポレオンの生涯を描いたものですね。
「ベルサイユのバラ」でオスカル・フランソワの部下として活躍したアラン・ド・ソワソンや、ジャーナリストとして描かれたベルナール・シャトレなどがそのまま登場し、ナポレオンを彼らの視点で見て行くような作品です。
もちろんマンガですから、史実とは異なる部分も多分にありますが、大まかなナポレオン像を知るにはいい作品ではないでしょうか。
残念ながらアランもベルナールも途中で退場してしまいますが、それ以上に実在虚構取り混ぜた人物が多彩に出てきて面白いです。
ナポレオンが亡くなるまで描ききってあるので、史実の流れを追うには問題ありません。
よかったら手にとって見て欲しいと思います。
ベルバラももう一度手に入れなおそうかなぁ・・・
それではまた。
- 2006/09/10(日) 19:46:54|
- 本&マンガなど
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列車砲という兵器をご存知でしょうか?
戦艦の主砲ぐらい大きな大砲を、貨車の車台に固定してレール上を走らせ、適当な場所で敵陣を砲撃するという思想の下で作られた巨大大砲です。
鉄道は当初からその大量輸送力を買われ、軍事行動には欠かせないものとなりましたが、レールさえあればどこへでも走ることができ搭載量も大きい鉄道は、大砲を載せるベースとしても使えるのではないかと考えられたのです。
実際に列車砲が実戦に使われたのはアメリカ南北戦争で、強化した台車に32ポンド砲を乗せた簡易型の列車砲を北部連邦が使用しました。
簡易型だったにもかかわらず、使用実績は良好で、ヨーロッパ各国も注目するようになった列車砲は、以後さまざまな形のものが造られるようになりました。
第一次世界大戦では戦艦の主砲を取り外して造られた列車砲が、お互いの塹壕陣地や要塞目掛けて撃ちあいを行い、第二次世界大戦でもわずかですが列車砲は活躍しました。
中でも最大のものが80センチ巨大列車砲「グスタフ/ドーラ」でしょう。
複線をまたぐように据えられた四台の貨車の上に設置され、最大7トンもの砲弾を撃つことが出来ました。
ソ連軍の要衝セバストポリ要塞を攻撃した時には、地下30メートルの弾薬庫まで砲弾が到達し、弾薬庫を破壊したという実績を持ちます。
お披露目の際にはヒトラーに取り入ろうとした側近が「戦車も撃てます」と豪語したそうですが、「撃てても当たりませんぞ」とすぐに否定されたらしいです。
撃つだけで数千人が必要な巨大大砲。
映像で見る分には確かに迫力あります。
でも、線路を独り占めし、撃つためには引き込み線などを作らなきゃいけない列車砲は、やはり運用上で不都合が多く、ミサイルなどの発達により姿を消します。
大きな大砲はやはり男のロマンなんですけどね。
航空機やミサイルにはかなわなかったようですね。
それではまた。
- 2006/09/09(土) 22:18:13|
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洋の東西を問わず、戦争は人間だけで行なわれたものばかりではありません。
戦場には多くの動物たちが人間のために働かされるべく駆り出されます。
一番一般的なのは馬でしょうか。
馬は騎兵として人を乗せたり、補給用の荷馬車や大砲を牽いたりと、それこそ馬無くしては人間は戦争などできなかったと言っても過言では無いかもしれません。
馬と同様の使われ方をしたものにラクダやロバなどもありますが、その大きさゆえに攻撃力を期待されたものが象でしょう。
古代の戦争には戦象部隊が関わったものが多くありますし、かの有名なカルタゴのハンニバル将軍も戦象部隊を引きつれてアルプス越えなどしておりますね。
城攻めの時に蜂や毒虫、サソリなどを城内に放すこともあったそうですし、通信用にはハトなどが使われるのは有名です。
中でも犬はその嗅覚によって爆発物を探させたり、侵入者を探したりといろいろに使われるわけですが、第二次世界大戦中のソ連では背中に爆薬を背負わせた地雷犬を使いました。
エンジンのかかったトラクターの下でしか餌をもらえない犬たちは、パブロフの条件反射の法則によって、餌があると思われた戦車の下にもぐりこもうとします。
最初の数匹は効果を上げたようでしたが、すぐにドイツ軍は犬を手当たり次第に射殺するようになり、効果が薄れたといいますし、時には味方の戦車にもぐりこむこともあったそうですね。
ただ、犬が爆薬を背負っているという話はドイツ軍にはある程度の恐怖を与えたそうです。
スウェーデンでは潜水艦に近づくように訓練されたアザラシに爆薬を仕掛け、Uボートに対抗しようとしたこともあるそうですが、こうした動物の使い方はあまり好きにはなれないですね。
何にせよ、人間の都合で戦争に駆り出される動物たちもいい迷惑かもしれません。
それではまた。
- 2006/09/08(金) 21:52:45|
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第一次世界大戦で活躍した潜水艦ですが、もちろんその後各国ともにその改良や運用方法を改善してきたことはいうまでもありません。
無制限潜水艦戦争、いわゆる潜水艦による通商破壊戦を考慮したドイツは、高価な魚雷は商船相手にはもったいないということで、88ミリ砲を搭載し浮上砲撃で沈めるというやり方をとろうとします。
もちろんこれは、第二次世界大戦では航空機などによる対潜攻撃が盛んになった中期以降は使えない攻撃方法でしたが、潜水艦に大砲を載せて敵艦船を攻撃するというのは、第二次世界大戦が始まる前までは各国が考えていたことだったようです。
その考えの究極の一つがフランス海軍が1934年に竣工させた潜水艦「シュルクーフ」でしょう。
当時世界最大のこの潜水艦は、水上排水量が3300トンもありました。
ちなみに、ドイツのUボートは一番数多く作られたⅦC型で760トンぐらいですから、いかに潜水艦として大きかったかということですね。
それもそのはず、この「シュルクーフ」には重巡洋艦と同じ20センチ砲が2門搭載されていたのです。
上部構造物に固定されているため、旋回することはできませんが、いきなり駆逐艦よりも大きな潜水艦が浮上してきて、重巡洋艦の主砲を撃ったらそりゃあ驚くことでしょう。
フランスはこの潜水艦で通商破壊を行なうつもりだったようですが、商船相手には強力すぎるこの主砲をどう使うつもりだったんでしょうね。
まさか巡洋艦と撃ち合うつもりでは無いでしょうし・・・(そんなことするぐらいなら魚雷を使うでしょう)
実際フランスもあまり使い勝手がよくなかったのか、同型艦は造られませんでした。
実際に第二次世界大戦が始まったとき、「シュルクーフ」には出番がなく、そうこうしているうちにフランスはあっけなくドイツに降伏。
「シュルクーフ」はフランスを脱出し、イギリスに向かいますが、イギリスによって拘留。
その後自由フランス軍の潜水艦としてメキシコ湾で哨戒行動中に、なんとアメリカの商船と衝突。
あっけなく沈没してしまいます。
商船を沈めることを期待された潜水艦が商船に沈められる・・・(まあ、攻撃されたわけではないですが)
これもまた戦争の皮肉かもしれませんね。
それではまた。
- 2006/09/07(木) 21:54:12|
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「グァスの嵐」第十一回目です。
この提督は書いていて楽しいですねー。
こんなクソ野郎は滅多にいないと思います。
どんな先が待っているのか楽しみです。
11、
「マスターーー!」
ミューは力の限り叫ぶ。
音声伝達以外のコミニュケーション手段を持たない人間とは言葉で意思疎通をするしか無い。
だが、音声でのコミニュケーションはきわめて限定的だ。
外界のさまざまな音がすぐに音声をかき消してしまう。
ミューの叫び声も風の流れに飲み込まれてしまうようだ。
「マスターーー!」
足元には何も無い。
ミューの躰は前後にくくりつけられた木片によって宙に浮いているのだ。
海に放り出されたとき、わずかながらの可能性にかけて人は木片にしがみつく。
運がよければ通り掛かった船に助け出されるかもしれない。
しかし・・・
大半の場合はじょじょに沈んでいって密雲に飲み込まれるか、朽ちるまで漂い続けるかの二つに一つだ。
船乗りはたまに嵐で難破したまま漂い続ける幽霊船に出会うことがある。
もちろん長いこと海に浮いていれば、フナクイムシやバクテリアによって船も遺体も朽ちて行く。
朽ちる前に発見されたりしたものは幽霊船と呼ばれるわけだ。
ミューはおそらくそう簡単に朽ちることは無いだろう。
だが、彼女を浮かせている木片が朽ち、彼女の躰を密雲の中に飲み込ませてしまうだろう。
「マスターーー!」
ミューからどんどん遠ざかって行く蒸気船。
プロペラはもう回ってはいない。
ボイラーの修理はミューがいなくてはできないはずなのに・・・
マスター・・・どうして・・・
「艦長! 目標から人が落ちました!」
「なんだと!」
思わず船首へ走り出すシファリオンの艦長。
「どこだ!」
見張り員のところへ駆け寄り、前方を注視する。
船から落ちるということは死ぬということに等しいのだ。
普段帆桁の上で機敏に動いている船員たちだって場合によっては命綱を付ける。
空と海の区別の無い空間なのだ。
落ちたらまず助からない。
「あそこです!」
見張り員が指差した場所が空中であることにホッとする艦長。
浮いている。
躰に木がくくりつけられているのだ。
それが浮き輪のように躰を浮かべているようだった。
「よかった・・・救助に向かうぞ、船を向けろ」
「その必要は無い、艦長」
背後から掛けられた声に艦長は振り返った。
「提督・・・」
「聞こえなかったのか、艦長? 必要ないと言ったのだ」
自航船の方をまっすぐ見ている提督は艦長の方を向きもしない。
「提督、お言葉ですがあれをご覧下さい! あそこにはなすすべもなく海に浮いている人がいるんですぞ! しかも、よく見れば幼い少女のようではないですか? それでも救助は不要だと・・・」
左舷前方に浮かんでいる少女を指差す艦長。
士官たちもすでに救助するべく縄梯子や毛布を用意し始めている。
「君はわからんのか? それこそが奴の時間稼ぎの手段ではないか! 少女だと? 人形だったらどうするのかね? くだらんことはやめて全速で自航船を追うんだ!」
人形?
そのようなものをわざわざ積んでいる船があるものか。
「提督・・・お願いです。救助活動の許可を下さい。私にも娘がおります。提督にだって可愛いお孫さんがいらっしゃるじゃないですか。お孫さんが海に落ちたら何をさておいても救助なさるでしょう?」
必死に訴える艦長。
一刻を争うのだ。
今この瞬間にもくくりつけた木片が外れてしまうかもしれないでは無いか。
「艦長。君はワシの可愛いジュディッタとあそこに浮いている汚い小娘と一緒にするつもりかね! そんなことは神が許さんよ!」
提督が艦長をにらみつける。
艦長は唖然とした。
提督にとってはあそこで溺れている少女の命などは取るに足りないものなのだ。
「提督!」
「救助をするなとは言っておらん。自航船を拿捕したらあらためて戻って来ればよい。それに後続艦か民間船が救助してくれることは間違いない」
「一刻を争うんですぞ!」
「自航船の追跡も一刻を争うのだ! わからんのか!」
腰の剣に手を伸ばす提督。
これ以上は無駄だ・・・
艦長は決意した。
「艦を少女に向けろ! 救助する!」
「艦長!」
提督の怒鳴り声に艦長は首を振った。
「もはやあなたには付き合いきれません。私は船乗りです。海で溺れているものを放っておくことはできません」
「副長、艦長はお疲れだ。自室で休んでもらいたまえ!」
背後に控える副長に提督は振り向いた。
「かしこまりました。提督」
副長がうなずき、屈強な二人の船員が前に出る。
「バカな・・・副長・・・君は・・・」
衝撃を受ける艦長。
このようなときに提督に取り入るつもりか?
「あの娘を救助するんだ! 私に構わず救助を!」
「艦長、こちらへどうぞ」
他の士官たちに向かって叫ぶ艦長の両脇を二人の水兵ががっちりと掴む。
ベルトから剣を取り上げ、そのまま艦長を後部の船室へ連れて行く。
「私に構うな! 救助を・・・」
「ふう・・・艦長・・・残念だよ。副長、追撃を続けたまえ」
連れて行かれる艦長を哀れむように見やり、三角帽を取り頭をかく提督。
「何をしている! 追撃だ!」
副長が周囲を威圧するように怒鳴り、水兵たちは肩をすくめるようにして持ち場に戻る。
「提督、追撃を続けます」
「うむ。どうやら君は副長という立場より上の立場に向いていそうだ。君の事は海軍本部にも伝えておくよ」
「ありがとうございます」
頭を下げる副長。
ギャレーは速度を落とすことなく自航船のあとを追った。
ミューの見ている前でギャレーは通り過ぎて行く。
「マスター・・・」
ミューには何もできない。
彼女の持つ武器ならギャレーを焼き払うこともできるだろう。
だが、彼女の独断で使うことは許されない。
彼女は誰かに命じられて初めて行動を起こすことができるのだ。
「マスター・・・どうか・・・ご命令を・・・」
ミューはつぶやいた。
だが、答えはなかった。
思ったとおりじゃったな・・・
老人は胸をなでおろした。
おそらくはこちらへ向かってくるものとは思っていたが、万一ミューが軍人たちの手に落ちることになっていたら・・・
そのときは蒸気機関と引き換えにミューを解放するつもりだったのだ。
だが、単細胞の軍人たちはミューを無視してこちらに向かってくる。
これで心置きなく死ねるというものじゃな・・・
老人はそう思っていた。
いっぱいに張られた帆がはためいている。
小さなこの船には充分ともいえる推力を与えてくれているのだが、所詮はギャレーの全速にはかなわない。
だが、できるだけ引き離さなければ・・・
ミューが誰かいい人に拾われるように・・・
軍人なんぞの手に落ちないように・・・
ミューの知識はこんなものではすむまい。
おそらくこの世界をまったく変えてしまうに違いない。
この世界の人間が自分で考え、自分で編み出したものが世界を変えるのであれば仕方が無い。
しかし、ただ与えられた知識と技術をもてあそぶのは危険すぎる。
特に軍人には・・・
やれやれ・・・
「こんなものを使っているワシが言っても説得力が無いのう」
老人はすでに動かなくなったボイラーを眺め、ワインのボトルを傾ける。
いまさら気が付くとは情け無い。
「蒸気機関ぐらいはと思っとったが・・・」
ワシが甘かったのう・・・
蒸気機関を広めればその背後のミューの存在に遅かれ早かれ気が付かれてしまう・・・
そのことに思い至らなかったとはのう・・・
やれやれ・・・
取って置きのワインじゃったのに・・・
老人はボトルのラベルを見る。
4215年製。
娘の生まれた年だ。
あれからもう三十六年。
「マリアンジェラ・・・リリアーナ・・・」
妻と娘の名をつぶやく。
もはや手の届かなくなっていた存在だが、もうすぐまた会える。
「止まれー!」
近づいてきたギャレーからの声が聞こえてくる。
残った時間はもうわずかだった。
風を切って走る小さなファヌー。
今日は天気もいいし風も上々だ。
サントリバルまでの航海はきっと順調だろう。
船首では、前方に突き出したマストに広がる帆をゴルドアンが四本の腕で器用に操り、フィオレンティーナはぎらつく陽射しを避けて、狭い船室でうたた寝をしている。
船尾で舵を操りながら、エミリオは風に当たっていい気分で過ごしていた。
このあたりは島々の間も多少は開き、沿岸航海の小型船にとってはつらいところでもある。
油断するわけには行かないが、この天気なら問題は無いだろう。
前方には一筋の雲がたなびき、眼下の灰色の密雲とは好対照を成している。
「航跡雲だな。船が通ったばかりなんだろう」
左舷に一本糸を引いたような雲を見つけ、ゴルドアンが指を指す。
エミリオもそっちを見て、航跡を引いた船が豆粒のように遠くに浮いているのを見つけた。
「あれがそうじゃない? ギャレー船のようだけど」
「そうだな、ギャレー船だ。軍艦かな?」
遠くを指差すエミリオに、ゴルドアンも手をかざしてそれを認めた。
「軍艦がこんな所にいるなんて珍しいね。何かあったのかな?」
「さあな・・・ん?」
「どうかした? ゴル?」
エミリオが振り向く。
「あれは・・・おい、エミリオ! あれは人じゃないか?」
「人?」
ゴルドアンの指差す先をすぐに見る。
航跡雲の近くにぽつんと黒い点が浮いている。
エミリオは青ざめた。
「人だ! 人が落ちたんだ!」
「まだ浮いている! 向かうぞ!」
ゴルドアンがすぐに帆の向きを操作する。
エミリオもすぐさま舵を左に切り、船首を左舷に向けて行く。
ぐーんと躰が右舷に寄せられる感覚がして、ファヌーは船首をめぐらせた。
- 2006/09/06(水) 21:37:27|
- グァスの嵐
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| コメント:2
大正七年。
日本に初めての戦車が輸入され、報道関係に紹介されました。
そのときの新聞報道はいずれも『怪物現る』といった感じの報道であり、装甲を纏った装軌式車両を始めて見た人々の驚きを感じさせます。
当時輸入された戦車は英国製のマークⅣ戦車。
その砲塔の無い独特のスタイルから、菱型戦車と呼ばれたものでした。
『戦車』と言う言葉は日本陸軍の奥村大尉という方が考案したそうで、それまでは『タンク』とそのまま呼ばれたようですが、以後、戦車は日本の国民にも存在を知られ、陸軍の中心として活躍することになります。
当時は戦車は陸軍の中でも輜重科の所属でした。
輜重科というのは、主に補給を担当する兵站部門であり、戦車とはまったく相容れないものです。
しかし、陸軍の中にあって、当時自動車を扱っていたのは、輸送用のトラックを持った輜重科だけだったのです。
そのため、戦車は輜重科が扱うこととされ、後に独立するまで戦車を扱うことになったということでした。
さて、軍艦、航空機と並んで兵器としてのインパクトがある戦車は、軍の検閲の元報道にもしばしば顔を出すようになります。
特に太平洋戦争中は鉄牛部隊というあだ名を付けられ、マレーやシンガポールなどの南方方面で活躍するシーンがたびたび報道写真とともに新聞の紙面を飾ります。
ところが、新聞記者も編集部も戦車とは何かということを理解していないのか、それとも軍の報道をそのままただ載せているのか、時に『我が鉄牛部隊、マレーにて敵戦車二十数台撃破!』のような文字が紙面を飾ることになります。
当時マレー半島に居た英軍は戦車持っていないんですよね。
あったのは履帯を履いた牽引車、キャリアーだったんですね。
確かに薄いとは言え装甲板はあります。
しかし天井もなく、機関銃を一丁付けただけの牽引車では、戦車とは雲泥の差です。
そんなものが何両あったところで、95式や97式戦車の敵ではありません。
踏み潰されるのが関の山です。
つまり、単なる装甲牽引車をさも『英軍の戦車』を何両も撃破したかのように報道していたんですね。
まだ戦勝華々しい時期のことですから、検閲もそれほどではなかったと思います。
おそらくは戦車と装甲牽引車の違いがわからなかったのでしょう。
これは現代にも通じることでは無いでしょうか?
大砲が付いていれば装甲車も戦車も区別がなく、甲板が平らであれば空母も強襲揚陸艦も区別が無い。
現代の新聞報道も大差が無いと思います。
それでも最近はかなり改善されているかな?
日本では軍事に関わるものは全てタブー視されてきました。
でも、知らなければ判断も付かないと思います。
知った上で判断する。
軍事もそうだと私は考えます。
それではまたー。
- 2006/09/05(火) 21:31:12|
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ローネフェルトの続きですー。
ちょっとだけですけど、お楽しみいただければ幸いです。
前方で輝くいくつもの爆発光。
モビルスーツも艦船もそれぞれ人が乗っている。
あの光は死の光。
敵も味方も次々と死んでいっているということだ・・・
『お姉様ぁ、来ますわぁ』
その口調にホッとしている私がいる。
いつものアヤメだ。
この激戦の中でも自分を見失ってはいない。
少しは成長したのだろうか・・・
私は少し微笑んだ。
「アヤメ、パット、行くわよ!」
『『了解!』』
私は15を獲物に向けた。
黄色いビームの刃が装甲板を切り裂いていく。
06のヒートホークですら切り裂ける装甲だ。
15のビームサーベルに貫かれればひとたまりも無い。
ボールのパイロットは痛みを感じる暇もなく蒸発したに違いない。
すり抜けた私の背後で爆発するボール。
私は油断なく周囲の敵に切り込んで行く。
ロケット弾を装備したシールドはとっくに弾を失っている。
私の持っている飛び道具はあと一本のシュツルムファウストのみ。
戻ったらマシンガンを装備しなければ。
『うわー!』
『おかあさーん!』
通信機からは相変わらず叫び声が飛び込んでくる。
でも切るわけには行かない。
命令も同じ周波数で入ってくるのだ。
『くそったれー!』
「!」
聞き覚えのある声?
私はモノアイに周囲を走査させる。
ミノフスキー粒子下で通信が明瞭に聞こえる範囲は広くない。
遠くないところにいるはず・・・
私は苦笑した。
こんなときだというのに・・・
声しか知らない一人の男を捜しているなんてね。
ビームの直撃を受けて爆発する連邦のジム。
居た。
何となく温かいものを感じる。
絶対零度の冷酷な戦場で戦友の存在はなんと温かく感じるものか・・・
「うふふ・・・まだ片手なのね」
私の目の前に映し出されているのはMS-14ゲルググ。
しかも見慣れた片手の無い奴だ。
ヒル・ウエストエイト中尉。
生きていたんだわ。
『へへへっ、ここが見せ場だって言うのに見せる彼女がそばに居ないってか・・・』
相変わらずの軽口。
彼特有のリズムなのだろう。
パイロットにはいろいろなへんな癖を持つ者が結構多い。
中には戦闘の間中般若心経を唱えるものもいるというわ。
要は戦闘の最中に自己を律する手段の一つなのだ。
彼の場合はある意味それが独り言になっているのでしょう。
「ここに居るわよ、ウエストエイト中尉」
私は苦笑しながら声をかける。
『え? 今なんと?』
14のモノアイがこちらを認める。
『パープルのモビルスーツ・・・は、ははは・・・』
「久し振りね、中尉」
だが、突然14はビームライフルをこちらに向けた。
「えっ?」
14の指が動き引き金が引かれる。
オレンジ色のビームが一瞬にして私の15の脇を通り、私の背後に迫っていたジムを吹き飛ばす。
ウエストエイト中尉を認めて一瞬直進してしまった私を狙ってきたのだろう。
『ふふふ・・・油断ですよ。大尉殿』
「ダンケ。中尉」
私は右手の親指を上げる。
『よっしゃー! これで死ねなくなったぞー! 見てろ連邦めー!』
ウエストエイト中尉の14が右手をたかだかと上げた。
『何言ってるんですか~!』
パットの声が割り込んでくる。
『ええ?』
『お姉さまは男には渡さないわ!』
アヤメも怒鳴り込んでくる。
『えええ?』
困惑するウエストエイト中尉。
私は笑ってしまった。
これでは私にはボーイフレンドは作れそうに無いわね。
私は接近してきたMP-02Aのそばに行くと、こちらへ呼び寄せた。
少しでも戦力を集中し、局所的優勢を作り出すしかない。
一体連邦にはどれだけの戦力があるのか・・・
あの光は何かを変えることができたのか?
『こちらローエングリン! 船体破損がひどく戦闘続行不能! 戦場を離脱する』
『司令部! 司令部応答を! 司令部聞こえますか?』
『なんだ? 何でキシリア閣下が指揮を取られているんだ?』
『おい! 誰でもいいから指揮を取ってくれ!』
なんだ?
何かあったのかしら?
私は思わず要塞を振り返った。
- 2006/09/04(月) 21:13:57|
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夕べは友人宅でTRPGのマスターを行なってきました。
もうマスターを行なうこと自体は250回を超えているので、いつものごとくのプレイとなるのですが、今回はメッセでのプレイ用に作ったオリジナルシステムでのプレイでしたので、テストプレイ的な面も多少はありました。
まあ、なんと言っても友人連中も手馴れたもので、プレイそのものはスムーズだったんですが、やはりかかる時間が違いますねー。
メッセですと、文字打ちにかかる時間が多く、どうしても時間がかかってしまいます。
似たようなシナリオをリアルとメッセでやると、メッセのほうが倍ぐらい時間がかかりますね。
まあ、こればかりは仕方ないですが。
それにしても、パーティが違うと反応もまったく違いますよねー。
同じNPCが助けを求めても、それに対するリアクションがまったく違います。
マスターとしてはそれがすごく面白いです。
ストーリーを作るってのは楽しいですよね。
それではまた。
- 2006/09/03(日) 21:51:23|
- TRPG系
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パウダーモンキー
まあ、直訳すれば粉の猿・・・になるんでしょうか?
何の事だかわからない方が多いと思うんですが、英国海軍の木造帆走戦列艦や木造フリゲートに乗り組んで、船倉の火薬庫から、砲列甲板まで発砲用の火薬を運ぶ任務についていた少年水兵をこう呼びました。
彼らは10歳から12歳ぐらいの少年で、いわば将来の海軍軍人になるための見習い水兵として乗り組んでいるのです。(士官候補生とは違う)
小柄ですばしこい彼らは、砲撃戦の最中に下甲板と砲列甲板の間を、猿の用に飛び回るようにして発射薬を運んだことからパウダー(火薬)モンキーと呼ばれるようになったんですね。
火薬はもちろん火がつきやすい物質ですから、大砲をたくさん積んだ軍艦といえども、そこらに積んで置くわけには行きません。
当然大砲を並べた砲列甲板にも必要最小限の火薬しか置く事はありませんでした。
弾丸そのものは鉄の塊や、鉄球を束ねたもの(ぶどう弾)だったりするので、爆発したりする危険はなく、大砲のそばに一回の砲撃戦の分ぐらいは置いてあったのですが、発射薬はそうはいきません。
そこで砲撃戦が始まる直前には、掌砲長が発射薬の入った筒(弾薬筒)を扱う管理室へ入り、弾薬庫から運ばれてきた火薬を一つずつの弾薬筒に詰めていったのです。
パウダーモンキーの少年たちは、火の粉が入らない用に湿らせたカーテンの隙間から渡される弾薬筒を受け取り、砲列甲板へ走ります。
これは当然大砲の門数の多い戦列艦などでは手が足りなくなるために、場合によっては乗っていた女性がパウダーモンキーと一緒に弾薬筒を運んだりした事もあったそうです。
(なぜ女性が乗っていたんでしょうね? (笑))
戦闘時以外には、彼らは水兵の雑用を言いつけられるのが主でした。
そうして艦内のさまざまなことを覚え、ベテランの海軍水兵に育っていったのです。
幼い彼らがパウダーモンキーとなるにはさまざまな理由があったようですが、海軍は給料がよく、貧しい人々がたくさんの子を抱えてしまった時に口減らしの一環として送り込まれるとか、浮浪児を集めて海軍に入れたりというのがあったようです。
当時の英国海軍は花形の職業で、海軍出身者は社会的にも認知度が高く、地位や職や金を得やすかったので、親としては子を海軍に入れたかったというのはあったようですね。
当時の実際に帆船に乗り組んでいる人間にしてみれば、ロマンもへったくれも無いでしょうけど、こうやって想像の世界で帆船の乗組員たちを思い浮かべる時、ロマンを感じてしまうのは私だけでしょうか。
それではまたー。
- 2006/09/02(土) 19:28:57|
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「グァスの嵐」第十回目です。
ご都合主義きわまれり・・・かな?
10、
右舷前方に現れたギャレーをミューは素早く見て取った。
「マスター、軍艦です。接触は回避したほうがよいとミューは考えます」
「お? どうやらどこぞのばか者がこの船の噂を聞きつけてきたようじゃな。ミュー、左に進路をずらすんじゃ。逃げるとしよう」
老人も年を取って老眼となった目でギャレーを認める。
左右のオールを規則正しく前後させ、先端の四角い帆をいっぱいに張って高速で接近してくるのが見える。
だが、心配は無い。
こちらは蒸気をいっぱいにすれば13ノットは優に出る。
あちらのギャレーは確かに全速で10ノット前後は出るだろうが、所詮は人力。
おそらく奴隷種族のラーオン人を多く使っているのだろうが、それでも全力でオールを漕げるのは一時間がせいぜいだ。
逃げ切ることはたやすいのだ。
老人がさほどの危機意識を持たずに蒸気船で行き来していた理由はここにある。
空間で狙われたとしても、振り切る自信があったのだ。
「はい、マスター」
ミューは投入口を開いて薪をどんどんくべていく。
ボイラーの温度が上がり、水蒸気がどんどん発生していく。
その水蒸気がピストンを動かして後部のプロペラの回転が上がる。
ぐーんと蒸気船は速度を上げ、進路を左舷に向けていく。
どんどん右前方から右後方へと遠ざかり始めるギャレーに老人はつい笑ってしまう。
「わははは・・・お前たちのような軍人がこのテオドロ・チアーノとミューの乗る蒸気船に追い付けるものか」
その老人の笑っている顔を見てミューも微笑みを浮かべるのだった。
左右のオールが必死に空気を掻いているというのに、ギャレーはじょじょに引き離されつつあった。
最初は相手の右舷前方にいたはずなのだが、今では相手の右舷後方を追いすがるような形になっている。
「なんだ? 一体奴はどれだけのスピードを出しているのだ?」
風向きがよくないにもかかわらず、オールも無いのにすごい速度だ。
「10ノット以上はでています。奴は化け物か!」
提督の言を艦長が引き継ぐ。
「逃がすわけには行かん。速度を上げろ!」
「しかし・・・これ以上の速度は十分が限界です。いくら大半がラーオン人でも限度がある」
艦長が首を振る。
「十分で追い付けばいい! それに奴らは怠け者だ。ムチの二三発も食らわせれば黙って漕ぐさ」
「しかし提督・・・」
「黙れ! ここで奴を逃がしてみろ、ワシも君もただではすまんぞ」
艦長の胸に指を突きつけて威嚇するエスキベル提督。
「・・・・・・」
艦長は唇を噛んで黙ってしまう。
「命令を下したまえ艦長!」
提督の怒鳴り声が響く。
その様子に副長も航海長も肩をすくめる。
「・・・わかりました。副長、最大戦速!」
「了解! 最大戦速!」
「最大戦速!」
しぶしぶ出された艦長の命令が、順送りで下甲板へ伝えられる。
すぐにオールの動きが速くなり、ギャレーの速度が上がって行く。
「現在速度、8ノット」
「もっと出せんのか!」
「無理です。これ以上はとても・・・」
艦長は首を振る。
いくらなんでもこんな速度を続けていたのでは奴隷が死んでしまう。
「これでは逃げられるぞ」
歯噛みするエスキベル提督。
目の前から遠ざかって行く自航船を、ただ黙って見送るしかできないのか・・・
彼は三角帽を甲板に叩きつけた。
後方に遠ざかるギャレー。
その姿はかなり小さくなってきている。
このままで行けば、あと十分もすれば振り切れるだろう。
老人もミューもそう思った瞬間だった。
突然大きな音がして、水蒸気が吹き上がる。
「ミュー!」
噴き出した高温の水蒸気がミューの姿を覆い、老人は驚いて叫び声を上げる。
「マスター、来ないで! ミューはこのぐらいの温度は平気です」
駆け寄ろうとした老人を手で制するミュー。
ミュー自身の外装はこのぐらいの高温では損傷は受けないものの、老人は大やけどをすることが確実だからだ。
水蒸気が逃げていくにしたがって、後部で回転していたプロペラの回転速度が落ちて行く。
それにつれて船足も遅くなる。
「ど、どうなったんじゃ?」
「マスター、申し訳ありません。強度不足により、ボイラーにひびが入ってしまいました。充分な強度を確保ししきれなかったミューのミスです」
ミューのミス?
いや、そうではあるまい。
鉄の作りが悪すぎたのだ・・・
粗雑な鉄で作れば強度が不足するのは当たり前。
このボイラーを作成した時にミューはそう言っていたではないか・・・
マスター、ミューはこのボイラーにはあまり圧力をかけたくありません・・・と・・・
やはり農機具しか作ったことの無い鍛冶職人では、均質な鉄の板を作るなど無理な話だったのだ。
だが、今はそんなことを言っている場合では無い。
「ミュー、直すことはできるのか?」
「はい、マスター。でも、それには時間が三十分は必要です」
すでにミューはボイラーの火を落とし始め、腕に仕込まれているレーザートーチを作動させるべく左手首を折り曲げている。
「三十分・・・」
老人は後方のギャレーを見る。
その姿は先ほどまでとは違い、再び大きくなってきていた。
オールの動きも激しく、かなりの速度を出していることは間違いない。
三十分もあればここへは優にたどり着くだろう。
間に合わない。
「ミュー、作業を続けろ」
「はい、マスター」
ミューは老人にうなずき、微笑みを浮かべる。
人間に安心感を与えるにはそれが一番なのだ。
「任せるぞ」
老人はそう言って船の船首部へ行く。
そこにはまだマストが残されており、帆を張りさえすれば帆走が可能なようになっていた。
老人は帆を張り始めた。
「艦長、相手の船足が止まりました!」
船首で見張りについている水兵が声を上げる。
「なんと? 何があったのだ?」
「何があろうと構わん。これは神が与えたもうたチャンスだ。追い付いて拿捕するんだ!」
身を乗り出して大声を上げるエスキベル提督。
「提督、相手は動けない様子。少し速度を落とされては・・・」
艦長は下甲板でオールを漕いでいる奴隷たちを思いやる。
優しさから出たものではなく、単純に戦闘力を失いたくないだけなのだが、提督には通じない。
「黙れ! あと十分ぐらいだ! ムチ打って漕がせるんだ!」
「て、提督・・・」
艦長は絶句する。
提督とてかつては一艦の艦長であっただろうが、提督となった今ではそのことは忘れ去られたのか?
それとも艦長であった時からこうだったのか?
艦長にはわからなかった。
「目標は帆を張っている模様!」
「見ろ! 相手は油断ならん連中だ! 一刻も早く拿捕するんだ。」
「わかりました」
艦長は敬礼し、その場を離れた。
自分の無力がひしひしと身に沁みた。
老人がロープを止め具に縛り付ける。
ばたばたと帆がはためき、ゆっくりと蒸気船を引っ張り始める。
ギャレーはかなり接近してきていたが、まだ追い付かれるには距離がある。
だが、一枚の帆では所詮出せる速度はしれていた。
ほんの少し追い付かれる時間を稼げるだけのことでしか無いだろう。
彼らに追い付かれた時、どうなるのか・・・
奴らはおそらく蒸気機関の仕組みを知って近隣諸国への脅威となるだろう。
そうならないようにひそかに各国の技術者に蒸気機関を広めようと老人は考えていたのだった。
そして、それ以上に気懸かりなのは・・・
おそらく奴らはミューをそのままにはしないだろう。
一体どんな目に合わされることか・・・
老人は決意した。
レーザートーチがパチパチと音を立て、ボイラーのひびの周囲を切り裂いていく。
その閃光がまぶしくて目が眩みそうだ。
しかし、ミューはまっすぐにその光を見つめている。
「ミュー、どんな具合かな?」
老人はそっとミューを背後から抱きしめる。
「あ、マスター、危ないです」
レーザートーチを慌てて切り、ミューは老人の腕を掴む。
「ミュー。しばらくこうさせてくれんか?」
「はい、マスター。修理はあと二十分ぐらいで終了です。しかし、それから圧力を上げるには・・・」
「いいんだ・・・もういいんだよ、ミュー」
ミューの躰は温かい。
まるで作られたなんてのは嘘のようだ。
いや、嘘に違いない。
「マスター? でも今のままでは、あと八分二十秒ほどでギャレーの追尾が成功します。よろしいのですか?」
「軍人なんぞに蒸気機関を渡したらろくなことにはならんわい。奴らはまたしてもわしの娘を奪って行くのか・・・」
老人の目に涙が浮かぶ。
「マスター?」
いつに無い老人の様子にミューは戸惑う。
今まで蓄積したデータが役に立たないのだ。
シナプス回路が適した行動を必死に探すが、うまく当てはまるものが無い。
「ミュー。今から言うことをよくお聞き」
ミューを振り向かせ、しっかりと正面から見据える老人。
「はい、マスター」
ミューの澄んだ瞳に老人の深くしわの刻まれた顔が映し出されている。
「今この時点を持ってミューをワシの支配から解き放つ。ワシはミューのマスターをやめる」
「えっ?」
ミューの顔に驚きの表情が浮かぶ。
あまり見せたことの無い表情だ。
それだけ今の老人の言葉がミューには理解しがたかった。
「マスター。それはどういう・・・」
「ワシはもうマスターではない。ミュー、ワシはもうマスターではないのだぞ」
老人はミューを再び抱きしめる。
「は、はい・・・ですが・・・」
「ミュー・・・奴らはお前を知れば、きっとお前を壊してしまう。そんなことはさせられんのじゃ」
ミューもそっと老人を抱きしめた。
「大丈夫です。ミューはそう簡単には壊されません。心配は無用です」
「ミュー。奴らを甘く見てはいかん。奴らはお前にきっとろくでもないことをする。その時にワシを殺すと脅すかも知れん。そんなことになったらワシは耐えられんよ」
「マス・・・チアーノ様」
マスターではないと言われたことに忠実に従うミュー。
「こうなったのもワシが悪いんじゃ。お前の言うとおりにしておけば・・・」
ミューに取りすがり泣き出してしまう老人。
「チアーノ様・・・」
ミューは優しく老人の背中をさすってやる。
ほんのわずか、時が止まったような静寂が訪れた。
「ミュー・・・いいマスターを探すんじゃぞ」
「えっ?」
ミューを振りほどいて老人は立ち上がる。
大きなフローティの木片を取り出すと、ミューの胴体に縛り付ける。
「チアーノ様、これは?」
「黙っておれ!」
老人はミューを黙らせると、木片を取り付けたミューを抱き上げてみる。
ほとんど重さを感じんか・・・大丈夫じゃな・・・
その感触に満足した老人は黙ってうなずいた。
「チアーノ様、これでは躰が浮いてしまいます。修理ができません」
「修理は必要ない。ミュー。しっかり生きるのじゃぞ」
「だめです、チアーノ様! それはだめですー!」
「マスターとしての最後の命令じゃ。おとなしくするのじゃ」
フローティによって躰の重さを失ったミューは、老人に軽々と抱え上げられてしまう。
「マスター!」
マスターとしての命令といわれたミューは混乱する。
今のミューには老人がマスターなのかマスターで無いのか一瞬判断に戸惑いを生じた。
「さらばじゃ、ミュー。お前との暮らしは楽しかったぞ」
老人にとってはその一瞬で充分だった。
老人はミューをたかだかと放り投げ、船から放り出した。
「マスターーーーーー!」
空中に放り投げられたミューはただ叫ぶしかできなかった。
- 2006/09/01(金) 21:59:28|
- グァスの嵐
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